1. はじめに
放射線治療計画では,CT 画像を用いて臓器や腫瘍の輪郭を描出し線量計算を行うのが標準的である.しかし金 属アーチファクトの影響で,臓器の輪郭が不明瞭となり正確な輪郭を描出することができない.また,線量計算も不 正確なものとなる.金属アーチファクトがある画像の治療計画では,金属アーチファクト部分を水のCT 値に置き換え ることによって,金属アーチファクトの影響を最小限におさえて治療計画を行っているのが現状である.そこで今回は 当院に2013 年 10 月に導入された TOSHIBA 社製の CT(Aquillion ONE Vision Edition)に搭載されている金 属アーチファクト低減処理(SEMAR:Single Energy Metal Artifact Reduction)を利用し,より正確な臓器の輪 郭描出や線量計算を行えるかを検討した.
2. SEMAR による金属アーチファクト低減処理方法
SEMAR は TOSHIBA 社独自のものであり,逐次近似再構成法を応用したものである.撮影後に画像処理を行 うため,1 回の撮影で SEMAR 処理画像(以下 SEMAR あり画像)と SEMAR 未処理画像(以下 SEMAR なし画 像)の取得が可能である (Fig. 1).
SEMAR の原理は,オリジナル画像から金属部分を CT 値の閾値で抜き出し,金属のみのサイノグラムを作成 し,オリジナル投影データと金属のみのサイノグラムをサブトラクション,補間することで,金属のないサイノグラムを作 成する.修正されたサイノグラムから金属アーチファクトを低減した画像が作成され,最後に金属のみのデータを付 加することによってSEMAR 画像が完成する (Fig. 2) 1).
TOSHIBA 社以外の金属アーチファクト低減処理として Philips 社の O-MAR(Metal Artifact Reduction for Orthopedic Implants),SIEMENS 社の iMAR(Iterative Metal Artifact Reduction)などがあるが,金属アー チファクト低減処理の原理など詳細は不明である. a) SEMAR なし b) SEMAR あり Fig. 1 金属アーチファクト低減処理
つかえるの?金属アーチファクト低減処理
Pre かたろう会 滋賀県立成人病センター 西谷拓也3. ファントムによる CT 値の変化,輪郭描出精度,線量計算の検討 3.1 使用機器
CT:Aquillion ONE Vision Edition (TOSHIBA) 治療計画装置:Eclipse(Varian)
IMRT 検証用ファントム:RT3000-New(R-Tech) 水槽:MU 校正用水槽
解析ソフト:DD-system(R-Tech) Electron Density CT Phantom: RMI467(GAMMEX) ロッド材4 種類 0.90,0.96,1.07,1.09 g/cm3 自作の金属棒 チタン密度:4.426 g/cm3 鉄密度:7.702 g/cm3 サイズ:1 cm×1 cm×15 cm Fig. 3 ファントム中央にロッド材を配置し,ファントム両端に金 属棒を配置した.ファントム間の隙間を埋めるためにファントム を水に浸して撮影した. 3.2 方法 3.2.1 ファントム撮影
IMRT 検証用ファントム RT3000-New の中央に RMI467 ファントムのロッド材(密度:0.90,0.96,1.07,1.09 g/cm3)を挿入し,両端には金属棒を挿入した (Fig. 3).ロッド材は画像上で IMRT 検証用ファントムと識別しに くい密度のものを選択し,金属棒は体内に入りうる可能性のある金属として,チタンと鉄を選択した.RT3000-New ファントムとロッド材の形状の違いから,ファントム間に隙間ができてしまい,金属以外のアーチファクトが発 生するため,ファントムを水に浸して隙間をなくして撮影した.
撮影パターンは,金属棒のチタンと鉄の2 種類と,ロッド材 4 種類の全てのパターンに加え,金属棒のない状態 でも撮影を行った (Table 1).撮影条件は,撮影モード Volume scan,管電圧 120 kV,管電流 200 mA,回転
速度0.75 sec,再構成関数 FC13(腹部標準関数)とし,SEMAR あり画像,SEMAR なし画像を作成した. 3.2.2 CT 値の変化 まず金属棒の挿入されていない画像からロッド材のCT 値を測定し,SEMAR がロッド材の CT 値に及ぼす影 響を確認した.次に金属棒の挿入された状態で,ロッド材のCT 値を測定した.それぞれ SEMAR あり画像, SEMAR なし画像のロッド材の範囲を ROI で囲み CT 値は平均値で求め,金属棒なし画像のロッド材 CT 値を 基準に比較した. 3.2.3 輪郭描出精度 SEMAR あり画像,SEMAR なし画像で,ロッド材の輪郭を治療計画装置で閾値をもとに描出した.閾値は金 属のない状態で,真のロッド材断面積になる範囲を設定した.閾値より得られた輪郭は,対象領域の外側は消去 し,内側は塗りつぶし処理を行ったものとした (Fig. 4).金属を挿入した状態で,SEMAR あり画像と SEMAR な し画像から得られたロッド材輪郭の断面積を既知のロッド材断面積と比較した.
