社会
系教科教
育学会
『社会系教科教育学研究』第22
号 2010
(pp.1-10)
史料読解に基づく歴史学習の指導法と課題
一高校
日本史
B匚
政党内閣の成立」の授
業分析を手がか
りに−
The Teaching Method and Problem of History Learning Based on the Use of Sources:
Through the Analysis of the High School History Class
“Formation of Party Cabinet
”
原
田
智 仁
(兵
庫
教
育
大
学
)
1
は
じめに
一
資料活用か
ら史料読解ヘー
歴史学習に隕
らず
、社会科教
育において資料
を
活用
した授業は
一般化
しているが
、育成すべ
き学
力と
して資料活用が注
目され
るよ
うに
なったのは
、
「 ̄
資料活用の能力
」が指導要録に明記された1970
年代以降である
。そ
して、従前の相対評価か
ら目
標
に準拠
した絶対評価に変わ
った2000
年代になる
と
、匚
資料活用の技能」を含む観点別学
力の評価
が喫緊の課題となった1
)
Oただ
し高等学校では指
導要録に観
点別学習状況の記入欄がないためか
、
小
・中学校に比べ
る
と教
員の
関心がそれ
ほ
ど高
まっ
ていないのが実態である‰
だが
、今次改訂の新学習指導要領では、PISA
調査
(O
E
C
D学習到達度調査)の結
果を受け
、日
本の生徒に不足
しがちな読解
力や問題解決
力を育
成すべ
く言語活動の充実が打ち出され
た
。高校の
歴
史科目の場合
、諸資料
を活用
して解釈
・説明
・
論述
を行
う学習活動が
、目標や内容の取扱
いのみ
ならず内容にも明記され
たことに端
的に現れ
てい
る‰これに
より
、従前のルー
ティン化
した資料
活用とは別に
、資料活用技能の育成に焦点化
した
指導と評価が今後問われ
るようになってこよう
。
ところで
、早
くか
ら歴史学習における資料活用
の問題に着
目し研究
してきた吉川幸
男は
、伝統的
な歴史学習における資料活用
を下図のように位置
づける。史料と資料の位置に注目
匸こ
したい。
匸
研
究者
の
歴
史研
究
二
口
㈲﹂
㈹
口
一
般
二
人の
歴
史
学習
(本
確定された歴史
・教科書
・資料)
匳
匹
歴史
理解
その
上
で
、ハ
ンズ
オ
ン型の
歴
史
博
物館
や
それ
と
連
携
した歴
史
学
習の
動
向
を踏
ま
え
、近年の
歴
史
学
習
に
おけ
る資
料活
用
を次
の
よ
うに
図
示す
る
。
囲 研
究
匸
者
の
歴
史
研
究
宍]
 ̄
般
人
の
歴
史
学
習づ「  ̄
 ̄│(
本・
教
科
書・
資
料)
学習
者の
歴
史
理解
ここでは学習者の位置に注
目
した
い
。吉川は、
「
「史料
」→
「資料」→
「歴史理解
」という二段階
直線型の歴史研究
・学習の位置取
りが崩れ
、学習
者が直接歴史研究に参加す
る三角形型の歴史学習
シス
テム
へと
、学習者の位置が大きく変わ
」つた
という4
)
。つま
り、資料活用か
ら史料活用への
変
容である
。 PISA
型読解
力になぞらえ、史料読解
と称
してもよか
ろう
。現に
、史料活用
(読解)に
よる授
業は様々に報告されるよ
うになったが
、い
まだ試行錯誤にあるのが現状である5
)
。
本稿では
、そ
うした歴史学習の近年の動向を踏
ま
え
、史料読解
を中心に据
えた歴史学習の指導法
と課題
を探
りたい
。その
手がか
りとして、三原慎
吾氏の
日本史授業実践
「政党内閣の成立
」を取
り
上げ考察す
る
。三原氏は兵庫県立明石北高等学校
の教諭と
して
、文部科学省の
「学
力の把握に関す
る研究指定校
事業
」
(平成20
∼22
年度)を引き受
け
、厂
資料活用能力を育成する日本史
Bの展開」
の
研究に精
力的に取
り組んでいる
。筆者は
これ
ま
で数度三原
の授
業では生徒が
氏の授
業を観察する機会
