漁業・水産業における
東日本大震災被害と復興に関する調査研究
平成 26 年 7 月
一般財団法人
東京水産振興会
まえがき
当会では東日本大震災の発生を受けて、漁業や漁村の現場に精通された識者にご参集いただき、意見 交換の場を持ちました。そこでは、大震災と原発事故による漁業・漁村・水産関連産業への被害や今後 の影響および再建・復興のあり方などについての情報や問題意識が共有され、漁村および漁業・水産関 連産業の特性を踏まえた再建・復興課題の整理、および復興施策への提言をとりまとめることになりま した。平成 24 年度からは改めて調査研究事業「漁業・水産業における東日本大震災被害と復興に関する 調査研究」として当会の事業に位置づけ、委員会を設置いたしました。 本事業は 3 ヶ年事業とし、漁業や漁村などに関する複数の研究課題を設け、それぞれに担当委員・調 査員を置き、分担して現地調査などを実施していただいております。 本報告書は平成25年度の調査研究結果をとりまとめたもので、関係各位にご参照いただけれ ば幸いです。 なお、本事業の実施に際しましては、座長の北海道大学名誉教授の廣吉 勝治 氏をはじめ、 委員・調査員としてご尽力いただいた各位、並びに種々ご協力いただいた皆様方に厚くお礼申 しあげます。 一般財団法人 東京水産振興会 会長 井 上 恒 夫調査研究事業「漁業・水産業における東日本大震災被害と復興に関する調査研究」 平成 25 年度事業報告書 目 次 緒言 -平成 25 年度調査研究の経過と概要-··· 1 Ⅰ.漁業経営・漁業構造 1.漁業・養殖業協業生産の現状と課題··· 7 馬場 治 2.宮城県北部におけるワカメ養殖産地の復興の動向と課題 -階上地区「がんばる養殖」を中心とする再建の情報提供-··· 19 廣吉 勝治 3.女川湾とその近傍海域における刺網漁業の再開過程··· 31 片山 知史 Ⅱ.漁協問題 1.被災漁協の借入金返済問題··· 39 加瀬 和俊 Ⅲ.水産加工・流通 1.三陸地方(宮城県)における水産加工業の復旧・復興の現状··· 49 石井 元 2.気仙沼地区における水産加工・流通業の復旧・復興の動向と特徴··· 63 廣吉 勝治 Ⅳ.漁村社会 1.被災漁村復興と復興交付金事業の関連と課題 -漁業集落防災機能強化事業の視点から見た 3 年目の漁村復興まちづくりの現状- ··· 77 富田 宏・岩成 正勝 2.漁村共同体の震災対応 -宮城県南三陸町(旧歌津町)泊浜地区の契約会を事例に-··· 97 濱田 武士・大浦 佳代 Ⅴ.漁業者・漁村女性・漁家 1.東北の漁村女性へのヒアリング調査 ··· 107 関 いずみ
Ⅵ.原発事故と放射能問題 1.福島県沿岸漁業の復興過程(2) -試験操業の拡大と避難指示区域の漁業者の動向-··· 115 乾 政秀 2.原発事故と学校給食··· 143 近藤 信義 3.茨城県霞ヶ浦北浦における漁業・水産加工業の被害と影響··· 151 工藤 貴史 附論 1.東日本大震災からの復興の視点··· 165 赤井 雄次 2.東日本大震災からの復興に取組む水産業改良普及事業の状況··· 179 村上 幸二 3.気仙沼産生鮮メカジキにおける漁業生産と産地流通加工の復旧・復興過程の現状と課題 ··· 187 松浦 勉
調査研究事業「漁業・水産業における東日本大震災被害と復興に関する調査研究」
緒言 -平成 25 年度調査研究の経過と概要-
座長 廣吉 勝治1.経過
初年度に続き、2 年度目の事業報告書を取りまとめた。 一般財団法人東京水産振興会(以下、振興会)における標記調査研究事業は、3.11 東日本大震災のおよ そ 2 週間後、振興会の呼びかけにより急遠、ボランタリーに参加した研究者の会合(震災研究会、以下「研 究会」)が出発点となった。研究会の目的は、大震災による漁業者及び漁業・水産業の被災実態と復旧・ 復興に関する情報収集と意見交換、並びに被災内容の究明や施策の諸課題を多くの機関・関係者に対し 提起することであった。その時の小括として、メンバーの共同執筆による「東日本大震災と漁業・漁村 の再建方策」と題する問題提起の小冊子を振興会の月刊誌『水産振興』の別冊として同年 4 月 25 日付で 発行している。 研究会はその後も継続しメンバーも増え、同年 9 月からは、ほぼ毎月の例会として位置づけると共に、 専任の担当者を置いて関連情報の収集・整理する「情報室」活動を開始した。ちなみに、こうした大震 災の情報収集活動については当時の政府「復興構想会議答申」(平成 23 年 6 月)においても、後世のた めに重要なことと位置づけている。また、併せて現地調査を実施して現場の情報を適宜取り入れる活動 も行うこととなった。これは、平成 24 年度から改めて標記のとおり振興会の調査研究事業(3 か年計画) として継承され、東日本大震災に関する調査研究の体制が整ったのである。 振興会の事業として、「研究会」開催、情報室活動、現地調査等の三方の活動の進行、並びに取りま とめにおいて、漁業者や水産加工・流通業者をはじめ多くの関係者、関係機関の協力を得ていることを 付言しておきたい。 なお、本調査研究の委員または調査員として振興会より委嘱した方々は以下のとおりである(平成 25 年度末現在;五十音順、敬称略、座長除く)。 赤井 雄次(水産経営技術研究所) 石井 元((一社)漁業情報サービスセンター) 乾 政秀((株)水土舎) 岩成 正勝(パブリックコンサルタント(株)) 上田 昌行((株)水土舎) 加瀬 和俊(東京大学 社会科学研究所) 片山 知史(東北大学大学院 農学研究科) 工藤 貴史(東京海洋大学 海洋科学部) 近藤 信義(サンフード(株)) 関 いずみ(東海大学 海洋学部、海とくらし研究所) 富田 宏((株)漁村計画) 二平 章(茨城大学地域総合研究所)馬場 治(東京海洋大学 海洋科学部) 濱田 武士(東京海洋大学 海洋科学部) 廣田 将仁((独)水産総合研究センター 中央水産研究所) 藤原 美妃子(復興庁 男女共同参画班) 村上 幸二(全国水産業改良普及職員協議会) なお、本報告書の作成に当たっては、委員・調査員以外にも、濱田 武士 委員との共著者として大浦 佳 代 氏(海と漁の体験研究所)及び特別寄稿として松浦 勉 氏((独)水産総合研究センター 中央水産 研究所)のご参画を頂いた。この場を借りて感謝申しあげる。
2.目的、意義
3.11 東日本大震災の被災の中心は、産業視点で見れば沿岸漁業・漁村、漁港都市、水産業であったと 言って過言ではない。しかし、この被害実態、被害の特徴・真相、並びに復旧復興の立ち上がりの内容 については、漁業・水産業固有の側面もあり、現場の状況と沿革を十分に認識し、施策の方向において も課題を的確に提示すべき事柄はいまなお山積していると思われる。被害実態に関する諸情報を把握す ると共に、具体的な現地調査によって被災の真相究明、復旧復興施策の検証や問題提起等を行うことは、 今後の漁業・水産業に関する施策にとってきわめて重要であり、また後世のためにも必要なことと思わ れる。 以上のような漁業・水産業における諸課題について、社会経済視点、産業視点から総合的に情報把握 と調査実施等を行う私共の活動に関し、漁業者をはじめ様々な関係方面からの注目と期待も大きいもの と考えている。3.2 年目の調査研究の内容と課題 -今後の追究課題にも触れて-
