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災害対応リスクマネジメントと定常対応マネジメント・コントロールの相互作用

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Academic year: 2021

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災害対応リスクマネジメントと定常対応マネジメン

ト・コントロールの相互作用

著者

吉川 晃史, 工藤 栄一郎, 木村 眞実, 望月 信幸

雑誌名

会計専門職紀要

10

ページ

47-57

発行年

2019-03-31

URL

http://id.nii.ac.jp/1113/00003382/

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【論文】

災害対応リスクマネジメントと定常対応マネジメント・

コントロールの相互作用

吉川 晃史

工藤栄一郎

木村 眞実

望月 信幸

〈論文要旨〉  本研究では、東日本大震災や熊本地震という大災害に対して、BCP/BCM はじめリスクマ ネジメントがどのように機能するのか、またそれが ISO といった定常的なマネジメント・コ ントロールとどう関連するのか事例研究を通じて検討する。事例から、中小企業において、 BCP/BCM の事前対策、準備を定常時の MCS に組み込み、自律的に動ける体制づくりを行う ことで、BCP/BCM が災害時に活用されることが明らかになった。また、BCP/BCM は防災 対策だけでなく、サプライヤーの MCS の強化や業界慣行の変化をもたらし、より積極的な役 割を果たすという意味で、両者は相互に関連することが明らかになった。 〈キーワード〉 震災復興、BCP、リスクマネジメント、マネジメント・コントロール、中小企業

The interaction between Risk Management

and Management Control

Kohji Yoshikawa

Kudo Eiichiro

Mami Kimura

Nobuyuki Mochizuki

〈Abstract〉

This study examines how risk management for the disaster such as BCP works, and how it relates to normally used management control such as business planning. Based on case

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study, we find that SME’s BCP is utilized well when its usual management control works and employees can act autonomously. In addition to this, BCP works not only for the disaster prevention, but also enables to improve suppliers’ MCS and change the transaction practice. We conclude that risk management for the disaster and usual management control relates interactively.

〈Keywords〉

Earthquake disaster reconstruction, BCP, BCM, Risk Management, Management Control, SMEs

1 はじめに

 「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の 損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平 常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計 画」(中小企業庁、2018)が事業継続計画(Business Continuity Planning、以下では BCP と いう)であり、BCP の策定後に、組織内に定着させ、定期的に見直すのが事業継続マネジメ ント(Business Continuity Management、以下では BCM という)である。

 わが国においては、東日本大震災が発生するよりも以前から、民間企業に向けた BCP につ いてのガイドラインが、2005年から2006年に経済産業省、内閣府そして中小企業庁と、複数の 省庁から出されていたのだが、東日本大震災を契機に、BCP/BCM の策定はいっそう加速し て促され、各府庁および各種業界団体等からもさまざまなガイドラインが出され、国家レベル における防災と早期の復旧に関する問題意識は高まっている。  地震をはじめ水害といった災害時の事業継続を進めるために、BCP/BCM の導入の勧めが 喧伝されるなか、中小企業へのその導入率は依然として低い。熊本地震で被災した熊本におい て、サプライチェーンの観点から事業継続に関心があると思われる半導体や自動車産業におい ても、BCP/BCM の導入率は3割弱であった(経済産業省九州経済産業局、2018)。  これに対して、BCP を経営の一要素として位置づけている企業は少なく、BCP が経営その ものであることの理解が不足していると指摘される(経済産業省九州経済産業局,2018: p.36)。 実際に、BCP が単なるリスクマネジメント活動としてだけでなく、その策定において業務プ ロセスの可視化と業務改善が図られるため、平時にもその効果が発生する可能性がある(野 田・加賀谷、2011)。  リスクとリターンは表裏一体の関係にあると考えられてきたにもかかわらず、近年までリス クマネジメントとリターンマネジメントのための管理会計はそれぞれ別々に発展してきた(澤 邉、2007)。事業リスクと事業リターンを統合的にマネジメントする事例として金融機関や商 社が知られるところであるが(澤邉、2007; 頼ほか、2015)、両者を統合して経営管理を行う事 p047-057-yoshikawa-new.indd 48 2020/04/01 18:15:48

