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英単語の機械的学習を改善する教育実習指導 : 既知を意図的に活用する有意味学習の経験を保障する 利用統計を見る

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(1)英単語の機械的学習を改善する教育実習指導 -既知を意図的に活用する有意味学習の経験を保障する- The Reflectoin of Practice Teaching to Improve Rote Learning of English Words: How Teachers Guarantee the Experience of Meaningful Learning for Cadet Teachers. 梶 原 郁 郎 芦 沢 友 也 Ikuo KAJIWARA Tomoya ASHIZAWA. 山梨大学教育学部紀要 第 29 号 2018 年度抜刷.

(2) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号 pp.111-125. 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導 -既知を意図的に活用する有意味学習の経験を保障する- The Reflectoin of Practice Teaching to Improve Rote Learning of English Words: How Teachers Guarantee the Experience of Meaningful Learning for Cadet Teachers 梶 原 郁 郎 芦 沢 友 也 Ikuo KAJIWARA Tomoya ASHIZAWA [はじめに]本稿の課題と方法 本稿は、英単語の機械的学習の現状を改善する目的の下、既有知識 (既知) を意図的に活用する有意 味学習の経験を実習生(第二著者)に保障する実習指導について報告する(1)。それは、生徒への有意味 学習の保障を予定して、第一著者が第二著者(大学院生)に対して継続的に行った指導である。教科を 問わず有意味学習の意図的経験が少ない院生一般の現状が、課題設定の理由となっている。 その現状は、大学を含む教育の現場に方法主義が浸透・定着している情況では、広く顕著に現れてく ることになる。その情況は近年では石井英真によって次のように指摘されている(2)。わが国では「教材 づくりや授業展開の構想といった, 授業“方法”レベルでの工夫(どのように教え学ぶのか)に視野が 限定されがちです」(強調点は引用者、以下同)、「日本においては「何を教えるのか」というレベルが 学習指導要領で規定されてきたこともあり、研究者や教師による(教育計画としての)カリキュラムの 研究の蓄積が十分ではない。そして、1980 年代の「教育技術の法則化運動」や 1990 年代の「新しい学 力観」や「学び」論の展開を経由することで、技術主義的・心理主義的傾向を強める形で、カリキュラ ム研究の空洞化が進んでいる」。この方法主義の問題を石井は、 「何を教えるのか」の開発作業から離れ てコンピテンシーの形成が可能と見なされていく危険性を指摘しつつ(3)、提示している。 この方法主義の下では、指導する側(大学教員)も指導される側(教育実習生)も自らの教科の内容 理解は問わず、“授業の方法や形態”に授業改善の途を求めることに自ずとなるので、機械的学習の授 業の現状は放置される。その現状を第一著者が参観した授業から例示してみよう。(1)新出漢字をひと つひとつテレビモニターに映し出して、モニターが示す書き順に合わせて、児童が空中に漢字を書く。 この機械的学習は(4)、教師自身が漢字の部首等に意図的に着目して漢字の意味理解を深めないかぎり、 「600 ÷ 20」の筆算の“仕方”が教師から児童に説明される。この技能主義の授業は、 改善されない(5)。(2) 計算過程の「60 ÷ 20」は意味的にも「60 ÷ 20」なのか等を教師自らが理解しない限り(6)、改善されな い。そうした機械的学習を改善する代案(授業内容)を指導者も持ち併せていない場合、あるいは代案 を指導者も検討しようとしない場合、指導の中身は方法主義に自ずと停滞する。 したがって授業改善を指向する場合、実習指導者は自ら教科の知識を理解する中で、実習生に教科の 知識理解を保障することがまず要件となる。実習指導者の教科教育研究が方法「研究」で、実習生も自 らの教科の学力と向き合わず授業「研究」を進めていれば、実習指導は、両者の教科の知識理解が棚上 げてされたところで、行われることになる。したがって次のような事態は広く見られることなる。(1) 教職大学院における 200 時間の実習後に、児童生徒の教科の知識理解・活用の事例を尋ねても、現職教 員を含む院生は挙げることができない、(2)分数の除法(6÷ 2/3)の知識理解を問うために、まず例 題提示を求めても回答できない。「6÷ 2/3」を「6× 3/2」として計算する理屈の具体的説明は、A 大. - 111 -.

(3) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. 学の院生 25 名と B 大学の院生 13 名いずれもできなかった(7)。この改善を望む場合、指導する側とさ れる側双方が、自らの体内に巣くっている方法主義と対峙することが前提となる。 こうした方法主義を問題意識として筆者は教育実習研究を概観して(8)、授業分析を課題とした実習指 導研究の課題を次のように整理した(9)。教育実習と省察との往還を担う事前事後指導の役割が強調され てきている状況を前に、姫野完治らは「実習生それぞれの体験〔授業実践〕に基づいた省察(リフレク ション)」指導として、「実習日誌や実習生による授業分析を事後指導プログラムに組み込む」課題に 取り組んだ。VTR を用いた授業分析では、「子どもの反応を見てどのように考えたか」を含む六つの観 点が用意され、学生は「授業の流れを改善すれば子どもたちにとってもっと楽しめる授業になったと思 う」等の省察をした。こうした事後指導を実質化するには、省察結果を指導案の代案にまで結実させ、 代案による授業実践が必要となる。そのためには学生に、どのように「授業方法を変えてみればよかっ た」のかを考えさせて、指導案の全発問の中身と発問相互の関係とを検討させなければならない。この 検討の不在は、指導者における授業内容研究の不在を示している。このように指導者が授業内容に踏み 込んでどのように指導を進めるかが、教育実習指導の課題となっている。 この課題は、指導者にまず授業内容研究を求めて、実習生に対する次の経験の保障を要求する。① ある教科のある知識を実習生が理解・活用できる、②その知識の理解・活用を児童生徒に保障するた めの発問を作成できる(①の経験なしには②の発問を検討できない)、③その発問ひとつひとつに対し て、児童生徒の「予想される反応」を列挙できる(その反応を想定できない場合、発問が発問として成 立していないということである)、④その発問を、児童生徒が思考を展開できるように組み立てること ができる。以上を実習生が経験できるように指導することが、児童生徒に教科の知識理解を保障する教 授学習過程研究の立場から、必要となる(その保障は授業の方法や形態の「研究」には期待できない)。 したがって以上の一連の経験を第二著者に保障するために第一著者は、次の実習指導を行った。(1)第 一著者が接頭辞 con の英単語を有意味に学習する授業内容を開発して、開発の段階を第二著者に提示す る、(2)それを参考にして第二著者は接頭辞 dis の授業内容の開発を段階的に進める。内容開発の過程 (段階)に焦点を当てることによって、本稿は教育実習の指導過程の内実を報告する。 [Ⅰ]機械的学習を有意味学習に改善する-機械的学習の現状と正面から向き合う- 本章では、まずオーズベルの機械的学習と有意味学習を提示して、次に実習生(第二著者)の授業か ら機械的学習の事例を指摘する。機械的学習と有意味学習の概念の意味のひとつはそもそも、私たち教 師が機械的学習の現状を認知して有意味学習に向かうための道具として機能するところにあろうが、そ の認知を機械的学習の習慣化は妨げるので、この点の留意が指導者側には求められる。 オーズベルの有意味学習とは、宇野によれば「すでに認知構造の中にあった知識(既有知識)と関連 づけて新しい学習内容を学習し、その意味を獲得する学習の形態」であるが、これに対して歴史の年代 暗記のようにただただ機械的に暗記するというような「学習」の形態を、オーズベルは有意味学習と区 別して機械的学習と呼んだ(10)。その有意味学習では「新しい学習内容が認知構造の中に適切な知識と 関係づくことが重要になる。そこで新しい学習内容を受け入れやすいように、認知構造を外部から操作 して変えておけば、有意味学習が起こりやすいことになる。具体的には、当該学習に先行して、それ (11) よりも一般的・包括的な事柄を記述した有意味な文章を学習させておくことが考えられた」 。このよ. うにある学習が有意味になるか機械的になるかは、 【既知(既有知識)に関係づけて未知(未知の知識) を獲得できるかどうか】が分岐点となる。したがって教師が児童(生徒)に新たな知識 B を提示する際、 それに関連づけうる既知(知識 A)が児童にないと想定される場合、教師は知識 B の前に知識 A を保 障しなければ、知識 B の獲得は有意味学習にはならない(12)。 - 112 -.