現地調査は、研究会活動や情報室活動と有効に関連させながら、主に被災三県(岩手、宮城、福島) の現場を中心に実施している。被災実態と復旧・復興について究明すべき課題と内容は非常に多岐にわ たるが、被災の実相究明と併せ、漁業・水産業に関し全般的に施策上の問題把握や提起が重要であると の立場から、筆者個人の観点からであるが、日頃研究会における問題別の論議に基づき、小活と平成 26 年度において予定している取りまとめの若干の課題と方向付けについて指摘をしておきたい。 (1)経営構造、生産構造、地域漁業 漁業の復旧・復興にあたり、災害復旧とはいえ「共同利用漁船」の取得の形が推奨され、また漁業・ 養殖業の立ち上がりで「がんばる漁業・養殖業」といった協業・共同経営での支援施策が用意され、少 なからず今後の地域漁業のあり方に影響を及ぼすこととなった。実際、宮城のノリ養殖業者においては 「がんばる養殖」のプロジェクト終了後でも共同化・協業化を志向する漁業者グループが現れている(馬 場著)。もちろん、今後も個別経営でいくという選択を示す漁業者も同時に存在する。そうした漁業者 の選択の要因と内容、及び「がんばる養殖」の協業化に向けた効果と評価に関する分析が必要である。 宮城県が新しい水産業復興プランにおいて「経営形態の共同化・法人化」を強く打ち出しているようで あるが、県北部においてワカメ養殖主産地(階上地区)に見られる、個別経営(家族経営)で再建する(廣吉著)という意思表示をどう評価するかという視点も重要である。その他、女川地域の刺網の事例 のように(片山著)、豊かで多様に存在してきた沿岸漁業の実態を我々はまだ十分に把握してはいない と思われる。高齢化と担い手の減少が進む被災地の漁業の復旧動向について、現状分析と再編方向に関 する検討は重要な課題となろう。 (2)漁協の再建、機能、役割 再建途上であったり、漁協の経営が思わしくない状況の下で起こった被災は、経営の厳しい漁協にと って追い打ちを掛けるものであった。その意味で、新たに背負うこととなった被災漁協の債務処理や負 債整理をどう円滑に進められるか、絶対的に必要な行財政支援のあり方が問われている(加瀬著)。「東 日本大震災復興計画書」においても漁協に負担が増すような結果では漁協の弱体化に手を貸すことにな り兼ねない。一方、組合員の再建支援の立場から、水揚げ減少を食い止める事業活動の活性化、組合員 の資金需要への対応や信用供与の強化、生産共同化(漁業生産組合など)、漁業自営事業、加工事業等 の活性化、共同利用施設のサービス活動等において、漁協らしい機能、役割をどう発揮し得るか、そう した現場の動向や課題をどう捉えられるか。また、漁協の優先的漁場管理をやり玉にあげる風潮が一部 にあるが、経営体が減少する中で漁場利用管理の再編や組合員対策のあり方について新たな展開を捉え る視点も重要である。漁協の組織再編が震災復興と重ね合わせた動きの中で提起される方向についても 注視する必要がある。 (3)産地における加工・流通業 三陸被災地の復旧・復興課題は損壊した産地流通・加工の背後条件・基盤整備をどう立て直すか、も う一つは中小零細事業体が圧倒的に多い産地業者をどう救済することが出来るか、このことにつきる。 中核的漁港を中心とする拠点産地の機能回復問題と漁村集落や生業と一体の沿岸漁港周辺の小規模産地 整備の問題とを分けて把握、検討する必要がある。中核拠点産地の再建は「漁港」と一体の機能再編と して進行する場合を含め、遅々とした整備を待てない各産地の大手・中堅業者の「自力更正」の諸動向 (石井著)、そして多くの中小業者の淘汰・格差拡大の動きを含んだ産地再編が予想されるが、その一 端を昨年度は石巻地域を本年度は気仙沼地域を中心に拠点産地の再建動向を追った(廣吉著)。岩手を 含め、三陸における拠点産地市場の再建が周辺沿岸流通に及ぼす影響は大きいので、その方向が三陸の 生産と流通の特性を失わない形でどう進行するか、今後の調査課題である。 損壊が大きかった沿岸小規模産地の再建においては、これまで曲がりなりにも時間をかけて条件整備 がなされてきた小規模荷捌所、製・貯氷、保冷・保管等の一次集約施設(地域デポ)の再建において、 「漁集」事業(次節での富田・岩成著で論究)がいかにして重要な役割を果たせるか、正念場にきてい ると思う。いずれにせよ産地の再建は目立って遅々としている。漁業の産地整備は「公共インフラ整備」 といった政策思想を持たないでやってきた状況を根本的に見直す時期に来ていることを、産地の復興問 題は教えてくれる。 その他、産地業者の再生に一定の役割を果たした中企庁「グループ補助金」の役割においても、負債 等の問題から事業再開に至らない業者は相当数あったが、水産加工業界において遅れ馳せの政策要求が なされる状況はあるものの、今後、浜の再建や産地市場の再生の動向によっては、三陸の産地業者は極 限まで淘汰が進むかも知れない。
(4)漁村と漁村社会の再建 いま、世間では沿岸被災地の復旧・復興で最も熱い問題のひとつとして防潮堤問題があるといわれる。 しかし、筆者は、上述したところであるが、それ以上に損壊したあとに構築される“まちづくり”にお いて漁村集落を含む沿岸産地再建がどう成るのか、に最も関心がある。卑近な問題としては「漁集」事 業が本音と建て前を上手に使い分けながら産地再建と集落再生につなげていく役割が果たせるか、今年 の報告書でも指摘や提案があるが(富田・岩成著)、高台への半強制移転後に、言葉の真の意味での漁 村再建を企図する市町村が現れるか、更に注視をしたい。漁村社会に「共同体」と呼んで見たくなるよ うな固有の存在を評価する視点は(濱田・大浦著)、漁村再生という現実の課題とどのように切り結ぶ 立論として裨益し得るだろうか。思うに、再編著しい「漁村」の存在の有り様を含め、漁村再建の計画 論を描く施策推進の側に「なりわい漁業」とか「漁村コミュニティ」といった考えがすでに壊れたまま になっている(そして放置されている)といった思いは強い。政策カテゴリーとしての「漁村計画」(「農 村計画」に対する)の論議は久しく止まったままの状態だと思われる。 (5)放射能問題、福島の漁業再建 昨年に続いて筆者(乾著)は放射能汚染水の問題をレビューし、福島の漁業者の「試験操業」の広が りや課題を整理してくれている。沖合漁場を中心とした試験操業は底曳網を中心にいわき地区に拡大し 前向きの取り組みが期待される。しかし、漁業者が賠償による現生活を脱出し得る道筋を、責任ある国 ・東電の側も示していない。現場は、汚染水の漏洩問題が収まらず僅かな再生の希望も削がれている。 沿岸の多くの漁業種は再開の見通しすら立っていない。何よりも、漁業・漁村再建に向けて、3 年目を 過ぎても「復興の加速化」を標榜する国・政府の責任を持った強い支援がない。試験操業から本格再建 に向けたプロセスも明らかにされていない。 訴えがある訳ではないという理由で、価格低迷や取引停止等の「風評」による影響も事実上野放しで ある(責任を持った調査すらなされていない)。厳しい数値基準(ベクレル)だけが一人歩きをしてい る問題は、消費地事業者においても「内向き」に処理を迫られ、根本的な対応が置き去りにされている 実態を浮かび上がらせている(近藤著)。 漁業の将来に希望をつなぎたい漁業者には、現状はあまりにも苛酷である。福島県では農林漁業者が 「誇りを失わずに一丸となって(略)原子力災害と正面から向き合」うことの出来る「重点的かつ戦略 的に取り組む施策の方向を示し」たとして(佐藤知事)、『ふくしま農林水産業再生プラン』が昨年度 末に県民に提示された。これに関連した検討も課題である。 また、今年は霞ヶ浦北浦について取り上げたが(工藤著)、相当広範囲に放射能被害があった(つま りは風評被害も概して大きい)内水面漁業の問題についても、このさい我々の守備範囲の中で考察の対 象としたい。 (6)漁家の暮らし、女性、高齢者 漁村地域の有り様の核になるのは「漁家」である。地域や業種、生業の諸階層が違えばその「漁家」 の存在も千差万別だと思うが、それを暮らしの側面から日常的に支え付き合ってきたのは事実上漁村の 女性たち(と高齢者)だと思う。漁家、漁村、漁協の現状と展望といった問題(暮らしや地域の変貌、 組合や行政の問題や要求、これからの不安や期待など(意識の変化も))、今年も関氏が中心となって、
被災者・女性や高齢者の体験を通した取材をまとめたい。漁村と漁協再生にとっても、見逃してきた大 切な問題が少なくないのではないかと思う。 (7)その他の問題 震災復旧・復興の影響と問題は様々な側面で露呈しており、把握と検討の対象は拡がらざるを得な い。本年の報告においても、水産庁「水産業復興へ向けた現状と課題」に対する多岐にわたる検討や秋 サケ・ワカメ・カキ・ノリ等三陸地域の重要水産物の動向把握(赤井著)、これまで情報が少なかった 被災県の水産業改良普及をめぐる状況(村上著)、被災地・気仙沼の特産品であるメカジキの水揚・商 品化の情報(松浦著)等についてそれぞれ論稿を掲載した。 三陸産の魚介類については、消費地においても、供給が限定される事態が続いていることと、原発事 故由来の風評被害対策が事実上なおざりになってこととの狭間で、スーパーにおける取扱、価格と流通 と取引、及び貿易品関係がどうなっているのか等、魚食普及の活動は官民をあげて盛んであるが、これ らの実態と問題を冷静に追究する領域はきわめて寒い状況である。また、被災地を中心にして水産加工 場や冷凍工場や水産物流通業において現場従事者の労働力不足は深刻である。需給のミスマッチも起こ っているし、外国人労働力の確保も困難な状態が続いているといわれる。こうした問題状況のフォロー は重要である。ほか、なお多くの解明課題が必要である。今後具体的な公表があると思われる2013年漁 業センサスが、被災地の動向把握の役割をどう果たしていくかについても注目をしたい。
