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Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

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The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 5─15, 2008

病棟勤務看護師の勤務状況と

エラー・ニアミスのリスク要因

Relationship between Risk Factors Related Medical

Errors and Working Conditions of Nurses in Acute Care Settings

金子さゆり 濃沼信夫 伊藤道哉

Sayuri Kaneko Nobuo Koinuma Michiya Ito

Key words : nurses, working conditions, stress, fatigue, medical errors キーワード:看護師,勤務状況,ストレス,疲労,エラー

Abstract

This study was carried out to specify risk factors related medical errors and mistakes in working conditions of nurses. Data on the working conditions, job-related stresses, medical er-rors, and mistakes of 1,339 nurses in 6 teaching hospitals were collected using questionnaire. The logistic regression analysis was used to obtain quantitative relationship between risk factors related medical errors and working conditions. It was found that the stress factors of over work-ing time, break time, job demand, job control, job suitability, job satisfaction, physical stress, mental stress, and fatigue were concerned with medical errors and mistakes. The re-sult implied that the improvement of working conditions of nurses was needed and so that ap-propriate nurses staffing was discussed for keeping patient safety.

要  旨 本研究は看護師の過重労働および心身の疲労・ストレスの状態から医療事故に関連するリス ク要因を明らかにし患者の安全確保に資する方策について検討することを目的としている.臨 床研修病院6施設に勤務する看護師1,339名を対象に勤務状況,仕事のストレス,エラー・ニ アミスに関する自記式質問紙調査を行い,エラー・ニアミスと勤務状況の関係についてロジス ティック回帰分析を行った.その結果,看護師のエラー・ニアミスのリスク要因として「超過 勤務時間」,「休憩時間」,「仕事の負担度」,「仕事のコントロール度」,「仕事の適正度」,「仕事 の満足度」,「心理的ストレス」,「身体的ストレス」,「不可逆性疲労」との関連が示された.患 者の安全を確保するには,看護師の休憩時間を確保しつつ超過勤務時間を削減し,看護業務の 過重負荷を改善する必要がある.これは看護師個人の努力に頼るだけでは限界があり,安全な 医療を提供するためには看護師の勤務条件の改善が不可欠であり,そのためには患者の安全確 保のために必要な適正人員配置について検討する必要がある. 受付日:2007年7月9日  受理日:2008年4月11日

東北大学大学院医学系研究科医療管理学分野 Department of Health Administration and Policy, Tohoku University Graduate School of Medicine

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Ⅰ.緒言

近年,医療事故に関する報道が多くあり,患者 の安全確保に大きな関心が向けられている.この ような医療を取り巻く厳しい状況下で,安全管理 体制の充実・強化がとられている.他方,医療従 事者の勤務状況はますます重くなっている(医師 の需給に関する検討会,2006;日本医療労働組合 連合会,2006,2007;日本看護協会,2003).同 時に,地域社会における医師や看護師の不足が深 刻化している(四病院団体協議会,2004;東北大 学医学部地域貢献作業班ワーキンググループ, 2004). 著者らはこれまで患者の安全確保に向けた医療 提供体制の方策について検討するために,地域の 中核病院に勤務する医師を対象としてエラーやニ アミスを誘発するリスク要因について勤務状況と 関連づけて研究を行ってきた(金子ら,2007).今 回は看護師に焦点を当て,看護師の勤務状況に起 因するリスク要因について検討を行った. 看護師の勤務状況に関してはいくつかの調査結 果が報告されており,長時間勤務など過重労働の 状況にあることが公表されている(日本看護協会, 2003).また,看護師の交代勤務に伴う疲労や勤 務中の眠気(折山ら,2005),バーンアウトと医療 事故の関係(北岡,2005),精神的健康観とエラー の関係(Suzuki, et al., 2004),睡眠障害と仕事上の ミスの関係(大井田ら,2000)等が検討されている. しかしながら,昨今の過重労働の状況下における 看護師のエラー・ニアミスあるいは医療事故のリ スク要因を考慮した報告は見当たらない.看護師 の勤務実態から過重労働につながる要因,ならび にそれに伴う身体的・精神的影響を明らかにする こと,また看護師の過重労働が患者安全に及ぼす 影響について検討することは,安全な医療提供体 制を構築するうえできわめて重要と考える. 本研究は,看護師の勤務実態および心身の疲 労・ストレスの状態から医療事故に関連するリス ク要因を明らかにし,患者の安全確保に向けた方 策を検討することを目的とする.

