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大きなキャリア転換に関する探索的研究

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Academic year: 2021

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要旨  健康長寿化に伴い働く期間が長期化すると,キャリアのトランジション(転機)が増えることとなる。本 研究の目的は,キャリアを大きく転換させたビジネスパーソンのトランジションとそのプロセスを促進する 要因を明らかにすることである。仕事の「内容」・「環境」の 2 軸ともに変化させたビジネスパーソン 20 名に 非構造化インタビューを実施した。4 ステップコーディングによる質的データ分析方法にて分析を行った結 果,大きなキャリア転換の 3 つの過程と 4 つの行動特性からなる仮説群を抽出した。この結果は,人生 100 年仕事 50 年時代におけるビジネスパーソンのキャリア形成に,具体的な示唆を提示することができた。 キーワード:キャリア開発,トランジション,人生 100 年時代,キャリア・アンカー,キャリア・アダプ タビリティ

Ⅰ.はじめに

1.研究の背景  人生 100 年時代へ。人口学者の推計データによると, 2007 年に生まれた日本の子供の半数が到達する年齢 は 107 歳と推計されている1)。欧米諸国と比べても最 長である。過去 60 年間で平均寿命が 20 ~ 25 歳伸びた 実績からしても,多くの人が 100 歳まで生きる時代は ありえない話ではない2)  この変化は,経済社会システムに大きな影響を与え る。働くことに関する影響は,仕事をする期間が大幅 に延びることである。健康寿命が延びれば,70 歳代 まで働くことになる。日本企業の定年は 1980 年代ま では 55 歳,その後 60 歳に延長され,2013 年度以降は 65 歳となっている(再雇用制度含む)3)。さらに,70 歳まで働ける仕組作りを政府は目指す方向にある4) 人生は100年,仕事は50年,その時代はもう既に出現 している。  人生100年仕事50年時代において,人生は「教育→ 仕事→引退」の 3 ステージの単線モデルから,マルチ ステージ化する(Gratton,2016)。人生の選択が多様 化すると,ステージの移行期であるトランジション (転機)が増えることとなる。これまでは就職,転職, 引退等が主なトランジションだったが,これからはト ランジションの回数・質ともに変化する。人生 100 年 仕事 50 年時代においては,トランジションを乗り越 えるために,自分を変身させキャリアを転換する能 力・スキルが求められるようになる。 2.研究の目的  本研究では,キャリアを大きく転換させたビジネス パーソンのトランジション(転機)のプロセスとそれ を促進する要因を明らかにする。従って,本研究にお けるリサーチクエスチョンは,以下の 2 つである。  1)大きなキャリア転換は,どのようなプロセスで 進むのか  2)そのプロセスを促進(阻害)する行動特性は何 か  大きなキャリア転換とは,仕事の「内容」と「環境」 2 軸ともに変化させた事例を指す。これらの実践事例 はやや特殊であるかもしれない。しかし,人生 100 年 仕事 50 年時代におけるビジネスパーソンに対して,

大きなキャリア転換に関する

探索的研究

─ 20 人の実践事例からみたプロセスと

行動特性─

The Journal of Economic Education No.38, September, 2019

Exploratory study on career shift: Process and competency in light of twenty practical cases

