外科感染症分離菌とその薬剤感受性
―
2009
年度分離菌を中心に―
品川長夫
東京医療保健大学大学院感染制御学平田公一・古畑智久・水口 徹
札幌医科大学医学部外科学第一講座長内宏之
札幌外科記念病院外科柳内良之
社会医療法人禎心会 新札幌恵愛会病院外科秦 史壯
札幌道都病院外科佐々木一晃・染谷哲史・
佐々木寿誉・大野敬祐
小樽掖済会病院外科時田捷司・中村誠志
登別厚生年金病院外科渋谷 均
市立室蘭総合病院外科長谷川 格・木村雅美・
大島秀紀・前田豪樹
北海道済生会小樽病院外科向谷充宏・鬼原 史
北海道社会事業協会函館病院外科渡部公祥
市立赤平総合病院外科星川 剛・木村 仁
滝川市立病院外科柳 在勲
独立行政法人国立病院機構 埼玉病院外科相川直樹・関根和彦・安倍晋也
慶應義塾大学医学部救急医学竹山廣光・若杉健弘
名古屋市立大学大学院消化器外科学谷口正哲
大隈病院外科水野 勇・社本智也・福井拓治
名古屋市立緑市民病院外科真下啓二
愛知県厚生連尾西病院外科田中守嗣
刈谷豊田総合病院外科石川 周
刈谷豊田総合病院高浜分院外科水野
章 三重厚生連いなべ総合病院外科岩井昭彦・齋藤高明
三重厚生連菰野厚生病院外科毛利紀章・角田直樹
知多厚生病院外科久保正二・李 栄柱
大阪市立大学大学院肝胆膵外科学・ 消化器外科学大村 泰
市立藤井寺市民病院外科小林康人・辻 毅
和歌山ろうさい病院外科山上裕機・小澤 悟
和歌山県立医科大学第二外科竹末芳生
兵庫医科大学感染制御学藤原俊義
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・腫瘍外科学木村秀幸
岡山済生会病院外科岩垣博巳
独立行政法人 国立病院機構 福山医療センター外科末田泰二郎・檜山英三・
村上義昭・大毛宏喜・
上村健一郎
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御医科学講座外科学津村裕昭
広島市立舟入病院横山 隆
広島市医師会運営安芸市民病院竹内仁司・田中屋宏爾
独立行政法人国立病院機構 岩国医療センター外科安波洋一・佐々木隆光
福岡大学医学部再生移植医学,消化器外科 (2011 年 2 月 21 日受付) 1982年7月から外科感染症分離菌に関する多施設共同研究を行ってきたが,ここでは 2009年度(2009年4月⬃2010年3月)の成績を中心にまとめた。1年間で調査対象と なった症例は220例であり,このうちの174例(79.1%)から642株の細菌と16株の真菌 が分離された。一次感染症から411株,術野感染から244株の細菌が分離された。一次 感染症では,嫌気性グラム陰性菌の分離頻度が高く,次いで好気性グラム陰性菌であり, 術野感染では,好気性グラム陽性菌の分離頻度が高く,次いで嫌気性グラム陰性菌で あった。好気性グラム陽性菌については,一次感染症においてEnterococcus faecalisやEnterococcus aviumなどのEnterococcus spp.の分離頻度が最も高く,次いで Streptococ-cus anginosusなどのStreptococcus spp., Staphylococcus aureusなどのStaphylococcus spp.
1982年7月から全国的に外科感染症における分 離菌とその薬剤感受性の調査1⬃32)を行ってきた が,今回は,2009年度(2009年4月⬃2010年3 月)における分離菌の動向とその薬剤感受性成績 を中心に検討した。
I.
対象と方法
1982年7月に開始した外科感染症分離菌感受性 調査研究会は,現時点で,消化器外科を中心とす る32施設の共同研究会となっている。 対象は消化器外科領域の感染症患者あるいは感 染を合併した入院患者である。一次感染症は,穿 孔性腹膜炎,急性胆嚢炎,急性胆管炎,肝膿瘍 などの腹腔内感染症である。術野感染は,腹腔内 膿瘍や創感染などの消化器系手術後の術野感染で あり,術後の呼吸器系感染症,尿路感染症,血管 内留置カテーテル感染症あるいは敗血症などの術 野外感染症は含めなかった。同一患者からの分離 菌は初回のもののみを取り上げ,重複を避け,ま た,消化管と持続的に交通している腸瘻などを伴 う腹腔内感染は対象外とした。 病巣からの検体をケンキポーター®(クリニカ ルサプライ)に採取し,2002年3月までは東京総 合臨床検査センターへ,その後は山田エビデンス リサーチへ送付し,原因菌を分離・同定した。 山田エビデンスリサーチでの原因菌の分離・同 定の概要は以下の如くである。検査材料は,①グ ラム染色,②直接分離培養,③増菌培養を施行し た。染色結果から選択培地の追加が必要であれば 追加した。好気培養は,馬血液寒天培地とBTB 寒天培地を用いて,37°C培養で毎日1回,3日間 観察,嫌気培養はブルセラHK寒天培地,BBE寒 天培地,PEAブルセラHK寒天培地,PVブルセ ラHK寒天培地を用い,嫌気ジャーでアネロパッ ク®(三菱ガス化学)を使用して37°Cで3⬃7日間 観察,検出菌があればその都度純培養し,各菌種 の特徴的な性状を重点に従来法および同定キット を併用し同定した。増菌培養は増菌培地にのみ菌 が検出された時や,グラム染色結果と直接分離培 養結果で不一致があるときに分離して確認及び追 加をした。 薬剤感受性については,日本化学療法学会標準 法であるMIC2000システムを用いた微量液体希 釈法により測定した。感受性測定薬剤としては, Oxacillin (MPIPC), Ampicillin (ABPC), Tazobac-tam/Piperacillin (TAZ/PIPC), Cefazolin (CEZ), Cefotiam (CTM), Cefmetazole (CMZ), Flomoxef であった。