Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
入院が必要となるような外科的治療はどのようなものが
ありますか。
Author(s)
髙野, 正行
Journal
歯科学報, 120(3): 374-375
URL
http://hdl.handle.net/10130/5222
Right
Description
外科的治療において入院療養は重要な役割を果た しています。どの診療科であっても,局所麻酔,全 身麻酔にかかわらず,ある程度以上の規模の手術で は安全に手術が実施できるように術前術後の周術期 管理の一環として入院下に行っています。 そのなかで,口腔外科ではどのような症例で入院 管理を行っているでしょうか。進展した口腔がんや 顎骨腫瘍や嚢胞,顎矯正手術などの長時間を要する 手術に加えて,突然生じた顎骨骨折や軟組織外傷, 化膿性炎症による蜂窩織炎などが挙げられます。こ れらに対しては,手術の侵襲,術後管理の必要に応 じて,数日から数週間の入院療養が取られているこ とが多いと思います。 その入院療養の内容としては,術後の止血管理, 反応性炎症の制御,感染予防,疼痛管理などの患部 の局所管理の他に,全身状態の保持のための輸液な どによる体液管理,血圧,不整脈などの循環管理, 呼吸管理,輸血,栄養管理(摂食嚥下機能が低下し た患者,血中アルブミンの低下など低栄養状態にあ る患者)などが挙げられます。そして,これらの入 院加療のためには,病室と入院ベッドの確保が必要 なのはもちろんですが,人材としてわれわれ歯科医 師の他に,医師,看護師,薬剤師,放射線技師,臨 床検査技師など多くのスタッフが関わっており,夜 間帯に勤務する宿直の看護師,医師,歯科医師など が必要となります。 一方,そのような大規模な手術や処置でなくて も,同様の入院加療を行う場合があります。外来で 行った抜歯の術後,化膿性病変の消炎手術後,突発 的な外傷後の管理などが挙げられますが,たとえ ば,手術侵襲が大きい,全身状態に影響が出てい る,何らかの基礎疾患を伴っている,などでは口腔 外科での入院加療も考慮しなければなりません。 その一方で,昨今は病気や病態が多様化して医療 全体が高度化するなか,多職種がそれぞれの専門性 を発揮しながら連携するチーム医療が求められてい ます。その場合,疾患に応じた専門診療科との併診 が必要となり,多くの診療科を有する総合病院等で の入院加療が必要となる場合も増えているため,そ の判断も大切なポイントです。どのような場合に入 院療養を選択し,どのような時に通院加療を選択す るかは,それぞれの症例に応じて判定されることで 一定の基準はありませんが,以下,口腔外科医が入 院療養を選択する場合について疾患別に述べてみた いと思います。 1.術後止血管理 抜歯などの観血処置に際して,血友病,血小板減 少症などの出血傾向を有する患者さんには十分な注 意が必要ですが,同様に循環器疾患に対する抗凝固 薬や抗血小板薬などを服用している方も,止血困難 をきたすことがあり要注意です。抜歯前に抗凝固薬
臨床のヒント
Q&A
口腔外科系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は外科 治療での入院に関する質問です。Question
入院が必要となるような外科的治療はどのようなものがありますか。Answer
