Title
水道を中心とした都市防火施設に関する研究( Abstract_要
旨 )
Author(s)
保野, 健治郎
Citation
Kyoto University (京都大学)
Issue Date
1969-03-24
URL
http://hdl.handle.net/2433/213109
Right
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
none
【
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5
7
】
氏 名 保 野 健 治 郎 や す の け ん じ ろ う 学 位 の 種 類 工 学 博 1 主 学 位 記 番 号 諭 工 博 第2
71
号 学位授与 の 日付昭 和
44
年3 月 24
日′ 学位授与 の要件 学 位 規 則 第 5 条 第 2項 該 当
学 位 論 文 題 目 水道 を中心 と した都市防火施設 に関す る研究 (主 査) 論 文 調 査 委 員 教 授 堀 内 三 郎 教 授 松 浦 邦 男 教 授 末 石 富 太 郎 _L L▲_■_▲_▲_-r-__-ヽ- __-■ 論 文 内 容 の 要 旨 この論文 は, 都 市の消防施設 と消防水利施設 と しての上水道 の関係を明 らか にす るとと もに, この両者 を総合 して最適 の防火計画を定 め る方法 を確立す ることを 目的 と して, 経済性 を考慮 した合理的な計画手 法 について研究 した もので, 3編 か らな って い る。 第 1 編 において は, 火災 と消防水利施設 と しての上水道 の現況 について述べ た もので ある0 各種 の資料 よ り, 消防水利施設 と して の上水 道の現況 につ いて述べ た もので あ る。 各種 の資料 よ り, 消防水利 におけ る消火栓 の重要性 および建物火災 と水道施設 が密接な関係 にあること を明 らか に し, また, 全市人 口に対す る年 間 の建物火炎件数 および年間の小火以外 の建物火災件数 の関係 式 を示す とと もに, 人 口の増大 にと もない小火 の火災件数 の割合が増加す ることを明 らかに して い る。 さ らに, 昭和39年 の小火以外 の建物1火災 当 り平均焼失面積 は, 人 口約30万人以下では全市域 で約300 -220m2, 市街地 で220-200m2で あ って, 人 口の増加 とともにそ の値を減少す る傾 向にあ るが, 全般的 に みれ ばほぼ一定 の範囲 内にあ ることを示 し, また単位面積 当 りの消火水量を焼失 面積 との関係式 と して示 して い る。 つづ いて, 現有消防施設 と して重要な通報施設 および消防 ポ ンプ 自動車 の保有台数 を全市人 口との関係 において数式化 し, そ の消防 自動車 の現保有台数 は, 消防庁 の示 した消防力 の基準 をほぼ満足 し て い る が, 車令1
5
年以上 の ものが全体 の9
.4% を 占め ることか ら車 が老朽化 しつつ あ ること, また人員 に 関 して は, 消防団数 および団員数 の減少 を示 して消防力 の不十分 さの問題点を指摘 して い る。 さらに, 消防水利 点数 と全市人 口の関係式 および公設 消火栓数 と給水人 口との関係式 を示 して, これ らはほぼ水道施設基準 を満足 してい るが, そ の放水能力 に問題 を残 してい ることを明 らか に して い る。 第2編 においては, 建物火災 の延焼速度 と所要消火水量 および所要消防 ポ ンプ 自動車台数 の関係式 につ いて解析 し, これ らの理論 と実測資料 か ら, 現 有水道施設 の火災 時放水能力 につ いて述べ た もので ある。 第1章 において は, 金夙 土佐林, 浜 田, 菱 田および堀 内の式を検討 して, これ らの式 の位置づ げを行 722-な うとともに, 所要水利点配置密度の厳密式 と近似式 とを示 している。 次 に,
