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Title
Influence of Cervical, Thoracic and Lumbar Spines,
and Shoulder Girdle Range of Motion on Swallowing
Function of Dependent Older Adults
Author(s)
田代, 宗嗣
Journal
歯科学報, 119(2): 140-141
URL
http://hdl.handle.net/10130/4882
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 要介護高齢者においては摂食嚥下障害がよくみられるが,摂食嚥下障害の予防は,QOL の観点からだけで なく,栄養摂取や誤嚥性肺炎予防という観点でも非常に重要である。また要介護高齢者では,加齢や身体活動 の低下による筋の柔軟性,伸張性の低下により関節可動域(ROM:range of motion)に制限がみられることが ある。脳血管障害患者において頸部 ROM は摂食嚥下機能との関連について幾つか報告があり,筋緊張による 頸部 ROM 制限が喉頭運動を阻害するとしている。臨床的な視点から,頸部だけでなく体幹,肩甲帯 ROM 制 限も摂食嚥下機能と関連することが予想される。しかし体幹,肩甲帯 ROM と摂食嚥下機能の関連を示した報 告は見受けられない。本研究の目的は,頸部,体幹,肩甲帯 ROM 訓練が高齢者の摂食嚥下機能の維持に有用 かどうかを検討するために,要介護高齢者における頸部,体幹,肩甲帯 ROM を調べ,その ROM と摂食嚥下 機能との関連を明らかにすることである。 2.研 究 方 法 対象は,要介護高齢者37名(平均年齢86.8±6.2歳;男性11名,女性26名)とした。摂食嚥下機能は Functional
Oral Intake Scale(以下,FOIS)により評価した。関節可動域測定は「関節可動域表示ならびに測定法」に準 拠し,頸部(屈曲,伸展,回旋,側屈),体幹(屈曲,伸展,回旋,側屈),肩甲帯(屈曲,伸展,挙上,下制)の 関節可動域をそれぞれ3回測定し,その平均値を算出した。摂食嚥下機能により,対象者を Dysphagia(−)群 (FOIS7)と Dysphagia(+)群(FOIS6以下)に分類し,両群の関節可動域を比較した。統計学的検討には正規 性,等分散性により,2標本 t 検定,Weltch の検定,Mann-Whitney 検定を用い,危険率5%未満を有意水 準とした。本研究は東京歯科大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号516)。 3.研究成績および結論 摂食嚥下機能は,FOIS Lv7が19名,Lv6が12名,Lv5が5名,Lv4が1名であり,Dysphagia(−)群が 19名,Dysphagia(+)群が18名となった。両群における関節可動域を比較したところ,Dysphagia(+)群では 頸部(屈曲,伸展,側屈),体幹(屈曲,伸展,回旋,側屈),肩甲帯(屈曲,挙上,下制)において有意に制限が みられた。 氏 名(本 籍) た しろ むね つぐ
田
代
宗
嗣
(大阪府) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 2149 号(甲第1354号) 学 位 授 与 の 日 付 平成28年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Influence of Cervical, Thoracic and Lumbar Spines, and Shoulder Girdle Range of Motion on Swallowing Function of Dependent Older Adults
掲 載 雑 誌 名 Geriatrics & Gerontology International 第17巻 12号 2565−2572頁 2017年 doi:10.1111/ggi.13097 論 文 審 査 委 員 (主査) 櫻井 薫教授 (副査) 石田 瞭教授 阿部 伸一教授 平田創一郎教授 歯科学報 Vol.119,No.2(2019) 140 ― 58 ―
各々の関節運動における筋の柔軟性,伸張性が低下することで ROM 制限が起こる。頸部関節運動に作用す る筋の中でも,舌骨筋群は舌骨挙上運動に作用する筋であり,柔軟性,伸張性の低下で喉頭運動を阻害するこ とが考えられる。また,後頭筋群,胸鎖乳突筋などは嚥下時に頭位の固定に作用する筋であり,柔軟性や伸張 性が低下することで嚥下時の頭位が不安定になり,食塊移送や喉頭運動など正常な摂食嚥下運動に悪影響を及 ぼすことが考えられる。体幹では屈曲,伸展,側屈,回旋に,肩甲帯では,屈曲,挙上,下制に有意差がみら れたが,体幹,肩甲帯の関節運動に働く筋は,摂食嚥下の運動に直接作用していない。そのため,ROM 制限 は摂食嚥下機能に直接悪影響を及ぼす要因ではなく,老化に伴う変化として頸部に現れた柔軟性の低下と同時 に現れたものと考えられる。 今回,因果関係を明らかにするに至らなかったものの,一部の ROM と摂食嚥下機能との間に何らかの関連 があることが示された。このことから,摂食嚥下障害のない要介護高齢者に対して頸部,体幹,肩甲帯 ROM 訓練を行い筋の柔軟性,伸張性を維持,増進することで,摂食嚥下障害を予防できる可能性が示唆された。 論 文 審 査 の 要 旨 摂食嚥下リハビリテーションにおいて,筋のリラクセーションを目的とした関節可動域訓練は一般的に行わ れているが,訓練の効果を示した報告や,関節可動域と摂食嚥下機能の関連を示した報告は殆どない。本論文 は,要介護高齢者における頸部,体幹,肩甲帯の関節可動域と摂食嚥下機能との関連を示し,これらの部位の 関節可動域訓練を要介護高齢者に行うことで,摂食嚥下障害を予防できる可能性が示唆されたことを報告した ものである。 本審査委員会では,①対象者の条件,②加齢による影響,③姿勢保持能について,④摂食嚥下障害の有無で 対象者の関節可動域に有意差を認めた要因,などについての質問がなされた。①本研究では対象者の脊椎変 形,習慣的な姿勢,または咬合状態について確認しており,問題のある者は除外されているため,これらの影 響は無いものとして考えられる。しかし原疾患,要介護度にはばらつきがあるため,対象者の背景を考慮した 研究が今後の課題である。②本研究では,2群比較において影響が出ないよう対象者の年齢に考慮はしたが, 加齢による影響については,筋の萎縮や筋力低下による関節可動域制限,摂食嚥下機能の低下が考えられる。 ③摂食嚥下障害の有無で体幹関節可動域に有意差を認めたことに対して,姿勢保持能に言及して考察を行っ た。しかし,本研究では対象者の条件として「座位保持が可能な者」としており,考察において姿勢保持能の 低下に言及することは矛盾しているという指摘がなされた。そのため,姿勢保持能に言及した考察を除外し, 「体幹の関節運動に働く筋は,摂食嚥下の運動に直接作用していないため,体幹関節可動域制限は摂食嚥下機 能に直接影響を及ぼす要因ではなく,老化に伴う変化として現れたものと考えられる」,と修正した。④嚥下 障害の有無で関節可動域に有意差を認めたことに関して,各々の項目に対して関節可動域制限が摂食嚥下機能 に影響を及ぼす直接的な要因として考察を行った。しかし,それだけではなく間接的な要因についても考察を 加える必要があるという指摘がなされた。そのため,間接的な要因として原疾患,要介護度を挙げ,関節可動 域制限との関連についての検討を加えた。これらの質疑が行われ,概ね妥当な解答が得られた。その他,英語 表現,用語の確認ついての指摘などがあり,修正が行われた。 本研究で得られた結果から,要介護高齢者の摂食嚥下障害は,口腔機能だけに注目していては改善できず, 歯科医師も関節可動域など口腔外にも視野を広げる必要があることを示唆しており,今後の歯学の進歩,発展 に寄与するところ大であり,学位授与に値するものと判定した。 歯科学報 Vol.119,No.2(2019) 141 ― 59 ―