最終講義
私の歩んできた道
東京女子医科大学 クシ ダ串 田 つ
解剖学教室 カゆ 香
(受付 平成5年4月20日) 〔東女医大誌 第63巻 第9号頁1047∼1056平成5年9月〕 はじめに ただいま,永野助教授からご丁重なご紹介を頂 きまして光栄に存じあげております.ご紹介頂き ましたとおり,私は昭和27年インターン終了後, 直ちに恩師久保田くら名誉教授のお薦めによりま して,解剖学教室へ助手として入室させていただ きました.それから今日にいたる40年もの長い年 月を,解剖学一筋の道を歩んできてしまったこと になります.振り返ってみますと,あまりなすこ となく,あたら時間を費やしてしまいまして,今 更ながらとはいえ,漸慨に耐えない気持ちでいっ ぱいでございます. 本日は,私が今日まで行ってまいりました研究 の軌跡を紹介させていただきまして,その後,献 体のお話しを少しさせて戴きたいと存じます. 私の研究の軌跡 私の研究の経過は,およそ,つぎに示すとおり であります. 1952∼1974年一造精現象に関する電子顕微鏡的 観察 1970∼1980年一準超薄切片法の開発 1981∼1985年一厚切り切片法の開発 1986∼1993年一造精現象の三次元的解析 私は,1974年,東海大学医学部へ転任いたしま したが,これを契機にいたしまして,私の研究内 容は,二つに大別することができます.すなわち, その一は,造精現象の研究でありますが,その:二 は,プラスチック包埋法を用いた準超薄切三法お よび厚切り切片法の研究であります.したがいま して,本日は,最初に,二巴薄切片法および厚切 り切片法の研究経過について,そして,造精現象 につきましては,その後,まとめてお話をさせて 戴きます. 1.準超薄切片引の開発 1)プラスチック包埋法による光学顕微鏡的観 察 従来,生物組織の電子顕微鏡的研究と光学顕微 鏡的研究との間には,ほとんど関連のないままの 状態でありました.そこで,この両者を密接した 観察法の必要性から,まず光学顕微鏡レベルにお けるプラスチック包埋法を試みました.この包埋 法は,約10年間を費やし,その方法は,3回程改 良いたしました.そして開発結果につきましては, その都度発表してまいりました1).本日は,それら の方法などは省略いたしまして,その結果,得ら れた光学顕微鏡像だけについて供覧させていただ ぎます. 試料作製法は,包埋法を除いてはパラフィン切 片の場合と概ね同じであります.固定法は,10% ホルマリン,2.5%グルタルァルデヒド,Zenker, Bouin,冷アセトン液などによりました,切片の薄 切は,JB−4型Porter−Blumミクロトームにガラス ナイフを取付け0.3∼3μmの切片を作製いたしま した.包埋法は本日は,今日まで行ったもののなTsuyuka KUSHIDA
worked [Department of Anatomy, Tokyo Women’s Medical College]:The days I haveか月は,最もすぐれた方法と考えられるハイドロ キシプロピルメタクリレートとQuetol 523およ びメチルメタクリレートの混合液を用いた包埋法 による結果についてお示しいたします. プラスチック包埋による切片は,従来,光学顕 微鏡的一般染色は不可能とされておりましたが, この方法によりまして,パラフィン切片の場合と 同様の染色性を獲得することができました.しか も,極めて解像力のすぐれた光学顕微鏡像が得ら れております(Plate 1, A∼H). 最初に,H−E染色を施したマウスの膵臓の例を お示しいたします.外分泌部の腺房細胞が観察さ れ,ミトコンドリア,チモーゲン果粒そして核内 構造などが明瞭に認められます(図A). つぎは,マウス腎臓の近位尿細管上皮のH−E染 色像であり,上皮細胞内の基底線条を構成するミ トコンドリアがエオシンに濃染され鮮明に認めら れております.従来の細胞学では,ミトコンドリ アの検出には,オスミウム酸の入った特殊な固定 法に,鉄ヘマトキシリンなどの染色法を施さなけ れぽ証明されないことになっておりましたが,こ の方法ではH・E染色でも十分にミトコンドリア を認めることができます(図B). つぎに,アザン染色を施したマウスの小腸上皮 でありますが,パラフィン切片の場合と同様の染 色性が獲得されております(図C). 