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経済に強い社会科教員の育て方

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Ⅰ.はじめに

 本報告は,報告者が 2010 年度と 2011 年度に非常勤 で出講した教育系専攻者向けの大学院における経済学 講義の実践報告である。  報告者は,長く高等学校の教壇にたってきたが,非 常勤講師として教員養成のお手伝いもしてきた。そこ で得た教員養成系の経済学教育の問題点は,別の学会 で報告をしている。1)2010 年度に,筑波大学大学院教 育研究科の経済学演習という講義の講師を委嘱された。 そこでの実践と結果を紹介して,教員養成と経済教育 に関する問題提起したい。

Ⅱ.教育系大学院における経済学教育

 周知のように筑波大学は旧東京教育大学を母体とす る総合大学である。教育研究科は教員養成を直接の目 的としてはいないが,修士課程の単独コースであり, 修了生の多くが,高等学校教員となっている。した がって,社会科,地歴科,公民科の教育を現場で直接 担う教員が,ここでどのような経済学の講義をうけて いるかは,経済をしっかり教えられる教員がどれだけ 出てくるかという点で,大きな意味を持っていると言 えるだろう。  ところが,大学院修士課程教科教育専攻における経 済学は,「経済学演習」(1)(2)(3)という名称で設 置されているが,それぞれ 1 単位で,近年は受講希望 者がおらず実質的には開講されていなかった。そのよ うななか,集中講義のスタイルで何年かぶりに開講さ れることになり,私に担当の要請があったわけである。 なお,開講前の打ち合わせでは,「経済教育論ではな く,経済学を開講してください」と要請された。  教育系大学における経済学教育に関しては,2010 年度の本学会での分科会でその危機的状況が取り上げ られ,教育系大学の担当者へのアンケート調査,大阪 教育大学での実態など,深刻な状況が議論された。ま た,教育系大学での経済教育のスタンダード作りも提 言されている。2)筑波大学でも基本的には,経済学を 学ばないで教壇に立つ高等学校教員が輩出されている のは同じである。したがって,講義に際しては,本学 会での議論を踏まえて,どのような内容,レベル,方 法なら,経済に強い教員を育成できるかという観点か ら準備を進めた。

Ⅲ.受講生の様子

 集中講義の受講生は11名(正規の受講生は8名,他 は傍聴者)であった。簡単なプロフィールを紹介して おきたい。  現役高校教員の大学派遣 1 名,博士課程在籍者 1 名, 哲学コース 2 名,地理コース 2 名,社会科教育 2 名, 歴史コース 1 名,法教育 1 名,特別支援教育 1 名と多 彩である。そのうち学部段階で経済学専攻者は一人だ けであり,あとは教育学科や史学科,地理学科の出身 者である。経済学への関心はあるが,苦手意識が強く, 今回講義が開講されたので受けてみたという動機をも つものがほとんどである。  したがって,大学院の講義ではあるが,実際には学 部入門レベルの内容がもっともふさわしいと考えた。 ただし,受講生は全員大学院生であり,それぞれの専 門に関しては一通りの見識を持っているはずであり, 単なる入門講義にならないように配慮した。具体的に は,最終レポートを,経済学の知見を各自の専門と関 連させたものとして課した。

Ⅳ.講義の内容と実際

 「経済学を教えてください」という要請であったが, 前述のとおり,実際に講義をした内容は学部レベルの

経済に強い社会科教員の

育て方

The Journal of Economic Education No.31, September, 2012 On Attempt to Develop World-be Educations Who Are Good at Teaching Economics

Arai, Akira 新井 明(東京都立小石川中等教育学校)

