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[ 姿 ~l 認 知 機 能 の 獲 得 とその 使 用 に 何 らかの 図 難 さをもち, 環 境 に 適 応 することに 課 題 を ~~い 統 合 処 理 機 能, 最 適 遂 行 水 準, 覚 醒 認 節 障 害, 系 列 学 習, 空 間 認 知 機 能,

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Instructions for use

ある子どもは、なぜ新しい環境に慣れにくいのか

Author(s)

大松, 絵美; 片桐, 正敏; 澤木, 梨沙; 蔦森, 英史; 牧, 孝幸; 増

子, 梨絵; 室橋, 春光

Citation

北海道大学大学院教育学研究科紀要, 96: 167-225

Issue Date

2005-06

DOI

10.14943/b.edu.96.167

Doc URL

http://hdl.handle.net/2115/28960

Right

Type

bulletin

Additional

Information

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96_P167-225.pdf

(2)

北海道大学大学院教育学研究科 紀 婆 第96号 2005if.6月

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適応困難メカニズムの解明をめざして

一一認知発達障害のある子どもは,なぜ新しい環境に慣れにくいのか

片 桐 正 敏 * 牧 孝 j畢 木 梨 j

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増 子 梨 絵 *

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[姿 ~l 認知機能の獲得とその使用に何らかの図難さをもち,環境に適応することに課題を 有するこどもやおとなへの対応の方法を採るため,種々の課題においてその生物学的側頭 からの分析と検討の方法について考察した。特殊教育・臨床心理学研究グループにおける 理論化と検討の歩みを概観した後,目ヨ難のありかたに応じた分析と検討を試みた。さきま百の 対象とした降客は,自閉症, 注意欠協多動性障害,半側空間無視,であり,反 応、時間,心拍,機能的核磁気共鳴画像(fMRI)などを検討手段として用いた。新しい環境 に適応するためには,適切な党首星水準とその維持のための調節機能,対象と自己の関係把 握に関わる空間情報の処理機能,脳の局所的処理を統合するための高次情報処理機能,円 滑な笑行のための系列処理化機能,適切な目標達成のための行動制御機能,などが必要で、 あり,これらの機能獲得のありかたや認知発達の諸相におけるこれらの機能のありかたに ついて,さらなる解明が求められる。 {キーワード

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~~い統合処理機能,最適遂行水準,覚醒認節障害,系列学習,空間認知機能, 行動制御機能 鰭 雷 私 た ち 特 殊 教 育 ・ 臨 床 心 理 学 研 究 グ ル ー プ は , 奥 田 三 郎 教 授 の 特 殊 教 育 講 産 開 設 以 来 , 適 応 臨 畿 の メ カ ニ ズ ム 解 明 , 特 に 視 知 覚 系 を 軸 と し た 適 応 メ カ ニ ズ ム の 検 討 を 行 っ て き た 。 適 応 の 圏 難 は , 生 体 を 取 り 巻 く 環 境 に 対 し て , 主 体 的 に 対 応 す る こ と を 妨 げ る 事 態 が 生 体 内 に 生 じ て い る こ と を 基 礎 と し て 発 生 す る 。 私 た ち は , ま ず , そ の 生 物 学 的 恭 盤 を 捉 え る 方 法 を 求 め て 研 *北海道大学大学院教育学研究科教育臨床講座修士課税(特殊教育・臨床心理学研究クゃループ) 村北海道大学大学院教育学研究科教脊臨床言語版教授(特殊教脊・臨床心理学研究グソレープ)

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究を続けてきた。 私たちが現在取り組んでいるメインテーマは,認知機能の獲得あるいはその使用になんらか の困難さをもち,環境に適応することに課題を有している子どもやおとなたちへの対応の方法 を探ることである。適応を妨げる要因は,生物学的要因から社会的要因まで存在し,それらの 相互作用の結果として,適応の困難は発生する。 私たちは,現在,認知発達に課題をもっ子どもたちと毎週土緩 Bにかかわりながら,その前 後に議論を積み重ね,一人ひとりの子どもの適応メカニズムについて思案し,対応方法を検討 しようとしている。あるいは,視知覚系における適応の問題,例えば,半側空間無視といった ありかたをさぐる道を検討しようとしている。 子どもたちが抱えるものは,人間関係のつまづきであり,学ぶことの難しきである。子ども たちは,通常,新しいものを求め,世界に羽ばたく存在であることを期待される。しかし,発 達にかかわる困難を有する彼らの多くが,新しい環境におかれて戸惑い,自らの評価を下げる。 成人が障害をもっ場合においても,事情は同じである。 私たちは,発達期に生ずる認知障害の難しさにたじろぎながら r人Jの本質を時折垣間見せ る彼らのふるまいに惹かれ,彼らに学ぶことを続けてきた。 私たちがみている子どもたちは,広い意味で認知発達にかかわる囲難さを抱えている。学習 障害,注意欠陥多動性障害,高機能自関痕,高次脳機能障害などと呼ばれるありかたである。 近年,これらの嘩害の一部は軽度発達障害と括られることもあるが,軽度と震度の違いは,行 動範囲に関わる量的差異を反映はするが,生活の困難さの違いを示すものではない。これらの を抱える子どもあるいはおとなたちの,新しい環境に対する適応、困難のあり得るメカニズ ムについて,私たちは議論しあい,対応を考えようとしてきた。新しい環境とは何か慶応と は何か,またその国難とは何か……これらの問題を考えることは,その披本からの検討を迫る ものでもある。我々は,これらの議論を基に,生物学的レベルでのメカニズム解明を目指し, より確かな対応方法を見いだす道を選ぴ,検討を続けてきた。 本小論は,本研究グループに所属する修士課程1王子の諸君を中心とした,未熟で、はあるが, さまざまな子どもやおとなたちへの臨床的対応と,実験的手法をベースとした論理とのせめぎ 合いの中から生み出された,ささやかな議論の記錬の一部であるoここに拙い文章ではあるが, 日頃躍めているアイデアを集め,披漉して広く意見を求めたいと思うものである。

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適応関難メカニズムの解明をめFして

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本論文の構成は以下の通りである。 第

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節適応、国難メカニズムの解明への道のり 特殊教育・臨床心理学研究グループ。の歩み (室橋春光) 第2節 軽度発達時書をもっ子どもの新しい環境における適応の問題について 一一「自閉疲スペクトラムj に位置する子どもたちを念頭に一一 (片梱正敏) 第3節 発達障害児の最適遂行水準維持の難しさと環境適応の問題 第4節新しい環境への苦手さと,常時行動・こだわり 一一自問症児の覚醒調節の障害からのアプローチ 第S節 学習障害見における新しい環境への適応の困難さ 一一系列学習との関連性 第6節 新 し い 環 境 に 適 応 す る こ と に 関 す る 考 察 (増子梨絵) (大松絵美) (蔦森英史) 一一半側空間無視の1)ハビリテーションを通しての検討一一 (牧 第

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節 認知的文脈により顕在

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の国難性と教育的支設の可能性

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症状の程度で異なる健常成人の行動抑制時における神経活動 O~妻木梨沙)