Ⅱ.研究方法

1. 対象および方法 1政令指定都市にある臨床研修病院かつ救急指 定病院に該当する6施設(表1)に勤務する看護師 1,339名を対象に自記式質問紙調査を行った.調 査は対象となった各施設長の承諾を得てから行わ れた.調査票は施設の担当者より各看護師へ配 布,記入後は備えつけの封筒に密封のうえ,施設 担当者へ提出し施設ごとに回収した.調査期間は 2005年11∼12月である. 2. 調査票の内容 調査票は,勤務実態,仕事のストレス要因とス トレス反応に関する項目,不可逆性疲労に関する 項目,エラー・ニアミスに関する項目,属性に関 する項目から構成されている(図1). 勤務実態については,連続7日間における予定 の勤務時間と実際の勤務時間について記入しても らった.さらに,出勤から退出までの業務内容, 受け持ち患者数,休憩時間などを記入してもらっ た.1週間の総労働時間は7日間の合計勤務時間, 1勤務あたり超過勤務時間は実際の勤務時間と予 定の勤務時間との差,1勤務あたり休憩時間は勤 務中の累積休憩時間で算出した. 仕事のストレス要因とストレス反応に関する調 査項目については,職業性ストレス簡易調査票 (下光,2005)を使用した.職業性ストレス簡易調 査票は57項目で構成され,各項目に対する回答 は4件法による段階評価である.下位尺度は「仕 事の負担度」,「仕事のコントロール度」,「仕事で 表1 6施設の概要 病床数 平均在院日数 看護配置基準 A B C D E F 約400 約400 約300 約300 約400 約300 21.5 15.7 17.0 11.7 14.7 18.5 2:1 2:1 2.5:1 2:1 2:1 2.5:1 (2005年11月時点)

