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貧血の診断と治療

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教育講演

貧血の診断と治療

東京女子医科大学 第一内科 ミゾ グチ ヒデ ァキ

溝 口 秀 昭

(受付 平成1年11月10日) 〔東女医大誌 第60巻 第3号頁 224∼232 平成2年3月〕 はじめに 本稿では,1.赤血球産生の調節,2.貧血の診 断の進め方,3.貧血の症状,4.鉄欠乏性貧血の 治療,5.腎性貧血の治療について述べる, 1.赤血球産生の調節 赤血球産生は腎で主に造られるエリスロポエチ ンで調節されている.エリスロポエチンは分子量 約39,000の糖蛋白である. 赤血球は他の血球と同様に多能性幹細胞に由来 する(図!).多能並並細胞にインターロイキン3 (IL−3)が作用し,赤」血球にしか分化することので きない赤血球系幹細胞になる.それにエリスロポ エチンが作用し,赤芽球へと分化を進める.なお, 穎粒球系では種々のコロニー刺激因子(colony− stilnulating factor, CSF)がその産生を調節して いる.しかし,血小板の産生の調節はよく分かっ ていない. エリスロポエチンはラジオイムノアヅセイがで 単能性幹細胞 エリスロポエチン 巨核球系幹細胞 図1 血球分化過程の模式図

◎/

◎赤血球 きFるようになり,貧血患者の血漿エリスロポエチ ンを測定すると,図2に示すようにヘモグロビン 濃度に反比例してエリスロポエチン値は上昇す る1).しかし,図3に示すように腎疾患で透析を受 けている患者ではヘモグロビン濃度の低下に見合 うエリスロポエチン値の上昇は見られない.この ような事実は図4に示すように貧血が起こると腎 に低酸素状態を来し,それが刺激とな:って腎にお けるエリスロポエチン産生が充進し,それが赤血 球系幹細胞に作用し赤血球産生を刺激する,それ によって,腎の低酸素状態が解消するとエリスロ 200 ξ 轟150 柔 暴 ロ100 塁 曇 自50 0 yニー27,9x十358 Pく0,0005 し● 0 5 10 15 ヘモグロビン濃度,9/d2 図2 ヘモグロビン濃度と血漿エリスロポエチン値 一再生不良性貧血を除く貧血症一

Hideaki MIZOGUCHI〔Department of Medicine I, Tokyo Women’s Medical College〕:Diagnosis and treatment of anemia

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200 蛙15。 遷 鍾 柔 暴1・・ ロ 集 H 50 0 その他の貧血症 (再生不良性貧血 を除く)

図3 0 5 10 15 ヘモグロビン濃度 ヘモグロビン濃度と血漿エリスロポエチン値

//糊\\

エリスロポエチン 図4 エリスロポエチン産生とその調節 一腎性貧血一 ポエチンの産生は止まることになる.このように して赤血球産生は調節されている. 2.貧血の診断の進め方 貧血の患者を見たときに注目すべき検査のデー

タは平均赤血球容積(mean corpuscular volume,

MCV)と網赤血球である.この2つのデータを基 にどのような貧血であるかの検討をつけ次の検査 に進む.ここではMCVを基にする診断法には簡 単に触れ,網赤血球を基にする診断法について主 に述べる.

1)MCV

MCVの低下を示す小球性貧血は表1に示すよ うなヘモグロビン合成障害による貧血である.こ のうち大半は鉄欠乏性貧血であり,それと他の貧 血との鑑別が大切である(表1,2). MCVが高値を示すような大西性貧血には表1 に示すようなDNA合成障害があって巨赤芽球を 骨髄に認める貧血がある.その他,急性出血や溶 血性貧血,あるいは貧血からの回復期のように網 赤血球が増加している場合と肝障害のある場合で ある.

