● 総 説 ●
トリプレットリピート病の分子機構
CTG,CGGリ
ピー トの遺伝的不安定性と特殊DNA構 造
清水美穂
近年,ト リプレットリピートの異常増幅が関与した,脆 弱X症 候群,筋 緊張性ジストロ
フィーなどの遺伝性神経筋疾患が報告され,新 しいタイプの遺伝子変異に由来する遺伝病
であるということから注目されている。しかしながら,な ぜリピー トが異常伸長するのか,
またどうしてそれが病気の発症につながるのかといったメカニズムはいまだほとんど解明
されていない。本稿では,と くにトリプレットリピートがもつ特有のDNA構 造に着目した
研究をとりあげ説明する。
Key word 【ト リプ レ ッ ト リ ピ ー ト病 】 【特 殊(異 常)DNA構 造 】 【CTG,CGGリ ピ ー ト】 は じめ に ヒ トの 遺 伝 子 病 の な か で 単 純 ト リ プ レ ッ ト リ ピ ー トの 異 常 増 幅 が 関 与 した,通 常 の メ ンデ ル 遺 伝 か ら は理 解 で き な い 現 象 を特 徴 とす る遺 伝 性 神 経 筋 疾 患 が1991年 以 降 発 見 され,こ れ まで に 図1に 示 す よ う な 種 類 が 報 告 され て い る 。 これ らの 疾 患 は ダ イ ナ ミ ッ ク変 異(dynamic mutation)と よ ば れ る新 し い タ イ プ の発 症 メ カ ニ ズ ム,つ ま り原 因 遺 伝 子 に含 まれ る トリ プ レ ッ トリ ピー トの 不 安 定 性 と増 幅 に 起 因 し,世 代 を 経 る ご と に発 症 年 齢 が 若 年 化 し,そ の 症 状 の重 篤 度 が 増 す(促 進 現 象;anticipation)と い う特 徴 を 有 す る。 各 々 の疾 患 は,そ の リ ピ ー トの 遺 伝 子 構 造 上 の 位 置 関 係 か ら4つ の グ ル ー プ に帰 属 さ れ る(図1)。 リ ピー ト の 不 安 定 性 は そ の コ ピー 数 に依 存 す る こ とが 明 らか に な っ て お り,疾 患 の な か で も非 翻 訳 領 域 に リ ピ ー トが 位 置 す る筋 緊 張 性 ジ ス トロ フ ィー(myotonic dystro-phy;DM),脆 弱X症 候 群(FRAXA)に お い て は リ ピー トが 最 大2,000コ ピー 以 上 に増 幅 し,関 連 遺 伝 子 の発 現 に影 響 を 与 え 発 症 に至 る こ と が 数 多 くの 家 系 解 Miho Shimizu, 析 か ら知 ら れ て い る(図2)。 しか しな が ら原 因 遺 伝 子 産 物 の 正 常 機 能 を 含 め,な ぜ リ ピ ー トの 増 幅 が 病 気 に つ な が る の か,ま た リ ピ ー トが な ぜ 異 常 増 幅 す る か の 機 構 に つ い て も ほ とん ど 明 ら か に さ れ て い な い。 本 稿 で はDM由 来 のCTGリ ピー トお よ び脆 弱X症 候 群 由 来 のCGGリ ピー トの 不 安 定 性 とそ の特 殊 な性 質 に つ い て 明 らか に し た研 究1)に つ い て 紹 介 し,DNA構 造 の 観 点 か ら これ ら トリプ レ ッ ト リピ ー ト病[→ 今 月 の Key Words(p.660)]の 分 子 機 構 に せ ま りた い。 な お, 各 疾 患 の 詳 細 につ い て は 最 近 の著 書2)お よび 総 説3)を 参 考 に し て ほ し い 。 I.CTGお よびCGGリ ピー トは大 腸 菌 においても不 安 定性 (増幅 と減 少)を 示 す プ ラ ス ミ ド に ク ロ ー ニ ン グ さ れ た(CTG)n,(CGG)n リ ピー トが 複 製 方 向 ・コ ピー 数 依 存 的 に 大 腸 菌 中 に お い て も不 安 定 性 を示 し,結 果 的 に リ ピ ー ト数 の 増 幅 と
北海道 大学薬学部生体機能化学講座(〒060 札 幌市北 区北12条 西6丁 目) [Faculty of Pharmaceutical Sciences,
Hokkaido University, Kita-12, Nishi-6, Kita-ku, Sapporo 060, Japan]
Molecular Basis of Triplet Repeat Diseases : Genetic Instabillity and Unusual DNA Structure
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12 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.4(1997) 図1 トリ プ レ ッ ト リ ピー ト病 に 属 す る 遺 伝 性 神 経 筋 疾 患 各 々 の疾 患 はそ の リピー トの 原 因 遺 伝 子 との位 置 関 係 か ら次 の4種 に 分 類 され る。(a)5'非 翻 訳 領 域 にCGGリ ピー トが位 置 す る。(b)翻 訳 領 域 内 に 位 置 し,結 果 的 に生 成 す る伸 長 した ポ リグ ル タ ミ ンス トレ ッチ を含 む異 常 蛋 白 質 が 病 気 の 原 因 と な る も の。(c)3'非 翻 訳 領 域 にCTGリ ピー トが 位 置 す る。(d)イ ン トロン に 位 置 す る。 これ ら リピ ー トの 不 安 定性(リ ピー トの 増 幅)は 疾 患 の重 篤 度 と相 関 して い る 。□:正 常,□:前 発 症 段 階,□:疾 患,□:生 下 時 に 発 症 す る筋 緊 張 性 ジ ス トロ フ ィー 。 減 少 が 起 こ る こ とが 見 い だ さ れ た 。 この こ と は単 純 ト リプ レ ッ トリピー ト配 列 が もつDNA構 造 の特 性 が,種 を こ え てDNA複 製 に影 響 を与 える こ とを強 く示 唆 して い る 。 1.(CTG)nは 複 製 の 方 向 に依 存 し て 不 安 定 性 を 示 す Kangら は4)(CTG)nの 不 安 定 性 に及ぼ す 複 製 方 向 の 影 響 を調 べ るた め に,リ ピー ト数 の 異 な る5種 類(180, 125,90,10,30リ ピ ー ト)の(CTG)nを 一 方 向 に複 製 が 起 こ る複 製 開 始 部 位(ColE1)に 関 し て 両 方 向 に 導 入 し たpUC19誘 導 体 を構 築 し た 。I型 方 向 で はCTG リ ピー トが リー デ ィ ン グ テ ン プ レー ト鎖 に あ り,II型 方 向 で はCTGリ ピー トが ラ ギ ン グ テ ンプ レー ト鎖 に あ る(図3)。 大 腸 菌DH5α 株 の 形 質 転 換 体 よ り回 収 され た プ ラ ス ミ ド は複 製 方 向 お よ び リ ピ ー トの 長 さ に依 存 して 明 らか に 安 定 性 が 異 な っ た。 な か で も(CTG)18。 を I型 方 向 に 含 む プ ラ ス ミ ドで は,安 定 に存 在(90%以 上)し た リ ピ ー ト配 列 が,II型 で は非 常 に 不 安 定 で あ り,大 部 分 が 培 養 の 過 程 で 短 い リ ピ ー トへ と変 化 して し ま っ た 。 しか し,短 いCTGリ ピ ー ト(30コ ピ ー) で は複 製 方 向 に 限 らず 安 定 で あ っ た 。 興 味 深 い こ と に CTGリ ピ ー トは大 腸 菌 中 で も増 幅 す る こ とが 明 らか と な っ た4)。 と く に(CTG)130。 を 含 むI型 プ ラ ス ミ ドか ら は,360塩 基 対 も増 加 した(CTG)250が 得 られ,リ ピー トの 不 安 定 性(増 幅 と減 少 の 両 方)は と も に複 製 方 向 ・ リ ピー トの 長 さ依 存 的 で あ る こ とが 示 さ れ た 。