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経済学入門である。3)75 分× 9 回分のシラバスを作り, レジュメのプリントを用意した。学生に配布したシラ バスの内容は以下のとおりである。 内容 1 経済学とは何か 経済学の定義と領域/経済の歴史と 経済学/経済学の基礎概念(希少性, トレードオフ,生産可能曲線と機会 費用,選択) 2 ミクロ経済学の 基礎理論 需要供給の法則の読み方/消費の理論/生産の理論/余剰分析 3 市場の失敗 独占と独占的競争/寡占とゲーム理 論/公共財/外部効果/情報の非対 称性 4 マクロ経済学の 基礎理論 国民所得/三面等価の理論とその応用/国民所得の決定理論/総需要と 総供給/景気変動と景気循環 5 財政の考え方 財政の仕組み/財政政策の理論と実 際/租税と課税理論/公債/公共選 択 6 金融の考え方 金融の意味/金融の仕組み/中央銀 行の役割/金融政策の理論と実際 7 国際経済の基礎 理論 貿易の理論/為替の仕組みと理論/国際収支の仕組みと理論/経済発展 論 8 現代経済の諸問 題 農業,労働,福祉,環境など教科書にある諸問題をどう経済学で解くか, ヒントを提示 9 経済学と経済教 育の間 社会科教育に必要な経済学の知識/学習指導要領の構造/入試問題・教 科書のなかの経済学 経済学テストとそ の解説4) ミクロ 30 題,マクロ 30 題の演習とその解説(解説は自習となる予定) 【ねらい】 ・将来社会科教員として教壇に立つ場合,最低これだ けは知っておいて欲しいと思われる経済理論に関し て講義と演習を行います。(ユーザーとして経済学 を使えるようになることを目的とする講義です。) ・学習指導要領,教科書,入試問題などの背景にある 経済理論を理解し,指導するための経済学の知識を 獲得することを目指します。 【課題レポート】  「講義で学習した経済理論を使って,経済問題を分 析せよ」  分野は任意。現実の経済問題を想定していますが, 各自の専門に応じて歴史的な事象や地理的な事象など を取り上げても可。経済理論と現実の乖離,それをど う考えるかを論じてください。使った理論を明記する ことも忘れずに。 【評価とその方法】  ミクロ・マクロ問題(20%),リアぺ(10%),レ ポート(70%)の三つで総合的に評価します。レポー トの比重が重いので,しっかり準備を進めて欲しい。  集中 2 日間でこれだけの内容は実際には教えられず, 最後はかなり駆け足になった。  理由は幾つかある。一つは,経済学説と経済思想に 多くの時間を割いたことがある。報告者の関心もあり, この部分はエピソードも含め,時間をかけてしまった。 二つ目は,経済の基礎概念を丁寧に話したことも大き い。特に,希少性や機会費用は,多分初めて聞く受講 生が多いではずであろうと推定して,『分かる本』な ども使ってしっかり話したことが影響した。三つ目は, 限界分析の箇所に深入りしたことがある。この部分は, 大学の入門レベルの講義でもつまずきの石となること が多いはずである。需要曲線,供給曲線の導き方を しっかり教えようとして,限界代替率などの説明にて こずったこともある。四つ目は,余剰分析の箇所が学 生には理解しにくかったようだ。関連して死荷重に関 しても理解しづらいという反応が返ってきたことで, 時間をとった。  したがって,マクロ部分は,かなりはしょりながら 話を進めることになった。そのため,8 コマ目の教科 書を読み解く部分は触れることができなかった。また, 国際経済の部分は駆け足であり,しっかり理解させる ところまでは行かなかった。短時間で内容を盛り込み すぎた点は否めなかったが,最低はこの程度は理解し たうえで教壇に立つことは必要であろう。2 単位であ れば何とかなるかどうかというところである。

Ⅴ.受講生の変化とレポート

 受講生の「リアぺ」と最終レポート「この講義で学 んだ経済理論を用いて現実問題を分析せよ」を見ると, 新鮮な驚きと経済学の利用可能性を記したものが多い。 紹介しよう。 ・経済学の考え方は私たちの日常生活に密着しており, とても興味深かったです。(Y) ・需給曲線のグラフの汎用性の高さには強い印象を受 けました。…自分にとってはかなり目からウロコで した。(K)  ただし,内容に関しては,死荷重の概念が理解しづ らい,限界分析の箇所は難しいなどの意見もあった。  最終レポートは 10 名が提出した。それぞれ専門性 を生かしたものを書きなさいという要請を受けてはい たが,全員が専攻に直接関係したレポートではなかっ たのが残念であった。例えば,(3)のレポートは,レ