(4) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). その機械的学習の事例を、第二著者の授業(2018 年度)から提示してみよう。新出の下記の英単語 の授業で第二著者は、既知に関連づけて単語(未知)を学習するのではなく、単語と訳語とを直結させ て教えていた。この場合、単語と訳語との「間」がないので、機械的学習となる。 peddler. -「間」-. 行商人. customer. -「間」-. 客. この機械的学習を改善するには私たち教師はどうすればよいのであろうか。それはまず【英和辞典 を引くこと、訳語をすでに知っていても引くこと】である。peddler を引けばその前後には、綴りが ped からはじまる単語が並んでおり、それらの単語の中に既知を発見すれば、peddler を有意味に学習でき る可能性が出てくる。実際に辞典を引いてみると、peddler の前に pedal(ペダル)がある。そして「ped =足(13)」の情報に眼が止まる。ペダル(自転車のペダル)はほとんどの人において既知であろうから、 この既知に関連づけて未知の peddler は次のように有意味に獲得できる。 (既知)ペダル→(未知)pedal →(未知)ped(=足)→(未知)peddler(行商人) ここに peddler は商人は商人でも“行”商人であると理解できる。このように【(既知)ペダル(pedal)→(未 知)ped =足】の情報を得ることで、peddler と行商人との「間」を埋める思考ができる。 さらに辞典の peddler の前後を見れば、pedicure にも注意できる。ペディキュアも多くの人において 既知であろうから、 【(既知)ped =足 →(既知)ペディキュア →(未知)pedicure】というように既 知に関連づけて、pedicure を習得できる。その結果、私たちの頭の中でそれまで無関係に存在していた ペダルとペディキュアが、peddler の学習を通して類化される。続けて pedestrian(歩行者)という未知 についても、丸暗記ではなく、 「ped =足」の既知に関連づけて獲得できる。以上の思考の中でマニキュ ア(既知)が想起されれば、さらに有意味学習を展開できる。「ペディ-マニ」の対比から、 「マニ」と は「手」を意味するのではないかと予想(思考)できる。この検証のために辞書を引くと(この辞書 引きは実験と呼びうる)、マニュファクチュアという既知(この言葉も多くの人において既知であろう) (14) が、manicure の近くにあることに気づき、「manu 手+ fact(作る) 」の記述に眼が止まる。ここで、. それまで頭の中で無関係に分離していた「マニキュア」と「マニュファクチュア」の二つの言葉が途端 に結びつくことで、「“なるほど”、“マニュ” ファクチュアだ」と理解できる。さらに辞書を見ること で、その二つの単語に「manual」「manuscript」まで関連づけられてくる。 以上のように【訳語をすでに知っていても英和辞典を引くこと】で、英単語の機械的学習を改善す る手がかりを獲得できる。この点を第一著者は、peddler と customer の有意味学習を提示して(15)、第二 著者に説明することで、第二著者が機械的学習の現状を認知できるようにした。“意識的に”既知を探 して、既知に“意図的に”関連づけて未知を受容すれば、未知の情報受容は面白くなり、記憶は面倒で あるという心の負担も大きく軽減できる。“偶発的には”多くの教師が経験している英単語の有意味学 習を意図的な経験として第二著者に保障するために、接頭辞 dis の英単語を有意味に学習する授業内容 (授業プラン)の開発を第一著者は第二著者に課した。教師自身が有意味学習の意図的な経験を作らな いことには、自らの機械的学習は改善できない。教師に機械的学習の現状を指摘することは、プライド があるので難しいところであるが、教師は自らのその現状に正面から向き合わないことには、児童生徒 に機械的学習(おいしくないパン)を与え続けることになる。 - 113 -.

(5) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. [Ⅱ]接頭辞 con の英単語の授業内容-既知を活用して未知を獲得する有意味学習- 本章では、第一著者による接頭辞 con の英単語の授業内容を提示する。それは、既知を活用して未知 の英単語を獲得する有意味学習を指向しているが、その内容構想の手続きが第二著者に提示されなけれ ば、第二著者は、接頭辞 dis の英単語の有意味学習を図る授業内容を開発できない。したがって第一著 者はその手続きを第二著者にひとつひとつ提示するかたちで、授業内容の構想を進めさせた。 1. 接頭辞 con の英単語の分類-既知による意味予想の難易を観点とする- 本稿による接頭辞 con の英単語の授業内容は、con の「いっしょに」「ともに」「全く」の意味の中で も(16)、「いっしょに=ともに」の意味が含意されている単語に限定している。この「con =いっしょに」 に限らず、接頭辞に着目すると単語は覚えやすいことは、前章でも触れたように誰しも経験的には知っ ているだろう。しかしそのことを“意識的に”心がけて“いつも”英語と向き合っている人は稀有で あろう。例えば contact や consent を前に「con =いっしょに」の知識を想起してはいても、その知識を 容易には読み取れない condition や conceive 等の単語にも適用してはいないであろう(その経験があれ ば、それらの単語と「con =いっしょに」との関係を辞典で検証しているであろう)。このように「con =いっしょに」の意味が“容易に”読み取れる単語に対して、その意味を偶発的に適用しているにすぎ ないのが、私たちの現実であろう。この点を踏まえるとき、「con =いっしょに」の知識を“意図的に” 適用して、接頭辞 con の単語を“体系的に”学習する授業内容の構想が求められてくる。 その構想に際して第一著者はまず、英和辞典で接頭辞 con の英単語を頭から全て通観して、単語ひと つひとつに対して【いかなる既知を私たちは持っているのか】を把握した。例えば contact と consent は 未習の段階にあっても、生徒の多くがコンタクトやコンセントの言葉は使っているであろう。つまり綴 りは未知でも言葉(カタカナ)は既知であろう。辞典を引けば、言葉(カタカナ)として使っている単 語として、concert・condition・container・contest 等に気づくことができよう(私たちの頭の中でコンタ クトとコンテナという既知は無関係に分離しているだろう)。また condense は、コンデンス・ミルクの 言葉として使っていることに気づくことができよう。このような既知は、接頭辞 con の単語を辞典でひ とつひとつ点検しないことには、発見・把握できないであろう。 この通観の中で第一著者は、【con(いっしょに=ともに)の意味を容易に読み取れるかどうか】を 基準として、接頭辞 con の単語を分類した(表①) 。◎印は『アンカー英和辞典』に「con ともに」が、 △印は「con(強意) 」が記述されていた単語である(17)。後者も表に入れたのは、con(いっしょに)の 意味が読み取れると判断したからである。無印の単語は、同辞典に「con ともに」の記述はないが、 con(いっしょに)の意味が読み取れると判断した単語、〇印は、『ライトハウス英和辞典(18)』の語源 の説明中に con(いっしょに)の意味が読み取れた単語である(19)。 【表①】接頭辞 con の英単語の分類表 ① 普段使っている単語(既知)で、con の意味を、 ③に比して容易に読み取れる単語。 、congratulate 〇(祝う) 、connection(連結・関係) 、consensus conference(会議→ confer ◎) (一致)、consent ◎(同意)、contact(接触・連絡)、contest ◎(競争)、context(前後関係・ コンテクスト)、control 〇(を支配する(20)) 、conveyer(コンベヤー) ② 普段使っていない単語(未知)で、con の意味を、④に比して容易に読み取れる単語。 、concern ◎(関係・心配) 、conciliate(を抱き込む) 、concord ◎(調 concentrate ◎(集中する) 和)、concur(一致する)、confabulation(雑談)、confection(調合・菓子)、confederation(同 盟) 、confer ◎(相談する) 、conflict ◎(衝突) 、conform ◎(順応させる) 、confront ◎(向か - 114 -.