HASEGAWA, Takeo

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具体的な示唆を提供できるのではないかと考えた。

Ⅱ.先行研究

 トランジションに関する学説は,キャリア研究に先 立つ生涯発達心理学に見られる。レビンソンは生涯に わたる発達過程において,安定期と移行期が繰り返さ れ る と 主 張 し た(Levinsonetal.1978)。 シ ュ ロ ス バークらは,トランジションをその人独自の出来事と して捉え,そのプロセスを転機の始まり(Moving In), 転 機 の 最 中: ど っ ち つ か ず の 状 態(Moving Through),転機の終わり(MovingOut)の 3 つに整 理している(Goodmanetal.2006,渡辺 2007)。  ビジネスパーソンのトランジションに注目した研究 では,ニコルソンがミドルとシニアマネジャーの転職 事例から,準備(preparation),遭遇(encounter),順 応(adjustment),安定化(stabilization)の 4 段階から なるトランジション・サイクル・モデルを提示してい る(NicholsonandWest1988)。また,イバーラは大き なキャリア・チェンジの過程に注目し,40 歳前後の 39 名への詳細なインタビュー調査を実施した。その結果, アイデンティティを確立する過程(「将来の自己像を探 る」→「新旧のアイデンティティの間にとどまる」→ 「大きな変化の基盤を築く」)と,その方法(「さまざま なことを試みる」,「人間関係を変える」,「深く理解し 納得する」)を提示した(Ibarra2003)。  このような研究の背景には,米国の 1980 年代以降 の産業構造の変革がある。激しい環境変化に伴い,従 前の組織依存的キャリア形成から自己志向的なキャリ ア構築が求められるとして,ホールは「プロティアン (変幻自在の)・キャリア」の概念を提唱した(Hall 1998)。これからのキャリア構築には,アイデンティ ティ(普遍性)とアダプタビリティ(時代性),2 つの メタ・コンピテンシーが必要であるとの主張である。  欧米では,キャリア転換の研究は進みつつある。し かし,日本のビジネスパーソンを対象にした調査は少 ない。この研究では,大きくキャリアを転換した日本 のビジネスパーソンを対象に,そのトランジションの プロセスとそのプロセスを促進する行動特性を抽出す る。

Ⅲ.調査の概要と分析の方法

1.調査対象者  仕事の「内容」と「環境」2 軸ともに変化させたビ No 年齢 性 学歴 転換後 転換後 1 A 50 代 男 大学 製造業部長 山伏 2 B 50 代 女 大学院 キャビンアテンダント 企業人事→起業 3 C 60 代 女 大学院 専業主婦 大学教授 4 D 50 代 女 大学院 薬学部→ SE 人材育成 5 E 50 代 男 大学院 中央官庁官僚 企業経営+市議 6 F 30 代 男 大学院 設計技術者 経営コンサル 7 G 40 代 男 大学 会計士目指す→商社 起業(採用支援+保育園) 8 H 40 代 男 大学 会計事務所 税理士+落語家 9 I 40 代 男 大学院 研究開発者 起業(人材育成) 10 J 60 代 男 大学 製造業事業部長 海外現法経営(ソフト開発) 11 K 50 代 男 大学 TV アナウンサー 福祉施設施設長 12 L 30 代 男 大学中退 プロ野球選手 起業 13 M 50 代 男 大学 工業大学→美術大学 SE 会社役員 14 N 30 代 男 大学 アパレル→不動産管理 海外留学→起業 15 O 40 代 男 専門学校 針灸・柔道整復師 ファイヤーダンサー 16 P 40 代 男 大学 人材サービス 不動産→起業 17 Q 50 代 男 大学 金融 海外現地法人経営→起業 18 R 40 代 女 大学院 出版社 英語教育+ボランティア 19 S 50 代 男 大学 携帯販売→起業失敗 通信会社→起業 20 T 30 代 男 大学 半導体研究 歌手→起業 表 1 調査対象者一覧

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ジネスパーソンを機縁法で集めた。インタビュー対象 者は 20 名。大企業の部長から山伏に,キャビンアテ ンダントから企業人事へ,アナウンサーから福祉施設 へ,専業主婦から大学教授へ,職種も変化の度合いも 様々である(表 1)。仕事の「内容」と「環境」2 軸と も変化させたとは,社会に出て最初に就いた仕事(図 1左上象限)から,直接右下象限に,もしくは,右上 左下の象限を経由し最終的に右下象限にキャリアを転 換させたことを指す。以後,これをキャリア・シフト と呼ぶ。調査対象者の年齢は 32 歳から 66 歳,多い年 代は 50 代(8 名),40 代(6 名)であった。性別は, 男性 16 名女性 4 名である。 2.調査方法  2017 年 11 月から 2018 年 8 月にかけて半構造化面接 によるインタビュー調査を実施した。面談時間は 1 時 間 20 分から 2 時間,平均すると 1 時間半程度であった。 骨格となる質問項目は以下の通りである。 (主な質問項目) ・これまでを振り返り,キャリア上の大きな転機(節 目)となる出来事を 3 つ程度挙げてください。 ・それは,いつ,どのような出来事でしたか。 ・その時,どのような思いで,どのような行動をとり ましたか。 ・その結果どうなりましたか。その転機から何を学び ましたか。 3.分析方法  インタビュー内容はほとんどの場合録音をし,4 ス テップコーディングによる質的データ分析方法(大谷 2007)にてデータ収集と分析を行った。

