肺癌化学療法後にSIADHを呈した1例
山梨県立中央病院内科 平良美智子 福田和典 加賀美年秀 呼吸器科 竹村尚志 大久保修一 は じ め に 肺癌の化学療法に伴って、様々な副作用が 惹起されることは良く知ちれているが2)、今 回我々は、CDDP、 IFO、およびVDSによる化 学療法後にSIADHを発症した症例を経験した ので報告する。 症 例患者:59歳、男性
主訴:右側胸部の重苦しい感じ、嗅声、 息切れ、 家族歴:特記事項なし 既往歴:43歳 弁膜症、48歳 高血圧、55歳難聴、58歳大腸ポリープ
現病歴: 平成3年5月10日頃より、嘆声、 側胸部及び背部の重苦しい感じが出現。5月 23日近医受診するも改善しなかったため、5 月30日当院受診、胸部レ線にて、右胸水貯留 を認めたため、同日入院となる。 入院時現症: 身長:158,5cm体重:53kg、 脈拍:66/分,整 血圧:140/90mmHg 頸部:静脈怒張(+) 胸部:右中下肺野に濁 音(+),呼吸音減弱(+)、心尖部に収縮期逆流 性雑音1[{/VI。 入院時検査所見(表1,2); 血液・生化 学検査上、WBC,Fib,CRP,ESRの異常高値を認 入院時検査所見(1) 〈cB. C> RBC 47×106/㎡ Hb 14.6 g/dl Ht 438% S●9 671% Lym 238% 損㎝ 67% Bas O3% Eos 20% Plt 307×103/㎜3 <C◎agulati㎝ profile> PT 96.4 S Eb 入院時検査所見(2)表1
〈Blood Chemlstry> 工PsuB 6 /de Na 144.O mEq/2 Alb 42g/d2 K 3.8 mEq/2 工二旦」」__1」旦』蝸{ Cl 104.O rTEq/2 ㎜ 134㎎/d2 Ca 9.2㎎/d2 」‖旦_____」6】ヱ』g∠⊆堕P 3.5㎎/d2 Cr 1.0㎎/d2 GOT 18U/e − GPT 13U/2 互一) ALP 171 U/2 LAP 40 U/2 γ一G丁P 22U/2 Ch−E O.78 △pH表2
〈UrlnalYsls> <TLmor markers> Pro (一) 《ΣA 42㎎/m2 Sug (一) CA19・・9 9 U/m2 Blo◎d(一) 旦⊆き⊇_____1L¶Lng∠堕』 NSE 6.6 ng/m2 <Stoo l> mu OB (一) 〈Sputum> <ECG> Culture normal flora vr. N. L. Gaffky O号 Cytology’Class I 〈B|ood Gas> Pa O∼ 76.8”vrHg 〈Pteural effuslon> color dark red 1 bdt (+++) speCtftC gr ’104 Pro 59 d2 !”1LllJ!lgLdl Cl:1040㎡…q!2 1.lt!s.1Q96.yzg− CLU1tg!.gg1一1一!!g![1g−!ta.i AdenoCa Culture:(一) 血液ガス分析では、過換気による呼吸性ア ルカローシスを認める。 胸水は、暗褐色・混濁・滲出性で、細胞 診にてclass V、 adenocarcinomaを認めた 細菌培養は陰性であった。 入院時胸部レ線像(図1); 右側に大 めた。肝腎機能は・電解質を含め、異常なし。量の胸水を認め、縦隔及び心臓の左方偏位 Tumor markerでは・SCC , CA 一一 125の上昇、動脈 を認める。 −15一胸部CT(図2);右肺に内部不均一な
巨大なmassを認め、#7と#11の縦隔リン パ節と右肺門リンパ節の腫脹を認める。 腹部エコー;肝のS7に転移巣と思われ る境界不明瞭な直径2,3×1,7cmのhypo− echoic lesionを認める。 以上により、T。 N, M、、stage IVの 原発性肺腺癌と診断した。 入院後経過(図3):Stage IVの原発性 肺腺癌と診断後、胸腔内ドレナージ及びア ドリアシン(ADR)とピシバニールによる胸 膜癒着術、3回の化学療法、放射線療法を 施行した。1回目の化学療法では、初日に シスプラチン(CDDP)120mg,イフォマイド 〔IFO)2.Og1ビンデシン(VDS)4.5mg、2日目、 3日目にIFO 2mg、8日目にVDS 4.5mgを投 与した。また、CDDPの腎毒性軽減の目的で、初日かち3日目にかけて、1日3L∼4 L
