1 独日本原子力研究開発機構 原科研福島技術開発特別チーム Corresponding author, E-mail: nakano.junnichi@jaea.go.jp
速
報
ガンマ線照射下におけるヒドラジン添加希釈海水中での
炭素鋼および低合金鋼の腐食
中野 純一
1,,山本 正弘
1,塚田
隆
1Corrosion of Carbon Steel and Low-Alloy Steel in Diluted Seawater Containing
Hydrazine under Gamma-Rays Irradiation
Junichi NAKANO1,, Masahiro YAMAMOTO1and Takashi TSUKADA1
1Fukushima Project Team, Japan Atomic Energy Agency, 24 Shirakatashirane, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki 3191195, Japan (Received September 30, 2013; accepted in revised form December 2, 2013; published online January 31, 2014)
Seawater was injected into reactor cores of Units 1, 2, and 3 in the Fukushima Daiichi nuclear power station as an urgent coolant. It is considered that the injected seawater causes corrosion of steels of the reac-tor pressure vessel and primary containment vessel. To investigate the eŠects of gamma-rays irradiation on weight loss in carbon steel and low-alloy steel, corrosion tests were performed in diluted seawater at 50°C under gamma-rays irradiation. Specimens were irradiated with dose rates of 4.4 kGy/h and 0.2 kGy/h. To evaluate the eŠects of hydrazine (N2H4) on the reduction of oxygen and hydrogen peroxide, N2H4was
added to the diluted seawater. In the diluted seawater without N2H4, weight loss in the steels irradiated with
0.2 kGy/h was similar to that in the unirradiated steels, and weight loss in the steels irradiated with 4.4 kGy/h increased to approximate 1.7 times of those in the unirradiated steels. Weight loss in the steels irradiated in the diluted seawater containing N2H4was similar to that in the diluted seawater without N2H4.
When N2was introduced into the gas phase in the ‰asks during gamma-rays irradiation, weight loss in the
steels decreased.
KEYWORDS: gamma-rays, carbon steel, low-alloy steel, hydrazine, radiolysis, irradiation, hydrogen peroxide, corrosion, diluted seawater, weight loss
I. 緒
言
2011年 3 月に発生した東京電力株福島第一原子力発電 所の事故では,1~3 号機の炉心を冷却するための緊急 の措置として,計 16,000 m3を超える海水が炉心に注入
された1)。原子炉格納容器(Primary Containment Vessel,
PCV)内は,事故時に放出された核分裂生成物および原子 炉圧力容器(Reactor Pressure Vessel, RPV)下部ヘッドよ り落下した溶融燃料が固化した燃料デブリのため,高い放 射線量と なっている。2 号機において PCV 内の 線量測 定2)が行われており,その際の最高値は 72.9 Sv/h であっ た。注水冷却も継続しており,PCV の温度は,号機およ び季節により異なるが夏季に約50°Cになることが報告さ れている3)。また,高濃度の放射性物質を含む滞留水の塩 化物イオン濃度は,当初 16,000 mg/L4)であったが,2013 年 8 月の時点で 280 mg/L まで低下している5)。今後,塩 化物イオン濃度はさらに低下すると予想される。 水に放射線が照射されると,放射線分解により過酸化水 素(H2O2),OH ラジカル等の反応性に富む化学種が生成 することが知られている6,7)。