• 検索結果がありません。

Title アカウンタビリティ論からみたインフラ開発援助に関する研究 ( Dissertation_ 全文 ) Author(s) ドイル, 恵美 Citation 京都大学 Issue Date URL

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Title アカウンタビリティ論からみたインフラ開発援助に関する研究 ( Dissertation_ 全文 ) Author(s) ドイル, 恵美 Citation 京都大学 Issue Date URL"

Copied!
174
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Title

アカウンタビリティ論からみたインフラ開発援助に関す

る研究( Dissertation_全文 )

Author(s)

ドイル, 恵美

Citation

京都大学

Issue Date

2018-03-26

URL

https://doi.org/10.14989/doctor.k21061

Right

Type

Thesis or Dissertation

(2)

アカウンタビリティ論からみた

インフラ開発援助に関する研究

(3)
(4)

目次

第 1 章 序 論 ... 1 1. 1 研 究 背 景 ... 1 1. 2 研 究 目 的 ... 4 1. 3 論 文 構 成 ... 8 参 考 文 献 ... 10 第 2 章 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 理 論 か ら み た 国 際 開 発 援 助 ... 11 2. 1 は じ め に ... 11 2. 2 国 際 開 発 援 助 お け る 援 助 ス キ ー ム の 整 理 ... 16 2. 3 国 際 援 助 協 力 に お け る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ : 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ... 29 2. 4 お わ り に ... 34 参 考 文 献 ... 37 第 3 章 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の ゲ ー ム 理 論 的 解 釈 ... 41 3. 1 は じ め に ... 41 3. 2 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の ゲ ー ム 理 論 的 解 釈 ... 43 3. 3 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の イ ン セ ン テ ィ ブ 論 ... 47 3. 5 お わ り に ... 60 参 考 文 献 ... 62

(5)

第 4 章 ポ ス ト ・ オ ン ス テ ー ジ 理 論 : ベ ト ナ ム の 事 例 ... 63 4. 1 は じ め に ... 63 4. 2 技 術 の 高 コ ン テ ク ス ト ・ 低 コ ン テ ク ス ト ... 66 4. 3 オ ン ス テ ー ジ 型 ( 日 本 型 思 考 ) の 技 術 開 発 ... 69 4. 4 技 術 の 脱 ・ 再 構 築 プ ロ セ ス : リ ン ガ ・ フ ラ ン カ ... 74 4. 5 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の ガ バ ナ ン ス ... 77 4. 6 事 例 : ベ ト ナ ム に お け る 「 京 都 モ デ ル 」 ... 83 4. 7 お わ り に ... 86 参 考 文 献 ... 91 第 5 章 開 発 援 助 に お け る 社 会 構 造 : ラ オ ス の 事 例 ... 95 5. 1 は じ め に ... 95 5. 2 政 府 (国 家 )・ 市 場 ・ 市 民 社 会 の 失 敗 ... 98 5. 3 市 民 社 会 の 意 思 決 定 プ ロ セ ス ... 106 5. 4 事 例 : ラ オ ス に お け る 参 加 型 地 域 道 路 整 備 モ デ ル ... 113 5. 5 お わ り に ... 125 参 考 文 献 ... 128 第 6 章 イ ン フ ラ 整 備 に お け る ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト ... 133 6. 1 は じ め に ... 133 6. 2 国 際 開 発 事 業 に お け る 事 業 評 価 ... 135

(6)

6. 3 正 統 性 キ ャ パ シ テ ィ ... 138 6. 4 イ ン フ ラ 事 業 に お け る ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト ... 141 6. 5 お わ り に ... 151 参 考 文 献 ... 153 第 7 章 結 論 ... 155 謝 辞

(7)

図目次

図 1-1 学 習 的 プ ロ セ ス と ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ・・・・・・・・・・・・ 5 図 2-1 案 件 形 成 段 階 に お け る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ・・・・・・・・・・・・ 16 図 2-2 有 償 資 金 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 ・・・・・・・・・・・・ 19 図 2-3 無 償 資 金 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 ・・・・・・・・・・・・ 22 図 2-4 技 術 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 ・・・・・・・・・・・・ 24 図 2-5 ボ ラ ン テ ィ ア 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 ・・・・・・・・・・・・ 25 図 2-6 異 文 化 へ の U カ ー ブ 適 用 過 程 ・・・・・・・・・・・・ 27 図 2-7 開 発 援 助 に お け る 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ・・・・・・・・・・・・ 32 図 2-8 開 発 援 助 に お け る 理 想 的 な 援 助 モ ダ リ テ ィ ・・・・・・・・・・・・ 35 図 3-1 援 助 国 A, B の 戦 略 と 利 得 (裨 益 効 果 の 最 大 化 ) ・・・・・・・・・・・・ 44 図 3-2 4 者 の 戦 略 (国 民 の 支 持 が 国 の 利 得 に 大 き く 影 響 す る 場 合 )と 真 の 値 を 入 れ た と き の 利 得 行 列 ・・・・・・・・・・・・ 50 図 3-3 援助国と被援助国の主観的展開ゲーム ・・・・・・・・・・・・ 53 図 3-4 中 間 技 術 の 考 案 が 可 能 な 場 合 の 主 観 的 展 開 ゲ ー ム ・・・・・・・・・・・・ 55 図 4-1 認知言語学におけるオンステージ・オフステージ ・・・・・・・・・・・・ 70 図 4-2 認知科学における自己,内集団,外集団の関係 ・・・・・・・・・・・・ 71 図 4-3 技術開発におけるオン・オフステージ理論 ・・・・・・・・・・・・ 72 図 4-4 ポ ス ト ・ オ ン ス テ ー ジ 理 論 の 概 念 図 ・・・・・・・・・・・・ 76 図 4-5 理想的な国際ネットワークと一極化しているネット ワーク ・・・・・・・・・・・・ 89

(8)

図 5-1 市場・政府・市民社会の社会構造 ・・・・・・・・・・・・ 105 図 5-2 マクロ・ミクロおよび混合討論プロセス ・・・・・・・・・・・・ 109 図 5-3 ラオス地域道路整備プロジェクト配置図 ・・・・・・・・・・・・ 116 図 5-4 ボリカムサイ県プロジェクト詳細図 ・・・・・・・・・・・・ 117 図 5-5 ウドムサイ県プロジェクト詳細図 ・・・・・・・・・・・・ 117 図 6-1 長期目標(共通価値)に向かった高次的なループ ・・・・・・・・・・・・ 136 図 6-2 自己超越プロセスとしての知識創造 ・・・・・・・・・・・・ 144 図 6-3 橋梁管理におけるアダプティブマネジメントモデル ・・・・・・・・・・・・ 146 図 6-4 アダプティブマネジメントによる統計的劣化曲線の変 化 ・・・・・・・・・・・・ 148 図 6-5 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に お け る マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム ・・・・・・・・・・・・ 149

(9)

表目次

表 2-1 有 償 資 金 協 力 の 受 注 実 績 ( 2013-2014 年 度 ) ・・・・・・・・・・・・ 19 表 5-1 プ ロ ジ ェ ク ト コ ス ト と 各 関 係 者 の 資 金 分 担( ボ リ カ ム サ イ 県 ) ・・・・・・・・・・・・ 119 表 5-2 プ ロ ジ ェ ク ト コ ス ト と 各 関 係 者 の 資 金 分 担( ウ ド ム サ イ 県 ) ・・・・・・・・・・・・ 119 表 5-3 地 域 住 民 の 会 議 や 計 画 ・ 建 設 へ の 参 加 日 数 (平 均 ), 建 設 前 の 技 術 指 導 の 有 無 ・・・・・・・・・・・・ 120

(10)
(11)
(12)

第 1 章 序論

1. 1 研 究 背 景

1980 年 代 以 降 , 実 質 の GDP 成 長 率 や 統 計 等 か ら も 国 内 経 済 同 様 , 海 外 に お け る 日 本 企 業 の 停 滞 は 明 ら か で あ る . そ の 後 , 2000 年 代 に 入 り , 日 本 政 府 は イ ン フ ラ 輸 出 に お け る 官 民 連 携 を 強 く 推 進 し ,多 く の 方 針 や 対 策 を 打 出 し て き た が ,中 国 や 韓 国 の よ う に 国 家 が 主 体 と な っ て 国 際 受 注 競 争 を 受 注 す る 意 識 と 国 家 政 策 が ま だ 成 熟 お ら ず ,世 界 市 場 に お け る イ ン フ ラ 受 注 に お い て は ,韓 国 お よ び 中 国 に 大 き く 遅 れ を と っ て い る の が 現 状 で あ る . 2010 年 に 経 済 産 業 省 が 纏 め た 「 イ ン フ ラ 関 連 産 業 の 海 外 展 開 の た め の 総 合 戦 略 」 で は , 世 界 全 体 で 必 要 な 投 資 額 は 年 間 約 1 兆 6000 億 ド ル , ア ジ ア 地 域 だ け で も 年 間 7500 億 ド ル と 概 算 さ れ て お り , イ ン フ ラ 整 備 を 基 に 経 済 発 展 を 遂 げ て き た 日 本 企 業 に と っ て は ,重 要 且 つ 巨 大 な 市 場 で あ る と い え る .こ れ を 背 景 に ,日 本 政 府 は 戦 略 的 に「 パ ッ ケ ー ジ 型 イ ン フ ラ 輸 出 」推 進 を 開 始 し ,2012 年 に は , イ ン フ ラ ・ シ ス テ ム 輸 出 を 官 民 一 体 と な っ て 推 進 で き る 「 経 協 イ ン フ ラ 戦 略 」 を 設 置 し た . つ い で , 2013 年 に は 国 際 協 力 機 構 (JICA)の 円 借 款 の 制 度 改 善 に よ る 投 資 拡 充 や 民 間 連 携 を 新 設 し ,国 際 協 力 銀 行( JBIC)の 海 外 展 開 支 援 出 資 フ ァ シ リ テ ィ 設 置 等 の 海 外 進 出 に お け る 民 間 企 業 の リ ス ク 低 減 の た め の 整 備 も 強 化 し た .こ れ ら の 整 備 と 同 時 に 政 府 は 日 本 の 企 業 や 教 育 機 関 に 対 し て も 支 援 を 開 始 し ,ス ー パ ー グ ロ ー バ ル ハ イ ス ク ー ル や ス ー パ ー グ ロ ー バ ル 大 学 と い っ た 教 育・研 究 支 援 を 通 し た 教 育 改 革 を 行 い ,人 材 育 成 に お け る 国 際 競 争 力 の 強 化 も 含 め ,包 括 的 に 推 進 し よ う と し て い る .加 え て ,経 済 再 生 の た め に は ,イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 造 す る べ き で あ る と し ,企 業 や 研 究 機 関 の イ ン フ ラ 新 技 術 開 発 や 国 際 展 開 に お い て も 支 援 を 開 始 し た . 2014 年 に は , 海 外 イ ン フ ラ 市 場 へ の 日 本 企 業 参 入 を 促 進 す る 政 府 が 民 間 と 共 に( 株 )海 外 交 通・都