4.「研究会」活動の概要
前述のとおり、大震災直後の 4 月に有志による初めての会合を開いて以来、数度の準備会合を経て、 情報交換等を目的としたボランタリーな「研究会」を 9 月より発足させた。 その主な内容は、メンバー(平成 24 年度より委員・調査員)による現地調査結果や収集情報等の共 有及び事業推進のための討議に加え、水産団体関係者等を招いての特定テーマに関する話題提供である。 以下に、平成 25 年度の各月「研究会」の概要を列挙する(話題提供者の氏名は省略)。 <平成 25 年> 6 月:文部科学省「原子力損害賠償紛争審査会」専門委員による話題提供(原発事故による水産業 への被害状況と補償問題) 調査結果報告(福島県の状況について、横浜市・川崎市の学校給食食材における放射性物質 規制問題について) 7 月:討議(平成 24 年度報告書の相互講評による研究成果の評価) 8 月:漁船保険中央会及び全国漁業共済組合連合会の役員による話題提供(東日本大震災における 各団体保険金支払いの状況と関係制度等) 11 月:討議(研究成果公表のためのシンポジウム開催について) 12 月:討議(シンポジウムの具体化について)及び調査結果報告(宮城県気仙沼地域の流通・加工 業及び階上地区の養殖業の復興状況、福島県いわき地域における漁業再開に向けた試験操業 の状況)<平成 26 年> 1 月:小名浜水産加工業協同組合・代表理事組合長による話題提供(福島県における水産加工業の 復旧状況及び東電との補償交渉等) 討議(シンポジウムの内容・構成の具体化について)
5.活動成果の公表
上記の「研究会」や現地調査等の成果を公表するため、平成 25 年度以降に振興会が発行あるいは開 催した報告書及びシンポジウムを以下に紹介する。今後も振興会が実施する関連の活動成果について、 同様の形で公表していく予定である。 (1)調査研究事業報告書「漁業・水産業における東日本大震災被害と復興に関する調査研究 -平成 24 年度事業報告-」、平成 25 年 6 月 30 日 (2)シンポジウム「東日本大震災から3年 -復旧・復興過程の現状と課題-」、平成 26 年 3 月 10 日開催(於豊海センタービル会議室、参加者約 70 名) (3)同上シンポジウム報告集、平成 26 年 6 月 なお、平成24年度以前の「研究会」活動及び活動成果の公表の概要については、上記の調査研究事業 報告書「漁業・水産業における東日本大震災被害と復興に関する調査研究 -平成24年度事業報告-」 を参照されたい。 (以上)漁業・養殖業協業生産の現状と課題
東京海洋大学 馬場 治1.はじめに
昨年度の報告においては、ノリ養殖業における自主的協業の経済効果とギンザケ養殖業における「が んばる養殖復興支援事業」(以下、「がんばる養殖」と略称する)による協業の経済効果について論じた。 昨年度調査時においては、調査対象は「がんばる養殖」認定を受ける前の自主的協業段階の事例であっ たり、あるいは当初は自主的協業で着手し、販売段階で「がんばる養殖」に認定された事例など、いず れも手探りの中での協業化取組事例の操業実績についての分析であった。この時点では、協業による経 済効果を判断するに足る的確なデータはまだ蓄積されておらず、経済効果の可能性を論じる程度にとど まっていた。 その後、時間の経過に伴い、操業開始時から「がんばる養殖」の計画に沿った協業が始まり、本格的 な協業化取組の実績が出始めたのが本年度(平成 25 年度)調査の期間である。本稿では、昨年度の報告で 今後の調査課題とした点である、本格的な協業化による経済効果について、事例に基づいて分析するこ ととする。2.宮城県 A 地区におけるノリ養殖業の「がんばる養殖」取組の経済効果
A 地区には、震災前にはノリ養殖業者が 33 経営体あり、震災後に 4 経営体が廃業、11 経営体が転業(ワ カメ養殖等)し、残った 18 経営体が 23 年度漁期(2011 年 9 月~2012 年 4 月)に自主的なノリ養殖協業に 取り組んだ。その結果は昨年度報告したとおりである。 その後、平成 24 年度漁期(2012 年 7 月~2013 年 5 月)には、自主的協業に参加した 18 経営体に、本 年度から新たに 1 経営体を加えた 19 経営体による「がんばる養殖」によるノリ養殖が行われることとな った。以下では、平成 24 年度漁期に「がんばる養殖」に取り組んだ当事例について述べる。 (1) 組織構成 平成 23 年度漁期には、被災を免れた乾燥機 3 台と修理で使用可能となった 1 台を加えた計 4 台の乾 燥機を利用し、当時操業を希望した 18 経営体を 4 チームに分け、乾燥機 1 台に 1 チームが張り付く、1 組織 4 チーム体制で完全協業に取り組んだ。チームには分かれるが、あくまでも 1 組織での操業であり、 海上作業は一元的な管理統制の下で行われ、乾燥機の利用だけがチームごとに行われた。また、その製 品はすべて同一組織のものとしてチームの区別なく共販に供された。 平成 24 年度漁期には、平成 23 年度漁期の操業を休止した 1 経営体が加わって 19 経営体となり、こ れらが 4 グループに分かれてそれぞれが別組織として「がんばる養殖」に取り組むこととなった。その グループ構成は以下のとおりである。 ・グループ 1:8 経営体で構成される。 経営者の年齢構成は、55 歳、55 歳、54 歳、52 歳、51 歳、51 歳、48 歳、46 歳。 全自動乾燥機は、10 連×3 台(補正予算)、8 連×1 台(残存)の計 4 台を利用。 ・グループ 2:5 経営体で構成される。経営者の年齢構成は 45~47 歳。 全自動乾燥機は、10 連×2 台(補正予算)、8 連×1 台(残存)の計 3 台を利用。 ・グループ 3:3 経営体で構成される。 経営者の年齢構成は 45~51 歳。 全自動乾燥機は、6 連×2 台(残存)を利用。 ・グループ 4:3 経営体で構成される。 経営者の年齢構成は、61 歳、38 歳(前者 61 歳の息子)、58 歳(27、25、22 歳の息子 3 名を有する)。 全自動乾燥機は、8 連×2 台(個人で新規購入)を利用。 「がんばる養殖」に取り組む時点での各グループの将来(「がんばる養殖」事業期間終了後)の操業形 態に関する意向は、 グループ 1:協業を継続する。 グループ 2:個々の経営体の生産能力が本来的に高く、個別操業に移行予定。 グループ 3:既存施設・機器を利用しており、個別操業に移行予定。 グループ 4:各経営体に後継者が存在し、経営継続の意志強く、個別操業に移行予定。 であり、8 経営体で構成されるグループ 1 以外のグループはいずれも事業期間終了後は個別操業に移行 することを想定していた。 (2) 施設・機器整備計画 被災後もノリ養殖を継続することとなった 18 経営体に関する被災前の施設・機器類の保有状況は次 のとおりである。18 経営体で養殖筏を合計 1,502 台(1 経営体平均 85 台)所有し、各経営体が全自動乾燥 機 1 台とこれを格納して作業する加工施設をそれぞれ 1 棟所有していた。作業船は合計 108 隻あり、そ の内訳は摘採船が合計 18 隻(各経営体 1 隻)、網洗い船が合計 20 隻、その他作業船が合計 70 隻であった。 これらの施設・機器類はすべて個人所有であり、ノリ養殖も当然個別操業であった。以上の施設・機器 類に関する被災状況は以下のとおりである。 養殖筏は 1,502 台、すべてが滅失。 ノリ加工施設は 18 棟中 15 棟が滅失あるいは損壊。 ノリ乾燥機は、18 台中 15 台が流失あるいは修理を要する状態。 作業船は、108 隻中 60 隻が流失あるいは修理を要する状態。 このような被害を受けて、当地区は他地区に先駆けて「がんばる養殖」に取り組むことになった。「が んばる養殖」による施設等の復興計画を表 1 に示す。表に示したのは、養殖継続を希望した 18 経営体に 関する数値である。 養殖筏は、養殖施設災害復旧事業により 1,101 台、個人購入で 339 台を確保し、3 期目には合計で 1,440 台とする。 ノリ加工施設は、残存した 3 棟と修理により使用可能となった 1 棟の計 4 棟に加えて、水産業共同利 用施設復旧支援事業による 7 棟の合計 11 棟とする。 全自動乾燥機は、残存した 6 連と 8 連をそれぞれ 2 台の計 4 台、平成 23 年度漁期開始にあたって個