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トリプレットリピー ト病の分子機構 13 図2 脆 弱X症 候 群(FRAXA)に み られ るFMR-I遺 伝 子 の 不 活 性 化 機 構 FRAXAで はCGGリ ピー トが エ キ ソ ン1の 翻 訳 開 始 部 位(AUG)よ り5'上 流 に位 置 して い る。 ○ はCpGに 富 む プ ロモ ー タ ー領 域 を,‖ はCGGリ ピー トを示 す 。FRAXAはCGGリ ピー トが200 以上 に達 し,か つ リピ ー トを 含 むCpGア イ ラ ン ドが 全 体 的 にメチ ル 化 を受 けmRNAへ の転 写 が 抑 制 され,結 果 的 に遺 伝 子 産 物 で あ るFMR-1蛋 白質 が 生 成 しな い こ と に よ り発 症 す る。 こ こでDNA複 製 が リー デ ィ ン グ鎖 とラギ ング 鎖 にお い て 非 対 称 的 に 起 こる こ と を思 い だ して ほ しい(図3参 照)。 リー デ ィ ン グ鎖 のDNA合 成 は複 製 フ ォ ー ク に 向 か っ て連 続 的 に起 こる。 一 方,ラ ギ ング鎖 のDNA合 成 は100∼200ヌ ク レ オ チ ド長 の 岡 崎 フ ラ グ メ ン トが 複 製 フ ォ ー クか ら離 れ る方 向 に多 数 の 断 片 と して 合 成 され, 最 終 的 に そ れ らが 連 結 され て 連 続 し た ラ ギ ン グ 鎖 とな る。DNA複 製 中 に生 じ る 特 定 の 塩 基 配 列(イ ンバ ー ト リ ピー ト)の 欠 失 は,ラ ギ ン グ鎖 で 優 先 的 に ヘ ア ピ ン 構 造 が 形 成 され る た め に起 こ る こ とが 報 告 され て い る5)。 類 似 の メ カニ ズ ム を このCTGリ ピー トの 場 合 に あ て は め る と,ラ ギ ン グ鎖 上 で テ ン プ レー トとな る1本 鎖CAG あ る い はCTGリ ピー トが複 製 中 にヘ ア ピ ン構 造 を形 成 して い る ことが期 待 され る(図3)。 前 述 した よ うにCTG リ ピー トの不 安 定 性 は複 製 方 向 に 依 存 し て い る こ とが 実 験 的 に 明 らか に な っ て お り,CTGリ ピー ト鎖 に 関 し て,I型 方 向 で は 増 幅 が,ま たII型 方 向 で は 減 少 が 優 先 的 に起 こ る。 これ らの結 果 はCTGリ ピー ト鎖 とCAG リ ピー ト鎖 か ら そ れ ぞ れ 形 成 さ れ る ヘ ア ピ ン構 造 の 安 定 性 に 差 が あ る と仮 定 す る と う ま く説 明 が で き る 。 興 味 あ る こ とに,オ リゴ ヌ ク レ オ チ ド を用 い た構 造 解 析 の結 果 は す べ て,1本 鎖CTG配 列 か ら形 成 され る ヘ ア ピン構 造 がCAGの それ よ り も明 らか に安 定 で あ る と結 論 づ け られ て い る(IV節 参 照)。 この こ とか ら図3に 示 した モ デ ル の 妥 当 性 が 強 調 さ れ た 。 さ て,こ れ ら一 連 の コ ピ ー 数 を もつCTG含 有 プ ラス ミド は 大 腸 菌 中 で の リ ピー トの 不 安 定 性 を た く み に 利 用 し た “expansion -deletion法 ”で ク ロ ー ニ ン グ さ れ た(図4)。 こ の 方 法 はCTGリ ピ ー ト4), CGGリ ピー ト6)のみ な らず ほ か の8種 類 の ト リプ レ ッ ト リ ピー トに も応 用 可 能 で あ り7), そ の後 の さ ま ざ ま な 研 究 に有 用 な材 料 を提 供 す る こ と に な っ た 。 簡 単 に “expansion-deletion法 ” に つ い て 説 明 す る 。 ヒ ト患 者 由来 の(CTG)130がI型 方 向 に 挿 入 さ れ たpUC19誘 導 体(DH5α 株 に 形 質 転 換 し た も の 由来) を 出 発 材 料 と し,こ れ をSacI/HindIIIで 切 断,リ ピー トを含 むDNA断 片 をベ ク ター よ り切 り出 す 。 ゲ ル 電 気 泳 動 に よ る 分 析 で は均 一 のバ ン ドと して 検 出 さ れ るが, 検 出 限界 以 下 の割 合 で リ ピ ー ト数 が 増 加 した もの(図 4,フ ラ ク シ ョ ンa,b),減 少 し た も の(図4,フ ラ ク シ ョ ンc∼e)が 含 まれ て い る 可 能 性 が あ る の で*1,各 々 の フ ラ ク シ ョン か らDNAを 回 収 し,ベ ク ター に再 び 連 結 す る。 これ を大 腸 菌HB101株 に形 質 転 換,単 一 コ ロ ニ ーか らDNAを 調 製,挿 入 断 片 の長 さを制 限 酵 素 で 処 理 し た の ち に確 認 す る。 こ う し て 得 られ た プ ラ ス ミ ド DNAは,図4に 示 した よ うに対 照(出 発 材 料 の プ ラス ミ ド)と 比 較 して コ ピ ー 数 が 増 加 ま た は減 少 した ト リ プ ン ッ ト リ ピ ー トを 均 一 に も つ 。 こ の 方 法 に よ り, (CTG)17か ら(CTG)300に 至 る一 連 の プ ラ ス ミ ドが 得 られ た 。 リ ピ ー トの 増 減 は,複 製 時 に お け る数 リ ピー トの 小 刻 み なス リ ッペ ー ジの く り返 し とい うよ りは,む し ろ一 度 の 大 き な変 化(40リ ピ ー ト)と して 観 察 さ れ る8)。挿 入 断 片 の 長 さが 変 化 し て い る の はCTG・CAG リ ピー トの 部 分 の み で あ り,ま た リ ピー ト数 の 増 減 は 必 ず ト リヌ ク レオ チ ド単 位 で 起 きて い た。 ク ロ ー ニ ンも グ さ れ た リ ピ ー トの 大 き さ は,制 限 酵 素 断 片 を ア ガ ロ ー ス ゲ ル も し くは変 性PAGEで ,ま た正 確 な塩 基 配 列 *1 挿 入 断 片 長 の 不 均 一 性 が 明確 に検 出 で き る場 合 も あ る6)。
