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企業不正の実態に関する一考察

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企業不正の実態に関する一考察

著者

李 相和

雑誌名

埼玉学園大学紀要. 経済経営学部篇

20

ページ

103-113

発行年

2020-12-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1354/00001310/

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会計を公表した上場企業30社について個別に 事例分析を行っている。本論文は、企業不正 の発生原因などを分析した後、KPMGジャパ ン2)とデロイトトーマツ(DTC)3)の「不正 調査報告書」をもとに日本企業における不正 の実態とその対応策について考察を行ったも のである。 Ⅱ 企業不正の概要 1.不正の定義とその形態  不正の定義について、日本公認会計士協会 の「不正調査ガイドライン」によれば、不正 を幅広く解釈し、「法律、規則、基準(会計基 準を含む)及び社会倫理からの逸脱行為」と している。また、日本公認会計士協会の監査 基準委員会報告書240号「財務諸表監査にお ける不正」によれば、「不正とは、不当又は違 法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、 経営者、取締役等、監査役等、従業員又は第 三者による意図的な行為」としている。  日本公認不正検査士協会(ACFE)によれ ば、企業における不正は、(a)汚職(違法行為、 (b)不正な財務報告(粉飾決算)、(c)資産の 不正流用(横領)の3つに分類される。(b と(c)が会計不正4)にあたる。 Ⅰ はじめに  近年、日本の大手企業で、会計不正、デー タ偽装などの不祥事が多発している1)。企業 において、不正や隠蔽を行う理由はリーダー の自己保身と組織メンバーの本能的な反応と もいわれている。自己保身の根底にあるのは 自分の欠点あるいは弱点を隠そうとするメン タリティである。企業不正は会計の数字だけ でなく、企業倫理をも腐らせてしまうことに なる。  企業不正の事例としては横領や会計不正が 多い。近年は情報セキュリティ意識の低下が 招く情報漏洩も増えており、企業に内在する リスクは多様化している。それに応じて、上 場企業を対象とした外部監査人の監査では、 「不正リスク対応監査基準」が新設されてお り、新たな対応が求められる。  企業不正の実態調査に関する主な先行研究 としては次のようなものがあげられる。金丸 正二ほか(2019)は企業品質不祥事の実例を 分析し、防止策を講じている。宋明子(2018) は不適正会計の早期発見のためのモデル構築 に対する提言を行っている。日本公認会計士 協会(2010)は2005年から2010年までに不正 キーワード : 企業不正、内部通報、内部監査、不正のトライアングル Key words : corporate fraud, whistle-blowing, internal audit, fraud triangle

A Study on the Actual Conditions of Corporate Fraud

 

李   相 和

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のトライアングルの理論によれば、不正行為 は、(a)動機・プレッシャー、(b)機会、(c) 姿勢・正当化という3つの不正リスク(不正 リスクの3要素)がすべてそろった時に生じ ると考えられる。 (1)動機・プレッシャー(Perceived pressure)  動機とは、不正を実際に行う際の心理的な きっかけのことである。処遇への不満や承服 できない叱責等の個人的な理由や、外部から の利益供与、過重なノルマ、業務上の理由、 業績悪化、株主や当局からの圧力等の組織的 な理由が原因として考えられる。これは不正 を行わせる心理的事情を表すものである。 (2)機会(Perceived opportunity)  機会とは、不正を行おうとすればそれが可 能な環境が存在する状態のことである。重要 な事務を一人の担当者に任せている、必要な 相互牽制、承認が行われていないといった管 理上の不備が主な原因である。これは不正が 可能な外部的環境を表すものである。具体的 には、内部統制の不備、複数人による確認体 制の欠如、複雑な組織構成などである。 (3)姿勢・正当化(Rationalization)  姿勢・正当化とは、不正を思いとどませる ような倫理観、遵法精神の欠如であり、不正 が可能な環境下で不正を働かない堅い意思が 持てない状態を指す。完璧な管理体制の構築 は不可能である以上、道徳律の確立が不正予 防の必須な要件である。これは不正を思い止 まらせない心理的事情を表すものである。具 体的には、不適切な業界慣行、企業理念や倫 理規範の不十分な理解、株価や業績を過度に 重視する企業文化などである(高林真一郎 (1)不正な財務報告(粉飾決算)  不正な財務報告は、多くが経営者によって 行われており、次のような方法により行われ る場合がある。すなわち、(a)財務諸表の基 礎となる会計記録や商標書類の改ざんや偽造、 (b)取引、会計事象又は重要な情報の財務諸 表における不実表示や意図的な除外、(c)金 額や開示などに関する意図的な会計基準の不 適切な適用などである。 (2)資産の流用  資産の流用は、主に従業員によって行われ ることが多く、経営者が関与することもある。 資産の流用による虚偽表示の場合にも、不正 な財務報告による虚偽表示に関する要因が存 在する場合がある。例えば、資産の流用によ る虚偽表示が存在するときにも、経営者の監 視が不十分であることや、内部統制が不備で あることがある(日本公認会計士協会2015, 27頁)。  このように、粉飾決算は財務諸表上の虚偽 の表示をすることであり、主に経営者によっ て行われる不正が多い。例えば、都合のよい 財政状態または経営成績を表示するための資 産の過大表示や負債の過小表示、重要な情報 の開示の欠如等がある。また、資産の不正流 用は、金銭・物品の横領・着服を伴うもので あり、社員の不正の多くは会社財産の横領・ 着服によって行われる。 2.不正の発生要因  不正が起こるメカニズムについては、米国 の犯罪学者であるD.R.クレッシー(Donald Ray Cressey)が実際の犯罪者を調査して導 き出した「不正のトライアングル(Fraud Triangle)」理論が、広く知られている。不正