Ⅳ.分析の結果と考察

 インタビューのテキストデータを 4 ステップでコー ディングし,そのテーマと構成概念を紡いでストー リーラインと仮説を記述する分析を行った。その結果, 3 つのプロセスとプロセスを促進する 4 つの行動特性 からなる仮説群を抽出した(図 3)。以下,その概要 について述べる。 1.キャリア・シフトの 3 つのプロセス (1)自分らしさを内省する(内省 Reflection)  この過程は,20 名すべての対象者に共通する。し かし,内省のきっかけは様々であった。その全体像を, 「外発─内発」「ポジティブネガティブ」の 2 軸で整 理した(図 2)。  外発的に起きるネガティブな事象(病気,メンタル ヘルス,東日本大震災等),内発的に起きるネガティ ブな事象(仕事への違和感,やりたいことと現実との 葛藤等)が内省のきっかけとなっていた。一方,ネガ ティブな事象だけとは限らない。外発的なポジティブ 事象(子供の進学,社内勉強会等)や内発的なポジ ティブ事限(コーチング,キャリアカウンセリング 等)が契機となったケースもあった。  内省するきっかけは様々であったが,内省する内容 の共通性は高い。対象者は,トランジションの過程で 以下の問いを自問自答していた。シャインが提唱した 「 キ ャ リ ア・ ア ン カ ー」 の 概 念 と ほ ぼ 一 致 す る (Schein1978)。  1)自分は一体何がしたいのか?(ビジョン)  2)自分は何が持ち味なのか?強みなのか?(強み)  3)自分は働くうえでどんな価値観を大切にしてい るのか(価値観)  4)自分は一体何のために働いているのか?(目的) (2)試す,一歩踏み出す,行動する(試行 Trial)  キャリアを大きく転換させてきた対象者は,内面を 内省するだけではない。試す,一歩踏み出す,行動す る。対象者すべてに共通した過程である。しかし,そ の最初の一歩は様々であった。 図 1 キャリア転換の分類 既 新 既 (同業界同業務への)転職,社内異動 (同業界異業務への)転職,社内異動 新 (異業界同業務への) 転職,社内異動 (同業界での)起業・独立 (同業務の)兼業・副業 (異業界異業務への) 転職,社内異動 (異業界での)起業・独立 (異業務の)兼業・副業 仕事内容 仕事の環境・形態