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14 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.4(1997) 図3 CTGリ ピー トの 複 製 方 向 に 依 存 し た 不 安 定 性 を 説 明 す る モ デ ル 大腸 菌 中 で み られ たCTG・CAGリ ピ ー トの不 安 定性,す な わ ち 増 幅(左)お よ び減 少(右)は,DNA複 製 時 の ラ ギ ン グ鎖(新 生 あ る い は テ ン プ レー ト)上 で のCTGヘ ア ピン 形 成 を 経 由 して い る と考 え られ る 。 と リ ピ ー ト数 は ダ イ デ オ キ シ シー クエ ン ス 法 に よ り決 定 した 。 2.200コ ピー 以 上 のCGGリ ピー トを 含 む プ ラス ミ ド の ク ロ ー ニ ン グ 一 般 に 非 常 にG/Cに 富 むDNAを プ ラス ミ ドに クロ ー ニ ン グ す る こ と は困 難 で あ り,100%G/Cか ら構 成 され るCGGリ ピー トは ま さ に その典 型 で あ る とい え る。 した が っ て 患 者 由 来 の80リ ピー ト以 上 のCGG配 列 を プ ラ ス ミ ドに ク ロ ー ニ ン グ す る こ と に は こ れ ま で誰 も 成 功 し て い な っ た。 前 述 し た“expansion-deletion法 ” はCGGリ ピー トへ の適 用 範 囲 につ い て は限 界 が あ り*2, 200コ ピー 以 上 を この 方 法 で得 る こ とは不 可 能 で あ った 。 そ の 理 由 は リ ピ ー トの 長 さが あ る域 を こ え る と,コ ピ ー 数 の増 幅 よ り も減 少 が 優 先 す る た め で あ る と考 え ら れ る。 しか し な が ら筆 者 ら は リ ピ ー トの 不 安 定 性 を も た らす さ ま ざ ま な 因 子 を 考 慮 す る こ と に よ り,最 長240 コ ピー のCGGリ ピー トを プ ラ ス ミ ドに比 較 的 安 定 に ク *2 合 成 オ リゴ ヌ ク レ オ チ ド由来 の(CGG)24が 挿 入 され た プ ラス ミ ドか ら,最 長(CGG)49が 得 られ て い る6)。
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トリプ レットリピート病の分子機構 15 図4 expansion-deletion法 大腸 菌 中 で の トリプ レ ッ ト リピー トの不 安 定性(増 幅 お よび 減 少)を 利 用 した ク ロー ニ ン グ法 。 詳 細 は 本 文 を参 照 。 図5 脆 弱X症 候 群 に 関 連 し た 長 いCGGリ ピ ー ト配 列 を プ ラ ス ミ ドに ク ロー ニ ン グ す る方 法 患者 由来 の(GGG)81を も と に,T4DNAリ ガ ー ゼ で 処 理 す る こ とに よ り多 量 体 を得 た。 コ ピー 数 の 多 いCGGリ ピー トを プ ラス ミ ド中 で 安 定 に保 つ に は,適 当 な ベ ク ター と宿 主 大 腸 菌 の選 択 が 重要 で あ る。ap:ア ン ピ シ リン耐 性 遺伝 子,tet:テ トラサ イ ク リン耐 性 遺伝 子,ori:複 製 開 始 部位 。 詳 細 は本 文 を参 照 。 ロ ー ニ ン グ す る方 法 を 見 い だ し た6)。 図5に そ の 概 要 を 示 す 。 プ ラ ス ミ ドRN2に ク ロー ニ ン グ さ れ た ヒ ト患 者 由 来 の (CGG)81を 平 滑 末 端 を も つ DNA断 片 として単 離 した。 こ れ をT4 DNAリ ガーゼ の存 在 下 マ ル チ マ ー を 形 成 させ,そ れ ぞ れ をpUC19のHincII部 位 ヘ ク ロ ー ニ ン グ,大 腸 菌 SURE株*3に 形 質 転 換 し た 。 ク ロ ー ニ ン グ さ れ た 長 い リ ピ ー ト(と くに240リ ピ ー ト) は非 常 に 不 安 定 で あ っ た が, これ らの イ ンサー トをpBR322 誘 導 体(pRW1560)の テ トラ サ イ ク リ ン耐 性 遺 伝 子 プ ロ モ ー タ ー 領 域 に 導 入 し た と こ ろ*4,大 腸 菌HB101株 へ の 形 質 転 換 体 よ り得 ら れ た プ ラ ス ミ ドはpUC19を ベ ク ター と *3 大腸 菌 中 で と くに不 安 定 で あ る とさ れ るZ-DNA,ク ル シ フ ォ ー ム な どの特 殊DNA構 造(図8)を 含 む配 列 で もプ ラス ミ ド中 に 安 定 に保 つ こ とが で き る よ う に遺 伝 子 変 異 が 導 入 され た大 腸 菌 株 。
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16 蛋 白質 核 酸 酵素 Vol.42 No.4(1997) した 場 合 に比 べ て 約2倍 程 度 の安 定 性 を 示 し た 。 こ う して 脆 弱X症 候 群 にみ られ る前 発 症 段 階 お よび 発 症 域 の リ ピー ト数(図2参 照)に 対 応 す る(CGG)160ま た は(CGG)240を 含 む プ ラ ス ミ ド を構 築 す る こ と に成 功 した 。 こ う し て得 られ た一 連 の プ ラ ス ミ ドは,ト リ プ レ ッ ト リ ピー ト病 の分 子 機 構 を 解 明 す る た め の さ ま ざ まな 実 験 に 用 い られ た10∼15)。 3.な ぜCTG・CAGあ る い はCGG・CCGリ ピー トな の か? 遺 伝 子 エ キ ソ ン部 位 に含 ま れ る ト リプ レ ッ ト リ ピ ー トの 異 常 増 幅 と関 係 した 疾 患 にみ られ るの はCTGあ る い はCGGリ ピ ー トだ けで あ る。 で はな ぜ な の か? 可 能 な トリプ レ ッ トリピー トのす べ ての組 合 せ(CTG・ CAG,CGG・CCG,GAT・ATC,GTA・TAC, GTG・CAC,GTT・AAC,GTC・GAC,CCT・AGG, AAG・CTT,TTA・TAA)を 含 む10種 類 の プ ラ ス ミ ド を構 築 し7,16),そ の リ ピー ト数 の増 幅 の頻 度 を比 較 し た 実 験 が あ る17)。興 味 深 い こ とに,CTGリ ピ ー トが ほ か の リ ピー トに比 べ て 約8倍 も大 腸 菌 中 で 増 幅 し や す い と い う こ とが 見 い だ され た 。 こ の 実 験 系 で リ ピー トの増 幅 が 確 認 され た の はCTG,CGGの ほか にGTG とGTCが あ る。 後 者2つ に つ い て は,疾 患 との関 係 が い ま だ報 告 さ れ て い な い が,こ の 実 験 結 果 は,そ の 可 能 性 を予 測 して い る とい え る 。 ま たGTCリ ピー トにつ い て は ヘ ア ピ ン形 成 モ デ ル に 基 づ い て,十 分 ヒ トゲ ノ ム 中 で 増 幅 す る可 能 性 が あ る と報 告 され てお り18),今 後 GTCリ ピー トの 増 幅 を含 む遺 伝 子 異 常 が 見 つ か るか も しれ な い*5。 II.