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流れは次の通りである。(a)不正の端緒の発 見、(b)社内調査(経理部門・監査部門など)、 (c)経営者への報告・経営者による意思決定、 (d)適時開示(不正の公表、第三者調査委 員会の設置、調査委員会の開示、関係者の処 分、訂正報告書の提出、再発防止策の公表) などである(米澤2014, 4-5頁)。また、企業 による不正が発覚された場合は企業のレピュ テーション5)を大きく毀損することになる。 上場企業であれば、証券取引所から、上場廃 止や特設注意市場銘柄への移管といった措置 がとられることもある。  不正による企業への主な影響としては次の ようなものがあげられる。まず、刑事責任と して、例えば、有価証券報告書の「重要な事 項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した 者には、その違反者個人には10年以下の懲役 または1,000万円以下の罰金(併科可能、金 融商品取引法197条1項1号)が、会社には 7億円以下の罰金(同法207条)が科される 可能性がある。また、内閣総理大臣によって、 会社に対して課徴金納付命令がなされる場合 もある(同法172条の4)。  また、会計不正が発覚した企業は,その影 響度合い等によって上場する金融商品取引所 より上場廃止等の処分を受け、上場契約違約 金を課され、金融庁により課徴金を課される 可能性がある。虚偽の記載がある有価証券報 告書が公衆縦覧されている期間に、株式を取 得した株主は、会社に対して損害賠償を請求 することができる(金融商品取引法21条の 2)。加えて、役員個人も、一定の要件を充 たす場合、株主から直接損害賠償を請求され ることや(同法24条の4)、株主から代表訴 訟を提起され、会社への損害賠償を求められ ることもある。 2013, 11-17頁)。  この「不正のトライアングル」理論はアメ リカのトレッドウェイ委員会支援組織委員会 (COSO)や、AICPAおよび公認不正検査士協 会において取り入れられ、日本の「監査にお ける不正リスク対応基準」(金融庁, 2013)、 不正リスク対応基準、監査基準委員会報告書 等においてもその理論が用いられており、実 務的に合理性が認められている。  また、日本の企業において不正が頻発する 要因として次のものが考えられる(https:// sfmagazine. com/post-entry/november-2018)。 (a)ヒエラルキー組織構造の中で、すべて上 層部の決裁を仰ごうとする文化がある。 (b)集団の和を重んじ組織への忠誠が強いこ とから、疑問を持つことなく組織に従順す る傾向のもと、個人の利益よりも組織全体 の利益を目的とする文化がある。 (c)終身雇用を前提に特に財務部門について は高度な専門性を必要とするとの認識から 同一部署に長期間配属され続けることが多 い。また、各々の担当者の職務分離が不十 分で、相互牽制が欠如している。従って、 仲間意識が強く不適切な会計処理について も、それを修正するのをためらわせる傾向 がある。 (d)上層部が明確に不正を指示しなくても、 意向を忖度して不正を行わなければならな い雰囲気がある。 (e)監査部門が監査委員会直結の独立組織に なっておらず、監査よりも業務効率向上へ の貢献に重きを置いている。 3.企業不正の発覚から処理までの流れと企 業への影響  一般的な企業不正の発覚から幕引きまでの

