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糖尿病妊婦の血中ケトン体に関する研究

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(1)

原 著

〔書物講66細編62饗骨〕

糖尿病妊婦の血中ケトン体に関する研究

東京女子医科大学 第三内科学教室(主任 シ ミズ メイ ミ 清 水 明 実 (受付 昭和62年2月16日) 平田幸正教授)

Study on Serum Ketone Bodies i鳳Pregnant Diabetics

Meimi SHIMIZU

Department of Internal Medicine, III(Director:Prof. Yukimasa HIRATA) Tokyo Women’s Medical College

This study was carried out to evaluate metabolic control by serum ketone body level合in pregnant diabetics.

Serum levels of ketone bodies(total ketone body, acetoacetate, and 3・hydroxybutyrate)in 10 pregnant women with noninsulin−dependent diabetes mellitus(NIDDM)and 10 pregnant women with insulin−dependent diabetes mellitus(IDDM)were determined serially at first, second and third trimester. Seventeen healthy nonpregnant women,30 healthy pregnant women,15 nonpregnant women with NIDDM, and 8 nonpregnant women with IDDM were used as controL All pregnant diabetics were treated with insulin and well controled. The average HbAI throughout pregnancy was 8.1±0.5%in pregnant women with NIDDM and 7.9±0.9%in pregnant women with IDDM. Total ketone body levels in healthy pregnant women showed no increase during pregnancy. It increased significantly in pregnant women with NIDDM and IDDM when comp孕red with healthy nonpregnant women. However, it did not increase significantly when compared with that in nonpregnant diabetics. Although pregnant diabetics were near normoglycemia, their total ketone body levels were two to three times that of the levels in healthy nonpregnent women. There was no significant difference in total ketone body levels between pregnant NIDDM women and pregnant IDDM women. Infants born to diabetic mothers all showed normal growth, free of abnormalities in neurological development. Thus, apparently, infants were not harmed by these maternal ketonemia. Even so, the therapeutic management of pregnant diabetics should take into consideration not only normoglycemia but also ketosis。

はじめに 従来より糖尿病のコントロールが悪い場合,糖 尿病妊婦から生まれた児に奇型や,周産期死亡率, 周産期罹病率の高いことが問題となっていたが, その問題の多くは計画妊娠と母体に対するnor・ moglycemiaを目標とした緻密な糖尿病のコント ロールによって,大きく改善された.しかし,そ のような努力によっても糖尿病妊婦から生まれた 児の奇形や周産期死亡の頻度,周産期罹病率は, 耐糖能異常のない正常妊婦より生まれた児にくら べ,まだ高率であるD∼4). 糖尿病妊婦の代謝の特徴は,食後過」血糖のみで なく,accelerated starvationとよぼれる脂肪代 謝の充進,ketosis proneなどである.耐糖能異常 のない正常妊婦においても朝食を摂らないだけで

血中ケトン体が増加することが報告されてお

り5)6),糖尿病のある妊婦では,インスリン不足が 加わるため,さらにケトージスがすすむ.妊娠中 ケトン尿を呈した糖尿病妊婦の児に知能発育の異 常がみられたとする報告があり7)8),動物実験で は,高ケトン血症が中枢神経系の発育を阻害する との報告があり9),妊娠中のケトージスは,胎児の

(2)

成長,発育に重大な影響を及ぼすことが示されて いる. 糖尿病妊婦の児の予後をよりょくするため,糖 尿病妊婦の代謝異常をケトン体の面より観察し, その動態を知るとともに,血中ケトン体を糖尿病 のコントロールの指標とする必要性の有無を検討 した. 対象と方法 東京女子医科大学糖尿病センターにおいて治療 管理され,妊娠を経過し,1986年4月までに分娩

