博 士 ( 医 学 ) 丸 山 学 位 論 文 題 名
前 立腺癌細胞 の PSA 分 泌抑制に関する ユビキ チンリガーゼ PIRH2 の解析
学位論文内容の要旨
覚
緒言と目的
最近、新 規タンパク質であるandrogen receptorNーterminal・interactlngprotein(ARNIP)が同 定 さ れ た 。ARNIPは 別 名p53−inducedprotelnwlthaRING−H2domain(PIRH2)と して も報 告 さ れ て い る 。 そ の ア ミ ノ 酸 配 列 中 に は よ く 保 存 さ れ たR亅NG‐H2フ イ ン ガ ー モ チー フを 含 ん で お り 、 ユ ビ キ チ ン 結 合 酵 素 (E2) に 依 存 す る ユ ビ キチ ンリ ガー ゼ (E3)と して 機能 す る こ と が 報 告 さ れ て ぃ る 。 £ ―COPは コ ー ト タ ン パ ク 質 複 合 体 で あ るCOPIの サ ブユ ニッ ト の ひ と っ で あ る 。COPIは ゴ ル ジ 体 か ら 出 芽 し た 小 胞 を 包 み こ み 、 ゴ ル ジ 体 か ら 小 胞 体 へ の 逆 行 輸 送 、 も し く は ゴ ル ジ 体 間 の タ ン パ ク 質 輸 送 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ て い る 。 本 研究 では 、PIRH2が £‐COPの ユ ビキ チン 化を 起 こし 、プ ロテ アソ ー ム依 存性 分解 を促 進 す る か 否 か 、 さ ら に は そ れ らの 相互 作用 とARと の関 連性 をみ た 。ま た、PIRH2に よるe−COP の 分 解 が 分 泌 蛋 白 に お よ ば す 影 響 を 評 価 し た 。 最 終 的 に、ARを 発現 す る前 立腺 癌細 胞に お けるPSAの 分泌動態をあきらかにするこ とを目的とした。
材料と方法
ヒ トPIRH2cDNAと ヒ ト £ ーCOPcDNAは 、 そ れ ぞ れ ヒ ト 腎 癌 細 胞cDNAお よ び ヒ ト 肝 臓 cDNAよ りEx1、aqポ リ メ ラ ー ゼ を 用 い たPCR反 応 に よ り 得 た 。 さ ら にPIRH2の 変 異 株
(C145A) も 作 製 し た 。 ヒ ト 胎 児 腎 細 胞 由 来293TにPIRH2やe−COP遺 伝 子 プ ラ ス ミ ド を り ン 酸 カ ル シ ウ ム 法 で 導 入 し 一 過 性 に 発 現 さ せ た 。 ま たヒ ト前 立腺 癌 細胞 由来LNCaP.FGC に は 、 レ ト ロ ウ イ ル ス に よ るFLAG―PIRH2遺 伝 子 を 恒 常 発 現 さ せ た 。PIRH2に 相 互 作 用 す る タ ン パ ク 質 を 選 別 す る た め に 酵 母 株L40に ヒ トPIRH2(11129冫 ベ ク タ ー と ヒ トHeLacDNA libraryを 酢 酸 リ チ ウ ム 法 で 細胞 内 導入 させ た。 リ コン ピナ ント タン バ ク質 のGSTー £―COP とHis6−PIRH2をそ れぞ れ 精製 し、mvff′ 。ユ ピキチン化アッセイを行 なった。PIRH2やeーCOP 遺 伝 子 を 一 過 性 に 過 剰 発 現 さ せ た293T細 胞 を も ち い て 免 疫 沈 降 、mvfvDユ ピ キ チ ン 化 ア ッ セ イ 、 夕 ン パ ク の 分 解 の 速 度 を み る パ ル ス チ ェ イ ス 法 を お こ な っ た 。 ア ン ド ロ ゲ ン
(dihydrotesめsterone;DHr) や フル タミ ド(nutamide;FIU)を 添加 し、それらによる影響 も み た 。PIRH2遺 伝 子 を 恒 常 発 現 さ せ たLNCaP細 胞 (2.0X105冫 を6ウ エ ル プ レ ー ト で ア ン ド ロ ゲ ン 不 含 培 養 液 で24時 間 培 養 し 、 そ の 後 の24時 間 は10.8MDHTを 添 加 も し く は 無 添 加 の 培 養 液 で 培 養 し た 。 培 養 液 を 回 収 しPsAを ELISA法 に て 測 定 レ た 。 結果