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Ⅲ 日本企業における不正の実態調査例 1.KPMGジャパンによる「日本企業の不正 の実態調査」(2018年6月) (1)不正の発生状況  KPMGジャパンが調査した「日本企業の不 正に関する実態調査(2018)」によれば、回 答した上場企業(429社)の中、不正が発生 した企業は135社であり、その割合は回答企 業の32%であった。不正が発生したと回答し た企業のうち、発生したのは本社(回答企業 単体)、国内子会社、海外子会社のいずれも 約17%となった。  また、本社では不正が発生していないが、 国内または海外子会社で不正が発生したと回 答した企業は61社(約45%)にのぼった。海 外子会社において不正が発生した企業の45社 うち、発生地域は半数以上(54%)がアジア 地域であった(KPMG2019, 7頁)。 (2)不正の内容と損害金額  不正の内容としては、「金銭・物品の着服又 は横流し」、「粉飾決算などの会計不正」、「水増 しは中などによるキックバックの受領」の順 であった。発生した不正の損害額は、国内ま たは海外を問わず、子会社で発生した不正の 方が大きくなる傾向があった。不正による最 大損害金額(財産上の損害金額だけでなく会 計不正などによる財務諸表訂正金額及び制裁 金を含む金額)は、1件当たり1,000万円未満 が最も多かった(同上, 8-9頁)。 (3)不正の発生原因と発生経路  不正発生の根本原因としては、「属人的な業 務運営」、「行動規範等の倫理基準の未整備又 は不徹底」、「上司や同僚等に対して意見を言 い出しにくい組織風土」の順であった。特に、 損害金額が10億円以上の不正については、「業 績至上主義」や上司や同僚等に対して意見を 言い出しにくい「組織風土」を根本原因とす る傾向がみられた(同上, 10頁)。  また、不正の発見経路としては、「内部から の通報」、「会計記録等の確認・承認・モニタ リング」、「内部監査」の順であった。損害金 額が10億円以上の不正については「内部から の通報」、「税務調査・当局検査」、「会計監査人 監査」により発覚する割合が高かった(同上, 11頁)。 (4)不正の企業活動への影響と再発防止策  企業活動へ与えた影響としては「影響が軽 微、影響はない(37%)」、「監督官庁または規 制当局などからの指導・命令・処分(24%)」、 「マスコミ等のメディアでの批判(16%)」の 順であった。このような回答企業の92%は不 正による損害金額が1億円未満であった。不 正による損害金額が1億円以上との企業のう ち48%は、発生した不正が企業に与えた影響 として、「監督官庁または規制当局などからの 指導・命令・処分(24%)」と回答した(同上, 12頁)。  懸念される重要な不正リスクとしては「情 報の漏洩または破壊(サイバー攻撃を含む」、 「金銭・物品の着服または横流し」、「粉飾決算 の会計不正」の順であった。海外子会社にお いては、国内よりも特に「水増し発注などに よるキックバックの受領」と「贈収賄」の不 正リスクに対する懸念が強かった。また、有 効な再発防止策としては、「業務プロセスや内 部統制の見直し・強化(66%)」、「不正行為者 の懲戒処分(50%)」、「不正予防やコンプライ アンス推進等に係る研修の実施(44%)」の