主体的に史料読解に取
を得たが
り組んで
、こ
-1−
い た。 史料読 解 に基づ く歴史学 習 の指 導法 と課 題 三 原氏 は「資 料活用 の技能・ 表現」 に研 究を焦
を 明ら かにす る絶 好 の素 材 と考 え られる。 点化 し、 いくつかの授業を 開発 し公表してい るが。
ここで は2008年11月 に3年 6組( 日本 史 Bの選択
2 三 原氏 の授業 計画 の概要 履 修者28名か らな る) で実践 し た「政 党 内閣の成
明石北高 等学 校は明石 市で 3校 目の普通科 高校 立」(全 3時間、 授業公 開 は第 2時) を取 り上げ、
として昭和47年 に開校、 昭和61年 には理数 コー ス 考 察 す る。 生 徒 は教科 書 『詳 説 日本史 B 』
( 山川
(平 成15年 よ り自然 科学 コー ス) も設 置さ れ、 地 出版 社) と副 教材 『 最新 日本 史 図表 』
( 第一 学習
域 では理数 系に 強い進学 校 とみなさ れてい る。 各 社) を もってい る が、 本授業 は主 に教師 の用意 し
学年 8∼ 9学級 からな り、 三原 氏 の受 け もつ 日本 た資料 (主 要資 料 6枚、 補助 資料 3枚 )を 活用 す
史Bは総合 類型 と人文類型の選択科 目として、 2・ る形で展 開さ れた。
3学 年 の分 割履 修( 2学年で 2単位、 3学年 で は 授業計 画 の概 要 は下 記 のよう にな る。三 原氏 は
2単 位・ 4単位 の選択履 修) とな って い る。 本 研究 の性格上、 す べて にわたり資料 活用 の語を
氏 の研究 は、総 合類 型の 2学 年 と3学年 の 2単 使用し てい るが、 筆者 は授業 の分析 ・考察 に当 た
位 選択履 修者を対 象 に進め られた。
り資料 と史料 の語を適 宜使い分 け た6)
。
(1) 小単元 「政 党内 閣の成立」(全 3時 間)
(2) 目 標 歴史資料 の読解 を通 して、政 党政治 につ いて自 ら課題を 設定 して考察 し、 意 見を発 表す る
ことで資料 活用能力 を向 上さ せる とと もに、 政党政 治 の時代的背 景を理 解す る。
(3) 授業展 開
学 習 内 容 学 習 活 動 指 導 上 の留 意点 評 価 導 入 1 目 標 の理 解 ・ 各 自 が読 解 す る資 料を 確 認 す る。 ・ 班 ( 5班 ) に な る よ う 指 示 し て 、 各 班 に 6枚 の 資 料 を 配 付 す る 。 ・ 担 当 す る 資 料 を 選 ば せ る 。 展 開 2 資 料 の読 解 ・ 教 科 書 や 補 助 資 料 を 参 照 し て資 料 か ら情 報を 取 り 出 し、 解 釈 す る。 ・ 同 じ 資 料 を 読 解 す る 者 で 新 た に 班 を つ く る ( 6 班 ) よ う に 指 示 す る。 資 料 活 用 の 技 能 ・ 表 現 ( ワー クシー ト ①) 3 資 料 の意 味 に つ い て の議 論 と 特 定 ・ 資 料 につ い て 班 で 議論 し 、 特 定 で き たこ とを ワ ー ク シ ー ト に ま と め る 。 ・ や や 難 解 な 資 料 に つ い て は、 別 に 補 助 資 料 を 配 付 す る。 ・ ど の よ う な 歴 史 事 象 の 説 明 に 当 該 資 料 が 活 用 で き る か考 え さ せ る。 4 追 究 課 題 の設 定 と 仮 説 ・ 検 証 ・ 各 自 が 読 み解 い た 資 料 の内 容 を 班員 に説 明 す る 。 ・ 班 で 追 究 課 題 を 一 つ 設 定 し て 仮 説 を 立 て 、 検 証 す る。 ・ 元 の班 に 戻 る よ う 指 示 す る 。 ・ 追 究 課 題 の 設 定 に 手 間 取 る 班 に は 適 宜 示 唆 を 与 え て 考 え さ せ る。 ・ 教 科 書 や 図 説 資 料 集 等 を 使 っ て 根 拠 を 確 か め な が ら仮 説 を 検 証 さ せ る。 思 考 ・ 判 断 ( ワー クシー ト ②) ま と め 5 追 究 成 果 の 発 表 ・ 各 班 で追 究 し た課 題 と 検 証 さ れ た 仮 説 に つ い て 学 級 で 発 表 す る。 ・ 調 べ た こ と を ま と め る こ と も 重 要 な 学 力 で あ る こ とを 示 唆 し て 発 表を 促 す 。 − 2 −(4) 配布 資料 と読解 内容