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の対人関係」,「仕事の適正度」,「職場の支援」,「仕 事の満足度」,「心理的ストレス反応」,「身体的ス トレス反応」である(表2).また,本研究ではカッ トオフ値が設定されている簡易採点法に基づき, 仕事のストレス要因およびストレス反応の下位尺 度である各要因について「高」と「低」で評価した. 不可逆性疲労に関する項目について,過去6か 月の期間における「勤務中に体力的限界を感じ る」,「疲労が翌日まで残る」を質問し,各項目の 回答は4件法(ほとんどなかった,ときどきあっ た,しばしばあった,いつもあった)で求めた. 本研究では,4段階評価を2段階評価とし,ほと んどなかった,ときどきあったを「無」に,しばし ばあった,いつもあったを「有」とした. エラー・ニアミスに関する項目について,過去 6か月の期間における「ミスやエラーを起こしそ うになった」,「ミスやエラーを起こした」を質問 し,各項目の回答は4件法(ほとんどなかった, ときどきあった,しばしばあった,いつもあった) で求めた. 属性に関する項目については,年齢,性別,経 験年数,所属病棟での勤務年数,所属病棟の主た る診療科,勤務形態,職位,睡眠時間について調 べた. 3. 分析方法 エラー・ニアミスの有無へ影響する要因を明ら かにするために「ミスやエラーを起こしそうに なった」をニアミス,「ミスやエラーを起こした」 をエラーと定め,各項目の頻度に関する4段階評 価を2段階評価(有無)へ変換し,ニアミスおよび エラーを有したデータ群(以下,エラー有・ニア ミス有群)とニアミスおよびエラーが無のデータ 群(以下,エラー無・ニアミス無群)を設定して, 両群で各諸要因を比較した.この分析において 「ニアミス有・エラー無」群を除外した理由は, データの不確実性をできるだけ排除するためであ り,本研究は「ニアミス有・エラー有」群と「ニア ミス無・エラー無」群の明確な回答に対して関連 するリスク要因の検討を行った.比較の検定に は,χ2検定,t検定,Mann-Whitney U検定を用い, p<0.05を有意差ありとした. さらに,関連する要因のエラー・ニアミスの発 生リスクを求めるために単変量ロジスティック回 帰分析を行い,関連する要因のエラー・ニアミス の発生オッズ比(OR)と95%信頼区間(95% CI)を 求めた.また,年齢による影響を考慮し,年齢調 整後についても同様に求めた.統計解析には SPSS 14.0J for Windowsを使用した. 4. 倫理的配慮 調査協力者には個人宛ての調査依頼文書の中 で,研究目的,調査協力に対する自由意志,回答 内容の守秘を説明し,調査用紙への回答をもって 事故 急性反応 仕事のストレッサー エラー ニアミス ストレス反応 勤務状況 心理的ストレス 身体的ストレス 総労働時間/週 夜勤回数/月 勤務時間/日 超過勤務時間 休憩時間 受け持ち患者数 個人要因 不可逆性疲労 属性 勤務中の体力的限界 翌日への疲労蓄積 年齢 経験・勤務年数 睡眠時間など 仕事のストレス要因 仕事の負担度 仕事のコントロール度 仕事での対人関係 仕事の適正度 仕事の満足度 職場の支援 図1 調査内容の枠組み

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表2 仕事のストレス要因,ストレス反応に関する調査項目 構成概念 調査項目 仕事のストレス要因 仕事の負担度 非常にたくさんの仕事をしなければならない 時間内に仕事が処理しきれない 一生懸命に働かなければならない かなり注意を集中する必要がある 高度の知識や技術が必要な難しい仕事だ 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない 体を大変よく使う仕事だ 仕事のコントロール度 自分のペースで仕事ができる 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる 職場の方針に自分の意見を反映できる 仕事での対人関係 私の部署内で意見のくい違いがある 私の部署と他の部署とはうまが合わない 職場の雰囲気は友好的である 仕事の適正度 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない 仕事の内容は自分にあっている 働きがいのある仕事だ 職場の支援 上司とどのくらい気軽に話ができるか 職場の同僚とどのくらい気軽に話ができるか 困った時,上司はどのくらい頼りになるか 困った時,職場の同僚はどのくらい頼りになるか 個人的な問題を相談したら,上司はどのくらい聞いてくれるか 個人的な問題を相談したら,職場の同僚はどのくらい聞いてくれるか 仕事の満足度 仕事に満足だ ストレス反応 心理的ストレス反応 活気がわいてくる 元気がいっぱいだ 生き生きする 怒りを感じる 内心,腹立たしい イライラする ひどく疲れた へとへとだ だるい 気がはりつめている 不安だ 落ち着かない ゆううつだ 何をするにも面倒だ 物事に集中できない 気分が晴れない 仕事が手につかない 悲しいと感じる 身体的ストレス反応 めまいがする 体のふしぶしが痛む 頭が重かったり頭痛がする 首筋や肩がこる 腰が痛い 目が疲れる 動悸や息切れがする 胃腸の具合が悪い 食欲がない 便秘や下痢をする よく眠れない 出典:「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル」より,一部改変.

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調査協力へ同意したものとした.調査票は無記名 かつ封筒を使用し,調査内容が研究者以外に漏れ ることがないよう配慮した.本研究は個人情報保 護法ならびに疫学研究に関する倫理指針に則って 行われた.

