はじめに─小児医療の変化─ 小児領域の理学療法の歴史は古く,1966(昭和 41)年に理 学療法士及び作業療法士法が制定される以前から,ポリオ(旧 称小児麻痺)を対象に治療が行われてきた。理学療法士が誕生 する頃には,全国に肢体不自由施設が設置され,入所による理 学療法が行われていた。1965(昭和 40)年に国内初の国立小 児病院が開設し,小児医療の専門・高度化が進むとともに,肢 体不自由施設が再編され,1970 年後半(昭和 50 年代)から, 通院による理学療法を実施する医療機関(一般病院および大学 病院など)が増えてきたため,施設入所による理学療法の実施 は減少した1)。小児領域の理学療法のおもな対象はポリオから 脳性麻痺に変化し,容易に通院が可能となる交通事情の変化も あり,医療機関での小児領域の理学療法の実施は徐々に増えて きたものの,需要に応じきれなかった。そのような状況で,治 療頻度を確保しようと,理学療法の機関併用が一般化したた め,理学療法のおもな頻度は 1 ヵ月∼数ヵ月に 1 回という機関 が少なくなく,現状も大きくは変わっていない。 小児領域の理学療法の実施に大きな転換が訪れたのは,2005 (平成 17)年に厚生労働省等から政策通知された「小児科・産 科における医療資源の集約化・重点化の推進について」2)で あった。小児医療は医師不足による体制崩壊が現実味を帯びて いたなか,各都道府県において,小児科・産科の医療資源の集 約化・重点化計画を策定するよう通知された。各都道府県で ワーキンググループが設置され,1 次医療(初期医療:医院・ クリニック・夜間急病センター),2 次医療(入院・救急医療: 小児中核病院),3 次医療(高度医療:高次機能病院)の役割 を明確にし,計画が策定された。2 次医療を担当する小児中核 病院は,入院対応を必要とする 24 時間体制の小児救急医療を 実施し,特定分野に特化した小児医療や,必要に応じて新生児 医療も実施する「連携強化病院」として,2 次医療圏に指定さ れた。3 次医療を担当する高次機能病院は,小児疾患の重症例 に対応するために高次機能を有し,高度な小児医療を行う新生 児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit:以下,NICU) および小児集中治療室(Pediatric Intensive Care Unit:以下,
PICU)が設置された大学病院およびこども病院が 3 次医療圏 に指定された。小児医療の集約化と時を近くして,NICU 病床 の不足が社会問題化し,2007(平成 19)年に厚生労働省から 報告された実態調査の結果3)から,小児中核病院での地域周 産期母子医療センター,高次機能病院での総合周産期母子医療 センターの整備が急速に進んだ。 小児医療の集約化,NICU および PICU の整備の結果,理学 療法の対象となる小児患者が小児中核病院・高次機能病院で増 加したと思われる。従来,小児領域の理学療法は,おもに医療 型障害児入所施設(旧称肢体不自由児施設)で行われてきた。 小児中核病院・高次機能病院での 1 機関あたりの小児患者は医 療型障害児入所施設に比し少ないが,医療機関の整備増加数を 加味すると,全国の小児中核病院・高次機能病院では,医療型 障害児入所施設に匹敵する数の小児患者に対応している可能性 が高い。さらに,NICU および PICU の整備により,小児患者 の理学療法の多くが医療機関から開始になっている。 その他の小児医療の変化として,新生児・乳児死亡率の低下 がある。日本における新生児死亡率(1.1%:平成 24 年)・乳 児死亡率(2.2%:平成 24 年)4)は世界最低水準となった。そ のため,重度な疾患を有する児も生存し,障害の重度化および 多様化が進んでいる。障害の重度化を示す例として,新生児期 より 1 年以上 NICU に長期入院している児(長期入院児)の増 加がある。NICU 病床の不足が社会問題化した背景には,長期 入院児の増加があり,全国で毎年新たに約 210 人ずつ発生し, 人工呼吸器管理や吸引,経管栄養などの医療的ケアが必要なた めに,毎年約 100 人が退院できない状況が報告されている5)。 また,治療・ケア技術の進歩により,障害を有する児・者の長 寿化も進んでいる。全国の入所している重症心身障害児・者の 平均年齢は 40 歳代で,50 歳代,60 歳代も増加している6)。小 児疾患の影響で成人以降も医療を必要とする患者が増加した ため,成人期以降も継続して診療をする体制のモデルとして 2002(平成 14)年に国立成育医療研究センターが開設された。 またその後も,小児医療と成人医療を統合する成育医療の機関 が地方でも誕生している。 小児領域の理学療法の現状 小児領域の障害には,身体障害(視覚・聴覚/言語・肢体不 自由・内部・重複),知的障害(知能指数 70 未満;精神遅滞・ ダウン症・18 トリソミーなど)(以上,児童福祉法:昭和 22 年施行),発達障害(広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害・
