アルミニウム-腐植複合体が黒ボク土のアルミニウム溶解特性と植物毒性に及ぼす役割と耕地化によるその変化

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アルミニウム-腐植複合体が黒ボク土のアルミニウ

ム溶解特性と植物毒性に及ぼす役割と耕地化による

その変化

著者

伊藤聖史

学位授与機関

Tohoku University

URL

http://hdl.handle.net/10097/34626

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アルミニウム－腐植複合体が黒ボク土の

アルミニウム溶解特性と植物毒性に及ぼす役割と

耕地化によるその変化

専攻資源生物科学専攻

指導教員高橋正准教授

学籍番号

A6AM1106

氏名伊藤聖史

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アルミニウム－腐植複合体が黒ボク土の

アルミニウム溶解特性と植物毒性に及ぼす役割と

耕地化によるその変化

目次第 1 章緒論第 1 節研究の背景第 1 項酸性土壌とアルミニウム過剰害 (0) 第 2 項黒ボク土のアルミニウム毒性とアルミニウム(Al)- 腐植複合体 (1) 第 3 項黒ボク土のアルミニウム溶解性と耕地化の影響 (4) 第 2 節研究の目的 (6) 第 2 章耕地化が黒ボク土のアルミニウム(Al)-腐植複合体とアルミニウム溶解特性に与える影響第 1 節はじめに (8) 第 2 節耕地化が非アロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解特性に与える影響第 1 項供試土壌 (10) 第 2 項分析項目 (11) 第 3 項結果 (20)

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第 4 項考察 (27) 第 3 節耕地化がアロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解特性に与える影響第 1 項供試土壌 (57) 第 2 項分析項目 (58) 第 3 項結果 (61) 第 4 項考察 (70) 第 3 章アロフェン質鉱物が人工アルミニウム (Al)-腐植複合体の植物根への毒性に与える影響および Al-腐植複合体に由来するアルミニウムの生物利用性第 1 節はじめに (96) 第2 節アロフェン質鉱物を添加した人工 Al-腐植複合体培地における植物根の生育第 1 項試料と方法 (97) 第 2 項結果 (102) 第 3 項考察 (104) 第3 節アロフェン質鉱物添加が人工 Al-腐植複合体培地のアルミニウム毒性と培地溶液アルミニウム濃度に与える影響第 1 項はじめに (115) 第 2 項試料と方法 (115) 第 3 項結果 (117) 第 4 項考察 (119)

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第 4 節アルミニウム耐性植物のソバによる土壌中のアルミニウムの吸収第 1 項はじめに (130) 第 2 項試料と方法 (130) 第 3 項結果 (131) 第 4 項考察 (132) 第 5 節 Al-腐植複合体に富むアロフェン質黒ボク土からソバに吸収されるアルミニウムの起源第 1 項はじめに (139) 第 2 項試料と方法 (139) 第 3 項結果 (140) 第 4 項考察 (141) 第 4 章総合考察 (148) 引用文献参考文献謝辞

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- 0 -

第

1 章緒論

第 1 節研究の背景第 1 項酸性土壌とアルミニウム過剰害酸性土壌は、世界の農業利用可能地面積のおよそ 42%に相当する約 46 億ヘクタールを占めるほど広く分布している（岡山 1984）。酸性土壌における作物生育阻害要因としては、低 pH、アルミニウム過剰、マンガン過剰、塩基（カルシウム、マグネシウム、カリウム）の欠乏、リン欠乏、微量要素欠乏、微生物活性の不良などが考えられる（但野・安藤 1984）。なかでも、根の伸長が阻害されて養分や水分の吸収も抑制され、その結果作物の生産性が低下するアルミニウム過剰害は最も深刻な要因である。作物栽培上アルミニウム過剰害が深刻な問題となる土壌としては、Soil Taxono my(Soil Survey Staff 2006)の Andisol、 Spodosol、 Ultisol、 Oxisol が代表的であり、これらの土壌は酸性土壌

