高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性 -米沢ビジネスネットワークオフィスの活動を中心として-
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第60巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.60,No.2. 平成22年2 月 February,2010. 高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性 一米沢ビジネスネッ. トワークオフィスの活動を中心として−. 藤 井 廣 美 北海道教育大学函館枚家族福祉研究室. PracticalUseandFeasibilityofInformationApplicationas aSupportFunctioninFamilyRelationsfortheAdvanced−agePeriod. −FocuslngOntheActivitiesoftheYonezawaBusinessNetworkOfnce− FUJII Hiromi DepartmentofFamilyWelfare,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducatioIl. 概 要 本稿では,高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性について,山形県米沢市を中 心に先端的活動をしている米沢ビジネスネットワークオフィス(米沢BNO)の活動を中心に研究・分析する。 また,情報環境に関する調査データ分析をとおして,高齢者がおかれている情報環境の実態を把握し,現状 と課題を考察した。分析の結果,高齢者の情報環境は子世代よりも整っておらず,情報格差がみられる。ま た,米沢ビジネスネットワークオフィスの活動分析では,情報機器を活用した様々な取り組みが見られる。 特に,地域インフラである高速大容量のケーブルテレビ網等を活用して,健康増進や介護予防にかかわるサー. ビス(情報)を一元的に碇供する「ウェルネスサポートセンター」を設立しているが,これらの活動は,他 の地域活動においても大いに参考となりうる。. 1.研究の目的 少子高齢社会の真っ只中にある現代日本において,高齢期家族関係は,多くの問題を抱えている。特に, 老親扶養の問題は深刻である。核家族化,少子化,産業構造の変化の中で,遠方で別居している老親の生活 サポートは従来型の家族機能の遂行を困難にしている。高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の 活用は必要不可欠である。. 高齢者の看護や介護は,家族内の私的な問題ではなく,社会全体で対応していく社会的課題であり,地域 社会全体でサポートしていく必要がある。地域福祉の視点から地域社会で情報機器を活用することによって,. いかに高齢者をサポートしながら,いかに地域を活性化していくかの取り組みを進めている先端地域におけ. 41.
(3) 藤 井 廣 美. る実態調査結果から,高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性について,今日的現 状と課題を研究・分析する。特に,山形県米沢市を中心に先端的活動をしている米沢ビジネスネットワーク オフィスの活動を中心に考察する。. 2.米沢ビジネスネットワークオフィス(米沢BNO) 米沢ビジネスネッ. トワークオフィス(米沢BNO)は,平成13年に高齢社会における地域活性化を図るため,. 地元民間企業を中心に設立し,地域コミュニティービジネスの創出に取り組んでいる。米沢BNOは活動の 一環として,住民の関心の高い医療・福祉サービスのあり方について,米沢市医師会・歯科医師会などの医 療関係者と福祉関係者を含むメンバーによる地域コンソーシアムにより「医療福祉ネッ1、ワーク」を立ち上 げ,「病院・診療所の情報発信」「予約システムの導入検討」「医療・介護・福祉のワンストップサービスセ ンターの設置」「運営方策の検討」など4つのテーマを設け,それぞれのプロジェクトチームを結成して, 具現化に向け活動している。. また,米沢市では市民へのライフサポートを情報化により推進すべく平成元年よりケーブルテレビによる 地域情報化に取り組み,全国でも数少ない成功事例のひとつになっている。米沢市では少子高齢化を地域課 題として,ケーブルテレビによる情報インフラ網を活用することにより,地方都市における「健康サービス 産業」のモデルとして,先導的な事業展開をすすめている。事業の実施体制は,図1のとおりである。. 米沢ビジネスネットワークオフィス. 「健康サービス産業 モ ̄ル都市構想 検討委員会の設置. 協働 介米 些Ⅰ. 山. 社 拳. 調査委託研究機関 (株)荘銀総合研究所. 米沢市役所「健康サービス産業」創造プロジェクト(仮称). 図1.事業の実施体制岡. 事業の目的としては,住民や医師会・介護事業所・企業・行政などの主体的なコンソーシアムによって, 自発的に「保健・医療・福祉の連携」の機運が醸成され,「健康づくり」メニューを一元的に集約し,それ らのサービスをワンストップで碇供するためのプラットホームを地域に整備することにより,社会コストの 低減に大きく寄与することにある。そのことにより,住民の活力や安心につながるとともに,各業隙間の連 携が一層促進されることが期待される。「保健・医療・福祉の連携」の必要性は従来から認識されているが, それらは『地域保健医療計画』などにより主に行政主導で推進されており,必ずしも一般利用者や各種事業 所などの具体的な行動までには結びついていないことが多い。. また,TTとFacetoFaceの相互複合的な活用により,心を砕いた気遣いや安心・安全などを提供価値と する新しいジャンルの産業(ケアコミュニケーションサービス)を創出し,行政サービスの一部を,センター. がアウトソーサーとして業務受託することによって,センターにおける就業の場の創出と,安定的な事業の 継続を図ることが可能となる。これらの目的達成のために,地域インフラである高速大容量のケーブルテレ ビ網等を活用して,健康増進や介護予防にかかわるサービス(情報)を一元的に提供するセンターとして,. 42.