小児領域の理学療法の可能性と 10 年後
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木 原 秀 樹
**大会テーマ
*The Possibility of Physiotherapy of Pediatrics after Ten Years **
長野県立こども病院リハビリテーション科 (〒 390‒0851 長野県安曇野市豊科 3100)
Hideki Kihara, PT: Nagano Children’s Hospital Division of Rehabilitation
学習障害・協調運動障害)(以上,発達障害者支援法:平成 16 年施行)がある。身体障害には,肢体不自由(脳性まひ・脳血 管障害・脊髄性疾患・骨関節疾患・進行性筋萎縮性疾患・脊髄 損傷・切断・頭部外傷),内部障害(心臓機能障害,腎臓機能 障害,呼吸器機能障害,膀胱または直腸機能障害,小腸機能障 害)など,それぞれに詳細な疾患・障害が区分されている。 2012(平成 23)年における身体障害児・者実態調査7)では, 身体障害者手帳を有する 18 歳未満の児は 72,700 名(全所有者 の 1.9%),うち視覚障害 4,900 名(6.7%),肢体不自由 42,300 名(58.2%),内部障害 9,800 名(13.5%)であった。療育手帳 を有する 18 歳未満の児では,知的障害 151,900 名(全所有者 の 24.4%)であった。発達障害では,医師に発達障害と診断さ れたのは 136,100 名であった。しかし,文部科学省の調査結果 では,小中学校通常学級に在籍する 614,000 名(約 6.5%)が発 達障害(学習障害 4.5%・注意欠陥多動性障害 3.1%・高機能自 閉症 1.1%)の可能性があると報告された8)。発達障害には自 閉症スぺクトラム障害があり,その他の報告では,広汎性発達 障害 約 360,000 人,高機能広汎性発達障害 約 840,000 人ともい われている9)。 2007(平成 18)年における身体障害児・者実態調査10)で, 身体障害者手帳を有する 18 歳未満の児では,肢体不自由 1 級 61.7%,内部障害 1 級 49.3%であり,重度例が多い。肢体不自 由のうち原因疾患では,脳性まひ 47.5%,その他の脳神経疾患 5.6%,その他・不明 37.2%であった。内部障害のうち原因疾 患では,心臓疾患 59.9%,呼吸器疾患 1.4%であった。肢体不 自由を有する児 162 人の調査で,日常生活動作別にみた介助の 必要度(全部・一部介助)は,屋外移動 83.4%,入浴 79.6%, 排泄 77.3%,更衣 73.4%,食事 61.7%,屋内移動 50.0%,寝返 り 36.5%の順に多かった。必要と感じている福祉サービスな どは,手当などの経済的援助の充実 48.8%,医療費の負担軽減 44.4%,ショートステイ・ホームヘルプなど在宅福祉サービス の充実 43.8%,障害児が暮らしやすい住宅の整備 41.4%の順で 多かった。機能訓練等の専門的な早期訓練の実施 14.2%と低い 点は検証する必要がある。2012 年における身体障害児・者実 態調査(推計)7)で,身体障害者手帳を有する 0 ∼ 65 歳未満 の児・者 2,408 人の調査で,概ね 6 ヵ月以内に身体的または精 神的に具合の悪いところがあった者は 53.4%で,うち循環器系 31.5%,筋・骨格系 31.2%,精神・神経系 25.4%であった。生 活のしづらさが生じはじめた年齢は,50 ∼ 59 歳 21.4%,40 ∼ 49 歳 15.0%,0 ∼ 9 歳 13.7%の順に多かった。実際の日中の過 ごし方では,家庭内 42.9%,リハ 7.0%で,日中の過ごし方の 希望は,就業 57.9%,リハ 14.8%であった。医療的ケアを受け ている者は 13.2%で,うち経管栄養 17.9%,吸引 7.5%,導尿 7.5%,その他 67%であった。 