人購入した 8 連を 2 台、水産業共同利用施設復旧支援事業による 10 連を 5 台の合計 11 台とする。 表 1 施設復興計画 資料)がんばる養殖復興計画書より 作業船は、残存及び修理した 46 隻に加えて、共同利用小型漁船建造事業及び共同利用漁船等復旧支 援対策事業による 34 隻を加えた合計 80 隻とする。これらの補助金で建造された共同利用漁船は、宮城 県南部施設保有漁協の所属船として登録される。 これらの施設・機器類を「がんばる養殖」の下で、グループ 1(8 経営体協業)が全自動乾燥機 4 台(ノ リ加工施設 4 棟)、グループ 2(5 経営体協業)が 3 台(3 棟)、グループ 3(3 経営体協業)が 2 台(2 棟)、グ ループ 4(3 経営体協業)が 2 台(2 棟)を使用することとなった。 当地区では、ノリ加工施設、全自動乾燥機については水産業共同利用施設復旧支援事業を利用して整 備したが、隣接する他地区ではこれらの施設・機器を農林水産業共同利用施設災害復旧事業を利用して 整備している。 以下には、参考までにノリ養殖に関する「がんばる養殖」で利用された主な支援事業の概要を記して おく。 ・養殖施設災害復旧事業:激甚災害法に基づき、被害を受けた養殖施設の早急な復旧を支援。事業実施 主体は民間団体等。補助率 9/10 以内。 平成 23 年度第 1 次補正予算:23,965 百万円 平成 23 年度第 3 次補正予算:10,743 百万円 ・水産業共同利用施設復旧支援事業:被災した漁協・水産加工協等が水産業共同利用施設(製氷、貯氷施 設、冷凍冷蔵施設、市場、荷捌き施設、加工施設等)の機能の早期復旧や施設の応急的な復旧・修繕 に必要な機器等の整備に要する経費を支援。補助率は 2/3(岩手、宮城、福島)。 平成 23 年度第 1 次補正予算:1,815 百万円 平成 23 年度第 2 次補正予算:19,316 百万円 震災前 復興1期目 復興2期目 復興3期目 活用する事業名 所有者 1101台 1101台 1101台 養殖施設災害復旧事業 個人所有 189台 274台 339台 個人購入 個人所有 7棟 7棟 7棟 水産業共同利用施設復旧支 援事業 共同利用 4棟 4棟 4棟 残存・修理 個人所有 10連×5台 10連×5台 10連×5台 水産業共同利用施設復旧支 援事業 共同利用 6連×2台(残存) 8連×2台(残存) 8連×2台(購入) 6連×2台(残存) 8連×2台(残存) 8連×2台(購入) 6連×2台(残存) 8連×2台(残存) 8連×2台(購入) 残存・修理、購入 個人所有 34隻 34隻 34隻 共同利用小型漁船建造事 業・共同利用漁船等復旧支 援対策事業 共同利用 46隻 46隻 46隻 残存・修理 個人所有 108隻 作業船 1502台 養殖施設 ノリ加工施設 18棟 全自動乾燥機 18台
平成 23 年度第 3 次補正予算:25,879 百万円 ・共同利用小型漁船建造事業:共同利用漁船等復旧支援対策事業のうち、激甚災害法に基づき、漁協が 組合員の共同利用に供するために建造する小型漁船建造費を補助する。補助率は国 1/3、都道府県 1/3 以上。 平成 23 年度第 1 次補正予算:7,569 百万円 ・共同利用漁船等復旧支援対策事業:漁船等に被害を受けた漁業者のために漁協等が行う漁船の建造、 中古船の導入、定置網等漁具の導入に対する支援。補助率は国 1/3、都道府県 1/3 以上。 平成 23 年度第 1 次補正予算:27,379 百万円(共同利用小型漁船建造事業を含む) 平成 23 年度第 3 次補正予算:11,300 百万円 ・農林水産業共同利用施設災害復旧事業:激甚災害法に基づき、被災した漁協等が所有する水産業共同 利用施設の復旧を支援する。補助率は 9/10 以内。 平成 23 年度第 1 次補正予算:76 億円の内数(経営局計上) (3) 全体生産計画 被災前からの継続経営である 18 経営体の被災前の生産実績と、被災 1 年後に参入した 1 経営体を含 めた合計 19 経営体による「がんばる養殖」の生産計画を示したのが表 2 である。被災前の宮城県内のノ リ総生産枚数は約 5.8 億枚であり、当地区で「がんばる養殖」に取り組むことになった 18 経営体の被災 前の総生産枚数 5 千 9 百万枚は、県内総生産の約 10%を占め、県内有数の産地であったことが分かる。 なお、被災前の宮城県内のノリ共販率は約 9 割といわれている。 復興計画書によれば、震災前の同地区のノリ養殖生産体制は、各生産者が個別に養殖施設・加工施設 を所有し、加工施設ごとにオペレーターを配置して個別生産を行っていた。このような生産体制での問 題点として、養殖施設・加工施設を個別に所有しているため、漁期終了後のメンテナンス料や 1 日の加 工前の乾燥機の温度上昇のためのバーナー燃料費、加工終了後の清掃のための電気水道代が加工施設ご とにかかり、また加工施設ごとにオペレーターを配置しているために人件費が多くかかることなどが指 摘されている。 これに対して、「がんばる養殖」を通じた養殖施設・加工施設の共同化のメリットとして、以下のよ うな点が想定されている。①建屋及び機械の投資額の削減が見込める。②漁期終了後のメンテナンス料 の削減が見込める。③1 日の加工前の乾燥機の温度上昇のためのバーナー燃料費、加工終了後の清掃の ための水光熱費の削減が見込める。④共同で漁場を行使することにより、ノリ筏漁場を細分化すること なく利用できるので、グループの筏を近くにまとめることができ、作業性が向上し、移動のための燃料 代の削減が見込める。⑤グループの筏を近くにまとめることにより同質な育成管理が可能となり、ノリ の品質の均質化が見込める。 また、協業化を通じて養殖・加工作業に関する雇用者も削減する計画であり、震災前には 18 経営体 で常時養殖従事者 49 名(経営者含む)、臨時雇用者 95 名であったものを、「がんばる養殖」を通じた協 業化を経て、常時養殖従事者 35 名(経営者含む)、臨時雇用者 89 名に減らす方針を立てている。 また、製品の販売は全量を共同販売により販売していく体制をとることとしている。 ノリ筏の台数は 1 期目から 3 期目にかけて順次増やす計画であり、1 期目は 1,290 台、2 期目は 1,375 台、3 期目に 1,440 台に達する。筏台数の増加に応じて、ノリ生産計画枚数も増える計画となっている。
3 期目には 19 経営体で合計 1,440 台の筏であるから、1 人当たり平均 75 台の筏所有となる。被災前は、 1 人当たり平均 85 台の所有で 33 経営体あったので、筏の総台数は約 2,800 台あったことになる。被災 後の最終的な復興計画の筏台数は 1,440 台であるので、漁場全体としては筏台数がほぼ半減したことに なり、漁場の過密状態が解消され、漁場の栄養状態も改善されることが予想されている。 表 2 がんばる養殖復興支援事業によるノリ養殖生産計画 資料)水漁機構 HP 掲載資料より 復興計画作成にあたっては、養殖期間中(7 月~翌 5 月で、7~10 月は養殖準備期間)の全自動乾燥機 1 台あたりの生産量はノリ約 4 万枚、ノリ 1 枚あたりの単価は 8.4 円とし、これらの数値はいずれも被災 前の実績と同じ数値を用いている。 18 19 19 19 1,502 1,290 1,375 1,440 18 11 11 11 生産量(千枚) 59,368 51,130 54,530 57,030 生産額 497,611 428,660 457,460 477,960 その他生産額 5,392 収入合計 503,003 428,660 457,460 477,960 ①減価償却 70,339 77,150 59,230 39,550 ③金利 2,233 3,180 2,790 2,440 ④損害保険 4,985 3,890 3,780 3,660 ⑤公租公課(固定資産税) 4,111 2,150 1,750 1,300 ⑥施設等利用料 107,170 63,710 39,770 ⑦漁業権行使料 3,432 2,910 3,100 3,240 ⑧漁業施設共済掛金 0 3,900 4,150 4,340 ⑨人件費 167,094 155,930 164,440 171,870 小計 252,194 356,280 302,950 266,170 75,323 78,280 83,510 87,380 6,904 6,730 7,300 7,790 79,589 49,830 32,070 48,140 28,085 14,100 17,770 19,770 30,732 26,310 28,050 29,320 18,762 12,200 12,200 12,200 491,589 543,730 483,850 470,770 11,414 ▲ 115,070 ▲ 26,390 7,190 81,753 69,250 96,550 86,510 (単位:千円) 3.種苗代 4.養殖用資材 5.器具・備品代 復興1期目 復興2期目 復興3期目 震災前実績 経営体数 全自動乾燥機(台) 収 入 償却・利用料前利益 筏台数(台) 7.魚箱・氷代 8.販売費 9.その他経費 事業費合計(1~11合計) 1 生 産 費 事 業 費 差引収支金額 2.水道光熱費 6.修繕費