術野感染からは,Enterococcus spp.の分離頻度が最も高く,次いで Staphylo-coccus spp.であった。好気性グラム陰性菌では,一次感染症からEscherichia coliの分離 頻 度 が 最 も 高 く , 次 い でKlebsiella pneumoniae, Enterobacter cloacae, Pseudomonas aeruginosaなどであり,術野感染からはE. coli, P. aeruginosa, E. cloacaeの分離頻度が高 かった。嫌気性グラム陽性菌では,一次感染症からEggerthella lenta, Parvimonas micra, Streptococcus constellatus, Finegoldia magna,術野感染からはE. lenta, P. micraの分離頻 度が高かった。嫌気性グラム陰性菌では,一次感染症からは,Bilophila wadsworthiaの 分離頻度が最も高く,次いでBacteroides fragilis, Bacteroides ovatus, Bacteroides thetaio-taomicronで あ り , 術 野 感 染 か ら はB. fragilisの 分 離 頻 度 が 最 も 高 く , 次 い でB. ovatus, B. wadsworthia, B. thetaiotaomicronであった。バンコマイシン耐性のメチシリン耐 性黄色ブドウ球菌(MRSA)やEnterococcus spp.および多剤耐性緑膿菌は認められなかっ た。(FMOX), Cefmenoxime (CMX), Latamoxef (LMOX), Ceftazidime (CAZ), Cefpirome (CPR), Cefepime (CFPM), Cefozopran (CZOP), Sulbac-tam/Cefoperazone (SBT/CPZ), Aztreonam (AZT), Carumonam (CRMN), Imipenem (IPM), Meropenem (MEPM), Doripenem (DRPM), Gen-tamicin (GM), Amikacin (AMK), Arbekacin (ABK), Isepamicin (ISP), Clindamycin (CLDM), Minocycline (MINO), Ciprofloxacin (CPFX), Levo-floxacin (LVFX), Linezolid (LZD), Vancomycin (VCM), Teicoplanin (TEIC), Fosfomycin (FOM)を 用いた。
II.
成績
1) 細菌検出状況 2009年度の調査対象として検体が採取された症 例は220例であった。このうち174例 (79.1%) か ら642株の細菌と16株の真菌が分離されたが,残 る46例からは細菌あるいは真菌のいずれも分離 されなかった。 過去28年間の年度別検体数と総分離細菌株数 の推移をFig. 1に示した。 平均検体数は28年間で196.4検体,最近の5年 間では223.8検体であった。総分離細菌株数は, 1990年代半ばから増加し,更に最近の数年間で は著増していた。平均分離細菌総株数は28年間 で371.7株,最近の5年間では569.8株であり,検 体あたりの分離菌数の増加がみられた。 感染症別の細菌分離例数をTable 1に示した。 一次感染症全体では,126例のうち87例(69.0%) から細菌が分離された。内訳として,肝・胆道感 染症では36例中22例(61.1%),腹膜炎では62例 中42例(67.7%)から細菌が分離された。術野感染 全体では,94例中87例(92.6%)から細菌が分離 された。症例数が最も多い創感染では,66例中 63例(95.5%)から細菌が分離された。一次感染症 より術野感染において細菌の陽性率が高かった。 分離菌が検出された材料としては,膿汁が98 検体(58.0%)と最も多く, 次いで腹水43検体 (22.4%),胆汁19検体(11.5%)の順であった(Fig. 2)。 Fig. 1. 年度別検体数と総分離細菌株数の推移全174検体から真菌を除き655株の細菌が分離 され,1検体平均で3.8株が分離された。174検体 中 の23.6%は 単 独 菌 分 離 ,18.4%は2菌 種 , 14.4%は3菌種,11.5%は4菌種,9.8%は5菌種, 22.4%は6菌種以上が分離された。検体別では, 腹膜炎からのもので複数菌分離が最も多く,なか でも54.1%は5菌種以上の複数菌分離であった。 一方,肝・胆道感染からのものでは,腹膜炎に比 べ複数菌分離は少なく,45.8%は単独菌分離で あった(Fig. 3)。 2) 2009年度の分離菌 全分離菌の内訳をTable 2に示した。一次感染 症から411株,術野感染から244株の細菌が分離 Table 1. 感染症別例数 Fig. 2. 検体の内訳
されているが,一次感染症では嫌気性グラム陰性 菌の分離頻度が最も高く,次いで好気性グラム陰 性菌であり,術野感染では好気性グラム陽性菌の 分離頻度が高く,次いで嫌気性グラム陰性菌で あった。 真菌は,一次感染症から7株(Candida albicans 3株,Candida glabrata 2株,Candida parapsilosis とCandida tropicalisの各1株),術野感染からも 9株(C. albicans 5株,C. glabrata 3株とC. tropi-calis 1株)が分離された。 好気性グラム陽性菌については,一次感染症と 術野感染をあわせ32菌種(属)の159株が分離 された。一次感染症からは,28菌種(属)の72 株,術野感染からは,18菌種(属)の87株で あった(Table 3)。菌種別の頻度は,一次感染症で Enterococcus faecalisの分離頻度が最も高く,次 いでStreptococcus anginosus, Enterococcus avium, Staphylococcus aureus, Staphylococcus epidermidis であり,術野感染からは,S. aureusの分離頻度が 最も高く,次いでE. faecalis, Enterococcus fae-Fig. 3. 検体毎の分離菌株数