生徒 に配布 する資料 と、 教師 がそ れに期待 する読 解内容 は次 の通 りで ある。 なお、 資料 の中に はタイト
ルの ある ものとない ものかお るが、 教 師の側 からあえ てタ イト ルを 付す こと はしてい ない。
< 資 料 > < 期 待 す る 読 解 内 容 > A 風 刺 圓 匚細民 調 査 」 (『 東 京 パ ッ ク 』 よ り) ・ 物 価 高 騰 にあ え ぐ 国民 の窮 乏 ・ 米 価 急 騰 に対 し て 寺 内 内 閣 の 無 策 が 強 調 さ れて い る ・ 次 に 登 場 す る 内 閣 へ の期 待 感 B 絵 画 匚米 騒 動 の弾 圧 ] (『 米 騒動 絵 巻 』 よ り) ・ 軍 隊 の 出 動 に よ る 鎮 圧 ・ 米 騒 動 に 対 す る寺 内 内 閣 の 対 応 策 C 地 図 「 大 船 渡 線 」 ( 当 時 の 鉄 道 政 策 を 説 明 す る 補 助 資 料 も 配 布 ) ・ 我 田 引 鉄 、 利 権 政 治 の実 態 ・ 政 友 会 の支 持 基 盤 は ど の よ う な も の で あ っ た の か D 時 事 漫画 匚普 選 の 花」( 小 川 治 平 作 ) ・ 原 内 閣 を 取 り 巻 く 政 治 情勢 ・ 政 党、 貴 族 院、 社 会 運 動 、 婦 人 参 政 権 な ど の動 き ・ 原 内 閣 の党 利 優 先 政 策 E 賀 川 豊 彦 の 論 説 「 解 散 と労 働者 の 立 場 」 ( 永 い 眠 り か ら 醒 め よ う と す る 原 首 相 の 風 刺 圓 も補 助 資 料 とし て 配 布 ) ・ 普 選 運 動 の高 ま り ・ 社 会 運 動 の高 ま り ・ 原 内 閣 は な ぜ 小 選 挙 区 制 に し て 総 選 挙 で 対 抗 し た か F 年 表 「兵 庫 県 の労 働争 議 」(1918 年 ) ( 当 時 の大 阪 毎 日 新 聞 の記 事 も補 助 資 料 と し て 配布 ) ・ 米 価 引 き 下 げ 要 求 が 賃 上 げ 要 求 に転 換 し た ・ 米 騒 動 が 多 く の 社 会 運 動 を 盛 り 上 げ る き っ か け と な っ た(5) ワ ーク シートの様式 と評 価基準
授業で 使用 するワ ー クシート( ①は生 徒用、 ②は班用) と評 価基準 (次頁 ) は以 下 の通 りで あ る。
① 資 料 [ ] を 読 み 解 け ! 氏 名 ( ) < 資 料 か ら 得 ら れ た 情 報 > < 資 料 の解 釈(仮) > こ の資 料 は を 表 し て い る 。 < 意 見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 > < 資 料 の 特 定 > こ の資 料 は を 表 し て い る 。 - 3 − ② 課 題 を 追 究 し よ う ! ( ) 班 < 課 題 > < 仮 説 > < 仮 説 の 検 証 > < 結 論 >評 価 場 面 \ 評 価 基 準 大 い に 満 足 で き る A 満 足 で き る B 努力 を 要 す る C 学 習 内 容 2・ 3 ( ワ ー ク シ ー ト ①) 補 助 資 料 を 活 用 し な が ら 資 料 の 解 釈 を 進 め 、 資 料 か ら 新 た な 課 題 を 見 つ け る こ と が で き る。 補 助 資 料 を 活 用 し な が ら、 資 料 の 解 釈 を 進 め る こ と が で き る 。 