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業会社はそれほど知られていない。これに対して、災害対応のリスク・マネジメントと定常対 応のマネジメント・コントロールは、対応すべきリスクの次元が異なるため統合的に運用する ことは、容易でないと考えられる。では、BCP/BCM のような災害対応リスクマネジメント と平時の経営計画や予算管理といったマネジメント・コントロールはどのように関係するのか。  そこで、本稿は、東日本大震災より前に BCP を策定していた鈴木工業株式会社(以下では、 鈴木工業という)の事例をもとに、東日本大震災や熊本地震といった大災害に中小企業の BCP がどのように活用されるのかを検討し、災害対応リスク・マネジメントと定常対応のマ ネジメント・コントロールはどのように関係するのかを考察する。  本稿の構成は以下の通りである。まず、次節において、災害に関するリスク・マネジメント とマネジメント・コントロールに関する先行研究を整理する。3節で、研究方法と調査の概要 を述べ、4節において事例を説明する。5節では、事例の含意について考察を行い、6節でま とめとする。 2 災害に対するリスク・マネジメントと定常時のマネジメント・コントロール  リスクとリターンは表裏一体の関係にあると考えられてきたにもかかわらず、近年までリス クマネジメントとリターンマネジメントのための管理会計はそれぞれ別々に発展してきた(澤 邉 2007、161)。リスクマネジメントを事業の根幹とする金融機関や総合商社においてリター ンを最大化するための戦略にリスクを統合してマネジメントする取組が行われてきた(澤邉、 2007; 頼ほか、2015)。他方で、コーポレートガバナンス強化のために、COSO のフレームワー クを通じた全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management:ERM)が進展するなか、 マネジメント・コントロール・システム(Management Control System:MCS)とリスクマネ ジメントの密接な関連が指摘されている(Berry et al., 2009; Mikes, 2009; 横田・妹尾, 2011)。 しかし、災害対応のリスクマネジメントと定常対応の MCS は、対応すべきリスクが異なるた め統合的に運用することは、容易でないと考えられる。リスクマネジメントと MCS の関係は、 さらなる経験的研究が必要とされているところである(Bhimani 2009; Soin and Collier 2013; Van der Stede 2009)。

 BCP のような災害対応のリスクマネジメントが日常の経営とどのように関連しているとこ れまで理解されてきたのか。BCP を導入している企業は、緊急時でも中核事業を維持・早期 復旧することができ、操業率を被災前に近い値まで機能回復し、さらには市場の信頼を得て事 業が拡大したりする二次効果も期待できる(仲間、2008)。これに関して、野田・加賀谷 (2011)では、BCP が単なるリスク・マネジメント活動としてだけでなく、その策定において 業務プロセスの可視化と業務改善が図られるため、平時にもその効果が発生する可能性がある ことを指摘する。例えば、新潟県中越沖地震の教訓から、自動車関連メーカーは在庫の積み増 し、重要部品の二重購買による有事における在庫水準の確保、一部部品の仕様の統一化による 柔軟な設計変更を可能にするといった取組を紹介する。また、経済産業省九州経済産業局