(4) 高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性. 米沢BNOが中心となり「ウェルネスサポートセンター」を設立している。 「健康サービス産業モデル都市構想」実現に向けて,米沢BNOの会員企業による事業フォーメーション 検討会を重ね,具体的な事業企画や実証を行うためのプロジェクトチームを立ち上げ,上杉鷹山公の「好生 堂」にちなみ,プロジェクト名を21世紀『好生プロジェクト』として活動している。構想実現のためには, ITを強力なツールとして活用しているが,IT先にありきではなく,現在すでに地域で活動を行っている NPO団体との連携や,人と人のふれあいを大切にしたヒューマンシステムを基本にして,実施可能な事業 から順次着手している。 この事業は,次の2つの仮説に基づいて展開している。. 仮説1:. 「良質な地域コミュニティー(社会関係資本)によって,社会の総コス1、が削減され,ひいては な地域社会の形成と持続的な発展が成される」. 仮説2:. 「医療福祉サービスにおいて,利用者(消費者)中心のシステム構築を目指すことがコミュニ ティーの強化につながり,地域が活性化する」. 仮説1に関しては,米沢BNO「医療福祉ネットワーク」のプロジェクトのひとつとしてフィールド実験 を行っている『我が家にいても病院』サービス(自宅と病院をテレビ電話で結ぶサービス)によって,それ まで入退院を繰り返していた高齢者が,自宅にインターネットカメラを置いて病院の医師と常時つながるシ ステムを導入して以来,病状が安定し,入院する必要がなくなったという実例が報告されている。この例は,. ひとり暮らしや高齢の夫婦世帯が急速に増える中で,地域社会が協力して,病気や介護が必要になっても安 心感を得られるヒューマンサービスの仕組みを構築することによって,医療や介護に関わる社会福祉コスト を軽減することができる可能性を示唆している。. 仮説2に関しては,米沢BNOでの『米沢地域における医療福祉ネットワークのグランドデザイン」の基 本テーマを“地域「連携」による,住民・患者本位のサービスを目指して,’’であり,供給サイドから利用. 者主導への論理の切り替えだけでなく,病気や要介護者になっても,人間的な尊厳や生きがいのある生活を 守るためのサービスであり,施しの思想の延長で結果として人間性がスポイルされることのない,利用者主 体のサービスを展開することにある。. 3.在宅高齢者の情報環境 「高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性」について分析するにあたり,在宅高 齢者がおかれている情報環境等の実態について分析・考察する。調査データは,米沢ビジネスネットワーク オフィスが2004年1月に山形県米沢市で実施した資料を中心に分析する1)。分析項目としては,情報(通信) 環境について,パソコンの所有,インターネットの利用状況,FAXの所有状況,携帯電話の利用状況・所 有者,携帯電話でよく利用する機能,ケーブルテレビへの加入状況,ケーブルテレビ番組の視聴状況から分 析する。 パソコンの所有状況では,自宅にパソコンが「ある」割合は全体のおよそ半数の51.1%である(図3−1)。 家族属性別に見ると,パソコンが「ある」と回答した家庭は,「就学前児童がいる家庭」で75.9%,「高齢 者のいない家庭」で63.7%と高いのに対して,「高齢者のみの家庭」ではわずか16.9%と少ない。. 43.
(5) 藤 井 廣 美. 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 100%. lN=320l 図3−2.パソコンの所有(家族属性別). インターネットの利用状況では,「家族全員が日常的に利用している」世帯割合は16.0%で,「家族全員は. 利用していない」は17.2%である(図3−3)。また,「(利用できるが)ほとんど利用していない」は8.4% であり,4割以上(41.6%)の世帯でインターネットが利用可能な環境にあるが,「利用していない(でき る環境にない)」世帯も45.8%である。また,インターネットが利用可能な世帯の内,インターネットへの 接続方法が「ケーブルテレビ」と回答した人の割合が40.8%と最も高く,次いでADSLの21.3%である(図 3−4)。また,FAXの所有状況では,自宅にFAXが「ある」割合は34.8%であり,「ない」世帯が64.5% と6割以上を占めている(図3−5)。. 携帯電話の利用状況・所有者では,回答者の75.4%の世帯で家族の誰かが利用している。利用している人 は「本人」,「子供あるいは孫」,「妻(夫)」の順で多く,「誰も利用していない」のは68世帯(16.2%)であ る(図3−6)。. ケーブルテレビへの加入状況では,「加入している」世帯は50.6%の約半数である(図3−7)。ケーブル テレビに「加入している」世帯の内,どんな地域番組を視聴しているかでは,「ニュース」が最も多く,次 いで「まち・学校などのイベント」,「スポーツイベント」の順で多い(図3−8)。情報提供や啓発活動およ び安否確認等は,比較的視聴率の高い「まち・学校などのイベント」,「スポーツイベント」等の番組を活用. することが効率的あり,システム化を検討する余地がある。. 44.
