南北経済における技術政策についての
経済厚 生分析 (1)
I は じめに 北の先進国 と南の発展途上国 との貿易 について考えるときに重要な要素 とし て,技 術 開発 と技術導入がある。一般的に北の先進国はR&D活 動 によって開 発 された新製品を生産 ・輸出 しているのに対 し,南 の発展途上国は生産方法が 標準化 された成熟品の生産技術 を導入 して生産 ・輸出を行なっている。この よ うな貿易構造 を考 える場合,輸 入関税や輸出補助金 といった貿易政策だけでな く,技 術政策 も産業政策 として非常 に重要な もの となる。発展途上国は先進国 か らの技術導入 を促進する政策 を行 なうことによって利益 を得 ようし,先 進国 も途上国の技術導入 による産業流出に対 して新産業創出の R&D活 動 を促進 さ せ ることによって利益 を得 ようとするだろう。 しか し,こ ういった技術政策が 実際 に政策実施国の利益 になるのか,ま たはその利益が貿易相手国の損失のう えに成 り立 っているのか といった経済厚生上の議論 とい うものはまだあまり行 なわれていない。 本論文の 目的は,新 しい産業 を創出する北の先進国 と,低 賃金労働者の存在 とい うコス ト上の優位性 を利用 して北の生産技術 を導入する南の発展途上国に よる動態的な南北貿易モデルを用いて,南 の技術導入や北の新産業創出を促進 させ る技術政策が,南 北両地域の経済厚生 にどのような影響 を与えるかを分析 す ることである。新産業 を創出する北 とその技術 を導入する南による動学的南 北貿易モデルについてはKrugman(1979)以降様 々な研究がなされているが,そ の中で も代表的な ものがGrOssman―Helpman(1991 ch.11)である。Grossman― Helpman(1991)では,新 製品の開発 を行 なう北のR&D活 動 と,北 で生産 されて いる製品の生産方法 を導入する南の技術模倣活動が内生化 されてお り,南 北両 文 良 大彦根論叢 第 335号 地域の技術政策や経済規模の変化が北の技術開発率や南の技術模倣率 に与える 影響が分析 されている。 しか し,Grossman一 Helpman(1991)の分析 は長期的な 均衡である定常状態 に限定 されているために南北の技術政策が両地域の経済厚 生 に与える影響 を分析するには不十分であった。技術政策が経済厚生 に与 える 影響 を分析す るためには,技 術政策 を実施 した後新 しい定常状態へ と収束する までに各変数が どの ように変化 しているか といった移行過程 を明 らかにしなけ ればならない。Helpman11∞3)では,南 の技術模倣活動を外生変数で表 しGrossm触― Helpman(1991)のモデルを単純化す ることによって定常状態への移行過程 を明 らかにす るとともに,知 的所有権の強化 による南の技術模倣活動の抑制が南北 の経 済厚 生 に与 える影響 を比較動学 に よって分析 してい る。本論文 で は, Grossman― Helpman(1991)と同様 に南の技術模倣活動 も内生化 したうえで北の R&D促 進政策 と南 の技術模倣促進政策が南北両地域 の経済厚生 に与 える影響 を分析する。 本論文の構成 は次の ようになっている。 まず次節でモデルの構造 を示 し,続 く第 田節では定常状態 と定常状態への移行過程 を明 らかにする。そ して第IV節 では南北の技術政策 についての比較動学 を行い,技 術政策が両地域の経済厚生 に与える影響 を分析する。本論文のモデルでは南北間の賃金格差の違いによっ て定常状態 における変数の値の導出や移行過程の導出の仕方が異なって くるが, 本稿 では南北 間の賃金格差が大 きい ワイ ド ・ギャップケースに限定 して分析 を 行 なってい く。賃金格差が小 さいナロー ・ギャップケースについては次稿で行 なう。 1 ) 正 モ デ ル 北 と南 の 二 つ の 地 域 か らな る世 界 を想 定 す る。家計 の選 好 と生 産技 術 は北 と 南 で 同 じで あ り, 北 と南 の違 い は新 しい差 別 化 製 品 を開発 す る こ とが で きるか で きな い か の み とす る。 1 ) 本論文のモデルは国際間の資本移動 を認めていない ことを除 きG r O s s m a n H e l p m a n ( 1 9 9 l c h . 1 1 ) と同 じ設定 である。
南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 113 両 地域 の代 表 的家計 は, 次 の ような異 時点 間の効用 を最大化す る ように支 出 の配分 を決定す る。
y = r F θ
一
ρ
( τ
一
け
) 1 。
g [ D ( τ
) ] 】
τ
ρは家計 の主観 的 な割引率 を示す。D(τ)はτ期 における瞬時的な効用 を示 し てお り,次 の ような形で表 される。D ( τ
) = [ メ
告
χ( ブ
) α
り] 1 / α
x ( j ) は差別化製品j の消費量, n は 市場で購入可能な差別化製品数 を表す。 両地域 の家計の直面す る異時点間の予算制約 は次の ような ものになる。 r F θ 一[ 〃 ( τ) 一 〃 ( け) も 『づ( τ ) 】 τ ≦ r F θ ― [ 〃 ( τ) 一 〃 ( け) ] 1 / づ ( τ ) 冴τ 十 力 ( け) , ( 1 = N , S )( 1 )
( 2 ) ( 3 ) iは どの地域 につ いての変 数 で あ るか を示 してお り,Nは 北 ,Sは 南 につ い て の変 数 で あ る こ とを示 す 。Rl(τ)は0時 点 か らτ時点 間の債 権 の市 場利 子 率 を 累積 した もの で あ る。El(τ)とYl(τ)はそれぞれτ時点 にお け る支 出 と要素所得 を,Al(t)は t時 ″点にお い て家計 の保有 す る資産 の価値 をそれぞれ示す。 異 時点 間の効用最大化 に よ り各地域 の消費支 出の経路 は次 の ように求 め られ る。 芋 = か a ( 1 = N , S ) ( 4 ) 汐 は支出の変化(】βケ/勧 )を,メ は 1地域 における各時点 における利子率(=允ウ) を示す。 瞬時的な効用 関数(2)より,差 別化製品jに対する需要 x(j)が次 の ように導出 される。 p(ブ) ε ″(ブ)=メ