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順であった(同上, 13-14頁)。  特に、日本企業における不正の典型は、過 度な「忖度」が結果的に不適切な会計処理と なって発覚し、経営トップは「知らない」が、 経営トップ宇の意向を忖度した部下が頑張っ てしまったものであり、このような「忖度」 の風習は日本の終身雇用制度にあると考えら れる(米澤2014, 18-19頁)。 2.デロイトトーマツ(DTC)による「企 業の不正リスク調査白書」(2018年7月)  デロイトトーマツ(DTC)が2018年に上場 企業のアンケート調査(回数数303社)を行っ た。主な調査内容は、(a)社内外コミュニケー ションや不正の実態、(b)不正への取り組み という2つの側面である。大手企業での不正 事案続出が調査対象企業の経営に与える影響 は強いと約40%が認識している。また、不正 事案が発覚した場合に経営や業種に影響する リスクという認識に変化している(デロイト トーマツ2018, 10頁)。調査結果については、 次のように分析することができる。 (1)社内外コミュニケーションや不正の実態 (a)社内外コミュニケーション  <表1>のように、法務・コンプライアン ス部門や内部監査部門、経営者が不正リスク 対策を主管し、情報交換や具体的案件ベース で相談を実施している。  内部監査や法務・コンプライアンス部門の 理解や協力は十分であるが、営業・サービス、 製造、研究開発部門への浸透が課題である。 特に、内部監査部門、法務・コンプライアン ス部門、経営者が高く、営業・サービス、製 造、研究開発の各部門で低い。また、不正防 止に関係する企業風土の面においては、不正 につながる問題の指摘を奨励することが不十 分であり、対外的な情報発信も十分とはいえ ない(同上, 12-13頁)。 (b)不正の実態  <表2>のように、「過去3年間で不正事例 あり」は46.5%であり、大企業、東証1部、 製造業と流通業では55~60%台と高い。不正 事例は親会社での半数弱を占めるが、国内関 係会社も36%台と少ない(同上, 14頁)。また、 不正タイプで発生が多いのは横領、会計不正、 情報漏洩、データ偽装の順である。是正措置 は懲戒、予防、発見措置が多い。不正事実を 公表した企業は41.8%であり、その中では「発 覚直後または一部が明らかになった時点」で の公表が23.4%で最多である。  是正措置・再発防止策は、「懲戒処分」、「業 務・ルールの変更・周知」や「事業・取引モ <表1> 社内外コミュニケーション 不正リスク対策を主管する部門 ・法務及びコンプライアンス部門(74.6%) ・内部監査部門(66%)  ・経営者(62.4%) 不正リスクが経営に与える影響 や対策実行の重要性 ・内部監査部門(71.6%)・法務及びコンプライアンス部門(67%)  ・経営者(61.7%) 不正防止に関係する企業風土 ・企業理念と行動指針を明文化している(69.3%) ・不正は処罰されることが周知されている(38.9%) ・経営者や管理職は、自らの発言や行動を通じて不正の防止に取り組ん でいる(31%) (出所)デロイトトーマツ(2018)、11-13 頁。

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トは平均8.26億円であり、電気機器・情報通 信業と高い反面、東証1部以外では0.88億円 と低いのが目立つ(同上, 23頁)。 (b)不正リスクへの対応と取り組み  <表4>のように、不正を発見・発覚させ るべきルートとして内部通報と内部監査はと もに9割台である。不正を発見・発覚させる べきルートとして、外部監査(16.8%)によ る発見率が低いのは、ビジネスそのものの知 識の格差による情報の非対称性、監査人の責 任範囲区分の曖昧さ、監査法人としての経営 倫理の問題などがあげられる(同上, 24頁)。  また、不正調査の主な実施手続きは「イン タビュー」や「メールレビューと関連証憑の 閲覧」で、いずれも内部調査が主流である。 実施する可能性のある是正措置として、「業 ニタリング強化」など発見措置をあげている 企業が多い。是正措置・再発防止策の実施率 が高い属性は、「大企業」、「不正事例の多い企 業」、「東証1部」である。具体的には、従業 員数1,000人以上の大規模企業、不正リスク 対策が進んでいる高スコア企業、そして過去 3年間の不正事例が多い企業である(同上, 17-18頁)。 (2)不正への取り組み (a)マネジメントと不正防止  <表3>のように、経営者が対峙すべき不 正は、会計不正と情報漏洩と認識されており、 自社での発生有無(横領が多い)とは異なる。 不正の防止に投じるべきコストは平均0.99億 円であり、「東証1部」、「製造業」、「大企業」で 相対的に高額である。不正の発生に伴うコス <表2> 不正の実態 <表3> マネジメントと不正防止 不正タイプ ・横領(66.7%)  ・会計不正(31.2%)  ・情報漏洩(23.4%) ・データ偽装(17%) 不正のよる損失規模 ・不適切な会計処理の実行金(3.81 億円) ・不正発覚に伴う追加費用・損害(3.31 億円) ・会社資産の横領 / 汚職などによる資産流出額(1.18 億円) 不正事実の公表 ・発覚直後または一部が明らかになった時点(23.4%) ・新たな事実の判明または調査終了後(15.6%) ・改善策や処分など、対応の確定後(11.3%) 不正の是正措置 ・再発防止策 ・懲戒処分(53.1%)  ・業務・ルールの変更・周知」(50・8%)・発生した不正を事例とした研修の実施(38.3%) (出所)デロイトトーマツ(2018)、15-18 頁。 経営者が対峙すべき不正 ・会計不正(架空売上、費用隠蔽等)(80.2%) ・情報漏洩(69.6%)  ・データ偽装(59.7%) 不正対策の最重点部門 ・財務・経理部門(62.7%)  ・営業・サービス部門(45.9%) 不正の防止に投じるべきコスト ・東証 1 部上場企業(平均 1.44 億円)  ・製造業(平均 1.36 億円) ・大規模企業(平均 2.53 億円) 不正の発生に伴うコスト ・東証 1 部上場企業(12.34 億円) ・電気機器・情報通信業(18.72 億円) ・従業員 1,000 人以上の大規模企業(17.08 億円) (出所)デロイトトーマツ(2018)、20-23 頁。

