要約 町田キャンパス一粒館で観測された2016年の年平均気温(15.7℃)は,過去10年間で最 も高かった.年降水量は2019.9mmと多く,特に8月(472.8mm)と9月(336.2mm)が多 かった.日平均気温,日最高気温,日最低気温,日降水量,日平均風速の欠測値は,理化 学館の観測などから補完し,町田キャンパスの気象の10年間平均値などが求められた.ま た,一粒館の風速計が弱風時に反応が悪いこと,一粒館屋上に設置された太陽光パネルの 劣化が確認された. 1.はじめに 町田キャンパスでは,2006年12月に一粒館で気象観測を開始し,2016年12月で10年が経 過した(坪田,2008).その間,表1に示したように町田キャンパスの停電やコンピュータ の不具合による欠測はあったが,気象観測装置(米国Davis社製Vantage Pro)に故障はな く,同一機器による貴重なデータが取得できた.町田キャンパスで気象観測を始めた目的 のひとつは,町田キャンパスの天気と気象,気候を知ることにあった.30年程度の観測期 間を基にする気候を知るには十分ではないが,町田キャンパスの天気と気象の特徴を知る 手掛かりは得られたと考える.
町田キャンパスの気象2016
Machida Campus Weather Report 2016坪田 幸政※1 キーワード: 気象観測,気温,降水量,風,太陽光発電,2016 ※1 TSUBOTA, Yukimasa 桜美林大学自然科学系 表1.一粒館の欠測期間 2007 6月8日〜10日 3日間(2日間) アメダス観測点(府中)から補完 2008 6月6日〜10日 5日間(2日間) 理化学館のデータから補完 2009 2月25日〜28日 4日間(2日間) 理化学館のデータから補完 2009 8月9日・10日 2日間(1日) 理化学館のデータから補完 2011 8月10日〜13日 4日間(ゼロ) 理化学館のデータから補完 2012 9月8日〜10日 3日間(ゼロ) 理化学館のデータから補完 2012 12月27日・28日 2日間(1日) 理化学館のデータから補完 2014 5月19日〜6月23日 36日間(36日間) 理化学館のデータから補完 注:()内は欠測期間に降水があったと推定される日数
町田キャンパスでは,2008年3月に完成した理化学館屋上にも気象観測設備が設置され, 観測が継続している.しかし,理化学館のシステムは本学の独自システムであり,データ 処理システムの不具合や改良などのため2009年3月までは欠測が多かった(坪田,2015). また,2015年には湿度センターが故障し,温度センサーと共に交換した.そして,2016年 10月末には温度センサーが故障し,再び湿度センサーと共に交換した.これは,理化学館 で温度・湿度一体型センサーを使用しているためである.気象観測の継続性を考えると, 温度センサーと湿度センサーを独立させる必要があることがわかった.そのため,本報告 では主に一粒館の観測結果を用いる.ただし,表1に示した2008年以降の一粒館の欠測は, 坪田(2015)に基づいて理化学館のデータで補完した.また,2007年の欠測は,坪田(2010) に基づいてアメダス観測点(府中)のデータで補完した. 2.気温 一粒館における気温の観測結果を表2と表3に示した.2016年の年平均気温は15.7℃で あり,過去10年間で最も高かった.一方,2016年の月平均気温は, 過去10年間の月平均値 と比較して7月,8月,11月以外は高い一年であった.つまり,2016年は盛夏以外の暑さ が,年平均気温を引き上げていたと言える. 気温の変動の目安となる日平均気温の標準偏差が3℃以上である3月と4月は,寒暖を 繰り返していることがわかる(表3).また,1月は月平均気温が4.3℃と最も低く,標準 偏差も1.90℃と最も小さいので,暦の「寒」との一致が確認できる. 表3に示した日最高気温と日最低気温の標準偏差を比較すると,月毎では日最高気温の 方が大きく,年単位では日最低気温の方が大きいことがわかる.このことは,日最高気温 と日最低気温の月平均値を比較することでも確認でき,日最高気温の月平均値は8月と1 月の差が21.9℃であるのに対して,日最低気温の月平均値は8月と1月の差が23.7℃となっ ている. 過去10年間に観測された日最高気温の月別最高値と日最低気温の月別最低値とそれぞれ の月平均値との差を求め,それぞれの標準偏差に対する比を「対σ比」として表3に示し た.対σ比が3以上となっているのは,最高気温が12月〜3月,最低気温が5月である. 観測値が正規分布に従うと仮定すると,観測値は平均±1σ(標準偏差) に 68.27%,±2 σに95.45%,±3σに99.73%が含まれる.従って,対σ比が3以上の観測値は,極端(出 現確率0.27%)に暑い,あるいは寒い現象(極端現象)が発生していることを意味する.
