博 士 ( 薬 学 ) 小 松 一 聖
学 位 論 文 題 名
放線菌 Nocardia brasiliensis より単離した
BrasilinolideA とC およびBrasilicardinB 〜D の構造研究 学位論 文内容の要旨
f主竺堕!三
Nocardia属の放線菌の一 部の種は、「ノカルディア症 」と呼ばれる日和見感染症 の原因菌として 知られる。当研究室では これまでに、N brasiliensis IFM0406株より、免疫抑制活性を示す新規32 員環ポリヒドロキシマク ロリドBrasilinolideA(1)、 ならびに同活性を示す新規ジテルペン配糖体 BrasilicardinA(2)を単離 し、1については一部の相対 立体配置が帰属されており、2については全 絶対立体配置が決定され ている。
そ こで 本研 究 では 、1)未 決定 であ る1の26個の不斉炭 素の全絶対立体配置の解明 、2)1およ び2の 新 規類 縁体の単離、構 造解析、3)2の誘導体の調製 と構造活性相関の検討、を 目的として 研究を行った。
!)旦!埜!!!塾Q!!坐△(!】と壁Q)堕婁笠iヒ主堕鰹堕
N brasiliensis IFM0406株の培養上清から、新規マクロリドBrasilinolideC(3)および新規テルペ ノイドBrasilicardinB(4)、C(5)、およびD(6)を、BrasilinolideA(1)およびBrasilicardinA(2)ととも に単離した。
BrasilinolideC(3)の 平面 構造 は 、2D NMRスペ クト ル (lH−lHCOSY、TOCSY、HMQC、HMBC、 およびHSQC‑TOCSY)の解析により、BrasilinolideA(1)のペンタン酸および マロン酸が欠落した構 造であることが明らかとなった。そこで、まずBrasilinolideC(3)について立体化学を解析し、その後 で3と の 化 学 相 関 に よ りBrasilinolideA(1)の 立 体 化 学 を 明 ら か に す る こ と に し た 。 3のROESYスペク トルの解析から、糖部とテトラヒドロピラン環部分の相対配置が推定されたが、
鎖状部分の立体化学を解析するのは困難であった。そこで、3の分解セグメントを得ることにより、そ れらの立体化学を解析することとした。
3の加水分解によ ルアグリコン部と糖部が得 られ、その糖部にっいては、ベンゾェート体のCDス ベクトルに基づぃてL‑2‑デオキシフコピラノースであると帰属した。一方、アグリコン部については、
加水分解によルエポキシドへの分子内環化が進行し、新たにテトラヒドロピラン環とジオールが形成 された。そこでアグリコンのへミケタール部分を還元し、加溶媒分解でマクロラクトンを開環し、過ヨウ 素酸 で1,2一ジ オー ルの 切 断を 行い 、3種の セグ メン ト(Cl‑C15、C17‑C27、C28‑C37)を得た。
各セグメントは 、3なぃし4個の二級水酸基を有しており、それを利用して立体化学の解析を行つ た。Cl‑C15およびC17‑C27セグメントの1っ3―ジオールについては、アセトナイド体に誘導し、それら のメチル基の13C化学シフト値に対するRychnovskyルールを適用することにより、一方、1,3,5―トリ ―928−
オー ルにつ いては 、13C化学 シフト 値に対 する岸らのNMRデータベースとの比較から、これらの相 対配置を帰属した。C28‑C37セグメントの35,37‑〇一アセトナイド体のNOESY相関から、C28‑C37の 不斉 炭素の 相対配 置を帰属した。9、13、19、および31位のアセトナイド化されていないニ級水酸 基に ついて は、改 良Mosher法 により 絶対配置を帰属した。以上の結果から、既に相対配置を推定 し た 部 分(C15‑C17)を 含 め 、 ア グ リコ ン 部 の20個 の 不 斉炭 素 の 絶 対立 体 配 置 を帰 属 し た 。 残りの不斉炭素2個(C12、C27)のうちのC27にっいては、1,2‐ジオールに位置するため、1,2・ジ オールを保持したアセトナイド体に誘導し、NOESY相関から絶対配置を帰属した。C12は、1,5‐ジ オー ルの間 に位置 するた め、分 子内ケ タール 環化に より6員 環ヘ誘導 し、NOESY相関と 結合定数 から絶対配置を明らかとした。