その他の貧血はMCVが正常であることが多

い. 2)網赤血球 赤血球の産生過程は図5のように示される.つ まり,前述のように多能古血液幹細胞から一段分 化した赤血球系幹細胞があり,この細胞には主に 腎で産生されるエリスロポエチンが作用し前赤芽 球への分化が誘導される.前赤芽球は3∼5回分 表1 赤血球恒数による貧血の分類 1.小球性低色素性貧血 II.正球性正色素性貧血 III.大球性正色素性貧血 (MCV≦80, (MCV=81∼100, (MCV≧101, MCHC≦30) MCHC二31∼35) MCHC=31∼35) 1.鉄欠乏性貧血 1.急性出血 1.ビタミンB、2欠乏 (悪性貧血,その他) 2.サラセミアなどの 2。溶血性貧血 2。葉酸欠乏および代謝異常 グロビン合成異常 3.鉄芽球性貧血 3.骨髄の低形成 3.DNA合成の先天的 再生不良性貧血 あるいは薬剤による異常 赤芽球虜 4.無トランスフェリソ血症 腎性貧血 4.その他の巨赤芽球性貧血 内分秘疾患 5.感染,炎症,腫瘍に伴う 骨髄への腫瘍浸潤 5.肝障害に伴う貧血 貧血 6.網赤血球増加 急性出血,溶血性貧血 貧血からの回復期

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表2 貧血の成因による分類 1.赤血球産生の低下 1.エリスロポエチン産生の低下 腎性貧血,内分泌異常による貧血,感染,炎症,腫 瘍による貧血 2.血液幹細胞の異常 再生不良性貧血,赤芽球携,急性白血病,腫瘍の骨 髄浸潤,骨髄異形成症候群(不応性貧血など) 3.赤芽球の成熟障害 ①DNA合成障害(巨赤芽球性貧血→大球性貧血), 葉酸,ビタミンB、2欠乏,抗白血病剤投与,オロチ ソ酸尿症,骨髄異形成症候群(不応性貧血など) ②ヘモグロビン合成障害(小球性低色素性貧血) ヘム合成の異常(鉄欠乏性貧血,百官球性貧血, 先天性無トランスフェリン血症,感染,炎症,腫 瘍による貧血) グロビン合成の異常(サラセミア,Hb Lepore) II.赤血球の破壊充進=溶血性貧血 1.赤血球自身の異常による場合 遺伝性球状赤血球症,遺伝性楕円赤血球症,発作性 夜間血色素尿症,解糖系酵素異常症,異常ヘモグロ ビソ症など 2.赤血球外に異常のある場合 自己免疫性溶血性貧血,細血管異常性溶血性貧血な ど III.出血 IV.赤血球の分布異常 脾腫を伴う疾患(Banti症候群など) 裂し,成熟して旧染性赤芽球となり,さらに脱核 して網赤血球となって末梢血へ出て行く. 貧血が起こった場合に,図5の過程に異常がな けれぽ骨髄中の赤芽球が増加し,それに伴って網 赤血球が増加する.その典型例は,溶血と出血(表 1,2,図6)である.ただし,溶血や急性出1血 がなくても髄外造血がある骨髄線維症,脾摘を受 けた患者,また貧血からの回復期の患者(たとえ ぽ鉄剤治療中の鉄欠乏性貧血の患者など)でも網 赤血球は増加する.貧血があって網赤血球が増加 していない場合は図5の経路に何らかの異常があ る場合である.このような網赤血球の多寡を確認 し図6の手順で診断を進める2>. (1)網赤血球が増加している場合 網赤血球が増加している場合は,急性出血か溶 血,あるいはそれ以外の場合かの鑑別が必要にな る(図6).急性出血の場合は出血部位に応じた症 状および所見があるので診断は容易である. 溶血は血清ビリルビン値(間接型)の上昇,ハ プトグロビンの低下からその存在を疑い,赤血球 寿命の短縮で確認する.溶血が疑おれたらまず行 う検査は,クームス試験と赤血球形態の観察であ る. クームス試験が陽性の場合は自己免疫性溶血性 貧血を考える. クームス試験が陰性の場合は赤血球形態を観察 する.赤血球の形態では均一な異常(球状赤血球 症,楕円赤血球症,口腔赤血球症,詫状赤血球症 など)があれぽそれだけでそれらの診断はつく. また不均一な形態異常である奇形赤血球症にも注 目する.著明な断片化赤」血球があれぽ細血管異常 性溶血性貧血が考えられる. (2)網赤血球が増加していない場合 網赤血球が増加していない場合は,表2の分類 に示した赤血球産生低下のうちいずれの貧血かを 決定しなけれぽならない.そのためには骨髄穿刺 をまず行う必要がある.Dry tapであれば骨髄生 腎 エリスロポエチン 骨髄←一一ウ」血液