cium, E. avium, S. epidermidisであった。属別で は,一次感染症でEnterococcus spp.の分離頻度が 高く,次いでStreptococcus spp.であった。一方, 術野感染では,Enterococcus spp.の分離頻度が高 く,次いでStaphylococcus spp.であった。 嫌気性グラム陽性菌については,一次感染症と Table 3. 外科感染症別分離の好気性グラム陽性菌
術野感染をあわせ34菌種(属)の115株が分離 された。一次感染症からは,29菌種(属)の79 株,術野感染からは,15菌種(属)の36株で あった(Table 4)。一次感染症からは,Eggerthella lentaの分離頻度がもっとも高く,次いで Parvi-monas micra, Streptococcus constellatus, Fine-goldia magnaであり,術野感染からはE. lentaの 分離頻度が最も高く,次いでP. micraであった。
好気性グラム陰性菌については,一次感染症と 術野感染をあわせ23菌種(属)の154株が分離
された。一次感染症からは,20菌種(属)の104 株,術野感染からは,13菌種の50株であった (Table 5)。一次感染症からは,Escherichia coliの 分離頻度が最も高く,次いで,Klebsiella pneu-moniae, Enterobacter cloacae, Klebsiella oxytoca, Pseudomonas aeruginosaであった。一方,術野感 染からは,E. coliの分離頻度が最も高く,次いで P. aeruginosa, E. cloacaeであった。緑膿菌以外の ブドウ糖非醗酵菌としては,Stenotrophomonas maltophiliaが 3 株 , Acinetobacter baumannii,
Achromobacter xylosoxidansの各1株が分離され た。S. maltophiliaの2株は術野感染から,1株は 一次感染症から分離された。 嫌気性グラム陰性菌については,一次感染症と 術野感染をあわせ30菌種(属)の227株が分離 された。一次感染症からは,30菌種(属)の156 株,術野感染からは,19菌種(属)の71株で あった(Table 6)。一次感染症からは,Bilophila Table 6. 外科感染症別分離の嫌気性グラム陰性菌
wadsworthiaの分離頻度が最も高く,次いで Bac-teroides fragilis, BacBac-teroides ovatus, BacBac-teroides thetaiotaomicronであった。術野感染からは,B. fragilisの分離頻度が最も高く,次いでB. ovatus, B. wadsworthia, B. thetaiotaomicronであった。 全体として感染症別の分離菌分布をみると,一 次感染症分離菌は術野感染分離菌と比較し,グラ ム陽性嫌気性菌,Bacteroides spp.およびその他 のグラム陰性嫌気性菌,E. coliなどの分離頻度が 高かった。一方,術後感染分離菌は,一次感染分 離菌と比較して,Enterococcus spp.や Staphylo-coccus spp.の分離頻度が高く,さらに,P. aerugi-nosaなどの好気性グラム陰性桿菌の分離頻度が高 くなっていた(Fig. 4)。 3) 分離菌の年次的変遷 一次感染症分離菌を好気性と嫌気性およびグラ ム陽性と陰性にわけて年次的推移(Fig. 5)をみる と,1990年代後半からは嫌気性菌と好気性菌と の差が縮小し,嫌気・好気性菌共にグラム陰性菌 の割合が高い状況が続いている。2006年度からは 嫌気性グラム陰性菌の割合が最も高く,次いで好 気性グラム陰性菌の割合が高くなった。逆に2007 年度からは,好気性グラム陽性菌の割合が最低と なった。この推移を検体数あたりの菌種別頻度で みると,腸内細菌叢として優位なE. coliの分離頻 度の高さはゆるぎなく,2007年度からはさらに高 率であり,次いでB. fragilisが2番目の分離頻度 となっている(Fig. 6)。 同様に術野感染分離菌の推移(Fig. 7)をみると, 1990年代後半から好気性グラム陽性菌の分離頻 度が高いが,嫌気性菌では,1990年代からグラム 陽性菌,陰性菌ともに増加傾向を示してきた。 2006年度以降は,嫌気性グラム陰性菌の分離頻 Fig. 4. 一次感染症と術野感染での分離菌の分布
Fig. 5. 一次感染症分離菌の推移(1)(真菌を除く)
Fig. 7. 術野感染分離菌の推移(1)(真菌を除く)
