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Microsoft Word - 租税法務学会-V01-青色申告者に対する無予告調査の妥当性 _1_.docx

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青色申告者に対する無予告調査の妥当性

平成 25 年 3 月 23 日 税理士 川崎 浩 はじめに(無予告調査の現状) 事前通知のない無予告調査は、納税者のみならず関与税理士も神経質な対応をせざるを 得ない状況になることが多い。殊に日頃から、誠実な納税申告を行っている納税者に対し てこれを行ってしまうと、大きな反感をかってしまう可能性もある。一般の社会生活にお いては、事前の約束を取り付けない訪問はマナー違反であり、ましてや当事者の了解も得 ず居座ることなど論外である。税務調査に公益性があることは当然としても、その事案の 選定には十分な慎重さが求められるはずであるが、現実には、なぜ、この納税者に無予告 調査が行われるかと疑問に感ずる事例も多い。本研究で取り上げた裁決事例は、原処分庁 がスナックを営む青色申告の請求人に対して、無予告で税務調査を着手したところ、請求 人が帳簿書類を紛失したとして提示しなかったため、青色申告の承認を取消して、推計課 税により更正処分を行った事例である。裁決は、青色申告の承認の取消事由、無予告の調 査手続、推計課税の妥当性等を争点とし、原処分庁の各店舗の水道光熱費を基礎として同 業者比率法により各店舗ごとの所得金額の算定を行ったことに対し、各店舗の水道光熱費 の合計金額を基礎とする推計方法が合理的であるとして、原処分庁の更正処分の一部又は 全部を取り消した。本研究においては、青色申告者に対する無予告等の調査手続の妥当性 にテーマを絞り、平成 25 年 1 月より改正施行された国税通則法の調査手続きとの関係も含 めて検討をすすめる。 1.事実 (1)事案の概要 本件は、原処分庁が、スナックを営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し て行った①青色申告の承認の取消処分、②所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消 費税等」という。)の更正処分等、③当該更正処分等に係る滞納国税の徴収のための不動 産の差押処分について、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。 (2)審査請求に至る経緯 イ 請求人は、平成 18 年分、平成 19 年分及び平成 20 年分(以下、これらを併せて「本件 各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書により、いずれも法定申告期限 内に申告し、また、平成 18 年 1 月 1 日から平成 20 年 12 月 31 日までの各課税期間の消費 税等について、いずれも法定申告期限内に申告した。 ロ 原処分庁は、これに対し、平成 22 年 3 月 1 日付で、平成 18 年分以後の所得税の青色 申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をし、同日付で、本件各年 分の所得税について、更正処分並びに平成 18 年分及び平成 19 年分の過少申告加算税並び に平成 20 年分の重加算税の各賦課決定処分を、また、本件各課税期間の消費税等について、

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2 更正処分並びに平成 18 年課税期間及び平成 19 年課税期間の過少申告加算税並びに平成 20 年課税期間の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。 ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成 22 年 4 月 22 日に異議申立てをしたとこ ろ、異議審理庁は、同年 6 月 30 日付で、本件青色取消処分、平成 19 年課税期間の消費税 等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成 20 年課税期間の消費税等の過 少申告加算税の賦課決定処分については棄却し、残りの原処分については、その一部を取 り消す異議決定をした。 ニ 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分に不服があるとして、平成 22 年 7 月 16 日に審査請求をした。 (3)基礎事実 イ 請求人は、a 市 b 町○丁目において平成 3 年からスナック(飲食店)を営んでおり、一 時期、「M 店」、「N 店」、「P 店」及び「Q 店」の 4 店舗において同事業を営んでいた。 ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成 20 年 9 月 16 日に、請求人の自宅及び事業所に臨場し、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の 消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)に着手した。 2. 争点(本件調査の手続等に違法があったか否か。) 請求人 原処分庁 本件調査は、無予告調査であり、また、R が前夜、遅くまで仕事をして朝まだ寝ている 時間に調査に来るなど、納税者の生活サイク ルを無視した威圧的な調査であり、税務運営 方針に反する調査である。 さらに、修正申 告のしょうようが執拗に行われ、また、請求 人がある団体に加入したことから、原処分庁 の提示額が増加して倍くらいになっており、 このことは、法の下の平等を保障した憲法 第 14 条違反である。 事前通知は法律上の要件とされているもの ではなく、また、所得税法第 234 条第 1 項に 規定する質問検査権は、「所得税に関する調査 について必要があるとき」に行使し得るもの と規定されているところ、その範囲、程度、 時期、場所等については実定法上なんらの制 限も設けられておらず、実施の細目について は、これを行使する税務職員の合理的な選択 にゆだねられている。 そうすると、本件調査に当たり、本件調査 担当職員が事前通知をしなかったことについ てこれを不相当とするような事由は認められ ず、また、本件調査担当職員が行った質問検 査権行使の実施の細目についての裁量に濫用 ないし逸脱した事実は認められないから、調 査手続等に違法はない。