(13)

市 開 発 事 業 支 援 機 構 を 設 立 ,2015 年 に は ア ジ ア 開 発 銀 行( ADB)と の 協 調 融 資 を 強 化 ,2016 年 の G7 や TICAD で も「 質 の 高 い イ ン フ ラ 戦 略 」を 首 相 自 ら が 発 信 す る 等 ,内 閣 府 を 筆 頭 に 文 部 科 学 省 ,財 務 省 ,経 済 産 業 省 が 横 断 的 に「 イ ン フ ラ パ ッ ケ ー ジ 輸 出 」に 向 け て ,着 実 に 戦 略 を 打 出 し ,2020 年 ま で に 約 30 兆 の 受 注 を 目 指 し て い る 1 ) 日 本 政 府 に お け る「 質 の 高 い イ ン フ ラ 戦 略 」と は ,1)経 済 性( ラ イ フ サ イ ク ル ・ コ ス ト の 低 減 等 ) , 2)安 全 性 , 3) 自 然 災 害 へ の 強 靭 性 , 4)環 境 ・ 社 会 へ の 配 慮 ,5)現 地 の 社 会・経 済 へ の 貢 献( 技 術 移 転 お よ び 人 材 育 成 )と 定 義 さ れ て お り ,イ ン フ ラ と は ,日 本 の 産 業 の 高 度 化 に よ る 個 別 の 機 器 ,設 備 の 納 入 だ け で な く , 設 計 か ら 建 設 そ し て 維 持 管 理 ま で 含 め た 総 括 的 な シ ス テ ム と し て , 付 加 価 値 の 高 い も の と し て 定 義 さ れ て い る . 今 般 ,こ の イ ン フ ラ 分 野 で は ,欧 米 諸 国 は じ め ,中 国 ,韓 国 が 官 民 一 体 と な っ て 受 注 競 争 に 参 入 し て お り ,国 際 競 争 の 中 で 戦 略 的 か つ 効 果 的 に こ れ ら を 達 成 す る た め に は ,日 本 独 自 の 戦 略 的 ア プ ロ ー チ が 求 め ら れ る と い え る .戦 略 の ア プ ロ ー チ は ,技 術・フ ァ イ ナ ン ス・価 格・人 材・制 度 整 備 等 あ ら ゆ る 方 面 か ら , 統 括 的 に 行 わ な け れ ば な ら な い . 中 で も , 我 が 国 は 価 格 競 争 だ け で な く , 法 整 備 や 制 度 か ら の ア プ ロ ー チ が 極 め て 弱 い の が 特 徴 で あ る .法 整 備 や 制 度 は 官 民 が 一 体 と な っ て 戦 略 を 策 定 し な け れ ば な ら な く ,開 発 援 助 は そ の 戦 略 を 効 果 的 に 活 用 で き る 手 段 で あ る .長 年 に わ た り ,被 援 助 国 に 対 し ,JICAか ら 技 術 や 法 整 備 の ア ド バ イ ザ ー 等 , 途 上 国 の 主 要 機 関 に 専 門 家 が 派 遣 さ れ て い る が , 相 手 国 の 制 度 改 革 へ の 影 響 力 は ,他 の 欧 米 の ド ナ ー に 比 較 し て 極 め て 弱 い .加 え て ,日 本 政 府 が 内 政 干 渉 を 行 わ な い 方 針 か ら ,政 策 ア ド バ イ ザ ー 等 を 相 手 国 政 府 の 中 枢 に 専 門 家 を 派 遣 す る こ と も 比 較 的 少 な く ,被 援 助 国 の 中 枢 機 関 へ の 入 省 後 も ,相 手 国 政 府 の 上 層 部 に 対 し て ,積 極 的 に 開 発 計 画 や 制 度 設 定 に 提 言 で き る 専 門 家 が 少 数 で あ る の が 現 状 で あ る .

(14)

イ ン フ ラ 輸 出 の 拡 大 ,そ し て 強 化 に あ た っ て は ,早 急 に 現 地 相 手 国 と の パ イ プ 役 と な る 日 本 人 専 門 家 を 増 強 し ,在 外 大 使 館 を 中 心 に し た タ ス ク フ ォ ー ス を 日 本 の 戦 略 的 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し て 強 化 さ せ る 必 要 が あ る だ ろ う .戦 略 的 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と は ,現 地 相 手 国 に お け る ニ ー ズ や 現 状 を 把 握 し て い る 専 門 家 を 通 し て ,現 地 の イ ン フ ラ 需 要 情 報 を 集 結 し ,日 本 企 業 と 現 地 企 業 と の マ ッ チ ン グ や ,相 手 国 の 開 発 計 画 や 制 度 設 定 に 積 極 的 に 関 与 し て い か な け れ ば な ら な い .そ し て ,プ ラ ッ ト フ ォ ー ム に あ る 情 報 を 国 内 関 係 者 と 共 有 し ,官 民 一 体 で 取 り 組 む べ き 案 件 を 迅 速 に 取 捨 選 択 す る こ と が 求 め ら れ て い る . 我 が 国 の 強 み は ,高 品 質 な「 技 術 」と こ れ ま で 地 道 に 続 け て き た 外 交 に よ る 「 信 頼 」 で あ る . 我 が 国 は , 1950年 代 か ら 戦 後 賠 償 と し て 支 援 を 開 始 し た 後 , 技 術 を 持 っ た 専 門 家 や 青 年 海 外 協 力 隊 を 派 遣 し ,現 地 の 技 術 者 や 住 民 と 密 な 信 頼 関 係 を 築 き な が ら 草 の 根 的 に 着 実 に プ ロ ジ ェ ク ト を 遂 行 し て い る 日 本 特 有 の 強 固 な 援 助 形 式 が 存 在 し て い る .し か し ,過 去 の 援 助 モ ダ リ テ ィ に 固 執 す る こ と は ,行 動 に 制 約 を 与 え ,国 際 競 争 に 遅 れ を と っ て し ま う .現 在 求 め ら れ る こ と は ,歴 史 的 に 継 続 的 に 再 生 産 さ れ て き た 日 本 的 援 助 ア プ ロ ー チ の メ カ ニ ズ ム を 分 析 し ,そ れ を 再 生 産 し つ つ も 新 し い 柔 軟 な ア プ ロ ー チ を 見 出 す こ と に あ る .

(15)

1. 2 研 究 目 的

行 政 管 理 の 一 般 的 な サ イ ク ル は , 「 PDCA( PLAN-DO-CHECK-ACT) 」 と 呼 ば れ る 計 画 → 実 行 → 評 価 → 改 善 と い う マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル で あ る .我 が 国 の 開 発 援 助 に か か る プ ロ ジ ェ ク ト で は , プ ロ ジ ェ ク ト サ イ ク ル マ ネ ジ メ ン ト ( PCM)と 呼 ば れ て お り , 1960 年 代 に 導 入 さ れ た ロ ジ カ ル フ レ ー ム ワ ー ク と よ ば れ る 手 法 が 活 用 さ れ て い る( JICA は じ め NGO 等 で は ,プ ロ ジ ェ ク ト デ ザ イ ン マ ト リ ッ ク ス : PDM と 呼 ば れ て い る ) . こ れ は , 目 標 や 目 的 を 効 果 的 に 達 成 す る た め に ,プ ロ ジ ェ ク ト を 管 理 し て い く 手 法 で あ る .し か し ,途 上 国 で は ,不 確 定 な 状 況 を 的 確 に 感 知 し ,そ れ ら を 分 析 し ,現 地 で 意 思 決 定 す る プ ロ セ ス が 求 め ら れ , 画 一 的 な マ ネ ジ メ ン ト で は 極 め て 難 し い は ず で あ り , 「 Logical Framework Analysis in an Illogical World 」 と い わ れ る よ う な , ロ ジ カ ル フ レ ー ム ワ ー ク の 批 判 的 研 究 も 多 く 存 在 す る 2 ) 3 ) 冒 頭 で 述 べ た よ う に ,開 発 援 助 を 通 し た イ ン フ ラ 輸 出 は ,す で に 世 界 の ビ ジ ネ ス 競 争 と な っ て い る .加 え て ,発 展 途 上 国 に お け る 予 期 せ ぬ 想 定 外 の 事 態 に 加 え , 近 年 の IT 化 に よ る 情 報 化 の 波 , 早 ま る 技 術 進 歩 の 速 度 に 即 し て い く た め に は ,迅 速 で 機 動 的 な 意 思 決 定 が 求 め ら れ ,そ の 意 思 決 定 方 法 を 明 確 化 す る こ と で 国 民 に 理 解 を 求 め る 方 法 が 必 要 に な っ て き た .同 時 に ,グ ロ ー バ ル 化 が 進 み ,情 報 が 瞬 時 に 交 差 し ,国 際 援 助 に お い て も 競 争 が 激 化 す る 中 で ,官 民 一 体 と な っ て 戦 う に は ,迅 速 さ だ け で な く 柔 軟 に 対 応 で き る 意 思 決 定 方 法 が 求 め ら れ て い る . 迅 速 で か つ 柔 軟 な 意 思 決 定 論 を 包 括 し た マ ネ ジ メ ン ト を 行 う た め に は ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 一 環 と し て 捉 え ら れ て き た 一 般 入 札 等 ,制 度 の 見 直 し も 必 要 に な る は ず で あ る . 澤 井 4 )も , 多 く の 援 助 実 施 機 関 や 開 発 途 上 国 の 事 業 実 施 機 関 の 最 大 の 関 心 は , 当 初 の 事 業 計 画 通 り の プ ロ ジ ェ ク ト 実 現 に あ り ,

(16)

プ ロ ジ ェ ク ト の 開 始 後 ,計 画 を 見 直 し ,修 正 し ,追 加 的 な 対 処 を 行 う 作 業 は , 大 き な 問 題 に 直 面 し な い 限 り ,ほ と ん ど 行 わ れ な い の が 実 情 で あ る と し て い る と 問 題 を 投 げ か け , ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト の 必 要 性 を 提 言 し て い る .