轟能騨一婦系一前棚一好塩基性一期一正染性一・一一赤血・

、 胞 幹細胞 赤芽球 赤芽球 赤芽球 こ・、 、 、 、 も へ 、、 、鞠一『一一一一一一一一一一一一一一一今骨髄芽球一一一一一一一一一 、 、 、 、、隔『一一一一一一一一一一一→〉巨季亥芽球一一一一一一一一一一 一一一r顯粒球 一一一r血小板 図5 赤血球の産生過程

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貧 血 あり 網赤血球数増加

俘『芒

急性出血 あり Coombs試験陽性 芒 芒 あり 自己免疫性 赤血球形態異常 溶血性貧血 あり 骨髄赤芽球増加 あり 巨赤芽球増加 VB12欠乏 締瀧養。 赤白血病 乞 あり 遣伝性球状赤血球症 発作性夜間∫llL色素尿症 遣伝性楕円赤血球症 解糖系酵素異常 遺伝性ロ腔赤血球詩 酒状赤血球症 細血管異常性溶血性貧血 骨髄線維症 芒 腫瘍細胞 芒 鉄芽球性貧血 白血病 再生不良性貧血 鉄欠乏性貧血 多発性骨髄腫 赤芽球疹 サラセミア 癌骨髄浸潤 腎性貧血 Banti症候群 内分泌異常に よる貧血 Banti症候群 図6 貧血の鑑別診断 検を行う.診断が困難な場合はフェ丁丁イネティ クスや骨髄シンチを行う. 骨髄穿刺を行い骨髄中の赤芽球が増加している 場合は赤芽球の多くは骨髄内で壊され網赤血球に な:らな:いことになる.つまり,無効造血が充聾し ている状態である.この場合,巨赤芽球があれぽ 表2に示すように,ビタミンB、2欠乏,葉酸欠乏, 腰試チン酸尿症,骨髄異形成症候群(myelodys− plastic syndrome:MDS),赤白血病などが考えら れる.血清ビタミンB12や葉酸の測定を行い正常

であればMDSを疑う.MDSは貧血,貧血と血小

板減少,貧血と白血球減少あるいは汎血球減少症 があるにもかかわらず骨髄は過形成を呈してい る. 赤芽球が増加し,赤芽球の細胞質の形成が悪く かつ好塩基性であるのはヘモグロビン合成の異常 による貧血(鉄欠乏性貧血など)である.鉄芽球 性貧血は現在MDSに分類され,鉄染色で環状鉄 芽球が全有核細胞の15%を超えることが診断条件 である.サラセミアの診断にはヘモグロビンの分 析が必要である. 白血病芽球,骨髄腫細胞,リンパ腫細胞,癌細 胞などが増加していれぽ,それらの診断は容易で ある. 腫瘍細胞がなく赤芽球だけが極端に減少してい る場合は赤芽球霧であり,すべての血球成分が減 少し脂肪が多い場合は再生不良性貧血である.し かし,再生不良性貧血でも赤芽球が増加している 場合があり,その場合はMDSとの鑑別が困難と なる.その場合はフェロカイネティクスや骨髄シ ンチを行う. 腎性貧血や内分泌疾患に伴う貧血は血液や骨髄 所見よりはそれぞれの疾患に特異的な検査で診断 される. 3.貧血の症状 貧血の症状は①ヘモグロビンの低下ないし組織 の酸素欠乏の症状と②それを代償することによる 症状である. ヘモグロビンの低下あるいは酸素欠乏によって 顔色不良となり,酸素需要の高い中枢神経系,心 および筋肉の酸素欠乏によって,めまい,狭心症, 心不全,易疲労感,脱力感などが起こる.また酸 素欠乏に対する生体の代償作用によって,動悸, 頻脈,息切れ,顔色蒼白などが起こる. 最近都内の某女子大で新入生について貧血の頻 度を調べたところ,592人中71人(12%)に貧血が みられた.しかもこの大部分が鉄欠乏性貧血で あった.対象者に50項目の不定愁訴の質問を行っ たところ,貧血患者で有意に多くの回答を得たの は,「朝,目がさめにくい」,「肩や首筋がこる」,