の終了した,インスリン非依存性糖尿病妊婦

(NIDDM妊婦)10名とインスリン依存性糖尿病 妊婦(IDDM妊婦)10名を対象とした. NIDDM妊 婦の平均分娩時年齢は,30.8±4.0歳(M±SD), 平均罹病期間5.1士5.0年であり,IDDM妊婦のそ れは28.3±2.8歳,平均罹病期間9.3±4.4年であっ た.すべて妊娠前の体重はBody Mass Index 25 以下であり,これをこえる肥満妊婦は含まれてい

ない.IDDMのみならずNIDDM妊婦もすべてイ

ンスリンにより治療されている.1日必要エネル ギーの指示カロリーは妊娠前半期,標準体重×30 kcal+150kcal,妊娠後半期,標準体重×30kcal+ 350kcalであり,食:事は1日6回の分割で摂取さ せた. これらの糖尿病妊婦と同年齢で肥満がなく,血 糖コントロール良好な糖尿病非妊婦(IDDM 8 名,NIDDM 15名,全員インスリン治療中)平均 年齢30.3±4.2歳,耐糖能が正常の正常妊婦30名 (妊娠初期10名,中期10名,後期10名)平均年齢 29.2±3.2歳,および健常女子17名,平均年齢 28.5±2.5歳を対照とした. 検査法および検体採取は次のごとく行なった.’ 1)健常女子 終夜空腹ののち朝食前に採血を行ない,450kcal (糖質60g)の朝食を摂らせ,食後30分,60分,120 分に採血を行ない,食前および食後の血糖および 血中ケトン体の測定をおこなった.また同時に HbA1を測定した. 2)正常妊婦 妊娠初期,中期,後期それぞれ健常女子と同じ 方法で,朝食負荷試験を行ない,採血し,妊娠の 経過による血中ケトン体の変動を観察した. 3)糖尿病非妊婦

NIDDMおよびIDDM婦人は通常の治療をお

こなったまま,朝食前,食後30分,60分,120分の 採血を行ない,血糖および血中ケトン体を測定し, 同時にHbA1を測定した. 4)糖尿病妊婦

a)NIDDMおよびIDDM妊婦は妊娠の初期,

中;期,後期に通常の治療をおこなったまま朝食前, 食後30分,60分,120分の採血を行ない,血糖およ び血中ケトン体を測定し,妊娠の経過による血中 ケトン体の変動を観察した. b)糖尿病妊婦の妊娠後期において分娩室入院 時に通常の治療をおこなったまま朝食前,朝食後 2時間,昼食前,昼食後2時間,夕食前,夕食後 2時間,就寝前,0時,3時,6時,朝食前に採 血をおこない,血糖および血中ケトン体の日内変 動を観察した. 血中ケトン体の測定はケトンテスト三和のキッ トを用いた.総ケトン体は,3一ヒドロキシ酪酸を 脱水素酵素を用いてアセト酢酸へ転換し,アセト 酢酸十3一ヒドロキシ酪酸として測定した.アセト 酢酸はジアゾニウム塩とカップリングさせ,アゾ 化合物のアルカリ金属塩とし比色定量した.3一ヒ ドロキシ酪酸は総ケトン体量からアセト酢酸量を 減じて,測定値とした. 健常女子,正常妊婦,糖尿病非妊婦,糖尿病妊 婦において,次の項目についてそれぞれ検討をお こなった. ①妊娠経過に伴う朝食前血中ケトン体の推移. ②妊娠経過に伴う食事摂取後のケトン体の変 動. ③分娩前入院時における血中ケトン体の日内 変動. ④血中ケトン体を測定した糖尿病母体から生 まれた児の生下時体重,新生児合併症,神経成熟 度についての観察. 結 果 1.健常女子の血中ケトン体 健常女子17名の朝食直前血中ケトン体は総ケト ン体86±25μM/1(M±SD),アセト酢酸53±17

(3)

A μMμ 20G ケ150 ♪1。。 征 50 0 B μM!E 250 200 ケ15e

r

ぼ1・ 50 μMμ 200 n=17 健常女子 150 100 50 0 μMμ 200 n=lD 150 100 50 0 妊娠初期 μMμ 〔コ総ケトン体 ■■■アセト酢酸 囮コ3一ヒドロキシ酪酸 μMμ 200 n訓0 150 10D 50 0 妊娠中期 n=10 S.D, 妊娠後期

