小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 小学校道徳の時間の授業改善を図り 「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究 杉浦 勉・笠井 稔雄* 北海道旭川市立神楽岡小学校 *. 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻学校経営研究室. Teaching Practices of Special Subject Execution on Morality for the Early Elementary School Classroom SUGIURA Tsutomu and KASAI Toshio* Kaguraoka Elementary School, Asahikawa *. Graduate School of Education, Hokkaido University of Education. 概 要 「特別の教科である道徳(道徳科) 」への改正を意識した道徳の時間における授業改善を研 究した。授業改善の視点は,「自己を見つめ,実践への意欲を高める道徳教育と道徳の時間の 指導内容の吟味」と「『私たちの道徳』の活用を図り,自己を見つめ,実践への意欲を高める 指導の工夫」の2点である。結果は,以下の通りである。 ・「学習構造図」と「構想図」の作成は,指導内容の明確化や,日常生活と道徳の時間をつな ぐ授業構築,「私たちの道徳」の活用場面の設定に有効であった。 ・「私たちの道徳」を,導入段階と展開段階で活用することで,道徳的価値について自ら考え, 行動しようとする意欲を高めることができた。 ・展開段階において,価値理解のみを迫る発問構成を,人間理解,他者理解も含めた道徳的諸 価値の理解を基本とした発問構成へと改善を図る必要がある。. 1.研究の目的. 2 では,道徳の時間が「特 善等について」(2014). 別の教科 道徳」 (仮称)として位置付けられた。. 教育再生実行会議による「いじめの問題等への. これらを踏まえ,「道徳の時間」を「特別の教科 . 1 では,道徳 対応について」 (第一次提言)(2013). 道徳」(以下「道徳科」)に改める『学習指導要領. 教育の充実を図るために,道徳性を踏まえた新た. 3 が平成27年3月27日に告示された。 の一部改正』. な枠組みによる道徳の教科化が提言された。中央. 平成27年4月1日から平成30年3月31日までの移. 教育審議会による答申「道徳に係る教育課程の改. 行措置期間は,学習指導要領解説や評価の在り方. 653.
(3) 杉浦 勉・笠井 稔雄. 等をまとめた通知,教師用指導資料等の情報収集. 年4月から使用開始されている「私たちの道徳」6. を徹底することと,学習指導要領改正実施に向け. の活用方法についても,各学校現場で実践を積み. て積極的に取り組むことが望まれている。実施の. 重ねている段階であり,運用面において課題が. 際の留意点は,各教科等との関連を十分図り,学. 残っていると言える。. 校の教育活動全体を通じて適切な指導計画を作成. 以上,移行措置期間として,一部改正学習指導. し指導するなど,改正後の学習指導要領の趣旨が. 要領の趣旨を踏まえた取組が可能であることを考. 実現されるよう努めることとある。. 慮し,現行学習指導要領の道徳の時間における実. 現行学習指導要領における道徳教育の課題につ. 践上の課題と,「私たちの道徳」の活用方法とし. いて,教育再生実行会議による「いじめの問題等. ての課題である2点の課題解決を目指すことで,. 4. への対応について」(第一次提言)(2013)では,. 道徳科を意識した実践研究を進めることができる. 主に以下の5点が指摘されている。. と考えた。. ・学校間や教師間の差が大きい。. そこで,本研究では,「道徳科」への改正を意. ・各教科等との役割分担や関連を意識した指導. 識した道徳の時間における指導内容の改善を図る. が不十分。. ことで,道徳的実践力を育成する指導方法の視点. ・指導方法に不安を抱える教師が多い。. を提案することを目的とする。具体的には,まず,. ・学年が上がるにつれて,児童生徒の受け止め. 道徳教育における全体計画において,年度の重点. がよくない。. 目標を基に指導内容の重点化を図るために,「学. ・振り返らせたり,具体的にどう行動すればよ いかという側面に関する指導が不十分。 . 習構造図」や「構想図」を作成する工夫を行った。 次に,道徳の時間での展開後半段階である「道徳. 道徳の時間を要とした道徳教育の展開が充実し. 的価値の主体的自覚」場面において,事前の活動. ている学校がある一方,それが不十分な学校もあ. として他教科との関連を図り,自分を振り返るこ. るという実態が分かる。. とができる活動を設定することで,感じ取った道. また,中央教育審議会による答申「道徳に係る 5. 