以 前の研 究におい て絶対 配置が 未解明 であっ たBrasilinolideA(1)については、その加水分解 により3と同一のアグリコン部と糖部が生成したことから、1の全絶対立体配置は3と同一であると帰 属した。
2)旦E埜!!!塑亜!旦旦〓旦(!:QQ撞造鰹蚯
Brasilicardin B‑D (4‑6)については、2D NMRの解析によりそれらの平面構造ならびに相対立体 配置を帰属した。それらの絶対配置については、加溶媒分解によルアグリコン部と糖部に分離後、
糖部 は標品の [a]Dとの比較 により 、一方、アグリコンはベンゾェート体のCDスペクトルと改良 Mosher法 に より 帰 属 し た。 さ ら に5に つ いて は 、X線 結 晶解 析 に よ り立 体 構 造 を確 認 し た 。
!) Brasilicardin△し2) 堕透蔓 籃調製 と活性 評価
Brasilicardin A‑D(2および4‑6)のMLRアッセイの結果からは、16位メトキシ基の存在が活性に 重要で あると推 定され た。構 造活性 相関を検討する目的で、BrasilicardinA(2)の9個の誘導体を 調製し た。また 、作用 機構や 分子標 的を解明する目的で、2のビオチン誘導体2個を調製した。こ れらの 誘導体の 免疫抑 制活性 につい ては、 現在検 討中で ある。
童窒
Brasilinolide A(1)およぴC(3)は、これまで報告されている関連マクロリド類の中で、全絶対配置 が解明 された 初めて の例で ある。 本研究 で用いた分解・誘導化反応と既存の立体化学解析法を組 み合わ せた方 法は、 類縁マ クロリ ド化合 物の絶 対立体配 置の解 明にも 応用可 能と考 えられる。
本研究により、Brasilinolide A(1)およびC(3)の絶対立体配置が解明されたので、今後は、構造 活 性 相 関 や 作 用 機 構 の 解 明 、 分 子 標 的 の 特 定 、 な ど の 研 究 を 行 う 予 定 で あ る 。 本研究で取り上げた放線菌Nocardia brasiliensisは、日和見感染症である「ノカルディア症」の病 原菌で あり、 本菌が1や2のよ うな免 疫抑制物質を生産していることは、その発症メカニズムや予 防・治療を考える上で興味深い。
―929―
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
位 論 文 題 名
放線菌Nocardia brasiliensis より単離した
BrasilinolideA と C および BrasilicardinB 〜 D の構造研究
日 和 見 感 染 症 の 原 因 菌 と し て 知 ら れ る卜ocadia属放 線 菌 の 一種N. bras迎 :n蝣 IFM0406株 か ら は 、 免 疫 抑 制 活 性 を 示 す32員 環 ポ1」 ヒ ド 口 キ シ マ ク 口 リ ド BraSm耐ideA、 な ら び に 同 活 性 を 示 す ジ テ ル ベ ン 配 糖 体BraSmcar〔 虹nAが 単 離さ れ 、BraSiHno]ideAに つ い ては 一 部 の相 対 立 体 配置 が 、BraSmcard血Aについ ては全 絶対 立体配置 が決定 されてい る。
本研 究では、 未決定 であったBraS血ユoHdeAおよび 関連新 規マクロリドBraSmcar〔恤 Cの26個 の 不斉 炭 素 の絶 対 立 体配 置 の解明 するとと もに、新 規類縁 体の単離 、構造 決 定、 構造活 隆F目 関の検 討を行っ た。
!2 Brasi]inoideAとC互藍捌蛤笠盤明
