• 検索結果がありません。

教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 ―中学校理科教育法の講義における実践―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 ―中学校理科教育法の講義における実践―"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 ―中学校理 科教育法の講義における実践―. Author(s). 森, 健一郎; 中山, 雅茂; 長根, 智洋. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第49号: 71-78. Issue Date. 2017-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9855. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第49号(平成29年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.49(2017):71-78. 教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 ―中学校理科教育法の講義における実践― 森 健一郎,中山 雅茂,長根 智洋 北海道教育大学釧路校. Proposal and Evaluation of a Radiation Education Model on the Faculty of Education Practical Report about “Natural Science Teaching Methodology” MORI Kenichiro,NAKAYAMA Masashige,NAGANE Tomohiro Hokkaido University of Education at Kushiro. 現在,教員養成を担う教育系大学においては,放射線の基礎について学ぶカリキュラムが定着しているとは必ずしも言 えない状況がある.そこで,教員志望の学生(3・4年次)に対して,「学校現場でどのように授業をするか」という観点か ら放射線についての指導をおこない,教員養成系大学における指導の重点を以下のように整理した. ・「不安定」と「安定」という考え方で放射線が出るしくみを理解させること. ・放射線は,自然界に存在しており身近なものであることを理解させること. ・「電離作用」 ,「過飽和」 , 「イオン化」 , 「半減期」など,軌跡の成因に関係する語句については,重点的に指導をする必 要があること. ・電磁波であるγ線については,その他の電磁波と関連づけて理解させることが必要であること. この実践研究により,教員養成系大学における放射線教育の現状,および,学生に対する指導の重点を明らかにするこ とができた.これは,科学的リテラシーに基づいた思考ができる市民の育成にも貢献するものである.. 1.背景. れていること. 2011年の東日本大震災により発生した原子力発電所事故. しかし,佐々木ら(2014)が指摘しているように,1980. をきっかけとして,放射線に関する関心が非常に高まっ. ~ 1990年代は,原子の構造を理解するための用語が教科. た.しかし,放射線に対する正しい理解がなされていると. 書から削除されていたため,1980年以降に中学生時代を過. は必ずしも言えない状況であり,風評被害などに関する報. ごした教員は,自らが放射線に関する教育を中学校で受け. 道に接することも少なくない.. ておらず,高校の物理を履修していなければ,放射線に関. 2012年度から全面実施されている現行の中学校学習指導. する内容を履修する機会がなかったことになる.. 要領では,放射線の性質や利用のされ方について扱うこと. したがって,現職の教員の多くが放射線についての知見. が示され,授業で触れることが必須事項となっている.. が必ずしも高いとは言えず,具体的な教育手法などに困難. 例えば,学習指導要領解説中学校理科編(文部科学省,. を感じていることが予想される.例えば,福徳(2009)は,. 2008)では,第1分野「科学技術と人間」の単元で扱うこ. 鹿児島県内の小中学生にアンケート調査を行い,同様の課. とになっており,放射線をエネルギー資源の一つという視. 題を指摘している.別木ほか(2013)は,島根県内の中学. 点から記述している.具体的には,以下4点の内容が指導. 校理科教員を対象にアンケート調査を行い,放射線の内容. 事項となっている.. を扱うことに対する教員自身の不安感や,教材開発の必要. ・原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取. 性を指摘している.冨島(2012)は,福井県内の中学校理 科教員にアンケート調査を行い, 「放射線の指導に不安が. り出していること ・核燃料は放射線を出していること. あるか」という質問に対して,教員の約7割が,「不安があ. ・放射線は自然界にも存在すること. る」 ,または「少し不安がある」と回答していることを報. ・放射線は透過性などをもち,医療や製造業などで利用さ. 告している.そして,その原因として,主に「教師自身が. - 71 -.