1.PIRH2の ユビキチンリガーゼ活性と ユビキチン結合酵素親和性
自 己 ユ ビ キ チ ン 化 ア ッ セ イ に よ り 、PIRH2の ユ ビ キ チ ン リ ガ ー ゼ 活 性 はUbc4、UbcH5A、 UbcH5Bま た はUbcH5Cに お い て 顕 著 で あ っ た 。 さ ら にR亅NGド メ イン の変 異株PIRH2(CA) の り コン ビナ ン トタ ンパ ク質 を用 い てmvfロ .。 ユビ キチ ン化 ア ッセ イを 行なったところ、RING ド メ イ ン の 変 異 に よ ル ユ ビ キ チ ン リ ガ ー ゼ 活 性 の 喪 失 が 認 め ら れ た 。 こ れ よ り、mNGド メ
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イ ンはPIRH2のユビ キチンリ ガーゼ 活性に必 須のも のであることと同時に、PIRH2(CA)は 内 在 性 のPIRH2に 対 し ド ミ ナ ン ト ネ ガ テ ィ ブ な 効 果 を 示 す こ と が 示 唆 さ れ た 。 2. 酵 母 ツ ー ハ イ ブ リ ッ ド 法 に よ るPIRH2に 相 互 作 用 す る 分 子 £ ―COPの 同 定 PIRH2に相 互作用す るタンパ ク質を同定するため、酵母ツーハイブリッド法をおこない ポジティブクローンを得たがそれはヒトeーCOP cDNAと同一の塩基配列であった。in vivo結 合 実験を行 なった ところ、 野生型 及び変異 型のどち らのF1LAG‑PIRH2に関しても、抗Myc 抗 体によりMyc−e‑COPとの共沈がみとめられた。このことはヒト細胞株内でPIRH2がe‑COP に相互作用していることを示している。
3. PIRH2は£−COPをin vitroとin vivoでユビキチン化する
PIRH2が£―COPをユビキチン化するかをみるためにin vitroユビキチン化アッセイを行な っ た。His6−PIRH2を加えた場合にのみGST‑e‑COPのポリユビキチン化がみられた。さらに 細 胞内でe‑COPのユビキチン化が起こっているかをみるためin vivoユビキチン化アッセイ を 行 な った と こ ろ、PIRH2の共発 現によりMyc‑e‑COPの ユビキチ ン化の 明らかな 増強が 認 められた。これらの結果により、PIRH2の過剰発現が£−COPのユビキチン化を引き起こ すことが判明した。
4.加vivoで£−COPの分解はPIRH2により促進される
in vivoでのeーCOPの分解においてPIRH2がいかに作用するかを調べるためパルスチェイス 法をおこなったところ、野生型のPIRH2はe‑COPの分解を亢進し、逆に変異型のPIRH2は£‐
COPの分解 を遅延 させるこ とが明 らかとなった。これより変異型PIRH2((ニA)はE‑COPの分 解に対してドミナントネガティブな効果をもっことが示唆された。これらの結果は、PIRH2 が細胞内の8―COPの安定性に関与していることを示している。
5. ア ン ド ロ ゲ ン が 存 在 す る とe‑COPの ユ ビ キ チ ン 化 、 及 ぴ 分 解 は 進 行 す る ア ンドロゲン(DHT)の有無によりPIRH2とAR結合親和´陸に差が出るかどうかをみるため 免 疫沈降を 行なっ たところ 、DHT存在下で はARとPIRH2の結合 カは弱 く、DHTが存在し な い ときはARとPIRH2の 結合カは 強いこ とが判明 した。 次にDHTが8‑COPのユビキ チン化 に 影響を及ぼすかどうかをみるためin vivoユビキチン化アッセイを行なった。Myc―e−COPは、
DHTの存在 下にお いて、よ り著明 なユビキ チン化が 検出さ れた。さらにDHTの有無もしく はDHTがARに 結合す ることを 競合的に阻害するフルタミドを加えることによりeーCOPの分 解速度がどう変化するかを調べるために、£−COPのパルスチェイスアッセイを行った。こ の 実験の結果、£―COPの分解はDHTの存在下で促進されたが、それはフルタミドにより抑 制 された。 これら の結果に よりDHTとPIRH2は、前 立腺細胞 を含むARを発現する細胞内で のe‑COPの 安定 性 に 関与 し ており 、DHTに よりARは 核内移行 する一 方、ARから 解離し た PIRH2は細胞質にとどまり£−COPに結合し、£―COPのユビキチン化を促進することが予想さ れた。