のおよそ 25 億ヘクタール（農業利用可能地の約 23%）を占める（三枝 1991）。このような世界の酸性土壌のおよそ 60%は食糧不足が懸念されている発展途上国に存在し、また先進国でも酸性沈着などの環境問題が顕在化していることから、土壌酸性、特にアルミニウムの問題は依然として世界的な課題である。アルミニウムは地球の地殻中で酸素、ケイ素に続いて 3 番目に多い元素であり、地殻中に最も多く存在する金属でもある。土壌中では酸化物やアルミノケイ酸塩として存在していることがほとんどで、これらの形態のアルミニウムは植物に対して害を与えない。しかしながら土壌 pH が 5 以下になるとアルミニウムが溶解して土壌溶液中に Al3 +

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として存在するようになり、pH の低下とともに指数関数的に Al3 +_が増加する（Lindsay and Walthall 1996）。この Al3 +_{が植物に対して強} い毒性を持ち、ごくわずかな濃度でも即座に根の伸長を阻害する（Kochian 1995 ）。アルミニウムは、無機リン酸塩、ヌクレオチド、 DNA、 R NA、タンパク質、カルボン酸、リン脂質、ポリガラクツロン酸、ヘテロ多糖類、リポ多糖類、フラボノイドなどの酸素供与体との結合親和性が高い（Martin 1988）。このため、アルミニウムは根の細胞内外の構成物質と結合し、細胞壁、原形質膜、シグナル伝達系、細胞骨格、DNA や核といった部位に障害を与え、結果として根に構造的・機能的な障害を与えると考えられる（Kochian et al. 2005; Ma 2005）。第 2 項黒ボク土のアルミニウム毒性と Al-腐植複合体

世界土壌照合基準（World Reference Base for Soil Resources, WRB）

において Andosols （ IUSS Working Group WRB 2006 ）や Soil

Taxonomy において Andiso ls（ Soil Survey Staff 2006）に分類される

アンディック特性をもつ土壌は、世界におよそ 11 億～ 12 億ヘクター

ルにおよび、世界の地表の 0.84%を占める（ Leamy 1984; Kimble et al.

2000）。Ando sols や Andisols に相当する黒ボク土はわが国の普通畑土

壌面積のおよそ 47%を占める。 Ando sols および黒ボク土は、その土壌

コロイド組成によってアロフェン質と非アロフェン質に大別される（Nanzyo et al. 1993; IUSS Working Group WRB 2006; 第四次土壌

分類・命名委員会 2002）。アロフェン質黒ボク土ではアロフェン質粘

土が主要な土壌コロイドであり、もう一方の非アロフェン質黒ボク土

では Al-腐植複合体や 2:1 型粘土鉱物が主体の土壌である。どちらの黒

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- 2 - リン酸保持能を持つ、といった火山灰土壌に特有の性質を示すが、酸的性質は大きく異なっている。アロフェン質黒ボク土は塩基飽和度が低い場合でもあまり酸性化せず、永久荷電を持たないために毒性を示すほどの KCl 抽出アルミニウムはほとんど存在しない（ Shoji et al. 1980； Saigusa et al. 1980）。一方、非アロフェン質黒ボク土は塩基飽和度が低下すると強酸性化し、植物根に毒性を示すほど KCl 抽出アルミニウムを持つようになるため、アルミニウム過剰害が問題となりやすい（Shoji et al. 1980； Saigusa et al. 1980）。 KCl 溶液のような中性塩溶液は、一般に結晶性粘土鉱物の永久荷電上に静電気的に保持さ

れた交換性アルミニウムを抽出するといわれている（Jardine and

Zelazny 1996）。酸性化した黒ボク土では、 KCl 溶液で抽出されるアル

ミニウムの主な起源は 2：1 型鉱物の永久荷電に保持されているアルミ

ニウムイオンであると考えられている（Dahlgren and Saigusa 1994;