度が好気性グラム陰性菌より高くなっている。検 体数あたりの菌種別分離頻度をみると,1993年 以降はE. faecalisの分離頻度が高かったが,本年 度はB. fragilisとS. aureusに次いで3番目と低下 し た 。P. aeruginosaは1990年 代 の 前 半 ま で は 20⬃30%台という高い分離頻度であったが,1998 年度からは,2001年度を除き10%台の分離頻度 と低下している。E. coliについては,ほぼ10%台 の分離頻度が続いている(Fig. 8)。 MRSAの分離頻度については,1991年度と 1998年度にピークがあった。2005年度と2006年 度に再び高い分離頻度となったが,2007年度と 2008年度は低下している。S. aureus中に占める MRSAの比率は,高止まりであったが,本年度は 50%近くまで低下した(Fig. 9)。 4) 感染症別の分離菌の変遷 (1) 腹膜炎分離菌 続発性腹膜炎分離菌は,最近の5年間では,嫌 気性菌の分離頻度が高く,全体の59.3%を占めて いる。すなわち嫌気性グラム陽性菌(21.9%)の頻 度が最も高く,次いでBacteroides spp. (18.8%)を 中心とする嫌気性グラム陰性菌およびその他の嫌 気性グラム陰性菌である。次いでE. coli (10.2%), Streptococcus spp. (6.3%), Enterococcus spp. (6.0%)などである(Fig. 10)。 一方,術後腹膜炎では,最近の5年間で, En-terococcus spp. (17.3%)の分離頻度が最も高いが, 以下はBacteroides spp. (15.0%),嫌気性グラム陽 性 菌(13.2%), そ の 他 の 嫌 気 性 グ ラ ム 陰 性 菌 (12.4%)などとなっている。Staphylococcus spp. は,10.3%の分離頻度であり,1999年度以降の分 離頻度はやや高くなってきている(Fig. 11)。 Fig. 9. MRSA分離頻度の推移
Fig. 10. 続発性腹膜炎の分離菌推移
(2) 肝・胆道感染症分離菌 胆嚢炎,胆管炎などの肝・胆道感染症分離菌に ついては,1990年代の中頃まではE. coliや Kleb-siella spp.などの分離頻度が高かったが,1994年 以降はEnterococcus spp.の頻度が高くなってきて いる。その反面,E. coliとKlebsiella spp.などの 好気性グラム陰性桿菌の分離頻度が低下傾向を示 してきたが,最近の5年間ではKlebsiella spp.の 分離頻度が再度高くなってきている。嫌気性菌の 分離頻度は19.8%と低い(Fig. 12)。 術後の肝・胆道感染症では,1994年度以降, 相変わらずEnterococcus spp.の分離頻度が高い。 最近の5年間では,検体数が少なく,分離株数が 少ない(Fig. 13)。 (3) 創感染分離菌 創感染からの分離菌は,最近の5年間をみると, Bacteroides spp.を中心とする嫌気性菌の分離頻度 が39.7%と 高 い 。Enterococcus spp.や Staphylo-coccus spp.の分離頻度に変化はないが,E. coli, Klebsiella spp.などの好気性グラム陰性菌の分離 頻度の低下がみられる(Fig. 14)。 (4) 感染症別分離菌頻度 過 去5年 間 に お け る 感 染 症 別 分 離 菌 頻 度 を Table 7に示した。術後胆道感染については,株 数が少ないため過去10年間における分離菌を集 計した。 5) 分離菌の薬剤感受性 各種分離菌の薬剤感受性をTable 8⬃46に示し た。なお,少数株とMIC測定不能株は除いた。 (1) Staphylococcus spp.
S. aureus 25株についてのMPIPCに対するMIC は ,12株 は1m g/mL以 下 で あ り , 残 る13株 Fig. 12. 胆道感染の分離菌推移
Fig. 14. 創感染の分離菌推移
(52.0%)は128mg/mL以上であった。ABPCにつ いては,14株(56%)は32mg/mL以上であった。 TEICに対しMICが4mg/mLの1株を除き,MIC 2mg/mL以下であった。VCM, LZDおよびABK では,全株がMIC 2mg/mL以下であった。GMで は16株がMIC 0.5mg/mL以下であり,その他の 株は総てMIC 8mg/mL以上であった。CLDMに は,12株がMIC 0.125mg/mL以下であったが,残 る13株はMIC 128mg/mL以上の耐性株であった (Table 8)。 S. epidermidis 11株についてのMPIPCに対する MICは,3株がMIC 0.125mg/mLであったが,残 Table 7. 感染症別の分離菌頻度(2005⬃2009年度)
Table 8. 各種抗菌薬のStaphylococcus aureus(25株)に対する抗菌力
る8株は2mg/mL以上であった。MINOが最も優 れた抗菌力を示し,全株MICが0.5mg/mL以下で あった。次いでMIC90でみるとABK, LZD, VCM, IPM, TAZ/PIPC, CTM, TEICの順に優れていた。 一方,CLDMはMICが0.25mg/mL以下の9株と
128mg/mL以上の2株と明確に抗菌力が分かれて
いた(Table 9)。
その他のStaphylococcus spp. 10株( Staphylo-coccus lugdunensisが3株,Staphylococcus capitis とStaphylococcus hominisがそれぞれ2株, Staphy-lococcus haemolyticus, StaphyStaphy-lococcus capraeと Staphylococcus simulansがそれぞれ1株)につい ては,MIC90でみるとCLDMが最も優れ,次いで
MINO, TEIC, ABK, LZD, IPM, VCMの抗菌力が 優れていた(Table 10)。
(2) Streptococcus spp.
