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スタチン系薬物による筋障害機序

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 小 林 正 紀

学 位 論 文 題 名

スタチン系薬物由来横紋筋融解症の発症機序ならびに 発症リスク軽減に関する研究

学位論文内容の要旨

  HMG‑CoA還 元 酵 素 は コ レ ス テ ロ ー ル 生 合 成 経 路 のHMG‑CoAか ら メ バ ロ ン 酸 を 生 成 す る 過 程 を 触 媒 す る 重 要 な 酵 素 で あ る 。HMG‑CoA還 元 酵 素 阻 害 薬

( ス タ チ ン 系 薬 物 ) は 本 酵 素 を 拮 抗 的 に 阻 害 し 、 血 中 コ レ ス テ ロ ー ル 値 を 強 カ に 低 下 さ せ る た め 、 高 脂 血 症 治 療 薬 と し て 広 く 使 用 さ れ て い る 。 し か し な が ら ス タ チ ン 系 薬 物 の 重 篤 な 副 作 用 と し て 横 紋 筋 融 解 症 が あ る 。 横 紋 筋 融 解 症 と は 骨 格 筋 細 胞 の 融 解 、 壊 死 に よ り 筋 体 成 分 が 血 中 ヘ 流 出 し た 疾 患 で あ り 、 死 に 至 る こ と も あ る 。 現 在 ま で ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 筋 障 害 機 序 に 関 し て 種 々 検 討 は 行 わ れ て い る も の の 発 症 機 序 は 不 明 で あ り 、 ス タ チ ン 系 薬 物 間 で の 筋 障 害 程 度 を 比 較 し た 報 告 も 少 な い の が 現 状 で あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は こ れ ま で 市 販 さ れ て い る す べ て の ス タ チ ン 系 薬 物 が 骨 格 筋 由 来 細 胞 で あ るRD( ヒ ト 由 来 ) な ら び にL6( ラ ッ ト 由 来 ) に 与 え る 影 響 を 明 ら か に し 、 薬 物 間 の 筋 細 胞 障 害 性 を 比 較 す る こ と で ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 筋 障 害 機 序 の 解 明 を 試 み た 。 ま た こ れ ら の 知 見 を も と に ス タ チ ン 系 薬 物 の 筋 障 害発 症リ スク 軽減 方法 を構 築し 、in vitro な ら び にin vivoに お い て そ の 効 果 を 評 価 し た 。

1) ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 骨 格 筋 細 胞 障 害 性

  ス タ チ ン 系 薬 物 が ヒ ト 骨 格 筋 由 来RD細 胞 生 存 率 に 与 え る 影 響 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 全 て の ス タ チ ン 系 薬 物 で 、 濃 度 依 存 的 にRD細 胞 生 存 率 が 低 下 す る こ と が 示 さ れ た 。 そ の 強 さ は 、 セ リ バ ス タ チ ン 冫 シ ン バ ス タ チ ン 冫 フ ル バ ス タ チ ン 冫 ア ト ル バ ス タ チ ン 冫 ロ バ ス タ チ ン 冫 ピ タ バ ス タ チ ン 冫 冫 プ ラ バ ス タ チ ン , ロ ス バ ス タ チ ン の 順 で あ っ た 。 ま た ス タ チ ン 系 薬 物 そ れ ぞ れ のIC50値 と 薬 物 の 分 配 係 数 (P/w)に は 良 好 な 相 関 が 認 め ら れ た 。 さ ら に 、 脂 溶 性 の 高 い ス タ チ ン 系 薬 物 曝 露 に よ ル ア ポ ト ー シ ス の 特 徴 で あ る 細 胞 の 球 状 化 と 有 意 な カ ス パ ー ゼ‑3/7の 活 性 化 が 認 め ら れ た 。 し た が っ て ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 骨 格 筋 細 胞 障 害 性 に カ ス パ ー ゼ‑3/7の 活 性 化 を 伴 う ア ポ ト ー シ ス の 関 与 が 明 ら か と な っ た 。 ま た こ れ ら の 薬 物 のRD細 胞 内 蓄 積 量 を 測 定 し た 結 果 、 筋 細 胞 内 薬 物 蓄 積 量 も ま た 脂 溶 性 の 高 さ に 依 存 す る こ と が 示 さ れ た 。 こ れ ら の こ と か ら ス

(2)

タチン系薬物の骨格筋細胞障害性は筋細胞内蓄積量に依存することが考えら れる。

(2)

スタチン系薬物による筋障害機序

  

次に最も障害性の高かったセリバスタチンを用いて筋障害機序の検討を行 った。セリバスタチン曝露によルミトコンドリアを介したアポトーシス経路 に茄いて活性上昇が認められるカスパーゼ‐9 が上昇していることが明らかと なった。さらにカスパーゼ_9 阻害剤を共存させるとその活性化は抑制される ことが示された。またミトコンドリア経路を介したアポトーシス誘因刺激の ーっに乳酸蓄積を伴う細胞内の酸性化が知られていることから、次にセリバ スタチン曝露時の乳酸蓄積ならびに細胞内pH 変動について検討を行った。薬 物曝露時の細胞内乳酸量は有意に上昇し、さらに骨格筋細胞内pH は薬物濃度 依存的に低下した。そこで乳酸蓄積の原因を探るため、乳酸を筋細胞内から 排出する役割を担うmonocarboxylate transporter (MCT)4 に着目した。MCT4 の 単一強制発現系を用いて乳酸輸送に対するスタチン系薬物の影響を検討した とこ ろ、毒性の高いスタチン系薬物により