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第 1範

適応、困難メカニズムの解明への道のり

一 一 特 殊 教 育 ・ 臨 床 心 理 学 研 究 グ ル ー プ の 歩 み 橋 春 光 奥田(1967)は,生物学的存在である、ヒトグがB常的存在である、人グとなり,さらに価 値的存在である、人間グとなる過程において,臨床心理学的治療l土、人グレベルで行われると した。「、ヒドは,通常,、人グとして,自我意識性と社会意識性とに特徴づけられる心制と体 制とが相呼応しつつ,いわゆる社会的動物として行動し,社会生活裡に具体的生をいとなむJ のである r適応異常とよばれる、人グの行動形態を変容し,正常化させる条件の設定を案出工 夫すること」が,臨床心理学の課題である。そのためには r適応異常についての科学的体系と, それに即応する治療技術体系の確立」が必要で、ある。しかし r今日の実験心理学としての行動 学は,診断治療に,依拠するに足る基礎学として役立っていない」ために,その道のりは長く 険しいものとなることが想定された。 狩野・北島 (1972)は r適応障害の診断と処置を科学として位置づけることが教室共通の希 い」であり r心理検査,診断技法,処寵法を厳格に適用し検討を加え,理論の妥当さを吟味し て改善をはかり自らの知見を提出することが課題」であるとした。しかし r通常理論の多くは 概念規定が不明確で、検証しうる手続きに欠け,症状の推移の解釈にとどまる診断技法は,治療 を指示しうる特定性をもたず,多義的な障害分類の範簡を出ないj のである。 適応障害についての科学的体系の基礎となるべき心理学は,心的過程が受容し産出する機構 を問題としてとりあげる方法を育ててきたといえるoそれはいわば, rfiiJを,どのように受け取 るか」という問題のたてかたである。狩野・北島 (1972)は,臨床心理学においては別の問題 のたてかたがあるとする。それは,くかかわりの強さ>,刺激との接触の強度であり,結合の時 間性という視点である rひとのひとにたいする関係の強きの時間性,ひとの事物に対する関係 の強さの時間性,この関与によって生ずる変遷に注目した」のである。適応に困難を示す子ど もたちは,環境にどのようにかかわるのか,その子どもにとってなにがく刺激的〉であり,そ の接触のありかたは時間とともにどのように変移するのか。このありさまを分析し検討するこ とが,適応の閤難のメカニズムの解明の糸口となるo 刺激とかかわりをもつことは,きわめて 基礎的な生物に共有する事象である。狩野・北島 (1972)は,刺激との接触の強さを測定する 示標として,脳波,とくに α波を選んだ。「脳波は,心の内容でなく,少なくとも,心の動きの 強さについて語りうるものをもっ」と信じたのである。 狩野(1967)は,生活体を構造としてとらえ,内外の条件を絶えず調整する系として規定し, 一定の状況の作用のなかで適応の組艇を修正し自らの活動の仕組を変容すると想、定した。環境 とのかかわりは感覚器官を通じて行われるが,動物においては視覚系が通常,重要な役割を果 たしている。環境とのかかわりにおいて適応の凱麟は,課題として生体内に生じる。視知覚系 は r刺激に即応し,事笑を反映する性質と刺激の特徴を概括し,安定する対象規定の性質とを 備える」。視知覚系における課題解決は,系内においては必然的に生ずる過程であり,矛盾の解 消される方向に調整が進行して系内の安定化がはかられる。しかし,視知党系は生活体として

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適応図難メカニズムの解明をめざして

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の直接的な課題解決をなしえず,それは生活体内の諸系の結合のしかたを変える学習によって 可能となる。これは,最も基本的な知的機能の発現でもある(狩野, 1967)。 北島(1965)は,認知処理の初発点と終末点ともいえる定位反射と慣れの概念を,知覚博報 処理過程として検討した。 Sokolov(1963)の定位反射成立機構の神経モデルを出発点として, 間式系の心理学的モデルを想定した。知覚情報処理系には,多次元的な図式が含まれ,有機体 が出会った刺激布援の一部あるいは大部分が国式と整合しないとき,定位反応を生ずる。新奇 な布置をもっ入力刺激は図式と葛藤を生じ,皮質活動の機能的水準を動揺させ,皮質下賦活系 との調和が破壊されて情緒的行動を発現させることになる。 狩野・北島(1972)は,視知覚の発動と衰退のメカニズムと概念化の進行についての理論的 検討と,課題解決機構のモデル化を試みた。積れの過程は r虫色えず変動する環境刺激のうちの 恒常性を把持し,浮動する無意味刺激を棄却し,生体内部の安定をはかり,自捧性の形成に資 するとともに,刺激の一般イむを可能とする道につながるJのであり,この微細な認知プロセス の中に学習の基礎的メカニズムを想定しうる。この想定のもとに,規知覚の発動と衰退の過程 がモデル化された。すなわち, i )視知覚の活動の強度は,適応機構解発の条件に依存する。 ii) 視知覚の進行は,刺激受容の準備態readinessに依存する。 視知覚活動は,警報的役割をもっ差奥反応を triggerとして発動し,先行学習により過剰学潔 された視覚性概念の影響を受ける。「ひとの集団の形成する共同生活空間において,刺激の特定 局面の構造を選択的に対象化し,環境の中に位置をあたえる活動を基礎とし,ここでは,ひと の成長にともなう言語系からの知覚への規定が大きい」のである。そして,視知覚活動の賦活 の持続は,料激の複雑度と準備態の関係に依存する。準備態は r活動の賦活度として,刺激処 理にさいしての認知の広がりと したものの利用の効率に対応する。すなわち意識水準, awareness, vigilanceの程度として記述しうるJ。また準備態は r刺激一反応の学留度,熟知 度,先行経験の保存と概念化の内容にかかわるJo モテソレと作業仮説を基盤として一連の実験群が組織され, α波を示擦とした桟知覚活動の分 析と検討が進行した。 1970年代には,刺激出現に対応して脳活動が生起することの電気生理学 的表現である誘発電位の測定技法が発展した。狩野・北島 (1972)の理念を継承し,誘発電位 を新たな示標とした視知覚活動の微調的分析が開始され,知覚融合に関する新知見の提出と なって結実した (Morotomi& Kitajima, 1975; Kitajima, Morotomi and Kanoh, 1975)。

(1992, 1995)は,知覚との対応が比較的明確な規覚誘発電イ立を,心理学の対象としての 視知覚機構を探究する道具として捉え,視知覚と視覚誘発電位との関係を詳細に論じた。視覚 誘発電位・事象関連電位を指標とした視知覚の微視的発生ならび、に成立過程の解明は,当研究 グループにおいて継続的に検討され今日に至っている。 主主橋(1984a,b)は,視覚誘発電位研究に基づく視知覚成立過程の図式的モデルを提案した。 前頭・中心あるいは頭頂領導出の潜時100-300msの陰性及び陽性成分は,視覚性図式モデル における原型形成相を担う神経活動に必要な,脳内状態の変動を反映する。また後頭領導出の j替持150-300msの陰性及び陽性成分は,視覚性関式形成相を担う神経活動に必要な脳内状態 の変動を反映する。そして課題刺激の反援呈示法を用いた実験群の結果から,後頭領より導出 される頂点潜時270ms近辺の楊性成分が,国式の基本的構成原則を原型に委ねさせる保護機 能を反映すると想定した。室橋 (1995)は,精神遅滞をもっ子どもへの適用を試み,課題解決