(6) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). い合っている) 、confound(混同する) 、confuse ◎(混同する) 、conjoin(結合する) 、conjugal (夫婦の)、conjunction ◎(接続詞)、conjure ◎((物・事が)(記憶など)を呼び起こす) conquer(征服する)、consist ◎(から成る)、console ◎(慰める)、consonant(協和音の) conspire(共謀する)、constellation(星座)、constitute ◎(構成する)、constrain ◎(束縛す る) 、construct ◎(組み立てる) 、contend ◎(戦う) 、contract ◎(契約) 、contribute ◎(寄付 する)、controvert(論争する)、convention(大会・協定)、converge((一点に)徐々に集ま る)、conversation 〇(会話→ converse ◎)、convoy(護送する) ③ 普段使っている単語(既知)で、con の意味を、 ①に比して容易に読み取れない単語。 concert(→ concerted(協調した))、condense △(濃縮する)、condenser(蓄電器・集光レン ズ) 、condition 〇(状態・状況) 、conductor(案内者→ conduct ◎) 、consultant(コンサルタン ト)、container(コンテナ→ contain ◎)、convenient 〇(便利な・都合のよい) ④ 普段使っていない単語(未知)で、con の意味を、②に比して容易に読み取れない単語。 、conceive ◎(考える・妊娠する) 、conclude ◎(結論を下す→ conclusion) concede ◎(与える) conduct ◎(行為)、confide △(信用する・秘密を打ち明ける)、confine ◎(閉じ込める)、 、conjecture ◎(を推測する) 、conscience ◎(良心) 、consequence congress ◎(国会・大会議) ◎(結果) 、conservative ◎(保守的な) 、consider(考える→ conceive) 、constant ◎(絶え間ない) 、contemporary ◎(現代の・同時代の) 、content(中身 contemplate ◎(を熟考する・黙考する) ・内容)、convert ◎(転換する・両替する) この分類を行わなければ、言葉は既知(例:コンテナ)だが英単語は未知(例:container)であること等、 接頭辞 con の単語の中に埋もれている既知に気づくこともできない。 2. 分類後の授業内容開発の手続き-生徒が既知の活用できる発問の系列を作る- この後に第一著者は、四つのグループから二つずつ英単語(上記表の下線の単語)を選択して、【そ れぞれの単語の意味を予想するどのような手がかり(既知)を教師と生徒は持っているのか】を書き出 す作業を行った。【既知を手がかりとして活用して単語の意味を獲得できるかどうか】が有意味学習と 機械的学習の分岐点となるので、その作業をしなければ、接頭辞 con の単語の有意味学習の授業内容は 構想できない。四つのグループから一例ずつ、既知の活用について示してみよう。 ① contact ② conversation. コンタクトレンズという既知を手がかりとして、contact の意味(未知)と con の意味(未知)を予想する。 ①で獲得した「con =いっしょに」の意味(既知)を適用すれば、conversation (会話)にその意味が含まれているか思考できる。. ③ conductor. コンダクター(既知)が旅行者を引率している風景を想起すれば、コンダク ターに「con =いっしょに」の意味が含まれているか思考できる。. ④ conceive. 「con =いっしょに」の意味(既知)を適用しても、conceive(考える)にその 意味を見出すのは難しいが(21)、「妊娠する」には見出せるであろう。. この後に第一著者は、四つのグループから二つずつ選出した八つの単語をまず対象として、どのよう な発問を出せば教師と生徒とはやりとりできるか(教師の一方的な教授(説明)にならないようにでき るか)を検討した。その検討を整理したものを、contact の場合で示してみよう。. - 115 -.

(7) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. ① contact:コンタクトレンズ(既知) 【発問1】「コンタクト」って、どういうときに使いますか。 -(予想される反応)コンタクトレンズ(既知)。 【発問2】コンタクトレンズの「コンタクト」ってどういう意味だと思いますか。 -(予想される反応)目とレンズがくっつく、合わさる(未知の予想)。 【検証】 予想が当たっているか、英和辞典で確かめてみよう(予想してから辞書を引く)。 【発問3】どんな意味が英和辞典に書かれていますか。 -(予想される反応)①接触。②連絡。 【発問4】サッカー選手が、目と目で合図することを何という?(既知の想起を促す) -(予想される反応)アイ・コンタクト(既知)。 【発問5】アイって何?(既知の想起を促す) -(予想される反応)目。 【発問6】じゃ、アイコンタクトって、どういう意味ですか。 -(予想される反応)目と目で「連絡」する。目と目が「接触」する。 このような教師と生徒とのやりとり(教授学習)を指導案作成時に第一著者は院生に求めているが、 それは、現職教員を含む院生の次の現状によっている。(1)院生自身も回答できないような「発問」を 出してくることが少なくない。これは、発問を通して獲得される未知を、院生自身が既知を活用して獲 得していないこと、すなわち未知が機械的に学習されていることに起因している。なぜなら既知の活用 に自らが意図的であれば、発問に応えるための手がかり(既知)を児童生徒が持っているかどうか注意 できるからである。(2)ある発問が次の発問を考えるための基礎となるように、発問“間”(発問系列) を検討できていない場合が多い。これは、教科の未知の知識を院生自身が、段階的に思考を積み上げて 獲得した経験が希薄であることに起因している。なぜならその段階的思考の経験があれば、発問と発問 との間に注意を向けて、発問が構造化されているかどうか留意できるからである。 以上の手続きを通して第一著者は、接頭辞 con の英単語の有意味学習を保障する授業内容を構想した。 その手続きを、次にくる5・6の作業も含めて整理すれば以下のようになる。 1 英和辞典で接頭辞 con の単語を頭から全て通観して、con(いっしょに)の意味が含まれて いる単語を拾いあげる。それぞれの単語に関わる既知を書き出す。 2 con(いっしょ)の意味を予想できる難易を基準にして、接頭辞 con の単語を分類する。 3 授業内容で取り上げる単語を四グループから選出して、【単語の意味(未知)を予想するど のような手がかり(既知)を教師と生徒は持っているのか】を改めて考える。 4 選出された単語それぞれについて、教師と生徒とのやりとりが成立するように発問を作る。 5 選出された単語それぞれの発問系列を整理して、授業プラン全体の発問系列を検討する。 6 授業プランによる有意味学習が成立したかどうかを評価する事前事後質問を構想する。その 質問で取り上げる単語の選択は、3・4・5の作業と併せて進める。 このように自製の授業プラン(授業内容)の開発は院生のほとんどが経験していないので、第一著者は 第二著者に対して、内容開発の段階ひとつひとつを経験させるかたちで、指導を進めた。これは有意味 学習を“教える”指導というよりも有意味学習を“経験させる”指導である。その指導の中で、第二著 者は接頭辞 dis の単語の有意味学習の授業プランの開発を行った。 - 116 -.