3.2.4 線量計算
SEMAR が線量計算に与える影響として,Ⓐ金属棒なし画像(SEMAR なし),チタン,鉄の金属棒をそれぞれ 挿入したⒷSEMAR なし画像,ⒸSEMAR あり画像,ⒹSEMAR なしのアーチファクト部分をファントム密度で置 き換えた画像の4 種類を使用して線量計算を行った.
線量計算条件は,6 MV-X 線,前方 1 門照射,照射野 8×8 cm,計算 MU は 100 MU 固定とし,計算アル ゴリズムをAAA とした.照射野は金属アーチファクトの影響のみを見るために金属棒が照射野内に入らない大き さとした.計算結果からIsocenter Dose の誤差と,Isocenter プロファイル上での最大誤差を求めた.
次に,リファレンスポイント位置による線量計算の違いを確認するために,リファレンスポイントを金属アーチファ クトの①前方,②中央,③後方の3 つのポイントに置いて線量計算を行った (Fig. 5).線量計算条件は上記と 同一で,リファレンスポイントに1 Gy 処方とし,計算 MU で比較した.
Table 1 ファントム撮影パターン
3.3 結果
3.3.1 CT 値の変化
金属棒なしのSEMAR あり画像,SEMAR なし画像のそれぞれのロッド材 CT 値は±1 HU 以内で一致し,同 等CT 値となった.これにより,金属アーチファクトのない画像の CT 値に SEMAR が影響を及ぼさないことがわ かった.
Fig.6,Fig.7 に金属棒挿入時の SEMAR あり画像,SEMAR なし画像の各ロッド材 CT 値の結果を示す.金 属棒なしのロッド材の値も基準として示す.チタンと鉄の金属棒を挿入したSEMAR あり画像,SEMAR なし画像 では,チタン挿入画像よりも鉄挿入画像がアーチファクトの発生が多かった.金属棒なし画像に比べSEMAR な し画像のチタン挿入画像では最大-40.6 HU,鉄挿入画像では最大-162.0 HU であった.SEMAR あり画像の チタン挿入画像では最大-13.9 HU,鉄挿入画像では最大-9.3 HU となり,SEMAR を使用することによって CT 値は真値に近づく結果となった. 3.3.2 輪郭描出精度
チタン挿入画像と鉄挿入画像の輪郭描出精度の結果をFig. 8,Fig. 9,Fig. 10 に示す.チタン挿入画像は鉄 挿入画像に比べ金属アーチファクトの発生が少なかったため,全体的にチタン挿入画像の描出精度が良い結果 となった.また,SEMAR なし画像で鉄挿入画像のロッド材密度 0.9,0.96 g/cm3では金属アーチファクトの影響 が強すぎて計測不能となった.輪郭描出の誤差が大きかったのはチタン,鉄挿入画像共にロッド材密度0.96 g/cm3であった.また鉄挿入画像のロッド材密度1.07 g/cm3では,SEMAR あり画像よりも SEMAR なし画像の 誤差が少ない結果となった. Fig. 5 線量計算を行った 4 種類の画像と 1 Gy 処方時のリファレンスポイントの位置 Fig. 6 チタン挿入のロッド材 CT 値 Fig. 7 鉄挿入のロッド材 CT 値
3.3.3 線量計算
100 MU 固定で線量計算を行った場合の Isocenter Dose を Table 2 に示す.この計算結果の Isocenter プ ロファイル上での最大誤差をTable 3 に示す.共にⒶ金属棒なしの Isocenter Dose とプロファイルを基準として 誤差を求めた.