H 2O2は分解して最終的に O2濃度を増加させる。O2濃度の増加に伴い炭素鋼の腐食 量が増加することが示されている8~10)。温度の上昇は化 学反応速度を増加させ9),80°C以下の温度範囲で温度の上 昇に伴い炭素鋼の腐食速度が増加する8~10)。また,塩化 物イオン濃度 2×104mg/L 以下では,塩化物イオン濃度 の増加に伴い鉄の腐食速度が増加する8~10)。燃料デブリ 取り出しまでの期間,放射線,温度および海水が重畳した 環境に PCV および RPV は曝されることになる。PCV お よび RPV には,それぞれ炭素鋼および低合金鋼が使用さ れており,ステンレス鋼ほどの耐食性を有していない。こ のため,これらの容器鋼の腐食が発生・進行し,放射性物 質の漏洩,構造強度の低下等が生じることが懸念されてい る11,12)。しかしながら,照射下での腐食に関するデータは
Fig. 1 Dimension of specimen for corrosion tests
Table 1 Gas and liquid conditions in corrosion tests under gamma-rays irradiation
Run-No. N2H4Addition (mg/L) Gas Phase in Flask 1 0 Flask containing air 2 10 Flask containing air 3 100 Flask containing air
4 100 N2‰owing
Fig. 2 Schematic illustration of corrosion tests with N2‰owing under gamma-rays irradiation
十分に整備されておらず,腐食挙動を評価する上でこれら の因子を制御した条件下での腐食データを取得する必要が ある。 火力発電プラント13)およびボイラ設備14)において,腐 食の要因となる O2を除去するためにヒドラジン(N2H4)が 使用されている。福島第一原子力発電所の使用済燃料プー ルでは定期的に循環冷却系へ N2H4を注入して酸素除去が 実施されている15)。また,N 2H4を添加した希釈人工海水 においてガンマ線照射時間とともに O2濃度が低下するこ と16),N 2H4無添加では H2O2が数 mg/L 検出されるのに 対し,32 mg/L N2H4添加により H2O2<0.05 mg/L とな ることが報告されている17)。しかしながら,PCV は構造 および内部の環境が使用済燃料プールと大きく異なること から,N2H4添加による腐食抑制対策の効果を検討する必 要がある。本研究ではガンマ線照射下での希釈人工海水中 腐食試験および試験後の水質分析を行い,原子炉容器鋼の 腐食に及ぼすガンマ線照射の影響および N2H4添加が及ぼ す放射線分解水質に対する影響を検討した。
II. 実 験 方 法
1. 材料および試験片 腐食試験には格納容器鋼として SGV480(JIS G3118) を , 圧 力 容 器 鋼 と し て SQV2A ( JIS G3120 ) を 用 い た 。 SGV480 および SQV2A の化学成分(mass)は,それぞ れ C0.17, Si0.25, Mn1.17, P0.009, S0.002,お よび C0.17, Si0.25, Mn1.37, P0.007, S0.011, Ni0.63, Mo0.53 であった。試験片形状を Fig. 1 に示 す。寸法は 40 mm×10 mm×2 mm とし,表面積は 10.05 cm2の短冊形状とした。表面は #600 のエメリー紙仕上げ とした。 2. 希釈人工海水中腐食試験 本 腐 食 試 験 で は , 塩 化 物 イ オ ン 濃 度 の 目 標 を 約 100 mg/L と設定し,金属腐食試験用人工海水(八洲薬品株製 アクアマリン)を200倍に希釈したものを腐食溶液として 使用した。内容積 5 L のセパラブルフラスコに希釈人工海 水を 3.6 L 注入し,試験温度を50±5°Cに一定とした。 Table 1に腐食試験時の N2H4添加量およびセパラブルフ ラスコ内の気相部の条件を示す。Run-No. 1~3 では,そ れぞれ N2H4を無添加,10 mg/L および 100 mg/L 添加し た。気相部は大気状態のままセパラブルフラスコの蓋を閉 じ,試験中は気体の導入を行わなかった。Run-No. 4 では, 100 mg/L N2H4添加後,気相部のみ N2を導入した。N2 の導入はガンマ線照射中も継続して行った。Fig. 2 に 100 mg/L N2H4添加+N2導入を行った状態を示す。SUS316 ステンレス鋼製ワイヤーを用いて石英製治具に各試験片を 吊り下げた。試験片とワイヤーの接触部分は異種金属接触 腐食を防ぐために,高純度アルミナ(Al2O3)管で絶縁を行 った。各腐食条件において,SGV480 および SQV2A の試 験片を各 3 本ずつ腐食溶液中に浸漬した。 3. ガンマ線照射 ガンマ線照射試験は,原子力機構高崎量子応用研究所食 品照射棟18)において実施した。ガンマ線源として60Co を 用 い て お り ,60Co は 0.31 MeV の ベ ー タ 線 お よ び 1.17 MeV, 1.33 MeV の 2 本のガンマ線を放射し,半減期5.27 年で安定な60Ni となる19)。本照射施設においては,ステFig. 3 Location of the ‰asks arranged in a gamma-rays irradia-tion facility