(3) 森 健一郎,中 山 雅 茂,長 根 智 洋 放射線をよく理解していないこと」 , 「霧箱などの実験器具. を明らかにすることができる.このことで,科学的リテラ. がないこと」が不安の原因であることを報告している.. シーに基づいた思考ができる市民の育成にも貢献すること. これらの調査は,調査範囲が限定されてはいるが,ほぼ. ができると考える.. 同様の傾向を示していることから,全国的な傾向もこれに 類するものと考えられる.実態としては,現在の中学校に. 2.先行研究. おける放射線教育は,教員個々人の情報収集に大きく依存. この分野に関する既存研究としては,天神ら(2012)に. している状況であるといえる.. よる簡易霧箱の開発や,その教材を用いた森ら(2014)に. 中学校理科のカリキュラムでは, 「運動とエネルギー」. よる中学校での授業実践,さらに柚木(2016)による寒剤. 単元の後半,エネルギーの利用に関する小単元で,各種発. を用いた霧箱の開発など,多数の報告がなされている.. 電方法を扱い,その中で原子力発電,さらに放射線の性質. 天神ら(2012)による簡易霧箱は,入手しやすい素材を. について扱うことになっている.この内容は実験や観察が. 用いたもので,ドライアイスを細かく砕き,ザルなどで篩. 導入しにくいこともあり,図と文章による説明によって構. にかけて粉末状にした上で寒剤としている.粒子の小さい. 成されることが多く, 実感を伴った理解に結びつきにくい.. ドライアイスを霧箱の底に敷き詰めることで,霧箱内の温. 小学校教員においても,現在のように日常的に放射線に. 度勾配を安定させ,放射線の軌跡(主にα線)の観察を容. 関する語句がメディアなどで用いられている以上,放射線. 易にしている.そして,これを用いた授業実践(小学校第. についての基礎的な知見をもつことが必要と考える.文部. 5学年対象)もなされている.この実践については,線種. 科学省から,放射線教育についての資料1) が出版されて. による遮蔽効果の違いの実験などを通じ,放射線のランダ. いるが,特に小学校においては,放射線を扱う単元がない. ム性や人体への影響など,その性質の正しい理解につな. ため,このような出版物が十分に活用されているとは言え. がったことが報告されている.. ない状況である.この状況は,小中学校などの教職員を育. この簡易霧箱を教材として用い,森ら(2014)による中. 成するシステムに,放射線に関する内容が十分に取り込ま. 学校での授業実践(対象は第3学年)がおこなわれている.. れてこなかったことが影響していると言える.基本的知識. ここでは, 「電離作用」および「透過性」に対する実感を伴っ. が教員に不十分であることは,生徒や保護者などへの責任. た理解のために,簡易霧箱と補助的な実験を付加した学習. を持った指導が十分できないことにつながると思われる.. プランを開発している.そして,開発した学習プランが,. 加えて,現職の教員に関する課題だけではなく,教員養. 「電離作用」および「透過性」を実感を伴って理解するこ. 成を担う教育系大学においても,放射線の基礎について教. とに関し,効果的であることが確認されている.ただし,. 育内容に含めるというカリキュラムが多くの大学に定着し. 霧箱の実験・観察が,直接「透過性」や「電離作用」の理. ている状況にはない.放射線に関する内容を指導する立場. 解につながるとはいえず,補助的な実験・観察を取り入れ. になる大学生に,現在どんな課題があるのか,また,その. た意図的な授業展開が必要であることも示唆されている.. 課題を克服するためにはどのような手立てが必要か,教員. 特に「電離作用」は,霧箱のしくみにも関係する内容であ. 養成の実践的立場から研究を進めることが求められてい. るため,今後の放射線教育において重点とされるべき事項. る.. の一つであることが報告されている.. そこで,教員志望の学生(3・4年次)に対して,「学校現. 柚木ら(2016)は,ドライアイスや液体窒素,ペルチェ. 場でのどのように授業をするか」という観点から放射線に. 素子を用いない霧箱を開発し,中学校第3学年に対する教. ついての指導をおこなった. 2016年度の3・4年次の学生は,. 育効果を検証している.この霧箱では,ドライアイスなど. 前述の 「1980年以降に中学生時代を過ごした」 世代である.. の代わりに融雪剤(MgCl 2・6H 2 O)などの化学的な寒剤. 中学校では放射線に関する内容を学習しておらず,また,. を使用している.入手しやすく安価な寒剤を用いること. 教育学部ということから,高校で物理を履修していない学. で,学校現場で活用しやすいものとなっており,生徒が作. 生が大半である.そのため,講義を構成するにあたり, 「基. ることも可能である.加えて,部屋から採取した埃を線源. 本的な知識を確認すること」と, 「学生自身がα線,β線,. として用い,α線,β線の観察を可能としていることも特. γ線の特性について実感を伴いながら理解すること」の2. 徴の一つである.この霧箱を用いた授業実践の結果,その. つを重点とした.基本的な知識は,講義の中で説明するこ. 前後で生徒の放射線に対する認識の変容,および興味・関. とに加え,学生に「中学生対象の模擬授業」の計画を立て. 心の向上が見られたことが報告されている.同時に, 「霧. させることを通して獲得させることとした.さらに,学生. 箱のしくみ」や「α線やβ線以外の放射線」について疑問. が実感を伴いながら理解を進めるために,一般財団法人放. をもつ生徒が多かったことも報告されている.. 射線利用振興協会(以下,放射線利用振興協会と表記)の. これらの既存研究からは,霧箱を用いて実験・観察をお. 協力を得て,実験・観察を中心とした指導計画を立てた.. こなうことが,実感を伴った理解に有効であることが示唆. この実践研究により,教員養成系大学の学生の放射線に. さている.特に,放射線は見えないものであるので,可視. ついての理解の現状,および,学生に対する指導の重点. 化し実験・観察させることが,その種類や性質を理解する. - 72 -.