(8) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). [Ⅲ]接頭辞 dis の英単語の授業内容-既知を活用して未知を獲得する有意味学習- 本章では、第二著者による接頭辞 dis の英単語の授業内容(授業プラン)を提示する。それは前章同 様に、既知を活用して未知の単語を獲得する有意味学習を指向するものである。第一著者による授業内 容の構想手続きを第二著者はどのように踏まえて、授業内容を開発したのか報告する。その開発は、接 頭辞と語幹との関係の予想の難易という、con の授業内容にはない観点から行われている。 1. 接頭辞 dis の英単語の分類-既知による意味予想の難易を観点とする- まず、授業内容の構想手続きの第一段階として、接頭辞 dis の英単語の分類作業を行った(22)。その作 業過程を説明する前に、dis の単語の分類表(【表②】)を提示してみよう。ここでは dis の意味「否定」 「反対」「分離」「除去」の中でも(23)、「反対」「否定」の単語を対象としている。 【表②】接頭辞 dis の英単語の分類表 ①普段使っている語幹(既知)で、dis と語幹との関係を、③に比して容易に予想できる単語。 ㋐【中学校で既習の語幹】:dis-band(解散する)、dis-advantage(不利) ㋑【中学校で未習の語幹】:dis-arrange(乱す)、dis-harmony(不調和)、dis-proportion(不均衡) dis-joint(関節を外す(24)) ②普段使っていない語幹(未知)で、dis と語幹との関係を、④に比して容易に予想できる単語。 ㋐【中学校で既習の語幹】:dis-like(嫌う)、dis-agree ◎(一致しない)、dis-allow(否認する) dis-appear ◎(見えなくなる)、dis-approve(賛成しない)、dis-arm(軍備を縮小する)、disbelieve(信じない)、dis-comfort(不快)、dis-connect((関係)を断ち切る)、dis-content ◎(不満) dis-continue(中止する)、dis-honest( 不正直な)、dis-honor(不名誉)、dis-order(混乱)、disrespect(無礼)、dis-similar(異なる)、dis-taste(嫌い)、dis-trust(不信)、dis-use(使用をやめる) ㋑【中学校で未習の語幹】:dis-ability(無能力)、dis-burden(積荷を降ろす)、dis-credit(不信) dis-engage(解く・取り消す)、dis-grace ◎(不名誉)、dis-integrate(分解する)、dis-inter((墓 等 か ら ) 掘 り 出 す )、dis-loyal( 不 忠 な )、dis-mount( 降 り る )、dis-obey( 従 わ な い )、disorient( 方向感覚を混乱させる)、dis-parity(不等) ③普段使っている語幹(既知)で、dis と語幹との関係を、①に比して容易に予想できない単語。 :dis-charge ◎(荷を降ろす・放電する) 、dis-color(変色する) 、dis-cord ㋐【中学校で既習の語幹】 ◎(不一致)、dis-count ◎(割引)、dis-cover ◎(発見する)、dis-service(ひどい仕打ち) ㋑【中学校で未習の語幹】:dis-figure(形を傷つける) ④普段使っていない語幹(未知)で、dis と語幹との関係を、②に比して容易に予想できない単語。 ㋐【中学校で既習の語幹】:dis-close ◎(あらわにする)、dis-interested(私心のない・公平な) dis-own(自分のものでないと言う・否認する) :dis-affect(離反させる)、dis-claim(否認する・拒否する)、dis-close ◎(あ ㋑【中学校で未習の語幹】 らわにする・(秘密など)を打ち明ける)、dis-courage ◎(落胆させる)、dis-ease ◎(病気) dis-gust(むかむかさせる(25))、dis-illusion ◎(迷いからさめさせる)、dis-incline(する気にな らない)、dis-infect(消毒〔殺菌〕する)、dis-inherit(相続権を奪う)、dis-regard ◎(無視する) ⑤語幹が既知・未知いずれでも、dis と語幹との関係の予想が困難な単語。 ㋐【中学校で既習の語幹】:dis-play(展示)、dis-member(分割する) ㋑【中学校で未習の語幹】:dis-appoint ◎(失望させる)、dis-guise ◎(変装) - 117 -.

(9) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. グループ①㋐のバンドやグループ③㋐のカラーの分類は生徒次第で変わることはないだろうが、生徒に よってはグループ①㋐のアドヴァンテージはグループ②㋐に、グループ③㋐のチャージはグループ①に 分類されよう。こうした個人差も想定した上で、 【表②】は作成されている。なお表中の◎印の単語は『ア ンカー英和辞典』に「dis 反対」の記載があったもの、無印の単語は、同辞典に「dis 反対」の記述はな いが、「dis 反対」の意味であると判断した単語である(26)。 この【表②】の英単語の語幹は、生徒の多くにおいて次の情況にあると想定されている(この想定も また授業実践で検証されることになる)。. ①. dis-band のバンドのように語幹を普段言葉として使っているが、英単語の綴り(band)に直 しても、band を英和辞典で引いてもいない。band は未知、バンドは既知である。. ②. 語幹が既習・未習いずれでも、㋐ライク・㋑アビリティーのような語幹を、普段言葉として は使用していない。. ③. dis-charge のチャージのように語幹を普段言葉として使っているが、英単語の綴り(charge) に直しても、charge を英和辞典で引いてもいない。charge は未知、チャージは既知である。. ④. 語幹が既習・未習いずれでも、㋐インタレステッド・㋑アフェクトのような語幹を、普段言 葉としては使用していない。. ⑤. 語幹が既習・未習いずれでも、㋐プレイ・㋑アポイントのような語幹を、普段言葉としては 使用していない。. 以上の分類作業に第二著者は、第一著者に接頭辞 con の単語の分類表(【表①】)原案を提示されて、 取りかかった。dis の意味「反対」「否定」の単語を対象とした授業プランを、第二著者は、dis の単語 を英和辞典で逐一調べる作業をせず、持ち合わせの単語だけでまず作成した。私たちが所有しているあ るいは想起できる dis の単語だけでは単語数が非常に限定されるので、授業プランは作成できないとい う指導を受けて、辞典を引く作業に第二著者は入った。この作業の中で第二著者は、【語幹が既知であ る単語はどれか】と【dis(否定・反対)と語幹との関係の予想の難易】とを観点として、dis の単語を 【表②】のように分類した。ひとつの接頭辞の単語をひとつひとつ丁寧に見る作業ははじめてであった。 この作業の中で第二著者は次の点に気づくことができた。(1)語幹が既知で日常使用している単語が複 数あること(例:dis-band)、(2)接頭辞と語幹との関係が全く予想できない単語が複数あること(例: dis-play)。この二点の情報収集を、辞典を引かずに第二著者が想起できる情報だけで済ませた場合、少 ない単語数で「授業プラン」を作ることにならざるをえない。 2. 分類後の授業内容開発の手続き-生徒が既知の活用できる発問の系列を作る- この後に第二著者は、【表②】の五つのグループごとに二つの単語を選出して、授業プランを作る想 定の下、【それぞれの単語の意味を予想するどのような手がかり(既知)を教師と生徒は持っているの か】を書き出す作業を行った。その作業の一部を纏めた下表は、第一著者同様に、授業で取り上げる単 語の順番も意味している。第二グループの dis-like を最初の単語としたのは次の理由によっている。 (1) 中学校で既習の like は高校生において記憶されている割合が非常に高いと想定でき、(2)同時に dis と like との関係が dis と harmony との関係より一層直接的であるので、その関係の予想が容易であると判 断できる。生徒は「好き」の反対は「嫌い」と回答できても、「ハーモニー」の反対は即座に言語化で きないだろう。この留意が、授業プラン最初の単語選択では特に必要であると考えた。 - 118 -.