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に向けた認知成立により多くの活動と時間を要すること,特に原型形成が課題に適したかたち で行われにくいことを恕定した。 吉塚(1995)は i発達障害とは大脳回路構築とその機能不全で、あり,辺縁系制j締による適応 行動の田復が大目巡回路網に機能を与え,整イ蔵をもたられと考えた。発達期における脳内神経 団路網の構築については,今なお不明なことがらが多く存在するO 初期に構築される皮質下系 と,皮賛下系および生後環境の影響を受けながら徐々に形成されていく大脳皮質系は,相互作 沼をもちつつ独自の機能を自己組織化する。神経由路網の構築における発達障害のありかたを 知ることが,特に発達初期における対応のありかたを考えることにつながるであろう。 生体における神経団路構築の詳細を知ることが園難な現在, Hebb (1949)の理念を継承する Connectionistたちの回路網形成にかかわる理論化とシュミレーションの試みは,検討のひと つのありかたである(日man,Bates, Johnson, Karmiloff-smith, Parisi, and Plunkett, 1996)0

今 後genome解析の進行とともに, Probabilistic epigenesis (Gottlieb, 2002)の概念が,発達 蹄害における遺怯子機能と環境の相互作用過桂のありかたについても,示唆を与えるであろう。 とは,すぐれて社会心理学・社会科学の対象ではあるが,社会的通念でしかない。WHO による国際生活機能分類 (InternationalClassification of Functioning, Disability and Health: ICF)が示すように,人の構造と機能にありかたに対して社会の諜する制限・制約が「障害」な のである。「障答」に対して完結する生物学的モデルは存在しないのであり,脳内諸系のコミュ ニケーションにかかわる特性と杜会環境の相互作用のありかたのちがいが,社会による制限・ 制約を生ぜしめるのである。 本研究グループでは,生活体がいかに脳内諸系の調整を行いながら環境との

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慶応をはかろう としているのか, という視点から心理学的基礎モデルを構築してきた。今後は,ある環境にお ける脳内諾系の調盤のありかたとその困難きが生ずる場合について,具体的に分析・検討を進 める必要があろう。 ADHD,自閉症,精神遅滞をはじめとした,認知発達における調整の臨難さに関 わる研究は,この10年の簡に飛躍的に増加した。機能的核磁気共鳴画像法や高密度事象関連電 位制定法などの新たな脳活動の概定技術により,脳内諾系のコミュニケーションのありかたを 具体的に分析することも可能になってきた。それらの技指の成果として,脳内諸系簡の調整の 閤難さを説明しようとするモデルが数多く提案され,活発な議論が行われている。本研究グルー プにおける,より妥当性の高いモデルの提案と支援技術の開発には,いまだ道は遠い。臨床的 事例検討による適応圏難の本質的理解と,それに迫りうる諜題設定に基づいた調整メカニズム の検討を行いながら,脳内諾系と環境問の調整国難のありかたのモデル構築に向けて努力して いきたい。 [引用文献] Elrnan, J.,.LBate, E.A., Johnson, M. H., Karrniloff-Srnith, A., Parisi, D., and Plunkett, K. (1996)Rethink -ing innateness:A connectionist perspective on developrnent. The MIT Pr. 古 塚 孝 (1995) 発達際主害児療育のための神経心遊学的モデル構築の試み 北海道大学教育学部紀要, 67, 219吋238. 狩野 陽 (1967) 学習の基礎機構一一視知覚における推論 北海道大学教育学部紀婆, 13, 43-73.

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適応、関重量メカニズムの解明をめざして

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狩 野 揚 ・ 北 島 象 可 (1972) 祝知覚の形成と衰退 学習の恭礎理論系と脳波資料の集積 北海道大学教

育学部紀婆, 18,ト47.

北島象潟 (1965) 知覚情報処理系としてはたらく心理学的機梼の分析的研究 北海遊大学教育学部紀婆, 11,

171-189.

Kitajima, S., Morotomi, T. and Kanoh, M. (1975) Enchancement of averaged巴vokedresponses to brief

flashes after offset of preexposed light stimulation: a critical moment.Vision Research, 15, 1213-1216 Gottlieb, G. (2002) Individual d巴velopmentand evolution: The genesis of novel b巴havior.Lawrence

Erlbaum Associates Pub.

Hebb, D. O. (1949) Organization of behavior. John Wiley & Sons.

室橋若手光(1984) 適応機能としてみた字見知覚活動の特性について 祝党誘発言窓伎を示擦とした課題解決事態 における視知覚成立過程の分析一ーその1 北海道大学教育学部紀要, 45, 67-188. 主主橋春光(1985) 適応機能としてみた扱知覚活動の特性について 視覚誘発電位を示擦とした課題解決事態 における後知覚成立逸平呈の分析一ーその2 北海道大学教育学部紀要, 46, 207-268. 室橋春光(1995) 精神遅滞児における被知覚活動の特性一一視覚誘発電伎を示擦とした課題解決事態における 視知覚活動の分析一一北海道大学教育学部紀婆, 67, 91-152.

Morotomi, T. and Kitajima, S.(1975) Enchancement of evoked responses to brief flashes and its correlaψ tion with off responses to pre句exposedlight stimulation. Vision Research, 15, 267-272.

諸富 経(1992) 祝知覚と視覚誘発電位(I) 北海道大学教育学部品己要, 57, 29-116.

諸富 陵 (1995) 祝知覚と視覚誘発泡位 (II) 北海道大学教育学部紀要, 67, 195-217.

奥間三郎(1967) 臨床心理学における、人。の問題 北海道大学教育学部紀委, 13, 3-41. Sokolov, Ye. N. (1963) Perception and th巴condition巴dreflex. Pergamon Pr.

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軽度発達障害をもっ子どもの新しい環境における

適応の問題について

…ー「自期症スペクトラムJに位援する子どもたちを念頭に一一 片 桐 正 敏 1 .はじめに 「どうして軽度発達障警をもっ子どもたちは, うまく環境に適応することが難しいのか?J この聞いと,そしてその間いに対する答えを解決する方略は,障害児教育を,とりわけ軽度 発達障害を持つ子どもたちを支援している支援者(サボーター)にとって永遠に解決されない かもしれない課題であると同時に,常に追い求めなければならない課題でもある。障害児教育 にかかわる研究の目的は,この命題と戦っている現場の臨床家に対して,支接の方略を提案す ることにある。すべての子どもたちに適応可能な一般

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ちした方略を提案できれば良いが,それ は不可能で、ある。素靖らしく魅力的であり,時には放符である,一人ひとり違った人間という 生物に対して,どのようなアプローチが有効かと尋ねられれば,その人,その人にあった方法 を丁寧に考えてゆくことしかない, と答えるしかないであろっ。ただ,その人にあった方法を 支援者が考えやすくするよう援助することはできるかもしれない。そのような枠組みを作るこ とが私たちの課題であろう。 第2節では,環境の