多 く の示 唆 を 受 け な が ら、 資 料 の 解 釈 を 進 め る こ と が で き る。 学 習 内 容 4 ( ワ ー ク シ ート ②) 問い が し っ か り 立 て ら れ て お り、 課 題 解 決 に 向 け て 自 ら 解 説 資 料 を 作 成 す る な ど 随 所 に工 夫 し て 論 理 的 に 解 決 す る こ と が で き る。 問 い が し っ か り 立 て ら れ て お り 、 課 題 解 決 に 向 け て 補 助 資 料 を 用 い な が ら、 論 理 的 に 解 決 す る こ と が で き る。 多 く の示 唆 を 受 け て 、 よ う や く 問 い が 立 て ら れ 、 資 料 を 用 い な が ら 解 決 す る こ と が で き る。 3 三 原 実 践 の 展 開 と 生 徒 の 反 応 こ の 小 単 元 に 関 し て 、 筆 者 は前 述 の通 り 第 2 時 間 目 の 授 業 を 参 観 し た だ け で あ る。 だ が、 そ の 後 三 原 氏 か ら 教 師 の授 業 展 開 用 メ モ と 生 徒 の ワ ー ク シ ート の コピ ー を 受 け 取 り、 併 せ て 授 業 の 実 際 に つ い て 説 明 を 受 け た。 以 下 、 ま ず そ れ ら の 事 実 に つ い て 述 べ 、 若 干 の コ メ ン ト を 付 す。 次 に、 ワ ー ク シ ー ト の 記 述 内 容 に つ い て 紹 介 す る。 (1) 授 業 の実 際 第 一 に、 本 授 業 は当 初 、 史 料 の読 解 と 意 味 内 容 の 特 定 ま で ( 学 習 内 容 の 1∼ 3) を 1 時 間、 課 題 の 設 定 か ら仮 説 検 証 、 発 表 ま で ( 学 習 内 容 の 4 ・ 5) を 1 時 間 の 計 2 時 間 で 計 画 さ れ て い た。 し か し、 実 際 は 史 料 の読 解 ま で ( 学 習 内 容 の 1 ・ 2) に 1 時 間、 意 味 内 容 の 特 定 と 課 題 設 定 ま で ( 学 習 内 容 の 3と 4 の 前 半 ) に 1 時 間 、 残 り の 仮 説 検 証 と 発 表 ( 学 習 内 容 の 4 の 後 半 と 5) に 1 時 間 の 計 3時 間 を 要 し た。 そ れ で も最 後 は 時 間 が 不 足 し 、 生 徒 に納 得 の い く まで 追 究 さ せ る こ と はで き な か っ た と い う。 こ の 点 か ら 考 え て も、 史 料 読 解 に重 点 を お く 授 業 で は、 時 間 配 当 に 相 当 の 余 裕 を も た せ ね ば な ら な い こ と が 改 め て 確 認 さ れ る 。 第 二 に、 先 の授 業 展 開 に も示 さ れて い る よ う に、 三 原 氏 は 資 料 を 活 用 し た 授 業 を 原 則 と し て 班 学 習 で 進 め て い る。 こ の 授 業 で は、 班 活 動 を 前 提 と し な が ら、 ま ず は個 人 に よ る 史 料 の 読 解 か ら始 め たO そ し て 、 同 じ 史 料 を 読 解 す る 者 同士 が 別 の 班 を 組 織 し て 読 解 内容 につ い て 議 論 し 、 意 味 を 特 定 し て い っ た。 さ ら に、 特 定 し た 意 味 内容 を 元 の 班 に戻 っ て メ ン バ ー に説 明 し 、 共 通 理 解 を 図 っ た。 そ の 上 で、 班 と し て の 追 究 課 題 を 設 定 し た の で あ る。 こ の よ う に、 個 人 学 習 と 班 学 習 を 併 用 し な が ら、 班 編 制 を 目 的 に応 じ て 組 み替 え る 方 法 は 、 各 人 が 班
の中で応 分に責 任を分 担し ないか ぎり学習 が進 ま
な いこ とか ら、 生徒 の学 習 への積 極的参加 を促す