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ポートしてはしっかりしたものでよい評価を与えたが, 専攻を生かすならもっと別のテーマでもしっかりした ものが書けたのではないかと思われた。それでも, (2)の歴史専攻はイギリスの自由貿易帝国主義を扱っ たり,(5)の地理専攻はごみ問題を扱ったりして,な かなかの力作が提出された。なかでも最低賃金制と進 学問題を扱った,4 月から中学の教壇に立つという院 生のレポート(8)は,仮説を立て,それをデータで 補強し,なお経済理論で分析するという構成をとって 出色であった。評価は,A が 6 名,B が 2 名,C が 2 名であった。A は,課題の要求にしっかり応えている もの,B は,問題意識はよいが分析がもう一歩のもの, C は,分析がやや不十分ものとした。以下,提出され たレポートのタイトルと概要(主にレポートの冒頭を 整理したもの)を列挙しておきたい。 (1)「教育の経済学」人間総合科学研究科 M(教育学 専攻)  本レポートでは,経済学の理論を用いて教育に関す る問題状況を分析することができるかについて明らか にする。周知の通り,第二次世界大戦後の日本の学校 教育は,経験主義と系統主義の対立,ゆとり教育と学 力低下への批判など,幾つかの紆余曲折を経て今日に 至っている。本レポートでは,経済学の理論が教育の 問題状況を読み解くのに寄与し得ると仮定し,実際に 検証してみたい。 (2)「19 世紀のイギリスとアジアの関係について」教 育学研究科 I(歴史教育専攻)  本レポートは,19 世紀のイギリスとアジア,特に インド及び清との関係について,経済学的アプローチ から考察していくことを目的とする。それにより,こ れまで世界史教育において単純化して教えられていた イギリス-インド,イギリス-清の関係を,比較生産 費説や需要・供給の観点から再考してみたいと思う。 (3)「ポスト京都議定書をめぐる議論について」教育 学研究科 T(哲学専攻)  今回のレポートでは,この問いに対して一つの仮説 を示しつつ,私独自の視点で論じてみたいと思う。私 は「炭素会計(カーボンフットプリント)という概念 の普及」と「カーボンフットプリント商品の増加」が カギであると考えている。いわゆる二酸化炭素の徹底 した「見える化」である。これが上記に挙げた 3 つの 課題の解決にも寄与する概念だと私は考えている。以 下 2 つの論拠を示しながら論じてみたい。… (4)「なぜ井上準之助は金輸出解禁を行い,失敗した のか?」S(社会科教育専攻特別支援教育コース)  「高等学校日本史 B」の教科書で,戦前において取 りあげられている大蔵大臣(大蔵大臣在任時の業績が 取り上げられている)は 3 人いる。それは松方正義, 井上準之助,高橋是清の 3 人である。 …井上準之助 のイメージには常に失敗がつきまとうが,なぜ彼が金 輸出解禁を行ったのかということの記述はあまりされ ていない。井上準之助は第二次山本権兵衛内閣,浜口 雄幸内閣,第二次若槻礼次郎内閣で大蔵大臣を務めて おり,二回にわたって日本銀行総裁を務めているよう に経済に関する専門家であったと考えられる。そのた め,彼は目的を持って金解禁を行ったと考えられる。 そこで,本研究では井上準之助がなぜ金解禁を行い, なぜそれが失敗に終わったのか,経済学的分析から考 えていく。 (5)「有料制によるごみ減量化効果の実態」M(教科教 育専攻社会科教育コース地理)  本稿では,経済学の観点から,有料制によるごみ減 量化効果を分析し,その実態を明らかにする。特に, 需給曲線の「需要」面からごみの減量化効果について 考察したい。 (8)「最低賃金制の経済効果を分析する」Y(社会科教 育コース)  本レポートでは,非正規労働者の生活向上のために 民主党から最低賃金を 1000 円にする提案がなされて いることを受け,最低賃金を 1000 円にした場合に生 じる経済効果を分析し,分析から大学進学者が増加す ると仮定し,経済理論を用いて説明する。最低賃金の 引き上げと大学進学者増加という関係性が希薄に思え る事象を経済理論を用いて分析することを通して関連 づけ,仮に政策を実施した場合の社会の動きとして仮 定し,説明していく。これより,本レポートの命題は, 「最低賃金が引き上げられると,大学に進学する者が 増加する」とする。

Ⅵ.2011 年度の実践

 筑波大学での経済学演習の集中講義を,2011 年度 も依頼された。9 月末に二日にわたって行った講義の 様子を報告することで,本テーマにもう少し迫りたい。 1.受講生の当初の意見  講義内容は,昨年度とほぼ同様で実施した。方式も 同じである。受講生は 16 名である。そのうち,4 名は 昨年度の経済学演習(1)に出席した院生で,同じ内 容でもかまわないので,復習もかねて受講したいとい