の大量輸液をおこなった。8日目の生化学 検査にて、血清Na値は112.3mEq/L,血清Cl 76mEq/Lと著明に低下を示していたことか ら、SIADHを疑い、検索を進めるとともに、 水分制限及び生理食塩水の点滴によりNaの 補給をおこなった。低Na血症にもかかわら ず、尿中Na排泄は362mEq/dayと高値を持続 し、血清浸透圧は235mOsm/Lと低く、尿浸 透圧は348mOsm/Lと300mOsm/L以上に保た図1
図2 ず、CDDP、 ADR、CPA、マイトマイシンーC (MHC)にておこない、その結果、 SIADHの 発症は見られなかったため、本症例は.VDS れていた。翌9日目の血中ADH値は、8.8P9/によって引き起こされたSIADHと考えられ m1と基準値の約2.5倍の上昇を認めた。脱 水症状はなく、浮腫もなく、腎機能低下も 認められなかった。これらの検査所見より、 SIADHと診断し、その後も、同様の治療を 継続して、16日目には、血清Na値は、正常 範囲内となった。 第1回目の化学療法の効果は、NCであっ た。2回目の化学療法には、VDSを使用せ た。 考 察 SIADHとはADHの不適切分泌を示す疾患 であり、循環血液量の減少がなく、生理的 におもな分泌刺激である血漿浸透圧の低下 にもかかわらず、ADHの分泌が持続する疾 患である。SIADHの原因としては、悪性腫 瘍、中枢神経疾患、肺疾患、薬剤が広く知 一16一られている。悪性腫瘍では、肺小細胞癌の 表3 SIADHの診断基準 報告が最も多く、全体の約70%をしめる2》。 肺小細胞癌におけるSIADH発症機序として1.低浸透圧血症を伴う低Na血症(≦130m[q/ は、異所性に腫瘍から産生されるADHによ2.尿がある程度まで濃縮されている。(尿∼: る場合と、抗癌剤投与による薬剤性の機序透圧/血漿浸透圧>1,尿浸透圧>300mOsm が考えられる。しかし本例のような非小細kgH20) 胞癌におけるSIADH発症の報告は極めてま3.尿中にNa排泄が持続している。(>20mEq れである。本例では、SIADHが化学療法後1) 一過性であったことかち考えて、腫瘍かち4.脱水症状がない(血漿レニン活性く5ng/m のAOH産生は考えにくい。また、中枢神経/hr) 疾患、内分泌疾患の合併も否定的であるの5.腎機能正常、副腎機能正常 で、SIADHの発症の機序としては、化学療 法後の薬剤による可能性が最も高いと考え られる2)。 SIADHを引き起こす抗悪性腫瘍剤として は、VCRが良く知られているが、今回我々 が使用したCDDP,VDSについても少数ではあ るが報告されている2・ 3)。VDSは、新しい vinca alkaloidでありビンブラスチン(VB L)または4−dehydro−VBLを化学的に修飾し て得られた半合成vinca alkaloidでVCRと 同様の抗腫瘍スペクトラムを有している。 慣 弛 } CDDP 120㎎ IFO 2.Og 嘱 碧る 琵・・。 ff駕 § 峯 聖 § § $ CH,O eH ..。 籠●・XHaCH‘ ㍉CH‘CH・ OHs、 c−R, o H8SO. R‘ R, R》 V|nbla$tin●(Exel..Vし8) 一ごH, ●OCH, ’−COCH8 Vincristin●COncovin・.VC≒)−CHO −OCH, ■cocri. Vindes|n●(S●n20、voS) −CH. −NH, ●X 図4Vinca alkal。id類のfヒ・“g ue g VDS 45㎎ VDS 4.5㎎ ↓ 500 400 300 200 100 o 150 一くトSN8 140 一●−AOH 130 120 110 ADH正常域 100 ooo 口Φ舗 800 ■Po領 600 400 200 o 1o 図3化学療法後病日 一17一 30 2°
フ
1。婁 曇 0 408VBL,VCR,VDSの化学構造上の差異はその側 参考文献