肺門部早期肺癌手術例について
山梨県立中央病院 外科 千葉成宏 内科 竹村尚志 大久保修一 病理科 小山敏雄 はじめに 肺門部早期肺癌は完全治癒が期待できる癌で あり、その発見率を高めることは肺癌の治療 成績の向上につながるわけであるが、残念な ことに肺癌症例の中で早期癌が占める割合は なお数%にすぎない。 過去5年間に我々が経験した早期肺癌の症例 を呈示し、臨床的問題点にふれたい。 対 象 1988年から1992年までの5年間に手術を行な った症例を対象とした。この間の全肺癌症例 は332例、手術例は125例であり、このうち 術後病期1期例は59例、47.2%あり、そのう ち肺門部早期癌は4例、3.2%であった。(表1) 症 例 1) 73才 男 酒類販売 1988年7月、喀疾細胞診E判定にて受診。 レ線無所見、内視鏡無所見のため気管支ファ イバー3回施行、左B3bの扁平上皮癌と診断。 1988年11月、左上葉切除術施行。 2) 66才 男 農業 1988年8月、咳漱、喀疾出現、同年9月血疾 を認め近医受診、レ線検査等にて肺癌と診断、 当院へ紹介された。 (図1,2,3,4) stage59
早期癌 肺野 肺門皿A MB
35 16
Ep
2 4 表 1 1988年12月、左肺摘除術施行。 3、 69才 男 元教員 1991年2月、喀疾細胞診E判定にて受 診。気管支プアイバーにて左B6入口 部に腫瘍を認め、生検にて扁平上皮癌 と診断。 (図5,6,7,8) 1991年5月、左下葉切除術施行。 4、 69才 男 元清掃業 15年前から甲状腺機能低下症であった 1992年11月、発熱にて近医受診、レ線 検査にて肺炎として治療するも軽快せ ず喀疾細胞診にてclass Vであったた め当院へ紹介された。 1992年4月、右中葉切除術施行。図1 症例2の胸部レ線写真
図2 症例2の内視鏡像
図3 症例2の切除標本
図5症例3のCT像
No 氏 名 年令 発見動機 レ線所見 病変部位
BFS所見
173
検診 (喀疾) なし左B3b
なし 266
症状 (せき) 無気肺 左主気管支 polypoid 369
検診 (喀疾) なし 左B6分岐部 nodu lar4
69
症状 (発熱) 無気肺右B5
polypoid No 喫煙指数 職 業 手 術病理所見
予 後 11000
酒類販売 左上葉切除 6×3㎜,中分化 55か月生存 21350
農業 左肺摘除 12×10㎜,中分化 36か月他病死 3900
教員→農業 左下葉切除 5×4㎜,高分化 24か月生存4
1000
元清掃業 右中葉切除 8×3㎜,中分化 14か月生存 表 2 上記(表2)のように全例男性、平均年 令69.2才、発見動機は肺癌検診の喀疾細 胞診によるもの2例、咳、発熱など症状 によるもの2例、レ線所見は無所見2例、 無気肺2例であった。いずれも喫煙指数 800以上の重喫煙者であった。病変部位 は主気管支1例、区域支2例、亜区域支 1例であった。気管支鏡所見は無所見1 例、ポリープ状2例、結節状1例であっ た。手術は3例に肺葉切除術、1例に肺 摘除術がおこなわれた。病理組織型は、 いずれも扁平上皮癌で、3例は中分化型、 1例は高分化型であり、大きさは5㎜∼ 12mmであった。これら4例の予後は、36 か月で他病死した1例を除いて14∼55か 月生存中である。 考 案 肺門部早期肺癌の頻度については、渡 辺ら14)は入院800例、切除603例中21例 入院例の3.6%、切除例の4.8%、赤荻ら1) は切除例500例中32例6%、また坪田ら1°) は手術例434例中6例1.4%と報告してい る。 