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3 3. 判断 イ 法令解釈 所得税法第 234 条に規定された質問検査権を行使するに当たり、質問検査の範囲、程度、 時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、 かつ、これと相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、 権限ある税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解される。 ロ 認定事実 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。 (イ) 本件調査担当職員は、平成 20 年 9 月 16 日の午前 9 時 10 分ころ事前通知をせずに請 求人の自宅に臨場し、所得金額の確認のための調査を行う旨説明し、請求人の同意を得た 上で本件調査に着手した。 (ロ) 本件調査担当職員は、請求人が R は午前 10 時 30 分ころに起床する旨申し出たので、 午前 11 時ころに R が起床した後、同人が所用を済ませるのを待って、店舗に同行した。 (ハ) 本件調査担当職員は、平成 21 年 3 月 10 日に請求人の自宅において、平成 17 年分な いし平成 19 年分及び平成 17 年課税期間ないし平成 19 年課税期間の本件調査に係る所得税 及び消費税等の税額を請求人に説明し、修正申告の意思確認を行った。 (ニ) 本件調査担当職員は、平成 22 年 1 月 27 日に店舗に臨場した際に、R が、本件調査に より請求人の所得税等の額がどのくらいになるのか尋ねたので、同人に対し、本件各年分 及び本件各課税期間の本件調査に係る所得税及び消費税等の税額を、それぞれの年分及び 税目ごとに説明したところ、請求人に対する説明及び検討する時間が欲しい旨回答したの で、後日連絡する旨伝えた。 その後、本件調査担当職員が平成 22 年 2 月 4 日に R に電話連絡したところ、同人は後日 連絡して欲しい旨回答したので、同月 5 日に再度同人に電話連絡し、その際、修正申告の 意思確認をしたところ、修正申告書を送付して欲しい旨回答したので、修正申告書を送付 した。そして、同月 10 日に同人に対し、電話連絡したところ、同人は体調が悪いので再度 連絡して欲しい旨回答したので、後日連絡する旨伝えた。 (ホ) 請求人は、平成 22 年 2 月 15 日に L 税務署を訪れた際に、本件調査担当職員に対し、 修正申告書は提出しない旨申し出た。 ハ 判断 (イ) 請求人は、本件調査は無予告調査であり、また、納税者の生活サイクルを無視した 威圧的な調査であり、税務運営方針に反する調査である旨主張する。 しかしながら、上記イのとおり、事前通知は、税務調査において法令上の要件とされて いるものではなく、当審判所の調査によっても、本件調査に当たり、本件調査担当職員が 事前通知をしなかったことにつき格別これを不相当とするような事由は認められず、合理 的な判断の範囲を逸脱した違法があったとはいえない。 また、上記ロの(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人及び R の生活状況等に配慮