小児医療および小児領域の障害の現状をみると,小児領域の 理学療法の可能性としてのキーワードは,①小児中核病院・ 高次機能病院での理学療法,② NICU・PICU(新生児・乳児) での急性期対応,③障害の重度化および多様化,④成育医療お よびコンディショニング(循環器系・筋骨格系),⑤内部障害 (心臓・呼吸器疾患)および生活習慣病予防,⑥知的・発達障 害,⑦日常生活動作・就業への波及効果および住環境調整と考 えられた。キーワード別に現状やエビデンスを検証した。 1.小児中核病院・高次機能病院での理学療法 小児中核病院での理学療法は,増加傾向にあると考えられ る。しかし,全国で小児領域の理学療法を実施している機関が どれだけあり,各機関で小児担当領域担当の理学療法士がどれ だけ配属されているのか実態調査がされていない。また,小児 中核病院・高次機能病院での 1 機関あたりの小児患者は医療型 障害児入所施設に比し少なく,小児領域担当の理学療法士が症 例経験を積むことは容易ではない環境11)での,小児専門機関 と小児中核病院での理学療法の効果検証はされていない。理学 療法士の一人ひとりの技術に治療効果が大きく影響されること は否めない12)。 2.NICU・PICU(新生児・乳児)での急性期対応 はじめての小児介入が NICU・PICU であるという理学療法 士が多く,医師・看護師からの NICU・PICU 介入ニーズに応 じきれていない。また,新生児期に障害が明確にならず,診療 報酬が請求しにくい。NICU での介入は返戻例もあり,サービ スで対応している病院もある。NICU では,早く小さく生まれ る児(早産児:在胎 37 週未満出生児)の多くが障害を有して いることがわかってきた。全国の総合周産期母子医療センター における極低出生体重児(1,500 g 未満出生児)(2003 ∼ 2007 年出生)の 3 歳予後は脳性まひ 8.2%,発達遅滞 16.0%であっ た13)。早産児に対する早期発達介入プログラムの効果につい て,システマティックレビューでは,早期発達介入プログラム は乳児期と幼児期の認知発達を改善するが,運動発達の改善は 小さいと報告している14)。理学療法のみの検証は少なく,極 低出生体重児の NICU 中のポジショニングが就学時の下肢の外 転・外旋角度に好影響を及ぼす15),極低出生体重児で発達促進 の理学療法実施群と非実施群で修正 4 ヵ月時の運動発達に差は なかったが,実施群では異常な運動発達を有する児はいなかっ たなどの報告がある16)。しかし,NICU からの理学療法実施で, 脳性まひや重症心身障害の軽減が図れたという報告は少ない。 PICU では,外傷・脳症・脳炎・急性呼吸不全などの多様な疾 患を扱う。急性脳症による後天性脳障害では,知的障害・高次 脳機能障害が多いとされ17),けいれん重積型急性脳症では,独 歩例がほとんどだが,歩容不安定性が持続した18)と報告して いる。PICU に入院対象となる症例の経過は徐々に明らかになっ ているが,理学療法のエビデンス蓄積が期待される。 3.障害の重度化および多様化 理学療法診療ガイドライン第 1 版19)では,脳性まひに対す る多くの評価指標・理学療法介入の推奨グレードとエビデンス レベルが掲載されている。推奨グレード A の脳性まひ評価指 標は,重症度評価の粗大運動能力分類システム(GMFCS),運 動機能評価の筋力・関節可動域の評価,形態評価の筋厚の評 価,運動能力および ADL 評価の粗大運動能力尺度(GMFM), 子どもの能力低下評価法(以下,PEDI),子どものための機能 的自立度評価法(以下,WeeFIM),生活の質および全般的な 健康状態を評価する尺度である PODCI,発達の評価の新版 K
式発達検査,デンバー式発達スクリーニング検査,新生児の評 価の自発運動評価(GMs)である。脳性まひの評価体系が確立 するきざしは見えてきた。推奨グレード A の脳性まひ理学療 法介入は,運動療法の筋力強化,補装具の短下肢装具,ハイリ スク新生児へのディベロップメンタルケアのポジショニングで ある。脳性まひにおける従来の理学療法介入のエビデンスはさ らなる蓄積が必要である。周産期医療の進歩に伴い典型的な脳 性まひは非常に少なくなっている12)。現在の臨床像に対応し た年齢・重症度別の介入の体系の確立が求められる。現在,小 児領域の理学療法では,脳性まひ以外に,脳血管障害・脊髄性 疾患・骨関節疾患・進行性筋萎縮性疾患・脊髄損傷・切断・頭 部外傷・知的障害・呼吸器機能障害の症例に対応している。