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うことで参加している。残り,12 名ははじめての参 加者である。このうち,大学学部レベルで何らかの形 で経済学を学んだものは 2 名であった。のこり,14 名 は経済学を受講せずに教職免許状を取っている。  今回は,事前に幾つかのアンケートを書いてもらい, 受講生がどのような意識および,到達度を持っている かを計ってみた。  アンケートは以下のとおりである。数字は 16 名の 集計結果である。

① 経済なり経済学は好きか? Yes 11 No 2 NA 3 ② 経済学を学ぶことは必要? Yes 16 No 0 NA 0 ③ あなたは? 自由派 4 平等派 5 NA 7 ④ 教育系学生が経済嫌いなわけは? ・高度な数学的思考を要する点。価値,道徳的判断が わけて考えられること。(複数) ・常に合理的で効用を求める存在として人間を仮想す る点。(複数) ・クールであるが故。教員志望の学生は,「人はいか に生きるべきか」を直接的に考えたいと思っている から。 ・教育と言う行為が経済の外部に位置づけられている こと。公務員という教員の立場上,経済という現象 に影響されにくいから。 ・経済学では人が見えてこないから。だから,個々の 人間のインセンティブを考える行動経済学は現場で 受けるはず。 ・個人としては計算がとっつきにくい。教育は平等だ からという言説はどうも建前のような気がする。 ・平和主義と言うか,平等主義者が多いからだと思い ます。(複数) ・お金儲けのためのもの,経済は政治家が考えるもの という自分とはかけ離れたものと言う感覚が根強い のではないか。 ・教育の効果はお金で換算することが難しいものであ るから,経済学の理論のように考えにくいのが原因。 ・中高のカリキュラムが,3 年の最後に経済を学ぶよ うになっているから。 ・学校現場では落ちこぼれをつくらないようにという 常識があるので,損得や競争に勝つことを学ぶイ メージが強い経済はなじまないから。 ・高校で経済を勉強しなかったから。競争原理を嫌う 学生が多いこと。 ・経済学の知識がないため,道徳的な内容でしか教え られないから。経済の論理は競争一辺倒であり,教 育の道徳性とそぐわないと誤解しているのではない か。 【コメント】  経済学の講義を取ってみようと思っている院生であ り,①での結果のように,経済もしくは経済学に対し てアレルギーはない。その点では,一般の教育学部で 同種の講義を行う場合とは意気込みは違うといえよう。 また,経済より大事なもの(例えば,国語数学のよう な基礎科目)があるかどうかを聞いた②では,学校で 何らかの形で経済を学ぶことを「良し」としている。 このあたりも,学部学生と院生の違いであろう。③は やや抽象的であるが,教育系学生は平等志向が強いの ではとの仮説での設問であったが,必ずしもそのよう な決め付けはできないという結果である。④の自由記 述は,③との関連で読むと興味深い分析が得られよう。 2.講義を受けて理解できなかった項目,質問  リアペには,講義で理解できなかった項目,質問を 書いてもらった。二回の講義を通して以下のような質 問がでてきている。(回答部分はカットしている) ■ 第一回講義 ① 死荷重があまりイメージできない。(複数) ② なぜ生産可能曲線が凸型になっているんですか? ③ 需要供給曲線といいながら,なぜ直線なんです か? ④ 『分かる本』で株券の見本に東京電力が載ってい るのは何か意味がありますか? ⑤ デファクトスタンダードとネットワーク外部性は 同じですか? ⑥ 買い手独占の事例で,公共事業がそれにあてはま ると思うのですが,違いますか? ⑦ 経済のパラドックスの解決を永遠に追い求めてゆ くことは可能ですか? ⑧ 教室で開発教育やフェアトレードなど,インセン ティブを扱う場合,押しつけがましく感じてしま うことがあります。今後,どうすれば,より中立 的に学習をすすめてゆくのがよいでしょうか? ⑨ 講義での内容は,納得ができたが,こうした考え が全くニュースなどで報道されないのはなぜか? TPP に関して言えば,本屋に行けば大体「TPP 亡国論」の類のようなものしか置いてなくて,疑 問に思う。 ⑩ ミクロのところでの,「みんなが同時に得をする ことができない」というのは,最近ビジネスの場 などでよく耳にする「win-win の関係」と矛盾し ていると思いましたが?

