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令和2年4月20日

名古屋大学大学院医学系研究科小児科学の髙橋 義行(責任著者)教授、村松 秀城講師、若松 学 (筆頭著者)大学院生、名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センターの奥野 友介病院講師らの研究 グ ル ー プ は 、 ま れ で 治 療 が 難 し い 小 児 白 血 病 で あ る 若 年 性 骨 髄 単 球 性 白 血 病 (juvenile

myelomonocytic leukemia; JMML)に対して、droplet digital PCR(ddPCR)※1を用いて、この病気の

進展や増悪に関わる SETBP1 と JAK3 遺伝子変異を高感度に測定し、微小なアリル頻度※2の変異が 予後不良と関連することを明らかにしました。 およそ90%の JMML 症例は、細胞の分化や増殖などのシグナル伝達にかかわる RAS 経路の 5 つの 遺伝子(PTPN11, NF1, NRAS, KRAS, CBL)のうち1 つの変異を持っていますが、最近の研究によ り、一部のJMML 症例では、SETBP1や JAK3など、ほかの遺伝子にも変異が認められ(セカンド ヒット)、白血病細胞の増殖や進展を促すことがわかってきました。 特殊なPCR 法である ddPCR 法は、従来法と異なり、非常にわずかなアリル頻度(~0.05%)の遺 伝子変異であっても高感度に測定・定量することが可能です。本研究グループは、このddPCR 法を用 いて、JMML 患者の初発時検体におけるSETBP1やJAK3遺伝子を解析しました。 JMML 患者 128 例のうち、ddPCR 法を用いて 19 例で 24 個のSETBP1・JAK3遺伝子変異を同定 しました。うち 9 個の変異で認められたアリル頻度は 1%未満であり、従来の次世代シーケンサーを 用いた高感度な方法でも検出することができない遺伝子変異でした。また、アリル頻度1%未満の変異 であっても、これらの変異を有する症例の治療成績は良くないことがわかりました。

SETBP1・JAK3遺伝子変異が見つかった19 例のうち 5 例は、SETBP1とJAK3遺伝子変異の両

方が検出されました。特殊な細胞培養法であるコロニーアッセイ※3を用いた解析により、興味深いこ とに、2 つの遺伝子変異を同時に有する白血病細胞が存在することがわかりました。 ddPCR 法を用いた今回の研究成果により、特に治すことが難しい JMML 患者を診断直後に見つけ だし、適切な治療へつなげることができることが期待されます。 本研究成果は、英国科学誌より発行されている科学誌『Leukemia』(英国時間 2020 年 4 月 20 日午 前1 時の電子版)に掲載されました。

droplet digital PCR を用いた

若年性骨髄単球性白血病の予後予測法を開発

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ポイント

○若年性骨髄単球性白血病(JMML)は、治療がとても難しい、珍しいタイプの小児白血病の一つ です。 ○特殊なPCR 法である droplet digital PCR(ddPCR)を用いて、JMML 患者が持っている、ご くわずかなSETBP1・JAK3遺伝子変異を同定することに成功しました。 ○ごくわずかであったとしても、これらの変異を認めるJMML 患者の治療成績はとりわけ不良で あり、今回の研究成果は、特に治療を強化するべきJMML 患者を見つけることに役立つと考え られます。

1.背景

若年性骨髄単球性白血病(juvenile myelomonocytic leukemia; JMML)は主に 5 歳未満の小児

に発生する予後の悪い白血病です。日本において年間20~30 例程度が発症し、通常の抗がん剤に

よる化学療法では十分な効果が得られないため、造血幹細胞移植が必要な白血病です。

JMML は、患者の約 90%で細胞の分化や増殖などのシグナル伝達に関わる RAS 経路の遺伝子

(例えば、PTPN11, NRAS, KRAS, NF1, CBL)に変異を認めます。JMML の一部で RAS 経路の

異常に加えてSETBP1やJAK3遺伝子の変異を認め、これらはRAS 経路の遺伝子変異に続いて起

こる、セカンドヒットとして腫瘍の増殖や進展に関わります。また、セカンドヒットを認めるJMML 患者では、認めない患者よりも予後が悪いことが示されています。JMML 患者のセカンドヒットの うち、最も頻度の高い遺伝子変異(ホットスポット)として、SETBP1 p.D868N 変異と JAK3 p.R657Q 変異※4があります。 最近、特殊なPCR 法である droplet digital PCR (ddPCR)法を用いて、微小なアリル頻度の変異 を高感度に測定し、定量できるようになりました。これまでにJMML において、SETBP1および JAK3遺伝子変異を同時にddPCR 法により高感度に評価した研究はなく、治療成績との関連も明 らかではありませんでした。

2.研究成果

本研究グループは、JMML 患者のホットスポット変異であるSETBP1 p.D868N 変異、および

JAK3 p.R657Q 変異を、ddPCR 法を用いて高感度に測定しました。SETBP1 とJAK3のddPCR

システムでは、0.05%(図 1;破線)以上のアリル頻度で変異を認める場合に、「変異あり」と判 断しました。 JMML 患者 128 例の解析を行い、SETBP1遺伝子変異を9 例(7.0%)とJAK3遺伝子変異を 15 例(11.7%)で検出しました(図 1)。同定したこれらのSETBP1とJAK3遺伝子変異のう ち、それぞれ3 例と 6 例が 1%未満の微小なアリル頻度の遺伝子変異で、これらは遺伝子配列を高 速に解読する次世代シーケンサーによる遺伝子解析をもってしても検出することのできない変異 でした。 次に、ddPCR により検出した遺伝子変異が、予後におよぼす影響を調べました。SETBP1と