告
p(ブ
′
)l ε
り′
p(j)は差別化製品jの価格,E(=EN tt ES)は 差別化製品に対する世界全体 の 消費支出,ε =1/(1-α )>1は 各差別化製品間の代替の弾力性 を表 している。 次 に供給 についての設定 を行 う。生産要素は労働のみであ り,常 に完全雇用 が成立 しているとす る。各差別化製品の生産 に対する単位労働投入量 は南北共114 彦 根論叢 第 335号 通 して1 と仮 定 す る。今 まで生 産 され てい ない新 しい差 別化 製 品 を生 産 で きる よ うになるため には, 事 前 に R & D 活 動 に労働 を投 入 しなけれ ば な らない。 R & D 活 動 は北 の企業 のみ行 うこ とがで きる とす る。既 に開発 されて生産可能 と なってい る差別化製 品 はそれぞれ南北 いず れかの地域 にあ る微小 な単一企業 に 2 ) よって生産され, 差 別化製品企業は独占利潤 を得ることができる。 差別化製品の需要関数 ( 5 ) よ り, 北 の差別化製品企業の利潤最大化価格 p N ぉ ょび独占利潤πN は次のようになる。
pN=_空堂,死N=(1_α )pNttN
w N は 北の賃金率,xNは 北の差別化製品企業 による生産量 を示 している。 南 の企業 は R&D活 動 を行 うことはで きないが,す でに北で生産 されている 差別化製品の生産技術 を模倣することによって差別化製品の生産方法 を習得す ることがで きる。差別化製品の生産方法 を習得 した南の企業は北の企業 よりも 低 い価格設定 を行 うことによって, 北 の企業 を差別化製品の市場か ら排除する ことがで きる。南の差別化製品企業の利潤最大化価格 は南北の賃金格差 によっ て異 なる。南北の賃金格差が大 きい時(ワイ ド ・ギ ヤップケース),南 の企業 は 通常の独 占価格 をつけることによって北の差別化製品企業か ら市場 を奪 うこと がで きる。 この とき南の差別化製品企業の利潤最大化価格 pSと独 占利潤 πS は 次 の ようになる。 πS=(1-α )pS″S (α ttN>切 Sに対 して) (7) xSは 南 の差別化製品企業 による生産量 を示 している。 これに対 し,南 北の賃 2)各 差別化製品企業が独 占利潤 を得 ることがで きる理由は次の ようなことが考 えられる。 技術模範 に費用がかか り,同一差別化製品市場 においてベル トラン競争が行 われるとする と,北 の企業は北ですでに生産 されている差別化製品の技術模倣 を行 なう誘因がな くなる。 なぜ な ら,費 用 をかけて技術模倣 を行 なって も先行企業 との価格競争 によりその価格 は限 界費用 まで低下 して しまい,模 倣費用 を回収す るための独 占利潤 を得 ることがで きないた めである。同様 に南の企業はすでに南で生産 されている差別化製品の技術模倣 を行わない。 このため,技 術模倣 は低賃金生産 により先行企業 を市場か ら排除で きる南の企業が北で生 産 されてい る差別化製品 を標 的 に行 うのみであ り,各 差別化製品は南北いずれかに存在す る単一企業 によって行 われるのである。 が 一 α 〓 p南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 115 金格差力羽ヽさい時(ナロー ・ギ ャプケース)には,(7)の ような利潤最大化価格で は北の限界費用 wNを 上回って しまい,北 の企業 を市場から排除できなくなる。 この とき,南 の企業は北の限界費用 に等 しい価格 をつけなければならない。こ のため南の差別化製品企業の利潤最大化価格 pSと独占利潤 死Sは次のようにな る。 pS=切 牝 πS=11-ギ 争斜)pS″ S (切 N>物 S>α 物ダ に☆寸して) ( 8 ) 次 に,R&D活 動 と技術模倣活動 について考 える。北の企業はこれまで生産 す ることので きなかった新 しい差別化製品を開発するために a/nの 労働 をR& D活 動 に投入 しなければならない。aは R&D活 動の生産性 を表すパラメータで ある。 これ まで北で開発 されて きた差別化製品数 nが 多いほどR&D活 動の生 産性 は再 くなると仮定する。これは研究開発 における学習効果を考慮 している。 北の企業の R&D活 動への参入条件 は次のようになる。 ソN= 物 Nα v N は 模倣 されていない差別化製品の設計図の市場価値 を表 している。これに 対 し,南 の企業 は am/nSの 労働 を技術模倣活動 に投入することによってすで に北で生産 されている差別化製品の生産方法 を模倣することがで きる。amは 技術模倣活動の生産性 を表すパ ラメーターである。R&D活 動 と同様 に技術模 倣活動 にも学習効果が存在 してお り,こ れまで南で模倣 されてきた差別化製品 数 n S が多いほ ど技術模倣活動の生産性 は高 くなる。南の企業の技術模倣活動 への参入条件 は次のようになる。 ツS = 物Sa物 v S は南が技術模倣 した設計図の市場価値 を表 している。 次 に資本市場 における裁定条件 を考える。南北間の資本移動は存在せず,両 地域の資本市場 は分断 されていると考える。家計 は所得のうち支出に使わない 物S QO)