増 幅 したCTGお よびCGGリ ピー トがDNAポ リメラー ゼ の進 行 をin vitroで 妨 げる CTG,CGGト リプ レ ッ トリ ピー トが どの よ う に して 異 常 増 幅 す るか の メ カ ニ ズ ム に関 す る ひ とつ の 仮 説 は, リ ピー ト配 列 に よ って 形 成 され る特 殊DNA構 造 が複 製 の 過 程 でDNAポ リメ ラ ーゼ の 進 行 を一 時 的 に妨 げ(ポ 図6 DNAポ リメ ラー ゼ 停 止 と,プ ラ イ マ ー の ス リッ ペ ージ に よ り も た ら さ れ る トリ プ レ ッ トリ ピー トの 伸 長 を 説 明 す る モ デ ル 図 中 に示 した 円筒 状 の ボ ッ クス は長 い リピ ー ト配 列 に よ り形成 さ れ る特 殊 構 造 を表 わ す 。 リメ ラ ー ゼ の 停 止),新 し く合 成 さ れ たDNA鎖 の ス リ ッペ ー ジ ・ヘ ア ピ ン構 造 形 成 を経 て リ ピー トの伸 長 に 至 る とい う もの で あ る(図6)。 この仮 説 に基 づ き,CTG リ ピー トを含 む2本 鎖 プ ラ ス ミ ドDNAを テ ンプ レー ト とす る プ ラ イ マ ー 伸 長 反 応 を行 な っ た と こ ろ,非 常 に 強 いDNAポ リメ ラ ー ゼ の 停 止 部 位 がCTGト リプ レッ トリ ピー ト配 列 中 に 見 い だ さ れ た10)。ポ リメ ラー ゼ の停 止 を も た らす さ ま ざ ま な 要 因 を調 べ る た め に,17∼180 コ ピ ー のCTGリ ピー トを マ ル チ クロー ニ ン グ サ イ トに 含 むpUC19誘 導 体 をテ ン プ レ ー トとす るin vitroで の DNA合 成 が 詳 細 に調 べ られ た。(CTG)130を 用 い て各 *4 Z-DNA,三 重 鎖DNAな どの不 安 定 な 挿 入 断 片 を同 じ部 位 に ク ロ ー ニ ング す る こ と に よ り安 定 化 す る こ とが で きる9)。また,こ れ ら の プ ラ ス ミ ドの形 質 転 換HB101ク ロ ー ン は テ トラサ イ ク リ ン耐 性 を示 さ な い た め,ク ロー ニ ン グ後 に挿 入 断 片 の有 無 を容 易 に ス ク リー ニ ン グ す る こ とが で き る。 *5 な お,GTCリ ピー トはCCG,CTGと 同様 にCGあ る い はGCパ リン ドロ ー ム を リ ピー ト内 に もつ こ とか ら同 じタイ プ の リピー ト 配 列 に分 類 さ れ,三 者 は類 似 した 構 造 性 質 を共 有 して い る と も報 告 され て い る19)。
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トリプレットリピー ト病の分子機構 17 図7 DNAポ リ メ ラ ー ゼ が 伸 長 し た トリ プ レ ッ ト リ ピー ト上 で 停 止 す る (a)異 な る スー パ-コ イ ル エ ネ ル ギ ー を有 す るpRW1981[(CTG)130を 含 むpUC19誘 導 体]を 用 いたプ ライ マー 伸 長 反 応 。 平 均 スー パー コイル 密 度 は レー ン左 か ら,0,-0.02,-0.04,-0.06 であ る。(b)ヒ トDNAポ リ メ ラー ゼ β のCTGリ ピー ト上 の停 止 部 位 。(c)(CGG)160に み られ るDNAポ リメ ラーゼI(ク レノ ウ フラ グメ ン ト)の 停 止 。[は ポ リメ ラー ゼ の停 止 部 位 を示 す 。 種 のDNAポ リメ ラー ゼ,す なわ ち大 腸 菌DNAポ リメ ラー ゼIの ク レ ノ ウ フ ラ グ メ ン ト(3'エ キ ソヌ ク レ ア ー ゼ不 活 性 型),変 異 型T7 DNAポ リ メ ラ ー ゼ(Seque-nase V2.0)に よ る プ ラ イ マ ー伸 長 反 応 を行 な っ た 。 そ の結 果,リ ピ ー ト配 列 中,リ ピ ー ト開始 部 位 に近 い と こ ろに 弱 い,そ して37リ ピー ト付 近 に 強 い ポ リメ ラ ー ゼ停 止 部 位 が あ る こ とが 判 明 し た 。 後 者 の停 止 部 位 は と くに ク レ ノ ウ フ ラ グ メ ン トを用 い た プ ラ イ マ ー 伸 長 反 応 で 顕 著 で あ っ た(図7aで“ ポ リメ ラ ー ゼ の 停 止” を示 した 部 位)。 同 様 の結 果 は ヒ トポ リメ ラー ゼ β を用 いた 実 験 で も得 られ(図7b),リ ピー ト中 の特 殊DNA 構 造 とポ リメ ラ ー ゼ 停 止 の 関 係 が 強 く支 持 さ れ た。 分 子 内 三 重 鎖 構 造,Z-DNAな ど の非B型DNA構 造(図8)は ネ ガ テ ィ ブ ス ー パ ー コ イ ル の エ ネ ル ギ ー に よ っ て 安 定 化 さ れ る。 そ こで この ポ リ メ ラ ー ゼ 停 止 を も た らす と予 想 さ れ る テ ン プ レ ー トDNAの 特 殊 構 造 が ネ ガ テ ィ ブ ス ー パ ー コ イ ル の 強 さ に よ っ て 影 響 を 受 け る か ど う か を調 べ た 。 しか し,そ の 強 弱 に か か わ らず ポ リ メ ラ ー ゼ の 停 止 が み ら れ た(図7a)。 と こ ろ が,プ ラ ス ミ ド を あ ら か じ め制 限 酵 素 で 処 理 し て リ ニ ア ーDNAに し た 場 合 は, リ ピー ト内部 の ポ リメ ラ ー ゼ 停 止 は起 こ ら な か っ た(図7 a)。 ま た こ の 現 象 は テ ン プ レ ー トDNAが1本 鎖 プ ラ ス ミ ドDNA(M13ベ ク タ ー)で は み られず,2本 鎖DNAで ある こ とが 必 要 条 件 で あ っ た 。 ま た,リ ピ ー トが 長 い ほ ど ポ リ メ ラ ー ゼ は強 く リ ピー ト中 で 停 止 す るが,50℃ の加 熱 処 理 に よ りポ リ メ ラ ー ゼ 停 止 が み られ な くな っ た 。 う ま り,ポ リ メ ラ ー ゼ 停 止 を も た ら す 何 らか のDNA構 造 はスーパ ー コ イ ル の エ ネ ル ギ ー は必 要 な い が,核 酸 塩 基 間 の 水 素 結 合 に よ っ て 安 定 化 さ れ る も の で あ る こ とが 示 唆 され た 。 ポ リメ ラ ーゼ 停 止 はCTGリ ピー トに限 らず,CGGリ ピ ー トで も類 似 の 現 象 が ク レ ノ ウ フ ラ グ メ ン トを 用 い た 実,験で み られ た(図7c)。 ポ リメ ラーゼ 停 止 は(CGG)61 以 上 で 観 察 され,し か も リ ピ ー トの 長 さ が 長 い ほ ど強 か っ た 。 しか しなが らCTGリ ピー トの 場 合 と は異 な り, あ らか じ め 高 温(90QC)で 加 熱 し て も ポ リメ ラ ー ゼ 停 止 は影 響 を受 け ず,原 因 とな るD:NA特 殊 構 造 はCTG リ ピー ト配 列 と比 較 し て 熱 的 に安 定 で あ る こ とが 示 唆 さ れ た 。 さ ら に ほ か の8種 類 の ト リ プ レ ッ ト リ ピー ト に つ い て も 同様 の ポ リメ ラー ゼ 伸 長 反 応 が 調 べ られ,そ の 結 果,AGG,AAGお よびGTCリ ピー トで もポ リメ ラ ー ゼ 停 止 が 観 察 さ れ た7)。 以 上 のin vitroの 実 験 は,あ る長 さ以 上 のCTGお よ びCGGリ ピー トがD:NAポ リメ ラー ゼ の進 行 を妨 げ る