上 で効果 的であ った と判 断さ れる。 あく まで傍証
で ある が、 当該 クラ スの生 徒によ る学期末 の授業
評 価で は、 授業 への参加 度 につ いて次 の ような
結 果(回 答数22) が 出た。
積 極的に参加 何と も言え ない 参加 できない 16 5 1 往 々 に し て 歴 史 好 き の 生 徒 や 学 力 の 高 い 生 徒 が 学 習 を リ ー ド し 、 そ う で な い 生 徒 が受 け 身 に な り が ち な だ け に、 こ の や り 方 は注 目 さ れ よ う 。 第 三 に、 本 授 業 で 目 標 と し た 資 料 活 用 の技 能 ・ 表 現 と 思 考 ・ 判 断 の 評 価 につ い て は、 前 掲 の 授 業 展 開 に も あ る 通 り、 史 料 の 読 解 か ら意 味 の特 定 の 段 階 ( 学 習 内 容 の 2・ 3) で ワ ー ク シ ー ト ① を 、 追 究 課 題 の設 定 と 仮 説 ・ 検 証 の段 階 ( 学 習 内 容 4) で ワ ー ク シ ー ト ② を 活 用 し た。 三 原 氏 は、 そ れ ら の評 価 基 準 ( 尺 度 ) を 本 頁 上 段 の 表 の よ う に 設 定 し て い る 。 ワ ー ク シ ート の 記 述 内 容 か ら 判 断 す る と、 ① ( 資 料 活 用 の 技 能 ・ 表 現 ) につ い て は お お む ね A、 ② ( 思 考 ・ 判 断 ) に 関 し て は B と い う 判 定 に な ろ う。 そ の理 由 等 、 詳 細 に つ い て は後 に 述 べ た い 。 本 実 践 で 扱 っ た 厂政 党 内 閣 の 成 立 」 前 後 の 時 代 は、 明 治 や 昭 和 に 比 べ る と 大 き な 戦 争 や 変 動 が 少 な い た め、 教 師 の 指 導 や 生 徒 の 歴 史 理 解 が 概 し て 表 層 レ ベ ル に留 ま り が ちな の が実 状 で あ る。 だ が、 本 実 践 で は生 徒 の 史 料 読 解 に重 点 を お い て 指 導 し た結 果、 生 徒 の 学 習 へ の 集 中 を 生 み、 ワ ー ク シ ー ト の記 述 内 容 も充 実 し た も の と な っ たO 史 料 読 解 が歴 史 理 解 を 促 し た 証 左 と い っ て よ い で あ ろ う 。 - 4 −(2) 資料 (史料) 読解 の実 際
ア 資料 Aにつ いて
ここで は、 最 もよ く書 けて いる生 徒Pの記 述を
見て みよ う。以 下 の通 りであ る。
①資 料 [ A ] を 読 み解 け ! 氏 名 ( P ) <資 料 か ら 得 ら れ た 情 報 > ・ 餓死 し て い る。 ・ 貧 富 の差 が 激 し い 。 ・ 細民 調 査 を し て い る( た ば こ 、 そ ろ ば ん) ・ 英 語 で 何 か書 い て あ る 。 CONDITION OF T 旺P00R ・ 漢 文 で も。 何 の 調 査 ぞ 米 価 の 騰 貴 其 の 極 に 達 し て 窮 民 殆 ど 餓 死 せ ん と す 然 も 當 局 者( 内 務 省 の 役 人) は 悠 々 閑 々 徒 ら に 細 民 調 査 を 行 う て 何等 の策 な し、 咄( 呼 び か け)、 是 れ 何 の 経 世(世 を 治 め る こ と)ぞ 抑 も(い っ たい) 何 の 済 民( 苦 し ん でい る 人 々を 救 済 す る こ と) ぞ ・ 細民 ‥・ 社 会 の 下 層 に あ る 貧 し い 人 々 ・ 寺 内 内 閣 1916 年10 月 9 日∼18 年 9月28 日 ・ 石井 ラ ンシング協定→ シベリ ア出兵→米 騒動→ 辞職 ( 戦 費10 億 円) <資 料 の 解 釈 ( 仮) > こ の資 料 は (寺 内 内 閣 が シ ベ リ ア 出兵 に よ る 市 民 の 貧 困 に 対 し、 政 府 が 何 の手 も打 っ て い な い こ と) を 風 刺 して い る。 <意 見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 > ・ 餓死 し た 人 の数 を 調 べ て い る。 ・ シ ベ リ ア 出 兵 の た め に 米 を 買 い 占 め た こ と で 米 価 が上 が り 、 市 民 の 生 活 が 苦 し く な り 餓 死 す る 者 も 出 た。 ・ 原 内 閣 に 何 を 期 待 し て い る か。 < 資 料 の 特 定 > こ の資 料 は (寺 内 内 閣 へ の 批 判 と 、 原 内 閣 へ の期 待 ) ( = 風 刺 ) を 表 し て い る 。ま ず、 生 徒Pは風 刺画 に描か れた人や物 を記述
する だけでな く、 旧字 体 の説 明文( 何 の調 査ぞ)
も読 み解くな ど、 情報 の取 り出しを 精力的 に行 っ
て い る。 ま た、 仮 の解釈で は寺内 内閣へ の批判 だ
けを書 いてい たのが、 特定 の段階で は教 師の期待
する読 み解き 内容の一つ で ある原 内閣へ の期待 も
書 けて いる。 この変化 には意 見交換 が影響 してい
るこ とは、 波線部 の記述 か ら明ら かであろ う。
こ の他 の生徒 につい て も、 仮の解 釈が特 定段階
で どう変化 し たかを示 して みよう。
- 5 − 匚 竺芒ケケ 个 の数を 調べてい る ・寺内内 閣の風刺 こ の生 徒 は 、 当 初 事 実 だ け を 記 述 し て い た が、 最 後 はそ の 意 味 ( 風 刺 ) に も気 づ い て い る。 シ ベ リ ア 出兵 の末 抱 え た 損 害 のた め に米 価 が 上 が り、 国民 が 貧 窮 に苦 し む 様 子 → 富 豪 が 貧 民 の 餓 死 し て い る数 を 調 べ てい るこ の生 徒は、 国民 が窮 乏化 した だけでな く、 貧
富 の格差 が広 がった ことに最 後は気づ いて い る。
イ 資料 B につ いて
こ れにつ いて は、 生 徒間で読 み解 きにあ まり差
がない が、 参考 まで に生 徒Q の記述 を紹介 する。
① 資 料 [ B ] を 読 み解 け ! 氏 名 ( Q ) < 資 料 か ら得 ら れ た 情 報 > ・ こ の 時 代 に は キ リ ンビ ー ル が あ っ た。 ・ 色 の 違 う 政 府 の 人 み た い な の が い る 。( 馬 の や つ は 誰 か!? ) ・ な ぞ の カ ブ ト ビ ー ル ・ 何 か の紙 を 焼 い て い る 。 ・ 石 が 飛 び交 う ・ 知 り た い の は … 米 騒 動 へ の寺 内 内 閣 の対 応 < 資 料 の解 釈( 仮 )> こ の資 料 は ( 米 騒 動 )を 表 して い る。 < 意見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 > ・ だ い た い 一 緒 の 内 容 だ っ た け ど 軍 隊 が 出 て き て い 皿 る こ と を 知 っ た。 <資 料 の 特 定 > こ の資 料 は ( 米 騒動 を 弾 圧 し て い る 寺 内 内 閣 ) を 表 し て い る。 生 徒 Q は 情 報 の取 り 出 し に つ い て 、 目 に つ く主 だ っ た も の だ け を 書 い て お り 、 や や 生 彩 を 欠 い て い る。 仮 の 解 釈 の記 述 も 同 様 で あ る 。 だ が 、 意 見 交 換 に よ り米 騒動 に 軍 隊 が出 動 し た こ と (波 線 部) を 学 び、 最 終 的 に は 資 料 の 特 定 に 成 功 し て い る。 こ の点 で、 個人 学 習 を ふ ま え て 班 学 習 を 位 置 づ け た 三 原 氏 の 方 法 が 評 価 さ れ よ う 。 