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■ 第二回講義 ① IS=LM 理論で,クラウディングアウトや流動性 のわなのケースになった場合はどうするのです か? ② 現在価値法や 72 の法則が良く理解できませんで した。 ③ 高度成長の論理を計算で示されていましたが,そ こが理解できませんでした。 ④ 金本位制での為替レートの決まり方はどんな方法 だったのでしょうか?また,レートが変動すると するなら,貿易決済はどうしていたのですか? ⑤ 日銀が為替介入をしたと聞いたことがありますが, どういう方法でやったのですか,また,そのとき と国際収支表はどう関係しますか? 【コメント】  質問,疑問の中身は学生がどんなところにつまずく かの反映である。「社会的ディレンマ」に関心を持っ ている院生からの質問や,開発教育に関連する質問は, 教育系の大学院生ならではのものである。 3.講義を受けての感想  二回目のリアペで感想も簡単に書いてもらった。以 下,やや長いが引用する。 ・おおまかな経済学の姿が見えたような気がします。 逆に,頭がついてゆかないところがあったのも事実 で,生徒に教えるときも同じようなところにつまづ くのではないかと反省しました。復習します。地理 の分野でも比較優位は扱われますが,南北問題絡め て「途上国がかわいそう」という話をオチにしてし まう気がします。農業国や工業国といった性質を考 えずに授業をつくりがちでした。理論的な考え,同 情的な考えに偏せずに子どもたちに意見を求めたい です。(Y) ・比較優位を強者の論理とせず,どんどん変化するも のととらえる発想が新鮮に感じた。これまで比較優 位を固定的にとらえて,悪い印象をもっていたのだ と強く感じた。一次産品中心の国を,どう比較優位 を育ててゆくか,その主体となるのは国家なのか, 流動的にするには多様な選択肢が必要であるし,そ の基盤を作るのが困難なのかなと感じた。(N) ・去年から「もしドラ」という書籍が人気を博してい て,ドラッカーの難しそうな本の内容を女子高生野 球部マネージャーが野球部の運営に活かしていると いう話だが,今日の経済学の集中講義は,自分に とってそんな感じに理解できたと思う。日常という 人生に活かすような「希少性」や「機会費用」など の考え方をもとに,これからの自分の人生を設計し たいと思いました。…今日の経済学の出会いをきっ かけに,せっかく興味が沸いたので,これから自分 で積極的に経済学を学んでいこうと思います。もっ と本を読み,旅をする必要を感じました。(Y) ・金融と為替のところが理解できませんでした。また, 数学がでてきたところもダメでした。ただ,機会費 用から比較優位を考えるところは理解でき,少し救 われた気分になりました。前回の講義が終わってか ら,『マンキュー入門経済学』を読み始めたのです が,経済ってこんなに面白いのかという気付くこと ができました。…この授業で経済を身近なものから 考えられると知り,経済への苦手意識が少し解消さ れつつあります。(T) ・…税金と社会体制の部分の話をもう少し詳しく知り たかったです。…社会体制と密接に関わっている, 政治と関わっているという観点で,税はじめ経済を みてゆくということが「社会科」の教師としては, 興味深いものがあります。…教育とは,内容そして 教員の人柄に大きく左右されるということです。内 容はともかく,自分の関心や,教員の人格などはと ても主観的なものであると思います。もちろん,主 観の恣意性をできるだけ排除していければと思いま すが,それを可能にするのも,このような出発点が あるからなのかもしれません。(O) ・乗数理論で,「消費が経済発展につながる」という のは,まさに社会的ディレンマだと思います。多く の人がその言葉を信じ,行動すればよい結果に導く かもしれないけれど,個人の貯蓄は限りなく 0 に近 くなります。信用させる様々な証拠が必要になるで しょう。二項ないしは,数項の対立,時には協調が 経済のあらゆる場面に存在していることが再確認で きました。…比較優位は時代によって代わり,現在 日本はアメリカに対して比較優位な側面があるのだ ろうかと少し不安を覚えました。(S) ・最後の経済発展のモデルを自学で深めたいと考えて います。外国間の資金の流れが特に印象的でした。 (T) ・経済学の理論が自分たちの生活と密接に結びついて いることに気付いた。逆に経済は,人々の思惑や行 動によって変わってゆくものであるということを理 解できた。時代の流れを読み,先人たちが気付きあ げてきた理論を用いて,次の時代の流れを読んでゆ くことができる生徒を育てたいと思うようになった。

