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Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology 151 外核 マントル対流と 環境変動 1 特集 18 Aquarium Gallery 貝殻 育 20 私がIODPで解きたい謎 EPMとして ちきゅう の掘削航海を支える 地球内部の活動が

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ISSN 1346-0811 2017年10月発行 隔月年6回発行 第29巻 第5号 (通巻151号)

151

Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

外核・マントル対流と

環境変動

EPM

として

「ちきゅう」の掘削航海を支える

公園の暑さ対策の効果を

地球シミュレータで確認

(2)

1

Blue Earth 1512017Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

151

地球シミュレータによる外核対流のシミュレーション 地球内部の活動が、私たちが住む表層に影響を与え、ときには 大きな環境変動や生物の大量絶滅を引き起こしてきたと考え られている。海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球深部 ダイナミクス研究分野では、地球内部の外核やマントル の活動を理解して、環境変動との関連を明らかにする ことを目指している。地球内部の活動により過去の 地球でどのような環境変動が起きたのか。そして 地球の未来には何が起き得るのか。

外核・マントル対流と

環境変動

取 材 協 力

伊与原 新

作家

黒田潤一郎

東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 海洋底科学部門 准教授 JAMSTEC 生物地球化学研究分野 招聘主任研究員

JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野

末次大輔

分野長

柳澤孝寿

主任研究員

臼井洋一

研究員

吉田晶樹

主任研究員

多田訓子

技術研究員

1

特集

外核・マントル対流と環境変動

18

Aquarium Gallery アクアワールド茨城県大洗水族館

貝殻をつくり、いのちを育む

──タコブネ

20

私がIODPで解きたい謎

EPMとして「ちきゅう」の

掘削航海を支える

Sean Toczko 地球深部探査センター 科学支援部 計画推進グループ グループリーダー代理

24

社会とつながるJAMSTEC

公園の暑さ対策の効果を

地球シミュレータで確かめた

杉山 徹 地球情報基盤センター 統合地球情報研究開発部 情報展開技術研究開発グループ 技術研究員 佐土原 聡 横浜国立大学 都市科学部 学部長/ 大学院 都市イノベーション研究院 研究院長

28

Marine Science Seminar

地球環境にまつわる地図のはなし

3次元地図とは? 植物の発する光の世界地図とは? 小林秀樹 北極環境変動総合研究センター 北極化学物質循環研究ユニット ユニットリーダー代理

32

BE Room Information    『Blue Earth』定期購読のご案内 裏表紙 Pick Up JAMSTEC 世界最深記録を更新! マリアナ海溝の水深8,178mにおいて 魚類を撮影

(3)

■磁場が弱くなると、  文明社会は大打撃を受ける ──本日は、『磁極反転の日』の著作がある 作家の伊与原新さんをお迎えして、マント ルの観測研究を行っている末次大輔さん、 外核の研究を行っている柳澤孝寿さんと、 外核・マントル対流の変動により地球表層 の環境に何が起きるのか、というテーマで お話を伺います。その後、この特集記事で 地球深部ダイナミクス研究分野の最新研究 を紹介していきます。  まず、柳澤さんから地球内部の構造につ いて簡単に解説をお願いします。 柳澤:地球の半径は約

6,400km

です。地 表を覆う大陸地殻は

30

50km

、海洋地 殻は

6km

ほどの厚さがあります。地殻の 下、深度

2,900km

までがマントルという 岩石層です。地球の中心部には鉄を主成 分とする金属の核(コア)があり、液体の 外核(厚さ約

2,300km

)と固体の内核(厚 さ約

1,200km

)に分かれています。  地球は深部になるほど熱く、中心部は 約

6,000

℃と推定されています。ちなみに、 太陽の表面温度も約

6,000

℃です。地球 内部の活動の根本は、地球深部の熱を外 核とマントルの対流によって宇宙空間へ 逃がすことです。  地球表層はプレートと呼ばれる十数枚 ていることがあります。その磁性鉱物を 調べて過去の地磁気を復元する研究が古 地磁気学です。地磁気の重要性を知って もらいたいと思い、磁極反転が起きた現 代社会を描くことにしました。地磁気の 強さは常に変動していますが、磁極反転 の前後で最も弱くなり、ほぼゼロになりま す。 末次:地磁気の役割を示すには、それが なくなったときに何が起きるのかを描くこ とが最良の方法ですね。 ──地球深部の外核の対流で生まれる地磁 気が弱くなると、私たちの社会に何が起き るのですか。 伊与原:『磁極反転の日』の表紙には、荒 ぶるような太陽を描いてもらいました。太 陽からは陽子や電子がガスとなって噴き 出し、太陽風として地球にもやって来ま す。また、宇宙空間では陽子やヘリウム の原子核など宇宙線と呼ばれる高エネル ギー粒子が飛び交っています。地磁気や 大気はそれら宇宙線や太陽風から地球表 層を守るバリアとして働いています。地 球の磁気圏の外に出てバリアがない状態 では、宇宙線や太陽風により私たちはす ぐに死んでしまいます。地磁気のバリア によって生命は守られているのです。とこ ろが磁極反転の前後に地磁気がほぼゼロ の岩板で覆われています。地殻とマント ル最上部の厚さ約

100km

がプレートで す。プレートは海か い嶺れ いと呼ばれる海底山脈 で生まれ、移動しながら冷やされて重く なり、やがて海溝で地球内部へ沈み込む、 といったプレートテクトニクスが地球では 起きています。沈み込んだプレートがマ ントルの底まで落ちる下降流や、マント ルの底から湧き上がる巨大な上昇流 「スーパープルーム」があることも分かっ てきました。マントル全体はゆっくりと対 流して冷やされているのです。  マントルに冷やされて外核も対流して います。外核の液体金属が対流すること で地磁気が発生しています。地磁気は大 まかにいえば自転軸に沿って棒磁石があ るような磁力線を描き、現在は北極が

S

極、南極が

N

極になっています。方位磁 石の

N

極が北を向くのはそのためです。 ただし、地磁気の

N

極・

S

極の向きは、 反転を繰り返してきたことが知られてい ます。それが、伊与原さんが小説で描い た磁極反転です。 ──伊与原さんは、なぜ磁極反転を小説の 題材に選んだのですか。 伊与原:私は古地磁気学の研究者から作 家に転じました。岩石や堆積物には、磁 石になる磁鉄鉱などの磁性鉱物が含まれ になると、そのバリアがなくなり太陽風や 宇宙線が大気を直撃するようになります。  前回の磁極反転は約

78

万年前です。も しいま、磁極反転が短期間のうちに起き て磁場がほぼゼロになると社会や人類、 生命にどのような影響が表れるのか、な るべく網羅したいと思い、さまざまな分 野の研究を調べました。しかし、どれく らいの規模や程度で影響が表れるのかと いった定量的な検討がなされていない研 究がほとんどで、そこが小説を書く上で 難しい点でした。 ──約20万年前に誕生したといわれる私た ち現生人類ホモ・サピエンス、そして人類 が築いた文明社会は磁極反転を経験してい ないのですね。 伊与原:小説では最初に人工衛星が次々 に落下する様子を描きました。地磁気の バリアがなくなり太陽風や宇宙線が人工 衛星のコンピュータや電子回路、太陽電 池パネルを直撃してダメージを与えるか らです。  現在のように地磁気によるバリアが あっても、太陽表面の爆発現象である太 陽フレアが起きると、人工衛星にダメー ジを与えるケースがあります。

2002

年の 太陽フレアでは、日本の火星探査機「の ぞみ」が被害を受けました。実際に落下 した人工衛星があるのかどうかは分かり ませんが、トラブルに見舞われた例はか なりの数に上ります。  太陽フレアにより強烈な太陽風が地球 に吹き付けることで地磁気が乱される磁 気嵐は、通信障害を引き起こす場合があ ります。 ──20179月に起きた巨大な太陽フレア では、GPSに誤差が出たりしましたね。 伊与原:さらに、磁気嵐によって送電網 に誘導電流が流れて電力施設が故障し、 停電になった例もあります。