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 大手製造業の部長から山伏になった A さんは,過 労入院,退院,3.11,休職,復職を経て退職した。そ して,放浪の旅に出る。I さんは,転職のキャリアカ ウンセリングで,何をしたいのか?と問われたが,何 も答えられなかったことをきっかけに,米国メジャー リーグ運営の野球学校へと渡米した。  行動するとは,このような劇的な決断だけを指すの ではない。自分の方向性や自分らしさを言語化し,そ こに向かって小さな一歩を踏み出す。とりあえずやっ てみる,まず試してみるという感覚で,目の前の一歩 を踏み出すケースも多い。  C さんは専業主婦から大学教授へとキャリアをシフ トした。新卒入社した企業で社長秘書を 3 年間務めた 後,結婚退職し専業主婦となった。41 歳の時,次女 の中学進学を機にパートに出ようと考える。近所の スーパーで働こうと思っていたが,二人の娘に「ママ には絶対向かない」と言われる。自分でも薄々そう 思っていたので,何をしようかと悩んだ。「秘書の経 験」,「夕方には家に戻れる」,「教えるのは好き」,こ の条件を満たすパートを考えていた時,ビジネス専門 学校の講師が思い浮かんだ。すぐに,電話帳で家から 通える専門学校を探し,横浜に 2 校あることを知った。 そして,その 2 校に電話した。生徒が増えている時代 で講師を必要としていたらしく,そのうちの 1 校で秘 書業務や秘書検定について教える非常勤講師となった。 この一歩がきっかけとなり,やがて 54 歳の時に大学 教授となる。40 代の専業主婦に講師は無理だと諦め ていたら,また,電話帳で探した専門学校に躊躇して 電話していなかったら,キャリア・シフトは起きてい なかった。  キャリア開発(教育)では,どうなりたいのかとビ ジョンを描き,目標を設定し,行動計画に落とし込む ことを重視する傾向がある。しかし,調査対象者 20 名中,今の仕事を思い描き,計画を立て実行してきた 計画派は 1 名だけである。キャリア・シフトした対象 者のインタビュー調査から見えてきたものは,自分の 時間とエネルギーを,思考ではなく行動に,計画では なく試行に注力している姿であった。 (3)学ぶ,出会う,つながる(遭遇 Encounter)  キャリア・シフトを遂げた対象者は,問いを立て, 行動で答えていく。その後のプロセスでは,対象者は 何をしているのか。続く過程では,新たな経験から学 び,新たな人と出会い,新たな仕事へとつながってい く。  K さんは TV アナウンサーから 50 歳を過ぎて福祉施 設の施設長に転身した。ライフワークが福祉になって いくきっかけは,初任配属地の地方局での出来事で あった。 ネタが入ってくるようであれば,何でもよかったん です。でも必然だなって思うのは,記者っていうの は記者クラブっていうのを持っていて,政治経済, 行政,事件事故(略)こういう分野で一旗あげて東 京に行くっていうのが普通なんですね。福祉は担当 の人がいないわけじゃないんですけど,正直真剣に はやってないんですね。そういう意味じゃ,必然 性っていうか,ぼくの提案が通るエアポケットみた いなところだったんです。(略)だからと言って, 福祉をライフワークにしようと思っていたわけでは ないです。通るネタがあったら,正直何でもよかっ たんです。ただ,福祉のネタが通るネタだったので。 図 2 内省を引き起こす契機 ・病気,過労,大けが ・心の病,精神的疲労 ・東日本大震災 ・不本意な異動 ・親の意向との葛藤 ・子供時代の体験 ・子供の成長,進学 ・社内の勉強会 ・配偶者の海外転勤 ・仕事への違和感,モ ヤモヤ ・やりたいことと現実 との悶絶葛藤 ・不登校,引きこもり ・コーチング ・転職カウンセリング ・本 ・大学時代,放浪時代 外発・外因 内発・内因 ネガティブ ポジティブ

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環境としては必然ですが,僕にとっては偶然です。 自ら志望していたわけではないので。  「環境としては必然ですが,僕にとっては偶然です」 というフレーズは,とても印象的である。地元ボラン ティア協会の祭りの司会が,福祉との初めての関わり であった。この仕事から,キャリア・シフトが始まっ ていく。初任地で偶然福祉との接点を持つ。そこから つながりができて,福祉をテーマとしたその後の番組 作りにつながっていく。自分の目の前のことに一所懸 命取り組む。そして,そこからつながった次の仕事も 一所懸命やる。その一つひとつの仕事や人との出会い はまったくの偶然であるが,ある時これまでを振り 返ってみると,あたかも必然の出来事のように見えて くる。このような発言は,K さんだけでなく,他の対 象者からも複数聞かれた。  キャリア・シフトは,「内省する(内省)」→「試す, 一歩踏み出す(試行)」→「学ぶ,出会う,つながる (遭遇)」の 3 つの過程で進んでいく。一人ひとりのエ ピソードの個別性は高いが,3 つのプロセスは共通し ていた。  プロセスに注目してインタビューデータを分析した 結果,プロセスを促進する行動特性も浮かび上がって きた。ここからは,キャリア・シフトを促進する 4 つ の行動特性について述べる。これらの行動特性は 20 名の対象者すべてに共通したものではない。多くの対 象者に共通してみられたプロセスの促進要因である。 2.キャリア・シフトを促進する 4 つの行動特 性 (1)機会にオープンマインドである  B さんは,キャビンアテンダント(以下 CA)を経 て,企業の人事部門で働き,現在は東京と地方をつな ぐ仕事で起業している。B さんが CA になったきっか けは,大学 4 年の春友人との会話であった。「今日, (航空会社)の会社説明会があるんだけど,一緒に行 かない?」と学食で誘われる。「暇だし,面白そうだ から行ってみようかな」と軽い気持ちで参加する。当 時 CA になろうと思っていた訳ではなかったが,説明 会に行ったら,「海外に行ける仕事は楽しそう」と思 い,応募してみた。結果は,CA になりたくて予備校 に通っていた友人が不合格になり,B さんは合格した。 その日学食で友人に会わなかったら,その誘いをあま り興味が無いからと断っていたら,当然 CA にはなっ ていない。些細な決断が自分の可能性を広げていく。  キャリア・シフトを遂げた対象者は,新たな機会, 人との出会いに対して好奇心が強く,オープンマイン ドである。決して「それ,ムリムリ」という感じで新 たな機会や出会いに心を閉ざしていない。 (2)根拠のない自信(自己効力感)を持っている  キャリア・シフトした対象者は,根拠のない自信を 持っている。「なんかできそうな気がした。根拠はな いけど……」,このフレーズはインタビュー中何度も 聞いた。根拠のない自信は最頻出ワードである。  L さんは,プロ野球引退後すぐに起業した。L さん は甲子園にも出場し,社会人野球を経てドラフト 5 位 でプロ入りした。プロとして 9 年間在籍し,一軍で 86 図 3 キャリア・シフト 3 つのプロセスと 4 つの行動特性 自分らしさを 内省する (内省) 学ぶ,出会う, つながる (遭遇) 試す,一歩踏み 出す,行動する (試行) プロセスを促進する行動特性 1.機会にオープンマインドである 2.根拠のない自信(自己効力感)を持っている 3.内なる言葉に耳を傾ける 4.「OR」ではなく「AND」で発送し,行動する