図 1-1 学 習 的 プ ロ セ ス と ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ

( Lonsdale and Bemelmasn-Videc 2007)

柔 軟 な 意 思 決 定 を 可 能 に す る ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト ( 順 応 的 管 理 ) と は ,生 態 系 や 森 林 保 全 等 ,予 期 で き な い 自 然 生 態 系 の 変 化 に 併 せ ,柔 軟 に 管 理 し て い く 手 法 で 一 般 的 に 使 わ れ て い る .ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト は ,建 設 的 で あ り な が ら , 意 思 決 定 を つ か さ ど る た め の 双 方 向 の プ ロ セ ス (Interactive process)で あ り , シ ス テ ム を 観 察 し な が ら , 不 確 定 性 を 減 少 さ せ ,シ ス テ ム を 変 化 さ せ る の で は な く 理 解 す る 手 法 で あ る と も 言 わ れ て い る 5 ). 事 実 , ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト は , 学 習 的 プ ロ セ ス を 通 じ て , 長 期 的 な 管 理 成 果 を 導 き 出 す た め に 効 果 的 で あ る が ,短 期 的 な 成 果 を 達 成 し な が ら , 長 期 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 改 善 を 行 う こ と は 極 め て 難 し い 6 ). 災 害 や 柔 軟 な マ ネ ジ メ ン ト 方 法 で あ る ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト が 開 発 援 助 に 一 般 的 に 用 い ら れ な い 背 景 と し て は , 一 般 に 活 用 さ れ る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ (説 学習 アカウンタビリティ 学習目的の内部評価 財務監査 0 100 100 内部評価であるが公表 される 提言目的の内部評価 委託による外部評価 組織的なパフォーマンス評価 外部に公表するパフォーマンス評価

(17)

明 責 任 )と 学 習 機 能 を 持 っ た ア ダ プ テ ィ ビ テ ィ (柔 軟 性 )が , 図 1-1 に 表 さ れ る よ う に , ト レ ー ド オ フ の 関 係 が 背 景 と し て 存 在 す る と 考 え ら れ る 7 ) 今 般 ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 概 念 が 広 ま る に つ れ て ,よ り 政 府 や 行 政 の 職 務 は ,国 民 お よ び 市 民 へ の 説 明 に 対 応 が 追 わ れ ,成 果 が 見 え る 目 標 ,説 明 の し や す い 目 標 と い っ た も の か ら 逸 脱 で き な い ジ レ ン マ に 陥 っ て い る .年 間 計 画 に 沿 っ た 予 算 枠 が 既 定 さ れ ,国 民 や 関 係 者 に 対 し ,組 織 的 に も 政 治 的 に も ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 果 た す こ と が 求 め ら れ て い る 政 府 が ,状 況 に 応 じ て 計 画 を 変 更 す る た び に ,多 く の 説 明 責 任 を 随 時 行 わ な け れ ば な ら な い と し た ら , 政 府 が ア ダ プ テ ィ ブ な 管 理 手 法 で プ ロ ジ ェ ク ト を 実 施 す る こ と は 大 き な 挑 戦 で あ り , 行 政 は 計 画 通 り に 実 行 し , 結 果 を 出 す こ と を 好 む は ず で あ る . Ebrahim 8 )は , こ の よ う に 長 期 的 な 視 野 が 見 え な く な り , 失 敗 に 執 着 す る よ う な 管 理 手 法 に な る 危 険 性 を 言 及 し ,こ れ ら を「 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ な 短 見 (Accountability myopia)」 と 呼 ん で い る が , 現 実 に は , 特 に 結 果 が 計 画 と 異 な っ た 場 合 ,多 く の 説 明 責 任 を 求 め ら れ る 行 政 機 関 に お い て ,ア ダ プ テ ィ ブ な プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 お よ び 管 理 は 難 し い と い え る で あ ろ う . 大 野 お よ び 二 井 矢9 )は ,新 し い 援 助 モ ダ リ テ ィ は ,実 践 プ ロ セ ス が 重 要 で あ り ,政 策 へ の 協 調 お よ び 取 引 費 用 の 削 減 を 目 指 し な が ら ,協 調 メ カ ニ ズ ム の コ ン セ ン サ ス 形 成 が 必 要 と な る と 提 言 し て い る .そ し て ,援 助 国 お よ び 被 援 助 国 両 者 の キ ャ パ シ テ ィ を 考 慮 し ,コ ン テ ク ス ト を 把 握 し た 上 で ,メ カ ニ ズ ム の デ ザ イ ン を 描 く 必 要 が あ り ,そ れ に 失 敗 す る と 多 大 な 取 引 費 用 が 生 じ る 危 険 性 も あ る と 警 鐘 を 鳴 ら す . 本 研 究 で は ,現 在 一 般 的 に 用 い ら れ て い る 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 概 念 は ,ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト と は 負 の 相 関 が あ る こ と を 分 析 し ,創 発 的 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 論 を 取 り 込 む こ と に よ り ,ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト が 可 能 に な る 有 意 な 関 係 を 見 出 す こ と を 目 的 と し て い る .そ し て ,こ れ ら の 二

(18)

元 的 な 関 係 を 両 立 で き る 制 度 的 基 盤 い わ ゆ る メ カ ニ ズ ム を 提 案 す る こ と に あ る .そ し て ,そ の メ カ ニ ズ ム は ,我 々 の 性 質 を 十 分 に 理 解 し た も の で は な ら な い . ア ダ プ テ ィ ブ と は ,そ れ ぞ れ の 状 況 に 即 し て 対 応 す る 適 応 性 の あ る 状 態 で あ り ,一 律 的 な モ デ ル 化 を す る こ と は ,そ れ 自 体 が 多 様 性 を 失 う 危 険 性 も あ る .そ の た め ,本 研 究 で は ,現 存 す る 政 府 開 発 援 助 の 実 践 的 事 例 を 取 り 上 げ , こ れ ら の 特 異 性 を 考 察 し な が ら , 普 遍 性 を 見 出 す こ と も 目 指 し て い る . 本 研 究 の 特 異 性 と は , 開 発 援 助 に お け る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と い う 概 念 を 再 検 討 し , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は , プ ロ セ ス ア プ ロ ー チ で あ る こ と を 見 出 し , そ の メ カ ニ ズ ム を 解 釈 す る こ と に あ る . ま た , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 内 生 的 イ ン セ ン テ ィ ブ に は , 価 値 の 変 容 プ ロ セ ス が 影 響 し , 内 生 化 す る こ と に よ っ て , 共 通 の 新 し い 価 値 (メ タ フ ァ ー )を 創 発 す る . こ れ ら の 考 察 を 行 う た め に , 伝 統 的 な 経 済 学 の 枠 組 み に 捉 わ れ ず , 社 会 学 や 認 知 科 学 等 , 社 会 文 脈 に 順 じ た 分 析 も 行 う も の で あ る . そ の 結 果 , Demand-Driven の 日 本 型 援 助 の 概 念 を 社 会 文 脈 や 背 景 を 踏 ま え て 分 析 し , 二 国 間 援 助 に お け る 我 々 の 開 発 援 助 理 念 を 世 界 へ 共 有 す る こ と が 可 能 と な る .

(19)

1. 3 論 文 構 成

本 研 究 の 論 文 は , 7 章 か ら 構 成 さ れ る . 第 1 章 は ,本 研 究 の 背 景 お よ び 目 的 ,本 研 究 の 特 異 性 を 述 べ ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト の 負 の 関 係 を 説 明 し ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 新 し い 概 念 を 再 定 義 す る 必 要 性 を 提 示 し て い る . 第 2 章 は , 委 託 -受 託 の 関 係 か ら 開 発 援 助 に お け る 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 再 定 義 し ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 理 論 に お け る 我 が 国 の 開 発 援 助 事 業 を ス キ ー ム 毎 に 考 察 す る . 第 3 章 は ,開 発 援 助 に お け る 意 思 決 定 の 問 題 に つ い て ,ゲ ー ム 理 論 的 フ レ ー ム ワ ー ク の 中 で ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 論 か ら 政 府 関 係 者 間 の 分 析 を 行 い ,相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 社 会 構 造 メ カ ニ ズ ム に つ い て 考 察 す る . 第 4 章 は , 専 門 家 に よ る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の 形 成 は , 関 係 者 の 価 値 (メ タ フ ァ ー )の 共 有 が 可 能 に な る こ と を 分 析 し , ベ ト ナ ム に お け る 研 究 事 例 を も と に 日 本 人 特 有 の オ ン ス テ ー ジ 型 思 考 を 基 盤 に ,開 発 援 助 お よ び グ ロ ー バ ル 展 開 の 可 能 性 を 含 意 し た ポ ス ト ・ オ ン ス テ ー ジ 理 論 を 展 開 す る . 第 5 章 は ,市 民 参 加 で あ る 協 働 型 は ,行 政 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 確 立 す る 効 果 的 な 手 段 で あ る .一 般 的 な 経 済 学 ,公 共 経 済 学 で は ,政 府 や 市 場 の 失 敗 に か か る 分 析 が 行 わ れ て き た が ,本 章 で は 市 民 社 会 の 失 敗 に 焦 点 を あ て た 分 析 を 行 い ,ラ オ ス の お け る 事 例 か ら 持 続 可 能 な 経 済 社 会 を 構 築 す る た め の 社 会 構 造 に つ い て 考 察 す る .