(4) 教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 ために効果的である.霧箱を用いた実験・観察は,現行の 中学校理科教科書では必須の実験・観察ではないものの, 近年,学校現場では多数の実践がなされており,今後,よ り一般的なものになっていくと思われる. 3.実践内容 3.1 実践内容の概要 本実践研究は,北海道教育大学釧路キャンパスの中学校 理科教育に関する講義「中学校理科教育法3」の一部とし て実施した.この講義は,中学校理科教員を志望する3年 次の学生が履修するものである.2016年度の大学3・4年次 の学生は,前述のように,中学校では放射線に関する内容. 図2 演示実験用大型霧箱による放射線の観察. を学習していない.また,対象となる学生は,教育学部と いうことから,高校で物理を履修していない学生が大半で. 3.2 実践内容の詳細. あった. この講義では19名の受講があり, うち6名が4年次,. 3.2.1 放射線に関する模擬授業. 他13名が3年次であった.. 放射線に関する模擬授業では,文部科学省(2014)によ. 講義は, 「基本的な知識を確認すること」と, 「学生自身. る副読本の図版(図3)を題材として授業計画を作成させ. がα線,β線,γ線の特性について実感を伴いながら理解. た.模擬授業を行わせた理由は,授業計画を作成すること. すること」の2つを重点として構成した.具体的な内容は. を通して,自分自身の理解度を認識させるためである.授. 次の通りである.. 業計画を立てる際は,単元全体のねらい,その時間のねら. (1)「学校現場でのどのように授業をするか」という観. い,評価規準などを明確にすることがまず必要である.模. 点から,放射線に関する模擬授業を各自が作成する.. 擬授業の計画を立てる過程で,それらについても整理する. (2)基本的な放射線に関する知識の講義を受ける.. ことになるため,教育効果が高まると考えた.模擬授業は. (3) グループ毎に簡易霧箱 (図1) による実験をおこなう.. 中学校第3学年「科学技術と人間」単元(全18時間)中の「エ. (4)演示実験用大型霧箱による放射線の観察(図2)を. ネルギー資源」(3時間)の1時間目という設定でおこなっ. おこなう.. た.. (5)講義で学んだことや感想などを記述する(振り返 りの作成).. 図3 模擬授業の題材とした図版(文部科学省「中学生・ 高校生のための放射線副読本図表集」より) 3.2.2 放射線に関する基本的な知識の講義 基本的な放射線に関する知識の講義は,筆者が担当し た.基本的な放射線の性質(α線,β線,γ線の特徴など) 図1 簡易霧箱(天神ら,2012). については,前年度の講義で扱っていたことから, 「霧箱 でどのように見えるのか,またそれはなぜか」に重点をお いた.霧箱のしくみを理解するためには,特に「過飽和」 と「電離作用」の正しい理解が必要であるため,この2点 を中心に講義を進めた. 3.2.3 簡易霧箱による実験 簡易霧箱による実験は,天神ら(2012)が考案した霧箱. - 73 -.