臨 床では,脳性まひ以外の疾患・障害の方が対象数は多い。各疾 患・障害に対する評価指標・理学療法介入のエビデンスは脳性 まひほど盛んではなく,今後の蓄積が期待される。 4.成育医療およびコンディショニング(循環器系・筋骨格系) 障害を有する児・者の長寿化が進んでいる。脳性まひの場 合,成長や加齢に伴い運動能力が後退してくることがあり,小 児期の問題点に加えて成人期固有の問題がある20),精神・神 経系より,循環器系および筋・骨格系に身体の不具合を訴える 者が多い7),成人期の脳性まひの基礎体力,運動耐用能は低 く21‒23),身体的な疲労も大きい24)と報告されている。成人 期の脳性まひ,および各小児疾患・障害の障害像は明確でな い。また,脳性まひでは,成人期以降も身体機能を維持(コン ディショニング)するためには,循環器系,筋・骨格系への理 学療法介入がもっとも重要である。成人期での脳性まひ,およ び各小児疾患・障害の理学療法介入(心肺機能向上・ストレッ チ・運動療法など)の体系は確立されておらず,エビデンスの 蓄積もこれからである。脳性まひ以外の疾患・障害の成人期以 降の理学療法介入についてもエビデンスは少ないが,進行性筋 萎縮性疾患である筋ジストロフィーのエビデンス・調査は着実 に蓄積されている。デュシャンヌ型筋ジストロフィーにおい て,成人期に課題となっていた心肺機能の低下に対し,非侵襲 的換気療法の活用および徒手や機械による呼吸理学療法が効果 を示し25)26),生活の質や生命予後の改善に影響を及ぼした。 我が国初の小児病院が誕生して約 50 年が経つ。小児疾患の影 響で成人以降も医療を必要とする患者が増加しており,成人期 を見据えた,小児期の介入の体系を確立する必要がある。 5.内部障害(心臓・呼吸器疾患)および生活習慣病予防 内部障害では,心臓機能障害,呼吸器機能障害など,どの障 害も小児期・成人期の介入の実態が不明確である。また,高血 圧や高脂血症,糖尿病の背景には肥満があり,小児期からの予 防が大切である。小児肥満で理学療法士がかかわることはある が,生活習慣病予防としてのかかわりは薄い。生活習慣病予防 の小児期の理学療法介入は不明確であり,今後のかかわり方に ついて検討していく余地はある。内部障害の呼吸器機能障害の 適応になりうる気管支喘息は,我が国でも小児領域の理学療 法の対象として以前から実施されてきた27)28)。気管支喘息を 有する 8 歳以上の症例に対する理学的訓練の実施のシステマ ティックレビューでは,呼吸機能検査での効果は認めなかった が,最大酸素摂取量に有意な効果を認めた29)と報告している。 心臓機能障害の適応になりうる小児のおもな疾患は先天性心疾 患である。先天性心疾患は,1,000 人あたり 6 ∼ 10 人に発症す る頻度の高い疾患である。成長とともに自然に治癒する病態も 多いが,手術適応は 70%である。術式の開発や管理の高度化 で生存率は概ね 95%となり,成人先天性心疾患と呼ばれる成 育医療の対象者も毎年増加している。心血管疾患におけるリハ ビリテーションに関するガイドラインでは30),先天性心疾患 術後症例の運動療法は運動耐容能の増加,一回心拍出量の増加 をはじめ種々の改善が認められるとし,推奨グレード B を提 言し,重症疾患における至適かつ有効なプログラムの確立が急 務であるとしている。海外では多くの研究報告があるが,国内 での運動療法での介入報告は多くない。内部障害の介入は一部 の疾患・障害で,エビデンスの蓄積もこれからである。 6.知的・発達障害 療育手帳を有する 18 歳未満の児では,肢体不自由の約 3 倍 の知的障害を有する児がいる。知的障害では,精神運動発達遅 滞または運動発達遅滞として,乳児期に小児領域の理学療法の 対象となることが多い。知的障害は歩行獲得により理学療法介 入が終了となることが多く,歩行後の運動能力,肥満などの実 態が不明確である。知的障害はもっとも多い障害であるが,理 学療法介入は一部の対象および期間である。さらに,近年,乳 児期の運動発達の遅れは,単なる運動発達がゆっくりな状態で なく,それは発達障害リスクであることが認知されはじめてい る。臨床では,運動発達のみを評価し,発達全体が把握できず, 乳児期の精神と運動発達の関係および発達予後の評価が困難な 理学療法士も多いと思われる。発達の全体像の把握不足から, 発達予後のイメージがわかないまま理学療法介入していること があり,今後,精神・運動発達と発達障害の関係についてエビ デンスの蓄積が求められる。