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慶応が難しい軽度発達障害を持つ子どもたち(特に高機能自閉症,アス ペルガー症候群および「非言語性学習障害」など I自閉症スペクトラム」に位置する子どもた ち)を念頭に置きながら,社会的な環境の読みとりについてこれまで、挙がっている理論を検証 し,環境の適応性の困難さについて考察する。 2 .環境適応の由難な諸原閤 軽震発達欝害(特に「自閉症スペクトラムJ) を持つ子どもたちの環境適応の失敗例を挙げて みたい。身近な例として学校現場では以下のような問題が見られる。 -今までとは違う!蓄に盛ることができない ・突然の予定変更に対応、できない(パニックになってしまう) .指示通り動けない ・新しい集留に入れない -珂じ行動しかとれない,または会〈違う行動をとる ・相手の気持ちを読んで、,対応を考えられない→トラブルを起こしてしまう いずれも私が経験した例である。共通するのは,学校という一つの社会的なコミュニティを 形成している場において,上手く状況を理解して,その場に郎した行動を取るのが難しいとい うことである。彼らの抱える開題としては,不安の問題(不安の強引,場の理解,状況の理解, 他者の気持ちの理解が難しい,強い固執性(こだわり),フレキシビリティ,人間関係の開題, 複雑な環境の問題,般化の問題などを一般的に挙げることができるが,その中でも場の理解,

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適応関難メカニズムの解明をめざして 175 状況の理解,他者の気持ちの理解が難しいという印象があるo Frith (1989)は「分担と協力, 謝る,約束をして守る,ものを借りて返す,衝動のコントロール,親しさの程度に応じた接し 方」が統制群と比べて得点が低<, '自閉症見が他人の感情反応を理解する能力は,意味が特別 できる感情表現をする能力とともに,特に劣るJことを挙げ,対人コミュニケーションの障害 が中核症状であると指摘した。軽度発達障害(自閉症スペクトラム)は認知障害であり,発達 障害であると考えるならば,彼ら,彼女らの認知発達,さらには神経科学的な恭盤をはっきり と捉えた上でのエビデンスに基づいた治療教育が求められる。現在,自閉症における代表的な 認知発達における障害の考え方として以下のようなものがあるo -心の理論・共同注意の揮害叙説,マインドブラインドネス仮説(Baron心ohen,1985, 1995, Frith, 2001など) ・実行機能障害仮説 (Ozonoff,1991など) ・

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い中柾性統合仮説 (Frith,1989, Happe, 1994など) ・模倣の発達障害仮説 (Williams,2001など) ・視覚処理系の障害仮説 (Gepneret a,.l 2002,班ilne,2002など) その他,諾用論的な問題や感情認知障害仮説などもあり(石坂, 1998),仮説の多さは,それ だけ自閉症の難しさを物語っている。 また脳神経科学的な問題として,前頭葉機能不全仮説のほか,扇桃体障害仮説,脳幹欝害仮 説,小脳障害仮説,頭頂葉障害仮説などが提案されているが,本小論では主に認知発達的な開 題に触れ,必要に応じてこれらの問題を参照することとするo 基本的には,どこかに一つの責任病巣があり,そこの問題とするのではなし複数にまたがっ ており,それがさらに多様な臨床像として顕現すると考えるのが妥当である。また,子どもた ちは常に成長しており,何らかの療育や教育など環境の要因を受けて育っているため,仮に脳 における特定の責任病巣があったとしても,成人の脳損傷による障害とは明確に異なる。 3 .蕊閉症研究から認知発達を考える Baron-Cohen (1995)は,共陪(共有)注意、は独立した認知モジュールSAM(Shared-Attention Mechanism)によって担われており,他者の知覚状態に関するあらゆる有用な情報を用いて三 項関係を形成するとしている。この有用な情報とは,人間に生得的に備わっているとされる ID (Intentionality Detector)と呼ばれる意関検出器から出力された情報(目的や欲求という原始 的・意思的な心の状態に関する運動刺激)と, EDD (Eye-Direction Detector)と呼ばれる視 線検出器から出力された情報である。彼はIDとEDDに問題はないが, SAMに開題があるた め,結果的に「心の理論」の発達に障害を持っと考えているo ただし,彼はEDDについては, 自閉症を持つ子どもたちがアイコンタクトをしている時に健常児と同じ覚醒パターンを示すか どうかは研究されていないとしており,自問疲の覚醒問題についても示唆している。 Baron -CohenやFrithらは,さらに理論を発展させ,社会性障害とコミュニケーション障害の認知状 の原因を 'MindBlindnessJであると仮定している。この概念は,正常の人たちは 'mindread --精神状態が自己や他者に属することを理解できる(これらを「心の理論」または「心理化」 と言っている)Jが存在するという前提に立ち,この能力カキ鯨佐な理論的推論によって生み出さ

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れるものではなし専用の神経認知メカニズムに依存している,と仮定している(Frith,2001)。 とくに Frithは脳画像研究の知見から,ミラーニューロンのメカニズムについて言及しており, 心理化に関連する早期の進化過程, という考えを述べている。自開症のミラーニューロンとの 関連についてWilliamsら(2001)は,模倣との関連から社会的認知機能が働くようになるため の要素として,前顕葉皮質の「ミラーニューロンJ(Mirror N eurons: M N s)の発達的な障筈 について言及しているo 彼らは,言語能力や心の理論,共同注意,模倣,さらには実行機能の 発達を妨げるものとしてMNsを想定しているo MNs は, Rizzolattiら(1996)の猿の研究で 発見された神経システムである。このニューロンは,ある動作を行うときのほかに,その伺じ 動作を観察するときにも活動が見られ,鏡の佐賀にたとえて「ミラーニューロンJと呼ばれる。 その一群のシステムが腹側運動前野にあり,これらは,対象物の操作や,実行する動作と観察 する動作が一致しているときに応答するとしているo 人間ではブロードマンの44野にあたり, 人間ので前頭自の表情に対する活動を見た佐藤ら (2004)のfMRIの研究から,この44野を中 心とする部位が動的表構の処理に関わっている可能性を示唆した。佐藤は,ヒトにおいても, 44野を中心とする右下前頭回の特定領域にミラーニューロンによって構成される,他者の表情 や動作の観察と,自己の表'1意表出と行為の実行を対応、づける神経機構が存在する可能性を指摘 している(佐藤, 2004)。これらの研究は,自閉症の表情知覚やその他の認知機能の発達の開題 を考える上でも興味深い。 きて, Baron嶋Cohenなども触れた視線検出についてであるが,顔認知に関する研究から様々 な議論がされているo Kanner は1943年,既に自関症が「他者の顔を見ない」という行動を報 している。だがそれと一致しない研究も見られることから,神尾 (2004)は「他者の顔を見 ない」という特徴は,児の年齢や対面相手によっても変わり,顔認知を支える顔を見る行為に ついても,発達的視点からの再解釈が必要で、あるとしている。そこで神尾は,顔や表'請にある 「顕著性 (salience)Jに注目し,自閉症者はこの顔の「顕著性」処理機構を持たないため,顔に より自動的に生起きれる情動的反応、が希薄なために,環境内のあふれる事物の中にあって,顔 が特別な地位を占めていない, と述べているo このことは,特別な知覚処理も,情動を介する 特別な対人認知処理も受けにくいことを示している(神尾, 2004)。陪じようにKlinら(2002) は,高機能自閉症をもっ大人が,自然な社会状況を見るときには統制群が自をみるのと同様の パターンを示した一方,目ではなく口を見たことを明らかにした。このことから彼は,自然な 状祝に組め込まれていた顕著な社会的な手がかり(特に表情)への低い方向付けが,自問疲に おける中核欝警であると主張した。視知覚の開題については,このような顔の問題についての 研究から,低次の知覚処理の問題に普及したものもあり, Gepnerら(2002)は,自関疲の限球 運動を分析し,急速視覚運動統合障害 (Rapidvisual-motion integration deficit)彼説を提唱 している。 Ozonoffら(1991a)は,実行機能 (executivefunction)の障害が白関疲の原因であると考 えている。実行機能とは,自分の行動を環境に合わせて適切にコントロールする能力のことで, プランニング,行動抑制,プランの修正,ワーキングメモリなどが関係するο 彼らは実行機能