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「夏になると身体がだるい」,「急いで歩くと心臓が ドキドキする」,「顔色がよくない」という項目で あった.最後の2項目は一般的な貧血症状である が,はじめの3つの症状が貧血をもった女子大生 に不定愁訴としてあることは意外であった.朝起 ぎにくいことなどが貧血で起こるとすれば成績に も影響することでその診断と治療は重要なことで あると思われる. 4.鉄欠乏性貧血の治療 1)鉄剤の投与 鉄剤の経口投与が鉄欠乏性貧血治療の根本であ る.表3に挙げたような経口鉄剤が市販されてい る.表3に示すように撃放鉄剤がほとんどである が,非徐放鉄剤もある. 副作用のために,どうしても鉄剤が飲めない場 合は非経口鉄剤を用いることになるが,原則とし ては避けるようにしている.また,この他に非経 口鉄剤を用いる場合は経口鉄剤が基磯疾患を増悪 させる場合(潰瘍性大腸炎など),あるいは出産な どを控えているために短期間に貧血を改善させる 必要がある場合である. 表3 市販中の経口鉄剤 商 品 名 一 般 名 .剤型,鉄含有料 備 考 スローフイ 一 硫酸第一鉄 錠 50mg 徐 放 テツクールS 硫酸第一鉄 錠 1θ伽g 徐 放 フェニコ錠 硫酸第一鉄 錠 105mg 徐 放 フェーマス 硫酸第一鉄 錠 100mg 徐 放 フェログラデュメット 硫酸第一鉄 錠 105mg 徐 放 フェロスタチソ 硫酸第一鉄 カプセル 100mg 徐 放 フェロリタード 硫酸第一鉄 錠 105mg 徐 放 フェノレム フマール酸第旨鉄 カプセル 1GOmg 徐 放 オロトソサン鉄 オロチン尼削風波 カプセル 25mg 非民放 5Gmg フェロスレオン スレオニン鉄 カプセル 22mg 非徐放 硫酸鉄 ⑭ 粉末 非徐放 2)治療が有効でない場合 しぼしぼ鉄剤を投与しても効果のみられない場 合がある.この原因としては,(1)鉄欠乏性貧血 でない場合,(2)原因(出血など)が持続してい る場合,(3)患者が処方した鉄剤を服用していな い場合である. (1)鉄欠乏性貧血でない場合 鉄欠乏性貧血の診断において重要な点を表4に 示した.臨床上重要なものはMCVで,それから 小球性貧血であることを確認する必要がある. MCVが80且以下であれぽ確実に小球性貧血であ る.85fl以下位からはかなり疑おしいと考えられ る.他にも多くの検査項目があるが,特に大切な のは血清フェリチソ値が低値であることである. つまり,貧血があって,血清フェリチン値が12ng/ ml以下であれぽ鉄欠乏性貧血しか考えられない. この2点に注目して診断を行っている. .鑑捌すべき疾患は他の小球性低色素性貧血であ り,’ サれらには慢性炎症・感染・腫瘍に伴う二次 性貧血,鉄面球性貧血,サラセミアがある(表5). ここでも血清フェリチン値は重要な鑑別点であ り,鉄欠乏性貧血だけで血清フェリチン値の低下 がみられる.最も鉄欠乏性貧血と間違えやすいの は二次性貧血であり,ここでは血清鉄が低下する ことがあるのでしぼしぼ鉄剤が投与されることが ある.また,サラセミアは日本では非常に少ない 表4 鉄欠乏性貧血の診断上に重要な検査所見 1.MCV 2.トランスフェリソ鉄飽和率 3.赤血球プロトポルフィリン 4.骨髄網内系鉄(骨髄可染鉄) 5.血清フェリチソ ≦80且. 〈15% >100μg/d1赤血球 消失. <12ng/ml 表5 小球性低色素性貧血を起こす疾患の検査所見 血清鉄 総評結合能 血清フェリチン 赤血球プロト │ルフィリン 骨髄可染鉄 鉄欠乏性貧血 攝ォ炎症,感染 髜№ノ伴う貧血 S芽球性貧血 Tラセミア 低 下 ?選 ] 加 ウ 常 増 加 ?下 ?常 ウ 常 低 下1) ?加 ?加 ウ 常 増 加2) ?加 ?下 シ 常 消 失 ?加 ?加 ウ 常 1)12ng/ml未満,2)100μg/dl赤血球以上