MCT4

の機能は阻害を受けること が確 認された。したがって、筋細胞からの

MCT4

を介した乳酸排出をスタチ ン系薬物が阻害することが細胞内を酸性化する―因となっている可能性が示 された。

(3)

スタチン系薬物による筋障害発症リスク軽減方法

  

スタチン系薬物による筋障害機序には細胞内酸性化を伴うアポトーシスの 関与が明らかとなった。そこで乳酸アシドーシスの治療薬であり、細胞内pH をアルカリ化する炭酸水素ナトリウムを併用することで筋障害を抑制できる のではないかと考えた。そこで炭酸水素ナトリウムがスタチン系薬物による

RD

細胞の障害に与える影響について検討を行った。その結果、炭酸水素ナト リウムはセリバスタチンによる細胞の球状化、細胞内酸性化ならびにカスパ

―ゼ

‑3/7

活性の上昇に対して抑制効果を示すことが明らかとなった。またL6

細胞においても同様の結果が得られた。次にこの炭酸水素ナトリウムの筋障

害抑制効果が

in vivo

においても確認できるか否かを明らかにするため、セリ

バスタチンを用いて横紋筋融解症モデルラットの作成を試みた。筋障害の評

価としては、実際の臨床現場においても横紋筋融解症の指標とされている血

中ク レアチンホ スホキナー ゼ

(CPK)

活性測定によって行った。セリバスタ

チン をラットに静脈注射後、

2

時間まで濃度依存的に血中CPK 値の上昇が認

められた。そこでこの

in vivo

モデルを用いて炭酸水素ナトリウムの効果を検

証した。その結果、セリバスタチンと炭酸水素ナトリウムを同時に投与する

ことにより、セリバスタチンによる

CPK

上昇は濃度依存的に抑制されること

が示された。従ってin vitro および

in vivo

における検討から炭酸水素ナトリウ

ムを併用することによルスタチン系薬物の筋障害は抑制されることが示唆さ

れた。

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 准教授 准教授 講師

井 関    健 加 茂 直 樹 宮 内 正 二 菅 原    満 平 野    剛

学 位 論 文 題 名

ス タチン系薬物 由来横紋筋融解症の発症機序ならびに 発 症リ スク軽減に関する研究

  HMG‑CoA還 元 酵 素 は コ レ ス テ ロ ー ル 生 合 成 経 路 のHMG‑CoAか ら メ バ ロ ン 酸 を 生 成 す る 過 程 を 触 媒 す る 重 要 な 酵 素 で あ る 。HMG‑CoA還 元 酵 素 阻 害 薬 ( ス タ チ ン 系 薬 物 ) は 本 酵 素 を 拮 抗 的 に 阻 害 し 、 血 中 コ レ ス テ ロ ー ル 値 を 強 カ に 低 下 さ せ る た め 、 高 脂 血 症 治 療 薬 と し て 幅 広 く 使 用 さ れ て い る 。 し か し な が ら ス タ チ ン 系 薬 物 の 重 篤 な 副 作 用 と し て 横 紋 筋 融 解 症 が あ る 。 横 紋 筋 融 解 症 と は 骨 格 筋 細 胞 の 融 解 、 壊 死 に よ り 筋 体 成 分 が 血 中 ヘ 流 出 し た 疾 患 で あ り 、 死 に 至 る こ と も あ る 。 現 在 ま で ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 筋 障 害 に 関 し て 種 々 検 討 は 行 わ れ て い る も の の 発 症 機 序 は 不 明 で あ り 、 ス タ チ ン 系 薬 物 間 で の 筋 障 害 程 度 を 比 較 し た 報 告 も 少 な い の が 現 状 で あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は こ れ ま で 市 販 さ れ て い る す べ て の ス タ チ ン 系 薬 物 が 骨 格 筋 由 来 細 胞 で あ るRD( ヒ ト 由 来 ) お よ びL6( ラ ッ ト 由 来 ) に 与 え る 影 響 を 明 ら か に し 、 薬 物 間 の 筋 細 胞 障 害 性 を 比 較 す る こ と で ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 筋 障 害 機 序 の 解 明 を 試 み た 。 ま た こ れ ら の 知 見 を も と に ス タ チ ン 系 薬 物 の 筋 障 害 発 症 リ ス ク 軽 減 方 法 を 構 築 し 、in vitroお よ びin vivoに お い て そ の 効 果 を 評 価 し た 。