知的障害を有することが多いダウ ン症候群は,700 ∼ 1,000 人に 1 人の発生率で,新生児・乳児 期から理学療法の介入を行っている機関も多いが,早期からの 理学療法介入のエビデンスはない。システマティックレビュー では,トレッドミルを利用した理学療法介入で,歩行開始時期 が早まる可能性31),筋力強化やバランス能力の向上を示唆し ている32)。ダウン症候群も含む先天奇形症候群は,知的障害 を合併しやすく,数千種類以上あるといわれており,筆者が長 年小児専門病院に勤務していても,はじめてという症候群は稀 ではない。先天性奇形症候群の各発達予後と介入のエビデンス は蓄積が必要である。 7.日常生活動作・就業への波及効果および住環境調整 肢体不自由を有する児は,屋外移動,入浴,排泄,更衣など に介助を必要とすることが多く,そのため暮らしやすい住環境 整備のニーズも高い。理学療法介入が日常生活活動(Activities of Daily Living:以下,ADL)まで効果を及ぼしているか検証 するには,PEDI や weeFIM を用いた評価が必要である。理学 療法介入の検証で ADL をアウトカムにした報告は少なく,一 般化していない。脳性まひでのバクロフェン髄腔内投与後の
理学療法介入での PEDI の結果の有意な改善33),立位台での 立位保持での理学療法介入での介護者負担の軽減34)などが 報告されている。脳性まひの ADL のデータベースの蓄積は, 国立長寿医療研究センターの近藤らが「脳性麻痺児の日常生 活スキルの発達過程の層別化と詳細分析」で進めている。本 データベースの結果から,治療目標が示される項目地図(Item MAP)の情報が提供される予定であり,理学療法介入のアウ トカムを ADL にしやすくなると思われる。脳性まひ以外の疾 患・障害においても理学療法介入の検証で ADL をアウトカム にした報告はほとんどない。また住環境整備と介護度の関係の エビデンスの蓄積も必要である。成人期の ADL や就業を見据 えた,小児期からの介入は不十分であり,理学療法介入による アウトカムが ADL で一般化すると成人期の就業を見据えた, 小児期からの介入も期待できる。 小児領域の理学療法の課題と可能性 小児領域の理学療法は,特別な領域であるとみなされ,理学 療法の教育でも,小児実習を経験しない学生が増えている。臨 床においても,歴史が長い領域でありながら,理学療法介入の エビデンス蓄積は少なく,急速なエビデンスの蓄積が望まれ る。小児領域の理学療法は,小児専門機関以外で実施されるよ うになり,対象となる小児疾患も多様化し,対象年齢も新生児 期から成人期まで広がってきている。近年の小児医療および障 害構造の変化により,小児領域の理学療法の環境は大きく変わ り,課題は山積みの状態である。その分,小児領域の理学療法 は,大きな変化の可能性を秘めていると考える。 先にあげたキーワード別に,小児領域の理学療法の課題と 10 年後の目標を表 1 に示す。 10 年後を見据えた小児領域の理学療法の各課題の解決と理 学療法介入拡大に向けての重要項目について述べる。従来は, 表 1 キーワード別,小児領域の理学療法の可能性と 10 年後の目標 1.小児中核病院・高次機能病院での理学療法 <課題> ①小児中核・高次機能病院での小児領域の理学療法の実態が不明 ②症例経験を積むことが容易でない < 10 年後の目標> ①実態調査の実施と現状把握 ②基本的な小児領域の理学療法の研修会の充実 ③小児専門機関への臨床研修制度の設定 ④小児領域の理学療法の教育・実習の充実 ⑤小児領域の理学療法士の増員や専任化 ⑥医療機関特有の疾患・障害のエビデンスの蓄積 →小児中核・高次機能病院での小児領域の理学療法の専門性を高める 2.NICU・PICU(新生児・乳児)での急性期対応 <課題> ① NICU・PICU からの介入ニーズに対応できていない ② NICU 入院中に障害が明確にならず,診療報酬が請求しにくい ③ NICU・PICU からの早期介入のエビデンスの蓄積が不十分 < 10 年後の目標> ①実態調査の実施と現状把握 ② NICU・PICU からの理学療法介入の研修会の充実 ③ NICU からの介入の診療報酬制度の改定もしくは疑義解釈の明瞭化 ④ NICU・PICU からの理学療法介入のエビデンスの蓄積 → 全国の全地域・総合周産期母子医療センター,PICU 設置機関での 理学療法の実施 3.