1989

年にカ ナダ・ケベック州で起きた大規模停電が 有名です。 末次:地球深部の外核の対流が生み出し ている地磁気が、太陽活動の影響を受け て変動し、通信・電力網といった社会基 盤に影響を及ぼすわけですね。 ■磁気嵐で心筋梗塞が増える? ──地磁気の変動は私たちの健康にも影響 を及ぼすのでしょうか。 伊与原:地磁気の大切さを読者に知って もらうために、地磁気と健康に関する統 計データも集めました。地球の自転に伴 い地磁気は

1

日周期で変動しますが、そ れと血圧や脈拍、白血球の数に相関があ るそうです。また、地磁気が乱れると交 感神経の緊張が多くの人に見られる、出 産数が増える、といったデータもありまし た。そのなかでも、地磁気が乱れると心 筋梗塞が増えるというデータは有名です。 ──地磁気の強さはとても小さいので、健 康に影響を与えるのは意外ですが。 伊与原:それぞれの因果関係がどれだけ 解明されているのか、私は知りません。 ただし、地球上の生命は地磁気の存在下 で進化してきたので、何らかの影響を受 けていると考える研究者は多いようです。 実際にヒトの脳にも小さな磁鉄鉱があり ます。ヒトがそれを使っているとは思わ れていませんが、多くの生物の脳には小 さな磁鉄鉱があって、ハトやサケ、イル カなどはその磁鉄鉱を方位磁石として使 い長距離を移動して目的地へ向かいます。 進化的に古い走磁性細菌は体の大きな領 域を磁鉄鉱が占めていて、北半球にいる ものは地磁気の

S

極(北)へ、南半球にい るものは

N

極(南)へ向かって泳ぐことが 知られています。 ■地磁気と寒冷化・生命絶滅の  関係は? ──地磁気がほぼゼロになる磁極反転の前 後で、生物に大きな影響が出た記録は残っ ているのですか。 伊与原:前回の約

78

万年前の磁極反転 のときに高等生物が絶滅した記録はあり

外核・マントル対流で地球表層に

何が起きるのか?

末次大輔 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 分野長 柳澤孝寿JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 主任研究員 伊与原 新作家/ 1972年、大阪府生まれ。博士(理学)。神戸大学 理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学 専攻博士課程修了。富山大学理学部助教を経て、作家に。 『磁極反転の日』 (伊与原 新 著、新潮文庫) 撮影:藤牧徹也 イラスト:本多冬人 大陸地殻(厚さ約30〜50km) 海洋地殻(厚さ約6km) マントル(厚さ約2,900km) 外核(厚さ約2,300km) 内核(厚さ約1,200km) 地球のサイズ 半径:約6,370km 円周:約40,000km 地球の年齢:約46億歳 地球内部の構造 特 別 座 談 会

(4)

4 Blue Earth 1512017Blue Earth 15120175 ません。ただし、有孔虫などの海に生息 する微生物が激減したというデータがあ ります。  その原因として考えられることの

1

つ が、寒冷化です。『磁極反転の日』では、 数年で磁極反転が起きる設定にしました が、普通は数千年かけて磁極反転が起き、 その期間は地磁気が非常に弱くなります。  

2017

年、立命館大学や神戸大学などの 研究グループは、大阪湾の海底堆積物を

1,700m

掘削した試料を用いた花粉の分 析から古気候を復元し、

78

万年前と

107

万年前に数千年間にわたり寒冷化が起き たという研究成果を発表しました。

107

万 年前にも磁極反転が起きたことが知られ 柳澤:地球の気候に影響を与える要因と して、地球の自転軸の傾きや太陽の周り を地球が公転する軌道の変動により、日 射量が周期的に変化する「ミランコビッ チ・サイクル」が知られています。それに より寒冷化した氷期と、現在のような温 暖な間氷期が繰り返されてきました。  過去

500

万年間を見ると、磁極反転の 周期は平均

20

万∼

30

万年です。一方、ミ ランコビッチ・サイクルはおよそ

10

万年 や

4

万年、

2

万年という複数の周期が混ざ りますが、磁極反転の周期よりも短いの で、磁極反転の前後と重なる確率が高い と考えられます。寒冷化についてはミラ ンコビッチ・サイクルによる影響も検討す べきではないでしょうか。 伊与原:気象学者の多くは、スベンスマ ルク効果が働いたとしても、地球の気候 に与える影響は小さいと考えているよう ですね。 柳澤:

78

万年前に有孔虫が激減した原因 についても、磁極反転だけでなく、当時 の地球環境に関するさまざまなデータを 集めて検討する必要があります。 ■スーパークロンとスーパープルーム、  海洋無酸素事変と史上最大の大量絶滅 ──磁極反転がまったく起きなかった時期 もあるそうですね。 伊与原:約

1

億年前の白亜紀に、数千万 年間にわたり磁極反転が起きなかった時 代があり、「白亜紀スーパークロン」と呼 ばれています。 柳澤:現在は、前回から約

78

万年間、反 転が起きていません。逆に短期間に逆転 した例もあります。逆転の周期には揺ら ぎがあるのです。しかし、スーパークロ ンの数千万年間という時間は長過ぎて、 揺らぎでは説明ができません。 末次:白亜紀のスーパークロンのころ、 マントルの巨大な上昇流であるスーパー プルームも活発で、表層へマントル物質 が大量に供給されて巨大な海台(海底の ています。どちらも磁極反転の前後の数 千年間に寒冷化が起きたという点が面白 いですね。 ──磁極反転と寒冷化に因果関係はあるの ですか。 伊与原:「スベンスマルク効果」という仮 説があります。宇宙線が大気に降り注ぐ 量が増えると、上層大気の分子がイオン 化される量が増え、それらのイオンが雲 をつくる核となり、雲の量が増えて太陽 光を遮り寒冷化が起きる、という説です。 磁極反転の前後で地磁気が弱くなると宇 宙線の量が増えて、スベンスマルク効果 が大きく働き寒冷化が起きたのかもしれ ません。 隆起地形)がいくつも形成されました。マ ントル対流によるスーパープルームと、外 核の対流が生み出す地磁気のスーパーク ロンに関係があるのか、偶然の一致か、 そこが大きな謎です。  世界各地の約

1

億年前の地層には、黒 色頁け つ岩が んと呼ばれる黒い岩石が見られます。 それは、海にすむ植物プランクトンなど の死骸が酸化されずに堆積してできた岩 石です。約

1

億年前に酸素に乏しい海が 地球規模で広がり、海の生物の大量絶滅 が起きたと考えられ、海洋無酸素事変と 呼ばれています。  私はスーパープルームが表層に与える 影響として、地球内部から大気への二酸 化炭素(

CO2

)の放出が重要だと考えてい ます。白亜紀は気温が高かったことが知 られています。それはスーパープルーム の活性化により、温室効果ガスである

CO2

が地球内部から大気に、大量に供給 されたためだと考えられます。しかし、 どれくらいの量の

CO2

が大気へ供給され たのか分かっていません。  地球深部ダイナミクス研究分野の多田 訓子さんは、海底下の電気伝導度を三次 元で解析するプログラムを開発しました。 電気伝導度と地震波速度の解析を組み合 わせることで、プルームにどれくらい

CO2

が含まれているのか推定できるようにな りました。  ただし現在、スーパープルームは活性 化していません。

1

億年前のスーパープ ルームの活性化により、オントンジャワ海 台という巨大海台がつくられました。私 たちは、多田さんの新手法も使ってオン トンジャワ海台を調査し、スーパープルー ムの実態に迫ろうとしています。その最 新研究について、この特集で紹介します。  また、スーパークロンやスーパープルー ムと海洋無酸素事変に因果関係があるの かどうかも分かっていません。この特集 では海洋無酸素事変について研究してい る東京大学の黒田潤一郎さんにもお話を 伺います。 ──1億年前以外にも、スーパークロンが起 きたことはあるのですか。 伊与原:

3

億年前ごろにスーパークロンが 始まり、

2

6500

万年前ごろまで続いた と推定されています。その後、約

2

5200

万年前の古生代と中生代の境界 (

P-T

境界)のころ、スーパープルームが 活性化したと考えられています。

P-T

境 界では史上最大の生物大量絶滅が起きた ことが知られています。 ──P-T境界の大量絶滅の原因は何ですか。 伊与原:いろいろな説があります。東京 大学の磯崎行雄さんは、「プルームの冬」 S 極 S 極 N 極 N 極 ブリュンヌ期 現在 100 万年前 200 万年前 300 万年前 400 万年前 500 万年前 松山期 ガウス期 ギルバート期 地震波トモグラフィーで見たマントルの構造 地震波速度の速い領域(青)は温度が低く、遅い領域(赤) は温度が高いと見なすことができる。東アジアの下には冷た い下降流、アフリカと南太平洋のポリネシア海域などの下には 高温の上昇流「スーパープルーム」があると考えられている。 磁極反転

太陽風や宇宙線に対するバリアの役割を果たす地磁気のイメージ ©SOHO/LASCO/EIT (ESA & NASA)

Fukao et al.(2001) アフリカ スーパー プルーム スーパープルーム 下降流 東アジア ポリネシア 特 別 座 談 会 S 極 N 極 外核の対流と地磁気 外核の液体金属が対流すること で地磁気が発生している。 マントル 外核 外核 内核 内核

(5)

環太平洋沈み込み帯マグマ 現在 5000 万年前 1億年前 1億5000万年前 0.2 20 10 0 0.1 0 6 5 4 3 2 1 0 南太平洋巨大海台マグマ 気温 白亜紀 地球磁場の異常 1a b c d 2 スーパークロン (地磁気逆転のない期間) 黒色頁岩 (海洋無酸素事変) 古第三紀 新第三紀 第四紀 現在との差︵ ℃ ︶ 体積︵      ︶ 100万km 3 相対量 説を主張してきました。スーパープルー ムによる大規模なマグマ活動が現在のシ ベリアを中心に起き、火山噴火などに伴 う大量のちりが地球を覆い、太陽光を遮 り寒冷化が起き、植物は光合成ができな くなり大量絶滅につながったという説で す。さらに最近、磯崎さんは、スーパー クロンが終わったことが大量絶滅の引き 金を引いたという説を主張されています。 磁極反転が再び頻発するようになって地 磁気が弱まり、スベンスマルク効果によ る寒冷化が起きた。その後のプルームの 冬による寒冷化とのダブルパンチで、史 上最大の大量絶滅が起きたという説です。 うとしたのは、ある仮説を検証したかっ たからです。地球誕生初期には非常に 弱々しかった地磁気が、

25

億年前ごろを 境に急激に強くなることで宇宙線や紫外 線から生命を守るバリアができ、深海に いた生物が浅海へ進出して、シアノバク テリアが光合成を行うようになった、とい う仮説です。そのシナリオと矛盾しない 結果は得られましたが、信頼できるデー タがまだまだ足りません。  約

46

億年前に誕生した地球は高温で、 コアはすべて液体金属だったと考えられ ます。やがて

25

億年前ころになると地球 深部が冷えて、中心部の金属が固体とな り内核が形成され、その影響で外核に強 い対流が生まれて強い地磁気が発生し た、という仮説がありました。  しかし最近、東京工業大学の廣瀬敬さ んたちが、コアの温度・圧力を再現する 実験により、内核ができたのは約

7

億年 前だという説を発表しました。このような 地球内部の進化と地磁気との関係、そし てそれがどのように生物の進化に影響し てきたのかなど、謎と興味は尽きません。 末次:地球深部ダイナミクス研究分野の 臼井洋一さんは、約

30

億年前の地磁気の 強さを精密に測定しようとしています。こ の特集では、臼井さんの古地磁気学の最 新研究についても紹介します。 柳澤:過去の地磁気の強さの変動などを 含めて、過去の地球でどんな現象が起き てきたのか、まずしっかりデータを集める ことが大切ですね。それにより、その現 象がなぜ起きたのかというメカニズムを 探る理論研究を始めることができます。 そして理論によって過去に起きた現象を 再現したり未来に起きる現象を予測した りして、それを実際のデータで検証する ことで、地球内部や環境変動に対する理 解を深めていくことができます。 ■外核・マントル対流の謎 ──なぜ、磁極反転は起きるのですか? ■地磁気と浅海への生物進出 ──いままでにスーパークロンが起きたの は、2回だけですか? 伊与原:

5

億年前ごろにもあったという説 がありますが、はっきりしません。年代が さかのぼるにつれて、地磁気を復元する ことが難しいからです。  私は博士課程のころ、

35

億∼

20

億年 前の地磁気の強さを調べることに挑みま したが、なかなかうまくいきませんでし た。古い年代の磁性鉱物は、いろいろな 時代の地磁気が上書きされているからで す。  私がその年代の地磁気の強さを調べよ 柳澤:それは大きな謎です。そもそも外 核がどのように対流して地磁気が発生し ているのか、よく分かっていません。厚 さ

2,900km

のマントル層で隔てられた外 核の対流を、直接観測することはできま せん。地磁気のデータから、外核で起き ている対流を推測するしかありません。 ──スーパーコンピュータを使ったシミュ レーションでも外核の対流を再現すること は難しいのですか。 柳澤:厚さ約

2,300km

もある外核で液体 金属が対流する様子を正確に再現するこ とは、スケールが大きいため莫ば く大だ いな計算 量が必要となり、当分、無理だと思いま す。  スケールが大きいという問題は、大気 のシミュレーションでも同じです。それに もかかわらず天気予報ができるのは、大 気は直接観測できるため、どんな現象が 起きるのかよく分かっているからです。そ れにより理論研究が進み、簡易な計算式 やパラメーターを使って現象を再現した り未来を予測したりできるようになりまし た。一方、外核の研究は地磁気という間 接的な情報しかなく、対流の情報が欠落 しているのが難しいところです。  私は、外核で起きている対流を理解す るために、小さな容器のなかで液体金属 を対流させる実験を行い、磁極反転の仕 組みを探ろうとしています。この特集で は、その研究成果について紹介します。 ──地球の隣の火星や金星には、強い磁気 はないそうですね。 柳澤:少なくとも現在の火星や金星では、 マントル対流に伴うプレートテクトニクス は起きていません。マントル対流がない と外核が冷やされにくく強い対流が生ま れません。火星や金星に地球のような磁 気がないのはそのためだと考えられます。 末次:地球深部ダイナミクス研究分野の 吉田晶樹さんは、マントル対流のシミュ レーション研究を続けてきました。さらに 最近、これまで難しかったマントルと外 核の相互作用のシミュレーションに挑み ました。今回の特集でその研究成果につ いても紹介してもらいます。 伊与原:現在の火星にほとんど大気がな いのは、磁気圏のバリアがないため、太 陽風によって大気が剝ぎ取られてしまっ たからだといわれています。コアやマント ルの対流の結果として生まれる磁気の有 無が、惑星の表層環境に大きな影響を与 えるのですね。 柳澤:近年、太陽系以外の惑星系で、地 球に似た岩石惑星が次々と発見されてい ます。ぜひ、それらの岩石惑星に磁気が あるかどうか知りたいですね。地球より 数倍以上も大きい岩石惑星「スーパー アース」も見つかっています。私はいま、