\正常妊婦一’/

μMμ μMμ o 健常女子 妊娠初期 妊娠中期 . 妊娠後期

\正常妊婦一一ノ

図1 健常女子および正常妊婦の血中ケトン体 A:空腹時ケトン体。B:食前,食後のケトン体の変 動 25 25 25 乙総ケトン体 M±SD 20 20 2GO ●アセト酢酸 △3一ヒドロキ 15 15 15

Lエ]10

1G

謎」

●一」r一一一●5

4、

5

久‘

0306090120 0306090120 0306090120 0 0306090120mln μM〃,3一ヒドロキシ酪酸33±20μM〃であっ た.3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比は0.67± 0.52であった.血糖は87±6mg/dl. 朝食後の総ケトン体は,30分後81±:19μM/1,60 分後83±22μM〃,120分後81±19μM/1であり, 食前後でほとんど変動をみとめなかった. 食後のアセト酢酸は,30分後52±21μM〃,60分 後50±21μM/1,120分後50±18μM/1であり,い ずれも変動をみとめなかった. 血糖は朝食30分後102±16mg/dl,60分後91±10 mg/dl,120分後93±13mg/dlであった. HbA、は平均7.3±0.4%であった. 2.正常妊婦の血中ケトン体 1)妊娠経過に伴う朝食前血中ケトン体の推移 (図1) 総ケトン体は妊娠初期69±24μM/1,中期70± 19μM〃,後期79±36μM/1であり,妊娠が経過し てもほとんど変動なく,またすべての時期におい て,健常女子の朝食前総ケトン体87±25μM/1よ りやや低い傾向にあるものの有意差をみとめな かった. アセト酢酸は,妊娠初期44±11μM/1,中期43± 12μM〃,後期49±23μM/1であり,総ケトン体と 同様,妊娠経過による変動はみられず,健常女子 の朝食前アセト酢酸53±17μM/1よりやや低い傾 向にあるが有意差をみとめなかった. 3一ヒドロキシ酪酸は,妊娠初期29±21μM〃, 中期27±17μM〃,後期30±22μM〃であり,妊娠 の経過による変動なく,いずれの時期も健常女子 の朝食前3一ヒドロキシ酪酸33±20μM/1と有意 差はなかった. 3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比は,妊娠初期 0.65±0.54,中期0.68±0.44,後期0.66±0.57で あり,妊娠経過による変動をみとめず,健常女子 の朝食前3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比0.67± 0.52と有意差はなかった. 血糖は妊娠初期76±5.6mg/dl,中期77±7.4 mg/dl,後期76±7.3mg/dlであった. 正常妊婦の平均HbA、は6.8±0.5%であった. 2)妊娠経過に伴う食後1血中ケトン体の推移 正常妊婦の食後のケトン体は,総ケトン体,ア セト酢酸,3一ヒドロキシ酪酸ともに妊娠のどの時 期においても朝食前のケトン体に比し,有意な変 動をみとめなかった. 3.糖尿病非妊婦の血中ケトン体

1)NIDDM婦人の血中ケトン体

NIDDM婦人15名の朝食前血中ケトン体は総

ケトン体139±71μM/1,アセト酢酸59±22μM/1, 3一ヒドロキシ酪酸80±67μM/1であった.3一ヒ ドロキシ酪酸/アセト酢酸比は1.59±1.41.血糖は 127±27mg/dlであった.