徳的価値に照らして自己を見つめ,自ら課題や価. 教育課程の改善等について」 (2014)では,道徳. 値を見いだした各教育活動や日常生活で取り組も. の時間における課題について,以下の3点が指摘. うとする意欲を高めることができる実践を目指し. されている。. た。. ・道徳の時間は,各教科等に比べて軽視されが ちである。 ・読み物の登場人物の心情理解のみに偏った形 式的な指導が行われている例がある。. 2.研究の方法 ⑴ 研究対象と実施時期. ・発達の段階などを十分に踏まえず,児童生徒. 研究対象者はH小学校1年2組36名である。授. に望ましいと思われる分かりきったことを言. 業は,H小学校教育研究大会で平成27年6月に実. わせたり書かせたりする授業になっている例. 施した。. がある。 道徳の時間における指導方法として,登場人物. ⑵ 研究分析の視点. の心情理解のみに偏った形式的な指導や一定の価. 以下の2点の視点から授業や児童の様子につい. 値の押しつけが課題である上に,そもそも道徳の. て分析する。. 時間が他の教科などに振り替えられているという. ・自己を見つめ,実践への意欲を高める道徳教. 実態がある。 さらに, 「心のノート」を全面改訂し,平成26. 654. 育と道徳の時間の指導内容の吟味 ・ 「私たちの道徳」の活用を図り,自己を見つめ,.
(4) 小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究. 実践への意欲を高める指導の工夫. 勝手といえる自己中心的な児童の考え方をもつ児 童に,様々な人との触れ合いを通して,相手の立. ⑶ 主題名・内容項目・教材・授業の目標. 場に立って優しく接し,親切にすることが大切で. ・主題名「やさしい心で」. あるという利他の考え方に気付かせていきたいと. ・指導内容項目「親切,思いやり B-⑹」. 考える。. 身近にいる人に温かい心で接し,親切にす. 本教材は,「はしの上のおおかみ」(わたしたち. ること。. の道徳)である。長くて細い一本橋を通ろうとし 7. ・教材名「はしの上のおおかみ」. た小さな動物たちを追い返すという意地悪を繰り. ・授業の目標. 返していたおおかみが,自分に優しく接してくれ. 身近にいる人々に温かい心で接し,親切に. たくまとの出会いから,これまで意地悪をした動. しようとする心情や態度を育てる。. 物に優しく接するようになるという話である。意 地悪がつい面白くなった時のおおかみの思いと,. ⑷ 主題設定の理由. 優しいくまに接した時のおおかみの気持ちを比較. 幸福な家庭や社会の基盤となるのは,互いの思. させることで,相手の立場に立つことについて考. いやりや自然な愛情であり,幼少期から相手の立. えさせていきたいと考える。また,親切な行いを. 場を考え, 思いやる心を育てることが大切である。. することの喜びを感じ取らせることで,温かい心. 社会性が十分に育っていないと言える第1学年と. で接することについての考えを深めさせていきた. いう発達の段階には,身近にいる人々との関わり. いと考える。. を通して,相手を思いやる心や態度を育てたいと 考える。. ⑹ 学習指導過程 学習指導過程を以下のように設定した。. ⑸ 指導観(価値観・児童観・教材観). . 本主題は,学習指導要領道徳編の第1学年及び 第2学年における内容項目「B 主として他の人と の関わりに関すること」の⑹「身近にいる人に温 かい心で接し,大切にすること。」に関わるもの である。よい人間関係を築くには,相手に対する. 表1 学習指導過程 導入段階. 「道徳的価値の方向付け」段階. 展開段階. 「道徳的価値の追求・把握」段階 「道徳的価値の主体的自覚」段階. 終末段階. 「実践への意欲化」段階. 思いやりが大切だと考える。思いやりとは,相手. . の立場を推し量り,自分の思いを相手に向けるこ. 展開段階の前半を「道徳的価値の追求・把握」. とである。つまり,温かく見守り接することや,. に,後半を「道徳的価値の主体的自覚」に分ける。. 相手の立場に立った励ましや援助などを含む親切 な行為だと言える。. ⑺ 本時の展開. 本学級では,困っている友達に手を差し伸べた. 本時の展開を図1に示す。. り,声を掛けたりするなど気持ちの優しい児童が 多く見られる。また,言われたことや与えられた 仕事に意欲的に取り組む児童も多くいる。その反 面,周囲の雰囲気に影響されると,自分勝手な行 動をしてしまう児童もいる。また,言葉遣いや礼. 3.結果と考察 ⑴ 自己を見つめ,実践への意欲を高める道徳教 育と道徳の時間の指導内容の吟味. 儀に関しても,課題の残るところがある。このよ. ① 結 果. うな学級の実態や事前調査の結果を考慮し,自分. 道徳科に向けた移行措置期間は,一部改正学習. 655.