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(2018)では、図表1のように、BCP の取組によって重要業務の明確化、顧客・取引先からの 信頼の高まり、業務環境の整備、人材育成につながったというアンケート結果が示される。 図表1:BCP に取り組むことで経営改善や効率化につながったこと 出所:経済産業省九州経済産業局(2018)p.17 4 図 表 1 : BCP に 取 り 組 む こ と で 経 営 改 善 や 効 率 化 に つ な が っ た こ と 出 所 : 経 済 産 業 省 九 州 経 済 産 業 局 ( 2018) p.17 他 方 で ,経 済 産 業 省 九 州 経 済 産 業 局( 2018)に よ れ ば ,BCP 未 策 定 企 業 に お い て は 、策 定 企 業 の 8 割 以 上 が 実 施 し て い る 「 避 難 場 所 周 知 ・ 経 路 明 確 化 」 や 「 情 報 伝 達 ・ 指 揮 命 令 系 統 」 な ど , 自 社 内 の 体 制 整 備 で 対 応 可 能 な も の で あ る に も か か わ ら ず , 取 組 が 進 ん で い な い 。 ま た , BCP 策 定 企 業 に お い て は , 概 ね 上 記 の 取 組 が 進 ん で い る も の の , 資 金 繰 り や 生 産 ・ 代 替 手 段 の 確 保 な ど 経 営 判 断 が 求 め ら れ る 事 項 に つ い て の 取 組 が 低 く な っ て お り , BCP 策 定 と 経 営 上 の 重 要 事 項 が 必 ず し も リ ン ク し て い な い 。「 BCP の 未 策 定 企 業 に お い て は も ち ろ ん ,策 定 企 業 に お い て も , 経 営 の 一 要 素 と し て BCP を 位 置 づ け て い る 企 業 は 少 な く , BCP=経 営 そ の も の で あ る こ と の 理 解 が 不 足 し て い る 」( 経 済 産 業 省 九 州 経 済 産 業 局 ,2018: p.36) と 指 摘 さ れ る 。 ま た ,BCP/BCM は 災 害 時 に 実 際 に 機 能 す る の か 。佐 々 木・岡 野( 2013)で は ,東 北 の 事 例 か ら , 事 業 継 続 ・ 事 業 再 開 に は , BCP/BCM の よ う な 危 機 管 理 シ ス テ ム は 限 定 的 で は あ る が 有 効 で あ る こ と を 述 べ る 。 地 域 そ の も の が 物 理 的 に 流 さ れ た よ う に 甚 大 な 被 害 を 受 け た 東 日 本 大 震 災 の 場 合 に は , BCP/BCM の 有 無 だ け の 問 題 だ け で は 説 明 で き な い 多 く の 課 題 が あ る 。 例 え ば , 宮 城 県 石 巻 市 は , 全 国 第 3 位 の 水 揚 げ 高 を 誇 る 漁 港 を 中 心 と し た 水 産 加 工 業 を 主 要 産 業 と し て き た が , 2012 年 10 月 現 在 で 事 業 再 開 は 約 50% に と ど ま る 。 そ こ で , 事 業 再 開 ま で の 従 業 員 の モ チ ベ ー シ ョ ン 維 持 と 危 機 を 見 据 え た 企 業 間 の 協 力 関 係 , 設 備 投 資 の た め の 資 金 計 画 ・ 融 資 協 力 を し て お く こ と の 重 要 性 を 指 摘 し , 他 の シ ス テ ム が BCP/BCM を 代 替 あ る い は 補 完 す る こ と を 示 す 。 岡 崎 ほ か ( 2015) は オ ム ロ ン の 事 例 に も と づ き , 復 興 段 階 で は 成 果 コ ン ト ロ ー ル の 使 用 が 困 難 で あ り , 企 業 理 念 に 基 づ い た 企 業 活 動 を 最 優 先 す る こ と と し て , 文 化 コ ン ト ロ ー ル が 成 果 コ ン ト ロ ー ル を 代 替 す る , さ ら に 平 常 時 に 戻 る と 文 化 コ ン ト ロ ー ル か ら 成 果 コ ン ト ロ ー ル に 戻 る と い う こ と を 紹 介 す る 。 こ れ は , Merchant and Van der Stede( 2007) の 議 論 に 基 づ  他方で、経済産業省九州経済産業局(2018)によれば、BCP 未策定企業においては、策定 企業の8割以上が実施している「避難場所周知・経路明確化」や「情報伝達・指揮命令 系統」 など、自社内の体制整備で対応可能なものであるにもかかわらず、取組が進んでいない。また、 BCP 策定企業においては、概ね上記の取組が進んでいるものの、資金繰りや生産・代替手段 の確保など経営判断が求められる事項についての取組が低くなっており、BCP 策定と経営上 の重要事項が必ずしもリンクしていない。「BCP の未策定企業においてはもちろん、策定企業 においても、経営の一要素として BCP を位置づけている企業は少なく、BCP= 経営そのもの であることの理解が不足している」(経済産業省九州経済産業局,2018: p.36)と指摘される。  また、BCP/BCM は災害時に実際に機能するのか。佐々木・岡野(2013)では、東北の事 例から、事業継続・事業再開には、BCP/BCM のような危機管理システムは限定的ではある が有効であることを述べる。地域そのものが物理的に流されたように甚大な被害を受けた東日 本大震災の場合には、BCP/BCM の有無だけの問題だけでは説明できない多くの課題がある。 例えば、宮城県石巻市は、全国第3位の水揚げ高を誇る漁港を中心とした水産加工業を主要産 業としてきたが、2012年10月現在で事業再開は約50%にとどまる。そこで、彼女たちは事業再 開までの従業員のモチベーション維持と危機を見据えた企業間の協力関係、設備投資のための 資金計画・融資協力をしておくことの重要性を指摘し、他のシステムが BCP/BCM を代替あ るいは補完することを示す。  岡崎ほか(2015)はオムロンの事例にもとづき、復興段階では成果コントロールの使用が困 難であり、企業理念に基づいた企業活動を最優先することとして、文化コントロールが成果コ ントロールを代替する、さらに平常時に戻ると文化コントロールから成果コントロールに戻る ということを紹介する。これは、Merchant and Van der Stede(2007)の議論に基づき、不