(20)

第 6 章 は ,開 発 援 助 事 業 に お け る 強 固 な 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 確 立 す る に は ,自 己 組 織 化 が 求 め ら れ る .内 生 的 な 自 己 組 織 化 に よ っ て ,ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト が 可 能 と な る こ と を 確 認 し ,イ ン フ ラ 事 業 に お け る ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 取 り 纏 め る . 第 7 章 は ,こ れ ら の 結 果 を 纏 め ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 理 論 の 観 点 か ら ,イ ン フ ラ 分 野 に お け る 国 際 開 発 援 助 の 方 向 性 を 提 言 す る .

(21)

参 考 文 献

1 ) 経 済 産 業 省 : イ ン フ ラ 関 連 産 業 の 海 外 展 開 の た め の 総 合 戦 略 , 2010.

2 ) Hersoug,B.: Logical framework analysis in an illogical world , Forum for Development Studies , Taylor & Francis Group, pp.377-404,1996.

3 ) Davidson, C. H., et al.: Truths and myths about community

participation in post-disaster housing projects , Habitat International, Vol. 31, No.1, pp.100-115, 2007.

4 ) 澤 井 克 紀 : 持 続 可 能 な 開 発 援 助 プ ロ ジ ェ ク ト の た め の ア ダ プ テ ィ ブ マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 研 究 , 京 都 大 学 , 2010.

5 ) Holling, C. S.: Adaptive environmental assessment and management , John Wiley & Sons, 1978.

6 ) Allan, C. and Stankey, G. H.: Adaptive environmental management , Springer, 2009.

7 ) Bemelmans-Videc, M. L., Lonsdale, J. and Perrin, B.: Making accountability work: Dilemmas for evaluation and for audit , Transaction Publishers, 2007.

8 ) Ebrahim, A.: Accountability myopia: Losing sight of organizational learning, Nonprofit and voluntary sector quarterly , Vol. 34, No.1, pp.56-87, 2005.

9 ) 大 野 泉 , 二 井 矢 由 美 子 : 援 助 モ ダ リ テ ィ の 選 択 と 日 本 の ODA 改 革 - 開 発 ニ ー ズ と オ ー ナ ー シ ッ プ を 尊 重 し て - , GRIPS 開 発 フ ォ ー ラ ム , 2005.

(22)

第 2 章 アカ ウンタ ビリ ティ理 論 か らみ た国際 開発 援助

2. 1 は じ め に

政 府 は ,市 民 か ら 税 を 徴 収 す る こ と に よ っ て 市 民 に 公 共 サ ー ビ ス を 提 供 す る こ と を 委 託 さ れ て い る .そ し て ,政 府 は 公 共 サ ー ビ ス を 効 率 的 お よ び 効 果 的 に 市 民 に 配 分 さ れ る こ と が 求 め ら れ ,こ れ ら 業 務 の 成 果 を 評 価 す る に あ た り ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と い う 用 語 が 一 般 的 に 用 い ら れ る 1). Day and Klein2)は ,

公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 行 政 と 市 民 と の 関 係 に 注 目 し , 委 託 -受 託 の 関 係 で 言 い 表 し た .基 本 的 に は ,受 託 さ れ た 行 政 が 委 託 者 で あ る 市 民 に 対 し ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す .古 代 ア テ ネ の 直 接 民 主 性 で は ,市 民 に よ っ て 直 接 選 出 さ れ た 行 政 官 が ,地 域 に お け る 執 政 を 司 る 権 限 を 市 民 よ り 委 託 さ れ ,自 分 の 行 っ た 行 為 に つ い て 市 民 に 報 告 す る 義 務 が 課 さ れ る と い っ た 単 純 な 委 託 -受 託 構 造 で あ っ た が , 近 年 , 行 政 と 市 民 の 間 に は , 議 会 を と お し た 間 接 民 主 制 と な り , メ デ ィ ア や 今 般 で は ソ ー シ ャ ル メ デ ィ ア 等 が 入 り 込 む 等 ,社 会 や 経 済 シ ス テ ム が 多 様 化 し ,政 府 の 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 一 層 複 雑 化 し て い る .そ の た め , Mulgan3 )は , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 理 解 す る た め に は , 外 的 要 因 (external

factors),社 会 的 相 互 作 用( social interaction),権 限( right of authority) の 3 つ の 要 素 を 明 確 化 す る 必 要 が あ る と し ,ま た ,行 政 機 関 の 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ は ,1)自 己 規 律 に 基 づ く 内 的 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ,2)ガ バ ナ ン ス を 高 め る 制 度 的 統 制 ,3)市 民 の 要 望 に 対 す る 応 答 ,4)市 民 と の 対 話 の 必 要 性 を 挙 げ ,さ ら に 行 政 と 市 民 の 関 係 者 間 で 3 つ の 過 程:発 生・討 論・判 断 過 程 が 成 立 し な け れ ば な ら な い と し て い る . 上 記 の 定 義 よ り ,政 府 開 発 援 助 も 公 的 サ ー ビ ス の ひ と つ で あ る と 言 え る .我 が 国 の 政 府 開 発 援 助 の 基 本 概 念 は「 政 府 ま た は 政 府 の 実 施 機 関 に よ っ て 開 発 途 上 国 ま た は 国 際 機 関 に 供 与 さ れ る も の で ,開 発 途 上 国 の 経 済・社 会 の 発 展 や 福

(23)

祉 の 向 上 に 役 立 つ た め に 行 う 資 金・技 術 提 供 に よ る 公 的 資 金 を 用 い た 協 力 」で あ る 4 ).公 的 資 金 と は ,税 金・国 債 に よ る 資 金 で あ り ,基 本 は 国 民 の 税 金 と な り ,こ こ で 納 税 者 で あ る 国 民 に 対 す る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 発 生 す る .そ し て , 同 時 に ,援 助 国 は ,国 際 社 会 の 一 員 と し て ,他 ド ナ ー へ の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ も 求 め ら れ る .被 援 助 国( 一 般 的 に パ ー ト ナ ー 国 ,相 手 国 等 呼 ば れ る が 本 研 究 で は 被 援 助 国 と 称 す る )の 政 府 は ,自 国 の 国 民か ら 事 業 を 委 託 さ れ ,国 際 機 関 や 日 本 政 府 等 の ド ナ ー に 要 請 し ,事 業 実 施 の 承 認 後 ,裨 益 者 に 対 し 公 的 サ ー ビ ス を 提 供 す る と い う ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 求 め ら れ る .そ し て ,同 時 に 援 助 国 や 国 際 社 会 に も ,プ ロ ジ ェ ク ト を 実 施 し た と 言 う ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 提 示 が 求 め ら れ る .つ ま り ,政 府 開 発 援 助 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ は ,一 般 の 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ よ り も 極 め て 複 雑 で あ る と 考 え ら れ る . 国 際 機 関 に お い て も ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ は 標 準 用 語 と し て 定 義 さ れ て い る . OECD5 )は ,事 前 に 合 意 し た 規 定 と 基 準 に 従 っ て 業 務 を 遂 行 し た こ と を 明 示 す る 義 務 ,ま た は ,与 え ら れ た 権 限 に 基 づ く 役 割 及 び 計 画 に 照 ら し て 実 績( パ フ ォ ー マ ン ス )を 構 成 か つ 正 確 に 報 告 す る 義 務 ,場 合 に よ っ て は ,業 務 が 契 約 条 件 に 一 致 し て い る こ と を 慎 重 に ,時 に は 法 的 に 説 明 で き る よ う な 形 で 表 す こ と を , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と し て 援 助 機 関 に 課 し て い る . 我 が 国 の 開 発 援 助 は ,第 二 次 世 界 大 戦 後 の 戦 後 賠 償 と し て 援 助 を 開 始 し た 背 景 か ら「 内 政 不 干 渉 」を 原 則 と し ,開 発 途 上 国( 被 援 助 国 )の 自 助 努 力 を 促 す 「 要 請 主 義 」を 主 体 と し て き た .「 要 請 主 義 」と は ,外 交 文 書 に よ る 相 手 国 か ら の 正 式 な 要 請 を 受 け た 後 に ,援 助 国 で あ る 日 本 国 政 府 が 案 件 を 調 査・検 討 し , 相 手 国 と 協 議・合 意 し た 上 で 実 施 す る 方 法 で あ る .そ の た め ,我 が 国 の 開 発 援 助 の ス キ ー ム で あ る 有 償 資 金 協 力 ,無 償 資 金 協 力 ,技 術 協 力 等 は ,ス キ ー ム ご と に 案 件 作 成 の 形 成 プ ロ セ ス は 異 な る も の の ,こ の 原 則 か ら 開 発 援 助 事 業 の 主 な 意 思 決 定 者 は 現 地 政 府 で あ る 被 援 助 国 政 府 と 位 置 づ け で き る .つ ま り ,被 援 助 国 政 府 が 主 体 と な り ,被 援 助 国 の 国 民 や 地 域 住 民 等 ,多 様 な 関 係 者 を 満 足 さ

(24)