(5) 杉浦 勉・笠井 稔雄. 指導要領の趣旨を踏まえた取組が可能であり,実. 学校の教育活動全体を通じて適切な指導計画を作. 施の際の留意点は,各教科等との関連を十分図り,. 成し指導するなど,改正後の学習指導要領の趣旨. 図1 本時の展開. 656.
(6) 小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究. が実現されるよう努めることである。. を基に,「第1学年における道徳教育全体計画別. そこで,H小学校教育課程にある道徳教育の理. 葉」を作成し,各教科等との関連を整理した。次. 論を基に,道徳科改正へ向けて,道徳の時間の指. に,「1年2組道徳指導計画」を作成し,「学級に. 導内容を吟味した。まず,H小学校道徳教育推進. おける道徳教育の基本方針」や「道徳の時間の指. 教師が中心となって作成した「道徳教育全体計画」. 導の方針」,「学級における道徳的実践計画」など. 図2 学習構造図. 657.
(7) 杉浦 勉・笠井 稔雄. 図3 構想図. 658.
(8) 小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究. を明らかにした上で,「学習構造図(図2)」を作. 用」については, 「わ. 成した。. 9 に たしたちの道徳」. また, 道徳の時間の事前,事後の活動において,. あるイラストを活用. 効果的に関連を図ることができる教科等の学習や. し,ハートと「あた. 活動を設定するために,「構想図(図3)」を作成. たかいこころ」を加. した。. え て 提 示 し た( 図. ② 考 察. 4)。提示後に,「温. 本時の「道徳的価値の主体的自覚」段階におい. かい心をみんなに届. て, 「わたしたちの道徳」を活用し,自分を振り. けるとはどのような. 返る活動を行った。その際に見られた児童の反応. ことでしょうか」と. として, 「本当だ」 「書いてある」という発言があっ. 発問した後,児童の話合いを基に学習テーマの設. た。これは,事前の活動として生活科との関連を. 定につなげた。. 図り,H幼稚園の園児との交流後に「わたしたち. 「② 道徳的価値の追求把握段階における活. の道徳」8に記入した内容を児童が振り返った時の. 用」については,4枚の絵を使用し,紙芝居形式. 反応である。. で読み物教材を教師(筆者)が読んだ。さらに,. なお,児童の主な記述内容としては,「優しく. 役割演技の活用を図った(図5)。. 図4 提示したイラスト. してあげた」や「教えてあげた」など,年下の子 を思いやった行動が分かる記述であった。 この反応から,本時学習した「温かい心を届け ると,みんなが嬉しい気持ちになる」という道徳 的価値と,日常生活の自分を比べ,児童自身が体 験したことを基に,学習した道徳的価値の大切さ を実感したものと考察することができる。つまり, 他教科等と道徳の時間をつなぐことができた実践 であるということと, 「学習構造図」による指導 内容の明確化や「構想図」による日常生活と道徳 の時間をつなぐ手立てが有効であったことが言え. 図5 役割演技を行っている様子. ると考えられる。 教師(筆者)がくま役,児童がおおかみ役とな ⑵ 「私たちの道徳」の活用を図り,自己を見つ め,実践への意欲を高める指導の工夫. り,くまがおおかみを抱き上げている様子を実際 に行った。. ① 結 果. これは,くまがおおかみを抱き上げている場面. 本実践において,自己を見つめ,実践への意欲. を示したイラストがないこと(図6)を受けて,. を高めるために取った手立て3点を以下に示す。. 児童がおおかみの気持ちを想起しやすくするとい. 1点目に, 「私たちの道徳」の活用である。活. う意図があった。. 用としては,道徳的価値の方向付け段階における. 「③ 道徳的価値の主体的自覚段階における活. 活用,道徳的価値の追求把握段階における活用,. 用」については,「わたしたちの道徳」10にある書. 道徳的価値の主体的自覚段階における活用の3点. き込み欄を活用した。具体的には,事前の活動と. を工夫した。. して,H幼稚園の園児との交流後に,年下の子に. 「① 道徳的価値の方向付け段階における活. どのようなことをしてあげたかを記入させた内容. 659.