Fig. 4 Weight loss in SGV480 in the diluted artiˆcial seawater at 50°C after corrosion tests for 500 h
Fig. 5 Weight loss in SQV2A in the diluted artiˆcial seawater at 50°C after corrosion tests for 500 h
ンレス鋼により二重に被覆された棒状の60Co 線源が,床 下のプールから線源保護カバー内に上昇することで照射が 開始される。このため,0.31 MeV のベータ線はステンレ ス鋼被覆管と線源保護カバーで遮蔽され,1.17 MeV およ び 1.33 MeV のガンマ線が試験片を含むセパラブルフラス コへ照射されることになる。今回試験に使用した照射室で は棒状の60Co 線源が96本装荷されており,総放射能量は 3.48×1015Bq(2012年10月 1 日時点)であった。Fig. 3 に 照射室内での60Co線源とセパラブルフラスコの配置を示 す。4 個のセパラブルフラスコを用意し,そのうち 2 個は 60Co 線源の直近に設置し,別の 2 個は60Co 線源から 1.6 m 離れた位置に設置した。試験時と同量の純水を入れた セパラブルフラスコ内にバイアルに密栓したアラニン線量 計(日立電線株製アミノグレイ)20)を設置し,腐食試験時 と同様にして線量率測定を行った。60Co 線源に直近の位 置 で 4.4 kGy / h ,60Co 線 源 か ら 1.6 m 離 れ た 位 置 で 0.2 kGy/h の吸収線量率であった。 50°Cの希釈人工海水中への浸漬時間は,50時間および 500時間とした。他の照射試験との都合により照射の中断 が生じた場合は,中断時間分の追加照射を実施しなかっ た。このため,いずれの環境条件においても,照射時間≦ 50°C浸漬時間となったが,50時間および500時間浸漬にお ける最短の照射時間は,それぞれ49.3時間および491.6時 間であった。すなわち,50°C浸漬時間の98以上はガン マ線照射に曝すことができた。以降では浸漬時間を用いて 試験時間を示す。 4. 水質分析 腐食試験後,希釈海水中の O2濃度は溶存酸素センサー (HAMILTON 製 VISIFERM DO ARC 120)を用いて50°C で測定した。H2O2濃度,N2H4濃度および塩化物イオン 濃度は分光光度計(Lovibond 製 MultiDirect および株共立 理化学研究所製ラムダ9000)を用いて室温で測定した。 5. 酸化皮膜除去 試験後,酸性溶液中での試験片の酸化皮膜除去を行っ た21)。5HCl 溶液にインヒビターとしてアンモニウム 塩,非イオン系活性剤,2プロパノールおよび水の混合 物(朝日化学工業株製イビット No. 2S)を0.3添加した溶 液を55±5°Cに保持し,試験片を 5 分間浸漬した。浸漬 後,流水中において真鍮ブラシによるブラッシングを行 い,表面の酸化皮膜を除去した。同時に,補正用として未 試験の SGV480 および SQV2A 試験片も 5HCl 溶液中に 浸漬および流水中でのブラッシングを行った。乾燥後,試 験片の質量を測定し,腐食減量を算出した。このとき,補 正用試験片が酸化皮膜除去の工程で減少した質量を各試験 片に加算した。
III. 実 験 結 果
1. 腐食減量へのガンマ線照射の影響 SGV480 および SQV2A の500時間ガンマ線照射下腐食 試験の結果を,それぞれ Fig. 4 および Fig. 5 に示す。 N2H4無添加では,0.2 kGy/h 照射での SGV480 の腐食減 量は非照射でのそれとほぼ同じであり,4.4 kGy/h 照射で は非照射時の約1.7倍の腐食減量となった。SQV2A にお いても,ほぼ SGV480 と同様の傾向を示した。Fig. 6 O2concentration in the diluted artiˆcial seawater at 50°C after corrosion tests for 500 h
Fig. 7 H2O2concentration in the diluted artiˆcial seawater at 50 °C after corrosion tests for 500 h
Fig. 8 N2H4concentration in the diluted artiˆcial seawater at 50 °C after corrosion tests for 50 h
10 mg/L N2H4添加では,いずれの照射線量率の腐食減 量も N2H4無添加とほぼ同じであった。100 mg/L N2H4 添加では,非照射の場合は腐食減量が 0.2 kGy/h 照射の それよりも低い値を示したが,4.4 kGy/h および 0.2 kGy/ h 照射の腐食減量とも N2H4無添加のそれとほぼ同じであ った。 100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気では,非照射および 0.2 kGy/h 照射の腐食減量が大きく低下し,N2H4無添加 時の 2~3となった。4.4 kGy/h 照射の腐食減量につい ても,N2H4無添加の場合の約 4 分の 1 まで低下した。 2. ガンマ線照射後の水質 腐食試験500時間後の試験溶液中の O2濃度測定結果を Fig. 6 に示す。非照射のO2濃度を比較すると,N2H4無 添 加 > 10 mg / L N2H4添 加 > 100 mg / L N2H4添 加 > 100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気の順序で低下している。