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表6 鉄欠乏性貧血の成因 A.供給の低下 1.偏食 2.胃切除 3.吸収不全症候群 B.需要の増加 1.成長 2. 女壬娠, 出産, 授寧し 3.出血 a.消化管 潰瘍,癌,憩室,ポリープ,痔 b.性器 子宮筋腫,子宮内膜症 4.溶血 発作性夜間血色素尿症,入日弁,空手,剣道,ジョギ ング 60 宣40 喜 專 螢20 0 ノ ! 吸収 服用できない 患者 と考えられているが,検査が容易になるにつれて 発見されることが多くなっている.したがって, 血清フェリチン値のデータを確認し,低下が認め られない場合には鉄剤は投与しな:いようにする. (2)原因が持続している場合 診断が確実となった後に,鉄剤による治療を開 始することとなるが,鉄欠乏の原因は必ず確認し, できれば治療する.原因としては,表6に示すよ うに鉄需要の増加と吸収の低下に分けられる. 頻度としては鉄需要の増加の方が多い.成長期, 妊娠・出産・授乳期に増加する.また,最も大き な原因としては出血があり,女性の月経過多(子 宮筋腫,子宮内膜症などが背景因子となることが 多い),男性あるいは閉経後の女性では消化管出血 があげられる.最近では下部消化管のガソが増え ているので,上部消化管だけでなく下部消化管の 検査も気軽に行ったほうがよいと考えている.私 の経験した例では,他院で,上部消化管の検査で 異常がなく鉄剤の投与をうけていたが改善が認め られなかったために,下部消化管の検査を行った ところ,上行結腸のガンが発見されたことがある, さらに,稀ではあるが血管内溶血の問題がある. 剣道あるいは空手の練習をしている患者,および ジョギングをしている女性で鉄欠乏性貧血になっ た人を経験している.これらの患者では足底の血 管内で赤血球が壊れ,ヘモグロビン尿として鉄が 失われる.

笏勿物年割

0 100 200 300 400 経口鉄剤の投与量(mg!日) 図7 経口鉄剤の吸収と副作用3) 60 § 羅 40

]

覚 20昏ノ 護 0=で 第二の原因としては,鉄供給の低下があげられ る.例えば胃切除から3年後頃に鉄欠乏性貧血が 発症することが多い.この他,頻度は少ないが偏 食や吸収不全症候群が供給低下の原因としてあげ られる. このように,原因も同時に検査し,診断し治療 しないと,鉄剤が無効のように思われることがあ る. (3)患者が鉄剤を服用していない場合 患者が鉄剤を服用しない原因に,鉄剤の消化管 での副作用がある.鉄の投与量と吸収量は相関し て上昇するが,一方,鉄剤の投与量を増やすと, これに伴って副作用のために服用できない患者の 割合も増加する3)(図7).また,このデータから は投与量が50mg/日,以下であれぽ,プラセポとほ とんど差がなくなると思われる.一般に胃腸症状 が強い場合は食後に服用させたり(特に,最近発 売になったクエソ酸第一鉄は食後の服用が認めら れている),投与量を50mgに減らしたりしてい る. 3)いつまで治療するか 鉄剤を投与し,貧血が回復した時点で投与を中 止してはいけない.つまり,鉄欠乏性貧血が起こ ると必ず貯蔵鉄が空になっているので,それを補 う必要がある.そのためには貧血回復後3∼6カ 月鉄剤を投与するか,血清フェリチン値が20ng/ ml以上となるまで投与する. 4)鉄剤治療の効果 前述の都内某女子大の新入生の調査において, 調査の1年後に前回ヘモグロビン濃度が12g/dl 以下であった71名を来院させ,その受診率をみた ところ,そのうち実際に治療を受けたのは37名