別 の生 徒 は、 仮 の 解 釈 で 特 定 段 階 と 同 じ 記 述 ま で 達 し て い る が、 匚米 騒動 は そ の後 ど う な っ た か、 何 に つ な が っ た か」 と の 問 い を 最 後 に記 し て お り、 意 見 交 換 が 理 解 を 深 化 さ せ た こ とを 窺 わ せ る 。 ウ 資 料 C に つ い て こ れ も読 み 解 き の 内 容 に生 徒 間 で 差 はな い が、 生 徒 R の 記 述 を 紹 介 す れ ば 次 の よ う に な る。① 資 料 [ C ] を 読 み解 け ! 氏 名 ( R ) < 資 料 か ら 得 ら れ た 情 報 > ・ 湾 曲 し て い る 間 の地 域 に 山 や 峰 な ど が 8つ もあ る。 ・ 下 に 街 道 が あ る の に鉄 道 は そ れ に沿 っ て い な い 。 ・ わ ざ わざ 長 い 線 路 にし て い る 。 ・ 建 設 す る 時 に 多 く 金 を 使 っ て し ま っ た で は な い か 。 < 資 料 の解 釈( 仮 )> こ の 資 料 は ( 政 治 家 の 利 害 が か ら ん だ 鉄 道 会 社 が 長 い 線 路 を し い た 現 状 ) を 表 し て い る 。 < 意 見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 > ・ 政 友 会 → 地 方 票 を 獲 得 → 小 選 挙 区 制 < 資 料 の 特 定 > こ の資 料 は( 原 内 閣 の地 方 重 視 の政 策) を 表 し て い る 。
生 徒R の場 合、 当 初大船 渡線 の湾曲 は政治家 の
利害 が絡 んだせいで はな いか と解 釈して い たが、
意見交 換を通 じて地 方が政友 会 の支持基 盤で ある
こ と(波線部 の→ に着 目) を知 り、 資料 の特定 に
つな がっ たといえ るだろ う。
エ 資料 Dにつ いて
どれ も大 同小異 だが、 生徒 Sの記述を 示 そう。
①資 料 [ D ] を 読 み解 け! 氏 名 ( S ) <資 料 か ら 得 ら れ た 情 報 > ・ 昇 格 運 動 ・ 男 の 人 が 女 の人 よ り 多 い ・ 内 閣 ・ 木 に ぶ ら 下 が る 人 が い る。 ・ 社 会 主 義 ・ 演 奏 し て い る人 た ち が い る。 ・ 米 不 亶 連 ・ 働 く 気 のな い 人 た ち がい る。 ・女 子 参 政 運 動 ・ 囲碁( 将 棋 ?)を し てい る人 が い る。 ・ 普 選 の 花 ・ 警 察 が社 会主 義 を つ か ま え て い る。 ・ 加 藤 、 犬 養 ・ 匚上 院」 と書 い た 黒 い 雲 が あ る 。 < 資 料 の解 釈( 仮)> こ の資 料 は ( 普 通 選 挙を 要 求 す る人 た ち と そ れ を 拒 む 内 閣 ) を 表 し て い る。 < 意 見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 > 中 心 人 物 は 加 藤 、 犬 養 ← 普 通 選 挙 運 動 の < 資 料 の 特 定 > こ の資 料 は ( 女 性 参 政 権 運 動 、 普 通 選 挙 、 労 働 運 動 、 学 生 運 動 、 社 会 主 義 を 求 め る 様子 ) を 表 し て い る 。 こ の 生 徒 は 史 料 か ら多 量 の情 報 を 取 り 出 し て い る が、 た だ ラ ン ダ ムに 書 き 出し てい る に す ぎ な い 。 「 ̄普 選 の 花 」 に 関 連 す る 出 来 事 と 、 そ れ に 批 判 的な 匚内閣」 の動き とを対 比でき るか どうか がポイ
ント とな る。 仮の 解釈で は一 定 の歴史理 解 に達 し
たこ とが窺え るが、 意見交 換に必 ずし も深ま りは
見 られない。 そ れゆえ 特定 段階で は、 多 様な運動
を列挙 す ることに なった。 こ の史 料解釈 が誤 って
い るわけで はない が、 もう少し事 実 に即 して丁 寧