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4 して本件調査を行っていることが窺え、請求人の主張するような威圧的な調査を行った事 実は認められない。 なお、請求人の主張する税務運営方針は、納税者の自主的な理解、協力を得て円滑な税 務行政を遂行しようとする観点から、国税内部における税務調査を含む事務運営の基本方 針を示したものであって、税務調査における手続の細目などを一律に定めたものではない から、その記載内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法又は不当となるものではない。 (ロ) 請求人は、修正申告のしょうようが執拗に行われ、また、ある団体に加入したこと から原処分庁の提示額が増加して倍くらいになっており、このことは、法の下の平等を保 障した憲法第 14 条違反である旨主張する。 しかしながら、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人及び R に 対して数回にわたり、修正申告のしょうよう及びその意思確認のための電話連絡をしたこ とは認められるものの、それは、請求人及び R の都合に配慮したことによるものであるこ とが認められ、これらのしょうよう等が合理的な判断の範囲を逸脱したものとはいえない。 そして、本件調査担当職員が請求人に対する修正申告のしょうよう時において示した税 額等は、平成 21 年 3 月 10 日は平成 17 年分ないし平成 19 年分の所得税等について、平成 22 年 1 月 27 日は平成 18 年分ないし平成 20 年分の所得税等についてされたものであり、そ れぞれ対象年分等が異なっていること、また、税務調査における調査額は、調査の進展と ともに発生する新たな事実等によって変動するものであることから、修正申告のしょうよ う時において示した税額等が変動したとしても違法又は不当となるものではない。 なお、請求人が主張する団体加入の影響を明らかにする証拠は認められない。 (ハ) 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、当審判所の調査によっても、 本件調査担当職員による本件調査の際の質問検査権の行使は、質問検査の必要性と相手方 の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、合理的 な判断の範囲を逸脱するような違法は認められない。 Ⅱ 研究・・・裁決理由に反対 1. 本件裁決の意義と位置づけ 本件裁決は税務調査を巡るメルクマール的な判例である最高裁・昭和48年7月10日判決の 質問検査の範囲、程度、時期、場所等は、税務職員の包括的な裁量に委ねられるとの解釈 を前提とし、その税務調査の内容まで踏み込まず形式的な判断を行った裁決と意義付けら れる。前記判例が白色申告者に対するものであるのに対して、本件裁決は青色申告者に対 するものであるので、青色申告者に対する事前通知や理由開示がいかにあるべきか、また、 当局が従来の実務を法令化したと説明する平成23年11月改正の国税通則法の取り扱いを検 討するために好適な事例である。

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5 2.質問検査権の意義 租税職員は、法人税等の調査に当たり、関係者に質問し、又はその帳簿書類その他の物 件を検査することができる(平成23年11月改正前の法税153条、所税234条、改正後の通則 法74条の12)。これを質問検査権といい、これに伴う税務調査は、納税者がこれに応じな ければ罰則の適用があるという意味で間接強制調査とされる。前記判例も、質問検査権の 意義について「税務署その他の税務官署による一定の処分のなされるべきことが法令上規 定され、そのための事実認定と判断が要求される事項があり、これらの事項については、 その認定判断に必要な範囲で職権による調査が行われることは法の当然に許容するとこ ろ」としている。 3.事前通知と調査理由の開示に関する従来の判例と学説 《判例》 最高裁 昭和48.7.10判決 「権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、 帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的必要 性があると判断される場合には、(中略)質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上 特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと 相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にととどまるかぎり、権限ある 税務職員の合理的な選択に委ねられる」 《学説》 事前通知と理由開示の必要性に積極 ①「調査理由等の告知は、明文の規定をまたずに憲法31条の解釈上当然必要で、これを欠 く質問・検査は違法である、と解することはできないとしても、質問・検査の公権力の行 使であることをかんがみると、立法上・行政運営上その手続整備の必要性はおおきいとい えよう。」といった指摘が強くなされていた。(金子宏「租税法」第17版771頁) これらを踏まえて今回の改正/憲法31条(適正な手続きの保障/告知と聴聞を受ける権利) ②「相手方(被調査者)の同意を要件とする質問調査権の行使にあたって、調査者が「調 査理由」の開示をせずして(調査の必要性を明示せずして)、相手方が納得して調査に同 意することが可能であろうかという点がはなはだ疑問に思われる。(中略)これは意思決 定要因を提供せずに、調査者は調査の同意という意思決定を相手方に迫ることになるので ある。この点は論理上、不自然に思われる。ましてや、調査の『日時・場所』の事前通知 をも適法要件としないという見解に対しては、筆者は大きな疑問を感ぜざるを得ないので ある。」(増田英敏「納税者の権利保護の法理」190頁) ③「青色申告書の更正に理由附記が効力要件だとされていること、青色申告に対しては、 税務署長の更正処分に際しては課税権限の行使に制約を設け、備付帳簿書類の記載以上の 信憑力のある証拠を示さなければ更正できず(最判昭38.5.3判決)、推計を許さない等の 規定を設けている趣旨は青色申告に限っては、税務署長の承認によって青色申告による特 典が与えられているのであるから、申告額に実体的確定力が与えられたとみて、これが奪