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18 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.4(1997)
図8 特 殊DNA構 造
プ リ ン と ピ リ ミジ ン塩 基 が 交 互 に 並 ん で い る 場 合 はZ-DNA,イ ンバ ー トリ ピー トは クル シ フ ォ ー ム,ホ モ プ リン ・ホ モ ピ リ ミ ジ ンの ミラ ー リ ピー トが 存 在 す る と分 子 内 三 重 鎖 構 造(H-DNA) や ノ ジ ュー ルDNA,連 続 したdAは ベ ン ト(カ ー ブ)DNA,dGに 富 ん だ テ ロメ ア(染 色体 末 端) 配 列 は四 重 鎖 構 造 を形 成 す る 。 vitroで 形 成 し(図8)5),種 々 の 物 理 化 学 的 手 法(化 学 的 ・ 酵 素 的 プ ロ ー ビ ング),2次 元 ア ガ ロ ー ス ゲ ル 電 気 泳 動,未 変 性 ゲ ル 電 気 泳 動 な ど で 検 出 ・同 定 す る こ とが で きる。 こ れ ら特 殊 核 酸 構 造 は遺 伝 子 発 現 の 制 御,ゲ ノ ムDNAの 安 定 性 と深 くか か わ っ て い る と 考 え ら れ て い る。 一 方,ト リ プ レ ッ ト リ ピー トの 不 安 定 性 を も た らす 核 酸 レベ ル で の 構 造 要 因 は次 の2種 類 に 分 類 さ れ る。(1)1本 鎖 核 酸(DNA複 製 時 に生 じ る1本 鎖DNAお よ び 転 写 後 に 生 じ るmRNA) か ら形 成 さ れ る構 造,(2)2本 鎖DNAが 示 す 構 造 特 性 。 従 来 の解 析 手 法 で は,CTGお よ びCGGリ ピー トを含 む2本 鎖 DNAが 図8に 示 した よ うな特 殊 構 造 を と る とい う こ と は検 出 され て い ない6,10)。本 項 で は リ ピー ト を 含 む2本 鎖DNA が 示 した,こ れ ま で 知 られ て い な い 特 有 な 構 造 的 性 質 につ い て 紹 介 す る。 構 造 を形 成 して い る こ と を 暗 示 して お り,同 じ こ とが ヒ トの疾 患 細 胞 で も起 きれ ば,DNA複 製 の際 の ポ リメ ラ ー ゼ 停 止 → 新 生 鎖 の ス リ ッペ ー ジ → リ ピー トの 異 常 伸 長 を基 礎 とす る 機 構 が 成 立 す る可 能 性 が あ る と い え る 。 し か し,実 際 に どの よ う な特 殊 構 造 が 関 与 し て い る か に つ い て は 今 後 の 解 析 を 待 た な け れ ば な ら な い (Ohshima,K. et al.:投 稿 準備 中)。 III.CTG・CAGお よびCGG・CCGリ ピー トを含 む2本 鎖DNAが 示 す奇 妙 な挙 動 プ ラ ス ミ ド中 に ク ロ ー ニ ン グ され た 単 純 リ ピー ト配 列 は,負 の ス ー パ ー コ イ ル,各 種 の 金 属 イ オ ン の存 在 下,さ ま ざ ま な 非B型 タ イ プ の 特 殊DNA構 造 をin 1.CTG・CAGお よ びCGG・CCGリ ピー トは 未 変 性 ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル 中 で 異 常 に 早 く 泳 動 さ れ る Chastainら は20),pUC19ベ ク タ ー 中 に ク ロ ー ニ ング さ れ たDM患 者 由来 の(CTG)nを 含 む制 限 酵 素 断 片 が 未 変 性PAGEで 異 常 に早 く泳 動 され る こ とを報 告 した。 つ ま り リ ピー トを含 む2本 鎖DNAが,対 照 のサ イ ズマ ー カ ーDNAと 比 較 して ,実 際 の フ ラ グ メ ン ト長 よ りも み か け 上 短 い 長 さ の と こ ろ に泳 動 され る とい う こ とで あ る。 興 味 あ る こ と に そ の 傾 向 は リ ピ ー トの 長 さ に依 存 し て お り,リ ピ ー トが 長 け れ ば長 い ほ ど早 く泳 動 さ れ,そ の 効 果 は255リ ピー トの 場 合20%に 達 し た。 な お,こ の現 象 は ア ガ ロ ー ス ゲ ル 中 で は観 察 され な い。 こ れ ら の 結 果 は,リ ピ ー ト配 列 が 明 らか に 異 常 な らせ ん 構造 を 有 して い る こ と を 示 し て い る。 ま た これ ら の異
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常 な挙 動 は,DNAの インター カ レー タ ー で あ る ア ク チ ノマ イ シ ンDでDNAを 処 理 す る こ と に よ り,そ の濃 度 依 存 的 に消 滅 し た 。 ほ か の ト リ プ レ ッ トリ ピー ト病 由来 のPCR産 物,FMR-1由 来 の (CGG)22∼55お よ びSCA1由 来 の(CAG)19∼74で も 同 様 の 結 果 が 得 られ,こ の異 常 に 早 い 泳 動 がCTGだ け で は な く CGGリ ピー トに も共 通 に み ら れ るこ とが 明 らか に なった 。 筆 者 ら も ク ロ ー ニ ン グ に成 功 し た(CGG)9∼240に 関 して 同 様 の未 変 性PAGEに よる詳 細 な 分 析 を行 な っ た ところ,240リ ピー トを 用 い た場 合,最 高25 %の 早 い 泳 動 が 観 察 さ れ,こ の挙 動 は変 性 剤(尿 素)の 添 加 や 高 温 で 部 分 的 に,さ ら に イ ン タ ー カ レー タ ー(ア ク チ ノ マ イ シ ンDで は な い)の 添 加 に よ り 完 全 に 消 滅 し た (Bacolla,A.et al.:投 稿 中)。 な お,類 似 の 泳 動 パ タ ー ン は CTGお よ びCAGリ ピー トの み か ら構 成 さ れ る比 較 的 短 鎖 (4∼6リ ピー ト)の1本 鎖 オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ドで も 観 察 さ れ21),リ ピー トが もつ特 有 な構 造 的 性 質 は各 々 の1本 鎖 核 酸 に す で に 特 徴 づ け られ て い る と考 え られ る。 一 方,ほ か の 8種 類 の トリプ レ ッ トリ ピー ト につ い て も同 様 の 分 析 を行 な っ た と こ ろ,(ACC)n, (GTC)nに つ いての み,わ ずか なが ら早 く泳 動 さ れ る傾 向 が 観 察 さ れ た(Bacolla,A. et al.:投稿 中)。 