復興生産計画と震災前の実績を比較すると以下の点が注目される。 ・施設等利用料は、共同利用漁船や共同利用の加工施設・全自動乾燥機を保有する宮城県南部施設保有 漁協に対する利用料支払いであり、経年的に低下していくものの、負担額は大きい。 ・人件費は、書類上は削減が見込めるとしながらも、事業期間中は震災前の実績をほぼ踏襲する金額を 計上している。 ・水道光熱費も削減が見込めるとしながらも、事業期間中は震災前実績をむしろ上回る金額を計上して いる。 ・養殖用資材及び修繕費については、事業期間中は震災前実績を相当程度下回る金額を計上している。 以上のように、計画上は削減が見込めるとしながらも、震災前とほぼ同様の金額を計上しているのは、 経験のない新しい生産体制の下で不測の事態が起こりうることや「がんばる養殖」への申請上の都合な どが考慮された結果と推測される。それに対して養殖用資材などは、その必要量がほぼ確定できること から、実際の必要金額に近い、削減効果が織り込まれた金額が計上されているものと考えられる。 収支計画は、復興 1 期目から 3 期目にかけて生産額が増加する一方、減価償却費や施設等利用料が減 少していき、復興 2 期目までは差引収支金額は赤字であるが、3 期目には黒字に転換するように設計さ れている。 (4) グループ別生産計画 19 経営体で「がんばる養殖」に取り組むが、上述したとおり 19 経営体は 4 グループに分かれて別組 織として協業に取り組むことになっており、従って生産計画も実際はグループ毎に作成されている。グ ループ別の第 1 期目の生産計画を示したのが表 3 である。この表で留意すべき点は、申請時の当地域全 体としての復興計画(表 3 中で「当初全体生産計画(復興 1 期目)」と表記)とグループ毎の生産計画の合 計(表 3 中で「グループ合計生産計画(復興 1 期目)」と表記)との差異である。当地区の申請は、宮城県 内でも最も早い部類に属し、当初生産計画は生産体制の詳細がまだ決まらない状況下で、主に養殖筏計 画台数と乾燥機使用台数に基づいて概算として作成されたものである。その後、グループ構成も決まり、 生産計画が具体的に詰められるに従い、計画数値も変化し、変更申請がなされ、変更されたグループ毎 の計画値が表 3 に示されている。 当初全体生産計画(以下、当初計画と表記)とグループ合計生産計画(以下、変更計画と表記)との比較 で目につく項目と、その理由として考える点を列記する。なお、理由は当地区の事務担当者からの聞き 取りによるものである。 ①漁業権行使料 当初計画に対して変更計画が 200 万円ほど上回っている。この主な理由は、当初は想定していな かったが、採苗を他支所の漁場を使用しておこなうことになり、そのために他支所に支払う漁業権 行使料が追加となったことによる。 ②水道光熱費 当初計画に対して変更計画が 2,300 万円ほど上回っている。共同利用施設として補助事業で購入 した全自動乾燥機が従来よりも大型の 10 連(従来は 8、6 連中心)であり、その稼働に必要な水道光 熱費として余裕を見込んで高めの費用を計上したことが理由として考えられる。
表 3 がんばる養殖復興支援事業によるノリ養殖事業実績(第 1 事業期: 20 12 年 7 月~2 01 3 年 5 月) 資 料)支 所資 料よ り 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計 画 実績 8 8553333 1 8 1 9 1 9 1 9 生産量( 千枚) 2 1 ,4 0 0 2 2 ,7 3 7 1 4 ,5 0 0 1 4 ,3 6 6 7 ,9 3 0 9 ,4 9 5 7 ,3 0 0 7 ,4 5 2 5 9 ,3 6 8 5 1 ,1 3 0 51, 130 54, 049 2, 919 生 産 額 174, 700 191, 354 123, 200 124, 305 67, 961 81, 478 62, 80 0 60, 753 497, 611 4 28, 661 428, 661 457, 890 29, 229 そ の他生産 額 5, 392 消 費 税 8, 735 9, 568 6, 160 6, 215 3, 398 4, 074 3, 140 3, 038 21, 433 22, 894 1, 461 収入合計 183, 435 200, 921 129, 360 130, 520 71, 359 85, 552 65, 94 0 63, 791 503, 003 428, 661 450, 094 480, 784 30, 691 ①減価償却 1 1 ,1 2 5 4 ,6 1 3 1 2 ,1 8 9 8 ,3 5 7 6 ,5 6 1 3 ,6 2 0 4 0 ,4 9 7 3 5 ,6 6 5 7 0 ,3 3 9 7 7 ,1 5 0 7 0 ,371 52, 256 ▲ 18, 116 ②復旧修繕費 0000000 0 0 0 ③ 金 利 0000000 0 2 ,2 3 3 3 ,1 8 0 0 0 ④損害保険 1 ,9 7 8 4 5 4 1 ,4 0 4 5 6 4 6 0 8 3 0 3 5 6 4 5 0 7 4 ,9 8 5 3 ,8 9 0 4 ,5 5 5 1 ,8 2 7 ▲ 2 ,7 2 8 ⑤公租公課( 固定 資産税) 5 2 3 0 6 4 2 0 2 2 5 0 1 ,6 1 5 0 4 ,1 1 1 2 ,1 5 0 3 ,0 0 4 0 ▲ 3 ,0 0 4 ⑥施設等利用料 5 5 ,8 3 3 1 1 ,9 6 8 3 4 ,1 5 8 6 ,7 1 9 1 ,6 9 2 6 0 6 7 4 5 1 5 4 107, 170 92, 428 19, 447 ▲ 72, 981 ⑦漁業権行使料 2 ,1 7 1 2 ,3 6 0 1 ,3 3 6 1 ,4 8 7 8 5 3 8 8 2 6 6 3 6 3 1 3 ,4 3 2 2 ,9 1 0 5 ,0 2 3 5 ,3 6 0 3 3 7 ⑧漁業施設共済 掛金 1 ,7 6 4 1 ,8 1 1 1 ,1 0 2 1 ,1 5 6 6 5 9 6 9 3 5 3 4 5 6 5 0 3 ,9 0 0 4 ,0 5 9 4 ,2 2 6 1 6 7 ⑨人件費 6 4 ,6 0 0 6 4 ,6 0 0 4 5 ,5 3 0 4 5 ,5 3 0 2 5 ,2 0 0 2 5 ,2 0 0 2 0 ,6 0 0 2 0 ,6 0 0 167, 094 155, 930 155, 930 155, 930 0 ⑩作業管理費( ① ~⑨合計の8 % ) 1 1 ,0 4 0 6 ,8 6 4 7 ,7 0 9 5 ,1 0 5 2 ,8 6 4 2 ,5 0 4 5 ,2 1 7 4 ,6 5 0 2 6 ,8 3 0 19, 124 ▲ 7, 706 消費税( ①~⑩合 計の5 % ) 7 ,4 5 2 4 ,6 3 4 5 ,2 0 3 3 ,4 4 6 2 ,0 0 4 1 ,6 9 0 3 ,5 2 2 3 ,1 3 9 1 8 ,1 8 1 1 2 ,9 08 ▲ 5, 273 小 計 156, 486 97, 304 109, 273 72, 364 40, 665 35, 499 73, 95 7 65, 910 252, 194 356, 280 380, 381 271, 078 ▲ 109, 