課題 (WisconsinCard Sorting Test, Tower of HanoD, 1次の「心の理論」課題と 2次の 「心の理論」課題など数種の課題を自簡症群と統制j群に与えたところ,統制群の平均より低いパ フォーマンスが認められた自関疲群の課題関での割合は,実行機能では96%,2次の「心の理 論」課題では87%であった。また自関症群・統制j閤の宇

u

別分析によっても,これらの識別カは

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巡J.t殴難メカニズムの解明をめざして

1

7

7

有意に高かった。このことから 2次の「心の理論」課題の障答が,実行機能障害よりも自閉 症グループにより特異的ではないとしている。ただ,彼の笑行機能の障害説は心理化の障害説 を否定しているものではなく,大脳皮質の前頭前野の損傷を両者の障害の要因としている (Ozonoff, 1991b)。 弱い中枢性統合については, Frith (1989)が,自閉症の「全体的統合力」の問題について触 れている。人関の正常な認知システムは,できるだけ広範な刺激を統合し,できるだけ広範な 文脈を一括して捉えようとする翻有の傾向があり,統合に向かう強力な中枢神経活動による動 盟が存在するとして,このことを「中枢性統合 (CentralCoherence)Jとしたo Frithは,情報 処理過程の一つの特徴は,さまざまな情報を統合して脈略の中でより高次な意味を構築するこ とにあるが,自関症は鱗片的な処理過程が得意で,全体的な意味の理解は不帯意であることか ら,彼らは中枢性統合が弱い (WeakCentral Coherence; WCC)とした。それらが思考と対 人行動における分離性を引き起こすことを指摘し r中枢機能の統制を欠き,その結果,彼らの 世界は断片的な経験からなる脈絡のないものになるJ,と述べている。いわば,認知的な全体へ のバイアスが弱いという特徴が自閉症に見られるというものである。これらは自閉症だけでは なく,学習障害にも見られるとい7立場もある (Noens, 2004など)0 また,統合運動の鶴値研 究から,視覚における magnocellular経路の損傷を示唆し,magnocellular経路は全体の様相を 捉えるのに適した処理経路であることから, ~~い中叡性統合との問題を指摘している (Milne ら , 2002)。しかし,一方でBaron-Cohen(2002)は,特定の高い分野の能力を示す自関症の事 例から,弱い中枢性統合だけでは説明できない問題があることを指摘し,自閉症の認知におけ るシステム化(systemising)の概念を取り入れ r自閉症における極端な男性脳理論jを打ち立 てている。 4.乱立する理論と自閉症の本態 模倣や実行機能の問題,さらには弱い中枢性統合と自関症のシステム

f

むについても,基本的 には対立するものではなく,相互に関連することも多い。「理論の統合化」をすることにより, 相互の理論を補強してより臨床像に近いものにしてゆくべきであろう。 Noensら(2004)は, 「心の理論J,r実行機能J,r中松!生統合」の3理論について言及し r心の理論」は,狭義の意 味で自関症を社会的コミュニケーションの開題として捉えており r実行機能」と「中枢性統合J については,それよりもより広義の意味でこれらの問題を捉えることができるとした上で r中 枢性統合」は,自閉症と学習障害の合併における行動的な特徴を説明する最良の可能性を提供 するものであるとしている。後らの立場としては,自関症の認知スタイルである「弱い中枢性 統合」からこれまで述べられてきたような理論を包括して説明しようとしているo 石 坂 (1998) は,様々なモジュールが統合されたり照合される,もっと中枢にあると仮定されている情報処 理システムの障答か,そのような情報を実地に応用する際の樟害である可能性が強いとして, 脳内における「中枢システムJ(石坂は「中枢システムは,入力機構すなわち知覚レベルの情報 処理システムと出力機構すなわち運動レベルの情報処理システムの間にあり,情報の照合や統 合をする機構」としている)の問題について しているo さらに, Dawsonら(2002)は,自 閉症を持つ人たちやその家族の遺伝子研究から広域表現型 (broaderphenotype)という概念を 用いて 6つの自閉症の広域表現型の形質を提唱している。それは, 1)自を見るような顔の特徴や動きなどの顔の処理

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2

)社会的動機付けの問題に関わる社会的な交友関係や社会的報酬における敏感さ 3 )運動模倣の能力 4 )内側側頭葉一前頭葉サーキットを介する記憶の諸様相 5 )実行機能(プランニング,柔軟性) 6 )言語能力(言語の障害,音韻論と震なり合うような言語の諸様相) であるが,これらは自閉症に関する研究ばかりではなく,今まで述べてきたような複数の理論 についての関係性にも示唆を与えるものとなるであろう。 これまでの議論を考えると,環境適応の国難な諸原因は社会的・対人コミュニケーション, 特に他者の気持ちの理解にあり,それは注意や行動を何らかの問題によってうまくコントロー ルすることができないためであると考えられる。神経心理学的な原因としては,上述したミラー ニューロンの他,限議に面した前頭葉皮質 (orbito崎frontalcortex),上側頭間,そして扇桃体 の異常を示唆したもの (Baron田Cohen,1999)や脳幹の器質的な損傷を示唆したもの (Rodier, 2000),自閉症者の小脳において,プルキンエ細胞の減少,グルタミン酸系の異常,セロトニン, ド、ーパミン,ノルエピネフ1)ン,オピエ一九そしていくつかの他のニューロトランスミッター における異常を報告したもの (PurcellAE, et a,.l 2001)などがあり,今後の研究によってさ らなる証拠を積み重ねてゆく必要がある。またBaron-Cohenの共同注意の撞害モデルは,乳児 の発達に見られる社会的参照にも影響があると考えられる。自関性障害児に関して,知的レベ ルの高低に関わらず,社会的参照にある特異的な問題があらわれている (Bacon,et a,.l 1998) という研究もあり,これら共向性意と社会的参照も含めてトータルな発達の問題を考えてゆく 必要がある。 5.他者の気持ちを理解する認知一神経発達メカニズムのモデル ここでTomassello(1999)の意園理解と模倣の関係について考えてみることとする。彼は模 倣をmimic見た行動をそのまま再現する), emulation(行動の結果を自力で,試行錯誤して 再現する), imitation(行動の意図を考えて再現する)という 3つに分類している。今までの議 論から基本的に自開症を持つ人たちは, mimicとemulationが正常で、imitationが難しいと えられる。私はこの模倣による他者理解について,これまで述べてきた知見も含め,自閉症の 神経発達を次のように考えてみた。 (Fig.1参照) 生まれたての乳児が新生児模倣(新生児が大人の顔動作を模倣する)をすることが知られて いる。その後 r無様式知覚」が発達してくるようになると,一つの知覚様式に受信された情報 を別の知覚様式へ変化する能力を利用して自己と他者に関する多様な知識を統合してゆくよう Fig.l 自額控の模倣 ① Mimic

j

正常

自関症の共同注意欝害説! ② Emulation ) /' 意 悶 理 解 の 獲 得 に は ‘ / ③ Imitation→hint attentionの成立が重要