トリプ レットリピート病の分子機構 19 図9 ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 電 顕 法 正 常 域 か ら発 症 域 を カ バ ー す る(図1参 照)各 種 の コ ピー 数 を もつ(CTG)n(n=26,50,75,130, 180,250)が 導 入 され た環 状 プ ラ ス ミ ドを 精 製 ウ シ 胸 腺 ピ ス トン8量 体 と結 合 させ た。 こ の際, プ ラス ミ ド1分 子 に つ き平 均1個 の ヌ ク レ オ ソ ー ム が 形 成 す る よ う に調 製 して あ る 。 図 に示 し た よ う にDNA配 列 に対 す る 親 和 性 に依 存 して,ピ ス トン8量 体 が(CTG)n上(a),あ る い は そ れ 以 外 の 配 列(b)に 結 合 す る。 こ こ で(CTG)nか ら遠 い 位 置 に あ る2つ の ユ ニ ー ク制 限 酵 素 部 位 で プ ラ ス ミ ドを切 断 し,一 方 の制 限 酵 素 断 片 に 選 択 的 に ビオ チ ン化 オ リ ゴヌ ク レオ チ ドを連 結 す る。 ス トレプ トア ビ ジ ン を添 加 す る こ とに よ り ビオ チ ンが 結 合 した プ ラ ス ミ ド末 端 を特 異 的 に標 識 す る こ とが で き る。 これ ら の分 子 を 電 顕 で 観 察 す る と,ス トレプ トア ビジ ンが 結 合 し た末 端(マ ー カ ー)と ヌ ク レ オ ソ ー ム が形 成 した 様 子 が 観 察 で き,マ ー カ ー との 距 離 を測 定 す る と ヌ ク レオ ソ ー ム 形 成 が プ ラ ス ミ ド上 の どの 部 分(配 列)に 相 当 す る か をマ ップ す る こ と が で き る。 こ の 実 験 を各 リピ ー ト数 を も つ プ ラ ス ミ ドお よ び対 照 と して(CTG)nを 含 ま な い ベ ク 9 ター で行 な い,約100個 ず つ の分 子 の ヌ ク レオ ソー ム 分 布 を調 べ た。
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20 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.4(1997) 2.(CTG)nと(CGG)nは ヌ ク レ オ ソ ー ム 結 合 能 に 関 し て ま っ た く 正 反 対 の 性 質 を も つ 染 色 体 の基 本 的 構 造 単 位 で あ るヌ ク レオ ソー ム は,ピ ス トン 蛋 白 質8量 体 の 周 囲 に146bpか ら な る2本 鎖 DNAが 規 則 的 に 巻 きつ い た 構 造 を有 し て お り,ゲ ノ ム DNAを コ ンパ ク トに折 りた た ん で い る。 一 方,ヌ ク レ オ ソー ム 構 造 を形 成 して い な いDNA配 列 部 分 は転 写 が 活 性 化 さ れ た 領 域 で あ る 。 し た が っ て,ト リ プ レ ッ ト リ ピ ー トの 転 写 活 性 に及 ぼ す 影 響 をヌ ク レ オ ソ ー ム 結 合 能 の 比 較 か ら分 析 す る こ と は,遺 伝 子 発 現 制 御 の観 点 か ら非 常 に 興 味 深 い 。 ノ ー ス キ ャ ロ ラ イ ナ 大 学 の Griffithら の グル ー プ は,各 種 の コ ピー 数 を もつ(CTG)n の ヌ ク レ オ ソ ー ム形 成 を,電 子 顕 微 鏡(EM)に よ る直 接 観 察 と競 合 的 ヌ ク レ オ ソ ー ム 再 構 成 実 験 を行 な う こ とに よ り詳 細 に分 析 し,(CTG)nが リ ピー トの 長 さ依 存 的 に こ れ ま で で 最 強 の ヌ ク レオ ソ ー ム 結 合 能 を有 す る こ とを発 見 した12,13)。図9に そ の 方 法 の概 略 を示 す 。 図 中 に示 し た よ う に リ ピー ト数 の増 加 に 応 じて(CTG)n 上 に優 先 的 に ヌ ク レ オ ソ ー ム が 形 成 す る こ と が 明 らか に な っ た 。 こ の こ とは と くに伸 長 したCTGブ ロ ックが, 局 所 的 な ク ロマ チ ン構 造 を大 き く変 化 さ せ う る 非 常 に 安 定 な ヌ ク レオ ソー ム を形 成 し て い る こ と を示 し て い る12)。 伸 長 したCTGブ ロ ック(15お よび130リ ピー ト)が どれ く ら い 熱 力 学 的 に 安 定 な ヌ ク レ オ ソ ー ム を形 成 す るか は,競 合 的 ヌ ク レ オ ソー ム 再 構 成/ゲ ル シ フ トア ッ セ イ に よ り明 らか にな った13)。 この 報 告 で は これ まで 知 られ て い る 最 強 の ヌ ク レ オ ソ ー ム ポ ジ シ ョ ニ ン グ 配 列 の ひ とつ で あ るア フ リカツ メ ガエ ル(Xmopus borealis) の 体 細 胞5SRNA遺 伝 子 由来 の 配 列 を比 較 と して 用 い て い る。CTGブ ロ ッ ク は これ らの対 照DNAよ りも75 リ ピー トで5.6倍,130リ ピー トで は8.1倍 強 い結 合 力 を もつ こ とが判 明 し た 。 つ ま り,伸 長 したCTGリ ピー トは 天 然 に 存 在 す る 配 列 の な か で は最 も強 固 な ヌ ク レ オ ソ ー ム を形 成 す る 。 これ ら は,局 部 的 な ク ロ マ チ ン 構 造 の 異 変 を もた ら し,転 写 複 合 体 の進 行 を 妨 げ る と 考 え られ る 。 また,DNA複 製 時 に は開 始 複 合 体(DNA が ヌ ク レ オ ソ ー ム フ リー の1本 鎖 に な る)の 形 成 を 阻 止 し,DNAポ リ メ ラ ー ゼ の 進 行 を妨 げ(ポ リメ ラ ー ゼ の 停 止 お よ び ア イ ド リン グ),そ の 結 果,ト リプ レ ッ ト リ ピ ー トの ス リ ッペ ー ジ と異 常 伸 長 を 促 す 可 能 性 が あ る。 し か し な が ら リ ピ ー トの 伸 長 し たDM患 者 で は mRNAレ ベ ル に 変 化 が み られ な い と い う報 告 もあ り, 転 写 レベ ル で の 影 響 に つ い て は,単 に直 接 的 なDM遺 伝 子 の 不 活 性 化 機 構 を考 え る よ り は 隣 接 し た ク ロ マ チ ン構 造 に対 す る影 響 も考 慮 す る必 要 が あ る 。 これ を 支 持 す る デ ー タ と し て,本 来DNaseIに 感 受 性 を示 した DMに 隣 接 し た 遺 伝 子 領 域 が,約2,000リ ピ ー トの CTGブ ロ ック の 存 在 に よ り非 感 受 性 に な っ た とい う報 告 が あ る22)。DM遺 伝 子 の5'側 に は約500bpと い う近 接 した 位 置 に59遺 伝 子 が,ま た リピー トの下 流(3'側) に はD伍4EP遺 伝 子 が 存 在 す る(図1参 照)。 