303 42, 537 29, 623 28 ,886 19, 338 15, 763 7, 821 14, 51 0 9, 233 75, 323 78, 280 101, 6 96 66, 015 ▲ 35, 681 2, 311 2, 383 1, 562 1, 562 965 989 80 7 912 6, 904 6, 730 5, 645 5, 846 201 21, 065 16, 343 13 ,099 13, 645 7, 527 5, 308 7, 105 6, 679 79, 589 49, 830 48, 796 4 1, 974 ▲ 6, 822 4, 717 6, 307 2, 854 2, 694 1, 505 1, 197 2, 871 1, 981 0 11, 948 12, 178 230 6, 165 1, 300 4, 886 3, 569 2, 024 2, 209 2, 705 740 28, 085 14, 100 15, 780 7, 818 ▲ 7, 962 3, 466 3, 372 2, 324 1, 359 1, 300 1, 418 1, 199 1, 046 0 8, 289 7, 195 ▲ 1, 094 14, 536 11, 320 9, 849 7, 340 5, 398 4, 814 5, 011 3, 602 30, 732 26, 310 34, 794 27, 076 ▲ 7, 718 0 797 0 337 0 163 0 78 18, 762 12, 200 0 1, 375 1, 375 5, 026 4, 108 3, 455 2, 832 1, 503 1, 248 2, 163 1, 768 12, 147 9, 955 ▲ 2, 191 4, 740 3, 547 3, 173 2, 476 1, 724 1, 185 1, 710 1, 211 11, 347 8, 419 ▲ 2, 928 261, 048 176, 403 179, 362 127, 515 78, 374 61, 851 112, 0 39 93, 161 491, 589 543 ,730 630, 823 458, 930 ▲ 171, 893 ▲ 77, 613 24, 518 ▲ 50 ,002 3, 005 ▲ 7, 016 23, 701 ▲ 46, 09 9 ▲ 29, 370 11, 414 ▲ 115, 069 ▲ 180, 729 21, 854 202, 584 255, 771 172, 293 175, 734 124, 682 76, 796 60, 602 109, 7 68 91, 392 618, 069 448 ,969 ▲ 169, 100 ▲ 72, 336 28, 628 ▲ 46 ,374 5, 838 ▲ 5, 437 24, 950 ▲ 43, 82 8 ▲ 27, 601 ▲ 167, 9 75 31, 816 199, 791 ( 単位: 千円) B-A 事業管理費を 除く 差引収支 事業費合計( 1 0 事業管 理費を 除く ) 差引収支金額 1 生 産 費 2 . 水道光熱費 9 . そ の他経費 B ) 生産実績 (復興1 期目) A ) グ ル ー プ 合計生産計画 (復 興1 期目) 当初 全体 生産 計画 (復興1 期目) 経 営体数 5 . 器具・ 備品代 4 . 養殖用資材代 3 . 種苗代 グル ー プ 1 グル ー プ 2 グル ー プ 3 グル ー プ 4 震災前実績 2012 年度漁期( 2012年 7月 ~ 2013年 5月 ) 事 業 費 収 入 事業費合計( 1 ~1 1 合計) 1 0 . 事業管理費 1 1 . 消費税 6 . 修繕費 7 . 魚箱・ 氷代 8 . 販売費
③器具・備品代 当初計画に対して変更計画が 1,200 万円ほど上回っている。グループ毎に具体的に生産計画を練 る過程で、当初は想定されていなかった器具・備品類の必要性を考慮して計上したことが理由とし て考えられる。 ④魚箱・氷代 当初計画に対して変更計画が 800 万円ほど上回っている。当初計画段階では計上されていなかっ たものの必要性を考慮して計上したことが理由と考えられる。 ⑤販売費 当初計画に対して変更計画が 800 万円ほど上回っている。当初計画では販売手数料(5.5%)と海苔 検査手数料(100 枚あたり 5.5 円)のみを見込んでいたが、具体的な計画段階でこれら以外の費用が かかる可能性を考慮して増額計上されたことが理由と考えられる。 以上のような項目における大きな差異を含め、当初計画対して変更計画の事業費合計は約 8,700 万円 上回っている。その主な理由としては、具体的に費用を検討する過程で、当初計画では想定されていな い費用が発生して、実際の費用が計画額を上回ることを避けるために、多くの項目に関して余裕を見込 んで高めの費用設定をしたことが考えられる。 (5) 生産実績に関する分析 1) グループ合計生産計画と協業化後の生産実績の比較 表 3 により、グループ合計生産計画(=変更後の計画)と「がんばる養殖」体制の下での生産実績を比 較してみよう。 計画に対して実績は、生産量で約 300 万枚、生産額で約 3,000 万円上回っており、好成績をおさめて いる。ノリの単価は、計画では 1 枚 8.38 円であるのに対し、実績では 8.47 円であり、ほぼ計画時の単 価に近い。 次に事業費について比較してみると、事業費合計では計画に対して実績が 1 億 7 千万円下回っており、 大幅に費用が圧縮されている。費用の中でも圧縮の程度が大きい費用に注目すると、以下のような事情 が伺える。 ①減価償却費 計画に対して実績は 2,000 万円ほど低くなっている。ここで計上されている減価償却費は、あく までも個人資産としての施設・機器類に関する償却費であり、共同利用施設(宮城県南部施設保有漁 協に帰属)としての施設・機器類は含まれていない。したがって、利用する施設・機器類の所有関係 により、償却費はグループ間で大きく異なる。グループ 1 及び 2 は、補助事業により購入した共同 利用施設としての乾燥機を使用しており、償却費は低く抑えられている。グループ 3 は、残存した 乾燥機を使用しており、その償却が既に相当程度進んでいたために償却費は低い。他方、グループ 4 は、被災後個人で新規に購入した乾燥機 2 台を使用しているために、多額の償却費が発生してい る。 このような条件の下で、グループ 1 及び 2 において、実績としての償却費が計画よりも低くなっ ているのは、主に以下のような理由によるものである。乾燥機は加工作業開始時には既に納品され、 実際に作業に使用されたが、その乾燥機の購入費の支払いは年度末(事業期末に近い 2013 年 3 月頃)
に発生している。これを受けて、償却費は購入費支払い時から発生されるべきであろうとの判断が なされ、結果的に当該事業期間内の償却費の計上期間が実質 2~3 ヶ月程度の短期間になり、当該事 業期間内の償却費が低くなったためである。 これに対して、残存施設、個人購入施設・機器類を使用するグループ 3、4 では、このような特殊 な事情がなかったために、ほぼ計画値に近い償却費実績となっている。 ②施設等利用料 計画に対して実績は約 7,300 万円下回っている。この理由としては、計画段階では施設利用料が 未定であり、高めの利用料を想定して計画に計上されていたという事情が考えられる。 ③水道光熱費 計画に対して実績は約 3,500 万円下回っている。共同利用施設として購入した乾燥機が従来に比 べて大型のものであり、それに備えて水道光熱費を多めに見込んであったが、実際にはそれほどの 金額にはならなかったことがその理由と考えられる。 ④養殖用資材、修繕費、販売費 いずれも計画に対して実績は 700~800 万円程度下回っている。これらも、いずれも計画時には高 めに見込んでいたものが、実際にはそれほどの金額には達しなかったという理由によるものであろ う。 以上は、とくに実績費用が計画を相当程度下回る項目であるが、これ以外の費用項目も含めて、ほぼ すべての費用項目で実績値が計画値を下回っている。ただし、費用に関する計画と実績の差異の大小は、 グループによって異なっている。一般的には、構成員数の多いグループ(グループ 1、2)ほど、計画と実 績の差異が大きい傾向が読み取れる。 