(10) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). ② dis-like. 「 ディスる 」 という既知から、dis の意味を予想する。dis の意味と like(既知) から、dis-like の意味を予想する。. ① dis-harmony. dis-like で獲得した 「dis =でない 」 の意味(既知)と、ハーモニー(既知)から、 dis-harmony の意味を予想する。. ② dis-advantage. dis-like で獲得した 「dis =でない 」 の意味(既知)と、アドバンテージ(既知) から、dis-advantage の意味を予想する。. ③ dis-cover. 「dis =でない 」 の意味(既知)と、カバー(既知)から、dis-cover の意味を予 想する。この場合、「カバーをとる→発見する」とは単純にいかないので、そこ に発問が必要となる。. ④ dis-ease. 「dis =でない 」 の意味(既知)と、未知の ease(気楽さ・安心)から、dis-ease の意味を予想する。. ⑤ dis-play. 「dis =でない 」 と play(をする)の二つの既知を想起しても、dis-play の意味は 予想できない。辞典で play の語源(折る)を知って(27)、それを活用すれば「折っ た(play)紙を開く(dis)→中身を見せびらかす」と思考でき、dis-play の意味(展 示)を理解できる。. グループ⑤の dis-play は、パソコンのディスプレイや電話のナンバーディスプレイの日常語として使わ れている。その言葉だけなら私たちの多くが知っているが、dis と play との関係を思考の対象としたこ とはないだろう。この単語の場合、play の語源(折る)の情報を入手することによって、dis と play と の関係を発問にでき、「表示する・展示する」の訳語を理解できる。 この後に第二著者は、上記の六つの単語をまず対象として、どのような発問を出せば教師と生徒とは やりとりができるか(教師の一方的な教授(説明)にならないようにできるか)を検討した。その検討 を整理したものを、dis-like と dis-cover の場合で示してみよう。 ② dis-like:dis と like との関係が容易に理解できる単語 【発問1】dis-like の like はどんな意味ですか。 -(予想される反応)好き(既知)。 【発問2】「ディスる」という言葉、どういう意味で普段使っていますか。 -(予想される反応)人を悪くいうときに使う(既知)。 【発問3】dis の意味、プラス・マイナスどっちだろうか。 -(予想される反応)たぶんマイナス(dis という未知を「ディスる」から予想する)。 -【検証】dis の意味(反対・否定)の予想が当たっているか、辞典で確かめてみよう。 【発問4】dis-like はどんな意味だと予想しますか。 -(予想される反応)嫌い。嫌う。 -【ルール】dis をつけると単語の意味は「反対」になる。 接頭辞 dis と like との関係は教師において自明であるので、dis-like の発問を作る発想は生まれにくいと 思われる。その自己を相対視すれば、その自明性ゆえに、dis-like は生徒の多くが【ルール】を理解す る教材となるはずである。【ルール】(教科の知識)を dis-like で学習して、それ以降の単語に【ルール】 を適用(活用)して意味を予想するという構成に dis の単語の授業プランはなっている。 次に dis-cover の場合で、どのように既知を活用するのか示してみよう。 - 119 -.

(11) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. ③ dis-cover:dis と cover との関係が dis-like ほど単純ではない単語 【発問1】これ(枕カバーの写真)は何? -(予想される反応)枕カバー。 【発問2】cover、どういう意味の単語だと予想する? -(予想される反応)何かを覆う。何かを包む。 -【検証】予想が当たっているか、辞典で確かめてみよう(①覆う②包む)。 【発問3】dis-cover、どういう意味の単語だと予想する? -(予想される反応)覆わない。覆ったものを取る。 -【検証】予想が当たっているか、辞典で確かめてみよう(①発見する)。 【発問4】「 覆ったものを取る 」 と 「 発見する 」 とは、意味的につながっている? -(予想される反応)覆っているカバーを取るということは、かくされていたもの を「発見する」ということではないか。 このような学習は教師自身も行った経験があり、特別な学習ではないといわれるかもしれない。しか しその経験は第一著者が指摘するように、“偶発的なもの”ではないだろうか。既知を意図的に使って 未知の単語の意味を予想する、この思考を意識的に行っている人は少ないだろう。ましてや、その思考 を上述のように発問化して、発問系列を作った人は少ないだろう(少なくとも第二著者は教師から、そ うした英単語の授業プランを見聞きしたことはない)。接頭辞 dis の単語“全て”に【ルール】を適用 してみれば、実に多くの既知と未知に直面できる。上述のディスプレイ同様に、ディスカウントも言葉 としては私たちの多くが既知としているが、ディスカウントを英単語の綴りに直して、【ルール】を適 用して dis と count との関係を考えたことはないであろう。そこまで考えれば、「dis(反対)+ count(数 (28) える) 」と「割引」の訳語とがすぐには結びつかないという問題に直面するだろう。そうした問題を. もどう発問にするか考えながら、第二著者は発問と発問系列を検討した。 以上のように第二著者は第一著者の授業プランの開発手続きを参考にして、接頭辞 dis の英単語の授 業プランを開発した。接頭辞 con の単語の場合、con と語幹との関係ではなく、con の単語に con(いっ しょ)の意味が含まれているのかが焦点とされていた。そしてその点の予想の難易が、プラン構想上の 要点となっていた。これに対して dis の単語の場合、dis と語幹との関係を焦点として、その関係の予 想の難易を要点としてきた。このように con の授業プランの開発手続きをそのまま参考にすれば、dis の授業プランを開発できるというわけではなかった。dis の授業プランの特徴をおさえた上で、第二著 者は前節の分類表②を作成して、授業プラン(発問と発問系列)を開発した。 [おわりに]本稿の総括と課題-方法主義の風土の問題に立ち返る- 以上本稿は、英単語の機械的学習の現状を改善する目的の下、既有知識を意図的に活用する有意味学 習の経験を実習生(第二著者)に保障する実習指導について報告してきた。接頭辞 dis の英単語の授業 内容(授業プラン)を開発することによって、第二著者は、接頭辞に着目した単語の有意味学習を経験 でき、それまで偶発的に留まっていたその経験を意図的・意識的なものにできた。偶発的な段階では、 わずかな単語に dis(反対・否定)の意味を半意図的に適用しているにすぎず、dis の単語全体に“一貫 して”その意味を適用してはいない。これでは、教師は dis の単語の体系的な有意味学習は生徒に保障 できない。そのための授業内容を開発するために第一著者は第二著者に、【英和辞典で dis の単語を頭 から全て通観する】作業をまず課した。その作業を出発点として第二著者は、con の授業内容と dis の 授業内容との質的相違に気づき・対応しつつ、dis の有意味学習の授業内容を開発した。その内容と事 - 120 -.