S. anginosusの15株については,IPMとDRPM のMICが最も優れ全株0.063mg/mL以下であり,
次いでMEPM, CMX, CPR, TEIC, ABPCであり MICは全株0.25mg/mL以下であった。FOMには 耐性株が多くみられた(Table 11)。
そ の 他 のStreptococcus spp.の12株 ( Strepto-coccus agalactiae, StreptoStrepto-coccus salivarius, Strep-tococcus parasanguinisとStreptococcus sanguinis のそれぞれ2株,Streptococcus oralis,
Streptococ-cus vestibularis, StreptococStreptococ-cus alactolytiStreptococ-cusと Streptococcus equisimilisのそれぞれ1株)では, IPM, DRPM, CPR, CMXの抗菌力が優れ,全株 MICが0.125mg/mL以下であり,次いでMEPM, TEIC, CZOP, CFPMが優れていた(Table 12)。
(3) Enterococcus spp. E. faecalisの31株については,TEICの抗菌力 が最も優れており,全株MICは0.5mg/mL以下で あ っ た 。 次 い で ,ABPC, LZD, IPM, VCM, TAZ/PIPCの抗菌力が優れていた。しかし,4株は VCMにMICが4mg/mLであった(Table 13)。 Table 10. 各種抗菌薬のその他のStaphylococcus spp.(10株)に対する抗菌力
E. faeciumの13株については,TEIC とVCM の抗菌力が優れており,全株MIC 1mg/mL以下, 次いでLZDは全株MIC 2mg/mL以下,MINOは 全株MIC 16mg/mL以下と優れた抗菌力を示した。 しかし,その他の薬剤では耐性株が多くみられた (Table 14)。
Table 11. 各種抗菌薬のStreptococcus anginosus(15株)に対する抗菌力
E. aviumの18株については,TEICの抗菌力が 最も優れており,全株MIC 0.5mg/mL以下であ り,次いでVCM, LZD, MINOの抗菌力が優れて
いた(Table 15)。
その他のEnterococcus spp. 8株(Enterococcus gallinarumの3株 ,Enterococcus casseliflavusと Table 13. 各種抗菌薬のEnterococcus faecalis(31株)に対する抗菌力
Enterococcus pseudoaviumの各2株およびその他 のEnterococcus sp. 1株 ) に つ い て は ,TEIC,
LZD, CPFX, LVFX, VCMの順に抗菌力が優れて いた(Table 16)。
Table 15. 各種抗菌薬のEnterococcus avium(18株)に対する抗菌力
(4) Corynebacterium spp.
Corynebacterium spp. 8株 (Corynebacterium striatum 4株,Corynebacterium minutissimumの2 株およびその他のCorynebacterium spp. 2株)に ついて,TEIC, LZD, VCM, MINOの抗菌力が優 れていた(Table 17)。
(5) Bacillus spp.
Bacillus spp.の 5株 (Bacillus subtilis 4株 と Bacillus coagulans 1株 ) に つ い て は ,FOMと CAZに耐性株がみられたが,その他の薬剤は良好 な抗菌力を示した(Table 18)。
(6) Escherichia coli
E. coliの55株についてMIC90でみると,MEPM とDRPMが0.063m g/mL以 下 と 優 れ , 次 い で 0.125mg/mLのCFPM, 0.25mg/mLのIPM, CZOP と FMOX, 0.5mg/mLの CRMN, LMOX, CPRで あ っ た 。 一 方 ,MICが128mg/mL 以 上 の 株 が ABPCで20株,CEZで5株みられた。またLVFX とCPFXでは,8株がMIC 8mg/mL 以上であった (Table 19)。 (7) Klebsiella spp. K. pneumoniaeの13株については,カルバペネ ム薬,第三,第四世代セフェム薬,ニューキノロ ン薬,モノバクタム薬とオキサセフェム薬の抗菌 力が優れていた。ABPCとFOMでは耐性株が多 くみられた(Table 20)。 K. oxytocaの10株については,カルバペネム薬, オキサセフェム薬の抗菌力が優れていた。ABPC とCEZには耐性株がみられた(Table 21)。 (8) Enterobacter spp.
Enterobacter cloacaeの18株については,MIC90 でみると,CPFXが0.063mg/mL以下と最も優れ, 次 い でLVFX, MEPM, DRPM, IPM, GM, AMK, CFPM, MINO, CPRの順で優れていた。ABPCと 第一,第二世代セフェム薬,オキサセフェム薬, FOMで耐性株も多くみられた(Table 22)。
Table 18. 各種抗菌薬のBacillus spp.(5株)に対する抗菌力
Table 20. 各種抗菌薬のKlebsiella pneumoniae(13株)に対する抗菌力
Table 22. 各種抗菌薬のEnterobacter cloacae(18株)に対する抗菌力
Enterobacter aerogenesの7株では,カルバペネ ム薬の抗菌力が最も優れ,次いでフルオロキノロ ン薬,第四世代セフェム薬,アミノグリコシド薬 であった(Table 23)。
(9) Citrobacter spp.
Citrobacter spp. 9株(Citrobacter braakii 4株, Citrobacter freundii 3株 ,Citrobacter youngaeお よびCitrobacter amalonaticusの各1株)について は,カルバペネム薬,第四世代セフェム薬,フル オロキノロン薬およびアミノグリコシド薬の抗菌 力が優れていた(Table 24)。
(10) Proteus spp.