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(52%)であった.すなわち健康診断は疾患を発見 するのに大変有意義であるが,次のステップとし て実際に治療を受けさせるということが大切であ ると感じている. このうち鉄剤(徐放剤)で治療を受けた33例で は1年後に3名を除いてヘモグロビン濃度は改善 を認め,また11g/dl以下の女性はいなくなった. 治療の効果はかなりあったものと思われる.ただ し,治療はヘモグロビン濃:度12g/dl以上および血 清フェリチン値20ng/ml以上を目標に行ったが, 治療中止後に再びこれらの数値が低下している患 者がいることから,定期的な健康診断が必要であ ることが示唆される. 非治療群22例のうち,11g/dl以下のままの患者 が5例認められると同時に,治療を受けなかった にもかかわらずヘモグロビン濃度の改善を認めた 例もある(入学後,受験のストレスから解放され, 生活条件がよくなったためかもしれない).しか し,ヘモグロビン濃度が11g/dl以下の例は治療群 では0であり,その頻度には有意に差がある.こ うした点からきちんとした治療を受けることは必 要であると考える. 5)緑茶飲用と鉄吸収の関係 日本では鉄剤の処方の際には必ず「服用前後ユ 時間はお茶を飲まないこと」という指示がでる. これは,渡辺らがアイソトープを用いて鉄吸収阻 害率を調べたデータに基づくものであろう4).そ れによると,鉄剤服用と同時に緑茶を飲用した場 合は36%,30分後では22%の吸収阻害率が得られ ており,60分後ではほとんど影響しなくなる. 飲料品中のタンニン含有量をみると,濃い緑茶 とコーヒーでは含量が高く,同程度に含まれてい る.しかし,欧米の教科書では鉄剤治療の際にコー ヒーの飲用を避けると指導は何もされていない し,お茶を避けるということも書いていない. 本屋らの最近の研究によると,健常な男性で鉄 剤と緑茶を同時に服用させると,血清鉄値の上昇 は他の場合に比較して低く,鉄吸収が阻害されて いることが示されている5).ところが,健常な女性 および鉄欠乏性貧!血患者で血清鉄値の変化をみた データでは,鉄剤を緑茶で服用した場合と水で服 用した場合とに差を認めない.これは,女性の場 合または貧血患者の場合は,鉄の吸収が高まって いることが予想され,そのために緑茶の影響がほ とんど出てこな:いと推察している.また,原田ら の研究では,鉄剤(徐放剤)を水または緑茶で服 用させて,2週間後,4週間後,および3ヵ月後 のヘモグロビン濃度を調べたところ,水群と緑茶 群との間で有意差は認められなかったと報告され ている6). このように茶が鉄剤による治療効果に影響しな いのは徐放鉄剤を用いたためであることも考えら れる.そこで著者らは最近販売されている徐放鉄 剤でないクエン酸第一鉄で表7に示した鉄欠乏性 貧血患老を対象に同様の検討を行ったところ,2 週間後,4週間後,8週間後のヘモグロビン濃度 は水群および緑茶群でまったく差は認められな かった(図8).すなわち,貧血患者の場合は吸収 が充進しているためだと思われるが,緑茶の影響 はほとんどないといえる. ただし,ヘモグロビン濃度が9g/dl未満の患者 では水群・緑茶群でヘモグロビン濃度の上昇に有 表7 重症度別症例数 Hb(9/dl) 緑茶 水 計 6未満(重症) U∼9(中等症) X.1以上(軽症) 2812 11019 31831 計 22 30 52 〔9/dD 12 1/ lo 9 Hb / / / / /△// / / / ○緑茶 △水 前 2 4 8 (週) 緑茶凶翫1一 にく ロ 水L理㌦,。ト 賢く1,.oσ1 図8 鉄剤投与後のヘモグロビン濃度の変動;全症例

(8)

投与前Ilbく9g/dl 投与前Hb≧99/di 〔9/dD 13 12 ユ1 1G

9

8

7

Hb

8

!〆 ! ./ / // 吟/ o緑茶 △水 前 2 4 8 一P姻5」 (週) 緑茶一一P<o、。。1一一一 PくO.Ol LpくO.OO1」 水 一一Pくα001− L pくO.ODI= 図9 (9/d 前 2 4 8 LNS一 (週) 糸求・茶 一NS一一一一」

一Pくα口l

LP<O、ODH 水 }P<ロ.DOI一 一P<O.OD1 鉄剤投与後のヘモグロビン濃度の変動 意差がないものの,9g/dl以上の患者では2週間 目のヘモグロビン濃度が緑茶群では有意に低かっ た(図9).これは,軽度の貧血のために鉄吸収が さほど:充進されていないためと考えられる.しか し,8週目のヘモグロビン濃度に有意差は認めら れなかった.さらにこの後,貯蔵鉄を高める段階 になると鉄吸収は悪くなると予想されるので,緑 茶の影響は少し現れてくるかもしれない.しかし, 鉄剤を処方すると患者が「緑茶が飲めないのはい やだ」と訴えることがあるが,そのために鉄剤の 服用をやめてしまうようなことがあっては困るの で,むしろ禁茶しない方がよいのではないかと考 える. 鉄欠乏性貧血は大変多い貧血であるが,ゆっく り起こるために気づかれずに放置されることが多 い.しかし,これが治療されないといろいろな不 定愁訴につながることは明らかであり,保健衛生 的な意味から定期的に検査し,治療すべき時期に あるのではないかと思う. 5.腎性貧血の治療 腎性貧血の起こる機序は①赤血球産生の低下と ②溶血である.赤血球産生の低下はエリス・ポエ チソ産生の低下と毒素による骨髄抑制による. 最近組換え型エリスロポエチン(recombinant 30一 25 § 圭20 10 一!500単位/透析群 △一鴫 3000単位/透析群 一6000単位/透析群