せ な け れ ば な ら な い .そ の た め ,被 援 助 国 政 府 は ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 確 立 で き る キ ャ パ シ テ ィ を 持 ち 合 わ せ て い る 必 要 が あ る .こ の キ ャ パ シ テ ィ 強 化 の 方 針 は , 他 の ド ナ ー で も 同 調 さ れ , 1990 年 代 に 経 済 協 力 開 発 機 構 ・ 開 発 援 助 委 員 会( OECD-DAC)6 )が ,DAC 新 開 発 戦 略「 21 世 紀 に 向 け て : 開 発 協 力 を 通 じ た 貢 献 」 に お い て 持 続 可 能 な 開 発 を 実 現 す る た め に , 民 主 的 な 説 明 責 任 ( democratic accountability) , 人 権 の 保 障 や 法 の 支 配 と い っ た 数 値 的 に 測 れ な い 要 素 を 開 発 戦 略 に 織 り 込 む こ と の 重 要 性 を 指 摘 し た こ と に 始 ま り ,そ の 後 国 際 機 関 に よ る 途 上 国 政 府 へ の ガ バ ナ ン ス へ の 支 援 が 強 化 さ れ て い く 経 緯 に 繋 が る . 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ に は ,組 織 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ,政 治 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ,法 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ,行 政 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ,専 門 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 等 ,多 様 的 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 存 在 す る 7 ).こ こ で ,国 際 援 助 に お け る 主 の 意 思 決 定 者 で あ る 被 援 助 国 の 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ に つ い て 考 察 す る と ,組 織 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は ,行 政 組 織 内 の 階 層 的 な 関 係 に 基 づ く も の で あ る と 考 え ら れ る . ま た , 政 治 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は , 一 般 に 市 民 や 市 民 の 代 表 に 対 し ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 果 た す こ と が 求 め ら れ て お り ,国 際 開 発 援 助 で は ,国 内 の 市 民 だ け で な く ,一 般 外 交 や 国 連 に お け る 多 角 外 交 に も 関 係 す る 重 要 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の ひ と つ で あ る .法 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ お よ び 行 政 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ に お い て は ,被 援 助 国 だ け で な く , 援 助 国 お よ び 国 際 機 関 の 法 律 ・ 規 定 に 遵 守 し た 事 業 の 実 施 が 求 め ら れ る . 専 門 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は ,技 術 の 領 域 に お い て ,自 己 規 律 や 慣 習 の 遵 守 が 求 め ら れ る . こ の よ う に 国 際 開 発 援 助 で は ,多 様 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 求 め ら れ る だ け で な く , 受 託 者 お よ び 委 託 者 が 複 雑 で 多 様 で あ る . そ の た め 開 発 の 現 場 で は , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す こ と に よ る 障 害 も 論 じ ら れ る よ う に な っ た . 「 Problem of many eyes, problem by many hands」 と い わ れ る よ う に , 関 係

(25)

者 が 多 様 化 す る こ と に よ っ て ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 明 確 に す る プ ロ セ ス に 費 用 と 時 間 が か か り ,結 局 は ,効 果 的 に か つ 効 率 的 に 公 的 な サ ー ビ ス が 行 え な い 問 題 が 指 摘 さ れ て い る 8 ).現 に ア フ リ カ で は「 援 助 の 集 中 砲 火 」と 呼 ば れ る よ う に 様 々 な 援 助 が 調 整 さ れ な い ま ま 実 施 さ れ ,被 援 助 政 府 の 実 行 能 力 の 有 限 性 の 問 題 が 発 生 し , 効 率 的 な 援 助 効 果 が 妨 げ ら れ る と し て , 1980 年 代 よ り セ ク タ ー・ワ イ ド・ア プ ロ ー チ( SWAP)や コ モ ン・フ ァ ン ド 等 の 財 政 支 援 と 呼 ば れ る プ ロ グ ラ ム 型 援 助 へ シ フ ト す る こ と に な っ た . ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 統 制 に 関 し て は , 1940 年 代 か ら Friedrich-Finer 論 争 で 論 議 さ れ て い て き て い る が ,複 雑 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 統 制 し ,機 能 さ せ る た め に は , Friedrich9) 1 0 )が 言 及 す る 自 己 の 規 律 や 倫 理 観 , プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル 組 織 内 の 共 通 規 範 や 評 価 等 の 個 々 の 活 動 領 域 に お け る 内 生 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 強 く 求 め ら れ る と 想 定 さ れ る .し か し ,発 展 途 上 国 で は ,政 治 腐 敗 ,汚 職 は 蔓 延 し て お り ,人 材 開 発( Capacity Development)お よ び ガ バ ナ ン ス の 強 化 だ け で こ れ ら の 問 題 を 収 束 さ せ る こ と は で き ず , Finer1 1 ) 12 )が 論 じ る 社 会 的 相 互 作 用 に よ る 委 託 者 か ら の 統 制 を も と し た 他 律 的 ,客 観 的 ,且 つ 外 性 的 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ も 必 要 で あ る と 言 え る だ ろ う . ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ は ,政 治・経 済・教 育・市 場 に 至 る ま で 多 分 野 で 混 在 し て お り ,単 な る 応 答 す る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と い う 形 式 で は な く ,説 明 す る 能 力 (ability)が 存 在 し な け れ ば な ら な い こ と は 一 般 に 知 ら れ て い る 1 3 ).山 谷 は じ め 蓮 生 1 4 )ら 多 く の 研 究 者 が , 公 的 な ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 定 義 づ け を 行 っ て い る が ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 社 会 構 造 の メ カ ニ ズ ム と し て ,未 だ 解 釈 さ れ て い な い . 特 に ,開 発 援 助 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 論 で は ,途 上 国 に お け る 援 助 効 果 を 発 現 す る た め に は ,援 助 国 政 府 お よ び 被 援 助 国 の 自 国 民 に 対 す る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ (Domestic Accountability) と , 両 国 間 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ ( Mutual

(26)

Accountability)の 相 乗 効 果 (Synergy)を 引 出 す 必 要 が あ る と い わ れ て い る 1 5 ) 今 般 は ,グ ロ ー バ ル 化 だ け で な く ,反 グ ロ ー バ ル 化 も 進 ん で い る .開 発 援 助 に お い て 国 益 や 自 国 の 企 業 保 護 ,社 会 的 余 剰 を 求 め た 国 の 戦 略 が 強 く な っ て い く こ と が 予 想 さ れ ,自 国 民 へ の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と 途 上 国 の 裨 益 者 へ の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の バ ラ ン ス を 均 衡 に 保 つ だ け で は な く ,開 発 援 助 を 市 場 と 捉 え な が ら も ,経 済 的 且 つ 社 会 的 発 展 を 見 据 え た ド ナ ー 間 で の 制 度 設 計 が 求 め ら れ て い く だ ろ う . 本 章 で は ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は 他 者 と の 関 連 性 に 成 り 立 つ (relational) な 概 念 で あ り ,委 託 者 の ニ ー ズ・期 待 に 応 え る と い う 事 を 含 意 さ せ た「 期 待 応 答 性 」 で あ る と 解 釈 し 1 6 ), 社 会 的 相 互 作 用 に 焦 点 を あ て , プ リ ン シ パ ル -エ ー ジ ェ ン ト モ デ ル を 基 本 に し た 関 係 者 間 の 社 会 的 相 互 関 係 を 考 察 す る .プ リ ン シ パ ル -エ ー ジ ェ ン ト モ デ ル と は ,「 委 託 者 ( Y) が , あ る 行 為 ( Z) を 受 託 者 ( X) 委 託 す る 」 と い う シ ス テ ム で あ り , 委 託 者 ( Y) を プ リ ン シ パ ル と 呼 び , 行 為 を 行 う 受 託 者( X)を エ ー ジ ェ ン ト と 呼 ぶ .こ の委 託 -受 託 の 関 係 に お い て , 受 託 者 が ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 果 た し て い る か 委 託 者 が 監 視 す る こ と が 求 め ら れ ,経 済 学 で は ,委 託 者 の 管 理 が 増 大 化 お よ び 複 雑 化 す る こ と に よ っ て ,エ ー ジ ェ ン シ ー・ス ラ ッ ク に よ る 利 潤 の 減 少 や 監 視 に か か る コ ス ト 増 大 な ど の エ ー ジ ェ ン シ ー 費 用 が 生 ず る と い わ れ て い る . 特 に ,国 際 援 助 開 発 事 業 に お い て は ,ス テ ー ク ホ ル ダ ー が 多 岐 に 及 び ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 短 見 ( Accountability myopia) と 呼 ば れ る よ う に 1)長 期 的 視 野 の 欠 如 ,2)大 局 的 視 野 の 欠 如 ,3)真 の 失 敗 の 見 落 と し 等 の 弊 害 が 生 じ て お り 1 7 ), 2. 2 で は ,国 際 開 発 援 助 に お け る 公 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を ス キ ー ム ご と に 整 理 す る .

(27)

2. 2 国 際 開 発 援 助 お け る 援 助 ス キ ー ム の 整 理

我 が 国 の 国 際 援 助 協 力 に か か る 関 係 機 関 は 複 数 あ り ,独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構( JICA)を 介 し た も の だ け で は な く ,外 務 省 が 直 接 実 施 す る 国 際 機 関 へ の 拠 出 金・支 援 金 等 や ,在 外 大 使 館 を 通 じ て 直 接 行 う 草 の 根・人 間 の 安 全 保 障 無 償 資 金 協 力 ,文 化 無 償 等 が 存 在 す る .し か し な が ら ,本 研 究 は ,筆 者 が 従 事 し て い た JICA 事 業 に 焦 点 を あ て , 主 に 技 術 協 力 (技 術 プ ロ ジ ェ ク ト ・専 門 家 派 遣 ・ 課 題 別 研 修 , ボ ラ ン テ ィ ア 協 力 ), 有 償 資 金 協 力 , 無 償 資 金 協 力 の ス キ ー ム に 制 限 す る . JICA は , 多 様 な ス キ ー ム を 通 じ て , 相 手 国 政 府 や 裨 益 者 へ の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と 納 税 者 で あ る 国 民 に 対 す る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 さ な け れ ば な ら な い .ま た ,開 発 援 助 に お い て は ,援 助 国 お よ び 被 援 助 国 だ け で な く ,国 際 社 会 の 一 員 と し て , 国 際 機 関 は じ め , NGO 機 関 等 に 対 し て ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す 必 要 が 求 め ら れ る . 実 際 の JICA の 業 務 フ ォ ロ ー に よ る プ ロ ジ ェ ク ト の 案 件 形 成 プ ロ セ ス に 基 づ き ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 検 討 す れ ば ,案 件 形 成 段 階 に は 1)被 援 助 国 か ら の 要 請 ,2)援 助 国 の 調 査 ,3)援 助 国 の 審 査 ,4)合 意 書 締 結 の ス テ ッ プ 毎 に そ れ ぞ れ ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 求 め ら れ る (図 2-1). 図 2-1 案 件 形 成 段 階 に お け る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 1)被援助国からの要請 被援助国の委託行為 2)援助国の調査 援助国の受託行為 3)援助国の審査 援助国のアカウンタビリ ティ 4)合意書締結 双方向のアカウンタビリ ティ

(28)