次に,3 つのリファレンスポイントに 1 Gy 処方で線量計算を行った結果を Table 4 に示す.Ⓐ金属棒なしの計 Fig. 8 輪郭描出結果
Fig. 9 閾値で描出した輪郭描出精度(チタン) Fig. 10 閾値で描出した輪郭描出精度(鉄)
Table 2 Isocenter Dose の比較 Table 3 Isocenter プロファイル上での最大誤差
算MU を基準に比較した.この結果からⒹ置き換え画像とⒶ金属棒なし画像は同じ結果となりⒸSEMAR あり画 像とチタンのⒷSEMAR なし画像では誤差±1%以内となった. 3.4 考察 輪郭描出精度の結果でチタン,鉄挿入画像共にロッド材密度0.96 g/cm3の輪郭描出の差が大きかった.ロッド 材密度0.96 g/cm3のCT 値が-59.3 HU,周囲のファントムの CT 値が-21.3 HU と近かったため,ロッド材とファン トムの境界が不明瞭となり輪郭描出精度に影響が出たと考えられる. 鉄挿入画像のロッド材密度1.07 g/cm3で,SEMAR あり画像よりも SEMAR なし画像の輪郭描出の差が少ない 結果となった.Fig.8 に示すように,SEMAR なし画像のロッド材密度 1.07 g/cm3では,金属アーチファクトの影響 で本来のロッド材がある場所と異なる位置に輪郭を描出している.その輪郭が既知の断面積に近かったため, SEMAR あり画像よりも良い結果となったと考えられる.ロッド材密度 1.07 g/cm3のSEMAR あり画像の結果で は,正しいロッド材位置の輪郭を描出しているので,すべてのロッド材密度で輪郭描出精度が改善したと考える. 4. 金属アーチファクト低減処理の問題点 SEMAR は稀にアーチファクトを低減できずに増強させることがある.Fig. 11 に示すように,金属が複雑な形の場合 (突起部分)では,金属アーチファクトがSEMAR を使用することによって増強してしまう場合がある.金属の形状の違 いにより,このようなことが起こるので,金属アーチファクト低減処理を使用する際は必ずSEMAR あり画像と SEMAR なし画像とを比較して金属アーチファクト低減効果を確認して治療計画に用いることが重要である. また,金属が小さい場合や空気付近に金属がある場合では他部位よりも金属アーチファクトが残りやすい.金属が小 さく空気付近にある部位として口腔内がある.Fig. 12 b)に示すように,他部位に比べ SEMAR あり画像でも金属アー チファクトが残っているように見える.しかし,Fig. 12 d)のようにウインドウレベルを変えてみると,ある程度金属アーチ ファクトの低減さてれているのがわかる.このように金属アーチファクトの残りやすい部位でもウインドウレベルを変えるこ とによって金属アーチファクト部分や金属部分の把握が容易になる場合がある.
Fig. 11 金属アーチファクトが増強した一例 a) SEMAR あり b) SEMAR なし
a) 軟部条件 SEMAR なし b) 軟部条件 SEMAR あり c) 骨条件 SEMAR なし d) 骨条件 SEMAR あり Fig. 12 頭頸部金属アーチファクト低減処理
5. SEMAR を利用した治療計画の臨床例 外照射の治療計画として,腰椎に金属が挿入されている患者の治療計画を行った.第3 腰椎をターゲットとして上 下1椎体を含めた照射野でエネルギー10 MV-X 線,前後対向 2 門照射を,金属アーチファクト部分を水の CT 値で 置き換えた計画(以下置き換え計画)とSEMAR 画像を利用した計画(以下 SEMAR 計画)で行いターゲットの DVH と線量分布を比較した.計算アルゴリズムは AAA を使用した. ターゲットのDVH は置き換え計画,SEMAR 計画の D98%は 97.7%,98.0%,D2%は 102.1%,101.8%となっ た.線量分布比較ではGamma index(3 mm 3%)で 99.85%となった.
また,Fig. 12 の頭頸部の SEMAR あり画像 SEMAR なし画像から,以前治療を行った頭頸部 IMRT 患者の治 療計画をうつしこみ計算を行った.治療計画はエネルギー6 MV-X 線,9 門照射でアルゴリズムは AAA を使用し, 計算を行った.線量分布の比較ではGamma index( 3 mm 3%)で 99.9%となった. 今回検討した2 症例では,置き換え計画と SEMAR 計画の線量分布は同等の結果となった. 6. まとめ 金属アーチファクト低減処理を使用することによって金属アーチファクト部分のCT 値は真値に近づき,輪郭描出 精度が向上することがわかった.金属アーチファクト低減処理の使用によって,金属アーチファクト部分を塗りつぶす 時間の短縮や,臓器の輪郭描出の精度が向上することから放射線治療計画に有用であると考える.しかし体内金属 の挿入部位や形などによって金属アーチファクトを低減できず増強してしまう場合があるので,必ずSEMAR あり画 像,SEMAR なし画像を比較して金属アーチファクト低減効果を確認して治療計画に用いることが重要である. 臨床例における線量計算については,今回の検討で線量計算アルゴリズムをAAA で計算する上では置き換え計 画とSEMAR 計画の線量計算は同等であった.両者の違いについて,今後症例数を積み重ね詳細な検討が必要 であると考える. 参考文献
1) Teixeira P, Meyer JB, Blum A. Single energy metal artifact reduction algorithm for CT evaluation of periprosthetic soft tissues : clinical applications. VISIONS.2014;23:43-5
2) Li H, Noel C, Chen H, et al. Clinical evaluation of a commercial orthopedic metal artifact reduction tool for CT simulations in radiation therapy.Med Phys. 2012;39(12):7507-17.