N:と)rasfぬnsfs工FM0406株より、新規マク口1」ドBraSi]iロo]ideCおよび新規テルベ ノイ ドBras血car血1B〜 . を 単離 し た 。2DNMRデ ータの 角翠析に より、Bras血n01ideC の平 面 構 造 は、Brasi]inoHdeAの べンタン 酸およ びマロン 酸が欠落 した構 造である こ とを明 らかにし た。R〇ESYチ一夕か らは、 糖部とテ トラヒ ド口ピラ ン環音B分の相対配 置を推 定し、鎖 状部分 の立体化 学は分解 セグヌ ントを用いて解析した。加水分解より得 られ た 糖 部 につ い て は、 ベ ン ゾェ ー ト 体のCDスペ ク ト ルに 基 づ い て帰 属 し、同 様に 得られ たアグリ コン部 について は、ヘミ アセタ ーセ部分を還元し、加溶媒分解でマク口 ラク卜 ンを開環 し、過 ヨウ素酸 で1,2一 ジオール の切断を 行い、3種の セグメ ントを得 た。 各 セ グ メン ト の1,3− ジオ ー ル 部分 に つ いて は 、 アセ ・ ト ナ イド 体 に誘導 して 聡′chnovsbルール を適用 する一方 、1,3,5−ト リオー ル音吩に ついては 、岸らのNMR データ ベースと の比較 から、こ れらの相 対配置 を帰属した。アセトナイド化されていな ―9301
一
一 誠
史
淳
俊
正
林
本 島
田
小 橋
中 津
授 授
授 授
教 教
教 教
助 助
査 査
査 査
主 副
副 副
い2級 水 酸基 に 対 して 、 改 良Mosher法 を 適用 す る こと に よ り、 ア グ リコ ン 部 の20個 の不斉炭素の絶対立体配置を帰属した。残りの1,2―ジオール部分はアセトナイド体に、
1,5― ジ オ ール 部 分 は分 子 内 ケタ ール環化 により6員環 ヘ誘導し 、N〇ESY相 関と結合 定 数か ら絶対配 置を明 らかとし た。以 上の結果 により 、BrasilinolideCの全 絶対立体 配置を明らかにした。
BrasilmolideAに つ い て は、 加 水 分解 に よ りBrasilinondeCと 同一のア グリコ ン部 と 糖部 が生成し たこと から、全 絶対立 体配置はBraSi]indideCと同 一であ ると帰属 し た。
望Brasijicard亜 墜 旦堕 撞 造 鰹 抵
BraS血( 甜d血BlDにつ い て は、2DNMRデ 一 夕よ り 相 対立 体 配 置を 帰 属 し、 糖 部 は 標 品 の施 光 度 との 比 較 によ り 、 アグ リ コ ン 部は べ ン ゾエ ー ト体のCDスペク トルと改 良Mc馬her法 に よ り、 絶 対 立体 配 置 を帰 属 し た 。さ ら にBぬsmcar出nCに つ いて は 、 X線 結晶 解 析 によ り 立 体構 造 を 確認 し た 。
豊亘 埜璽!ardm△堕謖劃 盤亘製と 錘歯鹽
BrasLlicardinA―Dのア ッセイ 結果カゝ らは、 免疫抑制 活性には16位ヌ卜キシ基の存 在 が 活性 に 重 要で あ る と推 定 してい る。ま た、BrasDicardinAについ ては、 構造活性 相関 、作用機 構や分 子標的を 解明す る目的で、各種誘導体を調製し、活性評価に付して いる 。
本 研 究で は 、BrasilinolideAお よ びCの26個の 不 斉 炭素 の 全 立体 絶 対 配置 を 決 定 するという極めてチャレンジングな仕事を、忍耐カと緻密な実験で目的を達成してしゝる。
また 、通常の 方法で は困難と 考えら れている部位の立体化学の解忻を、種々の分解・誘 導化反応の導入により見事に達成している。
本砌 蔀は、微量天然有機イヒ当物の立体:イヒ学の解明に、従来のNMRを用いる分光学 的手 法に加え て、分 解・誘導 化反応 と既存の立体化学の解析法を組み合わせることの有 用性 を示した 点で、 天然物化 学の分 野で優れた研究成果をあげたものといえる。本研究 成果 は、国際 学術誌 にも発表 されて おり、博士(薬学)の学位を受けるに値する業績と 判断された。
‑ 931―