Saigusa et al. 1980; Shoji et al 1980）。

しかしながら、腐植に富む土壌では交換性アルミニウムの測定に用

いる 1 M KCl 溶液処理の際に、交換性のアルミニウムだけでなく有機

複合体アルミニウムの一部も抽出されることが報告されている（吉田 1968）。 Takahashi e t al.（ 1995）によると、 Al-腐植複合体に富む土壌

において、アルミニウム溶解性（土壌溶液中の Al3 +_{活量）は、腐植の} 陰荷電上で起こるプロトンとアルミニウムイオンの交換反応の影響をうけ、さらに Al-腐植複合体は pH 3.5 の 10- 3_{M 酢酸緩衝液に容易に} すばやく放出されるアルミニウムを保持している。このことから、 Al-腐植複合体が非アロフェン質黒ボク土 A 層のアルミニウム溶解性を制御していると考えられる（Takahashi et al. 1995）。また、非アロフェン質黒ボク土 A 層の 1 M KCl 抽出アルミニウムは有機複合体アルミニウムと密接な関係があることが示唆された（Takahashi et al. 2003）。

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このことから、Al-腐植複合体に富む非アロフェン質黒ボク土では、交換性アルミニウムと有機複合体アルミニウムが土壌溶液中の溶存アルミニウムを介して平衡状態にあると考えられる。この場合、Al-腐植複合体（有機複合体アルミニウム）が土壌溶液中の Al3+_{活量（アルミニ} ウム溶解性）を制御しているならば、土壌溶液中のアルミニウムと平衡状態にある交換性アルミニウムも Al- 腐植複合体によって間接的に制御されると考えられる。このように、Al-腐植複合体から放出されたアルミニウムは 2：1 型粘土鉱物に保持された交換性アルミニウムと同様に植物根に毒性を示す可能性が高い。アルミニウム毒性と土壌有機物の関係については古くから研究が行われており、一般的には酸性土壌への有機物施用はアルミニウム毒性を軽減すると考えられている（Ho yt and Turne r 1975; Hargro ve and Thoma s 1981a）。しかし、 Takahashi e t al. (2007) によると非アロフ

ェン質黒ボク土から腐植を抽出して人工的に合成した Al-腐植複合体がアルミニウム感受性の高い植物の根に対してアルミニウム毒性を示した。このことからも実際の土壌において Al-腐植複合体が植物に対して毒性を示す可能性が高い。アロフェン質黒ボク土にも Al-腐植複合体が存在するが、アルミニウム過剰害が発生しにくい（Dahlgren e t al. 2004）。アロフェン質鉱物は pH 5～ 7 で生成するため、典型的なアロフェン質黒ボク土はアロフェン質物質が存在できるほど土壌 pH が高く、土壌中にアルミニウムはイオンとしてほぼ存在しないと考えられる。また、アルミニウムイオンが添加されてもアロフェン・イモゴライトがアルミニウムイオンを強く吸着する（Wada 1987 ）のでアルミニウム毒性が発現しにくいと考えられる。伊藤(2006)によると、アロフェン質黒ボク土の腐植から作製した Al-腐植複合体は、非アロフェン質黒ボク土の腐植から作製し

