113 臨床報告 ( 東 女 医 大 誌 第55巻 第10・11
号
)
頁 1015-1017 昭和60年11月マ
ダ
ニの
皮膚寄生例
東京女子医科大学 第二病院皮膚科 (部長 平野京子教授〉 ヌ カ ダ ス ミ コ ヤ ス ダ j)~ マサ ヒラ ノ キヨウコ額 田 純 子
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安 田 和 正
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平 野 京 子
(受 付 昭 和60年6月5日) は じ め に 本邦におけるマダニ皮膚寄生例は,山口によれ ば,昭和59年7月未までに,既に300例を越えてい る.今回我々は,ヤマトマダニの皮膚寄生を経験 し,現在までに皮膚科領域で報告された92例につ き若干の文献的考察を加えたので報告する. 症 例 患者 :51歳,女, T.A主婦.東京都在住. 初診 昭和59年8月7日. 既往歴 :チオラによる薬疹.ウルシによる接触 性皮膚炎. 家族歴 特記すべきことなし. 現病歴 :昭和59年7月26日より 6日間,長野県 妻科へ旅行し,草原を散策した.初診の10日程前 より左乳房上部に, 自覚症状のない黒子様皮疹が あるのに気づき,2
-3
目前よりその周囲皮膚に 発赤が出現してきたため,当科受診. 現症 :左乳房上部に小豆大,灰褐色で光沢のあ る隆起性異物があり,仔細に見るとその先端は皮 膚に刺入しており,また僅かに動く褐色の疎状突 起を認め,周囲の皮膚は発赤が著明であった (写 真1).リンパ節の腫脹はなく全身状態も良好で あった. 治療と経過:以上の所見より,マダニの皮膚寄 生と診断した.エーテル麻酔下で・の虫体の抜去は 容易ではなく,虫体を周囲の皮膚を含めて切除し た.臨床検査に異常を認めず,術後の経過も順調 で,野兎病などの発生もみられなかった. 写真1 左乳房上部に刺入した虫体 病理組織所 見 :表皮より皮下組織にかけて,主 に血管周囲性に, リンパ球を主とし,組織球,好 酸球を混えた細胞浸潤があり,また真皮腰原線維 は そ の 太 さ の 増 大 と 配 列 の 乱 れ を 認 め た ( 写 真2
)
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虫体:虫体 (写真3)は,全長4.0m m,最大幅 3.0mm,厚さ1.0m m,楕円形豆状で口下片先端2/ 3を欠損している.顎体部が前方にあり,背甲板を 持つことからマダニ科に属し,匹門溝は匹門前方 で逆U字形を呈し,花彩,眼を欠くことからマダ ニ属,第1・
2基節後縁が白っぽい浮縁を形成する ことからヤマトマダニ,背甲板が前胸部のみを覆Sumiko NUKADA, Kazurnasa Y ASUDA, Kyoko HIRANO CDepamtment ofDermatology, Tokyo Women's Medical College DainiHospital CDirector: Prof. Kyoko HIRANO)) : A case of tickbite
1015-114 a.100倍 b. 400倍 写真2 病理組織所見 写真3 とり出した虫体の鉱大写真 (ヤマトマダニ, 雌成虫,背面) うことなどから雌成虫と同定した. 考 察 マダニは,節足動物亜門CArthropoda),クモ綱 CArachnida) ,ダニ目 CAcarina)の亜日として分 類されている.その生活史は一般に
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宿主性で, 卵→幼虫 (第1)→若虫 (第2)→成虫 (第3) の変態を行ない, ヒトはウサギ,シカなどの晴乳 動物とともに成虫の宿主の 1つとされている10) 通常,草や濯木の枝葉にひそみ,炭酸ガスや濃度, 物音,振動などの宿主の接近を感知,落下して寄 生するといわれる.その際, ロ下片を皮膚表面よ り十分に刺入するが, この口下片は鋸歯状でしか も逆行性の配列をなすため,一旦刺入するとはず れ難い.ついでセメント物質により固着され,皮 膚との結合は一層強固なものとなる.放置した場 合には,刺入後1-2
週間で吸血を終え自然脱落 するという3) 本邦皮膚科領域で報告されたマダニ皮膚寄生例 は, 1941年の谷口に始まり1) 我々が調べ得た範囲 では,昭和5
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年末までに自験例を含めて9
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例 で あった.これらの症例につき以下検討した. まず,寄生属種についてみると,記載のあった ものが6
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例で,マダニ属は4
6
例 (ヤマトマダニが 16例,シュルツェマダニが13例,タネガタマダニ が11例, ヒトツゲマダニが3例,不明種が3例), チマダニ属は8
例 (フタトゲチマダニが3
例,キ チマダニが3例, ツリガネチマダニが1例,不明 種がl例),キララマダニ属は8例(タカサゴキラ ラマダニが6例,不明種が 2例〉であった.雌雄 の別は,記載のあった4
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例の内1
例を除き全て 雌であり,また幼虫の寄生は3例あった.このよ うに雌成虫に圧倒的に多くみられるのは,雌の吸 血が産卵に不可欠で多量であるのに対し,本邦で 最も頻度の高いマダニ属では雄が全く吸血せず, その他の吸血する雄でも吸血量が少ないことが深 く関係している.この雌雄の吸血量の差は,その 機造上の相違とよく相関しており,雌では口下片 が比較的長く,刺入に有利であり,また背甲板は 体の前面のみを覆うため,これが全面を覆う雄に 較べて体表面の伸展性に秀れ,多量の吸血を可能 にする2)-5) -1016-次に,本症における自覚症状の有無を症状の記 載のある40例につき調べたところ,刺入時,自覚 症状があったと考えられる症例は2例のみで,経 過中では炎症性反応によると考えられる自覚症状 をみる例は24例(痔痛が17例,癌津が 9例,異物 感 が3例, しびれ感が1例〉にみられたが,比較 的深く刺入されるにもかかわらず,刺入時は殆ん ど自覚症状を伴わないものが特徴であった.その 原因として,マダニの唾液の作用がし、われている. 唾液腺の主要機能としては,吸血時における宿主 血液の濃縮と体液浸透圧の恒常保持,セメント物 質(リポ蛋白・糖蛋白),抗血液凝固物質(ムコ蛋 白,糖蛋白),酵素(エステラーゼ,アミノペプチ ダーゼなど),薬理活性(プロスタグランジン