(9) 杉浦 勉・笠井 稔雄. できるように工夫し た。学習の目的を意 識して価値を追求 し,主体的に学習に 取り組むことができ ることをねらって, 学習テーマを設定し た。 設 定 し た 学 習 テーマは,「温かい 図6 「わたしたちの道徳」p.72にあるイラスト. 心を届けると,どん な気持ちになるのだ. 図7 児童の記入. (図7)について振り返らせた。. ろう?」である。設. 2点目に,授業を貫く学習テーマ(以下,学習. 定理由は以下の2点である。. テーマ)の設定である。道徳的価値の方向付けと. 1点目に,内容項目は「親切,思いやり」であ. して,本時学習する道徳的価値を意識することが. るため,「思いやり」や「親切」というキーワー. 図8 資料分析・発問構成表. 660.
(10) 小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究. ドを入れて学習を展開することが望ましいと考え. 表2 授業記録「道徳的価値の追求・把握」段階. た。しかし,第1学年という発達の段階を考慮す. T:教師の発言 C:児童の発言 T 「うさぎやきつね,たぬきを追い返して意地 悪をしているおおかみは,どのような気持ち だったでしょう。」 C1 「意地悪をした気持ち。」 C2 「楽しかった。」 C3 「嬉しかった。 」 C4 「本当は嫌だった。」 T 「おおかみは,くまの後ろ姿を見ながらいつ までもどんなことを思っていたでしょう。 」 C5 「だっこしてもらって嬉しかった。 」 C6 「なんかいい気持ち。」 C7 「優しい気持ちを教えてくれてありがとう。 」 C8 「嬉しくてまねしようと思った。」 T 「おおかみは,うさぎを抱き上げて,どっこ いしょと,後ろへそっと,降ろしてやった後 に,どんなことを思ったのでしょう。」 C9 「楽しかった。」 C10 「いい気持ち。」 C11 「さっきうさぎをいじめた時より,いい気持 ち。 」 C12 「嬉しかった。 」 C13 「優しくすることって,いいなあと思った。 」. ると, 「温かい心」をキーワードにし,それをプ レゼントとして自分から相手に届けるという表現 にすることで,児童が追求すべき価値へ向かいや すいと考えた。 2点目に, 「わたしたちの道徳」p.66を活用し, 道徳的価値の主体的自覚段階の際にも「わたした ちの道徳」p.67の活用を図ることで,児童が自分 の行動を振り返りやすいと考えた。 3点目に,資料分析と発問構成の工夫である。 図8にあるように,温かい心で接することにより, 自分も含めてみんなが嬉しい気持ちになることを 捉えることができるような発問を構成し,実践を 行った。 ② 考 察 本時のねらいは, 「身近にいる人々に温かい心 で接し, 親切にしようとする心情や態度を育てる」 ことである。 「身近にいる人々」を,身近にいる. 表3 授業記録「道徳的価値の主体的自覚」段階. 幼い人や高齢者と押さえ,実践を行った。 本時の板書を図9に示す。道徳的価値の主体的 自覚段階においては,自分を振り返る活動として, 写真(図9の左側にある3枚の写真)を提示し, 附属幼稚園との交流場面を想起させた。 本時の展開段階における授業記録を表2(道徳 的価値の追求・把握段階)と表3(道徳的価値の. T:教師の発言 C:児童の発言 T 「今日の学習を振り返って,どんな感想をも ちましたか。」 C14 「みんなに優しくしてあげたい。」 C15 「優しい心で笑顔にしたい。」 C16 「温かい気持ちをみんなに届けたい。」 C17 「年下の子に優しくする。」. 主体的自覚場面)に示す。 授業記録(表2)にある児童の発言の中で,特. 促す発問を行ったことで, 「温かい心を届けると,. に「嬉しかった」という発表を取り上げ,比較を. みんなが嬉しい気持ちになる」という本時の道徳. 図9 本時の板書. 661.