障害の多様化および重度化 <課題> ①脳性まひの評価体系が確立するきざしは見えてきた ②従来の治療方法のエビデンスの蓄積が必要 ③現在の障害像に対応した年齢・重症度別の介入の体系の確立 ④脳性まひ以外の疾患・障害の評価および介入の体系の確立 < 10 年後の目標> ①疾患・障害別のデータベースの構築 ②教育機関を中心に科学研究費の採択増加→エビデンスの蓄積 ③学会を中心に各疾患・障害のガイドライン・パスの作成 ④各疾患・障害の理学療法介入の研修会の充実 →各疾患・障害の基本的な評価・理学療法介入の一部の標準化 4.成育医療およびコンディショニング(循環器系・筋骨格系) <課題> ①成人期の脳性まひおよび各小児疾患・障害の障害像が明確でない ②成人期での介入の体系が確立されていない・エビデンス不足 ③成人期を見据えた,小児期の介入の体系も確立されていない < 10 年後の目標> ①成人期の理学療法介入の実態調査の実施と現状把握 3.の② ‒ ④ → 各小児疾患・障害の成人期の障害像を明確にし、理学療法介入を一 般化 5.内部障害(心臓・呼吸器疾患)および生活習慣病予防 <課題> ①内部障害の小児期・成人期の介入の実態が不明確 ②生活習慣病予防の小児期の理学療法介入が不明確 ③内部障害の介入は一部の疾患 / 障害のみ・エビデンス不足 < 10 年後の目標> 3.の② ‒ ④ → 小児期の内部障害および成人期以降の各疾患・障害像を明確にし, 理学療法介入を一般化 6.知的・発達障害 <課題> ①もっとも多い障害であるが,理学療法介入は一部の対象・期間 ②乳児期の精神と運動発達の関係と予後の評価困難 ③先天奇形症候群の各発達予後と介入のエビデンス不足 < 10 年後の目標> ①発達検査の研修会の充実 ②疾患・障害別のデータベースの構築 3.の② ‒ ④ →発達検査実施の一般化,乳児期からの発達障害リスクの発見可能 先天奇形症候群の疾患・障害別介入方法の確立 7.日常生活動作・就業への波及効果および住環境調整 <課題> ①理学療法介入の検証で ADL のアウトカムは一般化していない ②成人期 ADL や就業を見据えた,小児期からの介入が不十分 < 10 年後の目標> ①各疾患・障害の ADL 評価の研修の充実 ②脳性まひ ADL 評価のデータベースの構築 ③各疾患・障害に適した ADL 評価の開発 ④訪問リハの整備による住環境調整 →各疾患・障害の ADL 評価の標準化および実施を一般化
ひとつの機関で,小児疾患の患者を生涯フォローすることが多 かったが,現在は,ひとりの患者に多くの機関がかかわるよう になった。医療型障害児入所施設(旧称肢体不自由児施設), 小児中核病院・高次機能病院,保健センター,(医療型)児童 発達支援事業・センター(旧称児童デイサービス),特別支援 学校,地域活動支援センター・就労移行(継続)支援(旧称作 業所・デイ),訪問看護ステーション・訪問リハビリテーショ ンステーションなどがある。そのため,一人ひとりの患者の生 涯を通じたエビデンスを蓄積することが容易でなくなった。ま た,小児疾患・障害が多様になり,1 機関のみで,各疾患・障 害のエビデンスを蓄積することは困難である。そのため,小 児領域の理学療法のデータベース構築と活用は重要な目標で ある。 小児領域でも,訪問リハビリテーションの需要は拡大してお り,児童発達支援事業・センター,特別支援学校にも理学療法 士の配置や派遣が増えている。訪問リハビリテーションでは家 庭,児童発達支援事業・センターでは,保育所等訪問支援事業 で地域の幼稚園・保育園,特別支援学校では,センター機能と して地域の学校が理学療法介入の対象となり,より生活に身近 な場所での理学療法が展開されていく。ただ,理学療法士の配 置は他リハビリテーション職種に比べ少ない傾向にある。今 後,対外的にも対象障害の拡大と ADL をアウトカムとした理 学療法介入の効果を示していかなければ,小児領域の理学療法 の存在感は薄れる可能性があると危惧している。また,今後, 小児疾患を有する者の成人期をどこでフォローするのか,議論 していく必要もある。地域活動支援センターや就労移行(継続) 支援事業所での理学療法士の配置および派遣の増加が期待さ れる。 ひとりの患者を他機関に紹介する,もしくは並列でフォロー する場合の連携は重要である。長野県立こども病院では,2007 年から県監修の個別支援手帳による情報交換,2011 年から地 域医療再生基金事業によりリハビリテーションスタッフの臨床 研修の受け入れ,2013 年から小児等在宅医療連携拠点事業の 指定によりオンラインでの情報交換などを実施し,連携に努め ている。