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6 われる場合には前述の判例により客観的必要性(過少申告の疑い)がなければならず、か つ事前に充分な防戦の機会を与えなければならない。換言すると、適正な手続的処遇を受 ける権利(告知及び聴聞に機会を受ける権利)を保障したもの解する」(松沢 智「租税 手続法」259頁 事前通知と調査理由の開示の要件性について、学説は積極的、判例は消極的。 4.租税申告行為の法的性格からの考察 ①事前通知と調査理由の開示を検討する前提は、租税申告行為の法的性格を明らかにする ことが必要。 ②租税申告行為の法的性格とは、要するに国家と国民との間の税の関係を、法的視覚から 明らかにすることであり、その為には、国家の構造を宣言した国家の根本規範である憲法 学的視点からアプローチすることが不可欠。(手続法 23 頁以下) ③憲法 30 条の納税の義務の規定は、民主主義を表明した現行憲法の国民主権主義の原理か らすれば、主権者としての国民にとってみれば、自己賦課としての性質をもち、それは正 に主権者たる納税者の責務を表明したもの(納税者主権主義)。(同 25 頁) ④「納税者主権主義」に基づく申告納税制度における納税者の地位は、行政公務への参加 の面と、自らの決意の表明という個人の権利をも併せもつ。(同 30 頁) ⑤租税申告行為の法的性質は単なる届出ではなく、公法的効果を生ずる意思表示(私人の 公法行為)である。(同 46 頁) ⑥租税申告行為が私人の公法行為とするならば、通則法 16 条 1 項の「申告による確定」の 意味は、課税対象が、手続面のみならず、実体面にも関連をもつものであるから、内容に 関する実体面が手続面に反映し、課税権者といえども、正当な理由がなければ、確定力を 排除できない「公定力(権限ある機関による取消があるまで、一応、適法の推定を受ける)」 をおびる。(同 50 頁) ⑦課税は実額によることが原則であり、実額とは、一般的にいえば客観的な真実の所得金 額をいうものとされる。自主申告制度の下で、正確な記帳を行い、その帳簿を基礎として 正当な所得を申告せしめるために、青色申告制度が設けられており(その意味で、青色申 告者に対する考察は、申告納税制度の根幹の研究に連なる。)(「実体法」69 頁以下)、法令 で定められた書類によって算定された金額を実際の金額と推認することとなる(手続法2 62頁注(7))。このことから、「実体法」である所得税法や法人税法では、青色申告書の 更正に理由附記が効力要件だとされ、青色申告に対しては、税務署長の更正処分に際して は課税権限の行使に制約を設け、備付帳簿書類の記載以上の信憑力のある証拠を示さなけ れば更正できず(最判昭 38.5.3 判決)、推計を許さない等の規定を設けている。青色申 告に限っては、税務署長の承認によって青色申告による特典が与えられているのであるか ら、一旦納税者に利益を設定した以上は、性質上当然に税務署長に、青色申告者の申告に ついて、自由な取消変更をなしえない効力を与えたもの、つまり、申告額に実体的確定力