した が っ て,DMの 発 症 メ カ ニ ズ ム の 背 景 に は3'非 翻 訳 領 域 CTGリ ピー トの 異 常 伸 長 に伴 う これ らDM遺 伝 子 周 辺 に あ る遺 伝 子 の発 現 レ ベ ル の変 動 が 複 雑 に関 係 して い る と予 想 さ れ る23)。 で は(CGG)nの ヌ クオ ソー ム 形 成 能 は ど うか?筆 者 ら は,構 築 し た さ ま ざ ま な コ ピ ー 数 の(CGG)nを 含 む プ ラ ス ミ ドを材 料 と してGrifnthら との 共 同 研 究 によ り,CGGリ ピー トが 連 続 して50コ ピ ー以 上 あ る場 合, そ の 配 列 上 で の ヌ ク レオ ソ ー ム 形 成 能 が 顕 著 に低 下 す る こ と を見 い だ した15)。 これ は前 述 のCTGリ ピー トの 場 合 と ま っ た く正 反 対 の 結 果 で あ る。 さ らに シ トシ ン 塩 基 が メ チ ル 化 さ れ た(CGG)nは,よ り強 くヌ ク レ オ ソーム を排 除 す る こ とか ら,X染 色 体 の脆 弱 部 位 形 成*6 お よ びFMR-1遺 伝 子 の 不 活 性 化 に至 る過 程 に つ い て 次 の よ うな メカニ ズム が提 唱 され てい る14)。伸 長 したCGG ブ ロ ッ ク は[(G/C)3NN]nモ チ ー フ を 含 み,ヌ ク レ オ ソー ム の ヒ ス トン コ ア に 巻 きつ か な い 性 質 を もつ 。 複 製 時 のエ ラー に伴 い リピー トの コ ピー 数 が 増 加,(CGG)n は ます ま す ヌ ク レ オ ソ ー ム フ リー の状 態 に な り,メ チ ル 基 転 移 酵 素 の この 領 域 へ の 接 近 を容 易 に し(CGG)n が メ チ ル 化 さ れ た 状 態 に な る。 こ こで(mCGG)nは よ り ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 を 排 除 し,メ チ ル-CpG-結 合 蛋 白 質 のDNAへ の 結 合 を促 進,転 写 を抑 制 す る。 こう して 染 色 体 脆 弱 部 位 の 形 成 とFMR-1遺 伝 子 の転 写 の不 活 性 化 を もた らす とい う も の で あ る℃ 関 連 し た研 究 に よ り[(G/C)3NN]nモ チ ー フ は一 般 的 に ヌ ク レ オ ソ ー ム *6 脆 弱X症 候 群 は も と も とX染 色 体 上 に見 い だ され た葉 酸 感 受性 の 脆 弱 部 位 の 出 現 が こ れ らの 患 者 に観 察 され た こ とか ら名 づ け ら れ た 。 染 色 体 脆 弱 部 位 と は,不 安 定 な ク ロ マ チ ン構 造 を特 徴 とし,染 色 さ れ に く く,染 色 体 ギ ャ ップ あ るい は染 色体 分 断 部 位 と し て 観 察 され る。
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図10 1本 鎖 ト リ プ レ ッ ト リ ピ ー ト(CTG,CGG,CCG)配 列 か ら形 成 さ れ る ヘ ア ピ ン お よ び セ ル フ 二 重 鎖 構 造 を排 除 す るDNA配 列 で あ る こ とが報 告 さ れ て い る24)。 このモチ ー フ を もっ遺 伝 子 をGenBankで 検 索 して 得 ら れ た一 部 の 遺 伝 子 は プ ロ モ ー タ ー領 域 にTATAボ ック スを欠 く,い わ ゆ るTATA-less遺 伝 子 で あ っ た。 こう してCGGリ ピー ト配 列 と遺 伝 子 発 現 調 節 の関 係 が 密 接 に関係 づ け ら れ て きた 。 IV.オ リゴ ヌ ク レオ チ ドを 用 い た 構 造 解 析-1本 鎖 DNA(ssDNA)か ら形成 され る ヘ ア ピン お よび 四 重鎖 構 造 I節 で 述 べ た よ う に,ト リプ レ ッ ト リ ピー トの 伸 長 の機 構 を説 明 す る,DNA複 製 中 のヘ ア ピン構 造 形 成 が 一般 に受 け入 れ られ て い る。 合 成 オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド を用 い た構 造 解 析(NMR,Tm測 定,未 変 性PAGE, 化学 的 お よ び 酵 素 的 プ ロー ビ ング)の 結 果 は,そ の モ デ ル を よ く支 持 し て い る。 1.ss(CTG)は 分 子 内 で 安 定 な ヘ ア ピ ン 構 造 を 形 成 す る プ ラ ス ミ ドに ク ロ ー ニ ン グ され た(CTG)n配 列 の 安 定性 が,ColE1複 製 開 始 点 か ら の複 製 の 方 向 に強 く依 存 してお り,ラ ギ ン グ鎖 にお い てCTGリ ピー トが 優 先 的 にヘア ピ ン を形 成 す る こ とで 説 明 で きる こ とをI節 で 述べ た。 モ デル の根 拠 とな った の はGaoら に よ るNMR 解析 で,ss(CTG)3がss(CAG)3と 比 べ て安 定 な ア ン チパ ラ レル2本 鎖 を形 成 す る こ とが 見 いだ され た25)。重 要 な点 は,相 対 す るT・Tが2本 の水 素 結 合 で 安 定 化 され た ミス マ ッ チ塩 基 対 を 形 成 す る と い う こ とで あ る。 この よ うな 水 素 結 合 形 成 は[(CAG)3]2に お け るA・A トリプ レッ トリピー ト病の分子機構 21 に は み られ な か っ た 。Gacyら も25リ ピー トを 用 い た NMR解 析 で,両 鎖 が そ れ ぞれ 分 子 内 ヘ ア ピ ン構 造 を と り う るが,ss(CTG)25の ほ うが 安 定 で あ っ た と報 告 し て い る18)。最 近,Guptaら はss(CTG)5お よ びss (CTG)6を 用 い てNMRと 宋 変 性 ゲ ル 電 気 泳 動 に よ り こ れ ら が 安 定 な分 子 内 ヘ ア ピ ン構 造 を と る こ と を 証 明 し た26)。ヘ ア ピ ン構 造 は隣 接GC塩 基 対 に ス タ ッキ ング し たT・T水 素 結 合 を 含 ん で い る。 ル ー プ部 分 の 塩 基 の数 は,奇 数 リ ピー トで は3(図10a),偶 数 リ ピー ト で は4で あ り(図10b),い ず れ の 場 合 もル ー プ 内 にG を1つ 有 す る。 これ と一 致 した 結 果 がMitasら に よ っ て も別 な解 析 方 法 を 用 い て 得 られ て い る19)。ss(CTG)n お よ びss(CAG)n(n=10,30)よ り形 成 され るヘ ア ピ ン の 熱 力 学 安 定 性 に つ い て の 報 告 で も27),や は りSS (CTG)nヘ ア ピン が 熱 的 に安 定 で あ る こ とが 示 され た 。 