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確実性が高まると、成果を適切に定めることができていない、あるいは従業員が何をすればよ いかを理解できないということから、成果コントロールの使用が困難になると主張する。その 場合、文化コントロールによる補完が有効であるとのべる。  また、Hatton ほか(2016)では、2011年にクライストチャーチで発生したカンタベリー地 震による被災企業を調査し、下記を教訓として整理する。 ・BCP はレジリエンス(回復力)の一部に過ぎず、人々がそれを達成する能力を持っていな ければ、計画は無意味である。 ・従業員とサプライヤーとの良好な関係が非常に重要である。 ・状況に応じた適応可能な計画としておく。計画の一部は、一般的な原則にしておく方が詳細 な計画よりも役立つ場合がある。 ・BCP を最新の状態に保ち、理解し、実践しておく。 ・内外のコミュニケーションは、継続性を達成するための鍵である。 ・トレーニングはすべてのスタッフにとって不可欠である。 ・重要な機能が正しいことを確認しておく。 ・経営者がスタッフの世話をするが、ひいてはスタッフが経営者の世話をする。 ・今回の震災から得た教訓を次の震災に備えること。  先行研究で検討されてきた ERM や戦略分析に用いられるリスクマネジメントとは異なる災 害対応のリスクマネジメントと平時の経営計画や予算管理といったマネジメント・コントロー ルはどのように関係するのか。本稿は、東日本大震災より前に BCP を策定していた鈴木工業 株式会社(以下では、鈴木工業という)の事例をもとに、東日本大震災や熊本地震といった大 災害に中小企業の BCP がどのように活用されるのかを検討し、災害対応リスク・マネジメン トと定常対応のマネジメント・コントロールはどのように関係するのかを考察する。 3 研究方法と調査概要  研究デザインの設計にあたっては、災害対応リスクマネジメントと定常対応マネジメント・ コントロールの関係性の理解という研究目的に照らし合わせ、理論的なサンプリング(Strauss and Corbin, 1998)によって選ばれた事例について体系的にデータを収集し、収集したデータ を整理し分析することとした。  まず、研究方法の選択においては、災害時における災害対応リスクマネジメントの機能と定 常対応マネジメント・コントロールへの影響を理解するため、長期的な変化を詳細に捉えるた め定性的な方法を選択し、さらに定性的な研究手法のなかでも実際の災害への対応実践をとら えるためケーススタディ方法を採用した。ケーススタディの実施にあたっては、災害に対する 対応実践の組織的文脈を理解するためにインタビュー調査を活用した。また、調査対象に関連 する内外の各種文書を検討し、インタビューデータを補完すべくトライアンギュレーションを 行っている。