本法は,組織化学的な染色法にも応用できます. その例として,肝臓の切片にPAS反応を試みま した.このように肝細胞内のグリコーゲンが顕著 に反応し,分解能のすぐれた美しい像が認められ ます.この組織像を拡大いたしますと,肝細胞内 のグリコーゲンの局在が,より鮮明にみられます. この分布形態は,決して果粒状ではなく,団塊状 であることがわかります.肝細胞が重複しないた め,細胞内物質の局在を明確に証明する際にも有 力な手段となります(図D). 小腸上皮に対し,多糖類(グルコサミノグリカ ン)をPASで検出しました.杯細胞の粘液性果粒 と小皮縁とが陽性に反応しており,その局在は, より明確に示されております(図E). これはアルカリフォスファターゼ活性を検出し た例で,小腸上皮の小皮縁と,ゴルジ一門に反応 が認められております(図F). 同様に,腎臓皮質の尿細管上皮における活性を 検出した例で,刷子縁部の活性が,より明確に証 明できました(図G). 本法に,免疫組織化学反応を応用した例であり ます.すなわち,インシュリンの抗体を用いて染 色した結果,ランゲルハンス氏島のβ細胞に反応 が認められております(図H). 2)生物組織の光学顕微鏡と電子顕微鏡との対 比観察 電子顕微鏡的観察は,オスミウム酸のような重 金属による固定あるいは染色を行って観察するの が常識とされておりますが,私どもは,ただいま お見せいたした光学顕微鏡的染色切片を,そのま ま,電子顕微鏡で観察することを可能にいたしま した.すなわち,同一切片上の同一視野を光学顕 微鏡と電子顕微鏡とで対比観察することを成功さ せました.この研究は国内外におきましても,私 どもが,はじめて手掛けたものであり,両者を密 接させたことにおきましては,細胞学の発展に寄 与するところが大きいのではないかと思っており ます.この研究に関して1977年2)および1981年3)に 発表した論文は,国外から300部をこえる請求があ るという,反響を得ることができました. つぎに光学顕微鏡と電子顕微鏡との対比観察を 行った例を,紹介いたします(Plate 2∼3)4). まずトルイジンブルー染色を施したマウス顎下 腺の対比観察像であります.トルイジンブルー染 色による光顕像では不明瞭な組織像を示しており ますが(図1A),これと同一切片の同一視野をそ のまま,電子顕微鏡で観察することにより,その 形態をより明瞭に知ることができます(1B).とく に,ここでは,光学顕微鏡でははっきりしなかっ た腺細胞内の分泌果粒は,電子顕微鏡との対比観 察およびその拡大像(1C)により形態や分布密度 を一層明確にすることができました.この対比観 察のための切片の厚さは0.3∼0.5μm(この図は 0.5μm)が適切であり,電子顕微鏡的観察のため の加速電圧は従来の倍以上の200kVで観察しな けれぽなりません.この条件下では細胞内構造を
適確に解析することができます. つぎは,マウス小腸上皮のトルイジンブルー染 色を施した対比観察像であります.光学顕微鏡レ ベルでは可視困難であった(2A)微細構造が,電 子顕微鏡的対比観察により鮮明に観察することが できます(2B,2C).ここでは,上皮細胞の遊離表 面にmicrovilliを認め,細胞質内には,高い電子密 度をもった弓状のミトコンドリアや,核上部の Golgi装置なども同定できます.また,上皮の一部 に杯細胞なども認められ,この細胞質内の粘液性 分泌果粒なども観察されます.これらの所見は拡 大すると(2C),一層明らかであります. 今度は,H−E染色による生後1日目の精細管上 皮における対比観察像であります.この時期では, 光学顕微鏡的にも,基底部にセルトリー細胞が配 列し,管腔内には大型の未分化な精細胞が認めら れます(3A).電子顕微鏡的対比観察するとセルト リー細胞核には,より多くの,3∼数個の核小体 が認められます.なお,精細胞内にはミトコンド リアなどの小器官の特長を確認できました(3B, 3C), つぎは,マウスの腎皮質の尿細管主部を観察し た例であります.