(14)

巡rc;.、l'iSI警生メカニズムの解明をめざして 179 になる。これらの行為は,①と②の能力を用いていると忠われ,乳児が持つ情動的応答性が行 為の誘因として考えられる。自閉症は扇挑体の障害が指摘されていることから,情動的評価と 関連のある扇桃体部位の弱きが,自開疲の情動的応答性を弱め,模倣の動機を弱めてしまう可 能性もあるかもしれない。しだいに乳児は顔における選択的注意機能を利用して,養育者の情 動を感じ取り,相互のinteractionによって「生気情動」を共有し掠々な事象が結びつけられる (Stean, 1985)0 Tomasselloは9カ月頃からの共同注意の発達によって,他者の意囲理解が可 有量になってゆくとしている。 自閉症を持つ子どもたちは,基本的に③の行動を読みとるカの問題を抱えているため,他者 を意図的存在として理解できず,その結果様々なコミュニケーションを取ることが難しし幼 児の早期に本来必要とされる社会的参痛やその他,他者との相互関係によって成長が促される 社会的能力に発達的な遅れが生じる。意関理解の獲得には共伺注意の成立が重要になってくる と考えられ,療育に必要なこととして早期からの自問症に合ったinteractionによって母子関 係が健常と異なる育て方一一Sternのいう特別な情動調律が求められるのではないかと考えて いる。これらの過穂には心理化 (Mentalizing),メタ表象の発達に捺して重要な意味があると 考えることができる。心理化とは,心の理論における論理的な側面であり,思う,知る,信じ る等の主観的用語により表される。人は心理北の理論を用いて,人だけではなく人以外にも心 の状態があると考えて,行動する(Frith,1989)。この能力は,人がどのように行動するか,あ るいは,怖を望んだり考えているのかを予測するためだけでなく,人が何を意味しているのか を理解するためにも使われる (Happe,1994)能力である。 きて,ここでミラーニューロンの障害説を考えるとすれば,①は単純なコピーにすぎず,② では,他者が行う行動を再現すればよい。しかし人間のMNsは洗練されたニューラルシステム の一部として存在している (Williams,2001)ため,③での蹟きがニューラルシステムの発達 を遅らせ,さらに別の脳機能を使うことによって発達できたとしても,情動の共有や共向性意 など基礎的な社会的認知機能の発達が相対的に遅れ,その後の模倣および心理化や実行機能の 発達にも影響が及んでくる。きて,例えば正常な療育環境が整っていない人,または顔の選択 的注意機能を用いることができない視覚障害をもっこどもたちはどうなるのであろうか。前者 の場合は,仮に正常な療育環境が与えられず,養育者との何らかのinteractionが無かったとす ると,何らかの発達の遅れは想定できるであろう。だが,基礎的な社会的認知機能の発達神経 基盤が存在するので,その後適切な養育で自関疲をもっ子どもたちよりも発達を挽回できる可 能性は十分ある。祖覚障害の場合であるが,例えば,視覚障害をもっ子どもたちの多くはこ、っ こ遊ぴの理解が正常に発達していくとされている。だが, ミラーニューロンの損傷が無いとす れば,顔ではなく声などで養育者の情動を感じ取り,正常な発達よりも渡れるとしても心的表 象を発達させてゆくことができるかもしれない。 6 .軽度発達障害撃を持つ子どもの類比的推論と思考方路復説 きて, Baron-Cohenなどの立場では,自閉症をこの心理化の欝害としているが,さらに私は その後の推論の問題も指摘し,弱い中枢'性統合や自閉症のシステム化の問題を統合した形で理 論を組み立ててみたい。確かに自閉症はこの心理化が難しいため,実際に現実に置かれている 状況と完全に分離して考え,他者の心理的モデルに変換するという,人間の内的な認知機構を 発達させることができず,結来的には成人以降もコミュニケーションの障害を鵠えてしまうが,

(15)

心の理論の誤信念課題を通過してしまう高機能自閉症や9歳以降で多くの自閉症の人たちが通 過してしまうことを考えると,ただ内的な認知機構の発達が遅れたからコミュニケーションの を抱えてしまうという説明は難しいと考える。私は特に高機能の自閉症には,我々が持っ ている類比的推論

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の能力が正常に働いていないのではないかと考えて いる。類比的推論とは,ターゲ、ット刺激に対して,長期記憶からベースの選択一一想起を行い, ベースとターゲットにどのよっな類似関係があるのかを認識し,対応付ける一連の推論過程を 指す。具体的に類比的推論の問題解決過程をまとめると

4

つの段階がある

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1

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⑤ソースとターゲットのそれぞれの心的表象を作る(表象)

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む隠擦に対する適切な類似物の候構としてソースを選ぶ(ソース選択) ③ソースの婆棄を自襟に写像(対応付け) ④目標に適用できるルールを生成するように写像を拡張(写像の拡張) きて類上七的推論の観点から,健常者と自関症をもっ人たちの推論の違いを次に記した。 健常者と自閉症の推舗の違い 健常者→アナロジカルな推論 自分の経験などと照らし合わせて,その 中から最適な行動を選択して,場の状況 に合うような形で選択した行動を上手に 適応する。

1

完全に経験と現状に求められる行動が一 致しなくても良い。 自閉寵者→ルールベースによる推論 自分の経験は基本的にルールベースで記 憶に保存されており,場にあったルール を適用する形でコミュニケーションを 取っている。

4

完全に一致した過去の経験(記憶)と現 状に求められる行動が一致している必要 がある。 健常者は,状況に応じてフレキシブルに対応することができるが,自関疲を持つ人たちに難 しいのは,どのような理由によるものなのだろうか。①の表象の作成は,ターゲットを設定す る必要があり,前述した共同住意の開題のほか,顔の認知における問題(神島,

2

0

0

4

)

,社会的 参照の特異的問題

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1

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などにより圏難が生じると恩われるo ②のソースの選択 の問題については,実行機能(プランニング,ワーキングメモリ)の問題などが関わってくる であろう。③については,環境と心的表象として存在するソースを目標に対応付けすることが できないとすれば, ~~い中枢性統合の文脈で説明できる。さらに④の写像の拡張については, 過去のルールから若干逸脱しでも適用することが求められる柔軟性が必要なため,厳格にシス テムイ七(原則的にルールに支配されているもの)を追求した場合,混乱が生じる。このアナロ ジーのステップは,厳密にこの頗番で実行する必要はなく,様々な形で相互に作用しあう。ま た,自閉症を持つ人たちがいずれにも問題があるわけではなしまたある領域について開題が

(16)