小児領域の理学療法には適さないとの声も多いと思わ れるが,最終的には,疾患・障害別の地域連携クリティカルパ スが必要と考える。 10 年後を見据えた小児領域の理学療法の重要項目を表 2 に 示す。普遍的な内容だが,これら項目の実施により,基本的な 評価・理学療法介入体系の標準化をめざし,10 年後には,ど の機関でも標準的な理学療法を提供でき,小児領域の理学療法 での対象の疾患・障害および年齢が拡大できると考える。それ が,患者にとって身近な地域で小児領域の理学療法が受けられ る環境づくりにつながることを期待する。 おわりに─命を支える─ 少子高齢化は現実にせまっており,14 歳以下の子供の数は 1,663 万人,総人口に占める割合は 12.8%で,先進 7 ヵ国の中 で最下位である(2014 年 4 月 1 日現在:総務省)。また,子供 の人口は 33 年連続減少しており,人口調査がはじまった 1950 年から 1,300 万人以上も減少している。子供の数は着実に減少 しており,障害を有する児が増加しているといわれつつも,小 児領域の理学療法の対象となる小児期の児もいずれ減少する 可能性が高い。さらに,2013 年 4 月から新出生前診断(妊婦 の血液で胎児の染色体異常を調べる)がはじまり,2014 年 3 月までに,検査集計 7,740 名のうち,陽性判定が 142 名で,う ち 3 胎児が確定診断前に中絶されている。羊水検査で確定し た 113 名のうち 110 名が中絶されている。国内でも障害の有無 で命が選別される時代となってきた。長野県の地元の新聞紙で は,「温かな手」という新出生前診断を題材に,命や障害と向 かい合う記事を 1 年間掲載していた。読者からは,障害者を育 てている家族の現実は深刻で「障害をひとつの個性としてとら える」,「そんなきれいな表現で片づけられない」,「すべての子 供たちは生まれるべくして生まれた意味ある素晴らしいもの」 などの意見が投稿されている。小児領域の理学療法にかかわる 者として,命に向き合う気持ち,生涯を支える思い(体制), まさしく「温かな手」で支援する気持ちをもつことが,より大 切な時代となると考えている。 文 献 1) 陣内一保:こどものリハビリテーション─序論,こどものリハビ リテーション医学(第 2 版).陣内一保,安藤徳彦,他(編),医 学書院,東京,1999,pp. 1‒11. 2) 厚生労働省,総務省,他:小児科・産科における医療資源の集 約化・重点化の推進について.医政発第 1222007 号,雇児発第 12222007 号,総財経第 422 号,17 文科高第 642 号.2005. 3) 厚生労働省:周産期医療ネットワークおよび NICU の後方支援に 関する実態調査の影響.2007. 4) 厚生労働省:平成 26 年我が国の人口動態統計 平成 24 年までの 動向.2014. 5) 田村正徳,楠田 聡,他:平成 21 年度厚生労働科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業「重症心身障害児に対する療養・療育環 境の拡充に関する総合研究」.平成 21 年度総括・分担研究報告書. 2010. 6) 佐々木征行:SMID データベース・システムからみた国立病院機構 の重症心身障害病棟の現状.日重障誌.2011; 36: 19‒25. 7) 厚生労働省:平成 23 年生活のしづらさなどに関する調査(全国在 宅障害児・者等実態調査).2013. 8) 文部科学省:通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別 な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査.2012. 9) 石井哲夫,太田昌孝,他:自閉症の手引き.社団法人日本自閉症 協会.1994. 10) 厚生労働省:平成 18 年身体障害児・者実態調査.2008. 11) 木原秀樹:小児リハビリテーション─乳幼児期における課題.理 学療法学.2013; 40: 44‒49. 12) 河村光俊,佐々木寛美:小児リハビリテーションの現状と課題. 理学療法学.2012; 39: 435‒439. 13) 河野由美:総合周産期母子医療センターにおけるフォローアップ 体制の整備 1.極低出生体重児の予後の現状と課題.厚生労働科 学研究「重症新生児のアウトカム改善に関する多施設共同研究」. 平成 24 年度研究報告書.2013.