(11) 杉浦 勉・笠井 稔雄. 的価値へ迫ることができた(図9 本時の板書左. 近にいる人々」を身近にいる幼い人や高齢者と押. 側) 。. さたが,本時場面では具体的な対象を明確にせず. 具体的には,意地悪をした時のおおかみが感じ. 授業を展開した。ただし,児童が記述した振り返. た嬉しいという気持ちは,おおかみだけが感じて. り(表4)からは, 「年下の子」や「みんな」, 「友. いた感情であり,くまに優しくしてもらった時に. 達」,「お年寄り」,「家族」を相手意識とした記述. おおかみが感じた嬉しいという気持ちは,優しく. があることが分かった。本時学習した際に,それ. してもらって感じた感情である。さらに,自分も. ぞれの児童が「温かい心」を届けたいと感じた相. くまと同じように優しくしてみたいという心情を. 手やその相手にどんなことをして温かい心を届け. 抱かせたものであり,くまと同じことをやった時. たいと考えたかについて,振り返りで道徳ノート. のおおかみが感じた嬉しいという気持ちは,優し. に記述させた。それを教師が見取ることで,記述. くしてあげて喜ぶ相手の様子を見て,優しくする. 内容を分析し,事後の活動として継続的に児童の. ことで喜ぶ人を見て嬉しく感じた感情である。第. 道徳性に係る成長の様子を把握する視点を設定す. 1学年という発達の段階を考慮し,優しい行いを. ることができると考える。さらに,相手意識を「家. することで,相手も喜び,それを見て自分自身も. 族」や「お年寄り」,「年下の子」などと記述した. さらに嬉しさが増すという道徳的価値に迫る学習. 児童に関しては,家庭との連携を図り,学校の教. を展開した。. 育活動以外での道徳性についても評価することが. 一方,児童C4「本当は嫌だった」という発言. 可能になると考える。なお,道徳性に係る成長の. に注目すると,くまには他者に愛されていないと. 様子を把握した際は,帰りの会で紹介したり,学. いう意識があり,嫌われる行為をすることでしか. 級通信などで知らせたりすることや,授業改善の. 自分を表現することができなかったということ. 視点とするなどの指導に生かす評価とすることが. が,考察することができる。本時では,児童の思. 求められる。. 考の流れを考慮し,この発言を取り上げなかった. 一方で,道徳の時間における課題として挙げら. が,この発言を効果的に取り上げることで,本時. れている「読み物の登場人物の心情理解のみに. の目標「思いやりを育てる」ことにより迫ること. 偏った形式的な指導」への課題解決には至らな. もできたと推測できる。. かったと考える。それは,道徳的価値の追求・把. また,表3の授業記録にあるように,「道徳的. 握段階における3つの発問構成が,どれも価値理. 価値の主体的自覚」段階における児童の発言から. 解を求める内容となってしまったことが要因だと. も,温かい心で接することや,親切にしようとす. 考察することができる。. る心情を育成することに迫ることができたと考察. この課題を解決する具体案としては, 「小学校学. することができる。. 習指導要領解説 特別の教科 道徳編」 (2015). 11 道徳科の評価 について,本時の最後に記述し. に示されている「道徳的価値が人間らしさを表す. た振り返りの内容(表4)を基に考察する。. ものであることに気付き,価値理解と同時に人間. 本実践では, 前述したように,構想段階では「身. 理解や他者理解を深めていくようにする」ことを. 12. 挙げることができる。つまり,道徳的価値の大切 表4 児童の振り返りに関する記述分析 ・年下の子に関する記述 … 13名(36%) ・みんなに関する記述 … 11名(31%) ・友達に関する記述 … 2名( 5%) ・お年寄りに関する記述 … 2名( 5%) ・家族に関する記述 … 2名( 5%) ・その他 … 5名(16%). 662. さは分かっているが,それを実現することがなか なかできない人間の弱さなどを理解する「人間理 解」と,道徳的価値を実現できたり,実現できな かったりする場合の感じ方,考え方は一つではな く,多様であるということを前提として理解する 「他者理解」も,発問構成の視点として取り入れ.