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務・ルールの変更・周知」と「懲戒処分」が ともに約8割に達する。不正の公表には顧問 弁護士の助言の影響が大きい。懲戒時は処分 内容と事案概要を社内に開示する。不正発覚 した場合にはブランド・信用の毀損を懸念す る。不正把握1カ月以内に90%が取締役会を 招集する(同上, 25頁)。  内部通報制度の設置や不正防止ポリシー設 定の実施率は高いが、不正リスクを念頭にお いた人事、リスク評価、意識調査は不十分で ある。不正リスク対策の制度・施策が遅れて いる企業ほど、不正防止に関係する企業風土 も十分ではない。処罰の周知、経営者や管理 職の発言・行動、不正につながる問題指摘の 奨励は、制度・施策の実施状況と関連がある (同上, 29頁)。  内部通報制度の年間通報件数は平均15.6回 である。件数としては、5件以下が過半数で、 「21件以上」が16.2%であり、ハラスメント 関連(6.58件)がやや多い。一方、内部通報 制度が「不正リスクや被害拡大防止に対して、 十分に機能しているとは必ずしもいえない (同上, 30頁)。内部監査は不正の抑制・早期 発見のために、手口に対応した手続きの考案、 データ分析による兆候把握が課題となる。 従って、内部通報制度の今後の3大課題とし ては、(a)制度の周知、(b)多言語対応、(c) 通報しやすい風土への改善と言える(同上, <表4> 不正リスクへの対応と取り組み 不正を発見・発覚させるべきルー ト ・内部通報(94.1%)  ・内部監査(92.7%)  ・監査役監査(65.7%)・業務プロセスにおける統制活動(63%) ・外部監査(16.8%) 不正調査の実施範囲 ・全グループ(関係会社を含む)(48.5%) ・関連部門あるいは共通の不正リスクのある部門(42.2%) 調査手続きと是正措置 ・インタビュー(内部調査)(89.8%) ・メールレビューと関連証憑の閲覧(内部調査)(64.4%) ・ホットラインの設置(47.9%) 公表と懲戒処分の開示 ・業務・ルールの変更または周知(80.9%)  ・懲戒処分(78.9%) ・事業または取引のモニタリング強化(72.3%) ・発生した不正を事例とした研修の実施(71.9%) 不正発生時に公表の可否に影響 を与える事項 ・顧問弁護士の助言(70.3%)  ・取締役会での討議・検討(65%)・CEO 相当職や代表取締役の判断(62.4%) ・取締役会の決議(56.8%)  ・経営会議メンバーの判断(54.5%) 不正発覚・把握後の対応 (レビュテーションリスク) ・ブランドや信用の毀損(53.5%)  ・本業の悪化(33.3%) ・株価の下落(9.2%)  ・経営者の離反(2%) (社内に情報を開示するタイミング) ・直後(29%)  ・1カ月以内(44.9%) ・「1~3カ月以内」(22.4%) 不正リスクへの対応 ・内部通報制度の設置(97.4%) ・不正を防止するポリシーの制定(93.7%) ・不正の早期発見を目的とした内部監査の実施(87.5%) ・内部統制報告制度(J-SOX)の活用(82.8%) ・従業員対する不正防止の研修(80.9%) 内部通報制度における今後の課 題 ・内部通報制度が十分に周知されていない(30.7%)・多言語対応できていない(29.7%) ・通報しにくい会社風土である(25.1%) (出所)デロイトトーマツ(2018)、24-31 頁。