発見動機として検診の占める割合は 1/6から10/16までまちまちであるが、肺 癌全例においても清水ら5)の報告のよう に50%前後とされており、肺門部におい ては咳、血疾など症状が出やすいことも あり、検診がとくに有用ともいい切れない。また、レ線無所見の症例がしばしば みられるため、レ線写真のみの検診は片 手落ちであり喀疾細胞診の併用が必要で ある。喀疾細胞診は一般的には喫煙者、 血疾などの有症状者など、いわゆる高危 険群を対象としているが、これを喫煙者 の配偶者や70才以上の非喫煙者などにも 拡げることが提唱されてきている。 胸部レ線写真無所見の肺癌については 近年その報告が増加してきており、最近 ではレ線無所見、内視鏡無所見の症例に ついても報告されてきている6).これは 学会規約の肺門部よりさらに末梢、すな わち亜区域支以下に発生した早期癌を発 見することであり、喀疾細胞診における 早期癌の特徴的所見についても検討され ている8)11)。 肺門部早期癌の治療上の問題点は、1) 肺門の特殊性、つまり切除量が大きくな りやすい、2)高齢者が多い、3)喫煙者が 多く肺機能の低いものが多い、4)多発癌 または多重癌の問題などである。このた め外科的治療においては気管支形成術の
応用や多用が考えられ、またLASER
やbrachytherapyの適用などが考慮され ている。我々の経験例においても気管支 形成術の適応と考えられたが断端陽性の ため断念した症例もあり、また肺摘除を 行なった症例2が術後3年肺炎で死亡す るなど治療の困難さを物語っている。非観血的治療、とくにLASERにおいて
は癌の深達度が問題になる。永元らは喀 疾細胞診で発見した肺癌切除例の深達度 について詳細に検討し、気管支軟骨まで の浸潤は40例中32例であったと報告して いる7)。 肺癌の手術成績は年々向上してきてい る。予後を左右する因子はまず病期であ り、1期肺癌の術後5生率は74∼78%に なっている。しかし、肺門部早期癌全体 では治療の困難性も手伝ってかならずし も良い成績とは言えず、その5生率は90 %程度となっている3)4)9)1°)12)。死亡 例のなかには他病死や重複癌も含まれて おり、術後の慎重な経過観察が必要であ る。肺門部早期癌においては多重癌の頻 度が高いという報告もあり、経過観察に おいてはレ線写真のみでなく喀疾細胞診 を定期的に行なうことも有効であろう。 今後ますます増加していくであろう肺 門部早期癌においては早期癌であるとい う診断、すなわち気管支壁内に限局して おり転移がない、という診断を的確につ ける努力とともに、現在我々が有してい る各種の治療手段を駆使することにより 治療後の患者のQOLをできるだけ低下 させないようにすることも重要である。 文 献 1)赤荻栄一ほか:早期肺扁平上皮癌剥 離細胞標本中の“異型軽度な癌細胞” の由来一一癌組織表層の細胞形態の検 討、肺癌,31:757,19912)雨宮隆太ほか:肺門部に発生あるい は浸潤増殖する腫瘍の生検と細胞採取、 下里幸雄編:肺癌の生検と細胞診、pp 7−19,医学書院,1988 3)栗栖純穂ほか:早期肺癌切除例の検 討、肺癌,31:757,1991 4)小林元荘ほか:肺門部早期肺癌10例 の治療後の経過、肺癌,31:757,1991 5)清水信義ほか:最近の集団検診発見 肺癌の手術成績一自覚症状発見群と の比較一一肺癌,32:37,1992 6)仲田祐ほか:肺癌集団検診の評価 一宮城方式一肺癌,26:727,1986 7)永元則義ほか:胸部X線写真無所見 肺癌の肺切除40例についての癌の発生 部位と気管支壁深達度、肺癌,26:609, 1986 8)日本肺癌学会編:気管支鏡所見分類, 肺癌取扱い規約,改訂第3版,pp61− 64,1988 9)前里和夫ほか:肺門部早期肺癌の1