374 ― 130 ―(ワーファリンなど)の休薬は血栓塞栓症のリスク を増加させ,抗血小板薬(バイアスピリンなど)で は休薬により脳梗塞の発症リスクが約3倍になると の報告があります。以前は,抜歯前に必ずこれらの 薬を休薬するように言われていましたが,現在は抜 歯等の小手術では抗血栓薬の継続が推奨されていま す。その分,出血リスク抑えるために酸化セルロー スやゼラチンスポンジなどの止血剤を併用した縫合 処置,さらには止血シーネやサージカルパックなど が用いられます。 これらの局所止血処置だけで止血可能な場合がほ とんどですが,これらの処置を行っても術後出血の 恐れがある場合,例えば以前に止血しにくい抜歯後 出血の既往がある,出血性素因疾患がある,埋伏歯 抜歯後の組織内出血が咽頭や組織隙に貯留して気道 を狭窄,閉塞させる危険がある,などの場合はより 注意深い対応として,入院下に注意深く止血管理を する必要が生じます。 2.急性化膿性炎症 顎口腔に発生する急性化膿性炎症の多くは,歯周 炎など歯性感染症によるものですが,これが歯槽部 の骨膜を破壊して周囲の軟組織や組織間隙に進展す ると,広範囲の腫脹や発赤,疼痛などを伴って膿瘍 や蜂窩織炎に発展することがあります。はじめは限 局した化膿巣であっても,時間とともに組織の皺疎 な間隙に沿って進行すると症状の進展範囲を判定し にくい場合も多く,また,発生する部位や起因菌に よっては,腫脹の急速な進展により気道の閉塞を来 たし,ガス壊疽菌の感染では数十分単位であっとい う間に症状が増大する症例もあります。 抗菌薬の投与や歯槽部の消炎手術を行ったにも関 わらず拡大するあるいは遷延する化膿性病変があれ ば,躊躇せず早期に口腔外科に転送するのが良いで しょう。口腔外科医は感染している部位,腫脹の程 度,拡大傾向などを見極め,通院で対応するのか, 入院管理を選択するか,さらには救急医療機関に転 送するのかの判断が必要になります。 3.顎顔面外傷 顎顔面の外傷には高所からの転落,交通事故や作 業中の事故などで起こるものもありますが,これら は始めから救急外来等を受診するため,一般歯科医 院や口腔外科外来に来院する患者さんは,スポー ツ,喧嘩,転倒など比較的単純な外力により歯の外 傷や歯槽部の骨折が生じて来院する場合が多いと思 います。しかしこれらの中には,顎骨に応力が及ん で関節突起の介達骨折を併発していることもありま す。さらに歯科で治療開始してから,治療経過中に 脳神経症状や胸部や腹部の症状が出現する場合もあ ります。 来院時の確認で事項として大切なことは,受傷時 の頭部受傷や意識障害などの有無です。救急隊や同 行者から「いつ,どこで,どんな状況」の受傷かを 確認するとともに,バイタルサイン(血圧,脈拍 数,呼吸数,体温,意識)を確認して,少しでも異 常な兆候があれば,すぐに二次,三次医療期間に転 送する判断が大切です。 4.入院加療ができない場合 「保険医療機関及び保険医療養担当規則 第二章 保険医の診療方針等(歯科診療の具体的方針)」に 「入院の指示は,療養上必要があるとみとめられる 場合に行う。通院の不便等のための入院の指示は行 わない。」とあります。これに準じて,抜歯後の通 院の回避のためや,術後に症状の進展の懸念もなく 通院が可能と判定される場合,通院回数を少なくす る目的で多くの歯を一度に抜歯する,などの入院加 療は一般に認められませんので注意が必要です。 Answer:髙野正行 東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座 参考文献 1)科学的根拠に基づく 抗血栓療法患者の抜歯に関するガ イドライン 2015年版改訂版:日本有病者歯科医療学 会,日本口腔外科学会,日本老年歯科医学会 編,学術 社,東京,2015. 2)公益社団法人日本口腔外科学会/日本口腔顎顔面外傷学 会 編:口腔顔面外傷診療ガイドライン2015年改訂版 第Ⅱ部. http : //www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_ 3.pdf 3)重松司朗:歯性急性化膿性炎症の臨床症状と診断,口腔 外科のレベルアップ&ヒント,p8−9,デンタルダイ ヤモンド社,東京,2019. 4)保険医療機関及び保険医療養担当規則
https : / / www. mhlw. go. jp / web / t _ doc ? dataId = 84035000&dataType=0&pageNo=1
歯科学報 Vol.120,No.3(2020) 375