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(d)業務監査、システム監査を第三者の眼 で強制的に実施する。 (3)正当化の要素を排除  「正当化」の要素の場合、内部通報制度の 設立と従業員側に立った柔軟な運用が重要で ある。著しい改善を期待できるのが「メンタ ルケア」である。信頼関係さえ崩壊していな ければ、上司であってもメンタルケアを実施 できるが、通常は既に信頼関係が崩壊してい る場合が圧倒的に多い。なるべく第三者を関 与させることが好ましい。 2.企業不正の防止策 (1)決算・財務報告プロセスにおけるチェッ ク体制の強化  会計不正を事前に防ぐ手段として、決済時 の統制手続きの徹底があげられる。決済や財 務報告プロセスにおける承認プロセスを有効 に機能させるためには、マニュアルの更新や 業務手順書のアップデートを行なうことがあ げられる。業務プロセスにおける単純なミス だけではなく、不正な会計処理を発見できる 可能性も高まる(https://www.all-senmonka. jp/moneyizm/480)。  また、子会社における会計不正問題が後を 絶たず、中には企業価値に大きなダメージを 与えるような事例も報告されている。事業部・ 子会社の 経理部門が日々の業務に対する不 正の防止・牽制する直接の役割を担うと共に、 親会社が企業グループ全体の経理部門を指 揮・モニタリングするための一連の仕組みと して「経理ガバナンス」の構築が必要である。 経理ガバナンスの3つの要素は次の通りであ る。すなわち、(a)経理ガバナンス方針の決 定:国や地域、文化や人員を踏まえた指揮命 31頁)。 Ⅳ 企業不正の防止策 1.不正のトライアングルを破る方法  不正行為は、不正のトライアングルの3要 素がすべて重なった時に生ずる。これらの要 素の中で1つでも欠落すれば、不正行為は発 生しないと考えられる。次のように不正の3 要素を消去することによって、不正を防止す ることができる  (https://www.itmedia.co.jp/enterprise/ articles/)。 (1)動機・プレッシャーの消去  周囲にいかに素晴らしい環境を創造しても、 個人では、内部不正の動機・プレッシャーで は外的要因がその多くを占めている。企業と しては、動機の要素を排除するのが最も難し い。メンタルな部分できめ細やかな対応を行 うことができれば、間接的な効果を期待でき る。 (2)機会の認識の消去  「機会」の要素はセキュリティ関連の作業 と密着した事象なので、着手しやすい要素で ある。前述の例を基に対策を挙げると、次の ようになる。 (a)業務フローを改善し、物理的に複数人で チェックするようにして、そのチェックが なければペナルティを科す。 (b)現金を受け取る、現金を支払う時の運用 ルールを確実に決め、複数人によるチェッ クを受けられる体制を敷く。 (c)実効を伴う運用ルールとフォローアップ ができる体制にし、現場の状況に合せた柔 軟な対応をできるようにしておく。