光学顕微鏡では不明瞭であった 像(4A)が,電子顕微鏡的対比観察像(4B)ある いはその拡大像(4C)を観察することにより,刷 子縁や上皮細胞内の小器宮,とくに,ミトコンド リアなどを鮮明に認めることができます. ついで,本法を,電顕的および光顕的組織化学 法の対応観察に応用いたしました.対応観察とは, 前述の対比観察とは異なり,連続切片上の隣接す る切片において比較観察することであり,ここで は多糖類の検出に応用いたしました.すなわち, 一方の切片には,光学顕微鏡的多糖類染色のPAS 反応を行いましたが,その隣りの切片には電子顕
微鏡的多糖類検出法としてのPATO(periodic
acid・thiosemicarbaz量de−osmium tetroxide)法を 施しました.従来,両者は関連がないままに研究 が進められておりましたが,肝組織における隣接 切片上の,PAS反応と,PATO反応との所見を対 応観察いたしました.その結果,グリコーゲンの 局在には,両者とも特異性に差がないことが証明 できました. 本研究は,光学顕微鏡的組織化学と電子顕微鏡 的組織化学とを結びつけたことにおいて意義ある ものと考えております. 2.厚切り切片による高圧電子顕微鏡的観察 最近,細胞学は,その構造を三次元的に促え, 解析する方向に進みつつあります.その方法の一 つとして,私どもは,1∼5μmのきわめて厚い切 片を300kVの高圧電子顕微鏡で立体観察を行う ことの実験を手掛けました.その観察対象を精巣 組織といたしましたので,ここでは,成熟前期の 精子細胞について,超薄切片と厚い切片との像に ついて比較検討いたしてみました. head cap形成時の成熟前期の精子細胞の0.1 μm以下の野薄切片像ではhead cap形成に関与 するGolgi装置は明瞭に認められますが,この時 期の核質は常に均質で,核小体などは,はっきり 見られません.なお,acrosomeも認められており ません. 一方,厚さ3μmの厚い切片における成熟前期の 精子細胞であります.厚い切片ともなりますと, 核質は均質ではなく,必ず,核小体を認め,また head cap形成期にはacrosomeが透視されてお ります.Golgi装置内には,中心小体も立体視でき ます.すなわち,この一例によっても立証されま すように,今日まで行ってきた0.1μm以下の超薄 切片は,生物組織に対する超微細構造の究明に大 きく貢献してきたことは確かでありますが,切片 が薄過ぎて,諸構造が抜けてしまっている部分の あることも見逃してはならないと考えます.そこ で,私どもは,長年手掛けてきた造精現象の研究 に,この厚切り切片法を応用いたしました. 3.造精現象に関する電子顕微鏡的観察 造精現象,つまり広義の精子形成過程の研究は, 当初,申し上げましたように,最初の約20年間は, 専ら厚さ0.1μm以下の超薄切片による電子顕微 鏡的観察でありました. 私が解剖学教室へ入室させていただきました 1952年目いう年は,かの有名なPaladeがミトコ ンドリアの超微細構造を発見した年でもあり,日 本での電子顕微鏡的研究は,まさに先駆的研究でありました. 話がそれて恐縮ですが,本学,A講堂の天井中 心のライトの部分は,恐らく,1952年Paladeが発 表した,おなじみの,ミトコンドリア構造の模式 図をアレンジしたものと思われます.私は会議の 度毎にこの天井を眺めつつ,当時を懐かしく想い 出しておりましたが,お気付きになっておられな い方のために,ご紹介させていただきました. 1983年のセミナーの学生により作製された精巣 組織および肝臓の野薄切片による電子顕微鏡像を 呈示いたしました.セルトリー細胞内のミトコン ドリアは,まさにPaladeの報告通りのmito・ chondorial cristae櫛,限界膜およびmatrixが認 められておりますが,肝細胞内のミトコンドリア は,細胞の形態とともに変化していることなどを ともに勉強いたしました. 