一粒館の気温から猛暑日,真夏日,夏日,冬日の日数と熱帯夜の回数を算出し,表4と 表5に示した.2016年は,猛暑日が4日と少なく,熱帯夜が1回と極端に少ないことがわ かる.また,夏日は5月と10月に多いが,3月と11月に観測されていない.つまり,2016 年の暑さが早くから始まった,あるいは暑さが遅くまで続いたという訳ではない.これら のことからも,年平均気温が高い割には,盛夏の暑さがそれ程ではなかったことが確認で きる.また,11月24日には初雪が観測された.気象庁(2016a)によれば,東京における11 月の積雪は1875 年の統計開始以来初めてとのことである.2016年の経験から,年平均気温 が上昇しても,上昇の仕方により,私たちの体感が異なることがわかる.気候の変化と天 気の変化の関係は,今後も注意深く監視していく必要があろう. 過去10年間の日平均気温と日最高気温,日最低気温の平均値,日最高気温の最大値,日 最低気温の最小値の季節変化を図1に示した.平均日最低気温の季節変化は,時間的な遅 れはあるが太陽高度の変化に対応して,全体としてサインカーブを描いているように見え る.一方,平均日最高気温の季節変化は,春から夏と夏から秋の変化が単純な逆パターン ではないことがわかる.これは梅雨の影響と考えられるが,関東甲信地方の梅雨の期間は, 平年で6月8日頃〜7月21頃とされている(気象庁web).町田キャンパスにおける気温の 観測から判断すると,梅雨の影響は一か月早い5月から出現していると考えられる.これ が町田キャンパス特有の現象なのか,気候の変化による最近の傾向なのかを判断するには, 表3.2007年~2016年の気温の統計 表4.2016年の猛暑日,真夏日,夏日,冬日の日数と熱帯夜の回数 表5.2007年~2016年の平均(猛暑日,真夏日,夏日,冬日の日数と熱帯夜の回数)
より長い期間の観測と他の地域との比較研究が必要である. 3.降水量 一粒館における降水量の観測結果を表6に示した.2016年の年降水量2029.9mmは,過去 10年間で3番目に多かった.2016年の月降水量を過去10年間の平均と比較すると,8月 (472.8mm)が246%,11月(105.8mm)が148%と多く,10月(80.5mm)が39%と少なかっ た.日降水量の最大値は,台風9号が関東の東の海上を通過した8月22日の168.1mmであっ た.また,この日午前11時に時間雨量55.9mmを観測し,降雨強度1としては最大85.5mm/ 時を記録した.この時,町田キャンパスのサレンバーガー館と理化学館の間のオープンス ペースでは排水が追い付かなくなり,溢れた雨水が理化学館一階に流入し,最大で水深 30mm程度まで達したとのことであった(本学自然科学系片谷教孝教授の情報).尚,2016 年8月10日午後6時にも時間雨量52.1mm(降雨強度72.5mm/時)を観測しているが,理化 学館で浸水被害は起きていない.8月10日の日降水量は61.7mmであり,一過性の降水(驟 雨)であったためと判断できる. 図1.気温の季節変化
れらのことから,時間雨量50mm以上が予想された場合,理化学館では浸水被害を想定す る必要がありそうである.ただし,2011年8月26日午後4時に観測された時間雨量61.5mm (降雨強度82.7mm)では浸水被害が発生していないので,時間雨量だけでなく前後の降水 量や排水口の状況なども関係していると考えられる.尚,過去10年間に観測した時間雨量 50mm以上の降水は,理化学館建設前の2007年9月5日午前8時に観測された56.1mm(降 雨強度86.0mm/時)を含めて計5回だけである(表8). 町田・坪田(2016)は,東京の降水量データを分析し,日降水量ゼロの日数が近年増加 傾向にあることを指摘した.そこで,日降水量ゼロ,日降水量20mm以上,日降水量50mm 以上の日数を求めた結果を表7と表8及び図2に示した.統計期間が10年と短いこともあ り,年々変動が大きく,系統的な変化は認められなかった. 町田キャンパスの降水の特徴を過去10年間の観測からまとめると,日降水量20mm以上 と日降水量50mm以上の降水は一年を通して観測されるが,時間雨量20mm以上の降水は5 月〜10月の暖候期に多く,特に時間雨量50mm以上の降水は8月に集中していることがわ かる. 降水量は日々,月々,年々の変動が大きく,10年間平均値に平均気温のような意味はな いとも考えられるが,町田キャンパスの降水パターンを示すために日降水量の平均値を図 3に示した.