博 士 ( 理 学 ) 福 田 浩 之
学位論文題名
The Role ofaCentral SupermasslVe BlackHoleinGasFueling
(ガス供給機構における銀河中心の巨大ブラックホールの役割)
学位論文内容の要旨
活動的銀河核や銀河中心領域での爆発的星形成など、系外銀河の銀河中 心領域では活発な活動が多く観測されている。活動的銀河核はその大きな 光度と光っている領域の狭さから、恒星の集団では説明がっかず、銀河中 心にある巨大ブラックホールに流入するガスが重カェネルギーを解放して 光っているというモデルが提案されている。この流入するガスは銀河スケ ールに分布していたものが銀河中心ヘ供給されたと考えられている。ま た、銀河中心領域での爆発的星形成の場合にも星の材料となるガスの供給 源として銀河スケールに分布しているガスが考えられている。このよう に、銀河スケールから銀河中心部へのガス供給は銀河中心での活発な活動 の説明のために必要と考えられている。しかし、この銀河中心へのガス供 給のためにはガスのもつ角運動量を大幅に失わせる必要があり、その機構 はまだ明らかにされていない。このガス供給機構の解明は現在の宇宙物理 学の重要な課題のひとっとなっている。
これまでの研究から、円盤銀河の約半数に存在している銀河の円盤中の 棒状の構造と関係したガス供給機構が明らかにされている。これは、この 棒状構造による非軸対称な重カポテンシャルと円盤銀河内の星間ガスの回 転運動の間の共鳴(リンドブラッド共鳴)によって、ガスを集めることが できるというものである。この機構によって、爆発的星形成の中でも比較 的大きい領域で起きているものは説明が可能となった。しかし、この機構 ではりンドブラッド共鳴点の位置より内側にガスを供給するはできないた め、活動的銀河核やより中心付近の領域での爆発的星形成には不十分で あった。
そこで我々は、銀河中心に巨大プラックホールが存在する場合に通常の りンドブラッド共鳴より内側にもうーっりンドブラッド共鳴があらわれる ことに注目し、これが従来のりンドブラッド共鳴の半径よりも内側にガス を供給する機構となりうるかを数値計算を用いて調べた。我々が用いた数 値計算法は、SPH法と呼ばれるもので、大きさをもった仮想的な粒子の 集団で流体を記述する数値計算法である。この方法は今回のようなダイナ
ミックレンジの大きな流体の運動を計算するのに適している。我々の計算 では、星間ガスの自己重カは銀河中の星々のそれにくらべ十分弱いため、
ガスの運動のみを計算して、銀河の星の分布は固定してその重カポテン シャルを外場として扱った。
我々の数値計算の結果、巨大ブラックホールによるりンドブラッド共鳴 が存在する場合には、この共鳴点付近にスパイラル状衝撃波が形成され、
この衝撃波によってガスが集められてガスリングが形成されることが分 かった。このガスリングの半径はこの共鳴点の銀河中心からの距離の約五 分のーとなった。また、集められたガスの範囲はりンドブラッド共鳴点の 距離の数倍の半径であることも分かった。得られたガスリングは銀河中心 で のりン グ状 の爆 発的 星形成 領域 に対 応する 空間 的大きさをもつ。
次に、このガスリングの自己重カの強さを見積もったところ、通常の銀 河に存在するガスの質量程度でりングが自己重力不安定になることが期待 されることがわかった。そこで、我々はガスの自己重カも考慮した数値計 算を行い、ガスリングの自己重カの効果を調べた。
その結果、このガスリングが実際に自己重力不安定になる条件は、自己 重カを考慮していない場合の計算の結果からの推定とほぼ一致することが 分かった。自己重力不安定になった場合のガスリングはいくっかの塊に分 裂し、その塊同士が衝突することにより巨大なガス塊が形成された。この 巨大なガス塊の重カによるトルクにより、ガスリングの一部は角運動量を 失い、ガスリングの内側にガスデイスクが形成されることが分かった。こ の巨大なガス塊は、周囲の星との相互作用により角運動量を失って中心ヘ 落ちて行き、さらなるガス供給を引き起こすことが期待される。また、こ の巨大なガス塊は、銀河中心領域で見っかっている巨大な分子雲や巨大な 星団をの成因となる可能性がある。
以上のように、活動的銀河核のモデルに必要なガス供給が、銀河中心に 巨 大ブラ ック ホー ルに よって 引き 起こ される 過程 を明らかにした。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授 助教授
藤 本 正 行 石 川 健 三 和 田 宏 兼 古 昇 羽 部 朝 男
学 位 論 文 題名
The Role ofaCentral Supermassive Black Hole in Gas Fueling
( ガ ス 供 給 機 構 に お け る 銀 河 中 心 の 巨 大 ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 役 割 )