に史料 を読 解す ることが 求め られる。
オ 資料 Eにつ いて
生 徒T は、 新聞投 稿 の堅 い文書 史料を 補助 資料
の風刺 画で 補い、下 記 のよう に解釈して い る。
① 資 料 [ E ] を 読 み解 け ! 氏 名 ( T ) <資 料 か ら 得 ら れ た 情 報 > ・ 発 行 日:1920 (大 正 2)年 2月29 日 ・ 書 い た 人 : 賀 川 豊 彦( 神 戸 出 身 、 キ リ スト 教 布 教 ) { 原 敬 と 政 友 会 は 国民 と 日本 歴 史 の恥 辱 と 考 え る 。 政 府 は デ モ ク ラ チ ッ クで あ る べ き と考 え る 。 ・ こ の 時 期 、 普 選 要 求 運 動 か 高 ま る 首 相 : 原 敬 (立 憲 政 友 会 ) <資 料 の 解 釈( 仮 )> こ の 資 料 は ( 政 権 与 党 で あ る 立 憲 政 友 会 原 敬 が 普 通 選 挙 に 消 極 的 で あ る こ と に 対 し 抗 議 ) を 表 し て い る。 < 意 見 交 換 し て 得 ら れた 情 報 > み ん な 意 見 は ほ ぽ 同 じ 厂布 団 の 絵 」 四 < 資 料 の特 定 > こ の 資 料 は(米 騒動 に よ っ て民 主 主 義 的 な 考 え が 増 え 、 匚今 こ そ 団 結 し よ う!囗 と賀 川 さ ん が 呼 び か け、 こ の 時 期 は こ う し た 運動 が 高 ま っ た こ と) を 表 し て い る。 文 書 史 料 だ か ら、 じ っ くり 読 め ば意 図 は わ か る。 そ の せい か、 生 徒 た ち は補 助 資料 の 風刺 画 を めぐ っ て 意 見 交 換 し て い る。 T は 上 記 の よ う に そ れを イ ラ ス ト 化 し た。 別 の 生 徒 も 厂国 民 は と て も普 通 選 挙 を 願 って お り 、 め ざ ま し 時 計 の よ う に 起 こ そ う と し て い た。」 と 記 し て い る 。 な お、 こ れ は 眠 る 原 敬 の 横 で 目 覚 ま し 時 計 が 普 選、 普 選 と 鳴 っ て い る 絵 を 読 み 解 い た 結 果 で あ る。 力 資 料 F につ い て 資 料 F に 関 す る 生 徒 の ワ ー ク シ ー ト は残 念 な が ら 1 枚 し か な い 。 意 見 交 換 し て 得 ら れ た 情 報 の欄 に 記 述 が あ る こ と か ら す る と、 他 の 資 料 と 同 じ く 6 −4名 程 は 読 解 し た は ず で あ る が、 や む を 得 な い 。 j.名 の 生 徒U の記 述 を 見 て み よ う 。 ①資 料 [ F ] を 読 み解 け ! 氏 名 ( U ) < 資 料 か ら得 ら れ た 情 報 > ・ 賃 上 げ 要 求 が 主 な 原 因 ・ ス ト ラ イ 牛 も け っ こ う し て い る ・ い ろ ん な 仕 事 の 人 が 米 騒 動 期 に ス ト や 賃 上 げ 要 求 を し て い る 。( マ ッチ、鍛冶 工、人力 車夫、 電話局員 ) ・ 1月 、 4 月 、 5月 、10 月 、11 月 に は 何 も 起 こ っ て い な い 。 夏 が 一 番 多 い!! <資 料 の 解 釈( 仮) > こ の 資 料 は( 兵 庫県 の1918 年 後 半 の労 働争 議) を 表 し て い る 。 <意 見 交 換 し て 得 ら れた 情 報 > ・ 神 戸 市 が 多 い 。 ・ 女 性 の 社 会 進 出 に と もな っ て 失 業 者 が 増 え 、 公 共 事 業 とし て の 鉄 道 建 設 か‥・?? ・ 戦 後 の た め 米 の 需 要 と 値 段 が 上 が っ た か ら、 富 山 1 < 資 料 の特 定 > こ の資 料 は ( 兵 庫 県 の1918 年 後 半 の 労 働 争 議 な ど ) を表 し てい る。