図3には30日間の移動平均値も折れ線で示してある.町田キャンパスの降水 は,春から梅雨に向けて段階的に増加し,梅雨明け後減少し,秋霖の時期に再び増加する ことがわかる.また,表8に示した降水日数は梅雨期の方が秋霖の時期よりも多いが,降 水量としては秋霖の時期の方が多いことがわかる(表6).また,降水パターンに関する情 報は,晴天が条件となるイベントの開催時期を決定する時などに利用できると考える. 4.風 一粒館における風の観測結果を表9と表10に示した.2016年の風速は,過去10年間の平 均値と比較して日平均風速は小さく,坪田・原(2016)が指摘したように風速計の経年劣 化の可能性が高い.ただし,日最大風速の月平均値や年平均値は,過去10年間の平均値に 近い値を示していることから,強い風には反応していると考えられる.町田キャンパスの 表6.日降水量の集計結果
図3.平均日降水量の季節変化(2007年~2016年) 図2.降水の経年変化
表7.2016年の月別降水ゼロの日数などの統計
風の平均的な季節変化を知るためには,理化学館における風の観測により,一粒館の観測 値を補正する必要があろう. 日卓越風向の頻度分布を図4に示した.2016年の日卓越風向には北西と南東に極大があ り,過去10年間の卓越風向の極大とほぼ同様な結果であった.しかし,過去10年間と比較 して,北北西と南東の頻度が高いので,風向計の不具合や周辺環境の変化を調べる必要が あろう. 日卓越風向の頻度分布の季節変化を図5に示した.北,北北西,北西の風は,10月〜3 月までの寒候期に多いが,最も少ない7月でも10%以上の頻度で吹く.一方,暖候期を代 表する南東,南南東,南の風が最も少ない1月の頻度は10%未満であり,南南東の風は暖 候期の特徴と言えるだろう.図4に示した日卓越風向の頻度分布から,町田キャンパスに は,北西・北北西〜南東・南南東方向の「風の道」が示唆される.今後,これらの風向と 表9.2016年の風 表10.2007−2016年の風 図4.日卓越風向の頻度分布(左:2016年,右:2007年~2016年)
天気や気温,水蒸気量などの関係を調べることが期待される. 5.湿度 相対湿度の観測結果と共に気温と相対湿度から算出した露点を表11に示した.2016年の 相対湿度76%と露点11.1℃は,過去10年間で最も高かった.また,月平均値で比較すると, 1月と9月の相対湿度が5%以上高く,1月,3月,4月,9月の露点は約2℃高かった. 2016年の相対湿度と露点の高さは,年降水量の多さや昨年来発生していたエルニーニョ現 象との関係など,より詳細な分析が望まれる. 図5.風向の季節変化(2007年~2016年)
6.気圧 一粒館における現地気圧の観測結果を表12に示した.2016年の月平均気圧は,8月以外 は過去10年間の平均と同等であった.8月の現地気圧が低かったことは,8月の月降水量 の多さとの関係が示唆される.町田キャンパスの現地気圧は,寒候期(11月〜2月)の方 が,暖候期(6月〜8月)よりも高いことがわかる.日本付近の気圧配置は,冬が西高東 低,夏が南高型と中学校の理科「日本の天気」で学習する.このことから,北太平洋高気 圧(小笠原高気圧)に覆われる夏の方が気圧が高いように思われるが,町田キャンパスで は冬季の方が気圧が高いことがわかった.この傾向は東京管区気象台や横浜地方気象台の 観測結果とも一致していることが確認された. 表11.相対湿度と露点
7.日射と太陽光発電 一粒館における全天日射量の観測結果を表13に示した.2016年の年積算全天日射量 4,374MJ/m2は,過去10年間で最低であった.特に8月,9月は少なく,降水ゼロ日数の少 なさ(晴天日の少なさ)と対応している(表7と表8). 太陽光発電の2016年と過去10年間の日平均値の統計を表14と表15に示した.また,月積 算太陽光発電量の経年変化を図6に示した.2016年の太陽光発電量の年積算値2151.6kWh は,過去10年間の最低値であった.日積算太陽光発電量の月平均値と標準偏差を日比較す ると,標準偏差が月平均値の大きさに匹敵するほど大きいことがわかり,太陽光発電の変 動性の大きさが統計的に確認できる.また,日積算太陽光発電量の最小値ゼロが,2016年 11月(表14)と過去10年間では1月と2月(表15)に記録されている.これらの最小値が 記録された日を特定すると,2016年11月24日,2013年1月14日,2014年2月14日であり, 表12.月平均現地気圧 表13.日射量の観測結果
