ま え が き
うるし(漆)の歴史は古く亜中国の浙江省では 7000 年前の朱塗りの容器が 発見されている。日本でも古代の漆塗りの櫛などが発見されている。その意味 で漆は歴史的に非常に重みがあり亜重要な文化財の保存などにはなくてはなら ない材料である。これは漆製品が機能的に優れ亜また亜美的にも優れたもので あったためである。 ところで亜漆液はウルシの木から採取される樹液の一種である。樹液で人間 に用いられている物には多数あると思われるが亜身近な例ではゴムがあり亜今 の時代でも日本のゴム消費量の 40%は天然ゴムが占めている。カナダの土産 でよく手にするものにメープルシロップがあるが亜これも樹液の一種である。 このように樹液は我々に身近な存在であるが亜近年の石油化学工業の発展によ り亜多くの天然由来の材料が合成材料に置き替わりつつある。 著者は合成高分子を主たる研究テーマとしながら亜漆という天然材料も興味 をもって研究を進めてきた。生産性からいうと石油化学工業が圧倒的に有利で あり亜人間の過去の科学知識を基に製造されてきたものが亜ポリエチレンであ り亜ナイロンなどである。合成物は構造的に割と単調であり亜到底自然の材料 ほど複雑な要素をもっていない。このため最近では合成高分子研究ももっぱら 機能性を重視して分子構造を複雑に制御する研究に移りつつある。いい換えれ ば亜高分子研究も天然に存在する材料や生命の機能に学ぼうとしている状況で ある。一方で天然材料についてはあまりに神秘性が強調され過ぎて亜近代科学 の考え方が必ずしも好意的には受け入れられておらず亜それが発展を遅らせて きた面があることは否定できない。 漆関連製品の場合亜材料としての特性とそれに加えられた加飾効果が合わさ った形で評価されていて亜漆素材に注目する評価は割合に少ないように思える し亜またそのような評価は比較的軽んじられてきた傾向がある。天然物であ れ亜合成物であれ我々が材料を考える場合は亜使用目的に対してどの程度適合しているかということに尽きる。元より漆は歴史がある材料だけに人により漆 に対するさまざまな見方があり価値観がある。ここではあくまでも材料として の漆に着目して亜合成材料(高分子)を意識しながら比較考察したものであ る。合成高分子を意識することによって亜漆の新たな用途や機能が今後開発で きれば幸いである。 漆を研究するきっかけを作ってくれたのは(独)国立文化財機構・東京文化 財研究所の佐野千絵氏である。本書では執筆の主旨から文化財関係については 具体的に触れなかったが亜漆にとって非常に重要な分野である。 ところで本書を執筆するに当たり亜共立出版(株)の岩下孝男氏には出版の 可能性についていろいろご相談に乗って戴いた。また亜瀬水勝良氏には編集に おいて大変お世話になった。これらの方々にここで深甚なる謝意を表したい。 2013 年 12 月 小川 俊夫 ま え が き iv