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試合に登板した。プロ野球選手は,一部の活躍した選 手を除くと,引退後保険会社や不動産会社で営業する か,飲食業に転身するか,球団職員として働くケース が多いそうである。プロ野球選手から起業へ,異色の 変身を遂げているのは珍しい。 根拠はないんですけど,自信はありました。野球選 手になったのも,始めた時は小 6 だったんですけど, その時からなれるもんだと思ってました,ずう~っ と。根拠はなんですけど,ずっとなるんだって思っ てました。だから,プロ野球選手になった時に,思 い続けることが大切だと思いましたし,根拠のない 自信はホント大事で,最初はこれやりたい,あれや りたいでいいんです。  L さんだけではなく,調査対象者 20 名中 11 名が, 「なんかできそうな気がした」と語った。キャリア・ シフトした対象者は,根拠のない自信(自己効力感) を持っている。 (3)内なる言葉に耳を傾ける  キャリア・シフトした対象者は,内省した際に言語 化された言葉を信じ,行動に移している。会計事務所 勤務から独立し,税理士事務所を経営している H さ ん。現在は落語家を複業として,セミナーで相続など を織り交ぜた落語を行っている。H さんが会計事務所 を辞めて独立したきっかけは,事務所社長とのやりと りであった。当時,会計士の仕事をしながら,セミ ナーや新規事業の企画も担当していた。 それをやってたんですが,うまくいかず,芽が出ず というか,次のステップを見つけられないなか, (社長に)「どうしたらいいですかね」って話をした ら,「お前は,要はオレのコピーロボットみたいな 感じで動けばいいんだよ」って,アドバイスをも らったんですね。要は社長の頭で動けってことだと 思うんですが,ぼくは違うように受け取っちゃった んですね。「コピーか,なんかつまんないな」って 思っちゃったんですね,その時に。私の特性として オリジナリティっていうか,オリジナルを求めるタ イプなんだって何となく気付いたんですね,その時 に。で,「あっ,辞めよ」って思ったんです。  自分の大切にしている価値観と,その価値観を活か せない仕事・職場に気付いた瞬間である。自分の内な る声に耳を傾けることは大切である。しかし,多くの 人は自分の内なる声にフタをしてしまう。本当は自分 のやりたいことに気付いているのに,また,自分の大 切にしている価値観に気付いているのに,様々な理屈 をつけて自分の内なる声にフタをしてしまう。今回の 対象者は,内省した際に言語化された言葉に耳を傾け, 最後にはそれに従い,行動に移している。 (4)「OR」ではなく「AND」で発想し,行動する  キャリア・シフトした人は,いつかこんなことをし てみたいと遠い未来のビジョンを描きつつ,目の前の 仕事にしっかりと取り組んでいる。未来を大切にしつ つ,今も大切にしている。また,楽観的だけれども悲 観的なところもある。未来と現在,楽観と悲観,それ ぞれをうまく統合させている。  現在,中小企業の採用支援や保育園を経営している G さんは,楽観と悲観が程よく統合されている。G さ んは,大学卒業後会計士を目指すが 3 年で断念し,地 元の貿易商社に入社した。本当は商社マン(営業)に なりたかったが,会計の勉強をしていたので,経理部 へ配属される。その後 34 歳の時に,地元中小企業の 採用支援をする会社を起業した。G さんはいつも明る く前向きな経営者であるが,いつも最悪のことを考え ていると言う。創業すぐの頃,「お客さんがつかな かったら,どうしよう」と考えながらも,一方で「何 とかなる」とも思っていた。今でも,商売がうまくい かなかったらどうしようと考える時があると言う。で も,「人一倍努力をすれば何とかなる」,「最悪倒産し ても中小企業の管理部長だったら雇ってもらえる」と 信じている。  キャリア・シフトを遂げた対象者は,未来と現在, 楽観と悲観,戦略と実行,変化と安定等の相反する事 柄を,「OR」ではなく「AND」で発想し,行動に移 している。