(5) 森 健一郎,中 山 雅 茂,長 根 智 洋 を用いた.4人前後のグループ毎に1つの霧箱を組み立て,. るが電磁波の存在を確認することができる.これは粒子線. α線の観察をおこなった.用いたα線源として,ランタン. と電磁波の違いを観察できる実験として有用である.. のマントル(トリウム塗布) ,ラジウムボール ,空気. なお,観察の際,2本に分岐したV字型の軌跡が観察さ. 中の埃を1時間くらい吸引機(図4)で集めたものの3種類. れることがある.これは,220Rn(半減期55.6秒)からのα. を用いた.. 線と,この220Rnから生じた216Po(半減期0.145秒)からの. 2). 3). α線によるものである.216Poの半減期が非常に短いため, ほぼ同時にα線が出ているように見え,それがV字型の軌 跡となって観察される.. 図4 空気中の埃を集めるための吸引機. 図5 観察されたV字型の軌跡. 3.2.4 演示実験用大型霧箱による実験. 3.2.5 講義の振り返りの作成. 放射線利用振興協会の援助を受け,演示実験用大型霧箱. 講義で学んだことや感想などを講義の振り返りとして所. を用いて,α線,β線,γ線の観察をおこなった(図2).. 定の用紙に記述させた.振り返りの項目は,以下の4つで. 演 示 実 験 用 大 型 霧 箱 を 用 い る 利 点 と し て は, 戸 田. ある.. (2006)などにより以下のことがらが指摘されている.. ①今日の実験・ 観察で,初めて知った(または理解でき. ・サイズが大きいため,自然放射線の飛び込む確率も大き くなり,軌跡が見えやすくなること.. た)ことがあれば書いてください. ②理解が難しかった内容があれば書いてください.. ・霧箱内の残留イオンを除去するための十分な電圧をかけ. ③中学校の理科で放射線の授業をする場合,どんなことを. ることができること.. 意識すればよいと考えますか?. ・冷却温度を長時間一定にすることができる.. ④その他,今回の講義を通して考えたことなどがあれば書. ・多方向から照明を当てることができるため,細い軌跡も 鮮明に観察できること.. いてください. これらの項目により得られた回答を分析することで,学 生の放射線についての理解の現状,および,学生に対する. これらの結果として,演示実験用大型霧箱ではα線以外. 指導の重点を明らかにすることができる.学生の放射線に. のβ線とγ線の観察が可能となる.中学校の教科書で扱わ. ついての理解の現状については,項目①,②,④に対する. れるα線,β線,γ線のすべてを扱うことで,教える側の. 回答を分析することで整理し,学生に対する指導の重点に. 基礎知識をより実感をともなった確実なものにすることが. ついては,項目②,③,④に対する回答を分析することで. ねらいである.. 整理することとした.. 粒子線であるα線は霧箱で軌跡がもっとも観察しやすい ものである.見えやすい軌跡から,α線の質量が比較的大. 4.結果. きいものであることがわかる.. 学生の記述をテキストファイル化し,テキストマイニン. β線も粒子線であるが,電子であることから,その質量. グの手法で分析した.テキストマイニングとは,テキスト. が非常に小さく,軌跡もα線のものと大きく異なる.これ. 内の語句を対象としたデータ分析のことである.対象とす. によりα線とβ線の大きさの違いを説明することができ. るテキストデータに含まれる語句の出現の回数,出現する. る.. 語句間の相関,語句の出現傾向などを統計的に処理するこ. γ線は電磁波であり,霧箱で軌跡を直接観察することは. とで探索的な分析をおこなう手法である.これによって,. できないが,γ線のコンプトン効果によってはじき出され. 収集したテキストデータに含まれるコンセプトを明らかに. た電子(β線)の動きを観察することで,間接的にではあ. することができる.. - 74 -.