JAMSTEC

の研究者たちとシミュレー ションによって岩石惑星のサイズとプ レートテクトニクスやマントル対流の起 きやすさの関係を調べています。サイズ が大きいと重力が大きくなり、マントル 層の圧力が高くなり過ぎてマントル対流 が起きにくくなる可能性があります。す ると外核が冷やされずに対流が起きず、 強い磁場が発生しないかもしれません。 系外惑星を調べることで、私たちの地球 が特殊なのか普遍的なのかを知ることが できます。 ■地球を丸ごと考える研究を ──最後に、伊与原さんからJAMSTEC 対する期待をお聞かせください。 伊与原:

JAMSTEC

には、地球科学や生 物学、計算科学、工学など、さまざまな 分野の研究者が集結しています。地球を 丸ごと考えるような大きなテーマで研究 を進めてほしいですね。そしてぜひ、作 家の想像力が膨らみ、多くの人たちがわ くわくするような大胆な仮説を示して、そ れを検証していただきたいと思います。 約1億年前の白亜紀に起きた地球内部の活動と環境変動 撮影:藤牧徹也 特 別 座 談 会

(6)

8 Blue Earth 1512017Blue Earth 15120179 臼井洋一 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 研究員 取 材 協 力  近年、地磁気の強度は下がり続けており、このま ま弱くなると約2,000年後には地磁気強度がゼロと なるペースだ。磁極反転は地磁気の強度がゼロに近 づいたときに起きる。2,000年後、人類文明は磁極 反転を初めて経験することになるのだろうか。  「現在の地磁気の強度はまだ、磁極反転を心配す るほど低くなっていません」と古地磁気学の研究を 進めている臼井洋一さんはいう。前回、磁極反転が 起きたのは約78万年前だ。過去200万年間の地磁 気強度の変動を見ると、強くなったり弱くなったり を繰り返してきたことが分かる。「現在は過去300 万年間の地磁気強度の平均値から1.5倍ほど高い状 態です。地磁気の強度が現在の半分に下がっても、 再び強くなって磁極反転に至らなかったケースが何 度もあります」と臼井さん。  過去500万年間を見ると、磁極反転の周期は平均 20万〜30万年だが、周期が長かったり短かったり と規則性がないように見える。年代ごとに磁極反転 の周期には特徴があるため、地層の年代を推定する 指標の1つとして使われている。世界各地の陸上の 地層や海底の堆積物に刻まれた過去の地球で起きた できごとを調べる際、ある試料で見つかった現象A と、別の試料に残された現象Bのどちらが先に起き たのか、前後関係を知ることが因果関係を探る上で 決定的に重要だ。磁極反転の周期は、そのような前 古い年代の記録が残った状態のよいコアが少なく、 ほとんど調べられていない状況でした。2010年代 に入り、海外の研究グループが太平洋のコアの分析 により、2000万〜3000万年前までの地磁気強度 の変動を精密に調べました」  そのコアの分析により、2000万〜3000万年前 の地磁気強度の強弱の差(振幅)や周期などの傾向 が、過去300万年間と似ていることが分かった。「し かし地球全体の地磁気強度の変動を復元するには、 太平洋の1ヵ所のコアだけでなく、ほかの海域のコ アを分析する必要があります。私はいま、インド洋 ベンガル湾のコアをJAMSTECに持ち帰り、分析を 行っているところです」  また臼井さんは、西オーストラリアで採取した試 後関係を知る上での重要な指標の1つとなっている。  臼井さんは2014年11月〜2015年1月、国際深 海科学掘削計画(IODP)第353次研究航海「イン ド洋ベンガル湾掘削によるインドモンスーンのメカ ニズムの解明」に参加した。この研究航海の目的は、 ヒマラヤ造山運動とモンスーン成立の関係解明や、 インド夏季モンスーンの過去の変動を復元すること だ。インド夏季モンスーンの変動は、人口が集中す る南アジアの降水量を左右し、ときには洪水や干ば つを引き起こす。過去に起きた温暖化でインド夏季 モンスーンの強さがどのように変化したのかを知る ことで、今後の地球温暖化に伴う南アジアの環境変 動を予測する重要な手掛かりが得られると期待され る。そのために、磁極反転による試料の年代測定が 重要な手段の1つとなる。  「この研究航海で、約1500万年前までの地磁気 強度の変動を復元するための状態のよい掘削試料 (コア)を得ることができました!」と臼井さんは声 を弾ませる。  磁極の向きの測定に比べて、地磁気強度の復元は 格段に難しい。「現在の技術では、変成や風化を受 けた陸上地層の試料から連続的な変動を復元するこ とは難しく、海底堆積物のコアを用います。しかし 海底堆積物でも、地磁気強度の変動が詳しく調べら れているのは過去300万年間までです。それよりも 料により、約30億年前の地磁気強度の復元に挑も うとしている。「そのころすでに地磁気が発生してい たことは分かっていますが、どれくらいの強度かは、 ほとんど分析データがありません。単結晶シリケー トに包まれた磁鉄鉱は、いろいろな年代の地磁気が 上書きされておらず、約30億年前の地磁気強度だ けを記録している可能性があります。その磁鉄鉱の 磁場強度をSQUID(超伝導量子干渉素子)という 装置により精密に測定しています」  過去の地磁気強度の変動の復元は、地磁気と表層 の環境変動の因果関係や、地磁気を生み出す外核の 対流を研究する上で不可欠なデータだ。  そもそも外核の液体金属はどのように対流して地 磁気を発生し、磁極はなぜ反転するのだろうか──

地磁気強度の変動を復元する

SQUID(超伝導量子干渉素子) 磁性鉱物の発する微弱な磁場を精密に測定することができる。 IODP第353次研究航海において アメリカの深海掘削船「ジョイデ ス・レゾリューション」の船上でコ アの分析を行う臼井洋一さん。 過去200万年間の地磁気強度の変動(上)と磁極反転(下) 西オーストラリアの約30億年前の岩石 ブリュンヌ期 現在 100 万年前 200 万年前 松山期 地磁気強度 VADM ︵ 10 22 Am 2 ︶ 強 弱

12 出典:L. B. Ziegler et al.,          (2011) 184, 1069-1089Geophys. J. Int.