NIDDM婦人の朝食前血中ケトン体は健常女

子のそれに比し,総ケトン体,3一ヒドロキシ酪酸 が高値であり,3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比 は約2倍であった(p<0.02). 朝食後の総ケトン体は,食後30分140±82μM〃, 60分後103±43μM〃,120分後86±32μM〃であ り,朝食前に比し食後120分では有意に低下した. 朝食後のアセト酢酸は,食後30分60±20μM/1,

(4)

μMμ 250 200 ケ ト 150 ン 体100 50 0 μMμ n=17 250 200 150 100 50 μMμ n富15 250 200 150 100 50 健常女子 ONIDDM非妊婦0 μMμ n=10 250 200 150 100 5G G 妊娠初期 [コ総ケトン幽 閉アセト酢酸 ■3一ヒドロキシ酪酸 μMμ n=10 250 工 200 150 100 50 0 妊娠中期 n=10

1

S.D. 妊娠後期

\NIDDM妊婦ノ

図2 NIDDM妊婦の朝食前血中ケトン体 60分後59±30μM/1,120分後61±24μM/1であり 変動をみとめなかった. 朝食後の3一ヒドロキシ酪酸は,食後30分80±74 μM〃,60分後47±38μM/1,120分後29±26μM/1, 食後120分で有意に低下した. 血糖は朝食後30分168±31mg/d1,60分後173± 44mg/dl,120分後158±37mg/dlであった. NIDDM婦人15例の平均HbA1は8。0±1.0%で あった. 2)IDDM婦人の」血中ケトン体 IDDM婦人8名の朝食前血中ケトン体は,総ケ トン体147±117μM/1,アセト酢酸64±32μM/1, 3一ヒドロキシ酪酸84±69μM/1であった.3一ヒ ドロキシ酪酸/アセト酢酸比は1.41±0,91.血糖は 103±45mg/d1であった, IDDM婦人の朝食前血 中ケトン体は健常女子のそれに比し,総ケトン体, 3一ヒド・キシ酪酸が高値であり,3一ヒドロキシ 酪酸/アセト酢酸比は約2倍であった、(p〈0.05).

IDDM婦人の朝食前血中ケトン体とNIDDM

婦人の朝食前血中ケトン体の間では有意な差をみ とめなかった(p>0.2). 朝食後の総ケトン体は朝食30分後133±77μM〃, 60分後116±73μM〃,120分後82±30μM〃であ り,低下傾向にあったが有意ではなかった. 朝食後のアセト酢酸は朝食30分後66±32μM〃, 60分後68±36μM/1,120分後52±21μM〃であり, ほとんど変動しなかった. 朝食後の3一ヒドロキシ酪酸は朝食30分後60±54 μM/1,60分後51±46μM/1,120分後40±26μM/1 であり,有意な低下は認めなかった. 血糖は,朝食30分後105±38mg/dl,60分後106± 42mg/dl,120分後102±48mg/d璽であった. IDDM婦人8例の平均HbA、は9.0±1.3%であ った.

4.NIDDM妊婦の血中ケトン体

1)妊娠経過に伴う朝食前血中ケトン体の推移 (図2). 総ケトン体は妊娠初期118土57μM〃,中期180± 110μM/1,後期194±97μM/1であった.これは健 常女子の朝食前血中ケトン体に比し,妊娠中期,後 期で有意に高値であった(p<0.005).またNIDDM 非妊婦の朝食前総ケトン体とは有意差をみとめな かった. アセト酢酸は,妊娠初期62±16μM〃,中期71± 34μM/1,後期73±29μM/1であった.これは,健 常女子,NIDDM非妊婦の朝食前アセト酢酸と有 意差をみとめなかった. 3一ヒドロキシ酪酸は,妊娠初期56±54μM/1, 中期109±77μM/1,後期122±79μM/1であり,妊 娠初期に比し後期では約2倍に増加したが有意差 はなかった.健常女子の朝食前3一ヒドロキシ酪酸 と比較すると,妊娠中期,後期の3一ヒドロキシ酪 酸の上昇は有意であった.(中期,後期ともにp< 0.005)NIDDM非妊婦の朝食前3一ヒドロキシ酪

(5)