(12) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). 前事後質問による実践が次の課題となる。それによって、その内容が有意味学習を保障しえるものに なっているかどうかが明らかになる。 ここに本稿の報告を終えてまず、第二著者の総括を述べておきたい。第二著者は、接頭辞 dis の英単 語全てに「dis =反対・否定」の知識を適用して、自ら教科の知識理解に取り組む中で授業プランを開 発した。この経験によって、【既知を意図的に活用する有意味学習を生徒に保障するには、教師自らが 有意味学習を意図的に進めておく必要がある】ということをはじめ、次の点を学ぶことができた。 1 私は最初、接頭辞 dis の単語を辞典で引かずに授業プランを作成したが、持ち合わせ単語だ けでは少ないので(知っていても想起できない単語もある)、プランは開発できない。したがっ て辞典で dis の単語を頭から全て見ていく必要がある。 2 dis の単語個々に自分がどんな既知(例:ディスプレイは既知だが dis-play は未知)を持って いるのか、気づくことは難しい。そのためにも辞典を引く作業が不可欠となる。 3 dis の単語を辞書でひとつひとつ見ることで、そして第一著者による con の単語の四分類を 参考にすることで、(1)dis と語幹との関係から単語の意味を予想することに難易があると いうことに気づき、(2)dis の単語の分類作業を行うことができた。 4 教師は知識を結論として教えがちである。知識に至る過程を発問にしないと、例えば discover の【発問4】がなければ、“教師が説明して終わり”となるだろう。その発問で、生 徒は 「 覆ったものを取る 」 と 「 発見する 」 との「間」を何とか説明しようとするはずである。 第二著者は院生1年次にモチベーションに関する研究レポートを書いたが、それは、自らの教育内容の 理解に取り組む作業から離れていた。それでも授業をよくすることができると思っていたが、今回の 授業プラン構想において、dis の単語に関する自らの知識理解を深める中で、次の点を新たに認識した。 【教師自身が教科の知識理解に取り組む作業から離れて、日ごろの機械的学習に近い授業を改善するこ とはできない】。【その作業をしなくても、授業は改善できる】と思い込んではないか、この点を意識的 に問い直していく必要があると思うことができた。 次に第一著者による総括として、教育学における方法主義の風土の問題に立ち返っておきたい。ま ず、第二著者の次の指摘を見てほしい。【私たち教師が授業改善という場合、機械的学習の中で「改善」 しようとしており、機械的学習を有意味学習に改善しようとはしていないと思われる。自分たちの授業 が機械的学習であることに気づいていないのではないか】。この指摘は、第二著者に映った風景に留ま るのだろうか。近年流行している「思考ツール」を用いたある授業を見てみよう。「織田信長と天下統 一」の授業で菅原弘一は、「事実の羅列になってしまうことが多い」歴史の授業を改善するために、 「思 考ツール」のひとつである「クラゲチャート」を用いて、次の活動を行っている(29)。「織田信長はどう して急速に勢力を拡大することができたのであろう?」という課題を「クラゲチャート」の「クラゲの 頭」の部分に教師が書き入れて、勢力拡大の原因として次の事柄を児童が「クラゲの足」に書き込んで いる(30)。①安土を全国統一の拠点とした、②ヨーロッパの文化や品物を日本にもたらした、③商工業 をさかんにして、商業都市を支配した、④火縄銃をたくさん仕入れた。 「クラゲの足に並べた事柄が、問いに対する理由に その活動の成果が次のように報告されている(31)。 なっていること、また、理由として挙げた“事柄同士も関連している”ことなどを、視覚的にとらえる ことができた」。上述の四つの事柄は関連づけられてはいないであろう。その前にそれらは相互に関連 づく事柄なのであろうか。①と②、①と④は関連づく事柄なのであろうか(32)。この点を授業の前に教 師は検討しなければならないはずである。そうした関連の報告がないにもかかわらず、事柄同士の関連 - 121 -.

(13) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. を「視覚的にとらえることができた」と「省察」されている(この点に授業者の次の認識が示されて いると思われる。「クラゲの足」の複数の事柄を書き込むこと自体が、事柄同士を関連づけることであ る)。したがってこの授業は、事実を羅列的に記憶する機械的学習(おいしくないパン)を、事実の関 連を思考する有意味学習に改善した報告と見ることはできないだろう。これは、機械的学習の中で授業 を「改善」しようとしている報告といえよう。 次に、自らの授業を機械的学習と認識することはなぜ容易ではないのであろうか。それは、【教師が 有意味学習の意図的な経験をしていない】からであろう。なぜならその経験がなければ、機械的学習で ある自らの授業を機械的学習として認知できないからである。その経験が非常に希薄な院生に、どのよ うに指導をすればよいのであろうか。それは、文献を通して有意味学習を知っていることと、有意味学 習を経験していることとを区分して、後者を保障することである。「有意味学習について説明せよ」と 言われた場合、形式的な言葉で回答することは誰でも容易にできるが、「有意味学習のあなたの経験を 挙げよ」と言われた場合、院生のほとんどが回答できない。したがって院生を指導する際、私たち指導 する側が方法主義の習慣を自覚して有意味学習の経験を作りあげつつ、院生に有意味学習の経験を保障 していくことが必要となってくる。 最後に、有意味学習の意図的経験に不在(その授業内容開発の停滞)は院生の問題に限らず、教育学 全体の問題である。本稿冒頭に指摘した方法主義の習慣・風土が私たちに身体化されている限り、私た ち大学教員が教科の内容理解を自ら深める中で、有意味学習の経験を学生・院生に保障しようとう発想 は生まれない。岡田いずみは、接頭辞等に着目した英単語の授業内容の構想・実践に際して、「学習意 欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなれることが多かった」と 教育心理学研究を総括している(33)。それは、 【知識を理解する中から意欲が生まれる】という見方では なく、【学習の前にまず意欲ありき】という見方である。後者の見方に立てば、私たち教師は教科内容 の理解に自ら努める作業“から離れて”、どう児童生徒の意欲を上げるかという発想で、授業「研究」 をすることになる(34)。後者の見方が支配的であることも、教育学・心理学において方法主義が風土化 していることの証拠であり、これは、私たちの現在進行形の見えない負の思想である(35)。 【註】 (1) 本稿「はじめに」と第一・二章は第一著者が、第三章は第二著者が、「おわりに」は分担で執筆している。 (2) 石井英真『今求められる学力と学びとは』日本標準、2015 年、34 頁、「資質・能力ベースカリキュラムの危険 性と可能性」日本カリキュラム学会第 26 回大会発表要旨集録、2015 年、26 頁。 (3) コンピテンシーベースのカリキュラムの危険性について石井は次のように指摘している。「教科横断的な汎用 的スキルを位置づけることで、活動主義や形式主義に陥る。特に、思考スキルの直接的指導が強調され、しか もそれが評価の観点とも連動するようになると、授業過程での思考が硬直化・パターン化し、思考する必然性 や内容に即して学び深めることの意味が軽視される」(石井、前掲『今求められる学力と学びとは』、10 頁)。 (4) 漢字や九九等の読書算はそもそも機械的にしか学習できないと私たちは思い込んではいないであろうか。筆者 の調査によれば、「読書算と呼ばれる知識、例えばかけ算(九九)や漢字は、考えるものではなく覚えるもの である」という文章について大学1年生 129 名に問うたところ、78 名(60%)が「そう思う」と回答した(拙 稿「0の段のかけ算の学習援助-授業内容の構想とその効果-」『教授学習心理学研究』第 11 巻第2号、2015 年、75 頁)。その読書算観は、中央教育審議会答申(2002)において読書算の学習目的として「物事に粘り強 く取り組む態度」「学習に必要な忍耐力」が掲げられているように、政策にも浸透している(同上、75 頁)。し たがって読書算の機械的学習を有意味学習に改善していくためには、私たちは「読書算=覚えるもの」という 思い込みを自らの体内からまず摘出しておかなければならない。 (5) 読書算の有意味学習の授業内容の構想・実践研究として、上記拙稿のほかに次のものを参照されたい。拙稿「分 数のわり算の授業(戸村実践)の考察-【式→答→計算の仕方】の展開を採る-」極地方式研究会『デポ』140 号、 - 122 -.