10 8 6 4 2 0 現在:約 7.7

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 鉄を主成分とする外核での液体状態の金属は、 粘性が低く水のようにさらさらで、熱や電気を通 しやすい。そのような液体金属は、熱い内核と冷 たいマントルに挟まれた外核の球殻状のスペース で熱対流を起こすとともに、地球自転の強い影響 を受ける。それにより細かいスケールでは小さな乱 流が起きているが、大きなスケールで見ると、何 本かの細長い渦(ロール)が自転軸と平行に並ん でいると考えられる。  地磁気の観測からロールの数は10本に満たない と推定されている。自転と同じ回転方向のロール と、それとは逆回転のロールがペアをつくるため、 ロールの数は偶数となる。自転軸に平行なロール の対流が、棒磁石がつくるような磁場(双極磁場) を発生させていると考えられている。  ではなぜ、棒磁石のN極とS極が反転するように 磁極反転は起きるのか。その謎を探るために、柳 澤孝寿さんは液体金属を使った対流実験を進めて いる。縦横20cm・深さ4cmの容器に、約30℃で 液体となる金属のガリウムを入れ、下から熱して 対流を起こさせるとともに、水平方向の磁場をか ける。すると磁場が地球自転と同じような働きを して、ロールが磁場と平行に並ぶ。「この容器のな かで普段は5本のロールが安定して対流しています が、あるとき突然、ロールが4本になり、短時間で 5本に戻る現象が観測されました。そのとき、もと の5本のロールとは回転方向が反転するケースがあ ります」  そのとき何が起きているのか。それを分析する ために柳澤さんは、この実験系で起きる現象の数 値シミュレーションを行った。するとそれぞれの ロールのかたちが崩れ、ロール同士のつなぎ替え が起きて4本となり、すぐに5本に戻ることが分 かった。  なぜ、ロールのつなぎ替えが起きるのか。「ロー ルの直径と容器サイズが整数で割り切れない関係 になっているからだと考えられます。容器は5本の ロールが入るには少し狭く、4.8本くらいがぴった りです。普段は5本のロールが対流していますが、 スペースが狭く居心地が悪いので、ときどきつな ぎ替えが起きて4本となります。しかし4本では容 器が広過ぎて不安定なので、すぐに5本に戻るので す」と柳澤さんは説明する。  この液体金属の実験系の容器は平面、一方、地 球の外核は球殻であるという違いがある。「最も異 なる点はスケールです。厚さ約2,300kmの外核で は液体金属の対流により強い磁場が発生し、その 磁場が対流に影響を及ぼしています。一方、小さ な実験系の液体金属の対流で発生する磁場は、外 からかけている磁場に比べるとごく弱いものです」  柳澤さんはいま、実験系で起きるロールのつな ぎ替えと外核で起きる磁極反転の間に共通した物 理現象が働いているかどうかを調べる研究を進め ている。  「外核の液体金属の流れと地磁気は1対1で対応 するわけではありませんが、外核対流のロールの かたちが崩れてつなぎ替えが起きるときに磁場が 弱くなり、磁極反転が起きるのかもしれません。 また、磁極反転が数千万年間も起きなかったスー パークロンは、ロールの直径と外核のサイズが関 係している可能性があります」  地球が冷えるに従い固体金属の内核は大きく成 長し、外核のサイズは小さくなってきたと考えられ る。「スーパークロンの時期に偶然、ロールの直径 と外核のサイズが割り切れる関係となって居心地 がよくなり、ロールの対流が安定してつなぎ替え が起きず、磁極反転が発生しなかった可能性があ ります」  スーパークロンが起きる原因として、ロールの安 定性に影響を与えるほかの要因も検討する必要が あると柳澤さんはいう。「現在の地球の自転速度は 約24時間ですが、かつての自転速度は速かったこ とが知られています。自転速度が速いとロールが 安定して、つなぎ替えは起きにくくなります。また、 外核の対流はマントル対流にも大きく影響を受け ています」  次に、マントルと外核の対流の相互作用に関す る最新のシミュレーション研究を紹介しよう──

液体金属の対流実験で

磁極反転の謎に迫る

柳澤孝寿 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 主任研究員 取 材 協 力 液体金属の対流の実験系 液体金属に微粒子を混ぜ、超音波を当てて内部の流れを測定する。 外核の対流の模式図 自転と同じ回転方向のロールと逆回転のロール がペアを組み、棒磁石がつくるような地磁気を 発生させていると考えられている。 実験系の数値シミュレーション 磁場 つなぎ替えが起きて4本のロールに 5本のロール 5本のロールに戻る (それぞれの回転方向はもととは逆に) 自転

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12 Blue Earth 1512017Blue Earth 151201713 核の対流を一緒にシミュレーションすることが難し かったからです」。マントル対流のシミュレーショ ン研究を行ってきた吉田晶樹さんはそう説明する。  物質のかたさや変形のしにくさを表す粘性率は、 マントルと外核で約17〜23桁も異なる。代表的な 対流速度は、マントルでは年間10cmだが、外核 では年間10kmと、5桁(10万倍)の差がある。「そ のため、マントルと外核の対流の計算手法が異な るだけでなく、計算時間が時間スケールの短い外 核の方に縛られてしまいます」  吉田さんは、従来のマントル対流の計算手法を 発展させてマントルと外核の対流を1つのシステム で同時に解いて、それらの相互作用を調べるシミュ レーションを初めて行った。「実際の粘性率の差を 組み込むと膨大な計算時間がかかるので、マント ルの粘性率は現実的な数値にして、外核の粘性率 をマントルと同じと仮定した状態から1桁ずつ下げ ていき3桁低い状態までを計算することにしまし た。その際、計算量を減らすため、赤道面で切っ た二次元断面のシミュレーションを行いました」  そのシミュレーションの結果、マントルと外核の 粘性率の差を大きくすると、マントルと外核の間 で上昇流と下降流の向きがそれぞれ同期する「熱 カップリング」と呼ばれる状態に近づくとともに、 遅いマントル対流に引きずられるようにして、マン トルと外核の境界直下の外核最上部の流れが遅く なる効果が生まれることが分かった。  「マントルと外核の境界直下の熱境界層が厚くな るとともに、外核最上部の流れが遅くなることで、 外核からマントルへ運ばれる熱流量が抑えられる ことが分かりました。それにより、外核の対流が 非常に激しいにもかかわらず地球が適度にゆっく りと冷え、マントル対流のパターンや表層のプレー ト運動が安定していると考えられます。地球深部 の外核とマントルの相互作用が、表層環境に大き な影響を与えている可能性があるのです」  外核とマントルの相互作用は、地磁気にも大き な影響を与えていると考えられる。過去500万年 間の歴史を見ると、平均して20万〜30万年の周 期で磁極反転が起きているが、その周期は規則的 ではなく、たとえば、最後に磁極反転が起きてか ら約78万年もたっている。「このような10万年ス ケールの不規則な磁極反転周期は、外核で起こっ ている乱流や地磁気を発生させるダイナモ作用の 性質だけでは説明できず、外核最上部の流れがマ ントル対流に引きずられて一時的に不安定になる ことが、地磁気の変動や磁極反転を引き起こす要 因の1つになっている可能性があります」  今回のシミュレーションでもう1つ分かったこと があったと吉田さんは話す。「マントルと外核の熱 カップリングの状態は、最近の地球化学や地震学 の解析で見えてきた地球内部全体にわたる温度の 東西半球構造(『Blue Earth』139号、2〜3ページ)を うまく説明するのです」。つまり、マントルの対流 パターンが外核を通して内核の構造までをも支配 しているということだ。  吉田さんは今後、外核の粘性率をさらに下げて 現実により近い設定でシミュレーションを行う計 画だ。「さらに内核も含めた地球内部の丸ごとシ ミュレーションを目指したいと思います。地球が冷 えるに従い、固体金属の内核が大きく成長して外 核のサイズは小さくなってきたはずです。内核の 成長により外核の対流パターンや外核からマント ルに運ばれる熱流量がどのように変わってきたの か調べてみたいですね」  外核の熱で暖められたマントルは、大規模な上 昇流「スーパープルーム」となって表層へ向かう。 スーパープルームの活性化は大きな環境変動を引 き起こしてきたと考えられる。その1つが、約1億 年前の白亜紀に起きた海洋無酸素事変だ── マントルと外核の対流を 1つのシステムでシミュ レートした結果 マントルと外核の粘性率の差 が大きいほど、マントル対流 のパターンが安定化し、外核 の対流を支配することが分 かった。 外核の粘性率がマントルより 1桁低い場合 外核の粘性率がマントルより 3桁低い場合 「熱カップリング」の状態 にあるマントルと外核の 対流の様子 マントルの粘性率が外核に比 べて非常に大きい場合、マン トルと外核の境界直下の熱境 界層が厚くなるとともに外核 最上部の流れが遅くなり、外 核からマントルへ熱が逃げに くくなる。

磁極反転の鍵は

マントルとコアの境界にあり?