Proteus spp. 7株(Proteus mirabilis 3株, Pro-teus vulgaris 4株)については,カルバペネム薬 とオキサセフェム薬の抗菌力が優れていた(Table 25)。 (11) Pseudomonas aeruginosa P. aeruginosaの18株 に つ い て , 最 も 小 さ い MIC50を示した薬剤は,CPFXとDRPMであり 0.25mg/mL, 次 い でMEPMの0.5mg/mL, LVFX とIPM, CZOPの1mg/mLであった。最も小さい MIC90を示した薬剤は,DRPMとCPFXであり 4mg/mL,次いでGMの8mg/mLであった(Table 26)。 IPMにMICが16mg/mL以上の3株(16.7%)の うち,2株(11.1%)はCPFXにMIC 4mg/mL以上 であったが,AMKには3株とも感受性であった。 ま た AMKに MIC 32mg/mL以 上 の 株 の 1株 (5.6%)は,IPMとCPFXに感受性であり,3薬剤 ともに耐性の株(多剤耐性緑膿菌)は認められな かった。セフェム薬では,CZOPが最も良好な抗 菌力を示した。 Table 24. 各種抗菌薬のCitrobacter spp.(9株)に対する抗菌力
(12) Streptococcus constellatus S. constellatusの10株については,IPM, CLDM, TEICの抗菌力が優れ, いずれもMICは0.063 mg/mL以下であり,次いでDRPM, MINO, MEPM, CMX, CPRであった(Table 27)。 (13) Gemella morbillorum
G. morbillorumの6株については,FOM, CAZ
Table 25. 各種抗菌薬のProteus spp.(7株)に対する抗菌力
以外は良好な抗菌力を示した(Table 28)。
(14) Finegoldia magna
F. magnaの7株については,TAZ/PIPC, MEPM,
DRPMの 抗 菌 力 が 優 れ , 次 い で ,IPM, TEIC, ABPC, FMOX, VCMの順であった(Table 29)。 Table 27. 各種抗菌薬のStreptococcus constellatus(10株)に対する抗菌力
(15) Parvimonas micra P. micraの18株については,TAZ/PIPC,カル バペネム薬,TEICが良好な抗菌力を示した(Table 30)。 (16) Peptoniphilus asaccharolyticus P. asaccharolyticusの5株についてはいずれの薬 剤も良好な抗菌力を示した(Table 31)。
Table 29. 各種抗菌薬のFinegoldia magna(7株)に対する抗菌力
(17) Eggerthella lenta
E. lentaの21株については,TEICの抗菌力が最 も優れ,全株MICが0.25mg/mL以下であった。
次いでDRPM, CLDM, MEPM, IPM, LZD, ABPC, VCMの順に抗菌力が優れていた(Table 32)。 Table 31. 各種抗菌薬のPeptoniphilus asaccharolyticus(5株)に対する抗菌力
(18) Lactobacillus spp.
Lactobacillus spp.の11株 (Lactobacillus aci-dophilus 4株 ,Lactobacillus fermentum, Lacto-bacillus gasseriおよびLactobacillus minutusの各1 株およびその他のLactobacillus spp. 4株)につい ては,最も優れたMIC90を示したのはIPMであ り,全株がMIC 1mg/mL以下であった。次いで, MINO, CLDM, ABPC, TAZ/PIPCの順に抗菌力が 優れていた(Table 33)。
(19) Eubacterium spp.
Eubacterium spp.の7株(Eubacterium limosum の3株,Eubacterium biformeの1株および Eubac-terium spp.の3株)については,MEPM, DRPM, IPM, TAZ/PIPCの抗菌力が優れていた(Table 34)。
(20) Clostridium spp.
Clostridium spp.の15株 (Clostridium perfrin-gens 3株 , Clostridium difficileと Clostridium symbiosum 各 2 株, Clostridium bifermentans,
Clostridium clostridioforme, Clostridium butyricum, Clostridium innocuum, Clostridium malenominatum, Clostridium nexile, Clostridium sporosphaeroidesお よ びClostridium subterminale の各1株)については,MEPM, DRPM, ABPCで は総ての株はMIC 2mg/mL以下であり,TEIC, TAZ/PIPCとIPMでは4mg/mL以下であり,良好 な抗菌力を示した。CTM, CAZ, CFPM, CLDMで はわずかながら高度耐性株がみられた(Table 35)。 (21) Veillonella spp. Veillonella spp.の5株は,TEICとVCMに対し て,全株128mg/mL以上と高度耐性を示した。最 も良好な抗菌力を示したのはCLDMであり,全 株MICは0.125m g/mL以下であった。 次いで MINOの0.5mg/mL以下であり,以下カルバペネ ム薬が続いた(Table 36)。 (22) Bacteroides spp.