Ⅲ.結果

1. 回答者の属性 本 研 究 は1,038名 か ら 回 答 を 得, 回 収 率 は 77.5%であった.病棟勤務の看護師は787名であ り,そのうちエラー無・ニアミス無群は131名, エラー有・ニアミス有群は382名であった(図2). 病棟看護師は,女性100%,常勤勤務99.6%, スタッフナース89.7%であり,平均年齢は33.0 歳,経験年数は11.0年,現病棟での勤務年数は3.7 年であった(表3).また,病棟の主たる診療科は, 内科35.3%,外科31.6%,混合21.0%,産婦人科 9.5%,小児科2.4%であった. エラー・ニアミスの有無別にみると,年齢,経 験年数,病棟勤務年数で有意な差がみられ,エ ラー有・ニアミス有群はエラー無・ニアミス無群 に比べて,年齢が若く,経験年数および病棟勤務 年数は少なかった.性別,勤務形態,職位,診療 科では両群で有意な差はなかった. 2. 勤務状況 病棟看護師の1週間あたり労働時間は48.4時 間,1日あたり勤務時間は10.2時間,うち超過勤 務時間は95.9分,休憩時間は43.6分であった(表 3).また,受け持ち患者数は日勤帯で6.9人,夜 勤帯で13.9人であった. エラー・ニアミスの有無別にみると,1週間あ たり労働時間,1か月あたり夜勤回数,1日あた り勤務時間,日勤および夜勤の受け持ち患者数に ついては両群で有意な差はなかった(表3).他方, エラー有・ニアミス有群はエラー無・ニアミス無 群に比べて,1勤務あたり超過勤務時間は長く, 休憩時間は短く,両群で有意な差があった. ロジスティック回帰分析の結果,エラー・ニア ミスのリスク要因として超過勤務時間,休憩時間 との関連が示され,超過勤務時間が1分増すごと にエラー・ニアミスを起こしたとの回答が1.01 倍,また休憩時間が1分増すごとにその回答が 0.98∼0.99倍となることが示された(表4). 3. 仕事のストレス要因 「仕事の負担度」が高いと答えた看護師の割合 が,エラー有・ニアミス有群とエラー無・ニアミ ス無群の両群ともに9割を越えた(表3).また, エラー有・ニアミス有群はエラー無・ニアミス無 配布:1,339部 回収:1,038部 (回収率77.5%) 病棟勤務の看護師 n=787 ・ICU/ HCCを除く ・手術室を除く ・外来を除く ・未記入を除く エラー無 ニアミス有 n=274(34.8%) エラー有 ニアミス有 n=382(48.5%) エラー無 ニアミス無 n=131(16.7%) 図2 回収数および分析対象