吉田晶樹 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 主任研究員 取 材 協 力  地球内部の変動は、地球深部の熱を外核とマン トルの対流によって宇宙空間へ逃がすことで引き 起こされている。「地磁気を生み出す外核の対流 は、外側のマントル対流により支配されていると 考えられています。しかしこれまで、マントルと外 核の対流のシミュレーションは異なる研究者によ り別々のプログラムを使って行われ、相互作用を 調べる研究はほとんど行われていません。岩石か ら成るマントルと、鉄を主成分とする液体金属の 外核は粘性率が大きく異なるため、マントルと外 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0 1000 2000 8.0 [cm/年 ] 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 2100 2200 400.0 [cm/年 ] 外核 外核 外核 外核 外核 外核 マントル マントル マントル 0˚ 30˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0 1000 2000 温度[℃] 20.0 [cm/年 ] 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 0˚ 30 ˚ 60 ˚ 90 ˚ 120 ˚ 150˚ 180˚ 210 ˚ 240 ˚ 270 ˚ 300 ˚ 330˚ 1500 1600 1700 1800 1900 40.0 [cm/年 ] 外核 外核 外核 マントル マントル マントル 外核 外核 外核 温度[℃] 温度[℃] 温度[℃]

Yoshida & Hamano (2016); Yoshida et al. (2017)

上面 下面 上面 下面 薄い 熱境界層 マントル 外核 厚い マントルの粘性率が外核に比べて非常に大きい場合 マントルと外核の粘性率が同じ場合 流れが遅い 流れが速い 外核からマントルに 熱が逃げにくい 外核からマントルに 熱が逃げやすい

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 白亜紀には、マントルの上昇流であるスーパー プルームによって大規模なマグマ活動が引き起こ され、大量のマントル物質が地表に供給されて巨 大な海台(海底の隆起地形)がいくつも形成され たと考えられている。  2000年代後半、黒田潤一郎さんたちは、鉛や オスミウムという元素の同位体を分析することで、 黒色頁岩中にマントル由来の物質が急増している ことを突き止めた。その後、同様の分析調査がさ まざまな研究グループにより世界中で行われてき た。  「1億2000万年前(OAE 1a)と9400万年前 (OAE 2)に、大規模な海洋無酸素事変が起きてい ます。さらにその間にも、比較的小規模な海洋無酸 素事変が3回(OAE 1b、OAE 1c、OAE 1d)あ ります。いずれの時期の黒色頁岩中でもマントル由 来の物質の急増が見られ、その年代は海台が形成 された時期とぴたりと一致することが、これまでの 研究で分かってきました」  最も規模の大きいOAE 1aは南西太平洋のオン トンジャワ海台などの形成時期と一致している。さ らにOAE 2はカリブ海台、OAE 1bやOAE 1dは インド洋のケルゲレン海台などの形成時期と一致 している。  「時期が一致することまでは分かりましたが、偶 然の一致なのか、海台をつくったスーパープルー ムによる大規模なマグマ活動と海洋無酸素事変に 因果関係があるのかは、分かっていません」  大規模なマグマ活動により、地球内部から大気 中へ大量の二酸化炭素(CO2)が一気に放出され れば、急激な温暖化が起きる。「それにより海水準 が上がったり降水量が増えたりして大陸の風化が 促進され、生物の必須元素であるリンが海へ供給 されます。すると生物活動が活発になって酸素が 大量に消費されて海洋無酸素事変が起きた、とい うのが考えられるプロセスの1つです。私たちの共 同研究者によるシミュレーション研究により、どれ くらいCO2が大気へ供給されれば、そのプロセス で海洋無酸素事変が起きるのかが推定されていま す。ほかにも、温暖化により酸素が豊富な海洋表 層の水温が上がって海水が軽くなり、対流による 深海との混合が起きにくくなり酸素が欠乏した海 が広がった、というプロセスもあり得ます。さまざ まなプロセスが考えられていますが、スーパープ ルームと海洋無酸素事変の因果関係をつなぐ最大 の鍵はCO2です。当時の環境変動を復元するには、 大気へ放出されたCO2の総量だけでなく年間の放 出量も重要です」と黒田さんは指摘する。  大気へ放出されるCO2の量は、マグマ活動が起 きた場所が陸上か、あるいは浅海か深海かによっ ても異なる。「水圧が高い深海でマグマ活動が起き た場合は、CO2が海や大気に放出されず岩石中に とどまる割合が高くなります」  黒田さんは現在、比較的小規模なOAE 1b(1億 1400万〜1億900万年前)の地層の分析を進めて いる。「OAE 1bと、大規模なOAE 1aやOAE 2の 特徴の違いを調べています。それによりマグマ活 動の規模や水深によって、海洋無酸素事変の特徴 がどのように変わるのかを知りたいのです」  過去の大気中のCO2濃度を復元することは難し い。「南極やグリーンランドの氷床に残された気泡 を調べることで、CO2濃度など過去の大気組成の 情報が得られます。しかしそれは氷床に記録が残 されている数十万年前まで。それ以前の大気組成 の情報は極端に減ります」  最後に、スーパープルームに含まれるCO2の量 を推定する新手法を用いてオントンジャワ海台の 調査を進めている地球深部ダイナミクス研究分野 の最新研究を紹介しよう──

スーパープルームが

海洋無酸素事変を引き起こした?

黒田潤一郎 東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 海洋底科学部門 准教授 JAMSTEC 生物地球化学研究分野 招聘主任研究員 取 材 協 力  世界各地の陸上の地質調査や海底掘削により、 約1億年前の白亜紀の地層に、黒色頁岩と呼ばれる 黒い岩石の地層が見つかっている。それは、海に すむプランクトンなどの死骸が酸化されないまま 海底に堆積してできたものだ。当時、酸素が欠乏 した海が地球規模で広がり、海洋生物が大量絶滅 したと考えられている。1970年代、それは海洋無 酸素事変(OAE)と呼ばれるようになった。 現在 5000 万年前 1億年前 1億5000万年前 白亜紀 1a b c d 2 黒色頁岩 (海洋無酸素事変) 古第三紀 新第三紀 第四紀 OAE 1a(1億2000万年前) OAE 2(9400万年前) OAE 2(9400万年前) OAE 1b(1億1400万〜1億900万年前) イタリアの地層に見られる黒色頁岩

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17 Blue Earth 1512017) 436 286 136 観測点 距離(km) 540 340 140 -60 -260 深度 ︵ km ︶ に、開発したプログラムを使って解析した。すると、 スーパープルーム本体から上昇してきた細いプルー ムの三次元電気伝導度構造が浮かび上がってきた。 「難しい解析で何も見えない可能性もあると思って いたので、その画像を見たときにはとても驚きまし た」と末次さん。  地震波速度の観測により、細いプルームの温度は 周囲より200℃ほど高いと推定されていた。しかし 電気伝導度の解析によると、温度だけを考えると周 囲より500℃も高いという結果になった。500℃と いう値は現実的ではない。では300℃の差は何か。 「岩石に含まれている水や二酸化炭素(CO2)の量が 多いほど電気は通りやすくなります。300℃の差は 水やCO2がプルームにたくさん含まれていると考え なければ説明がつきません。室内実験のデータや理 論予測をもとに、プルームにどれくらいの水やCO2 が含まれているかを推定したところ、特にCO2の量 が多いことが分かりました」と多田さんは説明する。  「プレートの沈み込みにより、どれくらいの水や CO2が地球深部へ持ち込まれるかという研究は進め られています。一方、スーパープルームによってど れくらいの量の水やCO2が地球深部から地表へ供給 されるのかはまったく分かっていませんでした。地 震波速度と電気伝導度の解析を組み合わせること で、それを知ることができるようになります」と末 次さん。  ただし、多田さんが開発したプログラムで解析で きるのは深度400kmくらいまでだ。深度1,000km より下にあるスーパープルーム本体には手が届かな い。「約1億年前の白亜紀には、スーパープルーム本 体が地表近くへ上昇してきて、激しいマグマ活動を 引き起こしたと考えられます。それにより形成され た最大の海台が、プレート運動で移動して現在は南 西太平洋に位置するオントンジャワ海台です。私た ちはオントンジャワ海台を調べることで、スーパー プルーム本体の実態に迫ろうとしています」と末次 さん。  オントンジャワ海台の面積は日本の国土の約5 倍にも及ぶ。1kmほどの厚い堆積層の下に厚さ 約40kmの地殻があり、さらにその下の深度約 300kmまで、岩石が溶けてマグマとなって上昇し た後の“溶け残り領域”がある。「岩石が溶けると 軽い成分がマグマとなって上昇し、重い成分だけが 溶け残るはずです。するとその重い成分の領域は地 震波が速く伝わると考えるのが普通です。しかし不 思議なことに、過去の研究によればその領域を伝わ る地震波の速度は遅いのです。その謎を解きたいと 思います」  そう語る末次さんは、多田さんたちと共にオント ンジャワ海台の海域で地震波速度や電気伝導度の 観測を行い、現在、その観測データの解析を進めて いる。その解析結果をもとに、地球深部探査船「ち きゅう」によるオントンジャワ海台の掘削計画を提 案する予定だ。  「過去にも掘削が行われましたが、地殻を100〜 200mほど掘削しただけです。より深部の岩石を手 に入れて分析することで、地震波速度や電気伝導度 といった間接的な観測データの解析結果を検証した いのです。それにより、オントンジャワ海台の岩石 に含まれるCO2の量を高い精度で見積もることがで きるようになるでしょう。この海台は数十万年かけ て形成されたと考えられています。その形成過程で 年間どれくらいの量のCO2が大気へ放出されたのか を推定することもできるようになると期待していま す。それが実現できれば、スーパープルームと海洋 無酸素事変との因果関係の解明が大きく進むはずで す」と末次さん。  地球深部ダイナミクス研究分野では、海域での観 測や室内実験、コンピュータ・シミュレーションな どさまざまな手法を駆使して、地球深部と環境変動 の関連を明らかにしようとしている。