(6) 高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性. 図3−3.インターネットの利用. ケーブルテレビ 40.8%. ADSL 21.3%. 図3−4 インターネットへの接続方法. 図3−5.FAXの所有. 45.
(7) 藤 井 廣 美. 本人 子供あるいは孫 妻(夫). 誰も利用していない 父母 祖父母 わからない その他 無回答 50. 0. 100. 200. 150 lN=4吋. 図3−6.携帯電話の利用者(複数回答). 加入している 50.6%. 図3−7.ケーブルテレビへの加入状況. ニュース. まち・学校などのイベント スポーツイベント コンサートなどの文化イベント 慶弔情報 見ない その他 カルチャー教室 中高生のための教育番組 無回答 0. 20 40 60 80 100 120 140 160 180. lN=212l 図3−8.ケーブルテレビ番組の視聴. 46. 250.
(8) 高齢期家族関係のサポート機能としての情報機器の活用と可能性. 4.ま と め 高齢期における家族関係へのサポート機能としての情報機器の活用と可能性について,高齢者の情報環境 の実態を把握した上で,山形県米沢市で実施している米沢ビジネスネットワークオフィスの活動を中心に, 考察した。. 分析の結果,高齢世帯では,パソコンの所有率が低く,インターネットの利用も低い可能性が高い。携帯 電話の利用状況や所有者も子世代よりは親世代で低い。高齢者は情報格差の中で,社会の流れからさらに取 り残されていき,格差を拡大していく可能性の高さを伺わせている。情報格差の中で埋もれていく可能性の 高い高齢者を周りが情報機器を活用して,見守っていく必要性がある。 米沢ビジネスネッ. 1、ワークオフィスの活動では,パソコン,地域インフラである高速大容量のケーブルテ. レビ網等を活用して,健康増進や介護予防にかかわるサービス(情報)を一元的に提供するワンストップサー. ビスセンターとして,「ウェルネスサポートセンター」を設立している。 センターの主な業務としては,サービス資源を総合的に集約する地域拠点として,健康相談や介護相談の ほか,雪下ろし・雪かき等の密着型サービスの提供など,住民(利用者)の立場に立ったきめの細かい FacetoFaceのサービスを行っている。 また,IT機器を利用したひとり暮らし高齢者の見守り体制の構築や,インターネット等を利用した医療・ 介護施設の情報発信,ニーズ把握・意識啓発のための双方向の情報システムの碇供,ニーズの高い小児急患 への紹介対応,地元の食文化を活用した健康メニューの提供など,地域住民のための総合的な「健康づくり」 支援活動も実施している。 高齢化率の高まりに歯止めがかからない現状においては,今まで高齢者の支えの中ノ亡べこ置かれてきた家族 のみでは対応できない状況に至っている。従来と違う環境で同様の負担を家族員に負わすには限界がある。. 限界を越えた家族員への負担は,家族関係の悪化をもたらし,時には殺人・障害等の犯罪を引き起こす可能 性もある。身近な家族員間の関係を悪化させない配慮が求められている。情報機器の有効な活用は個々人の. 生活に潤いと心のゆとりをもたらす可能性がある。今後は,医療・福祉・教育等の現場で情報機器を活用し ながら,身近な家族関係を良好に保つためのサポートをする可能性を探ることが求められてきている。また,. 高齢者がおかれている情報格差を考慮しつつ,高齢者が違和感なく活用できる情報機器の開発も含めた情報 環境の整備が今後の課題である2)。. 謝 辞 本研究の実施にあたっては,米沢BNO好生プロジェクトおよび,荘銀総合研究所の多くの方々から資料 提供や調査協力をしていただいた。 心よりお礼と感謝を申し上げたい。. 註 1)本稿で使用した調査データは米沢ネットワークオフィスが2004年1月に山形県米沢市で実施した調査資料を基に分析す る。 2)本研究は,平成20年度の学長裁量経費による研究助成を受けて実施した。. 47.
(9) 藤 井 廣 美. 参考文献 荘銀総合研究所,『米沢ビジネスネットワークオフィス事業成果報告書』,2004. 21世紀好生プロジェクト,『21世紀好生プロジェクト調査研究報告書』,2005. 福祉士養成講座委員会,『地域福祉論』,中央法規,1992. 一番ケ瀬康子監修,『地域福祉の原理と展開』,一橋出版,2003. 野々山久也編著,『家族福祉の視点』,ミネルヴァ書房,1992. 畠中宗一編,『よく分かる家族福祉』,ミネルヴァ書房,2002. 森岡清美,『現代家族変動論』,ミネルヴァ書房,1993. 藤井廣美,「三世代同居志向(直系家族)とその要因」,熊谷文枝編著,『日本の家族と地域性(上)』,ミネルヴァ書房,1997, 107−131.. 藤井廣芙,「家族一指れる家族−」,藤井廣芙他編著,『社会学一時代を知り現代を生きる−¶,中央法規,1992,49−86. 藤井廣芙,「在宅高齢者を支える地域福祉の現状と課越一高齢者の見守りサービスの事例を中心として−」,『北海道教育大学 生涯学習教育研究センター紀要第7号』,2007,33−45.. (函館校准教授). 48.
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