要 請 段 階 で は ,被 援 助 国 が 要 請 と い う 委 託 を 行 い ,援 助 国 が 調 査 結 果 と い う ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 被 援 助 国 側 に 提 示 す る .審 査 で は 国 会 審 議 を 通 し ,援 助 国 が 納 税 者 に 対 し ,ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 提 示 し ,国 会 で の 決 議 後 に 被 援 助 国 へ の 審 査 の プ ロ セ ス を 開 示 し ,被 援 助 国 を 通 し て 被 援 助 国 国 民 に ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す プ ロ セ ス と な る .そ の 後 ,合 意 書 締 結 の 段 階 で ,両 国 政 府 間 で 取 り 決 め が 合 意 さ れ , 委 託 -受 託 の 関 係 は 双 方 向 的 に 成 立 し , 実 施 に 向 け て ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 双 方 に 求 め ら れ る .次 に,国 際 開 発 援 助 に お け る ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 委 託 - 受 託と い う モ デ ル を 基 本 に 社 会 的 相 互 関 係 を ス キ ー ム 毎 に 考 察 す る . 2. 2. 1 有 償 資 金 協 力 有 償 資 金 協 力 と は ,開 発 途 上 地 域 の 開 発 を 主 た る 目 的 と し て 資 金 の 供 与 の 条 件 が 開 発 途 上 地 域 に と っ て 重 い 負 担 に な ら な い よ う ,金 利 ,償 還 期 間 等 に つ い て 緩 や か な 条 件 が 付 さ れ た 有 償 の 資 金 供 与 に よ る 協 力 で あ る .有 償 資 金 協 力 に は ,開 発 途 上 地 域 の 政 府 等 に 対 し て 開 発 事 業 の 実 施 に 必 要 な 資 金 又 は 当 該 開 発 途 上 地 域 の 経 済 の 安 定 に 関 す る 計 画 の 達 成 に 必 要 な 資 金 を 貸 し 付 け る 「 円 借 款 」と ,我 が 国 又 は 開 発 途 上 地 域 の 法 人 等 に 対 し て 開 発 事 業 の 実 施 に 必 要 な 資 金 を 融 資・出 資 す る「 海 外 投 融 資 」が あ り ,比 較 し て 大 規 模 な 支 援 を 行 い や す く ,途 上 国 の 経 済 社 会 開 発 に 不 可 欠 な イ ン フ ラ 建 設 等 の 支 援 に 効 果 的 で あ る と さ れ て い る .ま た ,有 償 資 金 協 力 は ,返 済 義 務 を 課 す こ と で 自 助 努 力 を 促 す 効 果 を 持 つ と さ れ て い る 1 8 ). 有 償 資 金 協 力 に は タ イ ド , ア ン タ イ ド 案 件 が 存 在 す る .ア ン タ イ ド 案 件 と は ,物 資 お よ び サ ー ビ ス の 調 達 先 が 国 際 競 争 入 札 に よ り 決 ま る 援 助 で あ る .タ イ ド 案 件 と は ,調 達 先 が 援 助 供 与 国 に 限 定 さ れ る 等 の 条 件 が 付 き , 金 利 が 極 め て 低 い の が 特 徴 で あ る . 0ECD 開 発 援 助 委 員 会 ( DAC) で は , 後 発 開 発 途 上 国 ( LDC) 向 け 援 助 の ア ン タ イ ド 化 勧 告 が 採 択 さ れ , DAC

(29)

加 盟 国 に 適 用 さ れ て お り ,国 際 社 会 か ら 我 が 国 へ の 圧 力 も あ る こ と ,被 援 助 国 側 も ,タ イ ド 案 件 は 金 利 が 安 い 一 方 ,日 本 企 業 し か 応 札 し な い こ と か ら 応 札 額 が 比 較 的 高 く な る こ と ,入 札 企 業 が 限 ら れ て く る こ と か ら 国 内 の 業 者 が 入 札 で き な い こ と や ,調 達 規 定 に 違 反 す る 危 険 性 も あ り ,タ イ ド 案 件 の 承 認 に は 極 め て 慎 重 な 態 度 を 取 り ,特 殊 な 日 本 の 技 術 以 外 は ,一 般 的 に は あ ま り 活 用 さ れ て い な い . 図 22 に , タ イ ド ・ ア ン タ イ ド に お け る 有 償 資 金 協 力 の 相 互 関 係 を 委 託 -受 託 で 表 す . ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ と は , 一 方 向 の 委 託 --受 託 関 係 で は な く , 長 期 的 か つ 委 託 -受 託 の 二 方 向 作 用 が 存 在 す る こ と に よ っ て 強 化 さ れ る . 貸 付 と い う 資 金 は , 援 助 国 か ら 被 援 助 国 へ 一 時 的 に Down forward と し て 流 れ て い る が ,返 済 と い う 行 為 を 通 じ て ,被 援 助 国 が 強 い ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 援 助 国 側 へ 示 さ な け れ ば な ら な い . つ ま り , 有 償 資 金 協 力 で は 貸 付 -返 済 の プ ロ セ ス を 通 し て ,援 助 国 と 被 援 助 国 と の 相 互 作 用 関 係 が 長 期 的 か つ 密 接 で あ る こ と が 特 徴 で あ る . 無 償 資 金 協 力 や 技 術 協 力 の グ ラ ン ト 比 率 が 100% の も の に 比 べ ,返 済 と い う 行 為 に よ っ て ,被 援 助 国 側 の 自 助 努 力 が 高 ま る と い わ れ て い る 所 以 で あ る . 図 2-2 に 示 す よ う に ,タ イ ド 案 件 で あ れ ば ,受 注 者 が 日 本 企 業 で あ る た め , 「 日 本 企 業 へ の 還 元 」と い っ た 形 で ,資 金 の 流 入 資 源 元 で あ る 援 助 国 国 民 に 対 し , 委 託 -受 託 関 係 か ら 見 た ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 示 さ れ , 援 助 国 側 に と っ て は ,委 託 -受 託 の バ ラ ン ス が 取 れ た 関 係 が 維 持 で き る と 考 え る .し か し , 現 実 的 に は ,被 援 助 国 側 は 金 利 が 低 い と は い え ,タ イ ド 案 件 を 採 択 す る こ と は 極 め て 少 な い .そ の 背 景 と し て は ,上 記 に 述 べ た よ う に 国 内 の 調 達 制 度 に 絡 む 被 援 助 国 の 国 民 に 対 す る ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 欠 如 に は じ ま り ,日 本 企 業 の み の 入 札 が 絞 ら れ る こ と に よ る 価 格 急 騰 の 問 題 ,し い て は ,現 地 企 業 が 受 注 で き な い 状 況 を 生 み 出 し ,被 援 助 国 が 被 援 助 国 の 国 民 に 対 し ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す こ と が で き な い こ と が 大 き な 足 枷 と な っ て い る と い え る .

(30)

図 2-2 有 償 資 金 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 そ の た め ,被 援 助 国 お よ び 援 助 国 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 同 時 に 満 た す た め に は ,ア ン タ イ ド に お け る 一 般 入 札 を 通 し て ,日 本 企 業 ・ 現 地 企 業 両 者 の 受 注 が ,理 想 的 な モ デ ル と 考 え ら れ る .し か し ,現 実 で は ,JICA が 発 表 し て い る 受 注 実 績 ,事 業 本 体 の 受 注 実 績 (10 億 円 以 上 )は ,ジ ョ イ ン ト ベ ン チ ャ ー に よ る 受 注 実 績 は あ る も の の ,日 本 企 業 単 独 の 受 注 実 績 は な く ,2014 年 に は 外 資 系 企 業 が 受 注 額 を 上 回 っ て い る .政 府 の 方 針 に 反 し て ,国 際 イ ン フ ラ 市 場 に お け る 我 が 国 の 競 争 力 は 低 く な っ て い る と い え る ( 表 2-1) . 表 2-1 有償資金協力の受注実績(2013-2014 年度)(JICA HP より抜粋)19) コ ン サ ル タ ン ト 契 約 金 額 本 体 契 約 受益者 = 市民・住民 (Civil society) 援助国政府 被援助国政府 返済(委託-受託) 貸付(委託-受託)    援助国国民 有償資金協力(タイド:金利が低い) 日本企業 海外企業 (日本企業も含む) 有償資金協力(アンタイド) 委 託 受 託 委 託 受 託 委 託 受 託 日本企業  受益者  =  市民・住民  (Civil society) 援助国政府 被援助国政府 返済(委託-受託) 貸付(委託-受託) 援助国国民 委 託 受 託 委 託 受 託 現地企業 委 託 受 託 委 託 受 託

(31)

今 般 ,日 本 企 業 は ,現 地 企 業 と 連 携 し ,国 際 ・ 国 内 入 札 の 両 方 に ア ク セ ス で き る よ う な 戦 略 が 喫 緊 の 課 題 で あ る . DAC の 方 針 で は ア ン タ イ ド 化 が 促 進 さ れ ,現 在 タ イ ド で 行 っ て い る 無 償 資 金 協 力 に 関 し て も ,ア ン タ イ ド 化 へ の 移 行 を 国 際 社 会 よ り 求 め ら れ て お り ,グ ラ ン ド エ レ メ ン ト が 低 い 日 本 の 援 助 状 況 も 国 際 社 会 か ら 非 難 を 浴 び て い る .こ の ま ま ,国 際 社 会 的 に ア ン タ イ ド 化 が 促 進 さ れ れ ば ,国 際 開 発 金 融 機 関 に よ る 出 資 さ れ た 案 件 に お い て ,質 の 高 い イ ン フ ラ を 価 格 競 争 で 如 何 に 勝 算 に 持 ち 込 む か が 「 鍵 」 と な る だ ろ う . 二 国 間 供 与 以 外 に も , 世 界 銀 行 や ア ジ ア 開 発 銀 行 等 , 国 際 開 発 金 融 機 関 (MDBs)が 存 在 す る .世 界 銀 行 や ア ジ ア 開 発 銀 行 に お い て も ,日 本 政 府 の 支 出 金 は 2 位 に 位 置 す る が ,国 際 機 関 の 世 界 銀 行 に お け る 受 注 率 は 欧 米 の ド イ ツ や ほ か の 国 々 が 極 め て 優 勢 で あ る 2 0 ). 2016 年 7 月 に 世 界 銀 行 は , 調 達 制 度