図6に示した月積算太陽光発電量の経年変化からも2016年の発電量が少ないことが確認 できる.また,図7に示した月積算日射量と月積算太陽光発電量の関係から,坪田・原 (2016)が指摘したように設置後12年を経過した太陽光パネルの劣化は確実のようである. 表14.2016年の太陽光発電 表15.2007−2016年の太陽光発電の統計 図6.月積算太陽光発電量の経年変化
8.おわりに 2016年12月21日,気象庁(2016b)は「世界と日本の年平均気温がこれまでの最高値を 更新〜2016 年(平成 28 年)の世界と日本の年平均気温(速報)〜」を公表した.同日,気 象庁(2016c)は「世界各地で異常高温が頻発〜2016 年(平成 28 年)の世界の天候(速 報)〜」で,干ばつ,熱波,大雨や洪水,ハリケーンによる大きな気象災害に関して報告 した.日本でも北海道に台風が上陸したり,梅雨前線が停滞して西日本で大雨が観測され たりした.天気は私たちの日々の生活と密接に関係しているため,気象を観測し,その状 況を把握することとその変化を検知することは今後も重要となるであろう. 町田キャンパスの気象観測は開始から10年が経過し,平均的な大気の状態や様々な現象 の頻度などを把握することができた.これからは,観測される事象を過去の状態と比較し て,どの程度極端な現象なのかを議論できるようになる.町田キャンパスの気象観測設備 を更新し,気象観測を継続していく意義はあると考える. 謝辞 図7.月積算日射量と月積算太陽光発電量
参考文献 気象庁,2016a,「11月の天候」, http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1611.pdf 気象庁,2016b,「世界と日本の年平均気温がこれまでの最高値を更新〜2016年(平成28年)の世界と日本の年平 均気温(速報)〜」, http://www.jma.go.jp/jma/press/1612/21c/worldtemp2016.pdftemp2015.pdf 気象庁,2016c,「世界各地で異常高温が頻発〜2016年(平成28年)の世界の天候(速報)〜」, http://www.jma.go.jp/jma/press/1612/21b/worldclim2016.pdf 坪田幸政,2008,「大気環境ステーションと局地天気予報」,桜美林Today,第8号,p.17-41. 坪田幸政・高碕梓,2009,「町田キャンパスの気象と天気予報2008」,桜美林Today,第9号,p.5-35. 坪田幸政,2010,「町田キャンパスの気象2009」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,創刊号,p.7-30. 坪田幸政,2011,「町田キャンパスの気象2010」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,第2号,p.83-113. 坪田幸政,2012,「町田キャンパスの気象2011」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,第3号,p.1-31. 坪田幸政,2014,「町田キャンパスの気象2012・2013」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,第5号,p.1-49. 坪田幸政,2015,「町田キャンパスの気象2014」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,第6号,p.61-103. 坪田幸政・原佑実,2016,「町田キャンパスの気象2015」,桜美林論考『自然科学・総合科学研究』,第7号,p.1-29. 町田沙季・坪田幸政,2016,東京における降水量の経年変化,日本気象学会2016年度春季大会講演予稿集,109, p.199. 参考webサイト 気象庁,「昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値):関東甲信」, http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/baiu/kako_baiu09.html(アクセス:2017/1/10)