電子顕微鏡的研究のために,私のセミナーを選 択履修されたかたがたを,年代順にあげますと河 村元子,金 敏姫,深尾清子,吉村ひろみ,奥田 佳代子,倉持 恵,中山むつみ,遠山千秋,亀井 真理,松香裕子,山瀬由美子,岩尾めぐみ,野路 薫,東 美鈴,柳沢直子,野比久恵,塩崎祐理子, 本多祥子,石田三紀子,河谷清美,熊谷万紀子, 宮本和子,本橋京子の皆さんであり,セミナー当 時の名前で挙げさせて戴きました.そのうち,中 山,遠山,亀井,松香さんの4名は私の非常勤講 師の時代に,久保田教授とご一緒に行った方達で あります.私のセミナーを履修された方々は,当 時,大変熱心に,時には夏休みまで返上して努力 され,大学祭に展示いたしたこともございました. また,私どもの研究も手伝って戴きました.この セミナーの学生が作製された多くの写真は,教室 に保存されておりますが,スライドになっており ませんでしたので,本日は,とくに美しい,2枚 だけを,お示しいたしました. お話しを元へ戻しまして,ラット精巣の精上皮 の電子顕微鏡像をお示しいたします.精細管上皮 の中では,各段階の精細胞が成熟,変態を経て精 子を作る現象が行われていることはいうまでもあ りません.従来の光顕レベルでの精子形成過程の 研究は多分に仮想的なものでありましたものが, 分解能のすぐれた電子顕微鏡的の観察により実証 できることになり,この分野の研究は,急速に進 歩発展いたしました.そして,私も,長い間,そ の研究の一端を担わせていただきました. しかし,この当時の0,1μm以下の超薄切片で は,たとえぽ核などの構造は,薄すぎるため,そ の内部構造を充分に把握することは不可能であり ます.この後に申し上げる準超薄切片あるいは厚 切り切片法の導入によりこれらの均質性の部分に は,多くの特微ある構造を有することなどがわ かってまいりました.この精上皮における各段階 の精細胞およびセルトリー細胞の核内構造の観察 は,今日迄続いており,多くの知見を得ておりま すが,本日は省略させて戴きます. 私は,ある時から,この精細管上皮は,皮膚や, 口腔粘膜と同様の重層扁平上皮の変形であるとい う発想から研究を進めることにいたしました.そ の結果,各精細胞同志,栄養あるいは支柱作用を 司るセルトリー細胞問,そして精細胞とセルト リー細胞との間には,特徴ある結合構造のあるこ とを確認いたしました. まず,精細胞同志は,互いに成熟移動しなけれ ぽならないため,このような単なる嵌合による接 触であります. セルトリー細胞間は,特殊な結合構造を呈して おります. そして,精細胞とセルトリー細胞間には,しば しぼ,desmosome様の結合構造を認めます.この 結合構造の存在は,私どもによってはじめて観察 いたしたものであります5).この結合構造は,胎児 や新生児では,より多数観察されます.さらに, 機能障害をおこした精巣組織において,増加の傾 向を示すようであります.したがって,この構造 が精子を管腔へ放出する機構に大きく関与するも のと考えられます.延いては,この結合構造が, 不妊症の原因の一つとも考えられ,観察を行って まいりましたが,なお,結論にはいたっておりま せん.この研究も,私どもが開発いたした厚切り 切片法の導入により,より進展するものと確信い たします6). ついで,造精現象に対しての,高圧電子顕微鏡
による三次元的解析例について,その研究の一部 をお示しいたします(Plate 4,図5∼8). 最も適切な例として,本日はダ精子中間部のミ トコンドリア鞘のラセン構築を選びました.成熟 後期の精子細胞におきまして,この頭部と尾部と の境が中間部であり,最も可動性の高い部位と考 えます.0.3μmの厚い切片で観察いたしますと, 中間部にミトコンドリアが集まり,ラセン状に取 り巻いているのが認められま。す. 精子中間部の縦断像を観察いたしますと,軸糸 を取り巻くミトコンドリアは,初期には軸糸の回 りに集まって参ります.薄い切片では,ミトコン ドリアは表面のものだけが数少なく,ポツポツ見 られている程度であります. 厚さ約0.5μm(図5)および約3μm(図6)の 二二薄切片と厚切り切片との精子中間部の縦断像 を解析した結果,ミトコン、ドリア鞘のミトコンド リアは,4個をもって軸糸を一周するラセン軸に 並ぶこと,二重ラセン構造を呈すること,さらに 軸糸とラセン軸とのなす角度が約23.