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- 4 - た複合体と同様に、アルミニウム感受性が高いオオムギやゴボウの根に対してアルミニウム毒性を示した。このことから、Al-腐植複合体に富むアロフェン質黒ボク土は潜在的に Al-腐植複合体によるアルミニウム毒性を持つことが示唆され、アロフェン質鉱物が Al-腐植複合体の毒性を軽減・消去している可能性が高い。第 3 項黒ボク土のアルミニウム溶解性と耕地化の影響前述のように、アルミニウムは植物を含めて多くの生物に毒性を示すため、土壌溶液中の Al3 +_{活量（濃度）を制御するメカニズムを理解} することの重要性は大きい。土壌溶液中の Al 活量を制御するメカニズムについては広く研究が行われてきた。アロフェン質鉱物に富む黒ボク土やポドゾルのアルミニウム溶解性はイモゴライトやギブサイトの溶解平衡によって制御されることが報告されている（Dahlgren et al. 1990; Lumsdon and Farmer 1995; Takahashi et al. 1995; Gustafsso n et al. 2001; Farmer and Lumsdon 2002 ; Yagasaki et al. 2006a, b）。また、土壌有機物含量が高い酸性土壌の土壌溶液中のアルミニウムの溶解性は、ギブサイトやイモゴライトの溶解平衡とは異なり、土壌有

機物とアルミニウムの複合体形成（Al-腐植複合体）によってアルミニ

ウムの溶解性が制御されると報告されている。（Bloom et al. 1979;

Mulder et al. 1989; Walker et al. 1990; Berggren and Mulde r 1995; Takahashi et al.1995）。第 2 項でも述べたように、非アロフェン質黒

ボク土 A 層のアルミニウム溶解性は Al-腐植複合体によって制御され

ることが示唆されており、このことは Al-腐植複合体がアルミニウム毒

性に関与している可能性が高いことも示唆している（Takahashi et

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黒ボク土の有機物は、アルミニウムと複合体を形成することで微生

物や土壌中の酵素による分解に対して安定化し（Baldock and Nelson

2000）、さらに土壌が酸性化すると微生物へのアルミニウム毒性により

生分解に対する耐性が増加すると考えられる（Tokashiki and Wada

1975）。さらにアロフェンなどの非晶質粘土鉱物に吸着されたりすることによっても安定化するため、他の土壌よりも耕作による変化が少ないと考えられている(Parfitt et al. 19 97) 。しかし、 Verde e t al. (2005)

によるとスペインの Galicia 地方では数十年間の耕作で黒ボク土の有機炭素含量や Al-腐植複合体が減少し、アンディック特性が弱まることが報告されている。また、短期間の石灰中和処理によって交換性アルミニウムと同様に土壌有機物と結合していたアルミニウムの一部が沈殿し、土壌有機物の分解が進む可能性がある（Takahashi et al. 2006）。このように、耕地化（主に石灰中和）によって Al-腐植複合体や有機炭素含量が減少するのであれば、Al-腐植複合体が主要な土壌コロイドである非アロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解性にも影響を及ぼしている可能性がある。アロフェン質黒ボク土は自然状態では植物根に酸性障害をほとんど示さないが、多量の窒素肥料を長年連用すると強酸性化する（稲松ら 1991; Mo rikawa et a l. 2002; Matsuy ama et al. 2005）。アロフェン質