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4 BCP/BCM と MCS の活用事例  本節では、東日本大震災より前に BCP/BCM を策定していた鈴木工業の事例から、同社の BCP/BCM と MCS が東日本大震災を経てどのように変化していったのかについて述べる1  宮城県仙台市に本社をおく鈴木工業は、下水・浄化槽の清掃業務や汚泥処理をはじめ、廃棄 物の収集運搬業から中間処理業、さらには廃棄物の焼却処理だけでなく廃酸・廃アルカリの処 理など幅広い事業を展開する。同社の従業員数は約85名、売上高は約12億円という中小企業で ある。  宮城県沖地震の発生が10年以内に70%、20年以内に90%以上、30年以内で99%と公表されて いたのが、同社の災害対策を行う動機であった。同社が BCP/BCM の策定の開始を行ったのは、 2008年9月である。取引のある保険会社から BCP/BCM の存在を知り、BCP 策定委員会を立 ち上げ、1年間かけて計画書の策定を行った。同社では、コンサルティング会社にたよること なく、他社の BCP/BCM や保険会社からの資料やアドバイスをもとに毎月1回の勉強会を開 催しながら、社長を実行委員長とした策定委員会が独自に BCP/BCM を導入していった。策 定委員会のメンバーである、経営陣および各部門長が、事業復旧までの目標日数を定め、復旧 目標達成に必要な具体的な設備・ノウハウは、現場社員の声を聞き反映していき、当初の BCP/BCM の骨格を作った(図表2)。 図表2:当初の BCP/BCM の骨格 担当部署 重要業務 目標復旧時間 事前対策・準備 営業部 ①緊急時対応 1日 ◆契約書やマニフェスト保管◆サプライヤーとの協定書・覚書 ②顧客との連絡 3日 業務部 ③下水道清掃業務 3日 ◆自家発電装置の配備◆サプライヤーとの協定書・覚書 ④上水道清掃業務 3日 環境リサイクル部 (エコミュージア ム21) ⑤焼却炉の対策 6日 ◆緊急地震速報装置の配備 ◆入手困難部品の確保・保管 ◆サプライヤーとの協定書・覚書 総務部 ⑥社内システム管理 3日 ◆バックアップデータ保管場所を内陸部に移転◆衛星電話の配備(各事業所) ◆社内研修会での訓練 1 同社の BCP の取組については、杉山(2013)に詳しい。ここでは、ヒアリング調査(2018年3月14日調査 時間2時間、2018年9月19日1.5時間)及び同社社長による講演会(2018年7月31日2時間)並びに、杉山 (2013)を参照しながら、同社の取組を述べる。 p047-057-yoshikawa-new.indd 52 2020/04/01 18:15:48