(14) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). 2014 年3月、58‐67 頁、「「2÷3」(五年生)の授業プランと実践-【立式→答→計算の仕方】の展開-」極 地方式研究会『デポ』157 号、2017 年 10 月、34-47 頁、「漢字(火偏・水偏)の教授学習過程-授業プランと 授業記録-」極地方式研究会『デポ』161 号、2018 年7月、34-55 頁。 (6) この点は位取りの仕組みの理解が要点となる(拙稿「数え棒教材の問題点」極地方式研究会『デポ』第 139 号、 2014 年、58-68 頁)。 (7) 拙稿「道徳教育の評価項目に対する大学生の肯定観-人格的要素を含む項目の受容の現状-」『山梨大学教育 学部紀要』第 28 号、2018 年 12 月公刊予定。 (8) 教育実習研究に関する次の論稿等を概観した。姫野完治・渡部淑子「省察を基盤とした教育実習事後指導プロ グラムの開発」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第 28 号、2006 年、165-176 頁、佐古秀一他「授業 場面における児童の反応に対する解釈力の育成をはかる教員養成教育プログラムの開発(2)」『鳴門教育大学 学校教育実践センター紀要』第 17 号、2002 年、37-44 頁、田上哲「教育実習生の実践記録と省察の特徴」『香 川大学教育実践総合研究』第5号、2002 年、67-79 頁、馬野範雄「「省察する教師」を養成する教育実習の開 発-授業研究をリフレクションプログラムの構想-」『教育実践研究』第6号、2011 年、11-18 頁、原陽子他「授 業におけるつぶやきに応答する教師の実践課題-教育実践開発研究実習における授業の省察を中心に-」『宮 崎大学教育文化学部附属教育実践総合センター研究紀要』第 19 号、2011 年、179-190 頁。 (9) 拙稿「教育実習の事後指導を実質化する事例研究-内容研究を前提とする教授学習過程研究の立場から-」 『愛 媛大学教育実践総合センター紀要』第 32 号、2015 年、153-168 頁、梶原郁郎・東勇汰「教育実習の事後指導 を実質化する事例研究(Ⅱ)-新たな授業内容構想における事後指導内容の応用可能性-」『愛媛大学教育実 践総合センター紀要』第 33 号、2016 年、77-86 頁。 (10) 宇野忍「学習と記憶について」宇野忍編『授業に学び授業を創る教育心理学』中央法規、2002 年、117 頁。 (11) 同上、117-118 頁。 (12) 拙稿「教科学習の理論」齊藤義男編『教育方法・技術論』大学図書、2018 年、44-45 頁。 (13) 柴田徹士編『アンカー英和辞典(第二版)』学習研究社、1985 年、999 頁。 (14) 同上、830 頁。 (15) customer の未知を前に custom(習慣)の既知を想起すれば、customer の「(商店などの)お客」「得意先」等の 訳語に(同上、351 頁)、次のように反応できるであろう。customer とは、商店などにたまに来る客のことでは なく、習慣的に度々来る客のことであろう。 (16) 同上、301 頁。 (17) condense・confide のように「con(強意)」の意味が記載されている単語として、concise(簡潔な) ・confess(を 白状する)・confirm(を確認する)consume(を消費する)がある(同上、301-321 頁)。この記述を踏まえれ ば、condense は、「con(いっしょ)」が含意されている単語として扱ってはいけないだろう。それにもかかわ らずその扱いをしたのは、condense をコンデンス・ミルクの condense として取り上げることで、液体中の乳脂 肪分だけを「いっしょ」に集める操作がコンデンスであることを生徒に問うことができると考えたからである。 そしてその発問は、濃縮を意味する condense の意味を損なっておらず、「con(いっしょ)」が含意されている という判断も否定できないと考えたからである。この点は、condenser に「集光器」の意味があること(同上、 304 頁)を踏まえれば、さらにそう考えられる。 (18) 竹内滋・小島義郎編『ライトハウス英和辞典(第一版)』、研究社、1984 年。 (19) ( a)congratulate について「(語源)ラテン語で「喜びを共にする」の意」(同上、281 頁)、(b)control につ いて「(語源)中(期)フランス語で「原簿と照合するための会計簿の控え」の意」(同上、293 頁)、(c) conversation について「(語源)ラテン語「共に住むこと、付き合い」の意」(同上、294 頁)、(d)condition に ついて「元来は「同意」の意で→(同意の)条件」の意、 (e)convenient は「(語源)ラテン語で「ともに来る」 の意。つまり「(都合よく)そこに居合わせる」が原義」(同上、293 頁)と記述されている。 (20) この control については、原義(註 19)と「支配する」との関係からは離れるが、支配するとは誰かが誰かを 支配するということなので、そこに「いっしょに」が容易に読み取れると判断して、グループ①に分類した。 この場合の判断の妥当性は、condense(註 17)に con(いっしょ)の意味を読み取った場合よりも、低いので はないかと思われる。したがってその認識と留意が、control を授業で取り上げる場合、一層求められる。 - 123 -.

(15) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 29 号. (21) 接頭辞 con の単語の中に「考える」を意味するものが複数ある(conceive・conjecture・consider・contemplate) 事実を前にするとき、「考える」にはそもそも「con(いっしょに)」の要素が含まれているのではないかと思 えてくる。そこで国語学者の大野晋の指摘に着目してみると、「思う」とは「胸の中にある一つのこと」をい うのに対して、 「考える」とは「あれかこれか、ああするかこうするか、 “いくつかの材料を”心の中で比べたり、 組み立てたりすること」である(大野晋『日本語練習帳』岩波書店、1999 年、6-7頁)。確かに、私たちは 「考えて」いるとき、何かと何かとを「いっしょに」比べたりしている。これは語源的にもそうで、「考える」 の語源「勘ふ(かんがふ)」は、「犯罪者の実際にやった悪事が、刑罰の条文のどれに当たるかと“事実と条文 を突き合わせて”決定すること」、また「校ふ(かんがふ)」は「戸籍帳の記載と実際の田畑の配置を“突き合 わせて”調べること」だという(同上、7頁)。(1)語源的にも、頭の中で何かと何かを「いっしょに」「突き 合わせて」いる状態が「考える」ということ、 (2) 「考える」を意味する上述の英単語に con が入っていること、 前者は後者の根拠と見ることができよう。以上のように「考える」の語源(勘ふ・校ふ)にまで目を向けると、 国語であれ英語であれ言葉そのものが“私たち人間の整理された経験である”と思わされる。ついでながら「考 える」の語源を踏まえれば、 「校正」に「校」が使われている理由(印刷前後の原稿を「突き合わせる」こと) も、「校勘」「校訂」「照校」(「校閲」)に「校」が使われている理由も予見できる。 (22) 中学校で語幹(dis の語幹)が既習か未習かについては、開隆堂の HP 掲載のファイル「中学校で学ぶ英単語 (EXCEL)」中の「H28 中英六社単語」(閲覧日:2018 年9月 13 日)で確認した。語幹が六社(開隆堂・三省堂・ 東京書籍・光村図書・教育出版・学校図書)のいずれかの教科書に出ている単語であれば、それは既習の単語 として扱った。 (23) 前掲『アンカー英和辞典』、394 頁。 (24) 私たちはホームセンターでの経験等から、ジョイントの言葉は既知であろうが、joint の英単語を辞典で調べた ことはないだろう(discredit の credit もそうであろう)。joint の意味(関節・継ぎ目)を辞典で獲得すれば、こ の既知を活用して disjoint の意味は「関節が壊れる・外れる」と予想できる。ジョイントの意味を調べなければ、 「dis- ジョイント」は「ジョイントを外す」とは予想できても、「関節が外れる・脱臼する」とまでは予想でき ないであろう。ここでも【言葉は既知だがその英単語は未知である】単語の扱い方に留意する必要がある。 (25) disgust の gust の意味は「(飲食物の)味、風味(flavor、taste)」「味わう」である(小西友七他編『ランダムハ ウス英和辞典』小学館、1998 年、1190 頁)。この gust と disgust とが反対の関係にあることは、「味わう」 と「むかむかさせる」との訳語からは、すぐに納得できない。しかし味わえているときにはむかむかしないか ら、反対の関係といえないこともない。この点を生徒はどのように考えるのか、発問にして授業で尋ねてみた い。なお飲食店にガストという店名がある。それは gust ではなく gusto である。gusto の意味は「(飲食物などの) 賞味、心からの楽しみ(喜び)」である(同上、1190 頁)。 (26) 訳語も『アンカー英和辞典』によっているが、disgust の訳語については「(be disgusted)むかむかしている」 と記述されていたため(前掲、399-400 頁) 、『ライトハウス英和辞典』の「むかむかさせる」の訳語の方を選 択して記述した(前掲、382 頁)。 (27) display の語源は『ライトハウス英和辞典』によれば、 「ラテン語で「折り曲げた物を広げる」の意」と(前掲、 384 頁)、語源辞典によれば「中世ラテン語で unfold、unfurl の意味を持ち」(小島義郎他編『英語語義語源辞典』 三省堂、2004 年、330 頁)と、鈴木らによれば「dis(~でない)+ play(折る)→折らないでおく」と説明さ れている(鈴木健二・すずきひろし『英単語の語源図鑑』かんき出版、2018 年、269 頁)。また WEB 情報によ れば、「語根 ply・ploy・play・plex の意味」は「ラテン語 plicare が由来です。plicare は fold「折る」を意味し ます。plicare から派生した英単語には reply や complicated があります。reply は「返事する」を意味します。 「返事」は「折り」返すことです。complicated は「複雑な」を意味します。「複雑な」状態とは、多くのことが 「折り」重なっているようです」(http://gogengo.me/roots/187(2018 年9月2日閲覧))。 (28) 前掲『アンカー英和辞典』、397 頁。 (29) 菅原弘一「織田信長と天下統一」田村学・黒上晴夫『「思考ツール」の授業』小学館、2013 年、52、55 頁。 (30) 同上、55 頁。 (31) 同上、55 頁。これに続けて菅原は次の指摘をしている。「信長=鉄砲といった「戦い」に注目した短絡的なと らえではなく、経済政策や対外関係など背景となっている事柄や人間性との関連を理解したことが、まとめの - 124 -.