構成員数が多く、使用する乾燥機台数も多いことから、費用の見積もりが難しかったものと推測され る。 2) 震災前実績と協業化後の生産実績の比較 「がんばる養殖」の下での協業による経営効果を検討する上で最も注目すべきは、当然ながら、震災 前実績と協業化後の実績の比較である。計画と生産実績の比較において注目すべき指標の値を示したの が表 4 である。指標項目ごとに、震災前実績と協業化後の実績(表中では生産実績と表記)を見てみよう。 表 4 各指標の比較 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績 乾燥機1台あたり生産枚数 千枚 5,350 5,684 4,833 4,789 3,965 4,747 3,650 3,726 3,298 4,648 4,648 4,914 1経営体あたり生産枚数 千枚 2,675 2,842 2,900 2,873 2,643 3,165 2,433 2,484 3,298 2,691 2,691 2,845 対計画生産枚数実績比 % 105.7 ノリ単価 円/枚 8.16 8.42 8.50 8.65 8.57 8.58 8.60 8.15 8.38 8.38 8.38 8.47 1経営体あたり生産額 千円 21,838 23,919 24,640 24,861 22,654 27,159 20,933 20,251 27,645 22,561 22,561 24,099 1経営体あたり事業費合計 千円 32,631 22,050 35,872 25,503 26,125 20,617 37,346 31,054 27,311 28,617 33,201 24,154 1経営体あたり水道光熱費 千円 5,317 3,703 5,777 3,868 5,254 2,607 4,837 3,078 4,185 4,120 5,352 3,474 1経営体あたり養殖用資材代 千円 2,633 2,043 2,620 2,729 2,509 1,769 2,368 2,226 4,422 2,623 2,568 2,209 1経営体あたり差引収支 千円 ▲ 9,702 3,065 ▲ 10,000 601 ▲ 2,339 7,900 ▲ 15,366 ▲ 9,790 634 ▲ 6,056 ▲ 9,512 1,150 生産実績 グループ合 計生産計画 102.1 震災前 実績 グループ3 グループ4 グループ1 グループ2 当初全体 生産計画 99.1 119.7 106.2 項 目 単位
①乾燥機 1 台あたり生産枚数 震災前は 1 台あたり 330 万枚であったものが、協業化後は約 500 万枚と大幅に増加している。「が んばる養殖」に取り組むにあたって共同利用施設として購入した乾燥機が大型(10 連)であったこと が主要な要因であると思われる。 ②1 経営体あたり生産枚数 震災前は 330 万枚であるのに対して、協業化後は 280 万枚であり、震災前の 15%減である。震災 前には、18 経営体で筏 1,502 台に対して、復興 1 期目は 19 経営体で筏 1,290 台であり、1 経営体あ たり筏台数は 19%減に相当する。他方、筏 1 台あたりの生産枚数は、震災前に対して 1 期目の実績 は 6%増であり、筏台数減と筏 1 台あたり生産枚数増の合成の結果、1 経営体あたりの生産枚数が 15% 減となった格好である。 ③グループ別の対計画生産枚数実績比 グループ別に、生産計画枚数に対する実績枚数の比率を見ると、グループ 2 が 99%、グループ 4 が 102%でほぼ計画どおりであるのに対して、グループ 1 は 106%と計画を上回り、さらにグループ 3 においては 119%と、計画を大きく上回る生産を達成している。 ④ノリ単価 震災前の 1 枚あたり 8.38 円に対して、1 期目実績は 8.47 円であり、ほぼ同水準を達成している。 グループ別に見ると、グループ 4 以外はいずれも計画単価を上回るか同水準であり、概ね計画通り に生産できたことが伺える。 ⑤1 経営体あたり生産額 震災前実績は約 2,800 万円であるが、1 期目実績は 2,400 万円であり、13%減である。しかし、計 画は 2,300 万円であるので、1 期目実績は計画を 7%上回る結果を出している。 ⑥1 経営体あたり事業費合計 震災前実績は 2,700 万円であるが、1 期目実績は 2,400 万円であり、12%の削減を実現している。 また、当初計画に対しても 16%の削減を達成したことになり、協業体制によると考えられる事業費 削減効果の大きさを示していると言えよう。 ⑦1 経営体あたり水道光熱費 事業費の中でも大きな比重を占めるのが水道光熱費である。水道光熱費には、加工施設の水道、 電気、燃料代、漁船の燃料代が含まれる。震災前実績 420 万円に対して 1 期目実績 350 万円は 17% 減に相当し、協業化による削減効果の可能性が考えられる。 ⑧1 経営体あたり養殖用資材代 水道光熱費と並んで事業費の中で大きな比重を占めるのが養殖用資材代である。養殖用資材代に は、活性処理剤、共販用段ボール、ノリ簀等が含まれる。震災前実績 440 万円に対して 1 期目実績 220 万円は 50%減であり、大幅な削減効果が認められる。しかし、このような大幅な削減がもたらさ れた理由としては、協業化以外の要因も考えられ、この点については精査が必要である。 ⑨1 経営体あたり差引収支 以上に述べてきたような「がんばる養殖」の下での生産状況、事業費の最終的な結果としての差 引収支を見ると、震災前実績では差引収支は 634 千円であったが、「がんばる養殖」の下での実績 では 115 万円となっており、80%の増加を示している。
以上述べてきたとおり、1 経営体あたりの生産高(枚数、金額)は筏台数の削減を受けて震災前よりも 減少したが、「がんばる養殖」の下で事業費の削減を実現し、差引収支では震災前を大きく上回る成果 を上げている。事業費の削減は、「がんばる養殖」の下での協業化の成果だけではなく、被災に伴う各 種の補助金や支援等の投入による側面も考えられ、一概に「がんばる養殖」だけの成果と判断するのは 適切ではない。また、筏 1 台あたりの生産高も、養殖期間終期のノリ単価の下落幅が小さければ、結果 的に遅くまで生産が可能であり、その結果として生産枚数が伸び、生産金額が増加するという状況も起 こりうる。被災直後の 2011 年~2012 年漁期のノリ養殖では、養殖期間終期になってもノリ単価が高止 まりして、生産量・金額ともに伸長したといわれている。 (6) 1 期目事業終了後の評価 復興計画 1 期目(2012 年 7 月~2013 年 5 月)の「がんばる養殖」への取り組みを終えた時点での各グ ループの協業に対する考え方は、取り組み開始時点での調査結果とは異なっていた。先述したとおり、 開始時点ではグループ 1 以外のすべてのグループが 3 期の事業期間終了後は個別操業に移行することを 想定していた。しかし、1 期目終了時点で、各グループの協業に対する意向は次のように変化した。 1) グループ 1 8 経営体という最も多数の経営体で構成され、「がんばる養殖」に取り組む当初から 3 期の「がんば る養殖」事業終了後も協業での操業を継続する意向であったが、1 期目終了後もその意向には変化はな かった。当地区の 4 つのグループの中では、協業によるメリットを構成員が最も強く感じているグルー プと言える。 2) グループ 2 構成員の年齢はいずれも 40 歳台であり、元来生産意欲・能力ともに高く、「がんばる養殖」事業期 間終了後は個別操業に移行する予定であった。しかし、1 期目の事業終了後には、3 期の事業期間終了後 も協業での操業を継続するという意向に変化していた。当初は、協業化によって競争心が薄れ、生産意 欲の低下を懸念する声もあったと言うが、それよりも協業操業の合理性が理解された結果であろうと考 えられる。 3) グループ 3 グループ 3 は残存した乾燥機を使用するグループであり、新たな設備投資をほとんど必要としなかっ たために、「がんばる養殖」への取り組み当初から、事業期間終了後は個別操業に移行する予定であっ た。さらに、「がんばる養殖」の下でも、作業実態としては実質的には個別操業であった。「がんばる 養殖」事業では操業再開に向けた設備投資負担を軽減することが目的の 1 つとされているが、当グルー プでは新たな設備投資がないために、「がんばる養殖」への取り組みのインセンティブは元来低いと考 えられる。それにもかかわらず、グループ 3 が「がんばる養殖」に取り組むことになった理由としては、 大きな津波被害を受けた漁場での製品に対する風評被害等により、製品価格が下落する可能性への対応 として、「がんばる養殖」の下での経費補償を期待したのではないかと考えられる。しかし、実際には 復興 1 期目の前年に行われた自主的な全員協業生産の時に高い価格が実現し、風評被害に対する不安は 解消された。不安の解消を受けて、従来の設備によるかつてのような本格操業再開への意を強くし、「が んばる養殖」事業においても高い生産意欲を示した。その結果、被災を免れて残存した 6 連乾燥機 2 台 を使用するという体制ながら、「がんばる養殖」1 期目の実績では、生産枚数は計画を 20%上回り、1 経