K
市 の火災資料 よ り普通建物火災 の場合 と大規模建物 の火災 の場合 とに適用す る延焼速度式 とし て, これ らの式を注水開始時間, 風速 および標準偏差の関数 と して表示 し, この式 と菱 田および堀 内の式 とについて, 焼失面積の数値 に関 して比較検討 している。 また大阪府 の火災資料 よ り建物火災 の延焼速度 式を求 めて, K 市 の火災資料 よ り求 めた建物火災 の延焼速度式か ら導 いた所要消防ポ ンプ台数 および所要 消火水量は, 大阪府 の火災資料 よ り求 めた建物火災 の延焼速度式を基準 としてみれば, 延焼 (増加分) の 許容割合は1
0
%
に相当す ることを明かに示 している。 第2章 においては, 損害保険協会 の実測資料 と, 第1葦 において求 めた理論式 よ り, 公設 消火栓 の単独 放水能力 と同時開放時の消火栓能力を有効水利点間隔によ って説 明 している。 すなわち, 単独放水能力 に ついては, 残存水圧 と放水量の関係を示 して, 管 の口径7
5
mm
においては, 仝消火栓が所要放水能力を もたず, 口径1
0
0
mm
においては約6
5
%
, 口径2
0
0
mm
においては約6
0
% がそれぞれ所要放水能力を も たないことを述べ, この結果 は他の調査結果 とほぼ一致 していることを示 している。 さらに, 消火栓 の有 効水利点間隔 については, ホース1
本 の有効直線距離を1
4
m
と し,K
市 の資料 よ り求 めた建物火災の延 焼速度式を用 いて, 各人 口規模別(5
万人,1
0
万人,2
0
万人) の有効水利点間隔を計算 して現有消火栓が どの程度の放水能力を持 っているかを示 している。 第3編 においては, 火災時を考慮 した消防水利 と しての水道施設 と都市防火施設 の合理的な計画法 につ いて述べたものである。 第 1 章 においては, 都市 の防火的設計において, - たん発生 した火災を, 一定 の焼失面積 (損害額) 以 下 に止めて消火す るとい う目標を定 めた場合の所要消防施設 の数量 と, その経済的効果 に関す る従来の研 究を検討 して いる。 第 2 章 においては, 著者の研究 として 「消防用水 の費用, 建物の焼失部分 の損害額, 消火栓設置 による 水道管の費用増加 および消防施設 の費用 の年間合計額が最小 とな るよ うに, 建物 の1火災 当 りの平均焼失 面積 (小火を除 く) を求 めて, それに対応す る都市の水道施設 および都市防火施設を計画す る」 のがよ り 合理的であるとの考 えにたち, この計画 に必要な管網 のモデル化, 水量のモデル化, 合理的管網設計法, 消火栓設置 による水道管費用 の増加 のモデル化 および消防施設 のモデル化を示 して, モデル化 された各都 市 における許容焼失面積を計算す る方法 とその結果を示 している。 そのうち特 に, 合理的管網 の設計 については, 計画 レベル においては 「管路流量一損失水頭を与 える計 算法」 で十分であることを示す とともにLi
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法 によ って経済的な所要管 口径を求 める 手法を明かに している。 また, 各人 口規模別都市(5
万人,7
万人,1
0
万人,1
5
万人) における許容焼失 面積 は約5
5-3
7
5
m
2の範囲に分布 し, 都市 の人 口規模 にほぼ無関係であること, および所要消防ポ ンプ 自動車台数 は約3-6
台, 所要消火水量は約3
-7.