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の効果が確立される(https://keiriplus.jp/tips/)。  内部統制システム6)は、上場企業や大会社 だけでなく、中小企業においても、取締役の 責任のもとで構築する必要がある。具体的に は、従業員の職務の分担、職務権限に基づい た承認手続き、内部監査室等による業務担当 者以外の第三者によるチェック7)、監査役に よる監査等がそのプロセスとなる。これらを 機能させることにより、不正の機会をなくし、 予防することができる。また、不正があった としても適時に発見し、拡大を防ぐことがで きる。また、内部統制には、社風、経営者の 姿勢、従業員への倫理的教育等も含まれる (https://www.sowatc.com/2013-8-12)。 (4)不正による損害の理解と不正発見後の 対応策  資産の横領は、会社に損害を与えるのは当 然のことである。一方で、不正な財務報告を 行った場合は、修正申告、更正の請求等の手 続きが必要となり、手間だけでなく、税理士 費用も発生する。また、組織ぐるみであれば、 重加算税が課される可能性もある。そのため、 不正を行うことで会社に与える損害を組織内 で周知しておく必要もある。  特に、不正が発見された後の対応が重要で あり、当事者の処分で終わらせることなく、 不正の原因を追究し、再発防止策と講じるこ とが求められる8)。また、企業において、組 織メンバーが自然に自己開示できる状態であ ると、人は自分の欠点、弱点を隠す必要がな くなる。組織のリスク対策のためには、まず は、コミュニケーションの基盤が必要である。 実質的な意思疎通ができる会議、ミーティン グの場などが必要である(https://www.sowatc. com/2013-8-12/)。 令方針の決定(b)経理レポーティングライ ンの確立:子会社経営層から独立した指揮命 令系統の確立(c)具体的な各種施策の導入: 不正の抑止・牽制を含む内部統制の構築に向 けた施策の導入などである。これらの取組に より、子会社経理部門が事業部門に対して独 立した立場から経理業務を通してモニタリン グを行い、問題発見時に迅速に直接本社へ報 告することが可能となる(https://www.protiviti. com/JP-jp/insights/)。 (2)業務量、業務内容の見直し  不正の背景には過度な「売上至上主義」が ある。社員の意識改革を徹底するためには業 績評価基準を見直す必要がある。一人に業務 が偏っている状況では、業務を完了させるこ とに追われ、軽微な不正を正当化する可能性 がある。また、業務内容に不満がある場合に は、それが不正の動機にもなる。業務量、業 務内容に応じて、人員配置を適切に行う必要 がある。  また、ルールが整備されていない場合、自 分の都合の良い方法で処理してしまう。それ が会計上の不正であったとしても、気づかな い。従って、ルールを整備し、会計処理とし て何が正しいかを明確にする必要がある。ま た、ルールを逸脱した場合の罰則の整備も不 正の防止には有用になる(https://www.sowatc. com/2013-8-12)。 (3)内部統制システムの強化  不適切な会計処理を防ぐためには、不適切 な会計処理を看過できないような企業側の土 壌作りや、内部統制を強化することが必要で ある。内部統制の運用においては、職務分掌 や業務効率性を高めることによって不正防止

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月から2019年3月の5年間に会計不正を公表した 上場会社等146社のうち、会計不正が多い業種と しては建設業20社(165社)、サービス業19社(455 社)、卸売業18社(321社)順である。また、不正 の主体的関与者は「役員」と「非管理職」がとなっ ている。例えば、直近の2019年3月期では「役員」 16社、「管理職」7社、「非管理職」9社となってい る(日本公認会計士協会2019)。 2)KPMGジャパンは、KPMGインターナショナル の日本におけるメンバーファームの総称であり、 監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわた る8つのプロフェッショナルファームに、約8,600 名の人員を擁している。 3)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 (DTC)は、世界最大規模の会計事務所であるデ ロイト・トウシュ・トーマツ(デロイト)の主要 メンバー企業であり、世界150ヶ国、25万人以上 のエキスパートが連携し、経営戦略、M&AやIT アドバイサリーなど多岐にわたる専門サービスを 提供する世界最大級のグローバル経営コンサル ティング会社の一つである。 4)会計不正の類型は、①売上の前倒し・架空計上、 ②費用の先送り・不計上、③資産の評価替え・架 空計上、④負債の評価替え・不計上などである。 これらは、(a)会計記録や関連書類の偽造・変造・ 改ざん、(b)財務諸表における虚偽記載や除外、 (c)会計基準の不適切な適用などによって行われ る。 5)レピュテーション(reputation)とは、企業の ステークホルダーの中に形成される認知のことで ある。人々が購買や就職などの活動を行う際に非 常に大きな意味を持つ。 6)取締役会のある企業では、内部統制システムの 構築は取締役会の専決事項とされる。また決議の 概要や運用状況も、事業報告に記載することが義 務付けられている。さらに内部統制システムの整 備や運用は監査の対象となる。監査報告では、取 締役会の決議内容が不相応である場合、その旨と 理由を記載することが求められる。 7)不正対策として内部監査が必要とされる理由は 次の通りである。(a)外部監査人の権限:会計監  あらゆる不正には、不正リスク要因が存在 している。そのため、不正リスク要因を考慮 したうえで、対応策を検討することが必要で ある。結果的に、企業の側としては不正の機 会をいかに低減するかという点に不正対策を 絞るほかないと考えられる。 Ⅴ おわりに  企業における不正の行為は特別な人だけで なく、多くの従業員が不正に手を染めてしま うリスクに晒されている。企業が現場で働く 従業員の人事管理や意識調査を強化すること は、不祥事予防につながる取り組みであるが、 現状はそれらの取り組みの実施割合が低い点 が課題である。会社の規模や業種、取引形態 に応じて、不正リスクがどこにあるかを分析 し、費用対効果を勘案したうえで、不正対応 策を講じることが求められる。  また、監査人は監査実施の過程において、 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況 を識別した場合には、不正による重要な虚偽 の表示の疑義が存在していないかどうかを判 断するために、 経営者に質問し説明を求める とともに、追加的な監査手続を実施しなけれ ばならない。  企業不正をなくすには、まず、企業風土を 倫理性の高いものに改善すること、コミュニ ケーションを改善することにより、健全な企 業文化を定着させることが求められる。また、 企業のすべての実務操作が合法的で透明であ れば、不正行為者に付け込まれる余地はなく なると考えられる。 1)日本公認会計士協会の調査によれば、2014年4