(6) 教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 テキストマイニングのために使用したソフトウェアは,. なった.出現回数が多かったものは,頻出語の抽出結果に. 樋口 (2012) による KH Coder である.このソフトはフリー. よると, 「放射線(17:数値は回数.以下同様)」, 「α線 (14) 」 ,. でダウンロードが可能であり,さまざまな分野の研究で活. 「β線(11)」,「知る(11)」,「違い(7)」,「軌跡(7) 」 ,. 用されている. KH Coder を用いて行われた研究として. 「透過性(7)」などであった.共起ネットワーク図(図6). は,アンケートの記述・新聞記事・講義の感想文などを分. を併せて判断すると,この項目①についての傾向を以下の. 析したものなどがある.本研究でもこれらの研究の手法を. ようにまとめることができた.. 参考に,振り返りの記述を分析した.. ・α線とβ線の違いを,今回の実験・観察で初めて知るこ. 講義後の振り返り19名分をテキストファイル化し,テ キストマイニングのソフトにより,項目①~④のそれぞ れについて,頻出語の抽出と,共起ネットワーク図(図 6・7・8)の描画をおこなった.. とができたこと ・α線とβ線の違いは,軌跡の見え方の違いと透過性の違 いによって理解ができたこと ・γ線についての印象がα線やβ線に比べると弱いこと. 頻出語の抽出では,振り返り全体でどのような語句が多 く使用されているかを確認し,学生がどのようなことがら に関心をもったのかが概観できる.頻出語のリストとは, テキストデータ全体の中で,各語句の登場回数を多い順に 並べ,その中でも登場回数の多い語句を一覧表にしたもの である.頻出語の抽出に当たっては,同じ意味であって も表記が異なる場合は別の語句として認識されてしまうた め,原文の意図を確認しつつ置き換えをおこなった.例え ば「崩壊」と「壊変」は「崩壊」に統一している.また, 「電離作用」 , 「透過性」などの複合語は,初期設定では「電 離」と「作用」 , 「透過」と「性」といったかたちに分割さ れて出力されるため,一つの語句として強制的に抽出され るための設定をおこなった.さらに, 「思う」 , 「おこなう」 のような動詞,「今回」 , 「今日」のような名詞は,どのよ うな文章にも登場する一般的な語句であるため,今回の分 析対象から除いた.以上のような処理を経た上で頻出語の 抽出をすることにより,学生が着目した内容について,大. 図6 項目①についての共起ネットワーク図. まかではあるが傾向を把握することができる. 共起ネットワーク図とは,単語同士の共起の度合いを二 次元に配置したものである.今回用いたKH Coderではこ. これらに関する振り返りの一部を以下に示す.. うした語句間の類似度(どんな文章で使用されているか). ・透過性について,α線とβ線の違いを観察から把握する. を数値化し,語句間のネットワーク図を自動的に描く.こ. ことができた.また,軌跡の長さや進め方についても違. の図では,登場回数の多い語句ほど大きな円で描かれる.. いがあることを知り,実験は大切で,教科書に書いてあ. そして,より多くの種類の語句と共起しているものは濃い. ることがわかるんだと感じた.. 円で描かれる.さらに,共起している関係にある語句同士. ・α線,β線,γ線の透過性の違いを理解できた.名前は知っ. は線で結ばれ,同じパターンの共起が相対的に多いもの. ていたけど,違いについて詳しく知らなかった.紙,金. は,太い線で描かれる.この共起ネットワーク図を作成す. 属板を用いるとかりやすかった.音と目で透過性の違い. ると,共起する相手が多い単語,つまり,多くの文章表現. がわかった.. を媒介する単語を見いだすことができ,また,集団の振り. ・以前,霧箱を用いてα線の軌跡を見ようとした時は,全. 返りの大まかな傾向を捉えることが可能となる.なお,こ. く見ることができなかったが,今回は観察をすることが. の手法を用いる際は,図が煩雑に(または簡単に)なりす. できた.α線とβ線の軌跡の違いを視覚的に理解するこ. ぎると傾向をつかむことが困難になるため,描画する線の. とができた.. 本数をその都度設定することが必要となる. 4.2 項目②についての結果 4.1 項目①についての結果. 項目②「理解が難しかった内容があれば書いてくださ. 項目①「今日の実験・観察で,初めて知った(または理. い.」について,頻出語の抽出と,共起ネットワーク図の. 解できた)ことがあれば書いてください.」について,頻. 描画をおこなった.出現回数が多かったものは,頻出語の. 出語の抽出と共起ネットワーク図の描画 (図6)をおこ. 抽出結果によると, 「放射線(9)」, 「α線(6)」, 「β線(5) 」 ,. 4). - 75 -.