Ⅴ.本件の限界と今後の課題

 本稿では,大きなキャリア転換を遂げた 20 人のビ ジネスパーソンにインタビューを行い,そのトランジ ションのプロセスとそれを促進する行動特性を明らか にしてきた。しかし,事例数の少なさから一般化する ことはできない。また,大きなキャリア転換(キャリ ア・シフト)の定義もやや不明瞭である。今後は,調 査事例数を増やし,論証を重ねる必要がある。 謝辞:本研究において,インタビュー調査を快く引き

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受けてくださり,貴重なエピソードをお聞かせいただ きました皆様,そして,インタビュー対象者をご紹介 いただきました皆様に,心より感謝申し上げます。 註 1) HumanMortalityDatabase,U.C.Berkeley(USA)and MaxPlanckInstituteforDemographicResearch(Germa-ny) 2) 厚生労働省「平成 29 年度簡易生命表 参考資料 2 主な年 齢の平均余命の年次推移」 3) 浅尾裕「日本における高年齢者雇用及び関連する諸制度 の推移と課題」『第 14 回日韓ワークショップ報告書高齢 者雇用問題:日韓比較』労働政策研究・研修機構,2014 年 9 月 4) 日本経済新聞「70 歳雇用へ企業に数値目標 政府,計画 義務付け検討」2018/10/19 付電子版 参考文献 [1] Goodman,J.,Schlossberg,N.K.,Mary,L.,Anderson,Coun︲ seling adults in transition:Linking practice with theory(3rd

ed.),2006

[2] Gratton,LyndaandAndrewScott,The 100-Year Life

BloomsburyInformationLtd,2016( 池 村 千 秋 訳『 ラ イ フ・シフト』東洋経済新報社,2016)

[3] Hall,DouglasT.andJ.E.Moss“TheNewProteanCareer Contract:HelpingOrganizationsandEmployeesAdapt.” Organizational Dynamics,Vol.26,Winter,pp.22-37,1998 [4] Ibarra,Herminia,Working Identity: Unconventional Strat︲

egies for Reinventing Your Career, Harvard Business SchoolPress,2003(宮田貴子訳『ハーバード流キャリア・ チェンジ術』翔泳社,2003)

[5] Levinson,DanielJ.etal.The Seasons’s of a Man’s Life, BallantineBooks,1978(南博『ライフサイクルの心理学 (上)(下)』講談社学術文庫,1992)

[6] Nicholson, Nigel and Michael West Managerial Job Change: Men and Women in Transition,CambridgeUni-versityPress,1988

[7] 大谷尚「4 ステップコーディングによる質的データ分析手 法 SCAT の提案」『名古屋大学大学院教育発達科学研究 科紀要』第 54 巻第 2 号 2007pp.27-44

[8] Schein, Edgar H., Career Dynamics, Addison-Wesley, 1978(二村敏子・三善勝代訳『キャリア・ダイナミクス』 白桃書房,1991)

[9] 渡辺三枝子編著『新版キャリアの心理学』ナカニシヤ出 版,2007

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