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…,経済学の理論をなんとか野球指導に応用してゆ けたらおもしろいなと考えています。(K) ・所得倍増の原理が数学的に説明されていました。正 直ほとんど理解できなかったです。実際の教育現場 ではどのように扱うべきか,もし可能ならば数学科 との協力などもあれば,合科的に教えられるかとも 思いました。これから経済を教える上で,または社 会科を経済的視点でとらえなおし,教える上で参考 になりました。(W) ・金融の箇所が,抽象的な概念や専門用語が多かった ために,理解が難しいと感じました。自分で株など に手をだしてみれば理解が進むかともおもうのです が,「高い授業料」を払ってしまいそうで,二の足 を踏んでしまいます。ビアスの『悪魔の事典』に, 「知り合い:カネを借りるほどには知っているが, 金を貸すほどには知らない人」という記述がありま したが,今回の信用に関する話を聞いて,人間関係 に関する直感のようなものが,金融にも反映されて いると感じ,興味深かったです。(K) 【コメント】  本報告のテーマの回答になるような感想が多く寄せ られた。この感想や意見をもとに経済に強い,もしく は経済を忌避しない教員を育てるヒントが詰まってい る感想であろう。 4.受講の結果  受講生の理解を確認するために,「ミクロ問題」と 「マクロ問題」を課題にしている。紙数の関係で「ミ クロ問題」に関して結果を示す。受講生 16 名のうち, 昨年受講した 4 名を除いて 12 名の数字である。また, 二回目のリアペではアンケートをとって,達成度の主 観的評価をしてもらったのでその結果も示す。 ①「ミクロ問題」に関して  最高 27 点(2 名)〜 14 点まで   平均 21.3 点(正答率 71%) ②アンケート a)この講義の内容で何とかおしえられますか?  なんとかなりそう 6 これではまだだめ 5  その他無回答など 5 b)経済学と経済教育のギャップを埋めるアイディア は?(複数回答可)  もう少し経済学の講義を増やす(必修化など) 9  教員志望向けの経済学の教科書を使った授業 10  中高の教科書を読み解くような講義     5  その他 2 【コメント】  この数字はきわめて興味深い。①は自習での課題提 出なので,あくまで参考であるが,ミクロ経済学の難 問を除くと,基本的な概念はほぼ理解していることが 伺える結果である。②の a)も興味深い。この講義程 度の時間と内容では,経済を教える自信を付けるまで にはゆかないことがはっきり出ている。しかし(3) での感想を踏まえると,これから自学自習をしてゆく 「インセンティブ」は与えることができたといえるか もしれない。②の b)での要望を制度的に生かすこと ができるようになることが課題であろう。

Ⅶ.課題とこれからの展望

 以上,2010 年度と 2011 年度の講義の紹介を通して テーマに迫ってみた。総括的にいえるのは,この講義 を受け持って,「教員養成コース向けの経済学」とい うものが必要であるということである。経済学に強く ならなくともよいが,少なくともほんのちょっと経済 学のエッセンスに触れることで教室における経済の授 業は大きく変わると思われる。  その成果と課題をまとめると以下のように整理でき よう。  第一は,とにかく社会科の教員になる人間に経済学 を必修にしなくてはいけないということである。経済 学か社会学で教職単位となるというのはどう考えても 不十分である。少なくとも公民科の教員は,経済学と の出会いをどこかでしておく必要がある。そのための 仕掛が必要である。ただし,これは文部行政と関連す るので今回のテーマとははずれる。  第二は,経済学をユーザーとして使う人間を対象と した講義であるべきだということである。講義のシラ バスにも触れているが,直接経済を教える「政治・経 済」の教員は別として,地歴の教員,倫理の教員にも 経済学が持っている前提,特有の人間像やその射程距 離が分かるような講義内容が必要となっているという ことである。その意味では,希少性や機会費用,需要 供給の法則,比較優位などの基本概念をしっかり講義 することで,他教科や異なる専攻の学生,院生にも一 定のインパクトを与える講義ができることが今回の体 験から浮かび上がる。  第三は,経済学の講義内容は,部分均衡分析の範囲 で良しとすべきである。市場経済の本質を理解するに は,限界分析,一般均衡分析まで進まなければいけな いのは承知の上であるが,それを限られた時間で理解