で始まり, 18.まで変化することなどがわかりました. ついで,3∼5μmの厚切り切片の縦断像に対し, 傾斜装置を使用して撮影した一対のステレオ像に おいて三次元的解析を行いました.ミトコンドリ アのラセン配列が,深部まで立体視でき,前述の 構造を再確認できます. 厚さ,約0.5μm精子中間部の今度は横断像であ ります.この準六二切片により,軸糸を一周する ミトコンドリアは,やはり,4個であることがわ かります(図7). 今度は,3μmの厚切り切片の横断像でありま す.このように厚い切片となりますと,その下層 のミトコンドリアも透視され,合計8個のミトコ ンドリアの重なりが認められます.しかも,下層 のミトコンドリアは,約42.∼43.のずれをもって ラセン回転していることが確認できます(図8). それを図示したもので,ミトコンドリアによる 4枚羽根状の方が準超薄切片で,他方の8枚の方 がその下層のミトコンドリアが透視されている厚 切り切片像であります. 工学院大学の金谷教授と馬場教授に,この精子 中間部の構造をコンピューターによる画像解析を 行って戴きました.その結果,私どもが把握した 精子中間部のミトコンドリアのラセン構築の立体 像と一致した解析像が得られました.以上,私ど もが行ってまいりました研究の一端を紹介させて いただきましたが,その他におきましても,従来 認め難かった多くの知見を確認することができま した, 本研究の共同研究者は,東海大学医学部時代は, 鈴木敏郎助教授,長門康和講師,そして,包埋法 の研究は,私の夫,串田 弘によるものでありま す.なお東京女子医科大学に戻りましてからの共 同研究者は,飯島治之助手でありますが,さらに 多大のご協力を頂きましたのは解剖学教室の皆様 でありまして,ここに厚く御礼申し上げます. 本学では,加速電圧200kVの性能をもつH−800 型電子顕微鏡は,総研に設置されております.そ して,300kVの性能を有するH−9000型電子顕微 鏡は,解剖学教室に設置して戴きました.私ども の研究は,このような高圧電子顕微鏡が必須の機 器でありましたが,私立大学研究装置施設整備費 補助金の申請に際しまして,ご推薦頂き,そして ご購入くださいました吉岡守正学長と吉岡博光理 事長に,ここに深甚なる謝意を表する次第でござ います. 献体について 私ども解剖学を担当致してきたものにとりまし ては,最も大切な事項でございますので少し,触 れさせて頂きます. 「献体」と申しますのは,その遺体を系統解剖 実習の教材として提供することで,生前からその 意志を希望の大学または献体篤志家団体に,書類 をもって登録しておくことであります. まず,本学の献体の現状について申しあげさせ て戴きます.解剖学の主体は解剖学実習であるこ とはいうまでもございませんが,解剖学教室には そのための,「ご遺体の収集」という過重な業務が あります.各医科大学の解剖学教室は長年にわ たって,この実習用ご遺体の確保に苦慮いたして 参りました.しかし,昭和58年に「献体法」が制 定されましてからは,一般の方々の献体に対する
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Plate 4意識が急に高揚いたしました.これを契機としま して,本学はもとより,各大学とも,漸く,ご遺 体の収集に困難をきたすことがなくなりました. 私が,本日,この「献体」について敢えて,取り 上げさせて頂きました理由は,ご遺体が不足して いる時代から,多大のご援助いただきました皆様 に,感謝の意を表したいためであります.ちなみ に本学には現在,約1,400名の献体登録者あるい は,すでにご献体いただいた方々がおられます. 本学に,ご献体またはこ献体登録なされておら れるご関係の方々を挙げさせていただきます.す なわち,本学の名誉教授,本学教職員と,そのご 家族,至誠会の先生方,そして本学ならびに至誠 会の先生によるご紹介の患者さん方でありまし て,大勢の方々がおられます.