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JAK3遺伝子変異のアリル頻度に応じて、1%以上の変異をもつ Major 群(n = 14)、1%未満の変

異のみをもつMinor 群(n = 5)、変異が検出されなかった症例を Wildtype 群(n = 85)の 3 群に

わけて解析を行いました。Major 群、Minor 群ともに、Wildtype 群よりも有意に無移植生存率が

不良でした(P = 0.017; 図 2)。

SETBP1・JAK3遺伝子変異が見つかった19 例のうち 5 例は、SETBP1とJAK3遺伝子変異 の両方が検出されました。これらの遺伝子変異を同一の白血病細胞集団が獲得したのか、もしく は、それぞれの変異を異なる集団が獲得したのかを検証するために、SETBP1とJAK3遺伝子変 異の両方をもつ症例の白血病細胞を用いて、特殊な細胞培養法であるコロニーアッセイを用いた 解析を行いました。白血病細胞を、細胞の増殖を促す因子とともに2 週間培養したのちに、各々 のコロニーを一つずつ回収し、サンガーシーケンスでSETBP1とJAK3遺伝子変異を検討しまし た。93 コロニーを回収し、そのうち 2 つのコロニーでSETBP1, JAK3遺伝子変異をともに検出 しました。このことから、同一の白血病クローンがSETBP1とJAK3遺伝子変異を有しているこ とが示唆されました。 図1. ddPCR により検出したSETBP1とJAK3遺伝子変異 JMML 患者 128 例のうち、SETBP1変異を9 例、JAK3変異を15 例に認めました。検出した 24 個の変異のうち、9 個(赤丸)が 1%未満の微小なアリル頻度の変異でした。 0.01 0.05 0.1 1.0 10 50 Neg n=9

n=3

(%) SE TB P1 p.D868N 変異 の割合 (% ) JMML患者 (n=128) 健常人 (n=30) JMML患者 (n=128) 健常人 (n=30) n=15

n=6

JA K3 p.R657Q 変異 の割合 (% ) n=13 n=17 n=10 n=20 n=59 n=60 n=69 n=44 0.01 0.05 0.1 1.0 10 50 Neg (%) SETBP1 p.D868N JAK3p.R657Q ≥1% <1% Negative 変異アリル頻度

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図2. SETBP1とJAK3遺伝子変異による生存率の比較 CBL変異の症例を除いたJMML 患者 104 例で生存解析を行った場合、Minor 群では Wildtype 群よりも治療成績が悪かった。

3.今後の展開

本研究では初めて、JMML においてセカンドヒットとして認めるJAK3遺伝子変異を、ddPCR 法を用いて高感度に評価しました。微小なアリル頻度のSETBP1、もしくはJAK3遺伝子変異を認 める患者は、認めない患者と比べて、予後不良であることを示しました。本研究の成果は、初発の JMML 患者のうち、治療強化が必要な患者を見つけ、適切な治療へと導くことができるものと考え ます。例えば、微小なアリル頻度も含めて、SETBP1やJAK3遺伝子変異を初発時に認める症例で は診断後から、造血幹細胞移植に備えて、準備を進めることができます。 また、本研究では、同じ白血病細胞集団がSETBP1 とJAK3遺伝子変異を獲得することを示し ました。このように2 つの変異を同じ集団がもつことで、より高い増殖能を獲得していることが推 察されます。ほかの類似した白血病では、セカンドヒットの遺伝子変異を獲得する順序が、表現型 と強く関係することが示されており、JMML においても両方の変異を獲得する順序と表現型の関 連性について、より大きな患者集団で検証する必要があるものと考えられます。 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 無移植 生存 率 ( %) P = 0.017 Major Minor Wildtype Number at risk 14 1 0 0 0 0 0 5 1 0 0 0 0 0 85 34 19 16 11 9 9 診断からの期間(月) 0 10 20 30 40 50 60 Major (n=14) Minor (n=5) Wildtype (n=85) ≥1% <1% Negative 変異の割合 JAK3 SETBP1 CBL変異を除いたJMML患者 (N = 104) Major Minor Wildtype 無移植生存率(TFS)

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4.用語説明

※1)droplet digital PCR 遺伝子変異を高感度に定量することのできる検査技術 ※2)アリル頻度 個々の対立遺伝子の相対的な頻度(%) ※3)コロニーアッセイ 増殖特性(自己複製能)を示す細胞を検出する分析方法 ※4)SETBP1 p.D868N 変異とJAK3 p.R657Q 変異 JMML の進展に関わるSETBP1とJAK3遺伝子変異のうち、最も頻度の高いアミノ酸置換

5.発表雑誌

掲雑誌名:Leukemia(英国時間 2020 年 4 月 20 日午前 1 時の電子版)

論文タイトル:Detection of Subclonal SETBP1 and JAK3 Mutations in Juvenile Myelomonocytic

Leukemia Using Droplet Digital PCR

著者:Manabu Wakamatsu1, Yusuke Okuno2, Norihiro Murakami1, Shunsuke Miwata1, Hironobu Kitazawa1,

Kotaro Narita1, Shinsuke Kataoka1, Daisuke Ichikawa1, Motoharu Hamada1, Rieko Taniguchi1, Kyogo

Suzuki1, Nozomu Kawashima1, Eri Nishikawa1, Atsushi Narita1, Nobuhiro Nishio1,3, Seiji Kojima1, Hideki

Muramatsu1†, and Yoshiyuki Takahashi1†

所属:

1Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan, 2Medical

Genomics Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan, 3Center for Advanced Medicine and Clinical

Research, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.

Co-corresponding authors

DOI:10.1038/s41375-020-0817-x English ver.

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