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7 (不可変更力)が与えられたとみる。(同 70、71 頁) ⑧実質的確定力は、一般には国民に不利益に作用するが、たとえば「国民の権利又は利益 を設定する行政行為についてはみれば、その性質上当然には当該行政庁において自由な取 消変更をなし得ないという意味において、国民の利益に作用する。」(「手続法」69 頁) つまり、権限ある機関が一定の判断をした以上、公権力を行使する側から、行政行為の内 容を変更したり、取り消したりすることができないことをも意味する。つまり、税務署長 が一旦、青色申告の承認という判断をした以上、制度の趣旨として、青色申告者の法定し た備え付け帳簿で計算した所得は、税法上の実額と推認され、一般的にいえば客観的な真 実な所得と理解され、その制度の趣旨に反して、充分な証拠と厳格な手続きを踏まずに、 例えば、過少申告の疑いがないのにもかかわらず質問検査権を行使したり、過少申告の疑 いがあるとして質問検査権の行使を行う際も、それが不利益処分を前提とするものである のだから、「予め青色申告者に対し、更正を予定している根拠となる事実を告知し、これ に対し反証を提出し反駁するための機会を与える聴聞の手続きをとる必要がある。」(「手 続法」77 頁)のであり、青色申告者の税務調査にあたり事前通知と調査理由の開示を省略 することは、青色申告の承認という行政行為の内容を実質的に変更したり取り消したりす る行為と同等な行為(実質的確定更力に反する行為。)と評価され違法である。青色申告 に実質的確定力があるとは、青色申告者の申告行為自体ではなく、税務署長の青色申告の 承認の反射効果として、実質的確定力が附与されていると考えられるのである。このよう な意味で青色申告に実質的確定力があるとされるのである。 ⑩青色申告に「実体的確定力」が附与されていることは、青色申告によってのみ正しい金 額が算定し得て申告納税制度が維持確立できるとする青色申告制度の趣旨からも考えられ る。すなわち、申告納税制度のもとでは、納税者において誠実な申告をすることを予定し、 そのための方法として、青色申告制度を設けたのであり(所得税法 14 条、法人税法 121 条、 最高裁昭 62.10.30 判決)、青色申告によって、「実額」が算定できると考えたのである。 そこで租税行政庁は青色申告書による納税申告をすることを申請した者に対し、自ら承認 を与え、そこに相互の信頼関係を基礎とする債権債務関係が生ずる(同 75 頁、大阪高裁昭 50.6.11 判決)。 したがって、納税者において信頼を覆す特段の事情がない限り、納税者は常に保護され なければならない。青色申告者においては、実体法上、所得金額に適法の推定が働くだけ でなく、手続法上においても、行政手続法と同等の保護が与えられなければならない。な ぜならば、行政手続法は行政手続に関する一般法であるから(行手法1 条)、たとえ税務行 政手続といえども、その基準を下回る手続を認めることがでないからである。行政手続法 の基本原則は①告知・聴聞、②文書閲覧、③理由附記、④処分基準の設定・公表であるか ら、これらの基本原則に反する税務調査手続は手続違反である。調査対象者を選定する基 準を設定して公表することはもちろんのこと、課税処分を前提とした調査対象者に反論の 余地を与えることが当然に要求される。反論の機会を奪うような、いわゆる料調方式とい