お名前は秘してお られる方もございますので,申しあげられません が,惹なく実習を行え得ましたのは,そして,学 生に生命の尊さを教えてくださったのは,このか たがたの篤志の賜物でありまして,心より深謝申 し上げております. そして,このご遺体収集業務には,交代制で, 土曜と日曜日とを返上して奉仕して戴いた教職 の,永野助教授,関口講師,藤沢講師,飯島助手, さらに,24時間の宿直体制で頑張ってくださった のは技術職の高橋さん,小原さん,掛橋さん,平 松さんであります.私はこの方々に支えられて何 とかこの業務を遂行致すことができました.ここ に名前を挙げまして,感謝の意を表させて戴きま す. おわりに 私は,一昨日と昨日の3回にわたり,Unit 1の 学生にラテン語の講義をいたしましたが,その際 に示したスライドであります.それは,ヒポクラ テスと,その教えが書かれている,私が大切にし ている壁掛を接写いたしたものであります.ご存 知の‘Vita brevis, Ars longa’と書かれております ので,学生に,文法上の解説と,日本語訳につい ての意見を求めました.多くは「人生は短く,技 術のみちは長い」と訳されるようですが,さらに, 深い意義を含んでいるものと推察いたします.私 もこの戒めを帯しまして,これからの道を歩んで 参りたいと存じております. 最後になりましたが,今日まで私が行って参り ました教育および研究のために,多大のご理解と, ご援助を賜りました学長と理事長に重ねて御礼申 し上げます.それから,私を秋田女子医専当時か ら,そして本学への編入学にご推薦戴き,今日に 至る45年の長きにわたりまして,終始,ご指導賜 りました私の恩師,久保田くら名誉教授に深甚な る感謝の意を表させて戴きまして,私のお話を終 了させていただきます.ありがとうございました. (1993年3月6日,弥生記念講堂) 文 献 1)Iijima H, Nagato Y, Kushida T:Staining semithin tissue sections embedded i義HPMA, Quetol 523 and MMA. Okajimas Folia Anat Jpn 69:15−24, 1992 2)Kushida T, Nagato Y, Kushida H:Observa− tion on the same place in semi−thin section with light and electron microscopy. J Electron Microsc 26:345−348,1977 3)Kushida T, Nagato Y, Kushida H:New method of embedding w三th GMA, Quetol 523 and Methyl Methacrylate for light and electron microscopic observation of semithin sections. Okajimas Folia Anat Jpn 58:55−68,1981 4)K:ushida T, Nagato Y, Iijima H et al:Corre1. ative light and electron microscopy of the same sections embedded in HPMA, Quetol 523 and MMA. Okajimas Folia Anat Jpn 69:277−288, 1993 5)Kushida T:Some observations on the inter・ cellular structure in the seminiferous epith− elium. Morphol Asp Andro11:47−50,1970 6)Kusbida T, Iijima H, Kushida H et al:An improved embedding method employing epoxy resin Quetol 651 for stereoscopic observation of thick sections under a 300 kV transmission electron microscope. J EIectron Microsc 37: 212−214, 1988