それ に 対 し , N2H4無 添 加 , 10 mg / L N2H4添 加 お よ び 100 mg/L N2H4添加では,4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射 で,それぞれ約 5.5 mg/L および約 5 mg/L の O2が溶存 し て い る 。 100 mg / L N2H4添 加 + N2雰 囲 気 で は , 4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射の O2濃度は他の条件よりも 低下している。 Figure 7に腐食試験500時間後の試験溶液中の H2O2濃 度測定結果を示す。N2H4無添加,10 mg/L N2H4添加お よび 100 mg/L N2H4添加の 4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射では,それぞれ 2 mg/L 以上および 1 mg/L 以下の H2O2濃度が検出されており,H2O2の生成が線量率に依 存していた。4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射で生じる H2O2濃度の差は O2濃度の差よりも顕著であった。100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気では,4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射の H2O2濃度が他の条件よりも低下している。 腐食試験50時間後の試験溶液中に残存していた N2H4濃 度測定結果を Fig. 8 に示す。非照射試験後に残存してい た N2H4濃 度 は 10 mg / L N2H4添 加 < 100 mg / L N2H4添 加<100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気の順序で増加してい る。それに対し,4.4 kGy/h および 0.2 kGy/h 照射での N2H4濃度はほとんど検出されなかった。
IV. 考
察
1. N2H4添加時の挙動 Figure 6 中の N2H4無添加では,非照射,0.2および 4.4 kGy/h 照射でのそれぞれの O2濃度の差は 0.4~0.5 mg/L であるのに対し,Fig. 7 中の0.2および 4.4 kGy/h 照射で の H2O2濃度の差は,2.3 mg/L であった。試験片の腐食 減量は,0.2 kGy/h 照射と非照射においてほぼ同じであっ たが,4.4 kGy/h 照射では非照射時の約1.7倍まで増加し ていた。水中の鉄の腐食速度は,O2濃度に比例して増加 することが知られている8~10)。本試験ではガンマ線照射 環境であり,酸化剤として O2だけでなく,H2O2も検出 さ れ て い る 。 4.4 kGy / h 照 射 に お け る SGV480 お よ び SQV2A の腐食減量の増加は O2濃度に加え,H2O2濃度の 影響も強く受けていると考えられる。 大 気 1 atm , 淡 水 50 °C で の O2濃 度 が 5.57 mg / L で あ り8),試験後の非照射の O 2濃度はそれよりも約 1 mg/L 低く,希釈海水中に溶存していた O2は試験片との腐食反応で消費され大気飽和状態よりも減少したとみられる。そ れに対し,4.4 kGy/h 照射の場合,大気飽和状態に近い O2濃度を維持しており,水の放射線分解により常時 O2が 発生していたために大気飽和状態に近い O2濃度を維持し ていたと考えられる。 N2H4を添加した純水中において,非照射で50°C,8 時 間保持することで O2濃度が 8 mg/L から 4 mg/L へ低下 し た こ と , お よ び 32 mg / L N2H4添 加 の 人 工 海 水 を 1 kGy/h で 1 時間照射することで 8 mg/L までの N2H4濃度 の低下,および O2濃度の低下が報告されている16)。この ことから,本試験の非照射においても N2H4が O2と反応 したために N2H4添加量の増加とともに O2濃度が低下し たとみられる。照射下腐食試験では,N2H4が O2および H2O2と反応して消失し,O2および H2O2濃度の低下を生 じたとみられる。試験時間が50時間および500時間と長時 間であることから,放射線分解により O2および H2O2が 常時発生し,N2H4無添加時にほぼ近い濃度まで増加した と 考え られる 。希 釈人工 海水 中の酸 化性 化学種 濃度 が N2H4無 添 加 時 と 同 程 度 に な っ た こ と か ら , 10 mg / L N2H4添 加 お よ び 100 mg / L N2H4添 加 で の 腐 食 減 量 も N2H4無添加時と同程度となったと推測される。 線量率 1 Gy/s のガンマ線照射を純水および人工海水に 行った場合の水質に関して計算がなされており22),純水 では 3×103s 後に O 2および H2O2濃度は飽和に達するの に対し,人工海水では時間とともに増加する傾向が報告さ れている。200倍希釈人工海水を用いた本試験では50時間 および500時間での O2および H2O2濃度とも一定値であっ たことから,純水に近い挙動であったとみられる。 2. N2雰囲気での挙動 100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気では,他の照射下での 試験条件の場合に比較して O2濃度が低下していた。