(7) 森 健一郎,中 山 雅 茂,長 根 智 洋 「難しい(5) 」 , 「軌跡(3) 」などであった.これらの結果 5). と,共起ネットワーク図 (図7)を併せて判断すると,. ・自然界に存在している身近なものであること,また,身 近なものと関わりがあることを扱うこと. 以下のようにまとめることができた. ・α線とβ線の違いは理解できたが,軌跡が観察できる理 由の理解に難しさを感じていること. 図8 項目③についての共起ネットワーク図 図7 項目②についての共起ネットワーク図. これらに関する振り返りの一部を以下に示す. ・目に見えないことを理解することは難しいので,見せる ことのできる事象を活用するのが良いと思いました.. これらに関する振り返りの一部を以下に示す. ・全体的に難しかった.自分が習ってきた内容ではないた. ・放射線は難しく普段目に見えないため,想像しにくい分 野ですが,原子力発電や被曝など,現在問題になってい. め,理解しづらい内容でありました. ・実験前の原子や放射線についての知識がまだ足りず,自. ることと関係して話すことを意識したいと思います.. 分には難しく感じた.説明は分かりやすかったので,理. ・図やモデルなどを使った説明だけでは実際にどのような. 解はできたように思うが,自分の理科的な基礎知識が足. ものか把握しにくい.今回のような気軽に行える実験を. りないと感じた.. 用いると,少しでもわかりやすく興味を持って取り組め. ・実験が難しかった.α線,β線についても,直接見えな. ると思った.「どの種類の放射線が日常生活でどのよう. いものなので,実験でα線の軌跡を観察した時も,どう. に関わっているのか」を理解させることを授業者として. いうものが見えるのかよくわからなかった部分があっ. 意識をしたい.. た.α線,β線,γ線はどのようにして出てくるのか, 4.4 項目④についての結果. 少し難しいと思いました.. 項目④「その他,今回の講義を通して考えたことなどが 4.3 項目③についての結果. あれば書いてください. 」については,特徴的な個別の意. 項目③「中学校の理科で放射線の授業をする場合,どん. 見がいくつか見られたため,テキストマイニングの処理は. なことを意識すればよいと考えますか?」について,頻出. 行わず,以下にその具体例を示す.. 語の抽出と,共起ネットワーク図の描画をおこなったとこ. ・ 「電離作用」と「透過性」という言葉があったが,「電離. ろ, 出現回数が多かったものは, 「放射線 (15) 」 「理解(9)」, ,. 作用」の理解に難しさを感じている.また, 「過飽和」 も 「イ. 「実験(8) 」 , 「意識(7) 」 , 「身近(6) 」 , 「見えない(4)」. オン化」も何となくわかる,というレベルなので,軌跡. 6). などであった.これらの結果と, 共起ネットワーク図 (図 8)を併せて判断すると,以下の2点のようにまとめること. と感じた. ・教科書の図の説明だけでは,粒子線と電磁波の違いを理. ができた. ・α線とβ線については,霧箱で軌跡を見せながらその性 質(透過性)について扱うなど,可視化させる工夫をす ること. が見える理由と関連づけて説明できるようにしなければ. 解できないと感じたので,中学生もおそらく自分と同じ なのではないか. ・講義の中で,「不安定」と「安定」という考え方で原子. - 76 -.