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表3 属性,勤務状況,ストレス要因およびストレス反応,不可逆性疲労 全体 n=787 エラー無・ニアミス無 n=131 エラー有・ニアミス有 n=382 pn (%) n (%) n (%) 属性 年齢(mean±SD) 33.0±9.5 35.6±9.3 31.7±9.3 <0.01 a)* 経験年数 11.0±9.2 13.8±9.2 9.8±9.1 <0.01 a)* 現病棟での勤務年数 3.7±3.7 4.4±3.5 3.3±3.7 0.01 c)* 性別 女性 787 (100) 131 (100) 382 (100) 勤務形態 常勤 784 (99.6) 131 (100) 381 (99.7) 0.57 b) 非常勤 3 (0.4) 0 (0.0) 1 (0.3) 職位 スタッフ 706 (89.7) 113 (86.3) 352 (92.1) 0.08 b) 主任・師長 81 (10.3) 18 (13.7) 30 (7.9) 主たる診療科 内科 278 (35.3) 41 (31.3) 150 (39.3) 0.40 b) 外科 249 (31.6) 40 (30.5) 119 (31.2) 小児科 19 (2.4) 5 (3.8) 10 (2.6) 産婦人科 75 (9.5) 15 (11.5) 33 (8.6) 混合 165 (21.0) 30 (22.9) 70 (18.3) 睡眠時間 6.1±1.0 6.0±1.0 6.2±1.1 0.04 a)* 勤務状況 総労働時間/週 (時間) 48.4±11.0 48.6±10.8 48.6±11.5 0.97 a) 夜勤回数/月 7.4±3.2 7.5±3.1 7.4±3.1 0.63 a) 1勤務あたり労働時間 (時間) 10.2±1.0 10.1±0.9 10.2±1.0 0.15 a) 超過勤務時間 (分) 95.9±63.6 84.8±56.9 98.5±60.5 0.03 a)* 休憩時間 (分) 43.6±13.0 46.3±15.8 43.0±12.9 0.03 a)* 受け持ち患者数 日勤 6.9±4.8 6.6±4.6 6.8±4.3 0.76 a) 夜勤 13.9±6.1 13.9±5.9 13.8±6.2 0.91 a) 仕事のストレス要因 仕事の負担度 低 45 (5.7) 13 (9.9) 17 (4.5) 0.03 b)* 高 742 (94.3) 118 (90.1) 365 (95.5) 仕事のコントロール度 高 359 (45.6) 85 (65.4) 157 (41.1) <0.01 b)* 低 428 (54.4) 45 (34.6) 225 (58.9) 仕事での対人関係 高 546 (69.5) 99 (75.6) 254 (66.7) 0.06 b) 低 240 (30.5) 32 (24.4) 127 (33.3) 仕事の適正度 高 595 (75.6) 107 (81.7) 273 (71.5) 0.02 b)* 低 192 (24.4) 24 (18.3) 109 (28.5) 仕事の満足度 高 324 (42.2) 67 (52.3) 140 (38.3) 0.01 b)* 低 443 (57.8) 61 (47.7) 226 (61.7) 職場の支援 高 620 (79.4) 107 (82.3) 300 (79.2) 0.53 b) 低 161 (20.6) 23 (17.7) 79 (20.8) ストレス反応 心理的ストレス 低 595 (75.8) 119 (90.8) 258 (68.1) <0.01 b)* 高 190 (24.2) 12 (9.2) 121 (31.9) 身体的ストレス 低 684 (86.9) 120 (91.6) 321 (84.0) 0.02 b)* 高 104 (13.2) 10 (7.6) 61 (16.0) 不可逆性疲労 勤務中の体力的限界 無 528 (67.1) 104 (79.4) 233 (61.0) <0.01 b)* 有 260 (33.0) 27 (20.6) 149 (39.0) 翌日への疲労蓄積 無 300 (38.1) 63 (48.1) 126 (33.0) <0.01 b)* 有 488 (62.0) 68 (51.9) 256 (67.0) a)t検定,b)χ2検定,c) Mann-Whitney U検定p0.05