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8 われる税務調査手続は、明らかに手続違反といえる。(「したがって」以下は、神田先生の ご意見)。 ⑨以上の検討のとおり、罰則により間接的に強制される質問検査権の行使に当たり、実体 的確定力が附与されている青色申告者に対して、「過少申告の疑い」があると思料し、税 務調査を開始しようとする際、何時調査するのか(事前通知)、何故調査が必要なのかと いうことが通常一般人の見地において何人も首肯し得る程度の理由を明らかにし(理由開 示)、これによって、当該青色申告者に対し、充分に反駁の機会を与え、反証を提出させ て青色申告者の権利を保障するために法が当然の予定する権利であると解しなければなら ない。それは、憲法 31 条の適正な手続の保障(告知と聴聞を受ける権利)からの当然の要 請でもある。(同 77、78 頁) ⑩なお、青色申告者に対する税務調査は、原則として事前通知と理由開示が要件であるが、 「ここに言う青色申告者とは、青色申告の届出をし、自動的に承認を受けた申告者すべて を指すのではなく、誠実な記帳を為す、すなわち、青色申告の承認を取り消されるおそれ のない青色申告者に限定されているものと解される。」(山下 学「租税行政と納税者の 救済」行政手続法と税務調査・事前手続に関する一考察 89 頁)と述べられていることか ら考えると、事前の情報等により悪質な過少申告の疑い(信頼関係の失墜)の可能性があ り、かつ事前通知を行うことにより、証拠隠滅等をはかられ過少申告の発見が困難と客観 的に予想される場合に限り、例外的に事前通知と理由開示を省略が正当化されると考える べきである。 5.手続の違法が課税処分の取消事由となるか(手続きの瑕疵と行政処分の効力) ① 従来は、手続きが、刑罰法令に触れたり、公序良俗に反する等、違法性が著しい場合 を除いては課税処分の取消事由たならない。 ② 現在の判例は、手続的瑕疵があれば処分内容のいかんを問わず取り消すべき場合と、 手続的瑕疵のみを理由として取り消すべきでない場合の双方がありうるという前提に立ち、 個別判断をしていえるといえる。租税事件の裁判例は「いわゆる税務調査の手続きは、課 税庁が課税の要件の存否を調査するための手続に過ぎず、いかなる意味においても課税処 分の要件になるものではないというべきである」(東京高裁平 3.6.6 判決)と消極に解さ れている。 ③理由提示や聴聞・弁明の機会の付与のような重要な手続を懈怠したり、懈怠するに等し いような不備がある場合には、処分を取り消して手続をやり直させることは、手続軽視の 風潮を生まないためにも必要であろう(「行政法概説Ⅰ」452 頁)。行政手続法施行後は、行 政庁の行為義務として法定された手続きに瑕疵があれば、原則として処分の違法事由(取 消事由ないし無効事由)を構成すると解釈すべきである。そうでなければ、行政庁に手続 的義務を課す意味は著しく失われてしまう。(櫻井敬子・橋本博之「行政法 第3版」弘文 堂222頁)との意見が強くなっている。

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9 ④ 3で記載のとおり、青色申告者については、憲法 31 条の適正な手続の保障の内容たる 告知と聴聞を受ける権利、つまり、事前通知と理由開示が要件であると解するならば、こ れらを欠く税務調査手続きは違法と評価され、課税処分の取消事由となる余地が大きいと 解されるべきであろう。 6.平成 23 年度改正国税通則法の内容とその意味 ①内容 a 調査の事前通知(原則) 税務当局は、税務調査を行う場合には、原則として、あらかじめ納税義務者に対し事前に 通知をすることとされました(通法74の9 ①)。 b 事前通知を要しない場合(事前通知の例外事由) 税務調査に際しては、上記のとおり事前通知を行うことが原則ですが、調査の適正な遂 行に支障を及ぼすことのないよう、課税の公平確保の観点を踏まえ、「違法又は不当な行 為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関す る調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と税務当局が認める場合には、上記の 「事前通知」を要しないことが法律上明確化されました(通法74の10)。この「事前通知 を要しない場合」に当たるかどうかは、税務当局が、「調査の相手方である納税義務者の 申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他税務当局が 保有する情報」を踏まえて判断することとされている。 ② 改正の意味するところ a 当局は無予告の理由を説明しない。 FAQ(一般納税者向け)問19 b 改正の目的は手続きの透明性・納税者の予見可能性を高め、納税者の協力を促す。 c 透明性とは、「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかで あること」(行政手続法1条)とされている。 d 法令化された無予告調査が違法又は不当かを、納税者自ら判断できる状態にないと透明 性が確保されているとは言い難い。故に、少なくとも、調査終了時までには、無予告の理 由を明らかにすることが必須の条件となると考え① 理由開示の要求(少なくとも調査終 了時までには開示)し、理由を問うことで、従来のような無予告であることの必要性に疑 問な調査を減らす牽制効果になるのではないか。無予告調査は、不誠実な納税者と予見さ れる場合のみに限定すべきである。 e 法 74 の 10 でいう「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額を困 難にするおそれ」とは、「調査の初動において納税者の協力が得られないことが強く想定さ れる場合」を前提とすべきとされている(菅原英雄「税経通信」2013 年 1 月号 96 頁)。 「納税者の申告や事業規模・取引内容等といった表面的な情報は、たとえば『この規模や 取引内容からすると申告所得が低調である』といった概況を示すに止まるため、具体的な 『おそれ』を『合理的に推認』する資料にはなり得ない。また、過去の税務調査で売上を