1 1 6 彦 根論叢 第 335号 分 を貯蓄 に振 り分 ける。家計 の貯蓄 は債券 を購入す るか,企 業の発行す る株式 を購入するとい う形で行 われるために,資 本市場 における裁定 によって各地域 における債権の市場利子率 rN,rSと両地域の各企業が発行する株式か ら得 られ る収益率 は等 しくなる。一方,北 と南の企業は資本市場 に株式 を発行すること によって,R&D活 動 と技術模倣活動 の資金 をそれぞれ調達 し,差 別化製品の 販売 によって得 られる独 占利潤 によって配当 を支払 う。 このため,両 地域の各 企業が発行す る株式の価値(各企業の保有する設計 図の価値 v)は差別化製品生 産 による独 占利潤の現在価値 に等 しくなる。南の資本市場 における裁定条件 は 次 の ようになる。 ギ 十ギ = が Q D ( 1 1 ) の右辺 は債券の市場利子率 を示 している。( 1 1 ) の左辺は南の企業の発行す る 株式の収益率 を表 してお り, 第 一項は瞬時的な利潤率 を第二項は株式のキャピ タル ・ゲイ ン(Orロス)を表 している。一方,北 の企業は南の企業の技術模倣 に よって生産 している差別化製品の市場 を奪 われるリスクに直面 している。 この ことを考慮する とき,北 の資本市場 における裁定条件 は次の ようになる。 ギ 十ギ ー 写 =γN Qの nNは 模倣 されず に北で生産 されている差別化製品数 を表 してい る(n=nN十 nS)。(12)の左辺 は技術模倣 される リスクを考慮 した北 の企業の発行す る株式の 収益率 になってい る。(12)の左辺第一項 は瞬時的な利潤率 を第二項 はキヤピタ ル ・ゲイ ン(Orロス)を表 している。第三項 は北の企業が南の企業 による技術模 倣 によって独 占利潤 を失 う確率 を表 してお り,北 の企業の株式が持つ リス クを 表 している。 最後 に財市場 と労働市場の均衡条件 について述べ る。差別化製品に対す る需 要関数(5)より,各 差別化製品についての需給均衡条件 は次のようになる。
(pり
ε
ゴ
θ夕・ ==物XpS)1 ε十″V(pN)1 ε
'
( 1 = N , S )南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 117 北 の労働 市場 の完全雇用条件 は次 の ようになる。 a 抗 十 物N ″N = あ ' V ( 1 4 ) 物 LNは 北の労働賦存量 を表 している。(14)の左辺の第一項 はR&D活 動 に投入 され る労働量,第 二項 は差別化製品生産 に投入 される労働量 を表 している。最後 に 南 の完全雇用条件 は次の ようになる。 →静竿花S 十 物S ″S = L S ( 1 5 ) L S は南の労働賦存量 を表 している。(15)の左辺の第一項 は技術模倣活動 に投入 される労働量,第 二項 は差別化製品生産 に投入 される労働量 を表 している。 皿 定 常状態と移行過程 (ワイ ド・ギャップケース) この節では,ワ イ ド・ギャップケースにおける南北経済のダイナミクスと定 常状態を明らかにする。 南北間での資本移動が存在 しないと仮定 しているため,両 地域の貿易収支は つねに均衡する(プ =が pN覚Ⅳ,『S― 物駒場S)Oま た,南 の労働賃金をニュメ レール(wS=1)と する。 南の企業の技術模倣活動 による南で生産 される差別化製品数 nSの増加率 を 南の技術導入率 gS=あS/物Sとすると,(7),(15)と貿易収支均衡条件』S=%駒 S ″Sよ り,南 の技術導入率gSは次のようになる。 gs=_生ユ_ α『 S (16) の物 a物 (4),(7),(10),(11)および貿易収支均衡条件βS=物 駒場Sよ り,南 の家計の 支出ESに ついての微分方程式が次のように導出される。
デ=工
場4-9S―
ρ
Qの
(16)と(17)をよ りgSと ESに ついての運動様式が導出される。騒 ピ ト r l ト ー ー ー ー ー ー ー 彦根論叢 第 335号 第 1 図 LS/a物 第 1 図 はgSと ESの 運動様式 を図解 した ものである。屈折 した曲線 LLは (16) を満 たす gSと ESの 組み合 わせ を示 している。(16)は生産要素使用 に関す る制 約 を表 してお り,南 の経済はこの曲線上の点のいずれかにいなければならない。 E E と 記 された直線 は(17)よりβS=0を 満たす ESと gSの組み合 わせ を示す。
直線EEよ り上部の点ではESは増加 し●S>0),直 線EEよ り下部の点ではES
は減少する●S<o)。 南の経済が曲線LLと直線EEの 交点E十にあるとき,南
の経済は技術導入率gSと支出ESが一定の値をとりつづける定常状態になる。
南の経済的主体が合理的な期待 を持つ とき,南 の経済は初期時点の状態 に関 わ らず即座 に定常点 EⅢにジャンプすることになる。 もし,定 常点 よりもgSが 小 さ く直線 EEよ りも上部 に南の経済があるとすると,曲 線 LLに 沿ってgSは 徐 々に小 さ くなって最終的にゼ ロとな り, ESは どんどん増加 していって無限 大へ となってい く。 しか し,貿 易収支均衡条件 『S=物 SpttSを考 えると,gS がゼ ロ とな りnSが増加 しな くなるとき,ESが 無限大へ と近づ くためには各差 別化製品の生産量 xSが 無限大へ と増加 しなければな らないが,労 働市場の制 約 を考 えるとこれは実現不可能である。 このため,南 の経済主体が合理的期待南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 119 を持 つ とき,こ の経路 は実現 され ない。反対 に,定 常 点 よ りもgSが 大 き く直 線 E E よ りも下部 に南 の経 済が あ る とす る と,曲 線 LLに 沿 って gSは 増加 して い きESは ゼ ロヘ と収 束 してい く。 しか し,効 用最大化 を行 な う家計 に とって これは合理 的 な行動 で はない。 このため,南 の経済主体が合理的期待 を持 つ な らこの経路 も実現 され ない。唯一残 されてい る可能性 は,南 の経済が即座 に定 常 点 E * に ジ ャ ンプ して永 久 にその位 置 に留 まる こ とのみであ る。以上 の分析 よ り,ワ イ ド ・ギ ャ ップケース において南 の経済 は北 の経済 の状態 に関係 な く 定常状 態 にな る こ とが わか った。定常点 にお ける南 の技術 導入率 は(16)と( 1 7 ) よ り,次 の ようになる。