スーパープルームの実態を探り、

環境変動との因果関係に迫る

末次大輔 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 分野長 多田訓子 JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野 技術研究員 取 材 協 力  地震波が速く伝わる領域は温度が低く、遅い領 域は温度が高いと見なすことができる。1990年 代、地球内部を地震波が伝わる速度を三次元で解 析する地震波トモグラフィーという手法により、沈 み込んだプレートがマントルの底へ落ちる低温の下 降流と、マントルの底から湧き上がる高温の上昇流 「スーパープルーム」があるらしいことが分かった。  2003〜2005年、末次大輔さんたちはスーパー プルームの上昇域である南太平洋ポリネシアのタヒ チ島周辺の海底に地震計を設置して観測を行った。 「その結果、深度1,000kmに直径3,000kmのスー パープルーム本体の上端があり、そこから細いプ ルームが地表の火山島まで続いていることが分かり ました。しかし、そのプルームにどんな物質が含ま れているのか、地震波速度の観測だけでは実態が分 かりません」  多田訓子さんは、プルームを調べる新手法の開発 に成功した。海底下の電気伝導度を三次元で解析 するプログラムだ。「陸上で地下の電気伝導度を三 次元で解析するプログラムはありました。しかし電 気を通しやすい海水で覆われている海底で計測した データを三次元で解析するプログラムはありません でした」  そう語る多田さんは、2009〜2010年にタヒチ 島周辺の海域で海底電磁気観測を行い、過去にフ ランスの研究グループが取得した観測データととも スーパー プルーム 深度1,000km スーパープルーム パプアニューギニア オ ン ト ン ジ ャ ワ 海 台 海底下の電気伝導度を測定する海底電位 磁力計(OBEM) 2017年2月、オントンジャワ海台の海域から OBEMを回収したときの様子。末次さんや多田さ んたちは2017年、海底地震計やOBEMを用いた 海底下の観測を、小笠原諸島で噴火が続く西之島 でも行った。さらに、2020年に行われる鹿児島 県南部海域の鬼界カルデラの観測にも参加する予 定だ。7,300年前、鬼界カルデラで巨大噴火が起 き、南九州の縄文人が絶滅したといわれている。 電気伝導度で見た細いプルーム の先端の三次元構造 地震波で見たタヒチ島周辺の 海底下のスーパープルーム 地震波トモグラフィー Fukao et al. (2001) BE

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18 19  2017年8月19日朝6時くらいだったと思う。日ごろから仲 よくしている漁師さんから連絡が入った。「前にいってたのが 手に入ったよ!」。聞けば定置網にタコブネが大量にかかった というのだ。ここアクアワールド茨城県大洗水族館から北へ 30kmほどのところに、茨城県で唯一定置網漁を行っている 場所がある。日立市会瀬町の6〜7km沖、水深約40m。遠浅 の海に仕掛けられた定置網に5〜7cmほどのタコブネが15個 体ほどかかった。  実はその1年ほど前に、同じ漁師さんから「面白いタコがい て、薄い貝殻のなかに入っていたから出してみたんだ」と聞 いた。そう、それがタコブネだった。タコブネは空の貝殻に 入ったタコではなく、雌が分泌物を出して殻をつくることを 教え、とても珍しいタコなので、もしまた捕まえたら生かし て持って帰ってほしいとお願いした。その1年越しのタコブネ が15個体も手に入るという。  太平洋側でこれほど多くのタコブネが揚がったのは異例の ことだ。1980年代には、日本海側の島根県隠岐の島や新潟で タコブネの貝殻が大量に揚がったという報告はある。もとも とは温帯・熱帯海域に生息する生きものとされ、太平洋側で も南の方でぽつぽつと数個体捕獲の報告がある程度。それゆ え、生態はよく分からず、飼育方法も確立されていない。飼 育下ではせいぜい1週間程度しか生かすことができなかった。  19日にやって来たタコブネは20日までバックヤードで飼 い、21日には展示した。浮遊生活を送ると聞いていたが、定 置網では半数近くが木につかまっていたという。そこで竹を 割って浮かべてあげると、そこにちょこんとくっつくものも いた。餌はアジやアマエビ。5mm角に切った餌を棒の先に くっつけて口まで運ぶ。1日1回、1個体ごとに餌やりをした。 餌はよく食べていた。  愛あいきょう嬌のあるタコブネは人気の展示となった。1週、2週と生 き延びる個体がいるなかで、殻を脱ぎ捨てる個体が出てきた。 心配になって、胴部を手で殻のなかに入れてやり、吸盤でくっ ついた腕を殻の周囲から剝がしてやると、自分で殻のなかに 入っていく。しかし、何日かすると、その個体は死んでしまう。 死ぬときには、必ず貝殻を脱ぎ捨てて死んだ。  展示を始めた1週間後には、驚くべきできごとがあった。朝、 水槽にゴマのようなものがたくさん浮いていた。顕微鏡で恐 る恐るのぞいてみると、なんと赤ちゃんタコだった。数え切 れない赤ちゃんが、タコブネの水槽で生まれていた。タコブ ネの貝殻の奥に、卵が産み付けられていたという報告を読ん だことがある。別種のタコには、子どもがふ化したところで 命尽きるものもいる。タコブネもそういうタイプなのかなと、 ふと思った。  最後のタコブネは1ヵ月生き延びた。国内最長の飼育記録だ ろう。 取材協力:齋藤伸輔/アクアワールド茨城県大洗水族館 BE Information :アクアワールド茨城県大洗水族館 〒311-1301 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8252-3 TEL  029-267-5151 URL http://www.aquaworld-oarai.com/

アクアワールド茨城県大洗水族館

貝殻をつくり、いのちを育む

──タコブネ

Aquarium

Gallery

平たく広がった第1腕からの分泌物により、薄い貝殻をつく る。大きな眼の近くには漏斗があり、そこから海水を勢いよ く出して推進力を得たり、驚くと墨を出したりする。 赤ちゃんタコ。胴の部分だけで0.7mmほど。 今回水族館にやって来たタコブネ は、最大のもので貝殻のサイズが 7cmほどだった。雌しか殻をつく らず、殻のなかで卵を保護する習性 がある。雄は小さく、雌の20分の 1ほどのサイズしかないという。 ろう と