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10 除外したり帳簿書類の改ざんがあっただけでは、不正計算の予測はできてもやはり無予告 調査を行うに必要な具体的な『おそれ』に対する『合理的な推認』は難しいのではないか と思われる。したがって、上述のような資料やタレコミ等から、事前通知をすることで、 通達(達 4−9・答弁拒否・虚偽答弁・逃亡・資料廃棄等)で例示されているような具体的 な行為が行われるおそれがあることを示す『プラスα』の情報が必要と思われる。課税庁 にとっては、無予告調査の実施にあたりかなりハードルが高くなったのではないかと思わ れる(同 98 頁)。」 「税務調査手続の法律化により、従来の税務調査手続と決定的に異なってくる点は、こ れまで課税庁の一方的な裁量で行われてきた諸手続について、今後は、課税庁の裁量が社 会通念上相当かどうかではなく、法律要件に合致するか否かでその適否が判断されること となった点である。事前通知を行わない理由は、調査時点では納税者に開示されることは ないが、争訟の場面では白日のもとに晒される。仮に課税漏れの事実が把握されたとして も、処分に対して不服を唱える納税者からは、厳しく調査手続きの違法性が問われること になろう(同 99 頁)。」 f 本来、改正前であっても4で述べた青色申告の法理からすれば、無予告調査について の選定とその理由は慎重・明確であるべきであったと考えるが、今回の法令化は、「違法又 は不当な行為」と青色申告の趣旨から著しく逸脱した納税者に限定すべきものと解するこ ととなったとすれば評価できる。 7.本件裁決への当てはめ 本件裁決は、最高裁 昭和48.7.10判決の「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法 上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これ と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にととどまるかぎり、権限あ る税務職員の合理的な選択に委ねられる」を強調するばかりで、判決の前段である「権限 を有する職員に於いて、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿 などの記入保存条況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的必要性 があると判断される場合」の客観的必要性が検討されず、形式的審理に終始しており(「租 税憲法学」195頁)、事前通知の行われなかった正当性や不正事項の把握の経緯等が裁決の 中で明らかにされておらず、納税者の権利救済機関としての国税不服審判所の役割から考 えると、その結論に至る理由が不明確であると言わざるを得ない。 8.今後の対応等 ①関与先指導と税理士の立会権 税理士の立会いが必要であること、無予告の理由の開示がない場合等は直ちに税理士の 立会いを求めるよう、予め、関与先に事前に充分指導する必要がある。調査にきた日が(税 理士にとって)事業上支障がある場合には、私的利益の衡量において、その正当理由をつ

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11 げて調査日時の延期を求めることができる(「手続法」263 頁)。「税理士が納税者の単なる 代理人ではなくして、(当局の公権力に対する)保護者という性格があるから(中略)たと え納税者が「立会いは要らない」とか、税務職員から税理士を立会わせずに調査したいと いうことがあっても、制度上からはそういうことはできない。(委任契約の本質に反する。) もしこのような固有権(立会権)を認めれば、かかる権利があるにもかかわらず、仮に 税理士が通知を受けずに調査が行われて、そのために関与先との間で業務委嘱契約が損な われてしまうということが生じた場合には、場合によっては国に対する損害賠償の問題が 生じ得る。」松沢 智「税理士の職務と責任」第 3 版 249 頁 ()は筆者 以上 ②改正国税通則法への対応 改正国税通則法に関して、国税当局は、従来の運用上の取扱いが法令上明確化したもの であると説明しており、具体的手続きは従来方法が踏襲される危惧もある。しかし、例え ば、6で記したとおり無予告調査の実施については従来以上に慎重に行うべきであり、当 局の運用が恣意的に流れないように監視することも、税理士に求められている公共的使命 であろう。その意味でも、本件をこの時期に裁決事例研究として取り上げた次第である。

参照

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