系 外 銀 河 系 で は 、 活 動 的 な 銀 河 核(AGN)と 呼 ば れ る 活 発 な 活 動 が 多 く 観 測 さ れ て い る 。 こ れ は 、 中 心 の 非 常 に 小 さ な 領 域 ( 〜 10−4pc)か ら 、 銀 河 全 体 に 匹 敵 す る 膨 大 な エ ネ ル ギ ー を 放 出 し て い る 現 象 で あ る 。AGNの エ ネ ル ギ ー 発 生 機 構 と し て は 、 銀 河 中 心 に 巨 大 な ブ ラ ッ ク ホ ー ル ( 質 量l06〜 l09 Mo) を 仮 定 し 、 そ こ に ガ ス が 流 入 す る こ と に よ っ て 重 カ エ ネ ル ギ ー を 開 放 す る と ぃ う モ デ ル が 有 カ と 考 え ら れ て い る 。 非 常 に 大 き な 高 度 を 保 っ た め に は 、 ほ ぽ 銀 河 全 体 に 存 在 す る ガ ス を 必 要 と す る た め 、 こ の モ デ ル に は 、 銀 河 円 盤 ( 半 径 〜 10kpc)か ら 、AGNの エ ネ ル ギ ー 発 生 領 域 ま で ど の よ う に し て ガ ス を 供 給 す る の か と ぃ う 問 題 が 存 在 し て い る 。 銀 河 中 心 部 へ の ガ ス 供 給 の た め に は 、 銀 河 円 盤 の ガ ス の も つ 角 運 動 量 を 失 わ せ る 必 要 が あ る が 、 本 研 究 は そ の 機 構 の 解 明 を 目 指 し た も の で あ る 。 こ の ガ ス の 角 運 動 量 の 輸 送 機 構 と し て は 、 こ れ ま で 、 円 盤 銀 河 の 約 半 数 に 存 在 し て い るbar構 造 に よ る ガ ス 供 給 機 構 が 提 案 さ れ て き た 。 こ れ はbarの っ く る 非 軸 対 称 な 重 カ ポ テ ン シ ャ ´ レ と 円 盤 銀 河 内 の 星 間 ガ ス 雲 の 回 転 運 動 か ら の 摂 動 の 共 鳴
(ILR; Inner Lindblad Resonance)に よ っ て ガ ス を 中 心 部 に 集 め る と い う も の で あ る が 、 こ れ に よ っ て 、 銀 河 ス ケ ー ル か らILR共 鳴 点 の 半 径 の 半 分 程 度 ( 〜lkpc) ま で 集 め る こ と が 可 能 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、 巨 大 ブ ラ ッ ク ホ ー ル か ら 数10pc 葉 に で は 、 降 着 円 盤 内 で の 乱 流 粘 性 に よ る ガ ス の 角 運 動 量 輸 送 が 効 い て く る と 考 え ら れ て い る 。 し た が っ て 、AGNの 活 動 を 説 明 す る た め に は 、 こ の 間 を っ な ぐ 、 ガ ス の 角 運 動 量 の 輸 送 機 構 が 必 要 で あ る 。
本 研 究 で は 、 銀 河 中 心 に 巨 大 ブ ラ ッ ク ホ ー ル が 存 在 す る 場 合 に 、 上 記 のILRの 内 側 に も う ひ と つ のILR( 以 下 で は 、NLRと 呼 ん で 区 別 す る ) が 現 れ る こ と に 着 目 し 、 そ れ が ガ ス 供 給 に 及 ぼ す 効 果 を 研 究 し て い る 。 こ の 問 題 は 、 散 逸 を 伴 う 非 線 型 の
流体力学系の時間発展を調べることになり、数値的な手法によってのみ扱うことが 可能である。著者は、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamlcs)法を応用して、数 値シミュレーションのコードを開発し、この問題を解いた。その計算結果に基づぃ て、巨大ブラックホールが存在する場合には、NLRの半径付近に渦状の衝撃波が発 生し 、この衝撃 波によって 、ガスリン グが、NLRの半径の約1/5すなわち、150pc の付 近に形成さ れることを 示した。巨 大ブラックホールによるNLRの効果によっ て、 ガスを、barのILRのみの場合より、されに約一桁小さな領域に集められるこ とになる。このため、ガスリングの密度が大きくなり、自己重カで不安定になるこ とが期待されることを見出した。
著者は、ついで、ガスの自己重カも考慮した、時間発展の数値計算を実行し、実 際、ガスリングが自己重力不安定を起し、分裂に至ることを示した。分裂したガス の塊は、互いに衝突・合体を繰り返えすことによって、巨大なガス塊(質量l07MO) に成長、このガス塊との重力相互作用によって、ガスリングのガスは、角運動量を 失い、さらに、〜 1/3ほど、ブラックホールに落下し、その周りにガス円盤を形成 することがわかった。数値計算の精度の限界のため、これ以後の時間発展で追うこ とはできない。しかし、この構造と連星系での降着円盤と類似にから、巨大ガス塊 のトルクによって、ガス円盤に渦状衝撃波が発生し、それによる、角運動量の輸送 の結果、ガスはさらに中心に落ち、乱流粘性の効く領域まで、もたらされると類推 されると論じている。
以上のように、非軸対称なbar構造と巨大ブラックホールの存在とぃう枠組みの 中で、ガスの角運動量輸送、銀河円盤から銀河中心へのガスの集積過程を研究し、
AGNのモデル に必要なガ ス供給の具 体な機構を明らかにした。これは、円盤銀河 内のガスの運動、活動的な中心核の構造と進化について、理解をすすめ、これらの 天体現象の解明に重要な寄与をしたもの評価できる。よって、著者は、北海道大学 博士(理学)を授与される資格があるもとの認める。