(16) 英単語の機械的学習を改善する教育実習指導. (梶原郁郎). 文章に深みを与えた」(同上、55 頁)。その「まとめの文章」は次のものである。「人とは違う自分の発想を生 かしながら天下統一という夢に向かって全力をつくした人だと思う。なぜなら、キリスト教を取り入れたり、 銃を使ったりしていたからです。もしも信長がもっと長生きし〔て〕いたら、昔も今も全然違う世の中になっ ていたと思う」(同上、55 頁)。この文章は「人間性との関連」が捉えたものとして提示されているのだろうが、 ここにもの「事柄同士」の「関連」は見出せない。 (32) 例えば①と③とは、安土の地図上の位置を調べなければ、関連づかないであろう。網野によれば、15 世紀から 16 世紀にかけて海の商人や廻船人のネットワークが広く組織されて、琵琶湖の湖上交通も一層活発になってい た(網野善彦『続・日本の歴史をよみなおす』筑摩書房、1996 年、155-156 頁)。その琵琶湖の交通の要衝に 安土があったことは次の情報からわかる。「現在の安土城跡は内陸部に位置していますが、築城当時は琵琶湖 に面し、船の出入りも頻繁だったのです。「信長公記」には信長公が坂本から船で安土城に帰城した事も時々 記されています」(https://trip-s.world/azuchi-jou(2018 年9月4日閲覧))、このように当時の安土の位置を把握 して、そこに信長(1534-1582)が拠点を置いたことをおさえなければ、事柄①を「クラゲの頭」に関連づけ ることもできず、事柄①と③との関連も見えてこないであろう。 (33) 岡田いずみ「学習方略の教授と学習意欲-高校生を対象とした英単語学習において-」 『教育心理学研究(55)』 2007 年、287 頁。 (34) 方法主義の習慣・風土は様々な現れ方をする。文学教育は理論的にも実践的にも、読みの多様性・主体性とい うことがどの文献でも主張されているので、解釈でも実践でも多様な読みが提示されていると思わされるが、 事実は大きく異なる。この点は、数多くの解釈・実践が報告されている「ごんぎつね」(新美南吉)の授業に 典型的に現れている。児童言語研究会、文芸教育研究協議会、教育科学研究会、科学的「読み」の授業研究会、 この四つの文学教育研究団体をはじめ、ごんと兵十との心の交流が「ごんぎつね」の全体解釈となっている(梶 原郁郎「読者論に立つ授業「ごんぎつね」における読みの「多様性」-教師の【通例的主題】による児童の解 釈の水路づけ-」『山梨大学教育学部紀要』第 27 号、2018 年、167-181 頁)。この点を実態としながらも、四 団体それぞれによる「独自」の読みの方法が提案されているところに、方法主義が現れている。. このように全体解釈が一様化している要因のひとつとして、現職の院生からの次の指摘を紹介しておこう。 (1)文学教育の授業の多くの場合、まず指導書を読み、その解釈にしたがって授業をしている、(2)となりの クラスの解釈とのズレがでてくることを避けるためにも、指導書の解釈に揃えている、(3)解釈や感想が複数 出てきたとき、指導書に書かれている通例的解釈で「とき伏せる」こともある、(4)テストの回答例も通例的 解釈で記載されているので、それで正誤をつけている(梶原郁郎「現代学校論」授業資料(2018 年5月 21 日))。 「ごんぎつね」の指導書も、ごんと兵十との心の交流を「ごんぎつね」の全体解釈としているが(『小学校国語 学習指導書4下はばたき』光村図書、2000 年、135 頁、同『はばたき』2015 年、18、35 頁)、以上のように指 導書が信仰されている現状も、ある特定の解釈が通例化・定番化している要因として見ることができる。その 指導書信仰もまた、私たちが作品(本文)と向き合い自ら解釈を考える作業から離れている点で、方法主義の ひとつのヴァリエーションである。. (35) この方法主義について水越は、わが国のブルーナー受容の場合において指摘している。「学習指導法に限った」 その受容が「わが国の発見学習についてみてみると、教育内容やカリキュラム開発研究とは“切り離して”、 学習指導法の一つとして取り扱う傾向が強い」と述べられている(水越敏行「発見学習」『新学校教育大事典 (5)』第一法規、1990 年、495 頁)。同様のことは社会科教育の場合において、池野が次のように指摘している。 「我が国の発見学習は学習“方法”ととらえられたためか、学習指導“法”に特化し、学習指導要領の内容に 従った単元を開発するにとどまり、“内容の改革や開発と結びつくことがなかった”。そのために、発見学習に もとづいた多くの社会科授業はブルーナーの主張した学問の構造の学習という質の高い知識生成学習も、本来 意図した知性の育成も果たすことは“なかった”」(池野範男「発見学習」日本社会科教育学会編『社会科教育 事典』ぎょうせい、2000 年、217 頁)。これは、ブルーナーの『教育の過程』(The Process of Education, Harvard University Press, 1960)が出版されてから約 40 年後の指摘で、わが国の社会科教育研究者における発見学習の 受容の実態を反省的に述べたものである。同様の反省は 2012 年にも確認されている(池野範男「発見学習」 日本社会科教育学会編『(新版)社会科教育事典』ぎょうせい、2012 年、223 頁)。. - 125 -.

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