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4.1 被災と BCP/BCM の発動  鈴木工業では、地震発生後の40分後に、BCP/BCM を発動した。BCP/BCM では本社が中 心となり、他2つの事務所や現場に出ている従業員とやりとりを行うということが決められて いた。また、固定電話が繋がらない自体を想定し、衛星電話を各事務所に用意しており、社員 の安否確認や取引先との連絡をとることができた。幸いにして同社の人的被害はゼロであった。  宮城県は地震多発地域であり、震度6強の地震がいずれくるという認識はあった。しかしな がら、東日本大震災の津波は想定外であり、被害は想定以上のものであった。環境リサイクル 部が管轄する中間処理施設は5mの津波により事務所、重機、車輌、トラックスケールといっ た主要設備が流出してしまった。また、処理施設の外壁も半壊し、焼却炉や水処理施設も水 没・倒壊・流出してしまった。  同社の社内のシステム管理は3日後に復旧し、本社の電話やパソコン端末も3月16日に復旧 した。上下水道設備の業務も地震発生から3日後に復旧した。また、産業廃棄物の収集運搬お よび清掃業務、リサイクル業務なども約1週間で復旧させた。多大な被害を被った中間施設 (エコミュージアム21)については、3ヶ月の復旧予想であったにも関わらず、徐々にプラン トを復旧させながら38日目に復旧を果たし、震災前と同様の24時間稼働を果たすにいたった。 4.2 定常的な MCS による BCP/BCM の有効化  地震による大規模な損害に対して、鈴木工業はいかに事業復旧を果たしたのか。鈴木工業の 「マニュアル」上では大津波は想定されておらず、その大部分が参考にならなかったが、その 中の基本方針は社員に浸透していた。それは、(1)何のために行う活動なのか、(2)より優 先して復旧させるべき重要な業務は何なのか、(3)災害発生時に当社に求められる社会的役 割とは何なのか、ということである。  鈴木専務(現社長)は、BCP/BCM が有効に機能したことについて、次のように説明する。 「東日本大震災が発生したとき、BCP マニュアルは見ませんでした。もう1つ、私たち経営陣 は BCP を発動しただけで、その後の細かい指示までは特に出していません。従業員一人ひと りが日頃から身に付けていた BCP を、そのまま実行しただけです」(杉山、2013: p.15)  例えば、焼却施設が想定以上に早期に復旧できたのは、修理に必要な部品を事前に安全な場 所にストックしておいていたことが大きい。焼却施設の部品は特注品が多く、災害時には調達 が難しいことが、現場社員から意見としてあり、ストックしておいたという。  これに加えて、鈴木工業は仮に自社が被災した場合にそなえて、他地域の同業他社やプラン トメーカーといった協力会社と、事前に「災害協定」を交わしていた。例えば、収集運搬車輌 が使用できない場合には、他社に事業を委託するということを決めていた。実際に、震災直後 から廃棄物処理の需要があり、焼却施設が使えなかった同社ではこの協定に基づき他社に仕事

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を依頼し、事業継続につなげた。  同社では BCP/BCM 策定以降、最低でも年3回はロールプレイング訓練を行ってきた。訓 練は形式的な避難訓練ではなく、実際の災害をイメージしたものに基づいて実施された。例え ば、「衛星電話で連絡をとる」というシミュレーションを行うなら、実際に電話を使って訓練 を行う。また、BCP を発動する権限をもつ社長がその場にいないときの対応など、訓練で生 じた疑問を徹底的に洗い出し改善していくことで、万事に備える体制を充実させてきた。この ような訓練により、マニュアルがなくても一人ひとりの従業員が行動できるようになったとい う。 4.3 震災後の BCP/BCM の変化  震災前のマニュアルは項数の多さや、緊急事態対応に大津波が想定されていなかったことか ら震災時に使用できなかったほか、内容の変更があるたびに全体を見直す必要があるなど、簡 素化と緊急事態対応の拡大が課題として浮き彫りとなった。そこで、鈴木工業は県のセミナー に参加して、オールハザードタイプの簡素化マニュアルの改定に着手した。  震災前の重要業務は各部からの意見を参考に決められたが、震災を経験し、各部が改めて重 要業務の見直しを行った。その結果、業務部の重要業務が見直された。上下水道施設の緊急作 業対応をするためには、人員と車両の確保が不可欠であることから、それが最優先事項とされ た。また、事前対策・準備も同様に見直されることになった。改訂された BCM の骨格が、図 表3のとおりである。 図表3:改訂後の BCP/BCM の骨格 担当部署 重要業務 目標復旧時間 事前対策・準備 営業部 ①緊急時対応 1日 ◆契約書やマニフェスト保管◆サプライヤーとの協定書・覚書 ②顧客との連絡 3日 業務部 ③車両の確保 1日 ◆自家発電装置の配備 ◆サプライヤーとの協定書・覚書 ◆自家給油所の再開 ◆各車両にシガーソケット変換器配備 ④人員の確保 1日 環境リサイクル部 (エコミュージア ム21) ⑤焼却炉の対策 6日 ◆緊急地震速報装置の配備 ◆入手困難部品の確保・保管 ◆サプライヤーとの協定書・覚書 ◆緊急避難所を設置(屋根) 総務部 ⑥社内システム管理 3日 ◆衛星電話の配備(各事業所) ◆社内研修会での訓練 ◆安否確認方法の多様化 ◆インバーター発電機の設置 ◆食料品を備蓄(1年更新) p047-057-yoshikawa-new.indd 54 2020/04/01 18:15:48