14) Spittle A, Orton J, et al.: Early developmental intervention programs post hospital discharge to prevent motor and cognitive impairments in preterm infants. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 12: CD005495.
表 2 10 年後を見据えた小児領域の理学療法の重要項目
①小児領域データベースの構築と活用
②対象障害の拡大と ADL をアウトカムとした理学療法介入 ③疾患・障害別の地域連携クリティカルパスの構築
15) 木原秀樹,中村友彦,他:極低出生体重児のポジショニングが 長期的な下肢の発達に及ぼす影響.周産期新生児誌.2008; 44: 1159‒1163.
16) Cameron EC, Maehle V, et al.: The eff ects of an early physical therapy intervention for very preterm, very low birth weight infants: a randomized controlled clinical trial. Pediatr Phys Ther. 2005; 17: 107‒119. 17) 栗原まな,小萩沢利孝,他:急性脳症後遺症の検討.脳と発達. 2011; 43: 285‒290. 18) 杉浦千登勢,呉 博子,他:けいれん重積型急性脳症における神 経学的後遺症の長期経過.脳と発達.2013; 45: 294‒298. 19) 中 徹,大城昌平,他:9.脳性麻痺 理学療法ガイドライン, 理学療法診療ガイドライン(第 1 版).ガイドライン特別委員会 理学療法診療ガイドライン部会(編),社団法人日本理学療法士協 会,東京,2011,pp. 570‒730. 20) 中 徹:小児リハビリテーション─成人期における課題.理学 療法学.2013; 40: 214‒221.
21) Tobimatsu Y, Nakamura R, et al.: Cardiorespiratory endurance in people with cerebral palsy measured using an arm ergometer. Arch Phys Med Rehabil. 1998; 79: 991‒993.
22) Suzuki N, Oshimi Y, et al.: Exercise intensity based on heart rate while walking in spastic cerebral palsy. Bull Hosp Jt Dis. 2001; 60: 18‒22.
23) Johnson RK, Goran MI, et al.: Athetosis increases resting metabolic rate in adults with cerebral palsy. J Am Diet Assoc. 1996; 96: 145‒148.
24) Jahnsen R, Villien L, et al.: Fatigue in adults with cerebral palsy in Norway compared with the general population. Dev Med Child Neurol. 2003; 45: 296‒303.
25) Ishikawa Y, Bach JR, et al.: Cough augmentation in Duchenne muscular dystrophy. Am J Phys Med Rehabil. 2008; 87: 726‒730. 26) Kravitz RM: Airway clearance in Duchenne muscular dystrophy.
Pediatrics. 2009; 123: S231‒S235.
27) 黒島敬子,清水貴士,他:小児喘息発作に対する呼吸理学療法の 有用性の検討.日本小児アレルギー学会誌.2004; 2: 27‒31. 28) 佐藤咲子,横山美佐子,他:呼吸療法が小児気管支喘息に与える
影響.北里理学療法.2006; 9: 53‒56.
29) Carson KV, Chandratilleke MG, et al.: Physical training for asthma. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 9: CD001116. 30) 野原隆司,安達 仁,他:小児心疾患における運動療法─先天性
心疾患を中心に,心血管疾患におけるリハビリテーションに関す るガイドライン(2012 年改訂版),循環器病の診断と治療に関する ガイドライン(2011 年度合同研究班報告).2012,pp. 82‒86. 31) Valentin-Gudiol M, Bagur-Calafat C, et al.: Treadmill interventions
with partial body weight support in children under six years of age at risk of neuromotor delay: a report of a Cochrane systematic review and meta-analysis. Eur J Phys Rehabil Med. 2013; 49: 67‒91.
32) Li C, Chen S, et al.: Benefi ts of physical exercise intervention on fi tness of individuals with Down syndrome: a systematic review of randomized-controlled trials. Int J Rehabil Res. 2013; 36(3): 187‒195.
33) Awaad Y, Tayem H, et al.: Functional assessment following intrathecal baclofen therapy in children with spastic cerebral palsy. J Child Neurol. 2003; 18: 26‒34.
34) Gibson SK, Sprod JA, et al.: The use of standing frames for contracture management for nonmobile children with cerebral palsy. Int J Rehabil Res. 2009; 32: 316‒323.