ケ ト ン 体 μ覧l1 250 200 150 100 50 o μ聯 250 200 150

b]聖oo

●■●鞠●一一● 50

0

呪l1 250 200 150 1DO 50 μ吃銘 250 200 取」::: くこ二・・

250 200 150

腰1

δ総ケトン体 M±SD ●アセト酢酸 △3一ヒドロキシ酪酸

0 0 0 0 306090120mln O 306090120min O 306090120mln O 3G 6090120mm O 306090120mln 健常女子 NIDDM非妊婦 妊娠初期 妊娠中期 妊娠後期 \∼NIDDM妊婦一/ 図3 NIDDM妊婦の血中ケトン体,朝食前後の変動 酸との比較では,妊娠のいずれの時期においても 有意差をみとめなかった. 3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比は,妊娠初期 0.89±0.67,中期1.64±1.11,後期1.90±1.12で あり,健常女子に比し,妊娠中期,後期で有意の 上昇であった(中期p〈0.02,後期p<0.005). NIDDM非妊婦との間では有意差をみとめなかっ た. 血糖は,妊娠初期105±28mg/dl,中期90±11 mg/dl,後期100±24mg/dlであった. 2)妊娠経過に伴う食後血中ケトン体の推移 NIDDM妊婦の食後の血中ケトン体は,妊娠の いずれの時期においても,総ケトン体,3一ヒドロ キシ酪酸が低下する傾向をみとめたが有意差はな かった(図3). 3)分娩前入院時における血中ケトン体の日内 変動

NIDDM妊婦の妊娠後期における総ケトン体

の24時間の推移を図6に示した.いずれの例もそ れぞれの朝食前に比し有意な変動はみられず,全 平均値は162±83μM/1であった.

4)NIDDM妊婦から生まれた児

NIDDM妊婦の児の吐下時体重は,10例中2例 カミheavy・for・date, 11列カミ1ight・for−date, 7{列カミ appropriate−for・dateであり, NIDDM妊婦の妊 娠後期における血中ケトン体値との関連はみとめ なかった.新生児合併症としては7例に軽度の黄 疸を,3例に低血糖を認めた.いずれの児も,そ の後の身体,神経系統の発育は異常なく良好で あった.

5.IDDM妊婦の血中ケトン体

1)妊娠経過に伴う朝食前血中ケトン体の推移 (図4) 総ケトン体は,妊娠初期149±79μM/1,中期 140±66μM/」,後期269±202μM/1であり,妊娠 のいずれの時期も,健常女子に比し有意な上昇を みとめた(初期p<0.02,中期p〈0.02,後期p< 0.005).IDDM非妊婦の朝食:前職ケトン体とは有 意差を認めなかった. アセト酢酸は,妊娠初期79±23μM/1,中期66± 18μM〃,後期90±57μM/1であり,健常女子に比 し妊娠初期,後期で有意の上昇を認めた(初期p〈 0.02,中期p>0.1,後期p<0.05).IDDM非妊婦 の朝食前アセト酢酸とは妊娠のいずれの時期も有 意差をみとめなかった. 3一ヒドロキシ酪酸は,妊娠初期70±63μM/1, 中期74±53μM/1,後期179±154μM〃であり,い ずれの時期も健常女子に比し高値であった(初期 p>0.05,中期p<0.02,後期p<0.005).IDDM 非妊婦の朝食前3一ヒドロキシ酪酸とは,妊娠のい ずれの時期も有意差をみとめなかった. 3一ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比は,妊娠初期 0.81±0.68,中期1.09±0,65,後期1.97±1.19で あり,妊娠後期に上昇をみとめ,この上昇は健常

(6)

μMμ 300 250 200 ケ ト 150 ン 100 体 50 0 [=11 μMμ 300 250 200 150 100 50 0 n環8 μMμ 300 250 200 150 1OO 50 0 n扁10 μ吃l1 250 200 150 100 50 0 n=10 〔コ総ケトン体 囮アセト酢酸 ■3一ヒドロキン酪酸 μMμ 300 250 200 150 100 50 0 n=10

1

S.D 健常女子 IDDM非妊婦 妊娠初期 妊娠中期 妊娠後期 \∼IDDM妊婦一一/ 図4 1DDM妊婦の朝食前血中ケトン体 μMμ 300 250 ケ 20。 ト ン 150 体loo 50 o μ憶l1 250 200 150