JS=(1-α)三
生
≧_αρ (18)
a物 次 に北の経済 についての均衡動学 を考 える。 R&D活 動 による入手可能な製 品数 nの 増加率 を技術 開発率 g=あ /物 とす る。南で生産 されている差別化製 品数 と北で生産 されている差別化製品数の比率 物S/%N=ζ とす ると,北 の企 業が南 の企業 の技術模倣 によって独 占利潤 を失 うリス クはが /%N=gSζ とな る。 これ らの こ とと (4),(6),(9),(12),(14)および貿易収支均衡条件 コV三 掬 場Nよ り,技 術 開発率 gに ついての微分方程式が次の ように導出される。う= 1 里
; 生
- 9 ) 1 つ
十σS ` 十θ- 1 α
l l デ
生_ θ
l 1 1 + ζ
l l 1 9 1
σ
Sは(18)で
示された南の技術導入率gSの定常値である。gSは北の経済状態に
関わらず常に定常値をとるので定数として扱うことができる。一方,南 北両地
域で生産されている差別化製品数の比率 ζ=物S/物Nについての微分方程式は
次のようになる。
キ=uS―
。
Xl+0
120) (19)と00)よりgと ζの運動様式が求められる。このシステムではgが操作変数, ζが状態変数 となる。彦根論叢 第 335号 第 2 図 」S ( 1 _ α ■ _ α ρ a
第2図はgと ζについての位相図である。(19)よ
りう=0の 曲線が次の式によっ
3 )て与えられる。
三生
毛言
生
{ + _ ダ
x l + 0 = ρ
十え 十g O D
また,00)よりζ=0の 曲線が次の式によって与えられる。
g = 」S 三(1-α)一
二生_ αρ 122)
a物 二つの曲線の交点 Aよ り,定 常状態 におけるgと ζの値が導出される。gと ζ は図の矢印で示 されているサ ドルパスに沿って定常状態へ と収束する。状態変数ζが定常値ζより小さい(大きい)場合,gと ζは増加(減少)しながら定常値」
とζに収束していく。定常値」とζの値は(21),②
2)より次のようになる。
」= J S = ( 1 - α) 一
二生_ αρ, ξ=
a物いα
)1耕
―
ギ)
α
ρ
―
位―
α
X : 身
伊
一
二
を
二
)
123) 3)(21)よ りg=LN/aも gi=0を 与 えるが,位 相図か らは省略 している。南北経済 における技術政策 についての経済厚生分析 (1) 121 Ⅳ 技 術政策の経済厚生分析 (ワイ ド ・ギャップヶ―ス) 前節 までのモデルを用 いて,南 北の政府が R&D活 動や技術模倣活動 を促進 させ る政策が両地域 の経済厚生 に与える影響 を分析する。北の政府が R&D活 動 にφN× 100%の 補助金 を支給する政策を行 うとする。このとき,R&D活 動 への参入条件(9)は次のようになる。 杉が=(1-φ N)が a eつ 南の政府が技術模倣活動 に φS× 100°/0の補助金 を支給す る政策 を行 うとする と,技 術模倣活動への参入条件(10)は次 の ようになる。
ν
S = いφS)散 cD
e4)と
(25)を
考慮すると,定常状態におけるσとての関係を表す式01),(22)は
次のようになる。―
上
宕
│ ≧
{ ヰー
引
岩永= ρ
十
いЭ
σ
(1-α )あS― αρ(1-φ S)a物06)
27)
σ=」S=
の物[1-α 十 (1-φ S)α]初期時点においてφN,φS=0と 仮定 したうえで(26)と
27)を用いて比較静学を
行なうと両地域の技術政策が定常値あ σS,6に 与える影響についての定理が
導出される。
定理 1(Grossman=Hdpman(1991 ch.11》
ワイ ド ・ギ ャ ップヶ―ス において称 =耕=は
禄 <α
綜 =器>α
禄 >o
証 明はAppendixに 示す。両地域 の技術政策が経済厚生 に与 える影響 を分析1 2 2 彦 根論叢 第 335号 す るため には,定 常値 の変化 だけで な く政策 を実施 してか ら新 たな定常状態ヘ 収束す る際 に各変数が どの ような経路 をた どるか を考慮 しなけれ ばな らない。 定常状 態 にお い て技術 政策 を実施 した とす る と,各 変数 の経路 の変化 は次 の式 に よって求 め られ る。
約と
試1 _ 剃券
溺φ0 にし】電 的 ( け) 悔 ‐ Aθ フ 溺φつ 】φ・ 溺 φ・ 】gS(け) α g 】φ2 冴φι 128) 129) G0 A > 0 , 九 > 0 , i = N , S で ある(Aと えについてはAppendixを参照)。 定理 1 と (28)一( 3 0 ) より,北 の R&D促 進政策が各変数の経路 に与 える影響 に ついて次の定理が得 られる。 定理 2 ワイ ド・ギャップケースにおいて経済が定常状態 にある時,緋 < 0 佐だ
け 0 の
喘
点
を
除
0
緋 刈 佐だ
け ∞
の
喘
点
を
除
0
緋 = 0 定理 1と 定理 2よ り北の R&D促 進政策が各変数に与える影響が明 らかになっ た。R&D活 動 に対する補助金 はR&D活 動 に対するインセ ンティブを与えるた め,政 策実施直後 は北の技術 開発率 を上昇 させ る(的 (0)/】φN>0)。 その一 方で,南 の企業の行動様式は北の政策によって影響 されないために技術導入率 gS は政策実施以前の値 をとりつづ ける。 このため,ζ の運動式(20)に従 って ζの南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 123 値 は低 下 してい く。 これ によって北の企業の独 占利潤 に対す るリス クが /物N = θS ζは低下す る。 リスクの低下は直接的にはR&D活 動 を促進 させる効果が あるが,北 で生産する企業数の増加は 1企 業当た りの生産量の減少 をもたらし, 差別化製品生産 による独 占利潤 は低下 してい く。 このため, R&D活 動 に対す るインセ ンテ ィブは徐 々に低下 してい き,最 終的に技術開発率 gは 政策実施以 前 の値へ と収束 してい く。 同様 に して,南 の技術模倣促進政策が各変数の経路 に与 える影響 について次 の定理が得 られる。 定理 3 ワイ ド・ギャップケースにおいて経済が定常状態 にある時,