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群に比べて「仕事のコントロール度」,「仕事の適 正度」,「仕事の満足度」が低いと答えた看護師の 割合が有意に高かった.他方,「仕事での対人関 係」や「職場の支援」が低いと答えた看護師の割合 は,エラー有・ニアミス有群はエラー無・ニアミ ス無群に比べて高いものの,有意な差はなかっ た. ロジスティック回帰分析の結果,「仕事の負担 度」,「仕事のコントロール度」,「仕事の適正度」, 「仕事の満足度」がエラー・ニアミスのリスク要因 として示された.すなわち,「仕事の負担度」が高 い場合は低い場合に比べてエラー・ニアミスを起 こしたとの回答が2.4倍に,また「仕事のコント ロール度」,「仕事の適正度」,「仕事の満足度」が 低い場合は高い場合に比べてエラー・ニアミスを 起こしたとの回答がそれぞれ2.7倍,1.7倍,1.7 倍になることが示された(表4). 4. ストレス反応と不可逆性疲労 ストレス反応では「心理的ストレス」や「身体的 ストレス」が高いと答えた看護師の割合は,いず れもエラー有・ニアミス有群の場合において有意 表4 各要因におけるエラー・ニアミス発生オッズ比 年齢調整なし OR  (95%CI) 年齢調整あり OR  (95%CI) 勤務状況 総労働時間/週 夜勤回数/月 1勤務あたり労働時間 超過勤務時間 休憩時間 受け持ち患者数 (時間) (時間) (分) (分) 日勤 夜勤 1.00 (0.98─1.02) 0.98 (0.92─1.05) 1.18 (0.95─1.47) 1.01 *1.001.01 0.98 *0.970.99 1.01 (0.96─1.06) 1.00 (0.96─1.04) 1.00 (0.98─1.02) 0.98 (0.90─1.05) 1.15 (0.91─1.45) 1.01 *1.001.01 0.99 *0.970.99 1.01 (0.97─1.06) 0.99 (0.95─1.03) 仕事のストレス要因 仕事の負担度 仕事のコントロール度 仕事での対人関係 仕事の適正度 仕事の満足度 職場の支援 低 高 高 低 高 低 高 低 高 低 高 低 1.00 2.37 *1.125.01 1.00 2.71 *1.794.10 1.00 1.55 (0.98─2.43) 1.00 1.78 *1.092.92 1.00 1.77 *1.182.66 1.00 1.23 (0.73─2.05) 1.00 2.42 *1.075.45 1.00 2.75 *1.784.24 1.00 1.51 (0.94─2.43) 1.00 1.73 *1.042.90 1.00 1.72 *1.122.63 1.00 1.31 (0.77─2.24) ストレス反応 心理的ストレス 身体的ストレス 低 高 低 高 1.00 4.65 *2.478.75 1.00 2.28 *1.134.60 1.00 4.21 *2.208.04 1.00 1.98 *1.004.11 不可逆性疲労 勤務中の体力的限界 翌日への疲労蓄積 無 有 無 有 1.00 2.46 *1.543.94 1.00 1.88 *1.262.82 1.00 2.61 *1.604.24 1.00 2.11 *1.373.23p0.05

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に高かった(表3).また,不可逆性疲労では「勤 務中の体力的限界」や「翌日への疲労蓄積」を有と 答えた看護師の割合は,いずれもエラー有・ニア ミス有群の場合において有意に高かった. ロジスティック回帰分析の結果,ストレス反応 を示す「心理的ストレス」および「身体的ストレ ス」,不可逆性疲労状態を示す「勤務中の体力的限 界」および「翌日への疲労蓄積」も,エラー・ニア ミスのリスク要因であることが示された(表4). 「心理的ストレス」や「身体的ストレス」が高い場合 はそれらが低い場合に比較してエラー・ニアミス を起こしたと回答した割合がそれぞれ4.2∼4.7 倍,2.0∼2.3倍,「勤務中の体力的限界」や「翌日 への疲労蓄積」を感じる場合はそうでない場合に 比べてエラー・ニアミスを起こしたと回答した割 合がそれぞれ約2.5倍,約2.0倍になることが示さ れた.