(8) 教員志望の学生に対する放射線教育モデルの作成とその評価 を表現していた.このような例えで説明されると確かに. 興協会の長島章様,平根廣之様には多大なるご協力をいた. 生徒も理解しやすいと思う.. だきました. 記して感謝申し上げます (所属は授業実践時) .. ・ 「半減期」という言葉はよく聞くし,今回の講義にも出 てきたが,理解に難しさを感じている.霧箱の中でV字. 附記. 型の軌跡が見えることの説明に必要であるので,きちん. 本研究は,渡辺記念会助成金事業「教員養成大学におけ. と理解をしたい.. る放射線教育」の資金援助によるものである.. 5.結論. 注. 5.1 放射線についての理解の現状. 1) 文 部 科 学 省『 新 し い 放 射 線 副 読 本 』.URLは, http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/. 項目①,②,④に対する回答を分析することで,放射線. detail/1344732.htmである(最終確認2017年1月15日) .. についての理解の現状を,以下のようにまとめることがで. 2)ランタンのマントルには放射線性物質であるトリウム. きる. ・α線,β線,γ線などの各種放射線の種類については,. を塗布しているものがあり,以前はキャンプ用品とし. 教科書などの図表による説明だけでは理解が難しいと感. て購入することができた.しかし,近年は生産中止の. じている.α線とβ線の違いは,軌跡の見え方の違いな. ため,ほぼ入手不可能である.本実践では,放射線利. どによって理解ができるが,γ線についての印象がα線. 用振興協会が持参したものを使用した.なお,トリウ. やβ線に比べると弱い.. ムを塗布している理由は,電離作用によってランタン の炎の輝度を高めるためである.. ・「透過性」や「電離作用」など,各種放射線の性質につ いても,教科書などの図表による説明だけでは理解が難. 3)入浴剤として市販されているものを使用した.. しいと感じている.特に, 軌跡の成因の理解に必要な「電. 4)項目①について作成した共起ネットワーク図では,分. 離作用」 , 「過飽和」 , 「イオン化」に難しさを感じている.. 析する語句を頻出語リストでの登場回数が3回以上のも のを対象とし,描画する線の本数を57とした.. 5.2 教員養成大学における指導の重点. 5)項目②について作成した共起ネットワーク図では,分. 項目②,③,④に対する回答を分析することで,教員養. 析する語句を頻出語リストでの登場回数が2回以上のも. 成系大学における学生への指導の重点を,以下のようにま. のを対象とし,描画する線の本数を23とした. 6)項目③について作成した共起ネットワーク図では,分. とめることができた.. 析する語句を頻出語リストでの登場回数が2回以上のも. ・「不安定」と「安定」という考え方で放射線が出るしく. のを対象とし,描画する線の本数を25とした.. みを理解し,説明できるようにさせる. ・放射線は, 自然界に存在しており身近なものであること,. 参考文献. そして,身近なものとの関わりを理解させる. ・「電離作用」,「過飽和」 , 「イオン化」など,軌跡の成因. 別木政彦・森川菜緒・塚田真也・秋重幸邦(2013) , 「放射 線教育に対する教員の意識の調査と教材」,『教育臨床. に関係する概念を理解させる.. 総合研究』,12,pp.43-51.. ・電磁波であるγ線については,その他の電磁波と関連づ けて理解させること.可能であれば,本実践のように,. 福穂康雄(2009) 「鹿児島県小・中学校における放射線. コンプトン効果によってはじき出された電子(β線)を. 教育の現状とその放射線リテラシーに及ぼす教育の効. 観察させる.. 果」,『日本放射線安全管理学会誌』,8(2),pp.133-140.. ・霧箱の中でV字型の軌跡が見えることの理解に必要であ. 樋口耕一(2012) 「今日から始めるテキストマイニング- 計量テキスト分析の環境『KH Coder』-」,石田基広・. る「半減期」についての理解をさせる.. 金明哲編『コーパスとテキストマイニング』,共立出版, 6.実践を終えて. pp.204-209.. 放射線についての正しい理解が求められている現在,ま. 文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説 理科編』, 大日本図書,pp.52-57. ず教師自身の放射線に対する理解を深めることが必要であ る.そのためには,将来,教員になる学生への指導も不可. 文部科学省(2014) 『中学生・高校生のための放射線副読 本図表集』,p.2. 欠である.科学的リテラシーに基づいた思考ができる市民 の育成のためにも,教員養成大学における放射線教育のあ. 森健一郎・栢野彰秀(2014),「放射線の「透過性」と「電 離作用」の理解を促す学習プラン」, 『エネルギー環境. り方についての実践研究を今後も継続していきたい.. 教育学研究』 ,日本エネルギー環境教育学会,8(2) , 謝辞. pp.31-37.. 本実践を実施するにあたり,一般財団法人放射線利用振. 佐々木敏紘・渡邊直美・木幡大河・長島康雄(2014) , 「中. - 77 -.

(9) 森 健一郎,中 山 雅 茂,長 根 智 洋 学校理科における放射線を扱う学習機会の可能性に関 する検討」 , 『仙台市科学館研究報告』 ,23,pp.31-37. 天神誠・山本俊介・森健一郎・田中陽一・中川雅仁・神田 房行(2013) , 「誰でも確実に放射線を観察できる,簡 易な霧箱の開発」 ,平成24年度日本理科教育学会北海道 支部大会発表論文集,24,p.65. 戸田一郎(2006)「演示実験用卓上型霧箱」 , 『RI・放射 線 一般観察向け実験ノート』 ,日本アイソトープ協会, pp.25-28. 冨島修司(2012) , 「中学校理科における放射線の指導につ いての研究-放射線に関する授業の実践を通して-」 , 『福井県教育研究所研究紀要』 ,117,pp.125-138. 柚木朋也・伊藤雄一・浜田康司(2016) , 「S型霧箱を使用 した放射線の観察に関する研究-中学校における取組 -」 , 『理科教育学研究』 ,57(2) ,pp.155-168. 森 健一郎(釧路校准教授) 中山 雅茂(釧路校講師) 長根 智洋(釧路校講師). - 78 -.

(10)

参照

関連したドキュメント

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

具体的な取組の 状況とその効果 に対する評価.

具体的な取組の 状況とその効果 に対する評価.