を 改 革 し ,「 支 払 額 に 対 し て 最 も 高 い 価 値 を 選 ぶ 」( Value for Money : VfM)」 と い う 概 念 を 導 入 し た .こ れ は ,初 期 投 資 だ け で な く ,環 境 等 を 含 む 社 会 コ ス ト や ラ イ フ サ イ ク ル コ ス ト な ど 長 期 的 な 視 野 を 含 ん だ 技 術・価 格 競 争 で あ り , 現 在 実 施 さ れ て い る 最 低 価 格 落 札 方 式 と は 異 な る . VfM の 評 価 基 準 は , 1)Cost, 2) Quality, 3)Risk, 4) Sustainable procurement, 5) Innovation で あ り ,定 義 と は ,effective(有 効 性 ),efficient( 効 率 性 ),economic use of resources(資 源 の 経 済 性 )と と も に , ラ イ フ サ イ ク ル コ ス ト や , 質 , ユ ー ザ ー に 求 め ら れ た 用 件 等 に 合 致 し た Optimum combination( 最 適 化 )で あ る . 入 札 評 価 の 際 に ,性 能 規 定 に か か る 基 準 の 設 定 方 法 や 被 援 助 国 が そ れ に よ る 初 期 投 資 の 高 騰 に 懸 念 を 示 す 等 , 実 施 に 向 け た 課 題 も 多 い が , 本 新 制 度 は , 「 質 の 高 い イ ン フ ラ 輸 出 」を 戦 略 と す る 日 本 政 府 の 政 策 と 合 致 す る も の で あ る と 考 え ら れ る .た だ し ,日 本 側 が VfM に 対 し ,被 援 助 国 政 府 や そ の 受 益 者 に 如 何 に 説 明 が で き る か が 最 大 の 課 題 で あ ろ う .そ し て ,そ れ を 克 服 す る た め に は ,日 本 側 の 企 業 だ け で な く 研 究 機 関 等 も 連 携 し た VfM へ を 的 確 に 証 明 す る ツ ー ル が 不 可 欠 に な る .そ し て ,そ れ を 可 能 に す る こ と に よ り ,イ ン フ ラ 市 場 に お け る 日 本 の 技 術 の 優 位 性 を 高 め る こ と が で き る .

(32)

2. 2. 2 無 償 資 金 協 力 無 償 資 金 協 力 は ,開 発 途 上 地 域 の 開 発 を 主 た る 目 的 と し て 同 地 域 の 政 府 等 に 対 し て 行 わ れ る 無 償 の 資 金 供 与 に よ る 協 力 で あ り ,相 手 国 政 府 等 か ら の 要 請 に 基 づ き ,日 本 政 府 が 相 手 国 政 府 等 に 対 し て 経 済 社 会 開 発 の た め に 必 要 と さ れ る 生 産 物 及 び 役 務 を 購 入 す る た め の 資 金 を 贈 与 し ,相 手 国 政 府 等 が こ れ ら の 調 達 等 を 行 う こ と に よ り 実 施 さ れ て い る . 無 償 資 金 協 力 の う ち , 施 設 ・ 機 材 等 調 達 方 式 等 は JICA が 実 施 の た め に 必 要 な 業 務 を 行 い , 機 動 的 な 実 施 を 確 保 す る 必 要 が あ る も の な ど 外 交 政 策 の 遂 行 上 の 判 断 と 密 接 に 関 連 し て 実 施 す る 必 要 が あ る も の( 緊 急 無 償 資 金 協 力 ,草 の 根 ・ 人 間 の 安 全 保 障 無 償 資 金 協 力 ,日 本 NGO 連 携 無 償 資 金 協 力 ,草 の 根 文 化 無 償 資 金 協 力 及 び 食 糧 援 助 等 )に 関 し て は ,外 務 省 が 業 務 を 行 い ,開 発 途 上 地 域 の 政 府 等 や 国 際 機 関 , NGO 等 が 調 達 を 行 う 1 8 ) 図 2-3 は ,JICA が 実 施 す る 無 償 資 金 協 力 の 委 託 -受 託 関 係 を 示 し た も の で あ る .有 償 資 金 協 力 と 異 な る 点 に お い て は ,被 援 助 国 が 援 助 国 で あ る 日 本 に 対 し , 要 請 を 行 い , そ れ に 基 づ い て 被 援 助 国 が 支 援 を 行 う 一 方 向 性 の 強 い 委 託 -受 託 関 係 に 留 ま っ て い る .ま た ,無 償 資 金 協 力 は ,「 箱 も の 援 助 」「 官 民 癒 着 」等 , 負 の イ メ ー ジ が あ る よ う に 委 託 さ れ る 業 者 が 基 本 的 に 日 本 企 業 に 限 定 さ れ , 「 国 益 」と い う 観 点 か ら ,援 助 国 の 国 民 に ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 し 易 い の が 特 徴 で あ る .援 助 国 と 被 援 助 国 と の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ か ら 見 た 相 互 関 係 を 考 慮 す る と ,資 金 の 流 れ が Down forward と 呼 ば れ る 被 援 助 国 側 に 向 か っ て い る . こ の 場 合 ,主 体 で あ る 被 援 助 国 側 が ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す イ ン セ ン テ ィ ブ が 低 く な る 危 険 性 が あ る .加 え て ,調 達 等 は す べ て 援 助 国 側 が 行 う こ と に よ り , 援 助 国 の 情 報 開 示 な し で は ,被 援 助 国 政 府 が 受 益 者 で あ る 被 援 助 国 国 民 に 対 し て も ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 示 す こ と が 難 し く , 委 託 -受 託 と い う ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 論 か ら 見 る と 極 め て 強 い ア ン バ ラ ン ス な 力 関 係 が 存 在 す る .

(33)

JICA で は , す べ て の 援 助 活 動 に お い て , 事 前 調 査 の 元 双 方 の 合 意 形 成 が 行 わ れ る .一 般 的 に 無 償 資 金 協 力 で は ,初 期 費 用 は 援 助 国 が 支 援 し ,被 援 助 国 に 贈 与 後 ,維 持 管 理 に か か る 経 費 は 被 援 助 国 が 行 う 取 り 決 め に な っ て い る も の の , 国 際 開 発 援 助 で 供 与 さ れ た イ ン フ ラ や 機 材 等 が ,そ の 後 活 用 さ れ な い 事 例 が 多 く 見 ら れ る .こ れ ら の 要 因 と し て ,維 持 管 理 の 予 算 の 問 題 ,技 術 力 の 問 題 ,ス ペ ア パ ー ツ の 問 題 等 ,1)技 術 面 ,2)体 制 面 ,3)財 政 面 ,4)運 営・維 持 管 理 面 等 が 挙 げ ら れ て い る が ,両 国 間 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 相 互 作 用 関 係 が 十 分 に 確 立 し て い な い と も 考 え ら れ る . 2014 年 6 月 に 「 無 償 資 金 協 力 ・ 技 術 協 力 を 活 用 し た イ ン フ ラ・シ ス テ ム 輸 出 戦 略 」が ま と め ら れ た が 2 1 ),一 方 向 の 委 託 -受 託 関 係 性 が 強 い 無 償 資 金 協 力 に 関 し て は , ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 論 の 観 点 か ら , 被 援 助 国 側 に ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 欠 如 を も た ら す 可 能 性 が あ り ,相 互 的 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 確 保 す る た め の フ レ ー ム ワ ー ク を 確 立 す る よ う に 留 意 し な け れ ば な ら な い . 図 2-3 無 償 資 金 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 受益者 = 市民・住民 (Civil society) 援助国政府 被援助国政府 委託 受託    援助国国民 無償資金協力 日本企業 委 託 受 託 委 託 受 託 委 託 受 託 委 託 受 託

(34)

2. 2. 3 技 術 協 力 技 術 協 力 は , 開 発 途 上 地 域 の 開 発 を 主 た る 目 的 と し て 日 本 の 知 識 ・ 技 術 ・ 経 験 を 活 か し ,同 地 域 の 経 済 社 会 開 発 の 担 い 手 と な る 人 材 の 育 成 を 行 う 協 力 で あ り ,日 本 の 技 術 や 技 能 ,知 識 を 開 発 途 上 国 に 移 転 し ,あ る い は ,そ の 国 の 実 情 に あ っ た 適 切 な 技 術 な ど の 開 発 や 改 良 を 支 援 す る と と も に ,技 術 水 準 の 向 上 ,制 度 や 組 織 の 確 立 や 整 備 な ど に 寄 与 す る こ と を 目 的 と し て い る .我 が 国 政 府 が 主 体 と な っ て 行 う 技 術 協 力 と し て は ,技 術 研 修 員 の 受 入 れ ,専 門 家 の 派 遣 ,青 年 海 外 協 力 隊 の 派 遣 等 多 岐 に わ た り ,JICA が 中 核 的 な 役 割 を 果 た し て い る .一 般 的 な 「 技 術 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト 」と は ,開 発 途 上 国 の 技 術 者 や 行 政 官 な ど に 対 す る 研 修 の 実 施 ,専 門 的 な 技 術 や 知 識 を 持 つ 専 門 家 の 派 遣 , 協 力 に 必 要 と な る 機 材 の 供 与 ,こ れ ら 3 つ を 効 果 的 に 組 み 合 わ せ た 形 で 実 施 す る 形 態 が ,技 術 協 力 事 業 の 中 心 と な っ て い る .ま た ,都 市 や 農 業 ,運 輸 な ど 各 種 の 開 発 計 画 の 作 成 や 資 源 の 開 発 な ど を 支 援 す る 開 発 計 画 調 査 型 も 技 術 協 力 と し て 包 括 さ れ て い る 1 8 ) 技 術 協 力 も 他 の ス キ ー ム と 同 様 に 被 援 助 国 の 要 請 を 元 に 案 件 が 形 成 さ れ る .委 託 -受 託 関 係 に お い て ,技 術 協 力 と 無 償 資 金 協 力 が 異 な る 点 と し て は , 日 本 人 専 門 家 と 現 地 専 門 家 が 長 期 的 な プ ロ ジ ェ ク ト を 通 じ て「 協 力 」が 実 現 さ れ る 援 助 形 態 に あ る .基 本 ,技 術 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト で は ,被 援 助 国 の 実 施 機 関 も 人 材 お よ び プ ロ ジ ェ ク ト へ の 予 算 配 分 が 求 め ら れ る が ,資 金 的 に は 一 方 向 性 が 強 い .し か し ,両 実 施 機 関 の 現 地 に お け る 活 動 を 通 し て ,国 民 レ ベ ル に お け る「 協 力 」と い う 双 方 向 の 関 係 が 確 立 す る .そ し て ,委 託 者 で あ る 国 民 の 日 本 人 専 門 家 お よ び 現 地 専 門 家 が 受 託 者 と し て 各 政 府 に ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 提 示 で き , 一 方 向 の 委 託 -受 託 関 係 に 相 互 作 用 が 発 生 し , あ る 程 度 双 方 向 の バ ラ ン ス の 取 れ た 状 況 に な る .た だ し ,資 金 の 流 れ か ら ,技 術 協 力 に お い て も ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ は Down forward の 傾 向 が 強 い . 技 術 協 力