Ⅳ.考察

看護師の勤務実態に関する調査(日本看護協会, 2003;日本医療労働組合連合会,2006)が報告す る看護師の労働時間は39時間24分/週,1勤務あ たり残業時間は平均70分であり,1時間以上の残 業は44.0%,2時間以上の残業は11.3%である. また,勤務中に休憩が規定どおりに取れた看護師 の割合は4割にすぎず,全国的に過重労働にある ことが示されている.本調査の対象となった看護 師はそれらを上回る過密労働であり,長時間の超 過勤務および休憩時間の不足がエラー・ニアミス のリスク要因であることが示唆された. 長時間労働はエラーの誘発要因となりうること が報告されているものの(Rogers, et al., 2004), 本結果はエラー・ニアミスの有無にかかわらず, 勤務時間が10時間/日を超えていた.また,エ ラー有・ニアミス有群はエラー無・ニアミス無群 に比べて超過勤務時間は長く,休憩時間は短かっ た.病棟看護師は,本来のケア業務以外に患者の 予期しない状態変化や予定外の検査や入院など突 発的事態への対応が求められ,こうした対応のた めに休憩時間の短縮,あるいは通常業務が影響を 受けて超過勤務になることも少なくない.した がって,患者安全を確保するには看護師の休憩時 間を確保しつつ,超過勤務時間を削減し,看護業 務の過重負荷を改善することが重要といえる.そ のためには,それに見合う人員を投入する必要が あり,安全確保に必要な適正人員配置について検 討する必要があると考えられる. さらに,エラー・ニアミスのリスク要因として 「不可逆性疲労」との関連が示された.疲労による 反応時間の低下は,仕事中の居眠り,うっかりミ スを増加させるなどの影響を招くことが明らかに されているが(Gold, et al., 1992),本結果では「勤 務中の体力的限界」を感じる場合はそうでない場 合に比べてエラー・ニアミスを起こしたとの回答 が約2.5倍になることが示された.過労兆候を自 覚した場合,作業の中断または作業現場からの離 脱など自発的休憩をとることで疲労をリセットす ることができるが(佐々木,2002),状況変化が激 しい医療現場において十分な人員は配置されてお らず,看護師は業務を中断して現場から離れるこ とは困難であると考えられる.したがって,疲労 の進展を防ぐには決められた休憩時間に確実に休 憩をとることが重要といえる. また,「翌日への疲労蓄積」を感じる場合はそう でない場合に比べてエラー・ニアミスを起こした との回答が約2倍になることが示された.日周性 疲労がリセットされない状態が続くと慢性疲労に 移行し,慢性疲労状態で働くことは患者の安全に 影響を与えることが明らかにされている(山下ら, 1991).日周性疲労の回復には睡眠を十分に確保 することが望ましいものの,本研究ではエラー 有・ニアミス有群の睡眠時間は,エラー無・ニア ミス無群に比べて長かった.このことについて, 交代勤務で働く場合,入眠障害,中途覚醒,早朝 覚醒など睡眠の質の低下(黒田ら,1999;影山ら, 2002;岩下,2007)が指摘されていることから, 今後,睡眠時間の長短のみならず,入眠障害,中 途覚醒,早朝覚醒などの有無を考慮したうえでエ ラー・ニアミスとの関連を検証する必要がある.