.㎏100

●一●■●一一■● 50

。 嘱l1 250 200 150 ロ

璽.,。

o μMμ 300 250 200 150 100

ミニ・・

μMμ 300 250

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0

0 306090120mi〔 D 306090120min O 306090120min O 306090120min O 306090120min

健常女子 IDDM非妊婦 妊娠初期 妊娠中期 妊娠後期 \ / ノ ∼∼IDDM妊婦 図5 1DDM妊婦の血中ケトン体,朝食前後の変動 女子に比し有意であった(後期p<0.005).IDDM 非妊婦とでは,妊娠のいずれの時期も有意差をみ とめなかった. 血糖は,妊娠初期104±40mg/d1,中期118±37 mg/dl,後;期115±43mg/dlであった. 2)妊娠経過に伴う食後血中ケトン体の推移 IDDM妊婦の食後血中ケトン体はゴ妊娠のいず れの時期においても総ケトン体および3一ヒドロ キシ酪酸が低下する傾向にあり,妊娠後期におい て,朝食前に比し食後120分の総ケトン体,3一ヒ ドロキシ酪酸の低下が有意であった(p<0.005). アセト酢酸はほとんど変動しなかった(図5). 3)分娩前入院時における血中ケトン体の日内 変動

IDDM妊婦の総ケトン体の日内変動を図6に

示した.1例で夜間から早朝にかけて血糖が上昇 した例では総ケトン体の上昇がみられたが,その 他の例では有意な変動はなかった.総ケトン体の 日内変動の平均値は163±114μM/1であった. 4)IDDM妊婦から生まれた児 IDDM妊婦の児は9例中1例がheavy・for・date で他はappropriate−for−dateであった.新生児合 併症としては2例に軽度の黄疸を,5例に低血糖, 1例の両手に猿線をみとめた.その後の身体,神 経系統の発育はいずれの児も異常なく,良好であ る.

(7)

μMμ 6GO 500 ケ 400 ト ヨ ン 200 体 100 0 NIDDM妊婦 n=5 ケ ト ン 体 μMμ 700 600 500 400 300 200 100 0 8 10 12 14 16 18 20 22 24 2 4 6 8日寺 時 間 IDDM妊婦 n=5

8101214]6182022242468時

時 間 図6 分娩前入院先における糖尿病妊婦の総ケトン体 の日内変動

6.NIDDM妊婦とIDDM妊婦の血中ケトン

体の比較 妊娠初期,中期,後期の各時期において,NIDDM 妊婦とIDDM妊婦の朝食前血中ケトン体を比較 したが,総ケトン体,アセト酢酸,3叱ドロキシ 酪酸のいずれも有意差をみとめなかった. 食後の血中ケトン体は妊娠のいずれの時期にお いてもNIDDM妊婦, IDDM妊婦の間に有意差を みとめなかった. 分娩前入院時の血中ケトン体の日内変動も NIDDM妊婦, IDDM妊婦の間に有意な差をみと めなかった. 考 察 妊娠はaccelerated starvationといわれケトー ジスになりやすい.耐糖能異常のない正常妊婦で も長時間の空腹にさらされると血中ケトン体は著 しく増加する.Felig, Lynchら5)は人工妊娠中絶 をうける前の妊娠18∼22週の妊婦に絶食をさせ 24∼36時間で血糖がさがりケトン体が著しく上昇 することを報告しており,Metzerら6)は,妊娠後 期において耐糖能異常のない正常妊婦にover nightの絶食をさせ,16時間と短時間の絶食で血 糖がさがりケトン体が著しく上昇することを報告 している.つまり妊娠後期では朝食を摂らないだ けで血中ケトンレベルは急上昇するのである.妊 娠中は肝臓における糖新生よりも消費の方が多く なるので,正常妊婦では,空腹時間が長くなると, 血糖は低下し,血中インスリンレベルが低下する。 そのため脂肪分解とfree fatty acidのケトンへ の転換が強まり,妊娠後半では胎盤ホルモンの影 響もあってインスリン抵抗性が増大し,さらに脂 肪分解とケトン体の生成が充進ずるといわれてい る10). 本報告では,測定のために食事時間を遅らせた りすることなく,午前8時に朝食を摂らせ採血をお こなっており,そのため正常妊婦のケトン体は妊 婦ではあるが非妊婦と同様のケトンレベルにあ り,ケトージスを認めなかったのだと思われる. 糖尿病妊婦では正常妊婦よりもさらに容易にケ トージスに陥ることが知られており,特に血糖が よくコントロールされていない糖尿病妊婦におき るケトアシドーシスは胎児にとっても母体にとっ ても危険である. 血中ケトン体を測定した糖尿病妊婦はいずれ も,糖尿病の教育をうけ,計画妊娠し,妊娠中も インスリン自己注射や,血糖の自己測定をおこ なって常に医師の管理を受けていた.妊娠中の血