5
m
3/
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の範囲内にあることを示 して, 都 市防火施 設を人 口規模 によ り画一的に, 同一基準 によ って設置すべ きでないことを明かにしているo つづいて, 現行 の水道施設基準 および 日本水道協会 の提案 した消火用水 による配水管 の増加工費 につい て, 筆者の研究結果 と比較 して検討を加 え, その うち水道施設基準 については, 人 口の増大 とともに消火 用水が増加す ること, および消火栓 ごとに区切 って管網計算 をす ることなどの点 に疑問があるとして, こ - 723-れ らの点 に対す る検討を行 な っている。 また, 消火用水 による配水管の増加工費 については, 消火用水 の 計算方法, 計算上 の管網数が過少であることによる実際の管網特性 との差異, および公設消火栓 の数量な どの点 に疑問があ ることを指摘 して, これ に対す る計算方法 について述べている。 さらに, 今後 の都市防火対策 と研究課題 につ いて述べ, まず, 公設消火栓が本来 の消防水利点 としての 利用 のほかに, 上水道施設 ( ドレ- ン, エ ァー抜 き, 給水設備) としての多 目的利用 の可能性があること を示 し, また水道管の材質を変 えることによ って都市防火施設 および上水道施設 がよ り合理化 さ れ る こ と, および強風時の都市防火施設 の計画法が今後の重要な研究課題であることについて も論及 している。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 火災損害 の大部分 を占める建物火災 に対 しては, 注水消火が現在最 も有力な手段であ り, したが って, 都市の消防施設 の うち水道消火栓などの水利施設が非常な重要性 を持つにもかかわ らず, 従来は防火 と水 道 との両分野の境界領域 にあ ったため, この方面の研究は著 しくお くれている実情である。 著者 はこの点 に着 目し, 両者を総合 して最適 の防火計画を定 めるための計画手法 について研究 し, い くつかの重要な成 果を得ている。 本研究 の主な る成果をあげると次 のとお りで ある。 1) 主 として木造建築物で構成 されているわが国の市街地 において火災が発生 した場合の延焼速度式 とし てほ, 過去 の火災時の実態調査 に基いた数種類 の式が提案 されているが, それ らはいずれ も比較的大規模 な延焼状態 に適合す るもので, 延焼 の初期の段 階 (出火後約15分間以内程度) については実情 に合 わない 点が多か ったのであるが, 著者は詳細 な実態調査の資料 に基 き, 主 として初期 の段階 に適合す るものとし て
,
「注水開始時間」,
「風速」 および 「標準偏差」 を関数 とす る独 自の延焼速度式を求 め, さらに これ に 基いて所要消火水量 との関係式を も導いた。 2) 現在 の水道に設 け られている消火栓が, 実 際の消火活動 に際 して種 々の点で不十分であることは経験 上すでに知 られていたことであるが, 著者は現地調査 および放水実験 に基いてそ の実情を明かにし, 現状 か らみて, 消火栓 を同時 に2 カ所以上使用 した場合 において も有効であるための関係式を明かにした。 3) 都市 における消防施設 と, 水利施設 として の水道消水栓上 を総合的に考慮 した場合の最 も合理的な計 画手法 として, 「消火用水 の費用, 建物 の焼失部分の損害額, 消火栓設置 による水道管の費用増加額, お よび消防施設 の費用 の総計が最小 とな るよ うに, 1火災 当 り建物平均焼失面積 (小火を除 く) 蚤求 め, こ れに対応す る都市 の水道施設 および防火施設 を計画す る手法」 を導 いた。4
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前項 の計画手法の うち, 特 に合理的な水道配水管網の設計 に関 しては, 計画 レベルにおいては 「管路 流量一損失水頭 を与 える計算法」 で十分 であることを示す とともに,Li
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法 によ って 経済的な所要管 口径を求 める方法を明かにした。 5) 3)項 の手法を応用 して, 人 口規模が 5万人∼15万人程度 の都市 における適正な消防施設 および水道施 設を求 め, その結果 これ らの施設 を都市の人 口規模 ごとに画一的な基準で設 けることの欠点を明かにし, 従来用い られている各種 の施設設置基準等 の改善策を得 た。 以上 のよ うに, この論文は従来不明確な点 の多か った都市 の防水施設 と水道消火栓施設 との関係 につい -724-て研究 し, 防火上合理的な計画手法を明 らかにしたものであ って, 学術上, 工業上寄与す るところが少 く ない。
よ って本論文 は工学博士 の学位論文 として価値 あるものと認 め る。