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仕事のストレス要因では,「仕事の負担度」,「仕 事のコントロール度」がエラー・ニアミスのリス ク要因として明らかになった.「仕事の負担度」と は,時間内に仕事を処理しきれない,高度の知識 や技術が必要な難しい仕事であるなど業務量の過 重負荷や業務内容の質的負担を表している.他方 「仕事のコントロール度」とは仕事の裁量を示すも のであり,具体的には仕事の順番・やり方を決め ることができる,自分のペースで仕事ができるこ とを表している.病棟の看護業務は通常,仕事量 が多く,かつまた突発的事態への的確かつ迅速な 対応が求められ,看護師個人では業務をコント ロールしにくい側面をもっている.こうした「仕 事の負担度」が高く,かつ「仕事のコントロール 度」が低いという状況は,看護師の精神的健康状 態(影山ら,2001,2003),不眠症(影山ら,2002), 病気欠勤(三木ら,1998)に影響を与えることが示 されていることからも,看護師自身の問題もさる ことながら患者安全の確保という観点からもきわ めて重要なリスク要因といえる. 以上のことから,患者安全を確保するためには 適切な休憩の確保と業務内容の見直しを行い,業 務の過重負荷を改善することが重要となるもの の,これは看護師個人の努力に頼るだけでは限界 があり,安全な医療を提供するためには看護師の 勤務条件の改善が不可欠と考えられる.そのため に必要な人員配置について検討する必要がある. 加えて,「心理的ストレス」が高い場合は低い場 合に比べてエラー・ニアミスを起こしたとの回答 が4.2∼4.7倍になること,また「仕事の適正度」や 「仕事の満足度」が低い場合は高い場合に比べてエ ラー・ニアミスの確率が増すことが示された.患 者安全と看護師のバーンアウト(北岡,2005),精 神的健康感(Suzuki, et al., 2004)との関連が示され ているように,これらの結果は看護師のメンタル サポートやストレス反応を誘発する労働環境要因 の改善を必要としていると考えられる.本結果で は,ストレス緩和要因として作用すべき「職場の 支援」,すなわち上司や同僚によるサポートによ る影響がみられなかった.しかしながら,この「職 場の支援」が低いと答えた看護師の割合は2割程 度であり,必ずしもサポートがなされていないと はいえず,このことは上司や同僚によるサポート では限界があることを示唆しているといえる.看 護師へのメンタルヘルス活動の1つにリエゾン ナースの活用(野末,2006)があげられるが,わが 国においてリエゾンナースを配置している病院は きわめて少ない.安全な医療を提供するためには ライン外にリエゾンナースを配置するなど看護師 のメンタルサポートの体制構築が急がれる. また看護師の場合,経験年数が少ないほど事故 発生割合が高いことが明らかにされており,本研 究においてもエラー・ニアミスの有無で年齢や経 験年数に差がみられたため,年齢調整も行いリス ク要因を検討した.しかし年齢調整の有無にかか わらず,同様のリスク要因が特定され,オッズ比 においても大きな違いはみられなかった.このこ とは年齢による影響を考慮しても「超過勤務時 間」,「休憩時間」,「仕事の負担度」,「仕事のコン トロール度」,「仕事の適正度」,「仕事の満足度」, 「心理的ストレス」,「身体的ストレス」,「不可逆 性疲労」はエラー・ニアミスのリスク要因になり うることを示唆している. 最後に,本研究の限界として以下のことがあげ られる.第1に,本研究は勤務以外のストレス要 因を含まなかったことから,勤務以外の要因とエ ラー・ニアミスとの関連については検討されてい ない.これに関して,従来の疲労や安全性に関す る研究(Scott, et al., 2006 ; Akerstedt, et al., 2004 ; Suzuki, et al., 2004;藤内ら,2004)では家族関係 や生活習慣との関連が示されていることから,こ うした勤務以外の要因による影響の可能性も否定 できない.第2に,本調査はエラー・ニアミスの 頻度に関する評定を4段階で回答を求めたが,エ ラー・ニアミスに関しては言明できないことでも あり,その頻度に関する判断は回答者に依存して いるということである.

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Ⅴ.結論

本研究は地域社会において顕在化している医療 従事者の不足,偏在という状況下での看護師の過 重労働および心身の疲労・ストレスの状態から医 療事故に関連するリスク要因を明らかにし,患者 の安全確保に資する方策について検討を行った. 看護師のエラー・ニアミスのリスク要因として 「超過勤務時間」,「休憩時間」,「仕事の負担度」,「仕 事のコントロール度」,「仕事の適正度」,「仕事の 満足度」,「心理的ストレス」,「身体的ストレス」, 「不可逆性疲労」との関連が示された.患者の安全 を確保するには,看護師の休憩時間を確保しつつ 超過勤務時間を削減し,看護業務の過重負荷を改 善する必要がある.これは看護師個人の努力に頼 るだけでは限界があり,安全な医療を提供するた めには看護師の勤務条件の改善が不可欠であり, そのためには患者の安全確保のために必要な適正 人員配置について検討する必要がある. 謝辞:本調査にご協力いただきました臨床研修病 院6施設の看護部長をはじめ看護師長,看護師の皆様 に心よりお礼申し上げます. なお,本論文の一部は第8回日本看護管理学会年次 大会にて発表した. 引用文献

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参照

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