緋 刈 佐だ
け 0 の
時
点
を
除
0
0 Q 争 求 ず夕解│ < α 的 < 韓 いてす親解ユ 刈 ( 0 < t * < O O ) 響 > 0 南の技術模倣促進政策は技術模倣活動 に対するインセ ンティブを与える。南 の経済 は定常状態へ と即座 にジャンプす るため,南 の技術導入率 gSは一瞬に して新 しい定常値へ とジャンプす る。gSの上昇 は ζの上昇 をもたらし,こ れ に よって北 の企業の独 占利潤 に対す る リス クあS/%N=ダ ζは上昇する。 リス クの上昇 は,直 接 的には北の企業の R&D活 動 に対す るインセ ンティブを弱め るため に,政 策実施直後 は北 の技術 開発率 は低下す る(の (0)/αφざ<0)。 し か し,技 術模倣 されるリスクの上昇 はその リスクを逃れて生産する北の企業の 生産量の増加 をもたらすために,北 で生産する独 占利潤は徐々に増加 してい く。 このため技術 開発率 gは 徐 々に上昇 してい き,や がて政策実施以前の水準 を上124 彦 根論叢 第 335号 回つて新 たな定常値へ と収束 してい くのである。 次 に両地域 の経済厚生 について考 える。(2)と(5)より各時点 における各地域 の間接効用関数は次の ようになる。 10g Di=log Ei-log P(1=N,S) 131) Pは 差別化製品消費 に関する価格指標で次の ようになる。
卜 沖
→
│ キ
い
十
ネ
ガ
→
ド
の
貿易収支均衡条件ゴ =〃り物
N,どS=物物物S,労働市場均衡条件(14),(10と
Gl),
G2)より各時点における各地域の効用水準は次のようになる。
げ =主唯が主 瞳lキ十
綱 引
声
1
+ b g ( 1 - →
挙
│ ) G 〕
log DAS=去
瞳が去 唯iキ1引
オ■岳 1
判坤一ギ ) 側
(6),(7),(13),(14),(15)より,交 易条件 pN/pSは 次の ようになる。耕= が
= び比θ
三
十 G D
異時点 間の効用関数( 1 ) より, 技 術 政策 による両地域 の効用水準 の現在価値 の変化 は次の ようになる。緋
= r 静抑
響
内
j = ヽ動 働
Helpman(1993)が指摘 す る ように,技 術 政策が各地域 の効用水準 に与 える影 響 としては, 4つ の経路が考 えられる。 この ことを考慮 して技術政策が各地域 の経済厚生 に与 える影響 を次の ように分解する。緋
= キ
仏% 十紛 十式, ただし堪= 虻 十生
仇 王 葛需声メ害θ " b g 物 ●洵期=ギ
署録│メ
害
が)t幹抗
,
婿≡
掃 用が″
緋 勧
用が例
緋 勧
137) 138) Gの △ζ≡ θα-1 140) (1+ζ θα)(1+ζ )ぱ三
七か用が″
bg[1-兜
パ
t)1冴
け
,
ぱ≡
栃 メ
ル呵1-ギレ ω
θは定常状態 における θの値 を示す。 △%は 消費者が入手で きる差別化製品数 nの 変化 による経済厚生の変化 を表 してい る。北の R&D投 資が活発 にな り技術 開発率 gが 上昇すると,両 地域の 家計 が入手 で きる差別化製品数 nが 増加 して両地域 の経済厚生 は上昇す る。 式 (j=N,S)は 貯 蓄(支出)率あ 変化 による経済厚生の変化 を表 している。南北 間の資本移動 は存在 しないために,R&D活 動 と技術模倣活動 に関す る投資 は 国内の貯蓄 を用 いて行 なわれる。 このため,R&D活 動 や技術模倣活動 の拡大 は貯蓄の増大 を必要 とし,消 費支出の低下 による各地域の経済厚生の低下 を伴 う。△%と ぱ は北 における異時点間の資源配分 に関する経済厚生の変化 を表す もの と考 えることがで きる。北の R&D投 資の拡大 は将来 において消費で きる 差別化製品数の増加 とい う利益 をもた らす反面,消 費支出の低下 によって現在 4)北 の総支出は EN=nNpNxNで ぁるため,労 働市場均衡条件(14)より北の一人当た りの支 出は pN(1_ag/LN)と なる。 この とき,ag/LNは 貯蓄率 (投資率)を 表す。南 について も同様 である。126 彦 根論叢 第 335号 における効用水準 を引 き下げる効果を持つ。このため, R & D 投 資の拡大が北 の経済にとって利益 になるのかどうかはこれら二つの効果のいずれかが大 きい のかを考えなければならない。 次に, 尾 ( j = N , S ) は 入手可能な製品数n と貯蓄率を所与 とした実質支出( E
/P)の変化に伴う経済厚生の変化を表している。△をはさらに交易条件の変化
に よる影響 △とと,差 別化製品生産の国際的配置の変化 による影響 △ζに分解 される。交易条件 p N / p S の 変化 による影響 は静態的な貿易モデルで用 い られ る利益 と同 じものである。すなわち, p N / p S の 上昇( θの上昇) は北の経済厚生 を高める一方で南の経済厚生 を引 き下げる。一方, 差 別化製品生産の国際的配 置の変化 による影響 は, 南 北で生産 される差別化製品数の割合 ζの変化が両地 域 の経済厚生 に与 える影響である。ζの上昇 は相対的に低賃金である南 におい て生産 される差別化製品の割合が増 えることを意味 してお り, こ のことは両地 域 の消費価格水準の低下 を通 じて両地域の経済厚生 を上昇 させ る。反対 にζの 低下 は両地域 の経済厚生 を低下 させ る。定理 1-3お よびG7)一は1)を
用いて両地域の技術政策が経済厚生に与える影
響について分析する。まず,北 のR&D促 進政策について次の定理が成立する。