営体あたりの生産枚数、生産額ともに 4 グループ中トップの成績であった(表 4 参照)。さらに、1 経営 体あたりの差引収支でも 4 グループ中でトップの成績をあげた。 1 期目に以上のような実績を残したグループ 3 は、1 期目を終えた時点で、2 期目以降の「がんばる養 殖」への取り組みを中止し、本格的な個別操業・経営に移行した。ただし、現時点ではグループ 3 は乾 燥機 2 台を 3 経営体で利用するという体制になっており、当面はこのグループ構成を維持したまま、乾 燥機 2 台を 3 経営体で融通しあって使用するという方式での個別経営に移行した。 4) グループ 4 各経営体に後継者がいて、家族経営として継続の意志が元々強く、被災後に個人で新規に乾燥機を購 入したグループ 4 は、明確には表明していないものの、おそらく当初の予定どおり個別操業に移行する であろうと言われている。協業の具体的検討が始まる前に既に、自立して操業再開をめざすことを想定 して乾燥機を個人購入したという経緯からすれば、個別操業にこだわるという判断はうなずけることで はある。 以上に述べたとおり、「がんばる養殖」1 期目への取り組みを経た後、協業継続をめざすもの、個別 操業への移行を考えるもの、早々に個別操業に移行したもの、などグループにより対応はそれぞれに分 かれた。しかし、いずれのグループも、協業の下でのコスト削減の可能性については、被災直後の自主 的な全員協業、そして「がんばる養殖」1 期目の取り組みを通じて実感している。その上で、協業に移 行するために残されている課題は、グループ構成員間の意思疎通を図り、お互いの技能や考え方に折り 合いを付けながら協業を続けられるのかという点に関する不安の克服であろう。被災後の各経営体のお かれている条件は異なり、条件の違いによって協業を受け入れられるか否かが決定されるという側面が ある。すべてを失った経営体同士は、同一スタートラインからの操業再開であり、施設・機器類を共有 する協業を相対的には受け入れやすいという傾向が見られる。他方、施設・機器類が残存した経営体は、 それぞれが抱える歴史的な設備投資水準の違い等から、協業への合意は困難な場合が多い。しかし、協 業の下での経営合理性は感じているわけであるから、長期的な視点に立ち、地域産業の存続を図るとい う観点からは協業への移行をもっと前向きに捉える必要がありはしないだろうか。
宮城県北部におけるワカメ養殖産地の復興の動向と課題
-階上地区「がんばる養殖」を中心とする再建の情報提供-
廣吉 勝治1.県北沿岸漁業の被災の状況と産地の位置づけ
(1)県北地域の漁業被災 宮城県北部漁業地域(気仙沼管内)は気仙沼市と南三陸町の 2 つの行政区から成る。これを漁業地区 (旧漁協)を中心とするJFみやぎ(本部、石巻市)の管轄地域で見ると、前者は気仙沼地区支所、唐 桑支所、後者は大谷本吉支所、歌津支所、志津川支所でそれぞれ構成されている。そして全体は「気仙 沼総合支所」を置いて統括している。 JFみやぎの被災直後の調査(2011 年 4~5 月実施)によれば、当該県北地域には組合員世帯が 4,698 あるが -これはJFみやぎ全体の約半数を占める-、この内、全半壊家屋を中心として 47%が被災し た。漁船については、県北地域の動力漁船 1,261 隻中 76%、船外機船 3,966 隻中 82%がそれぞれ被災し た。管内の漁業被害を県が推定した被害額で見れば、漁港関係 1,767 億円(全県の 40%)、20 トン未満 船の漁船被害 372 億円(同 36%)、養殖施設関係 87 億円(同 31%)、水産物被害 90 億円(同 27%) 等であった。 JF組合事務所も被災した。気仙沼地区支所(旧階上漁協)は使用不能になり、隣接の倉庫に事務所 を移動し、被災した松岩出張所(旧漁港)と鹿折出張所(旧漁協)は気仙沼地区支所に統合した。離島 である大島出張所(旧漁協)は被災したが高台の倉庫を仮設とした。現在、気仙沼総合支所は信用・共 済部門を地区支所内でやる形をとっている。なお、県北部域の水産部門を担当する県の出先は気仙沼地 方振興事務所水産漁港部であるが、ここも気仙沼湾岸にあった合同庁舎が被災し、内陸の県保健事務所 2 階に間借りする状態となった(その後、更に旧高校跡地の仮庁舎に移転している)。 (2)養殖ワカメの主産地 県北地域は、宮城県を岩手県に比肩し得るワカメ養殖産地に押し上げた地域として位置づけられる。 農林統計(市町村別)によれば、気仙沼管内の宮城県ワカメ養殖生産(ナマ換算)に占める割合は 2009 年は 20,977 トンの 69%、2010 年は 19,468 トンの 76%であった。従って、被災直後の漁場環境の劣化 や施設・機材不足の中ではあったが、被災からの漁業復旧は、ワカメ養殖が期間が短かく比較的容易で あることから、当該地域ではまずこの復旧に努力が集中した。 両行政区別に沿岸漁業を概観すると、被災前、気仙沼市域(漁業地区:階上・松岩・鹿折・大島・唐 桑・気仙沼・本吉・大谷)では年間 30 億円前後の水揚げの中でワカメ・コンブ・カキ・ホタテ・ホヤ等 の養殖生産が 6 割前後を占めた。その過半分はワカメ(メカブ生産を含む)が担ってきた。 一方、南三陸町域(漁業地区:歌津・志津川・戸倉)では被災前で年度での変動は多少あるが年間約 40 億円前後の漁協共販実績があった。2010 年度について見ると(南三陸町統計書)、全取扱高の 87% は養殖物が占めた。養殖の内、ギンザケ 37%、ワカメ 25%、カキ 21%、ホタテ 15%、ホヤ 2.4%等で あった。養殖生産への特化を強めてきたユニークな産地である。ワカメ養殖においては気仙沼市と肩を 並べる産地で県北地域をワカメ主産地として押し上げてきた。震災復興に当たり、漁業者の間で半年程 度の生産管理で出荷できる品目として養殖ワカメが注目されたのは自然の成り行きであった。県気仙沼地方振興事務所の資料によれば、表 1 に見るように、被災した年の管内(県北地域)ワカメ 生産は翌年の 2 月末から 5 月 10 日まで 10 回の入札(JF 共販)にかけられ、計 9,922 トン(20 億 6 千万 円)の出荷が実現して被災前の状況にかなり近い生産が達成されたのである。とくに、単価が例年の 1.5 倍位となったことが背景としてあった。 表 1 気仙沼管内における養殖の復旧状況 資料:宮城県気仙沼地方振興事務所水産漁港部 注:参考は農水省生産統計(トン) (3)階上地区における「がんばる養殖」復興事業の実施 階上地区は被災により正組合員は 2 割以上も減少し約 150 名となったが、その営漁を概観すると、ワ カメ養殖着業が 110、あとは漁船漁業・定置・採貝である。ワカメ養殖については専業者も無論いるが、 大半はカキ、ホタテ、ホヤ等の養殖兼業であり、中でもワカメ養殖とカキ養殖(剥き身)或いはホタテ 養殖と兼業する組合員が当地区でワカメ養殖を担う中心層である。 当地区の産地復旧の方向は、ワカメ養殖については共同生産で直ちに復旧に漕ぎつけ、カキ養殖(剥 き身)とホタテ養殖については国の「がんばる養殖業」(復興支援事業)のプロジェクト計画に乗せて 経営再開を図ることとなった。前者については「階上カキ養殖部会」(26 名)が平成 24 年 11 月~平成 28 年 2 月の 3 漁期、後者については「階上ホタテ養殖部会」(9 名)が平成 24 年 11 月~平成 27 年 12 月の 3 漁期において、それぞれ取り組むことが認定された。この内容については後述するが、認定計画 書については NPO 法人 水産業・漁村活性化推進機構(水漁機構)の HP に掲載されている。