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 自社だけでは、事業の継続は難しいことから、同社では震災前からサプライヤーとの業務停 止後の事業継続について業務連携協定を締結してきた。震災を経て、業務連携協定を実際に機 能させるため、同社はサプライヤーとの合同訓練を始めた。同社はビジネス・エコシステム全 体から事業継続を考えることの重要性に気づきを得た。それで、この訓練に、金融機関も加わ るようになった。合同訓練の狙いは、サプライヤーに、サプライヤーの仕入先が事業継続でき るか、また、サプライヤーが同業他社と連携できる関係性の構築の必要性を検討してもらうこ とである。そして、必要性に応じて、サプライヤーが業務連携協定を締結するようになった。 このように、震災における学びは、サプライヤーの MCS に影響を与えることになった。  また、2016年4月に、同社の呼びかけにより、仙台市、産廃協会、解体業協会、建設業協会 による行政、同業者組合という異業種団体が業務連携協定を締結した。そして協定締結後に、 団体全体は BCP/BCM を検討し、共同訓練を開始した。  同社の BCP/BCM は分厚いマニュアル集ではなく、「どんなときにも使えて応用が効く BCP」をキーワードに、シンプルに考えながら、パンデミックやテロ、ゲリラ豪雨といったリ スクへの対応を考えている。 5 考察  前節では、我々は東日本大震災より前に BCP/BCM を策定していた鈴木工業が、震災時に どのように事業継続を果たしたかを説明した。また、震災前後で同社の BCP/BCM はどのよ うに変化したのかを述べた。本節では、地震といった大災害に中小企業の BCP/BCM がどの ように活用されるのかを検討し、災害対応リスク・マネジメントと定常対応のマネジメント・ コントロールはどのように関係するのかを考察する。  鈴木工業における BCP/BCM のマニュアル上では大津波は想定されておらず、その大部分 が参考にならなかった。しかし、BCP/BCM の基本方針は ISO を中心とする日常の MCS を通 じて社員に浸透していた。基本方針の理解のもと、現場が柔軟に事業再開を目指して対応にあ たった。  また、震災後に BCP/BCM をより有効なものとするために、同社はサプライチェーン全体 で検討する必要があると学習し、サプライヤーへの BCP/BCM の導入を進めることで、サプ ライヤーの MCS に影響を及ぼした。これらは、Hatton ほか(2016)の指摘と共通している。  BCP/BCM が経営そのものであると理解することが望ましいとしても(経済産業省九州経 済産業局、 2018)、災害対応のリスク・マネジメントと定常対応のマネジメント・コントロー ルは、対応すべきリスクが異なるため統合的に運用することは容易でない。BCP/BCM が業 務プロセスの可視化と業務改善が図られることに加え(野田・加賀谷、2011)、本事例では、 BCP/BCM の事前対策、準備を定常時の MCS に組み込み、現場が自律的に対応できるように しておくことで、中小企業の BCP/BCM が災害時に活用されることを明らかにする。また、 BCP/BCM は防災対策だけでなく、サプライヤーの MCS の強化や業界慣行の変化をもたらし、

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より積極的な役割を果たすという意味で、両者は相互に関連することを本稿では明らかにした (図表4)。 11 図 表 4: リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト 定 常 的 MCS の 関 係