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よいチームをつくる

──EPMとは、どういう仕事ですか。 Sean:一言でいえば、科学掘削航海の 裏方です。計画から航海中、そして下船 後まで、掘削航海のすべての段階に関 わっています。  私たちの仕事は、掘削航海のプランニ ングから始まります。国際深海科学掘削 計画(IODP)では、世界中の研究者か らのプロポーザル(提案書)を募集して います。研究者から提出されたプロポー ザルは、IODPの科学評価パネルによっ て審査されます。IODPの掘削航海では、 日本の「ちきゅう」、アメリカの「ジョ イデス・レゾリューション」、ヨーロッ パが目的に応じて提供する特定任務掘 削船が用いられるので、どの掘削船で行 うのがよいかも検討されます。そして、 厳しい審査を通ったプロポーザルがそれ ぞれの掘削船の運用委員会に送られ、実 行に向けたプランニングが始まります。 「ちきゅう」の運用を担っているのが、 私が所属している海洋研究開発機構 (JAMSTEC)の地球深部探査センター (CDEX)です。  プランニングでは、まず共同首席研究 者(Co-Chief Scientist、以下コチーフ) を決めます。プロポーザルの主提案者で あることが多いですね。スケジュールを 決め、次に乗船研究者を募集します。す ると、その掘削航海に興味を持っている 研究者が世界中から応募してきます。乗 船研究者の選考を行うのもコチーフと EPMです。 ──乗船研究者の選考では、どのよう な点を重視するのですか。 Sean:この掘削航海で何を研究したい のかという目的が重要な選考ポイントで す。応募書類で専門分野やこれまでの 論文をチェックします。でも実は、研究 目的や実積と同じくらい重視しているの が、性格です。自分1人で仕事ができる 能力を持っていることは当然ですが、掘 削航海では長いときは数ヵ月も一緒に生 活しながら研究するので、チームの一員 として上手にコミュニケーションを取っ てスムーズに仕事ができなければならな いからです。乗船経験がある研究者なら ば、その航海のコチーフから様子を聞い たりすることもあります。とはいっても、 問題がある研究者はとてもまれですよ。 乗船研究者のほかに、航海終了後に試 料やデータを受け取って分析・研究する 陸上研究者も選考します。よいチームを つくることは掘削航海の成功のためにと ても重要です。 ──乗船研究者が決まった後は? Sean:掘削航海の目的を達成するため に、船上ではどのような分析をすべきで、 そのためにどのような装置が必要かをコ チーフと検討し、準備します。特別な装 置を「ちきゅう」に持ち込みたいという 研究者もいます。その装置が今回の掘 削航海に本当に必要か、ほかの分析や 研究の支障にならないか、安全性に問 題ないかなどを検討して、持ち込みを許 可するかしないかを決めます。そうした 準備に1年以上かかります。 ──そして、いよいよ出航ですね。 Sean:「ちきゅう」は、和歌山県新宮港 や静岡県清水港、青森県八戸港などか ら掘削地点に向かいます。研究者は港か ら乗船する場合とヘリコプターで乗船す る場合があります。世界各国からやって 来る研究者が無事「ちきゅう」に乗り込 めるようにサポートするのも、EPMの仕 事です。

忙しくハードな船上の日々

──航海中、EPMはどのような仕事を するのですか。 Sean:毎日ハード! 朝早く起きて夜ま で仕事があります。まずは朝6時くらい からコチーフや掘削チームの責任者、船 長などとのミーティングがあります。陸 上にいるCDEXのスタッフも電話会議で 参加します。1日のスケジュールを確認 して連絡事項を伝え、問題があれば対 応を話し合います。  ミーティングの後は、船内を回って研 究者の様子や装置の状態をチェックしま す。支障があれば1つ1つ解決し、コチー フにも報告します。  乗船中のEPMの最も大きな仕事が、 研究者チームと掘削チームの調整です。 研究者は、こういうデータや試料を採り たいから計画通り掘り進めてくれ、とい います。一方で掘削チームは、安全性や 時間の制限などの理由で計画通りにはで きない、ということもあります。その差 を縮める必要があります。どちらも多く の経験を積んだスペシャリストですが、 立場が違うのです。互いの意見を立場の 違う相手にも分かるように言葉を補って 説明することで、安全や時間を守りつつ 最大限のデータや試料を得られるように 調整します。いつもうまくいくわけでは ありませんが、頑張ります。 ──ほかに、どのような問題が起きる ことがありますか。 Sean:最高のチームを目指して人選し ても、いざ乗船すると、人間関係のトラ ブルが生じることがあります。あの人と あの人は合わないな、となったら、シフ トを変えることもあります。「ちきゅう」 での掘削は24時間行われているので、研 究者も12時間ずつ2交代制で働きます。 シフトが違うと、顔を合わせませんから。  逆に、意図的にシフトを同じにする場 合もあります。IODPでは大学院生も応 募して乗船できますが、彼らは経験が少 ないので戸惑うこともたくさんありま す。その場合、経験豊かな人と同じシフ トにします。そうするとトレーニングに もなる。「ちきゅう」は、若い研究者を 育てる場でもあるのです。  航海が長くなると、ストレスがたまっ て小さなことでもトラブルが起きやすく なります。そういうときは、まあまあ、 となだめて落ち着かせる。だいたい、そ れで解決します。みんな優秀な研究者で すが、幼稚園児みたいになるときもあり ますね(笑)。朝早く起きて夜まで仕事 だといいましたが、問題が起きれば時間 に関係なく対応することもあります。 ──下船後もEPMの仕事は続くので すね。 Sean:掘削航海を終えて「ちきゅう」 を下りると、乗船研究者たちはそれぞれ の国、それぞれの研究機関へと帰って いきます。掘削航海で得られた試料や データは、乗船研究者と陸上研究者が 1年間優先的に分析・研究できます。そ して、成果はすべて論文として発表する ことが義務付けられています。研究の進

EPM

として「ちきゅう」の

掘削航海を支える

Sean Toczko

地球深部探査センター 科学支援部 計画推進グループ グループリーダー代理

地球深部探査船「ちきゅう」には、運航のスペシャリスト、

掘削のスペシャリスト、そして科学のスペシャリストが乗船している。

乗船人員は最大200人。掘削のスペシャリストと

科学のスペシャリストをつなぎ、科学掘削航海を成功に導くのが、

EPM(Expedition Project Manager、研究支援統括)である。

アメリカ出身のS

シ ョ ー ン

ean T

oczkoさんは、EPMとして「ちきゅう」による

シ コ

6回の掘削航海に携わってきた。EPMの仕事とは?

なぜ「ちきゅう」のEPMに? そして、この仕事の魅力について聞いた。

ショーン・トシコ。1969年、アメリカ・メイ ン州生まれ。1997年、ジョージ・メイソン大 学卒業。東京大学大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻博士課程修了。博士(農学)。 1994年、大学4年生のときに交換留学生とし て上智大学で日本語と東南アジア史を1年間学 ぶ。2008年よりJAMSTEC地球深部探査セン ター IODP推進・科学支援室科学計画グルー プ技術研究副主任。2015年より現職。 IODP第332次 研 究 航 海(2010 年10〜12月、南海掘削)に参加 した Sean Toczko さん。掘削孔 に設置していた機器を船上に回 収し、確認しているところ。

私が

IODP

解きたい謎

IODP第365次研究航海(2016年3〜4月、南海掘削)では、掘削地点C0010において2010年の第332 次研究航海で設置した孔内観測装置を回収し、新たに孔内観測装置を設置した。上は、この航海のロ ゴマークを前に乗船研究者とヘリポートでの記念撮影。右下は貴重な休憩中のひとこま。 ○C JAMSTEC/IODP ○C JAMSTEC/IODP ○C JAMSTEC/IODP ○C JAMSTEC/IODP

参照

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