博 士 ( 獣 医 学 ) ソ ウ ボ ン
学位論文題名
Studies on Antitrypanosomal Activity of Medicinal Plants ( 薬 用 植 物 の 抗 ト リ パ ノ ソ ー マ 活 性 に 関 す る 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
Trypanosoma evansiはトリパノソーマ科の鞭毛虫であり、ウマ、ラクダ、ウシ、
スイギュウ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの血液中で増殖し、スーラとして知られるトリパ ノソーマ症を引き起こす。本疾病は吸血昆虫、とくにアプ(Tabanus spp.)やサシパ工 (Stomoxys spp.)によって機械的に伝播されるため世界的に蔓延しており、アフリカ、アジ アおよび南アメリカにおいては大きな経済的損失をもたらしている。本症の治療に用い るおもな薬剤はdiminazene aceturate、surammおよびquinapyramineであるが、これら既存 の抗トリバノソーマ薬は副作用が大きな問題となっており、また、薬剤耐性株の出現が 多くの地域で報告されている。このことから、ヒトのトリパノソーマ症である睡眠病や ウシのナガナ病と同様に、スーラの治療に向けた新たな化合物の研究は、緊急かつ重要 な課題である。
植物 由来 の天 然化 合物 はこれ まで 新薬 開発 の重 要な 資源 とな ってきた。薬用植 物の1つであるBrucea javanicaは多種類のクアシノイドを含むが、これは多くの熱帯性 二ガキ科植物において見いだされる苦味成分である。第一章では、カラムクロマトグラ フイ ー、 超高 速液 体ク 口マ トグラ フイ ー(UPLC)、質量分析(MS/MS)および磁気共鳴 法を用いて、ぢ. javanicaに含まれるクアシノイドの種類と各含有量を解析した。筆者ら のグループはこれまでの研究において、bruceineA、bruceineB、bruceineC、bruceine D、bruceantinol、 bruceantinolB、 bruceineJおよびyadanziolideAなどのC‑20型クアシ ノイドをインドネシア産材料の抽出有機層から分離・精製したこと、また、brusatol、 bruceantin、dehydrobruceineA、dehydrobruceineB、dehydrobrusatol、bruceosideAおよび yadanziosideGを中国産材料の有機層から分離したことを報告してきた。本研究において は、インドネシア産の本植物乾燥果実を70%メタノールで処理したのち、酢酸工チルを 用いて水層と有機層に分離したが、水層にbruceineDが含まれていることを初めて見出し た。次に、これらの分離・精製したクアシノイド類を標準化合物として、UPLCーMS/MS を用いたクアシノイド迅速定量法を開発し、B. javanicaのメタノール粗抽出液中に含ま れるクアシノイド類の含有量の評価を行った。その結果、各種クアシノイドの含有量は ぉ, javanicaの産地によって異なること明らかとなり、同種植物のクアシノイド類の組成 と成分含有量は地理的要因、薬用植物の収穫時期などに依存している可能性が示唆され た。本迅速定量法は、未精製の植物抽出液からのクアシノイド類やその他の生理活性物
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質 の 検 出 と定 量 的 スク リ ー ニ ング に 有 用で あ る と考 え ら れる 。 今 後は 、 有 効成 分 を 大 量 に分離するための簡便かつ安価な手法の開発研究が必要である。
Bruceajavanを ロ よ り 分 離 さ れ た ク ア シ ノ イ ド 類 は 、 そ の 種 類 に 応 じ て Plasmodiumカlciparum丶 Entamoeba histolytica、Giardia intestinalis、Toxoplasma gondii、 Babesia gibsoniなど の原虫 類の増殖 を阻害す ること が知られ ている 。第二章 におい ては、
クア シ ノ イ ド化 合 物 のr evansiの 血 流 型虫 体に 対するin vitroにおけ る増殖阻 害活性 と化 合物 構 造 と の相 関 について 検討し た。また 、クアシ ノイド 類のヒト 肺線維 芽細胞(MRC‑5) に対 す る 細 胞毒 性 を 測定 し た 。そ の 結 果、15種類 のC‑20型ク アシノ イドのう ち、bruceine A、bruceantinctl、bruceineC、brusatolおよびbruceineBは2.9 nMから17.8 nMの範囲の50% 増殖 阻 止 濃 度(IC50)を 示し 、 強 い抗 ト リ パノ ソ ー マ活 性 を 示 すこ と が明 らかにな った。
これらの活性は、diminazene aceturate (ICso二二8.8 nM)やsuramin (ICso二43.2 nM)に匹敵する もの で あ っ た。 一 方 、dehydrobruceineA、dehydrobruceineBお よ びdehydrobrusatolは、