6 まとめ

本 稿 で は , 東 日 本 大 震 災 や 熊 本 地 震 と い う 大 災 害 に 対 し て ,BCP/BCM は じ め リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト が ど の よ う に 機 能 す る の か , ま た そ れ が 予 算 管 理 と い っ た 定 常 的 な マ ネ ジ メ ン ト ・ コ ン ト ロ ー ル と ど う 関 連 す る の か 事 例 研 究 を 通 じ て 検 討 し た 。 具 体 的 に は , 東 日 本 大 震 災 よ り 前 に BCP/BCM を 策 定 し て い た 鈴 木 工 業 の 事 例 を 検 討 し , 基 本 方 針 の 理 解 の も と で , 被 災 し た と き の 現 場 対 応 を 進 め た 。 ま た , 震 災 後 に BCP/BCM を よ り 有 効 な も の と す る た め に ,BCP/BCM を 簡 便 化 す る と と も に , サ プ ラ イ チ ェ ー ン へ の 普 及 を 始 め て い る こ と を 明 ら か に し た 。 本 稿 で は , 定 常 時 の MCS が , BCP/BCM と い う 災 害 対 応 の リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 有 効 な 機 能 を 支 援 す る と と も に , 災 害 で 得 ら れ た 経 験 が 定 常 時 の MCS の 変 化 を 支 援 す る と い う こ と で , 経 営 管 理 の な か で 両 者 は 相 互 に 関 連 し う る こ と を 示 し た 。 本 稿 で は , 鈴 木 工 業 の 定 常 時 の MCS に つ い て 十 分 な 記 述 が で き な か っ た た め , 定 常 時 の MCS の ど の 部 分 が BCP/BCM に 影 響 を 与 え た の か に つ い て 十 分 に 検 討 で き な か っ た 。 こ の 点 に つ い て は , 今 後 の 検 討 課 題 と し た い 。 付 記 本 稿 は ,科 学 技 術 振 興( 平 成 29 年 度 熊 本 復 興 支 援( 地 域 産 学 バ リ ュ ー プ ロ グ ラ ム タ イ プ )課 題 番 号 VP29217944171) に よ る 研 究 成 果 の 一 部 で あ る 。 参 考 文 献

Berry, A. J., A. F. Coad, E. P. Harris, D. T. Otley, and C. Stringer. (2009) “Emerging themes in management control: A review of recent literature,” The British Accounting Review, 41(1), pp. 2-20. 図表4:リスクマネジメント定常的 MCS の関係 6 まとめ  本稿では、東日本大震災や熊本地震という大災害に対して、BCP/BCM はじめリスクマネ ジメントがどのように機能するのか、またそれが予算管理といった定常的なマネジメント・コ ントロールとどう関連するのか事例研究を通じて検討した。  具体的には、東日本大震災より前に BCP/BCM を策定していた鈴木工業の事例を検討し、 基本方針の理解のもとで、被災したときの現場対応を進めた。また、震災後に BCP/BCM を より有効なものとするために、BCP/BCM を簡便化するとともに、サプライチェーンへの普 及を始めていることを明らかにした。  本稿では、定常時の MCS が、BCP/BCM という災害対応のリスクマネジメントの有効な機 能を支援するとともに、災害で得られた経験が定常時の MCS の変化を支援するということで、 経営管理のなかで両者は相互に関連しうることを示した。  本稿では、鈴木工業の定常時の MCS について十分な記述ができなかったため、定常時の MCS のどの部分が BCP/BCM に影響を与えたのかについて十分に検討できなかった。この点 については、今後の検討課題としたい。 付記 本稿は、科学技術振興(平成29年度熊本復興支援(地域産学バリュープログラムタイプ)課題 番号 VP29217944171)、JSPS 科研費(18K01917)による研究成果の一部である。 参考文献

Berry, A. J., A. F. Coad, E. P. Harris, D. T. Otley, and C. Stringer. (2009) “Emerging themes in management control: A review of recent literature,” The British Accounting Review, 41 (1), pp. 2

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参照

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