セパ ラブルフラスコ内の気相部を N2雰囲気とすることで気相 中の O2分圧が低下し,希釈人工海水中の O2が気相中へ 移行したため,希釈人工海水中の O2濃度が低下したとみ られる。ガンマ線照射下では給水中の O2濃度の増加とと もに,H2O2濃度が増加することが計算されており23,24), 本試験においては水中の O2濃度が低下したことで H2O2 濃度も低下したと考えられる。O2および H2O2濃度が低 下したことで SGV480 および SQV2A の腐食減量も低下 したとみられる。 100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気の 0.2 kGy/h 照射のみ, O2濃度が十分低下していないにも関わらず,試験片の腐 食減量は低下していた。塩化物イオン濃度 25 mg/L,大 気飽和の O2濃度,温度30°Cでの環境で流速が 0.5 m/s を 超えると,鋳鉄等の腐食速度が低下することが報告されて いる25)。本試験においてもガンマ線照射下で N 2雰囲気と することで,放射線分解により生じた O2が水中を気相に 向かって移動していると考えられるが,その速度が 0.5 m/s を超えているかは不明である。また,試験片との反 応による O2および H2O2の消費,気相への O2の移行とそ れによる H2O2発生量の変化等が相互に影響を及ぼし合う ため,現時点では詳細な考察が困難である。このため,再 現性の確認,腐食生成物の評価,試験片のない状態での水 質評価等を目的とした追加試験を検討している。また,本 試験では 100 mg/L N2H4添加+N2雰囲気で試験を行った が,N2雰囲気の影響を単離するため,N2H4無添加での N2雰囲気における腐食試験を実施中である。
V. ま と め
ガンマ線照射下,50°Cにおいて200倍希釈人工海水中腐 食試験を実施し,炭素鋼および低合金鋼の腐食に及ぼすガ ンマ線照射の影響および N2H4添加が及ぼす放射線分解水 質に対する影響を検討した。N2H4添加に加え,気相部を N2雰囲気にした腐食試験も実施した。その結果,以下の ことが明らかになった。 N2H4無添加での 0.2 kGy/h 照射における SGV480 および SQV2A の腐食減量は,非照射におけるそれとほぼ 同じであり,4.4 kGy/h 照射における腐食減量は,非照射 の約1.7倍であった。4.4 kGy/h 照射時の腐食溶液中の O2 濃度は,ほぼ大気飽和状態であった。 N2H4添加量とともに非照射下での腐食減量は低下 したが,照射下での腐食減量の変化はわずかであった。 100 mg/L N2H4を添加した場合でも照射開始後50時間で N2H4の残存はなかった。 N2H4添加+N2雰囲気では,腐食減量,腐食溶液中 の O2濃度および H2O2濃度の低下が認められた。 本試験は,福島復旧事業国プロジェクト「圧力容器/格 納容器の腐食に対する長期健全性評価」の一部に協力して 実施した。ガンマ線照射の実施に尽力頂いた,独日本原子 力研究開発機構 照射施設管理課の金子広久課長および山 縣諒平氏,利用計画課の春山保幸課長に感謝する。 ― 参 考 文 献 ― 1) 原子力災害対策本部,原子力安全に関する IAEA 閣僚会議に 対する日本国政府の報告書 ―東京電力福島原子力発電所の 事故について―(平成23年 6 月).〈http://www.kantei.go.jp/ jp/topics/2011/iaea_houkokusho.html〉(2011) 2) 東京電力株,福島第一原子力発電所2 号機原子炉格納容器内 部調査(2 回目)の実績(線量測定)について(平成24年 3 月27 日 ) .〈http: // www.tepco.co.jp / nu / fukushima-np / images / handouts_120327_02-j.pdf〉(2012)3) 東京電力株,プラント関連パラメータ(水位,圧力,温度な ど ) ,〈 http: // www.tepco.co.jp / nu / fukushima-np / f1 / pla / 2012/images/12082405_table_summary-j.pdf〉(2012) 4) 東京電力株,福島第一原子力発電所における高濃度の放射性
物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第3 報) (平成23年 7 月13日).〈http://www.tepco.co.jp/cc/press/ betu11_ j/images/110713c.pdf〉
5) 東京電力株,福島第一原子力発電所における高濃度の放射性 物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第117 報)(平成25年 9 月18日).〈http://www.tepco.co.jp/cc/press/ betu13_ j/images/130918j0101.pdf〉(2013) 6) 勝村庸介,“軽水炉プラントの水化学,”日本原子力学会誌, 51[6], 490494 (2009). 7) 社日 本 原 子 力 学 会 編 , 原 子 炉 水 化 学 ハ ン ド ブ ッ ク ,203, ISBN4339065978 (2000). 8) 腐食防食協会編,腐食・防食ハンドブック CDROM 版 第 2 版,丸善株,III 章1.1.8, ISBN4621073370 (2005), [CD ROM].