糖はNIDDM妊婦でHbA18.1±0.5%, IDDM

妊婦のHbA17.9±0.9%であり,正常血糖に近く コントロールされていた.しかし,結果に示すよ うに,糖尿病妊婦の総ケトン体は増加しており,

妊娠後期では健常女子の2∼3倍に上昇してい

た.このことは糖尿病妊婦の厳格なコントμ一ル がいかに大切であるかを示すもので,平均HbAl 値からみれぽ,ほぼ正常に近いコントロールであ るといえども,血中ケトン体の面からは,まだイ ンスリン量の不足を示すことを示唆する. ケトン体の上昇は糖質摂取不足でも生じるが, 対象とした妊婦では糖質は十分に摂取できている と考えられる. 糖尿病妊婦のアセト酢酸は,妊娠中あまり増加 せず,総ケトン体増加の主体は3一ヒドロキシ酪酸 であったが,このことはPerssonら11)が妊娠後期 のIDDM妊婦について報告した成績と一致した.

(8)

非妊娠時において,IDDM患者はNIDDMに比

較してケトージスになりやすいことが知られてお

り,妊娠中もIDDM妊婦の方がNIDDM妊婦に

比してケトン体が上昇しているのではないかと推 定された。しかし,妊娠各時期ごとに総ケトン体, アセト酢酸,3一ヒドロキシ酪酸を比較したが,

IDDM妊婦とNIDDM妊婦の間に有意差はみら

れなかった.このことは,血糖が良好にコントロー ルされていたためだろうと思われる. IDDMおよび, NIDDM妊婦の児はいずれも, 神経系統の発育,成長に異常なく,妊娠中のケト ン体は健常女子より高値であったが,有害なレベ ルではなかったと考えられる. ケトン体,特に高濃度のβ一ヒドロキシ酪酸が胎 児の神経系統の奇型,発育異常に深い関係がある

ことは,Hortenら9)のwhole embryo culture法 をもちいた実験や,Shambaughら12)の報告した 高濃度のβ一ヒド.ロキシ酪酸の存在下のラット脳 内のプリン合成の抑制,DNA含有量の減少など から明らかである.この報告における糖尿病妊婦 全員¢)総ケトン体の平均値は162±102μM/1,ア セト酢酸73±33μM/1,3一ヒドロキシ酪酸90±79 μM/1であり,総ケトン体260μM〃ぐらいまでの 上昇は胎児に影響をもたらさないのではないかと 示唆された. ケトージスは今後も糖尿病妊婦の管理の上で重 要なpointのひとつであり,ケトージスは十分に 予防されなけれぽならない.ケトージスの予防の ためには従来いわれているように,十分な量のイ ンスリン,適正な食事と食事摂取時間の配分,空 腹時間の短縮が必要である. ケトージスのチェックのためには,ここで報告 したように,アセト酢酸より3一ヒドロキシ酪酸の 増加のチェックが必要であり,アセトンとアセト 酢酸を測定するケト.スティックスよりも血中ケト ン体を測定する方がよいと思われる. 私達の報告した例は,1血糖はHbA1の面からみ ても正常血糖に近くコントロールされていたが, それでも血中ケトン体,特に3一ヒドロキシ酪酸の 増加がみられた.児にはいずれも異常がなく,有 害なレベルのケトージスではなかったが,血糖を 十分に管理してもなお,ケトージスに注意する必 要があることを示している. 結 語 糖尿病妊婦において,その代謝異常をケトン体 の面から観察し,以下の知見を得た. 1)対照とした非肥満正常妊婦(平均HbA16.8± 0.5%)の総ケトン体は,妊娠のいずれの時期でも 健常女子(平均HbA、7.3±0.4%)と有意差なく, 妊娠の経過による変動をみとめなかった. 2)NIDDM妊婦の平均HbA、は8.1±0.5%で あり,血糖は正常に近い状態にコントロールされ ていると判定された.その総ケトン体および3叱 ドロトキシ酪酸は妊娠の中期,後期において健常 女子に比し有意に高値であった.また血糖コント