(12) 小学校道徳の時間の授業改善を図り「特別な教科である道徳(道徳科)」を意識した実践研究. ていくことが考えられる。 . れている「読み物の登場人物の心情理解のみに. 本実践の場合では,親切にすることの大切さは. 偏った形式的な指導」への課題解決には至らな. 分かるが,おおかみが意地悪をしたように,なか. かったと考える。価値理解にのみ迫る発問構成を. なか親切にできない場合もあることについて理解. 構想するのではなく,道徳科の目標13にあるよう. する発問「おおかみのように,つい意地悪をして. に,人間理解や他者理解も含めた,「道徳的諸価. しまうことがありますか」なども構成する必要が. 値についての理解」を基本とした授業改善が求め. あると考えられる。. られる。. ただし, 以上のような人間理解を図るためには,. また,評価に関しては,道徳教育に係る評価等. 前提条件が必要不可欠である。その前提条件とは,. の在り方に関する専門家会議において,「『特別の. 学級に支持的風土が醸成されていることや自分の. 教科 道徳』の指導方法・評価等について」 (2016). 考えを素直に表出し合えるよりよい人間関係が築. が報告14された上に,「学習指導要領の一部改正. かれていることである。. に伴う小学校,中学校及び特別支援学校小学部・ 中学部における児童生徒の学習評価及び指導要録. 4.まとめ. の改善等について」も通知15された。 道徳の教科化に向けた取組やそれに伴った課題. 本研究では, 「特別の教科である道徳(道徳科)」. も今後ますます増えることが推測される。 「考え,. への改正を意識した道徳の時間における指導内容. 議論する道徳」を展開するためには,答えが1つ. の改善を図る指導方法について, 「自己を見つめ,. ではない道徳的な問題を自分事として捉えるため. 実践への意欲を高める道徳教育と道徳の時間の指. の工夫が必要である。今後の展望としては,答え. 導内容の吟味」 と「『私たちの道徳』の活用を図り,. が1つではない道徳的な問題を自分事として捉え. 自己を見つめ, 実践への意欲を高める指導の工夫」. させるための工夫について研究を深め,実践を通. の2点から論じた。その成果を以下に示す。. して検証していきたいと考える。. ・年度の重点を押さえ, 「学習構造図」や「構想図」 を作成することで,指導内容の明確化を図るこ. 引用文献. とや,日常生活と道徳の時間をつなぐ授業構築 を行うこと, 「私たちの道徳」の活用場面の設 定に有効であった。 ・道徳的価値の主体的自覚の場面において,自分. 1 教育再生実行会議(2013) 「いじめの問題等への対応 について」 (第一次提言)p.2 2 中央教育審議会(2014) 「道徳に係る教育課程の改善 等について」 (答申)p.4. を振り返ることができるように生活科や特別活. 3 文部科学省(2015) 「小学校学習指導要領 一部改正」. 動での学習の様子を想起させる活動を設定する. 4 教育再生実行会議(2013) 「いじめの問題等への対応. ことで,感じ取った道徳的価値に照らして,自 己を見つめ,自ら課題や価値を見いだした各教. について」 (第一次提言)p.2 5 中央教育審議会(2014) 「道徳に係る教育課程の改善 等について」 (答申)p.4 p.11. 育活動や日常生活で取り組もうとする意欲を高. 6 文部科学省(2015) 「私たちの道徳」. めることに有効であった。. ※本稿では, 小学校1・ 2年のみ 「わたしたちの道徳」. ・ 「わたしたちの道徳」を,3つの場面(道徳的価 値の方向付け段階, 道徳的価値の追求把握段階, 道徳的価値の主体的自覚段階)で活用すること. と表記し, それ以外を「私たちの道徳」と表記する。 7 文部科学省(2015) 「わたしたちの道徳 小学校1・ 2年」pp.70-73 8 文部科学省(2015)前掲書 p.67. で,道徳的価値について自ら考え,行動しよう. 9 文部科学省(2015)前掲書 p.66. とする意欲の向上を図ることに有効であった。. 10 文部科学省(2015)前掲書 p.67. 一方で,道徳の時間における課題として挙げら. 11 道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議. 663.
(13) 杉浦 勉・笠井 稔雄. (2016)前掲書pp.7-13 12 文部科学省(2015)「小学校学習指導要領解説 特別 の教科 道徳編」p.17 13 文部科学省(2015)前掲書p.15 14 道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議 (2016)前掲書pp.7-18 15 文部科学省(2016)「学習指導要領の一部改正に伴う 小学校,中学校及び特別支援学校小学部・中学部にお ける児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等につい て」(通知). (杉浦 勉 神楽岡小学校) (笠井 稔雄 旭川校教授) . 664.
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