(35)

プ ロ ジ ェ ク ト の 成 功 の 可 否 に 関 わ ら ず ,専 門 家 等 は 援 助 国 か ら 契 約 に 基 づ い た 資 金 が 提 供 さ れ る か ら で あ る .そ の た め ,現 地 に 派 遣 さ れ て い る 専 門 家 等 が 留 意 す る べ き こ と は , 委 託 -受 託 と い う 援 助 国 政 府 の Down forward 的 な 資 金 の 流 入 に 傾 向 せ ず ,被 援 助 国 の 関 係 者 と 相 互 関 係 が 確 立 す る 「協 力 」を 推 進 す る こ と に あ る . 現 地 に お け る 日 本 人 専 門 家 と 現 地 専 門 家 の 協 力 の 欠 如 は , 被 援 助 国 お よ び 援 助 国 民 へ の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ の 欠 如 も 意 味 す る . 図 2-4 技 術 協 力 における委 託 -受 託 関 係 受益者  =  市民・住民  (Civil society)  援助国政府 被援助国政府 委託    援助国国民 技術協力 日本企業 (専門家) 委託 受託 委託 受託 委託 受託 カウンターパート 機関 (現地専門家) 協力 委託 受託 受託

(36)

2. 2. 4 ボ ラ ン テ ィ ア 協 力 JICA の ボ ラ ン テ ィ ア 事 業 は ,技 術 協 力 の ス キ ー ム に 入 る が ,一 般 国 民 が 自 ら 進 ん で ,草 の 根 レ ベ ル で 開 発 途 上 国 の 人 々 と 生 活 と 労 働 を 共 に し ,現 地 の 開 発 課 題 の 解 決 に 取 り 組 む 国 民 参 加 型 事 業 の た め ,別 途 技 術 協 力 事 業 と は 区 別 し , そ の 委 託 -受 託 関 係 を 図 2-5 に 示 す . 図 2-5 ボ ラ ン テ ィ ア 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係 ボ ラ ン テ ィ ア 事 業 は 開 発 途 上 国 の 社 会 的・経 済 的 開 発 に 貢 献 す る だ け で な く ,我 が 国 と の 親 善 や 相 互 理 解 の 促 進 や 日 本 青 年 の 広 い 国 際 的 視 野 の 涵 養 に 資 す る こ と も 目 的 と し て い る 1 8 ).ボ ラ ン テ ィ ア に は 生 活 費 等 は 支 給 さ れ る が , 金 銭 的 な 報 酬 は 存 在 し な い .そ の た め ,ボ ラ ン テ ィ ア と 援 助 国 政 府 と の 委 託 -受 託 関 係 は 極 め て 弱 い 関 係 と 考 え ら れ る . JICA ボ ラ ン テ ィ ア の 特 徴 と し て は ,カ ウ ン タ ー パ ー ト 機 関 と 呼 ば れ る 配 属 先 関 係 者 と「 協 力 」し ,且 つ 生 活 面 に お い て も ,被 援 助 国 政 府 の 受 益 者 ,市 受益者  =  市民・住民  (Civil society)  援助国政府 被援助国政府 委託   援助国国民 ボランティア 委託 受託 委託 受託 委託 協力 ボランティア協力 カーンターパート機関 (現地技術者・専門家 または住民) 受託 受託 受託

(37)

民 そ し て 住 民 の 生 活 に 溶 け 込 み な が ら「 草 の 根 外 交 官 」と し て ,開 発 途 上 国 と 我 が 国 と の 友 好 親 善 に 大 き く 貢 献 し て い る と 認 識 さ れ て い る . 一 般 的 に ,日 本 人 ボ ラ ン テ ィ ア は 個 別 に 配 属 先 に 派 遣 さ れ ,活 動 を 実 施 す る 予 算 も わ ず か し か 確 保 さ れ て い な い .支 給 さ れ る 生 活 費 も 少 な く ,現 地 で の 移 動 は 自 転 車 が 主 流 で あ る .そ の た め ,現 地 に お け る 活 動 や プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 だ け で な く ,彼 ら 自 身 の 生 活 全 般 に お い て も ,配 属 先 関 係 者 や 地 域 住 民 の「 支 援 」な し で は ,円 滑 に 進 め る こ と は で き な い .ボ ラ ン テ ィ ア が 配 属 先 関 係 者 や 地 域 住 民 か ら「 支 援 」が も た ら さ れ る と い っ た 現 地 関 係 者 と の 間 に 強 い 相 互 関 係 が 生 ま れ る 背 景 と し て ,下 記 に 示 す よ う に 彼 ら の 中 に 価 値 変 容 の プ ロ セ ス が 存 在 し て い た と 考 え ら れ る . 太 平 洋 島 嶼 地 域 に お け る ボ ラ ン テ ィ ア に 対 し て 調 査 を 行 っ た Sekine2 2 )は , ボ ラ ン テ ィ ア が 現 地 の 労 働 感 や 価 値 観 ,慣 習 に 対 し ,当 初「 落 胆 」と い う 意 識 を 持 ち な が ら も , 心 理 的 変 容 (Psychological transformation) に よ っ て , 価 値 シ ス テ ム (Value system)が 変 遷 し , 現 地 の 地 域 性 を 内 面 化 し て い く プ ロ セ ス が あ る と し て い る . こ の プ ロ セ ス は , Lysgaard2 3 )が 称 す る 異 文 化 へ の U カ ー ブ 適 用 過 程 の 曲 線 や Adler2 4 )の 異 文 化 の 適 応 に お け る 五 段 階 説 で あ る 1) 接 触 (Contact) → 2) 自 己 崩 壊 (Disintegration) → 3) 自 己 再 結 合 (Reintegration) → 4)自 律 (Autonomy) → 5)独 立 (Independence) を 経 て , 相 違 や 類 似 点 を 正 当 化 し , 価 値 を 見 出 す プ ロ セ ス と 類 似 し て い る (図 2-6). つ ま り ,ボ ラ ン テ ィ ア が 経 験 す る 異 な る 文 化 の 価 値 シ ス テ ム は ,他 文 化 に 接 触 し た と き ,ま ず 自 分 の 価 値 シ ス テ ム を 自 己 崩 壊 さ せ る こ と に よ り 初 め て 新 し い 価 値 を 創 発 す る こ と が で き る .そ の 自 己 崩 壊 の プ ロ セ ス を 踏 む こ と に よ っ て ,新 し い 価 値 シ ス テ ム の 安 定 化 に と ど ま ら ず ,内 生 化 さ れ ,両 文 化 に お け る 暗 黙 知 化 (メ タ フ ァ ー 化 )と な る .

図   1-1  学 習 的 プ ロ セ ス と ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ
図  2-2  有 償 資 金 協 力 に お け る 委 託 -受 託 関 係   そ の た め ,被 援 助 国 お よ び 援 助 国 の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 同 時 に 満 た す た め に は ,ア ン タ イ ド に お け る 一 般 入 札 を 通 し て ,日 本 企 業 ・ 現 地 企 業 両 者 の 受 注 が ,理 想 的 な モ デ ル と 考 え ら れ る .し か し ,現 実 で は ,JICA が 発 表 し て い る 受 注 実 績 ,事 業
図   2-6  異 文 化 へ の U カ ー ブ 適 用 過 程   日 本 人 ボ ラ ン テ ィ ア は ,カ ウ ン タ ー パ ー ト 機 関 の 技 術 者 や 被 援 援 助 国 の 住 民 か ら の 「 支 援 」 を 受 け る こ と に よ り , 相 互 支 援 ( Mutual assistance) と い っ た 非 常 に 強 い 双 方 向 の「 協 力 」関 係 を 築 く .そ し て ,自 ら の 価 値 観 を 変 容 さ せ る こ と に よ り ,被 援
図   2-7  開 発 援 助 に お け る 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ (戸 川   2007) こ こ で ,援 助 国 と 被 援 助 国 が 相 互 的 な 関 係 を 持 ち ,双 方 が ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ を 明 確 に 提 示 す る こ と を「 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ 」で あ る と 定 義 す る .こ の 相 互 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ が 成 立 し な け れ ば ,意 思 決 定 者 で あ る 被 援 助
+7

参照

Outline

関連したドキュメント

Structure and Dynamics of a Turbulent Puff in Pipe Flow(.

Working memory capacity related to reading: Measurement with the Japanese version of reading span test Mariko Osaka Department of Psychology, Osaka University of Foreign

TOSHIKATSU KAKIMOTO Yonezawa Women's College The main purpose of this article is to give an overview of the social identity research: one of the principal approaches to the study

administrative behaviors and the usefulness of knowledge and skills after completing the Japanese Nursing Association’s certified nursing administration course and 2) to clarify

The dynamic nature of our drawing algorithm relies on the fact that at any time, a free port on any vertex may safely be connected to a free port of any other vertex without

表 2.1-1 に米国の NRC に承認された AOO,ATWS,安定性,LOCA に関する主な LTR を示す。No.1 から No.5 は AOO または ATWS に関する LTR を,No.6 から No.9 は安定性に 関する

山階鳥類研究所 研究員 山崎 剛史 立教大学 教授 上田 恵介 東京大学総合研究博物館 助教 松原 始 動物研究部脊椎動物研究グループ 研究主幹 篠原

資源回収やリサイクル活動 公園の草取りや花壇づくりなどの活動 地域の交通安全や防災・防犯の活動