ロール良好なNIDDM非妊婦(平均HbA18.0±

1.0%)との比較では,妊娠のいずれの時期も有意 差をみとめなかった. 3)IDDM妊婦の平均HbA、は7.9±0.9%であ り,NIDDM妊婦と同様に血糖は正常に近い状態 にコントロールされていると判定された.総ケト ン体は妊娠初期,中期,後期ともに健常女子に比 し有意に増加しており,増加の主体は3一ヒドロキ シ酪酸であった.平均HbA、9.0±1.3%のIDDM 非妊婦との比較では,妊娠のいずれの時期におい ても有意差はみられなかった.

4)NIDDM妊婦とIDDM妊婦の血中ケトン体

は,妊娠のいずれの時期においても有意差をみと めなかった.

5)NIDDM妊婦, IDDM妊婦から生まれた児

のいずれにも,身体,神経系統の発育の異常をみ とめなかった. 6)糖尿病妊婦の総ケトン体の平均値は162± 104μM/1であった.この範囲内のケトン体の増加 は胎児に有害ではなかった. 以上の点から,ここに報告した糖尿病妊婦にお いては,血糖は正常に近くコントロールされてい たにもかかわらず,健常女子に比し総ケトン体は 2∼3倍に増加しており,糖尿病妊婦においては, 血糖を十分に管理してもなおケトージスに注意す る必要があることが示された.

(9)

稿を終わるにあたり,御指導,御校閲を賜わりまし た平田幸正教授,大森安恵教授に深謝いたします,ま た終始御協力を賜わりました佐中真由実先生をはじ め教室員の皆様に心から御礼申.しあげます. (本論文の要旨は第29回日本糖尿病学会,第8回日 本臨床栄養学会で発表した.) 文 献

1)Hollingworth DR: Pregnancy, Diabetes and

Birth, A management guide. Williams&Wil・

kins, London(1984)

2)Pedersen J: The pregnant diabetic and her . newbom.2ed. Munksgaard, Copenhagen(1977) 3)佐中真由実・大森安恵・嶺井里美ほか:糖尿病セ ンターで治療・管理した糖尿病妊婦89症例・109分

娩・110児.の臨床像.糖尿病 26:995−1002,1983

4)Freinke韮N:Banting lecture 1980. Of preg− nancy and progeny. Diabetes 29:10234035,

1980

5)Felig P, Lynch V:.Starvation in human preg一

照ncy..Hypoglycemia, hypoinsulinemia, and

hyperketonemia. Science 170:990−992,1970 6)Metzger BE, Ravn巌ar V, V董leisis D et a1: Accelerated starvation and the skipped break−

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7)Churc卜ill JA, Berendes HW, Nemore J:

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10)Rudolf MCJ, Sherwin RS:Maternal ketosis

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12)Shambaugh III GE, Angulo MC, Koehler RR:

Fetal fuels VII. Ketone bodies inhibit synthesis

of purines in fetal rat brain, Am J Physio1247;

参照

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