定理 4 ワイ ド ・ギ ャ ップケ ース の定常状 態 にお いて,北 の政府 が R&D活 動 に 補助 金 を支給 す る政 策 を行 う と き, 南 北両地域 の経 済厚 生 は上昇 す る。 証明はA p p e n d i x で示す。北の R & D 促 進政策が,先 に述べた 4つ の経路 に与 える影響 を第 1表 に示す。 定理 2 で 示 した ように,北 の R&D促 進政策 によって技術 開発率 gは 政策実 施直後 に大 きく上昇 し,そ の後時間の経過 に したがって徐 々に政策実施以前 と 同 じ値へ と収束 してい く。北の家計 にとって技術 開発率の上昇は,消 費で きる 差別化製品数 nの 増加 を通 じて経済厚生 を増加 させ る(△竹>0)一 方で,消 費支 出の減少 による経済厚生の低下 ももた らす(△ざ<0)。 しか し,前 者の効果が後南 △ 竹 + 十 △ θ + △ ` △s 0 】し(0)/】 めダ 十 十 南北経済における技術政策 についての経済厚生分析 (1) 第 1 表 者のそれ を上 回るため(△物/(ε-1)十 △ざ>0),R&D促 進 は異時点間の資源 配分の面か ら見 て北の経済厚生 を上昇 させ る。一方,実 質支出の変化 について 考 える と,R&D促 進 による北で生産 される差別化製品数の割合の上昇(ζの低 下)は,北 の家計 に交易条件 の改善 による利益 をもた らす一方で消費価格水準 の上昇 による損失 ももた らす(△ぢ>0,△ `<0)。 しか し,こ れ も前者の効果が 後者のそれ を上 回るために北の家計の実質支出の変化 は北の経済厚生 を上昇 さ せ る(△丁=△ ど十 △`>0)。 異時点間の資源配分 と実質支出の変化のいずれ も 北の経済厚生 を上昇 させ るために,R&D促 進政策 によって北の経済厚生は上 昇す る。 南の家計 は,北 の R&D促 進 によって消費で きる差別化製品数の増加 とい う 利益 を得 る(△%>0)が ,反 面 ζの低 下 に よる実質所得 の低 下 を被 る(△じ= △】十 △ζ<0)。 しか し,前 者の効果が後者のそれを上回るために南の経済 も 北の R&D促 進政策 によって利益 を得 る。 次 に南 の技術模倣活動 に対する補助金政策が南北両地域の経済厚生に与える 影響 については次の定理 を得 る。 定理 5 ワイ ド ・ギャップケースの定常状態 において,南 の政府が技術模倣活動 に対 して補助金 を支給するとき,両 地域の経済厚生に与える影響は不確実 である。 しか し,政 策実施時において南で生産 される差別化製品数の割合
が非常 に少 ない とき(ζがゼロに近い と て両地域の経済厚生 は上昇する。 き)ヤこは, 技術模倣促進政策 によっ 彦根論叢 第 335号 証明はA p p e n d i x で示す。南 の政府 による技術模倣促進政策が両地域 の経済 に与 える影響 を第 2 表 に示す。 第 2 表 南 △ 竹 十 十 △θ 十 △ ζ 十 十 △s αし(0)/溺φS 十( ζ→ 0 ) 十( ζ→ 0 ) 南の技術模倣促進政策 によって,技 術 開発率 gは 政策実施直後 には低下する が,徐 々に上昇 してい き,や がて政策実施以前の値 を超 えて新 たな定常値へ到 達す る。 このため,各 時点 において入手で きる差別化製品数 n(t)は,政 策 を 実施 しなかった場合 と比べ て短期 的には少 な くなるが, 長 期 的には多 くなる。 入手で きる差別化製品数 nの 変化が両地域の経済厚生 に与える影響 を考 える場 合 には,短 期的な製品数の伸 びの鈍化 による損失 と長期的な製品数の伸 びの上 昇 による利益 の どち らが大 きいか を比べ なければな らないが, 後 者の方が大 き いために技術模倣促進政策 による差別化製品数 nの 変化 は両地域の経済厚生 を 上昇 させ る効果 を持つ(△%>0)。 R&D投 資の変化 に伴 う家計の貯蓄率の変化 は,北 の家計 の効用 を低下 させ る効果 を持つが(△ざ<0),R&D促 進政策の分 析 と同 じく入手で きる差別化製品数の変化 による利益 の方が上 回る( △% / ( ε― 1 ) 十 △ざ>0)。 このため,北 の異時点間の資源配分の変化 は,北 の経済厚生 を 上昇 させ る。一方,南 の技術模倣促進 による南で生産 される差別化製品数の害J 合 の上昇(ζの上昇)は,消 費価格水準 の低下 によって北の家計 に利益 をもた ら す反面,交 易条件の悪化 による損失 ももたらす(△ぢ<0,△ ζ>0)。 北が南の技
南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 129 術模倣促進政策 によって利益 を得 るためには,こ の交易条件悪化 による損失が 十分小 さ くなければならない。ζが非常 に小 さくゼロに近い値 をとる場合,価 格指標 に占める南の差別化製品の割合が非常 に小 さ くなるため, 交 易条件悪化 による損失が非常 に小 さ くなる。 このため,ζ がゼロに近い値 をとる場合 には 南 の技術模倣促進政策 によって北の経済厚生 は上昇す るのである。 南 の経済 について考 えると,技 術模倣促進 によるζの上昇 は実質支出の増加 を通 じて南の経済厚生 を上昇 させ る。 しか し,北 の貯蓄率 は政策直後 に一度低 下 してか ら徐 々に上昇 して新 しい定常値 に収束す るのに対 し, 南 の貯蓄率は政 策実施直後か ら新 しい定常値 に上昇す るために, 貯 蓄率の変化 による経済厚生 の損失 は南の方が大 きくなる(△ざ>△ S)。貯蓄率上昇 による南の経済厚生の損 失 は入手で きる差別化製品数 n の 変化 による利益 を上回つてお り( △竹/ ( ε- 1 ) 十 △ざ<0),技 術模倣促進政策によつて南の経済厚生が上昇するためには,実 質支出増加 による利益がそれ を上 回つて大 きくなければな らない。