B. fragilis 47株についてMIC90でみると,IPM, Table 33. 各種抗菌薬のLactobacillus spp.(11株)に対する抗菌力
TAZ/PIPC, MEPMが2mg/mLと 優 れ , 次 い で DRPMとMINOの4mg/mL, SBT/CPZの8mg/mL で あ っ た (Table 37)。 一 方 ,CMX, LMOX,
FMOX, CPR, CFPM, CZOPおよびCLDMでは, 高度耐性株が多数認められた。
B. ovatus 24株についてMIC90でみると,IPMが
Table 34. 各種抗菌薬のEubacterium spp.(7株)に対する抗菌力
0.5mg/mLと最も優れ,次いで1mg/mLのMEPM, 2mg/mLの DRPM, 4mg/mLの MINOと TAZ/ PIPC, 8mg/mLのSBT/CPZな ど で あ っ た(Table 38)。一方,CPR, CFPM, CZOPおよびCLDMに は,高度耐性株が多数認められた。 B. thetaiotaomicron 19株についてMIC90でみる と,IPMが1mg/mLと最も優れ,次いで4mg/mL のMINO, MEPM, 8mg/mLのDRPM, TAZ/PIPC, SBT/CPZ, LVFXなどであった(Table 39)。一方, CPR, CFPM, CZOPおよびCLDMには,高度耐性 Table 36. 各種抗菌薬のVeillonella spp.(5株)に対する抗菌力
株が多数認められた。
B. fragilisを除く,B. ovatus 24株,B. thetaio-taomicron 19株およびその他のBacteroides spp. 33 株の合計76株(non- B. fragilis)について,MIC90
でみると, IPMが1mg/mLと最も優れ,次いで 2mg/mLの MEPM, DRPM, 4mg/mLの MINO, 8mg/mLのTAZ/PIPCとSBT/CPZであった(Table 40)。一方,CLDMでは,MIC50は4mg/mLと良 好であったが,34株(44.7%)はMICが128mg/mL 以上であった。またCFPM, CZOP, CPRに高度耐 性株が多数認められた。 (23) Bilophila wadsworthia B. wadsworthiaの32株についてMIC90でみる と,CLDMが1mg/mLと最も優れ,全株MICは 2mg/mL以 下 で あ っ た 。 次 い でCPFX, LVFX, Table 38. 各種抗菌薬のBacteroides ovatus(24株)に対する抗菌力
MINOの抗菌力が優れていたが,中等度耐性株も 多くみられた。ペニシリン薬,セフェム薬,カル バペネム薬には高度耐性株が多く認められた (Table 41)。 (24) Campylobacter gracilis C. gracilisの6株については,MINOが最も良 好な抗菌力を示し,次いでカルバペネム薬であっ た(Table 42)。 (25) Prevotella spp.
Prevotella spp.の18株 (Prevotella intermedia とPrevotella corporisの各4株,Prevotella buccae と Prevotella loescheii の 各 3 株, Prevotella melaninogenica 2株およびPrevotella oralisと Pre-votella biviaの各1株)については,IPM, MEPM, Table 40. 各種抗菌薬のBacteroides fragilis以外のBacteroides spp.(76株)に対する抗菌力
DRPM, TAZ/PIPCの抗菌力が優れ,MICはすべ て0.063mg/mL以下であった(Table 43)。
(26) Porphyromonas spp.
Porphyromonas spp. 11株 ( Porphyromonas asaccharolytica 8株,Porphyromonas endodontalis 2株 とPorphyromonas gingivalis 1株 ) に つ い て は,いずれの薬剤も良好な抗菌力を示した(Table
44)。しかし,CLDMには高度耐性株が1株認め
られた。
(27) Fusobacterium spp.
Fusobacterium spp. 9株 (Fusobacterium nu-cleatum 6株,Fusobacterium varium 2株とその他 のFusobacterium sp. 1株)については,MEPM, DRPM, MINOの抗菌力が優れていた(Table 45)。 Table 42. 各種抗菌薬のCampylobacter gracilis(6株)に対する抗菌力
(28) Parabacteroides distasonis P. distasonisの10株について,MIC90でみると, MEPMが0.5m g/mLと最も優れ, 次いでIPM, DRPM, TAZ/PIPCの抗菌力が優れていた。セフェ ム系薬には耐性株が多く認められた(Table 46)。
III.
考察
S. aureus中に占めるMRSAの割合は,前年度 までの数年間では80%前後と高率で留まってい た。しかし,本年度は,52.0%(25株中13株が MRSA)と低下した。近年,MRSA以外の多くの 多剤耐性菌(多剤耐性緑膿菌,多剤耐性A. bau-mannii, New Delhi metallo-b -lactamase-1産生菌な Table 44. 各種抗菌薬のPorphyromonas spp.(11株)に対する抗菌力ど)が話題となり,医療関連感染防止に多くの関 心が集まり,医療従事者全体による感染予防策の 徹底がMRSA分離比率の低下に繋がったと推測 されるが,今後の経過に注目していきたい。 本研究会において, 以前はMRSAに対する VCMのMICは0.5mg/mLの株が多かったが,近 年では多くが1mg/mLであり,2mg/mLの株も認 められている。しかし,MICが4mg/mL以上の耐 性株は今までに認められていない。VCMに対す るMICが2mg/mLの株は少数であり,増加傾向は ないが,毎年度分離されている。 