適応困難メカニズムの解明をめざして 181 あってもそれができないのではなし弱い傾向(この弱さも個人差があり,自閉症の痕状を左 右しているかもしれない)にあるという程度であり,また体調の問題や集中力の問題などにつ いてもパフォーマンスが変化しつる。これらのどこかに特異的な問題があると,アナロジカノレ な賭題解決に践いてしまう可能性がある。基本的にはシステムイちする傾向のある自問症をもっ 子どもたちは,他者の心を読み(mind-reading),以前と似たような場面を推論することは難し いと考えることができるであろうo 例えば乳幼児期において,これらの推論能力と発達の開題について,入閣の表情を中心に考 えてみるとどうなるだろうか。鍵常児はある租度の稜味な状況(刺激)に対しでも選択的に住 を傾けて,状況を読みとり推論を行う。社会的参照を例にとると,表情に伴う情動という暖 昧な刺激に対して,自閉症をもっ子どもたちは知覚することができても,意味づけが難しいと 思われる。著名な動物学者で本人が自閉症である TempleGrandinはつい最近まで自がメッ セージを伝えることを知らなかったと由述している(杉山, 2000)0 2ヶ月の乳見が人の顔の両 日と口を結ぶ三角形の部分に眼球運動が集中することは知られている(子安, 2000)が,残念 ながら自関症を持つ乳児は先天的に伺じように選択的に目を見るかどうかは分からない。仮に 自閉症を持つ乳児が健常乳児と同じ反応、を示すとして, 目を見ても, 日と感情を対応付けする ことができないと,自を見る意味がなくなってしまい,目を見ることをしなくなるのではない だろうか。さらに, 日を見るという行為は,絞られた霊長類以外の動物においては威嚇の行為 としてとられる (Baron-Cohen,1995)。自関症を持つ人たちが自をはじめとして「表情知覚J を行う際に,それを嫌悪刺激として対応付けしてしまうと,目線をそらす行為をしてしまう (r表 情認知」の失敗)のではないだろうか。 I事例だが筆者が行った広汎性発達障害を持つ子ども の視線検出装置を用いた実験では 4枚の絵画配列テストを並び、替える際に,顔を見ずにもの の位置(この場合, ものの位置を手がかりとすると配列順がわかりやすい)を見て正確に配列 を行った。同じテストを大学生に行ったが,大学生は顔を見て配列を行っており,反応時間は 大学生と子どもで同じか,大学生の方がむしろ遅かった。絵画配列テストは,自閤症群では健 常群と比べてパフォーマンスが低いことが知られている一方,とても素早く配列させてしまう 人たちもいる。おそらく,表情を手がかりに何らかのストーリーを組み立てようとする健常群 とは異なった方法で読みとっていることを示唆していると思われるO に お わ り に 本小論では,環境の適応が難しい軽度発達障害を持つ子どもたちを念頭に置きながら,環境 の適応性の臨難さについてレビューした。類比的推論における思考方略仮説を完全に検証する には多くの時間と実験結果を蓄積した証拠が必要となる。Klinらは実際に自の検出に関して口 に視線を多く移すことを述べていることから,今後これらの知見を蓄積して検証する必要があ ると考える。 もし子どもたちが今ある環境に馴染めなくとも何も困らないのだとしたら,それはそれで、良 いのかもしれない。ただ,明らかに近い将来不利益になると支援者が考えた時,やはり見過ご すことはできないであろう。人間には得手不得手があり,たまたま社会的なコミュニケーショ ンが苦手で、あったために,他者との距離ができてしまった。支援者は本人に理解を求め, あなたの持つ素晴らしい能力を生かし,伸ばすために,苦手なことについて一緒に考えて みないか?

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そう言って支援の手をさしのべる必要がある。 Temple Grandin (1986) は 自 著 で こ う 述 べ て い るo 「もしも,いつの日か,自開疲や読字困難が予防できるようになったら,潜在的に非凡な才能 を 秘 め た 人 々 を , 平 凡 な 人 間 に 変 え て し ま う と い う 代 償 を , 払 う こ と に な る か も し れ な いJ 発 達 的 な 問 題 に 立 ち 向 か う と い う こ と は , 弱 い 面 だ け で は な し す ば ら し い 面 に 対 し で も 光 を 当 て て , 支 援 し て ゆ く こ と で あ る 。 そ れ に は 支 援 者 , 子 ど も た ち 共 に 強 い 意 志 と 力 が 必 要 に な る で あ ろ う 。 支 援 者 が 子 ど も た ち の 問 題 と な に よ り す ば ら し い 閣 を 理 解 し , 科 学 的 な 見 地 か ら 子 ど も を 支 え て あ げ ら れ る こ と で , 支 援 す る 側 も さ れ る 側 も 互 い が 楽 に な り , す ば ら し い 才 能が成長すれば, と願っている。 [引用文献]

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3

発達障害児の最適遂行水準維持の難しさと環境適応の問題

増 子 梨 絵 1 .発達障害児にとっての「新しい環境Jとは? 私たちを取り巻いている環境はさまざまな刺激があふれでいる。しかし,それらの刺激全て に対して反応しているということはなし必要な刺激についてのみ選択的に注意を向け,適切 に処理することができるO 発達障害の原因は未だにはっきりとはわかっていないが,脳機能の 何らかの発達の遅れ,あるいは不全がその基盤になっていることは明らかである。この中には 外的な刺激に適切に注意を向けることができないという困難も当然含まれる。 新しい環境に入っていく場合,障害のない者であってもそういった場面に臆することが少な くない。しかしこれは性格や経験など,社会的に獲得される人格形成因によっても多少の変化 があるだろう。

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(1

9

6

7

)

は,外向性一内向'性という性格特性の違いは覚醒水準の差によっ て生まれるとした。外向的な人は脳幹網様体内の賦活水準が先天的に低い。つまり

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な覚 醒水準が低しその結巣,認知活動に必要とされる大脳皮鷲の賦活水準が低いとされる。これ を最適な水準にまで引き上げるためには,外的な刺激の入力を増やすことを必要とする。覚醒 水準という軸の上では内向的な人は外向的な人と対様にあると考えられており,先天的に高い 覚醒水準を抵レベルに留めようとする働きの結果として,刺激を避けるような,変化の少ない 反複的な行動をとる傾向があるとしている。このように,行動における最適な覚醒水準と, 襟にある覚醒水準の差異を埋めるためには,脳幹網様体の賦活水準と外的な刺激の入力のバラ ンスが必要で、あり,それは個人の持っているレベルによって変動しうる。 その場面に適応、するためには,大量の新しい情報を効率的に選り分け,処理した上で最も適 切な行動をとらなくてはならない。「新しい環境=未知の'情報が大量に流入し,それを適切に処 理することが求められる状況」として本稿を進める。 2.ニの構で捉える発達障害児の問題意識 発達障害の中でも, 自閉症・アスペルガー症候群などの広汎性発達障害

(PDD)

や 注 意 欠 陥 / 多動性障害

(AD/HD)

の鍛加の難しさが問題となっている。

G

o

l

d

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t

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i

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&

Schwebach (

2

0

0

4

)

は,純粋

PDD

診断群と純粋

AD/HD

診断群,さらに

PDD

と診断されているが

AD/HD

を併せ持っている疑いのある群

(PDD+AD/HD

群)の親や教師 を対象に,不注意・対人関係など,学校や家でその子どもが鴎難であることをアセスメントし た結果,純粋

AD/HD

診断群と

PDD+AD/HD

群では間程度に不注意や衝動性,多動性に関す る困難が見られることがわかった。現段階の診断基準では

PDD

AD/HD

群のような症状を主 する場合は

PDD

が診断名として与えられることになっているが,投薬や療育といった面でそ の子どもの持つ

AD/HD

的な側面をいかにカバーするかなど,難しい点も多いだろう。

PDD

AD/HD

を発達障害スペクトラムとして

1

次元で考えるアプローチも多くなってき ているO これらのアプローチを支持する仮説のひとつとして,発達障害児の覚醒調節の問題を

(20)