9) N. R. Smart, A. R. Hoch, ``A survey of steel and zircaloy cor-rosion data for use in the SMOGG gas generation model,'' SA/ENV0841 Issue 3, Serco, 915 (2010).
10) The Electochemical Society, Inc., THE CORROSION HAN-DBOOK, John Wiley & Sons, New York, 125140 (1948). 11) 原子力災害対策本部 東京電力福島第一原子力発電所廃炉対 策推進会議,東京電力株福島第一原子力発電所1~4 号機の 廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(平成25年 6 月27日). 〈http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/ t130627_04-j.pdf〉13 (2013) 12) 日本原子力学会 東京電力福島第一原子力発電所事故に関す る調査委員会,「東京電力福島第一原子力発電所事故に関す る調査委員会」最終報告書(ドラフト)説明会説明資料. 〈http://www.aesj.or.jp/jikocho/rep20130902.pdf〉(2013) 13) 椿o仙市,高田政治,後藤英司,馬渡憲次,石原伸夫,甲斐 亮輔,“火力プラントに水処理における脱ヒドラジンへの取 組み,”三菱重工技報,46[2], 5559 (2009). 14) 川村文夫,水処理技術 ボイラおよび周辺設備の腐食・防 食,腐食センターニュース,No. 054, 19 (2010). 15) 東京電力株,福島第一原子力発電所4 号機使用済燃料プール 代替冷却システムの停止について(平成24年 4 月16日). 〈http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_ 120416_02-j.pdf〉(2012) 16) 本岡隆文,佐藤智徳,山本正弘,“ヒドラジンによる人工海 水中の溶存酸素低減に及ぼすガンマ線の影響,”日本原子力 学会和文論文誌,11[4], 249254 (2012).
17) T. Motooka, T. Sato, M. Yamamoto, ``EŠect of gamma-ray ir-radiation on the deoxygenation of salt-containing water using hydrazine,'' J. Nucl. Sci. Technol., 50[4], 363368 (2013). 18) 清藤 一,春山保幸,花屋博秋,山縣諒平,金沢孝夫,金子 広久,小嶋拓治,電子線・ガンマ線照射施設データ―1 号加 速器・コバルト60照射施設―,JAEATechnology 2008071, 独日本原子力研究開発機構 (2008). 19) 石川友清,放射線概論―第 1 種放射線試験受験用テキスト―, 469 (1992). 20) 春山保幸,橘 宏行,小嶋拓治,岡本次郎,柏崎 茂,松山茂 樹,柳生秀樹,“アラニン線量計の低線量率・長時間照射下 の特性,”RADIOISOTOPES,44, 507513 (1995).
21) ISO 8407, Corrosion of Metals and Alloys-Removal of Corrosion Products from Corrosion Test Specimens (2009).
22) K. Hata, S. Hanawa, S. Kasahara, Y. Muroya, Y. Katsumura, ``Radiation-induced reactions of Cr, SO2-
3 , and Br- in seawater, ―Model calculation of gamma radiolysis of seawater―,'' Procs. Nuclear Plant Chemistry Conference 2012, Ref. number 99 (2012), [CDROM].
23) 島貫 静,仲田清智,安斎英哉,“ガンマ線照射下高温水中に おける鋭敏化SUS304の粒界型応力腐食割れ,”鉄と鋼, 78[12], 18311837 (1992).
24) J. M. Joseph, B. S. Choi, P. Yakabuskie, J. C. Wren, ``A com-bined experimental and model analysis on the eŠect of pH and O2(aq) on g-radiolytically produced H2and H2O2,'' Radiat. Phys. Chem.,77, 10091020 (2008).
25) 木下和夫,市川克弘,北島宣光,“塩素イオンを含む流動水 中 にお け るポ ン プ用 材 料の 腐 食,”防 食 技 術, 32, 31 36 (1983).