6. PIRH2は前立腺癌細胞からのPSA分泌を抑制する
前 立腺特異 抗原(PSA)は前立 腺癌の 診断また は治療 効果判定 や再発 ・再燃の 診断に用 いられている。PIRH2が£−COPの分解を惹起することから、PIRH2が細胞内膜輸送システム に 影響を及 ばし、PSAのよ うな分 泌タンパク質に何らかの影響を与えるのではないかとい う 仮説を立 てた。 そこでヒ ト前立 腺癌細胞 の培養液 に分泌 されたPSAをELISA法により測 定 した。FLAG‑PIRH2恒常発現 株と空 ベクター を感染 させたMock細 胞株をDHT存在 下もし く は非存在 下で培 養し、そ の培養 液中に分 泌されたPSA値 を測定した。PSA分泌アッセイ に より、LNCaPFLAGーPIRH2にお けるPSA測定値 (細胞数 による補 正値) はMockに比 べ有 意に低下していた(pく0.0001)。
結語
本研究において、PIRH2が£―COPのユビキチン化を起こし、プロテアソーム依存性分解を促 進するということ、さらにはそれらの相互作用はARにより調節されていることが判明した。
ま た、PIRH2を過剰 発現させ ること により前 立腺癌 細胞株で あるLNCaP細胞か らのPSA分
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泌が抑制されることが認められた。これらの所見゛は、PIRH2がゴルジ体から小胞体への逆 行輸送の調節因子として働くことを示唆するものであり、この分子をさらに解析すること によりPSAを分泌 する前立腺癌細胞の特徴があきらかとなり、将来的に前立腺癌の診断な どの臨床応用も可能になると考えられる。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 野々村克也 副 査 教授 畠山鎮次 副 査 教授 岩永敏彦
学 位 論 文 題 名
前立腺癌 細胞の PSA 分泌抑制に関する ユビキチ ンリガーゼ PIRH2 の解析
アンド 口ゲン 受容体(AR)は核内受 容体スー パーファミルーのーつであり、多くのコア クチベータータンバク質やコリプレッサータンパク質と相互作用することによってアンド ロゲン作動性遺伝子の転写を活性化、もしくは抑制し、アンドロゲンの作用を調節する。
最 近 、AR結 合 夕 ン パ ク質 と し てPIRH2が 同 定さ れ て お り、 そ の アミ ノ 酸 配列 中 に は RING‑H2フィンガ ーモチー フを含 んでおり 、ユピ キチンリガーゼ(E3)として機能するこ とが報 告され ている。 本論文では、ユピキチンリガーゼPIRH2とコートタンパク質複合体 COPIのサプュニットのひとつである£‑COPとの相互作用を検討し、さらにその相互作用と ARとの関 連性を 解析した 。またPIRH2による£‑COPの分解が分泌夕ンパク質におよばす影 響 とし て 、ARを 発現 する前立 腺癌細胞 からの 前立腺特 異抗原(PSA)分泌 におけ るPIRH2 の影響について検討している。
まず、PIRH2に相互作用する新規夕ンバク質を同定するため、酵母ツーハイプリッド法を 行った ところPIRH2結合 夕ンバ ク質とし てヒト8‑COP cDNAを同定 した。加vivo結合実験 を行な ったと ころ、PIRH2と£‑COPの共沈が 認められた。さらにPIRH2が£‑COPをュピキ チン化するかを確認するためにin vitroユピキチン化アッセイを行なったところ、PIRH2添 加時にのみ、£‑COPのポリユビキチン化が認められた。さらに細胞内で8‑COPのユピキチン 化が起 こって いるかを 確認す るために 加VIVOユビ キチン化アッセイを行なったところ、
PIRH2の 共発現 により£‑COPのユピキチン化の増強が認められた。これらの結果により、