(1)ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 骨 格 筋 細 胞 障 害 性

  ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る 筋 障 害 性 に つ い て は 種 々 検 討 さ れ て い る も の の 、 同 一 評 価 系 で す べ て の ス タ チ ン 系 薬 物 の 細 胞 障 害 性 を 検 討 し 、 そ れ ら を 直 接 比 較 し た 例 は 少 な い 。 そ こ で す べ て の ス タ チ ン 系 薬 物 を 用 い て 筋 細 胞 に 与 え る 影 響 を 詳 細 に 検 討 し た 。 ス タ チ ン 系 薬 物 の 骨 格 筋 細 胞 障 害 性 に は 、 細 胞 の 縮 小 化 お よ ぴ カ ス バ ー ゼ‑3/7の 活 性 化 を 伴 う ア ポ ト ― シ ス の 関 与 が 示 さ れ た 。 ま た ス タ チ ン 系 薬 物 に よ る ア ポ ト ー シ ス 発 生 の 強 さ は セ リ バ ス タ チ ン 冫 シ ン バ ス タ チ ン 冫 フ ル バ ス タ チ ン 冫 ア ト ル パ ス タ チ ン 冫 ロ バ ス タ チ ン 冫 ピ タ バ ス タ チ ン 冫 冫 プ ラ バ ス タ チ ン , ロ ス バ ス タ チ ン の 順 で あ り 、 薬 物 の 分 配

(4)

係数と高亠ヽ相関性を示したことから脂溶性の高い薬物ほど障害性が強いことが示され

  

た。さらにその障害性は、薬物の筋細胞内蓄積量に依存していることも明らかにした。

  

一方、スタチン系薬物のコレステロール低下率の優劣と脂溶性およぴ筋障害性の強弱は

  

相関しなかった。

(2)

スタチン系薬物による筋障害機序

  

次に最も障害性の高かったセリバスタチンを用いて筋障害機序の検討を行った。セリバ スタチン曝露によルミトコンドリアを介したアポトーシス経路において活性上昇が認め られるカスバーゼ‐9 が上昇していることが明らかとなった。さらにカスバーゼ・9 阻害剤を 共存させるとその活性化は抑制されることが示された。またミトコンドリア経路を介した アポトーシス誘因刺激のーっに乳酸蓄積を伴う細胞内の酸性化が知られていることから、

次にセリバスタチン曝露時の乳酸蓄積ならぴに細胞内pH 変動について検討を行った。薬 物曝露時の細胞内乳酸量は有意に上昇し、さらに骨格筋細胞内pH は薬物濃度依存的に低 下した。そこで乳酸蓄積の原因を探るため、乳酸を筋細胞内から排出する役割を担う

monocarboxylatetransponer

(MCD4 に着目した。MCr4 の単一強制発現系を用いて乳酸輸送 に対するスタチン系薬物の影響を検討したところ、毒性の高いスタチン系薬物により

MCT4

の機能は阻害を受けることが確認された。したがって、スタチン系薬物が筋細胞か らのMCT4 を介した乳酸排出を阻害することにより、乳酸蓄積および細胞内酸性化を弓I き 起こしている可能性が示された。

(3)

スタチン系薬物による筋障害発症リスク軽減方法

  

スタチン系薬物による筋障害機序には細胞内酸性化を伴うアポトーシスの関与が明ら

かとなった。そこで乳酸アシドーシスの治療薬であり、細胞内pH をアルカリ化する炭酸

水素ナトリウムあるいはクエン酸を併用することで筋障害を抑制できるのではないかと

考えた。臨床現場で用いられているアルカリ化剤である炭酸水素ナトリウムあるいはクエ

ン酸を併用することにより、セリバスタチンによる細胞の球状化、細胞内酸性化ならびに

カスバ―ゼ3/7 活性の上昇は、抑制されることが明らかとなった。一方でこれらアルカリ

化剤はスタチン系薬物の主作用であるコレステロール低下効果には影響を与えないこと

も明らかとなった。またin vivo において実際の臨床現場でも横紋筋融解症の指標とされて

いる血中クレアチンホスホキナーゼ

(CPK)

活性を測定することで、スタチン系薬物によ

る筋障害に対する炭酸水素ナトリウムあるいはクエン酸の効果を評価した。その結果、セ

リバスタチンと炭酸水素ナトリウムあるいはクエン酸を同時に投与することにより、セリ

バ ス タ チ ン が 誘 導 す る

CPK

上 昇 は 濃 度 依 存 的 に 抑 制 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。

  

以上、スタチン系薬物による横紋筋融解症の発症機序ならびに発症リスク軽減方法を

明らかにした。本研究によルスタチン系薬物のコレステロール低下率の優劣と筋障害性の

強弱は相関しないことが示されたことから、長期間服用することが多いスタチン系薬物の

副作用発現抑制を考慮した治療スケジュールを考案する上で、本知見は有益なものとなり

得る。またスタチン系薬物の主作用に対しては影響を与えず、副作用のみを軽減する方法

を確立したことから、スタチン系薬物の安全使用に関して重要な知見となることが期待さ

(5)

れる。以上の点で本論文『スタチン系薬物由来横紋筋融解症の発症機序ならびに発症リス

ク軽減に関する研究』に含まれる研究成果は優れており,博士(薬学)の学位を受けるに

十分値するものと認めた。

参照

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