適応閣総メカニズムの解明をめざして 18ら あげることができるO このアプローチでは, PDDでの過覚醒, AD/HDでの低覚醒が想定され ている。たとえばClarkeら(2002)は,安静関臨時の脳電図(以下, EEG)の周波数のプロフィー ルから,混合型のAD/HDに3つのタイプ一一低覚醒タイプ・発達遅延タイプ・過覚醒タイプ ーーを見出している。さらに Clarkeらは,特にDSM楠Nにおける AD/HDの不注意優勢裂から は過覚醒タイプが発見されず,低覚醒タイプ・発達遅延タイプの2つに細分化することができ ると述べている。このように,覚醒のタイプの違いが開題となる行動と深〈関わっている可能 性は高い。 3 .覚躍の問題を考える まず,覚醒とは何であるかを定義しておく必要がある。 一般に睡眠と対義語であるのが覚醒である。意識活動の水準が周期的に低下し,自発的な運 動や外界からの刺激に対する反応性が著しく低下する状態が睡眠であるのに対し,覚醒とは, 生活体が適切に行動を行うために必要な活動レベルを一定水準以上に維持する働きやその状態 を指し,かろうじて目覚めている状態から,磁度に興奮している段階までを広く示す。覚醒水 準が高いほど刺激の弁別や反応の敏捷さに{憂れ,行動に有利な条件が用意されることになり, これが最適遂行水準(ヴ、イジランス水準)であるo しかしこのようなことが言えるのはある程 度の高きの覚醒水準までであり,覚醒水準が櫨度に高い場合は興奮状態に相当し,行動に支障 をきたすようになるo 最適な遂行水準においては,特定の手がかり機能を

f

足進するとともに, それ以外の過程を効果的に抑制する作用を持つ。覚醸水準は一般的にEEGにより客観的に観 察可能である。 上記にも述べたように, という言葉は睡眠一党躍という文脈と,覚醒時の遂行水準とい う文脈で大きく考えることができる。両者はもちろん切り離すことができないものである。発 達障害児の持つ問題にはいろいろな原由説が想定されているが,上記のように覚醒の問題も指 摘されている。覚醒は情動や注意を支えるものであり,ヒトが生活していく上で根底的なもの である。前述のEysenckのように,覚醒のタイプはそのヒトの行動パターンや性格を作り出す 大きな要因と考えられる。刺激入力を増やすために変化的刺激を求める外向者の行動パターン は, えばAD/HDの行動ノfターンと似ており,変イむの少ない反復的な行動を好む 内向者の行動パターンは PDDに見られるものと似ている。このような理出からも発達障害の 理解に覚醒という切り口からアプローチすることは有効であると考える。ここでは,覚醒の

2

つの文脈のそれぞれにおいて発達障害児で問題があるとされる点を挙げる。

4

.

発達障害児における腫眠一覚揺の問題 睡眠一覚醒のリズムは発達の中で確立されていく。睡眠一覚醒のような毎日の生活に見られ る習慣は,どの養育者であっても日ごろから観察することが可能で、ある。このため,異常があ れば一般的に行動的な問題が顕著に現れる学齢期段階よりも前に察知することができる。実際 に発達障害見に見られる睡眠一党躍の問題はいくつも報告されている。

J

an & O'Donnell (1996)は,知的障害を持つ子どもの約80%に睡賦一党離の問題があると報告しているOさらに, PDDでIQの低いグループ(FIQ

5

5

以下)において中途覚醒が多いという報告もある (Patzold et a,.l 1998)0 低IQと睡眠一覚醒リズムの異常の関係は,純粋な精神遅滞のみならず,他の発 達揮警に併存する場合であっても同様なことがいえる。 Heringら(1999)は, PDD群を対象に

(21)

睡眠に関する調査を行った結果,睡眠時間が健常児と比べて有意に短かった。さらに, PDD群 の中でも併存症として睡眠障害を持つ場合は入眠から短時閣のうちに50%,終夜を通して62% に中途覚醒があるo併存疲として睡眠障害を持たない場合でも,入眠から短時間で20%,終夜 を通して30%の中途覚醒があり,これは健常児群と比べて有意に高い率である。すなわち,PDD では健常児群と比べて覚醒水滋が高〈維持される備向のあることが示唆される。また, ADHD 群に睡眠潜時反復テスト (MultipleSleep Latency Test: MSLT)を行った結果,夜間の睡眠 に特に問題のない場合においても健常児群よりも有意に日中の賦気が強いという結果が得られ た (Bouvardet a,.l 2000)。このように,覚醒水準の違いが発達障害における日中の行動的な 問題のひとつの要因となっている可能性がある。ただし,睡眠一党醒の問題が発達障害に及ぼ す影響の詳細は明らかではない。 5 .発達撞害児における最適遂行水準維持の問題 Grunewald陶Zuberbierら (1975)は,安諮問眼・関限時において,多動障害児のα波・ β波 の振輔が増大した。パワー値については, α波においては上昇したのに対し, β波では減少して いたことを示した。これらのことから,多動緯害児が低覚醒であることが示唆されるo また, 多動障害児においては単一試行内におけるピーク振幅のベースラインへの復帰スピードが対照 児よりも遅く,反応試行における RTも延長していた。

Chabotら (1996)は, EEGのプロフィールによってADHDを前頭領域においてEEGの徐 波化が見られる低覚盤群と,同じく前頭領域においてEEGに活性化の見られる過覚醒群の2 群に分類した。 Heinrich (2001)は,事象関連電位(以下, ERP)の時間的変動についてwavelet解析を用 いて分析した。 AD/HD群,健常児群の開方とも,遂行成績と ERP波形において時間的な変動 が認められた。しかし,実験開始直後の試行で遂行成績やERP波形のばらつきがそれほど大き く見られなかったのに対し,中盤では特にAD/HD群において試行間のばらつきが大きくなっ た。このことから Heinrichは, AD/HD児の問題点のうち,特に不注意が健常児とのERPの 変動の仕方の違いを生んでいるのではないかと結論づけている。言い換えると,ある対象や事 態に対して的確に住意を向け続けることには限界があり,限界を超えた場合に問題行動が出て しまうと考えられる。特に,新しい環境に関して考えると,通常の環境よりも多くの異なった 刺激に対する処理が必要とされるが,その処理が進行している最中に、注意持続の限界を迎えて しまうことになるo この繰り返しによって,新しい環境では発達障害児が特に適応に臨難を示 す結果となるだろう。

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.理解・援助として考えられるニと 発達障害児に見られる,いわゆる問題行動がどのような背景に起因しているのかを周囲の入 閣が知り,理解することは,重要なことであると考えられる。例えばAD/HD児は落ち着きが なく,注意が持続できないといった表時的な問題ばかりが取り上げられるO 覚醒という視点か ら見ると,彼らにとって適切な注意水準を維持するためには,閤間の環境に対して刺激を積極 的に求めることが必要で、あるo その結果,刺激を求めて

f

i

翠って」いるような状態が彼らの典 型的な行動として捉えられてしまうのだと考えられる。 さらに,私たちが子どもたちと接していく上で,発達樟害と診断されていない場合であって

参照

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