PIRH2の 過剰発 現がe‑COPのユピキチン化を引き起こすことが判明した。さらに、in vivo での£‑COPの分解 においてPIRH2がいかに作用するかを調べるためバルスチェイス法を行 ったと ころ、 野生型のPIRH2は £‑COPの分解 を亢進 し、逆に 変異型 のPIRH2はe‑COPの分 解を遅 延させ ることが 明らかとなった。これらの結果により、PIRH2が細胞内の£‑COPの 安定性に関与していることを示した。
また、 アンド ロゲン(DHT)の有 無によりPIRH2とAR結合親和性の変化を確認するために ―484―
免 疫 沈降 実 験 を 行な っ た とこ ろ 、DHT存 在下 ではARとPIRH2の結合カ は滅弱 し、DHTが 存 在 しな い と き はARとPIRH2の結 合カは増 強するこ とが判 明した。 次にDHTが£‑COPの ユビキチン化に影響を及ぼすかどうかをみるためzn vivoユビキチン化アッセイを行なった とこ ろ、£‑COPは、DHTの存在下において、より著明なユビキチン化が検出され、抗アン ドロゲン剤フルタミドを加えることにより£‑COPの分解速度が抑制された。これらの結果 に よ りDHTとPIRH2は、 前立腺細 胞を含 むARを発現 する細 胞内での £‑COPの安 定性に関 与 し てお り 、DHTに よ りARは 核内 移 行 する 一 方 、ARか ら解 離 し たPIRH2は 細胞質に と ど ま り £‑COPに 結 合 し 、 £‑COPの ユ ピ キ チ ン 化 を 促 進 す る と 推 測 し て い る 。 さらに、PIRH2が£‑COPの分解を惹起することから、PIRH2が細胞内膜輸送システムに関 与し 、分泌 夕ンバク 質である前立腺特異抗原(PSA)に影響を与える可能性を想定した。そ こで ヒト前 立腺癌細 胞の培 養液に分 泌され たPSAをELISA法 により測 定したと ころ、DHT 存在 下にお いて、対 照細胞 に比べPIRH2安定 発現株の培養液中のPSA分泌量が低いことを 確認している。
公 開発表に あたって は、副 査の岩永 敏彦教 授からPIRH2の機能を予想する目的でPIRH2 の生 体の各 臓器での 発現の 検討に関 して、 さらにPIRH2によるPSAの転写・分泌について の質 問があ った。次 いで副 査の畠山 鎮次教 授からe‑COPの複 合体であ るCOPIの分解をし てい るのか どうか、 さらにPIRH2がp53夕ン バク質の分解以外の他のシステムヘ与える影 響に ついて の質問が あった。また主査の野々村克也教授からe‑COP分解におけるアンド口 ゲン濃度依存性の有無、ARの変異による構造異常があった場合、すなわちホルモン不応性 前立 腺癌に おいてPIRH2の作用は変化するのか、ARとドメイン構造が似通っている他のス テロ イドホ ルモンレ セプターとPIRH2との関連についての質問があった。いずれの質問に 対 し ても 、 申 請 者は 実 験 結果 や 文 献を 引 用 して 説 明 し、 お お むね 適 切 に回答 した。
こ の論文はPIRH2が £‑COPのユピキチン化をきたし、プロテアソーム依存性分解を促進 するということ、さらにはそれらの相互作用はアンドロゲンレセプターにより調節されて いる ことを 見出し、PIRH2を 過剰発現 させる ことにより前立腺癌細胞株からのPSA分泌が 抑制 される ことを初 めて明らかとした点で高く評価され、またこれらの所見はPIRH2がゴ ルジ体から小胞体への逆行輸送の調節因子として働くことを示唆するものであり、この分 子を さらに 解析する ことによりPSAを分泌する前立腺癌細胞の特徴が明らかとなり、今後 前 立 腺 癌 の 診 断 や 治 療 な ど の 臨 床 応 用 も 可 能 に な る こ と が 期 待 さ れ る 。 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併 せ 申 請者 が 博 士 (医 学 ) の学 位 を 受け る の に充 分 な 資格 を 有 する も の と判定 した。
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