ζが非常 に 小 さ くゼロに近い値 をとる場合, 価 格指標 に占める北か らの輸入差別化製品の 割合が非常 に大 き くな り交易条件改善の利益 が非常 に大 きくなるため, ζがゼ ロに近い値 をとる時 には技術模倣促進政策 によって南の経済厚生は上昇する。 ワイ ド ・ギ ャップケースにおける技術政策の経済厚生効果 についてまとめる。 北 の R & D 促 進政策 は両地域 の経済厚生 を上昇 させ る。北 は R & D 促 進 による 差別化製品数増加の利益 と実質支出の増加が重 なることによって利益 を得 る。 南 は実質支出の低下 によって損害 を被 るが,差 別化製品数増加 によって実質支 出の低下 を補 って余 りある利益 を得 る。 その一方,南 の技術模倣促進政策 については,必 ず しも両地域の経済厚生 を 上昇 させ るわけではないことが明 らかになった。それぞれの地域が技術模倣促 進政策 によって利益 を得 るか どうかは,南 で生産 される差別化製品数の比率 ζ の値 に依存す る。南の経済規模(労働賦存量)が大 きくζが十分大 きな値 をとる 場合,両 地域 とも技術模倣促進政策 によって損失 を被 る可能性が高 くなる。北 の経済 について考 えると,南 の経済規模がある程度大 きく南か ら輸入する差別
彦根論叢 第 335号 化製品の割合が大 きくなると,南 の技術模倣促進政策 による交易条件悪化の影 響が大 きくな り,長 期的なR&D活 動の活発化 による利益 を打 ち消 して しまう 可能性がある。反対 に南の経済か ら見た場合,技 術模倣の促進は実質支出の増 加 とい う利益 を もた らす一方で,技 術模倣投資 の増加 にともな う支出率減少 ( 貯蓄率上昇)とい う損失 ももた らす。技術模倣促進 は,長 期 的には北の R&D 活動 を活発化 させ差別化製品数の増加 とい う利益 をもた らすが,短 期的にはR & D 活 動 を阻害す る効果 をもってお り,こ のため差別化製品数の変化 による利 益 は支出率減少 による損失 を埋めるほど大 きなものではな くなる。そのため, ζの値が大 き く交易条件改善 による利益が余 り大 きくない場合,南 の経済は技 術模倣促進 によって損失 を被 る可能性があるのである。 Appendix A.特 性根 と特性ベ ク トル
(19),00)で
示されたgとζについての微分方程式体系の特性根と特性ベクトル
を求める。(19),(20)を
定常点近傍で線型近似すると次のようになる。
[ j l = 1 混
1 概
‖
j 琴1 低
D
_ α ρ ρ 十(1+ζ )。 ただし a 1 2 = ζ( 1 + ζ) , a 2 1 1 _ α ( 1 + ζ ) 2 , a22= 1+(1-α )ζ ρ十(1+ζ )。 1 - α (1+ζ ) (A.1)の右辺の行列 についての行列式 は負であるため,lA.1)で示 された微分方 程式体系の特性根 は正 と負の二つの解 を持つ ことになる。長期的に定常点に収 束す る経路 を得 るためには,正 の特性根 についての積分係数はゼロでな くては な らない。 またgは 操作変数,ζ は状態変数であるため,負 の特性根 について の積分係数 はゼロ時点 におけるζの値が任意の初期値 と等 しくなるようになら なければな らない。 これ らの ことよ り,gと ζの微分方程式の解 は次の よう になる。南北経済における技術政策についての経済厚生分析 (1) 131
ζ( け
) = ζ十[ ζ
( 0 ) 一
ζ形
乃
l A . 2 )
。( け
) = 」十[ ζ
( 0 ) ―
[ ] A が
施 l A . 3 )
一九は負の特性根 を示す(九>0)。 [1,A]Tは 負の特性根 についての特性ベク トル を示 している(A>0)。 九 とAは 次 の ように導出 される。lA.1)の 右辺の 行列 よ り,特 性方程式 は″2_a2冴 a12021=0と なる。 この解,す なわち特 性根 は次の ようになる
の
2 2 土
ハ
/ a 2 2 2 + 4 a 1 2 a 2 1
″ = これより,負 の特性根 一九は次の ようになる。 親 = 翌 塑 ぢ 翌≧ , た だ し β = 彬 十 軌 刀独 > 0 lA.4) lA.5) >0 ( 証明終 わ り) lA.1)の右辺の行列をAと すると,一 九の特性ベク トルが[1,A]Tで あるとき A[1,A]T=一 九[1,A]Tと なる。このことより A = ― 上 生 = a 1 2 a 2 2 』 2a12 となる。 後の証明のために, A に ついて次の レンマを導出 してお く。 レンマ。 l A > ( 1 + ζ ) 2(証明)lA.5)よりA>α ρ/(1+ζンとなる必要十分条件はB2>[a22+2ζαρ
/(1+ζ)]2で
ぁる。lA.1)と
lA.4)よ
り
プレ十絡 F=
となる。ゆえにA>α ρ/(1+ζ )2でぁる。 レ ンマ . 2 A < 型 軽 そ 圭 幸│132 彦 根論叢 第 335号 (証明)lA.4),lA.5)よりA<α (ρ十 九)/(1+ζ )2となるための必 要十分条件 はB 2 < [ a 2 2 + 2 ζαρ/ ( 1 + ( 1 - α ) ζ)] 2 でぁる。l A . 1 ) とl A . 4 ) より
プー
レ十 F = ― < o
となる。 ゆえに A < α ( ρ十 九) / ( 1 + ζ )2でぁる。 (証 明終 わ り) B . 定 理 1 の 証 明 定 常状 態 にお け る関係 式( 2 6 ) , ( 2 7 ) より, 定 常状 態 につ い ての比較 静学式 が次 の ように導 出 され る。l 払
湯
2 1 に
そ
1 = [ 号
サ
l た
だ
し
, b 独
= 半, b 2 2 =
者
ギ