0工一__一__

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10(週) (単位) 200 輸150 豊 里100 50 0 rEp投与期間 後観察期 図10 ヘマトクリット値の変動 236 20

n=111 第II相試験O 開女台肩↑j3ヵ月 12 24 36 48〔週) 図11 輸血量の推移

(9)

erythropoietin, rEp)の腎性貧血に対する効果が 試された.その効果および副作用などについて述 べたい, 1)臨床効果 rEpを腎性貧血患者に投与すると,図10に示す ように貧血は確実に改善され,有効例は約80%で ある.ただし,ヘマトクリットが35%以上(高血 圧のある場合は30%以上)になったらrEpの投与 を中止している. また輸血量が図11に示すように激減するので肝 炎やAIDSなどの感染の危険も激減することが 予想される7)8). 2)投与法 週3回,透析終了直前に静脈側血液回路内にで きるだけゆっくり注入する方法がよく行われてい る.その量は3,000単位/血液透析で投与を開始す るのがよいと思;われる. 3)副作用 血圧上昇,透析効率の低下,内シャントおよび グラフトの閉塞,インフルエンザ様症状などが挙 げられる. 特に問題になるのは血圧上昇であるが,ほとん どの例がrEpの減量ないし降圧剤の投与でコン トロールされている. おわりに 頻度の多い鉄欠乏性貧血の診断と治療を中心に 述べた,鉄欠乏性貧血は貧血の症状以外に多くの 不定愁訴の原因となっている.積極的に検診を行 う必要があると考える. また,遺伝子工学の進歩によって組換え型のエ リスロポエチンが大量に入手できるようになり, 腎性貧血の治療は一変しようとしている.1日も 早く多くの患者に使える日がくることを期待して いる. 文 献

1)Mizoguchi H, Ohta K, Suzuki T et al:Basic conditions for radiQimmunoassay of eryth− ropoietin, and plasrna levels of erythropoietin in normal subjects and anemic patients. Acta Haematol Jpn 50:15−24,1987

2)正岡 徹,溝ロ秀昭編:血液疾患診療ハンドブッ ク.pp2−6,南江堂,東京(1989)

3)Bothwell TH, Charlton RW, Cook JD et al: Iron Metabolism in Man. pp44−81, Blackwell Scientific Publications, London(1979)

4)渡辺晃伸,川田健一,菅 芳一:タンニン酸(喫 茶)の鉄吸収に及ぼす影響について.内科 21: 149−152, 1968 5)石橋円田,本屋敏郎:薬の生体内動態。薬局 39: 245−250, 1988 6)原田契一1緑茶と鉄剤.日薬剤会誌38: 1145−1148, 1986 7)高久史麿,三村信英,前田貞亮ほか:腎性貧血に

対するrecombinant human erythropoietin

(KRN 5702)の臨床効果,腎と透析 26:279−

306, 1989

8)川口良人,高久史麿,前田貞亮ほか:腎性貧血患

者に対するRecomibinant Human Eryth−

ropoietin(KRN 57q2)の長期投与による臨床的

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MCHの面から貧血を形態学的にみると,I群 (Hb<129/dLS-Fe↓,S-Fer↓)とⅢ群

非腫瘍性の赤芽球系培養細胞であるHUDEP2細胞 にCRISPR/Cas9システムを用いてALAS2遺伝子の

臓器特異性自己免疫疾患 自己抗体が、ある臓器に対して作られた場合、その臓器にだけ影響 が出ます。代表的なものをあげると下表のようなものがあります。 臓器 疾患

まとめ まとめ ƒ ƒ 腎性貧血による透析患者の 腎性貧血による透析患者の QOL QOL

血中インスリン濃度が増加すると F‑FDG の心筋細 胞内への取り込みも増加するとされる 。一方,炎症 細胞には

 1)悪性貧血−−−−−——————ビタミン K の投与

を認め間質性肺炎の像を呈している。