2.ss(CCG)nは ヘ ア ピ ン構 造 を 形 成,ss(CGG)nは 多 様 な 構 造(ヘ ア ピン,セ ル フ 二 重 鎖,四 重 鎖)を 形 成 す る Smithら は,ss(CCG)15お よ びss(CGG)15が ヘ ア ピ ン構 造 を形 成 す る こ とを未 変 性PAGEに よ り示 した28)。 ヒ トの メ チ ル 基 転 移 酵 素 に よ るCpGの メ チ ル 化 はss (CCG)15の ほ う がss(CGG)15配 列 よ り も約8倍 早 く, 酵 素 がss(CCG)nか ら形 成 され るヘ ア ピ ン構 造 を よ り好 んで 認 識 す る ら しい。 この結 果 は,FNR-1遺 伝 子 の不 活 性 化 機 構(図2)と 関 連 が あ る とす る と非 常 に興 味 深 い14)。さ ら にSmithとGuptaの 両 グ ル ー プ は 未 変 性 PAGE,NMR実 験 に よ り,ss(CCG)がss(CGG)よ りもヘ ア ピンを容 易 に形 成 す る と結 論 した29)。ss(CCG)n は そ の コ ピー 数 に か か わ ら ず 常 に 分 子 内 で ヘ ア ピ ン構 造 を形 成 す るが,ss(CGG)nは 分 析 す る条 件(コ ピー数, NaCl濃 度,オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ドの 濃 度)に よ りヘ ア ピ ン(図10d)あ る い は ア ンチ パ ラ レル セ ル フ 二 重 鎖(図 10c)を 形 成 し,後 者 に はG(syn)・G(anti)塩 基 対 が 確 認 され て い る。 最 近Guptaら は,さ らに詳 細 なNMR 解 析 の結 果 を示 し,ss(CCG)n(n=5∼7)は ス テム に ミ ス マ ッ チC・C塩 基 対 を含 む3あ るい は4ル ー プヘ ア ピ シ を形 成 し た と報 告 して い る(図10e,f)30)。 こ の ほ か 15リ ピー ト以 上 のss(CGG)nが100mMKCI存 在 下 で ヘ ア ピ ン構 造 を形 成 す る ことが 未 変 性PAGE,化 学 的 ・ 酵 素 的 プ ロ ー ビ ン グ で 示 され て い る31,32)。 ss(CGG)nが 四 重 鎖 構 造 を 形 成 す る と い う報 告 も あ
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22 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.4(1997) る 。Loebら は未 変 性PAGEに よ り(CGG)7が 分 子 間 四 重 鎖 を形 成 す る こ と を示 し た33)。CpGの メ チル 化 は こ れ を促 進 す る効 果 が あ り,そ の場 合n=5で も複 合 体 形 成 が 検 出 さ れ た 。 この 結 果 を 受 け てPatelら はCGG を 含 む 四 重 鎖 構 造 をss(GCGGTTTGCGG)を モ デ ル 配 列 と してNMR解 析 を行 な い,Na+存 在 下 でhead-to-tail型 に2量 化 し た,G-お よ びG,C-カ ル テ ッ トを 含 む 複 合 体 の 塩 基 対 形 成 様 式 を 明 らか に し た34)。 ま た (CGG)、 。を含 む1本 鎖 環 状DNAか ら形 成 さ れ る 四 重 鎖 構 造 がDNAポ リ メ ラ ー ゼ の 進 行 をin vitroで ブ ロ
ッ ク す る こ とがUsdinら に よ り示 さ れ て い る35)。 現 在 の とこ ろ,ss(CCG)nがDNA複 製 中 にヘ ア ピン 構 造 を形 成 し,優 先 的 に ス リ ッペ ー ジ,異 常 増 幅 を起 こす と い う の が 定 説 に な りつ つ あ るが,ss(CAG)nの 場 合 と は 異 な りss(CGG)nか ら形 成 さ れ る 高 次 構 造 に は 安 定 化 に 寄 与 す る 水 素 結 合 が 存 在 す る の で,ss (CGG)nも 十 分 ヘ ア ピン構 造 や その 他 の 特 殊 構 造 を形 成 し,リ ピー トの 不 安 定 化 を も た らす もの と考 え られ る 。 お わ りに 本 稿 で は ト リ プ レ ッ ト リ ピー ト病 の 分 子 機 構 解 明 を め ざ し,DNAの 特 殊 構 造 に着 目 した研 究 につ い て 筆 者 の 関 与 して きた もの を 中 心 に 述 べ て き た。 こ れ ま で の 特 殊 構 造 研 究 は な か な か 生 物 機 能 を直 接 説 明 す る ま で は至 っ て い な い が,ト リ プ レ ッ ト リ ピー ト研 究 の 場 合,遺 伝 子 疾 患 とい う表 現 型(生 物 機 能)が ま ず 見 つ か り,そ の 後 で そ れ を説 明 で きる機 構(構 造)を 明 ら か に す る とい う,こ れ ま で と は ま っ た く正 反 対 の 方 向 に研 究 が 進 ん で きて い る 。DNA複 製 時 に リ ピー ト が どの よ う な機 構 で 異 常 増 幅 す る の か,ま た な ぜ 不 安 定 な の か につ い てのDNA構 造 レベ ルで の考 察 はin vivo で の直 接 証 拠 に 欠 け る もの の,あ る 程 度 な され て きた 。 しか し,ト リプ レ ッ ト リ ピー ト配 列 が 遺 伝 子 発 現 に及 ぼ す 影 響 は少 な く と もDNA複 製,mRNAへ の転 写, mRNAの プ ロセ シ ン グ の3つ の段 階 を考 慮 す る必 要 が あ り,今 後 さ ら な るin vitro,in vivoで の 研 究 が 行 な わ れ る だ ろ う。 ま た,ト リプ レ ッ ト リ ピー ト病 の 原 因 遺 伝 子 の 正 常 機 能 に つ い て も ま だ ま だ不 明 な こ と ば か りで あ り,疾 患 の分 子 レベ ル で の機 構解 明 そ し て 疾 患 治 療 を め ざ し て さ ら な る研 究 が 期 待 さ れ る 。 非 常 に興 味 深 い の は,各 疾 患 の原 因 遺 伝 子 の ホ モ ロ グ が 他 の生 物 種 に も保 存 され て 存 在 す る と い う こ とで あ り,将 来 関 連 す る 研 究 が 意 外 な 発 見 に つ な が る か も し れ な い 。 こ こ に紹 介 した 研 究 の 大 部 分(I∼III節)は 筆 者 が2年 聞 の ボ ス ドク期 間 を過 ご した,Robert D.Wells博 士(Institute of Bio-sciences and Technology,Texas A&M University)の 研 究 室 で 行 な わ れ た もの で あ る。 筆 者 自身,今 後 はモ デ ル動 物 シ ステ ム を用 い て ト リプ レ ッ トリ ピ ー ト病 の分 子 機 構 に と り くみ,少 し で も疾 患 の解 明 に 寄 与 で きれ ば と願 っ て い る 。
文
献
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トリプ レッ トリピー ト病 の分子機構 23