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業上の不正と濫用に関する国民への報告書(日 本語訳)』 ・金融庁 企業会計審議会(2013)「監査基準の改訂 及び監査における不正リスク対応基準の設定に 関する意見書 ・日本公認会計士協会(2010)経営研究調査会研究 報告第40号「上場会社の不正調査に関する公表 事例 の分析」 ・日本公認会計士協会(2015)『不正調査ガイドラ イン』日本公認会計士協会出版局 ・日本公認会計士協会(2015)監査基準委員会報告 書240『財務諸表監査における不正』 ・日本公認会計士協会(2019)『上場会社等におけ る会計不正の動向(2019年版)の公表について』 (https://jicpa.or.jp/specialize) ・KPMG(2019)「日本企業の不正に関する実態調 査」(https://home.kpmg/jp) ・デロイトトーマツ(2018)「企業の不正リスク調 査白書 2018-2020」、有限責任監査法人トーマ ツ ・https://www.aimc.co.jp ・https://www.all-senmonka.jp ・https://www.bizup.jp ・https://www.itmedia.co.jp ・https://www.protiviti.com ・https://www.pwc.com/jp ・https://sfmagazine.com ・https://www.sowatc.com 査人には反面調査権や強制調査権がない。(b)財 務諸表監査の目的:財務諸表監査は不正の発見や 摘発が目的ではない。(c)財務諸表監査の限界: 財務諸表監査は汚職等による不正には無力である (https://www.aimc.co.jp/blog/p-796/)。 8)不正の調査実施体制は次のように大別すること ができる。(a)社内調査チームのみで調査(社内 における役員、従業員を中心として部門横断的に 調査チームを結成)、(b)第三者委員会が中心とな り調査(主に弁護士、会計士などの専門家を中心 として調査チームを結成)、(c)社内調査チーム、 第三者委員会の併存による調査(主に社内調査 チームが実施した調査アプローチ及び手続に関し て第三者委員会が、その内容を検証するという形 式で行われる)(高岡俊文2011, 39頁)。 参考文献 ・宇澤亜弓(2012)『不正会計 早期発見の視点と 実務対応』清文社 ・宇澤亜弓(2013)『財務諸表監査における不正対 応』清文社 ・金丸正二ほか(2019)「企業品質不祥事の実例の 深掘りと未然防止策」(2019年ガバナンス部会 小研究会Bグループ報告書) ・米澤 勝(2014)『企業はなぜ、会計不正に手を染 めるのか』清文社 ・宋 明子(2018)「昨今の経済環境等の変化に対応 した不適正会計の早期発見に関する調査研究」 (金融庁金融研究センター ディスカッション ペーパー DP2017-6) ・高岡俊文(2011)「海外拠点に対する不正防止体 制の考察」KPMG International cooperative (https:// home.kpmg) ・高林真一郎(2013)『企業不正の理論と対応』同 文館出版 ・平野剛(2019)「最近の不正会計事例と不祥事予 防」(https://www.jpx.co.jp) ・CIAフォラーム研究会報告「不正の防止策と発見 手法の探求」『月刊監査研究』2016.8(No.513) ・一般社団法人日本公認不正検査士協会(2014)『職

参照

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