中枢神経系を構成する様々な細胞に対する抗体の作製
横
尾
英
明
は じ め に 細胞あるいは 子レベルでの様々な異常の 和が組織 や細胞の形態に反映されるという えから, 病理学では 形の持つ意義が重要視される. このような基本原理に 従って様々な疾患が記述され, それらが種々の疾患概念 の基盤として受け入れられてきた結果, 病理組織学は医 学において不動の地位を確立した. また多くの病理学的 知見がホルマリン固定パラフィン包埋された臓器組織の 所見に基づくために, 別の見方をすれば今日の医学なら びに病理学はパラフィン切片の呪縛から逃れられないと いう図式が生み出されたようにも思う. 一例として, 病 理学 野で盛んに実施される免疫組織化学において, 当 該抗体がパラフィン切片で 用可能かどうかは我々病理 医にとって重大な関心事である. オリゴデンドロサイトを取り巻く諸事情 オリゴデンドロサイトは中枢神経系に局在するグリア 細胞の一種で, 軸索の周囲に髄 を形成する. 髄 には 特異的に発現する 子も多いことから, 免疫組織化学的 マーカーの開発は容易に達成できるだろうと多くの研究 者は当初, 楽観的に えていたに違いない. しかしオリ ゴデンドロサイトの細胞体と髄 の連続性を証明するこ とは電顕を駆 しても困難な作業であり, 髄 を染める という戦略では必然的に行き詰まってしまう. 一方で病理学的見地からは, 多系統萎縮症において特 異な封入体がオリゴデンドロサイトに形成されることが 当教室の中里らによって報告され, 種々の神経変性疾患 におけるグリア細胞の重要性を知らしめる嚆矢となっ た. また同細胞の腫瘍であるオリゴデンドログリオーマ は, 治療上の観点から正確な病理診断を求められている が, 細胞に特異的な所見が乏しいことが診断上しばしば 問題となっていた. そのためパラフィン切片で 用可能 なオリゴデンドロサイトのマーカーの確立は斯界におけ る長年の懸案であった. 筆者は大学院生時代からこの課 題に取り組み, その結果いくつかの有用なモノクローナ ル抗体を開発したが, これらはいずれも副産物の要素が 強く, オリゴデンドロサイトのマーカー開発はなかな か実現しなかった. オリゴデンドロサイトの転写因子の 発見から抗体作製へ 近年, オリゴデンドロサイトの発生 化を制御する転 写因子が相次いで報告された. 一般に転写因子は核内で 作用するので, これらを認識する抗体はオリゴデンドロ サイトの核に反応するのではないかと筆者は仮説を立て た. 核を認識する抗体であれば細胞の同定にも都合が良 い. そこでこれらの転写因子に対する抗体を作って免疫 組織化学的に検討し, 中でも Olig 2がオリゴデンドロサ イトのよいマーカーであることを見出した. またオリゴ デンドログリオーマにおいて Olig 2はほぼ全ての症例 に発現していたが, アストロサイト系腫瘍でもかなりの 陽性率を示すことが明らかとなり, この時点では発生学 的知見との乖離が問題となった. しかし後に Olig 2陽性 細胞の系譜からアストロサイトが形成されることが明ら かとなり, 現在 Olig 2はグリオーマ前駆細胞ならびに成 熟オリゴデンドロサイトのマーカーと理解されている. 筆者らはこの抗体を利用して, papillary glioneuronal tumor などにおいて Olig 2陽性細胞の存在を明らかに 143 Kitakanto Med J 2007;57:143∼144 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態病理学 野 平成18年12月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態病理学 野 横尾英明し, ニューロンとグリアの両成 を併せ持つ腫瘍が多様 性の高い概念であることを明らかにした. 現在, 筆者ら の開発した Olig 2抗体は市販されており, 多くの研究者 に ってもらっている. 今 後 の 展 望 Olig 2発現を手掛かりに明らかとなったグリオーマ前 駆細胞の存在は, 今後の重要な研究課題になることが予 想される. 現在, 癌幹細胞は in vitroの環境下ではその存 在を証明できるが, in vivoの腫瘍内においてどのような 形で存在しているのかはまだほとんど明らかになってい ない. パラフィン切片で 用可能な普遍性の高い幹細胞 マーカーの開発が実現すれば, この 野の研究は大いに 進展するだろう. 文 献
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