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させるのは至難である。だったら,ユーザーとしては, 部分均衡分析,余剰分析まででも十分ではないかとい うのが,今回の結論である。5)ただし,部分均衡分析 でも,死荷重の理解がなかなか難しいという声や乗数 理論の数学的な理解が難しいというアンケートから浮 かび上がっているように,重要事項は時間をかけて しっかり理解させることを心がける必要があろう。  第四は,経済史,経済地理学,経済倫理学など経済 学の周辺部分に配慮した講義にする必要があるという ことである。経済学の視点から歴史を,地理を,倫理 を見たらどのような世界が見えるか,どのように問題 の解決の道筋が見えるか,それを教育系学生に体験さ せておきたいのである。この点に関しては,今年 (2011 年)の夏に実施した経済教育ネットワークと東 京証券取引所の共催の「先生のための経済教室」で, 地歴分野を経済から読み解く講義が好評だったことか らも伺いえよう。  第五は,教室における体験的学習を見据えて,実験 経済学や行動経済学の知見,実験を取り入れるべきで あるということである。今回の講義でも,囚人のディ レンマゲーム,マネーサプライの実験など,簡単にで きる実験を組み入れた。それらのゲームや実験は,簡 単でかつ他教科でも応用がきく。例えば,マネーサプ ライ実験は,歴史でインフレを扱った箇所で実験をし てみると生徒の実感的な理解は深まるはずである。た とえ,授業時間いっぱいで講義式でやったとしても, 教える人間がその種の体験をしているか否かは大きく 講義のスタイルを決めてゆくはずである。そのような 汎用的なしかけも経済学の講義にいれてもよいはずで ある。  第六は,教育系学生向けのテキストが必要であると いうことである。中高の教科書を読み解く講義でもよ いが,そのときでも,経済学的にその部分をどう深め るか,構造を知った上で教科書を読み解くようなテキ ストがあると講義は効率的になる。また,独自に「先 生のための経済学教科書」が準備されても良いと思わ れる。発行部数など制約条件は多いが,そこを超える 経済的な知見が私たちに求められている。  最後に,学生に,これから経済学を学んでみようと いうインセンティブを与える講義こそが経済に強い教 員を作る最も大事ということではないだろうかという ことである。これは受講生の最後の感想から強く浮か び上がった事項である。6)教育系学生は,基本的にま じめ,意欲的である。内容も大事だが,経済の面白さ, 奥深さに触れさせるだけで,あとは自分で学んでゆく 可能性を持っている。学びの可能性を掘り当てる講義 こそが求められているといえよう。  いずれにしても,今回の講義を通して,今後の教員 養成と経済教育の課題が明確になった思いである。こ のような出会いが筑波大学から与えられたことを感謝 するとともに,今回であった院生諸君にも感謝したい。 また,今後もチャンスがあれば,この種の試みを続け, 「先生のたまごむけの経済学」の構築に役立てたいと 思う。 註 1) 新井明「教育系学生はなぜ経済がきらいか」(日本社会科 教育学会第 58 回全国大会自由研究発表,2008) 2) 2010 年度全国大会では「教員養成と経済教育」の分科会 が開かれ,教員養成系の経済学の問題点と現状に関して の報告,討論が行われた。その成果は,本学会誌『経済 教育』No.30 に掲載される予定である。 3) 学部段階の入門講義の問題とそれを超える試みに関して は,賀村進一氏の一連の報告がある。ただし,この実践 の試みは一般大学の経済学部,それも大規模講義での試 みであり,本報告のような教育学系,少人数,大学院生 向けというものとは対象がことなる。しかし,経済学に 対する考えや知識などは,大学院生といえどもそれほど 差はない面もあり,講義を進める上で参考になった。 4) テストは,山岡他編『経済リテラシーをたかめるための やさしい経済学入門』(早稲田大学アジア太平洋研究セン ター経済教育研究部会)のミクロ問題,マクロ問題を利 用した。このテストに関しての結果分析は,淺野,山岡 他「経済リテラシーに関する日米大学生の国際比較」 (『経済教育』No.26,経済教育学会,2007)にある 5) ただし,今回は 1 単位というきわめて制約が大きい講義 であった。2 単位講義であれば,限界分析,一般均衡まで は何とかなるのではとも考えられる。その点の判断は, 他の実践事例の検証など,もう少し考察が必要であろう。

参照

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