bruceineA、bruceineBお よ びbrusatolと比 較 し て、 各 々 約2100倍 、900倍、1200倍活性が 低く 、 構 造 |活 性 相 関解 析 の 結果 か ら 、C‑15側 鎖 の 性状 とAリ ング の ジオ スフェノ ールの 存 在 が ク ア シ ノ イ ド の 抗 ト リ バ ノ ソ ー マ 活 性 に 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れた 。 ま た 、 bruceineA、B、Cお よ びDの 抗 ト リ パ ノ ソ ー マ 活 性 のMRC‑5細 胞 に 対す る 選 択指 数 (SI) は1900か ら4200の 範 囲で あ り 、こ れ ら のク ア シ ノイ ド 類 の細 胞 毒 性は 比 較 的 低い こ と が 示された。
薬 用 植 物Brucea javanicaの 果 実 よ り 分 離 さ れ た ク ア シ ノ イ ド 類 が 抗 バ ベ シ ア 活 性 な ら び に抗 ト ル バノ ソ ー マ 活性 を 有 する と い う発 見 は 、家 畜 に おけ る 原 虫疾 病 に 対 す る 薬 用 植 物抽 出 物 の有 用 性 を 示唆 し て いる 。 豊 富な 植 物 資源 を 有 する ミ ャ ンマ ー で は 、 長 い 歴 史 の中 で 薬 用植 物 に よ る独 自 の 伝承 医 薬 療法 が 発 達し て い る。 第 三 章で は 、 ミ ャ ン マ ー の 薬用 植 物 の中 か ら 抗 トリ パ ノ ソー マ 活 性を 有 す る植 物 を 探索 し た 。60種 類 の薬 用 植 物 よ り得 ら れ た55種 類 の新 鮮 材 料と16種類 の 乾 燥材 料 に つい て 、 それ ぞ れ70% エ タ ノー ル と70% メ タ ノー ル で 粗成 分 を 抽出 し 、工evanszに対するin vitroにおけ る増殖 阻害 活 性 とMRC‑5細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 を 測 定 した 。 そ の結 果 、 本ス ク リ ーニ ン グ 法 にお い て、3つ の 新鮮 材 料 と6つ の 乾燥 材 料 の粗 抽 出液がf evansiに対し て100 ptg/ml未 満のIC50 値 を 示 し た こ と か ら 、 こ れ ら9種 の 薬 用植 物 を 活性 成 分 の分 離 ・ 精製 を 実 施す る 候 補 薬 用 植 物 と して 選 出 した 。 と く に、Vitis repens、Eucalyptus globulusそ し て んtr opha podagricaは高 い 抗 トリ パ ノ ソー マ 活 性と 選 択 指数 を 示 し 、そ の 有 望性 が示唆 された 。結 論 と し て 、ミ ャ ン マー に お い て、 マ ラ リア 、 赤 痢、 腫 瘍 及び 肺 疾 患な ど の 様々 な 疾 患 の 治 療 に 使 用さ れ て いる い く っ かの 薬 用 植物 は 、F evansi感染 の 治 療薬 と し て の潜 在 的 有 用性をもつことが示された。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査 教 授 片 倉 賢 副 査 教 授 伊 藤 茂 男 副 査 教 授 杉 本 千 尋 副査 准教授 奥 祐三郎
学 位 論 文 題 名
Studies on Anttrypanosom 甜 ActiutyofMedicin 甜 P1ants ( 薬 用 植 物 の 抗 ト リ パ ノ ソ ー マ 活 性 に 関 す る研 究 )
Trypanosoma evansiはトリパノソーマ科の鞭毛虫で、アブなどの吸血昆虫によって機 械的に伝播されるため世界的に蔓延し、多種動物においてスーラとして知られる消耗 性疾患を引き起こす。既存の抗トリパノソーマ薬は副作用や薬剤耐性株の出現が問題 となっており、スーラの治療薬開発は重要である。本研究では、植物由来天然化合物 がマラリア治療の中心的役割を果たしていることを踏まえ、薬用植物から抽出したク アシノイド化合物の抗トリパノソーマ活性にっいて検討し、また、ミャンマー産薬用 植物の中から本活性を有する植物を新たに探索した。
ニガキ科植物に含有される苦味成分であるクアシノイド化合物は、マラリア原虫や バベシアなどの原虫類の増殖を阻害することが知られている。本研究では、クアシノ イド化合物のf evansiの血流型虫体に対するin vitroにおける増殖阻害活性と二倍体ヒ ト線維芽細胞に対する細胞毒性を測定した。その結果、15種類のC‑20型クアシノイド 化合物のうち、bruceineA、bruceineB、bruceineC、bruceantinolおよぴbrusatolは、既 存の治療薬に匹敵する強い抗トリパノソーマ活性を有すること、また、クアシノイド の化学構造と活性には相関があることが示された。なお、検査したクアシノイド化合 物の細胞毒性は比較的低いものであった。
豊富な植物資源を有するミャンマーでは独自の伝承医薬療法が発達している。そこ で、60種のミ ャンマー 産薬用植 物より得 られた71種類のアルコール粗抽出物にっい て、抗トリ パノソー マ活性と細胞毒性を測定した。その結果、9種の薬用植物が潜在 的有用性をもつ候補植物として選出された。
本研究は、薬用植物由来の天然化合物がF evansiの増殖阻害活性をもつことを示し たものであり、卜リパノソーマ症治療薬開発に向けての有用な情報を提供している。
よって、審 査委員一 同は、上 記博士論 文提出者 ソウボン君の博士論文は、北海道 大学大学院 獣医学研 究科規程第6条の規定による本研究科の行う博士論文の審査等に 合格と認めた。
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