lA.6) lA.6)の 右 辺 のベ ク トル は R&D促 進 政 策 を行 な うか,技 術模 倣促 進 政策 を行 な うか に よって次 の ようになる。 ( R & D 促進政策) [ 号 歩1 = [ ρ十( ! 十ζ) θl αが 飾 模倣促進嘲 1 劇三 F 位 ― α l 計 十ρ) 1 湧φs これ らの式 を用いて比較静学 を行 なうと次のような結果 を得 る。 彼 &D促 進嘲 禄 =軌 禄 ― 防 … 伽 +0<0 1A.7) 彼 術模倣促進政刺 屯著│ 三 α位 ―α) 1 坊〉十ρl > α南北経済 における技術政策 についての経済厚生分析 (1 ) 1 3 3 >0
いα
X号
チ
│十
ρ
Xl+02
溺ζ 冴φS これで定理 1が証明された。 lA.8) (証明終 わ り) C . 定 理 2 , 3 の 証 明08)-00)と
lA.のより定理2は容易に証明される。
同 じく1 2 8 ) ―1 3 0 ) とl A . 8 ) より】ζ(渉) / 】φS > 0 ( た だ し,t=0の 時点 を除 く)と, 匂S ( け) / 】φS > 0 , ( t ≧ 0 ) は容易 に示す こ とが で きる。的 (け)/】φSに ついては 定理 1 よ り物 (OO)/冴φS > 0 で あ る こ とはわか ってい る。 また(29)とl A . 8 ) より緋 = 株―
A 禄
=位
―
α
X券十
ρ
‖
α
一Aい021<0
( ・. ・レンマ。1 ) l A . 9 ) となる。物 (0)/溺φS<0,的 (OO)/】φS>0と 129)より定理 3が 得 られ る。 (証明終 わ り) D.定 理 4の 証 明01),08)-00)と(37)一
は1)およびい。7)より次のようになる。
> 軌
ξ
ρ
2(ρ
十九)
θ
α-1 [ρ
十(1+ζ)」
テ
]九
<0
( 1 + ζ
θα) ρ 2 ( 九
十ρ)
(1+ξた才え[ρ
tt α
(1+ξ)J]
> 0 ,(1+ξθ
α)ρ
2(九十ρ)
△物= △ζ= 翠 =△」=― <o
134 彦 根論叢 第 335号
ぱ= 一
三
生
老
声
生_ 縁
萩袴戸
< 0 , パ
= 0
】択 0 ) l α 九 ( 1 義 竿 巻 学 生 > 0 冴φN α ρ 2(ρ十 九) lA.10)湖 0 的
2 九
刈
αφⅣ α ρ 2(九十ρ)
lA.11) lA.10)と lA.11)よ り定理 4が 得 られ る。 (証明終 わ り) E.定 理 5の 証 明01),08),C9),G8)と
lA.8)よ
りは次のようになる。
あ= ρ2 1 : 与
〉
十
ρ
‖
α
- 1 仏 ・
9
レンマ. 2 よ り△% > 0 と なる。の1),C8)一
(30),G9)と
lA.8)よ
り△
ぢは次のようになる。
期= 韓 学 1 嚇十ρ
) 半
[ キト
ー
名幹 │ ―
船 融
―
キ l
lA.13) レンマ, 2 よ り箸11
1-1+ζ l・(ρ 十九)α l ρ (1-a)(ρ 十九) < 1 - 一南北経済 における技術政策 についての経済厚生分析 (1)
1
-(ρ 十 九)α ρ (1-α )(ρ 十 九) < ― < o (1+ζ ) lA.14) lA.16)となるために△ぢ< 0 となる。
0 1 ) , 0 8 ) - 0 0 ) , は
0 ) , は
1 ) と
l A . 8 ) よ
り
ぱ―上汗判耕十ρ
)
< 0 θα-1 (1+ζ )九(1-α ) △ζ三1坊十
ρ
)>0仏・
0
[ρ十(1+ζど]
トー 1
となる。 l A . 1 2 ) とl A . 1 6 ) より 芋 丁 △物十 ぱ = 連 岳 ダ 判 耕 十 ρ‖α - 1[ 十
一
耕 報万1
= 半 じ刺ず 押 ll学初 持 l
> 0 的
> 位α
) ギ
ー
α
ρ
) 仏 ・
0
1 A . 1 3 ) , l A . 1 5 ) より△
ぢ
十
△
が
==戸
ギ
督
渉
戸
キ 十
れ
― │ ――
十
た
だ
L 昆= 卜
1 - α1 3 6 彦 根論叢 第 3 3 5 号
ξ→0 , θ
→O O の
とき「θ
→( 1 - α
沈/ ρ
( ρ
十九) > 0 と
なる。このこととl A . 1 7 )
よりて→0のときdUN(0)/dφ
S>0と なる。
一方,(21),(28)一
(30),G9)一
は1)と
lA.8)よ
り
婿―ギ栃七判券十ρ
) 両
歳ガ芋
│ キト毛幹 │ ―
侶 品
一 キ l > 0齢 却
け
排
勧=
lA.18)△
ど=
θα- 1( 1 + ζ
θ
α) ( 1 + ζ
)
て( 1 + ξ
) 2 A ( 1 - α
)
1綜十
ρ
)>0
ρ2 ( 九十 ρ)△
『= ぁ
s/a物
―
一
」
rttθ
p r 的 勧 = _ lA.19)克
; 〉
十
ρ
)
< 0 低 劾 0 3 ) からL S / a m 一g = L N / a g t t αρζ/ ( 1 - α) ( 1 + ζ) となることから, ( 2 1 ) , l A . 1 2 ) とl A . 2 0 ) より土△
%十
ぱ=1宅
争
〉
十
ρ
)
(1_α)2[α
ξ
ρ
g―[(1+ζ)ρ
十〔
1+(1-α )ζ
}σ
]九]
αξρ2(ρ
tt」
)(ρ十九)
lA.21)となる。これとlA.4)よ
り△
% / ( ε
- 1 ) 十
△
ざ< 0 となる。
lA.18),lA.19),lA.21)よ りζ→ 0,θ→ OOの とき ( 1 - α ) ρ弓鮮→
モ
揚
テ
ゴ
誓
チ
試
券十
ρ
‖
α
一
柑 l>0
南北経 済 における技術政策 についての経済厚生分析 (1) 137
ゆえにて→0のときUS(0)/dφ
S>0と なる。
( ・. ・レ ンマ. 2 ) ( 証明 終 わ り) 参考 文 献 G r o s s m a n = H e l p m a n ( 1 9 9 1 ) 文れ物ουa れοt t a 句冴 C 仰 切けん / i m けんθ C ιοb a ι βc οt t ο物グ. T h e M I T PressHelpman(1993)HInnovation, Imitation, and lntellectual Property RightsⅢ βcoヶみο%均例γづca, (61),1247-1280
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