MICが2mg/mLの株と1mg/mL以下の株が分離 された臨床例について,VCMの臨床効果を比較 したところ,MICが2mg/mLの症例において有意 に不良であったことが報告33)されている。 VCM存在下において,細胞壁合成を活性化す る調節遺伝子に突然変異が起こり,細胞壁が肥厚 し,VCM耐性が上昇する。この段階では,VCM 感受性株とVCM中程度耐性株(VISA)が含まれ る集団となるが,大多数の感受性株と少数の耐性 株が存在している状態であり,ヘテロ耐性を意味 する。一方,変異を起こした株は,耐性を維持す るために多くのエネルギーを必要(fitness costが 大きい)とする。このため増殖のスピードは遅い。 増殖力の低下は他の菌株と生存競争を行っている 微生物にとっては,大きなマイナスとなるもので ある。 ヘテロ耐性は通常の検査ではVCMに感受性と 判断され,確かに始めはVCMが効くようにみえ る。しかし,実際にはMIC 4あるいは8mg/mLの ポピュレーションを含んでいるから,そうした菌 が生き残り増殖する可能性がある。すなわちVCM に対するMICが4あるいは8m g/mLのMRSAを治 療することになり,病巣内で治療に必要なVCM 濃度が達成されるかどうかの問題となる。 現在,VCMのMICが2mg/mLの株は感受性株 とされているが,これらは臨床効果低下株といえ る。このような株の分離頻度が高い施設では, VCMの長期使用あるいは偏った使用などVCM投 与方法に問題があるか,あるいは院内感染対策に 不備があると考えるべきである。VCMのMICが 2mg/mLの株が分離されている施設では注意が必 要である。 E. coliについては,1990年代の半ばでCEZに 100mg/mL以上のMICを示した株が10%ほどみ られ11,13⬃15),その後低下傾向となった。しかし, Table 46. 各種抗菌薬のParabacteroides distasonis(10株)に対する抗菌力
2002年 度26)お よ び2007年 度31)に 続 き 本 年 度
もCEZ耐性株が認められた。本年度はCEZに対 す るMICが16mg/mL以 上 の 株 が10株 (18.2%) あった。多くがExtended spectrum b -lactamases
(ESBLs)産生菌と考えられ,ABPCに対しても MICが128mg/mL以上の株が20株(36.4%)認め られている。これらの細菌が関与する外科感染症 に対して,ABPCやCEZを使用する場合には注意 が必要である。 本年度分離のP. aeruginosa(18株)について, IPMにMIC 16mg/mL以上の株が3株,AMKに 32mg/mL以上の株が1株,CPFXに4mg/mL以上 の株が2株あったが,3剤ともに耐性の多剤耐性 緑膿菌は認められなかった。またカルバペネム薬 に高度耐性株はなく,プラスミド媒介性のメタロ b -ラクタマーゼ産生株はないと考えられた。尿路 あるいは血液培養からの緑膿菌の感受性34,35)と比 較すると外科領域分離の緑膿菌の薬剤感受性は全 般的に良好である。参加施設において,緑膿菌感 染症の治療に大きな支障はないと考えられた。 緑膿菌以外のブドウ糖非醗酵菌は5株分離され たが,話題となっているA. baumanniiは一次感染 症から1株分離されたのみである。A. baumannii は,研究会開始当時から1⬃2年に1株程度の分離 があるが,増加傾向は認められていない。一次感 染症からの分離が半数程度であり,市中にも僅か に分布していると考えられる。 嫌 気 性 菌 に つ い て は ,Lactobacillus spp., Clostridium spp.およびBacteroides spp.の一部と B. wadsworthiaは,カルバペネム系薬に耐性を示 す36,37)。また,E. lenta, B. fragilisを中心とする
Bacteroides spp., B. wadsworthia, C. gracilisおよ びPrevotella spp.などでは,臨床で使用頻度の高 いセフェム系薬に中等度から高度耐性株が多い。 特にB. wadsworthiaは,腹膜炎などの一次感染 症からの分離頻度が高く,本菌の病態への関与に ついて,臨床面での検討が必要と考えられる。本 菌の分離頻度については,東京以東の病院で低 く,西日本の病院で高い傾向であったが,その理 由は不明である。今後も注目していきたい。 また,Clostridium spp.については,一次感染 症ばかりでなく,術野感染においてもみられてい る38⬃40)。その発症頻度は低いが重篤な外科感染症 であり,十分な認識が必要であると考えられた。 本調査の全集積期間を通じてVCM耐性の腸球 菌やブドウ球菌などは認められていない。しかし, ESBLs産生E. coliやカルバペネム耐性P. aerugi-nosaが僅かながら認められ,さらにBacteroides spp., B. wadsworthiaやPrevotella spp.などのb -ラ クタム薬耐性の嫌気性菌が認められているので, これらの動向には引き続き注意すべきである。 世界各地で様々な型のプラスミド性メタロb -ラ クタマーゼ産生菌の報告がある。日本においては, 緑膿菌が中心であったが,近年,肺炎桿菌を初め としてカルバペネマーゼ産生腸内細菌の存在が報 告41,42)されている。プラスミド性の耐性遺伝子は 菌種を超えて伝播するため,今後も様々な菌種が 耐性遺伝子を獲得していくことが予想される。消 化器外科領域の感染症においては,大きな変化が 生じる可能性があり,注意しなければならない。 謝辞 本研究は,武田薬品工業株式会社の支援のもと に実施した。 文献 1) 由良二郎,品川長夫,石川 周,他:外科感 染症分離菌及び感受性調査(第1報)。Jpn. J. Antibiotics 39: 2557⬃2578, 1986 2) 由良二郎,品川長夫,石川 周,他:外科感 染症分離菌の様相と薬剤感受性の動向(第2 報)。Jpn. J. Antibiotics 41: 361⬃389, 1988 3) 品川長夫,由良二郎,石川 周,他:穿孔性 腹膜炎よりの分離菌とその薬剤感受性。日本 化学療法学会雑誌37: 731⬃743, 1989
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