黒ボク土が酸性化すると植物根に毒性を示す KCl 抽出アルミニウムが

多量存在するようになり、その起源は有機複合体アルミニウム、アロフェン質鉱物、非晶質硫酸アルミニウムの沈殿、ギブサイトが考えら

れている（Morikawa et al. 2002; Matsuyama et al. 2005）。また、強

酸性化したアロフェン質黒ボク土である鹿児島茶園土壌のアルミニウ

ム溶解性は、アロフェン質鉱物やギブサイトの溶解性とは異なり、

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- 6 - Yagasaki e t al. (2006b) によると、森林下で酸性化したアロフェン質鉱物に富む黒ボク土 A 層のアルミニウム溶解性も土壌有機物との複合体形成反応によって制御されるとみられた。このことから、Al-腐植複合体は非アロフェン質黒ボク土だけでなくアロフェン質黒ボク土でもアルミニウム毒性に関わる場合があるとみられる。第 2 節研究の目的これまで述べてきたように、Al-腐植複合体は黒ボク土のアルミニウム溶解性やアルミニウム毒性に大きく関与していると考えられる。非アロフェン質黒ボク土において作物を栽培する場合、アルミニウム過剰害を防ぐために石灰中和が必要となる。前述のように石灰中和によって有機炭素含量や Al-腐植複合体が減少し、アンディック特性が失われる可能性が高い。アロフェン質黒ボク土も茶園土壌のように茶葉の質を低下させないために多量の窒素施肥が行われると酸性化する（Okada et al. 1986; Tachibana et al. 1995; Panso mbat et al. 1997）。そしてこのような多量の窒素施肥によるアロフェン質黒ボク土の酸性化は、さまざまな畑土壌で見られることはすでに述べた。このように、非アロフェン質およびアロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解性が耕地化によって変化している可能性がある。また、アロフェン質黒ボク土でも Al-腐植複合体に富むものでは潜在的に Al-腐植複合体によるアルミニウム毒性を持つが、アロフェン質鉱物によってその毒性が軽減・消去されている可能性が高い。そこで本論文の第 2 章では、非アロフェン質およびアロフェン質黒ボク土の未耕地土壌と耕地土壌のアルミニウム溶解性とそれに関わる諸性質を明らかにし、耕地化が黒ボク土のアルミニウム溶解特性に及

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ぼす影響を検討した。第 3 章では人工 Al-腐植複合体の毒性とアロフェン質鉱物によるその毒性の軽減効果を、アルミニウム感受性が高いオ

オムギやゴボウの栽培試験で調べた。さらに Al-腐植複合体を起源とす

るアルミニウムの植物よる利用性を好アルミニウム植物であるソバの栽培試験によって調べた。

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- 8 -

第２章耕地化が黒ボク土のアルミニウム

(Al)-腐植複合体と

アルミニウム溶解特性に与える影響

第１節はじめに Al- 腐植複合体に富む非アロフェン質黒ボク土は塩基飽和度が低下すると酸性化して 1 M KCl 抽出アルミニウムが増加する（ Sho ji et al. 1980； Saigusa et al. 1980）。わが国のような降水量の多い気候では塩基が溶脱しやすく、土壌が酸性化しやすい。このため作物栽培を行う場合は石灰中和をして酸性矯正を行う必要がある。しかしながら、石灰中和はその目的である pH の矯正以外にも土壌にインパクトを与える場合がある。例えばスペインの Galicia 地方では、実際に比較的短期間の耕作で黒ボク土の有機炭素含量や Al-腐植複合体が減少し、アンディック特性が弱まることが報告されている（Verde et al. 2005）。また、石灰中和により交換性アルミニウムとともに一部の有機複合体アルミニウムも減少し、それに伴ってアルミニウムからフリーになった腐植の安定性が低下する可能性が示唆された（Takahashi et al. 2006）。一方アロフェン質黒ボク土では、一般に弱酸的な変異荷電を持つアロフェン質鉱物が主な粘土鉱物であるため、1 M KCl 抽出アルミニウムがほとんど存在せず、アルミニウム過剰害は問題とならない（Shoji

et al. 1980； Saigusa et al. 1980）。ところが、多量の窒素肥料が長年施用されるとアロフェン質黒ボク土の強酸性化がおこる（稲松ら 1991; Mo rikawa et a l. 2002; Matsuy ama et al. 2005 ）。強酸性化した

アロフェン質黒ボク土では KCl 抽出アルミニウムが多量に存在するよ

うになる（Morikawa et al. 2002; Matsuyama et al. 2005）。また、ア

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告もある（三田村 2005; Takahashi et al. 20 08）。前章で述べたように、Al-腐植複合体は非アロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解性のコントローラーである可能性が高く、アルミニウム毒性にも関わっている可能性が高い（Takahashi et al. 1995）。また、一般にはアロフェン質鉱物やギブサイトの溶解平衡によってアルミニウム溶解性が制御されるといわれているアロフェン質黒ボク土でも、強酸性化してアロフェン質鉱物よりも Al-腐植複合体が相対的に多くなった場合、Al-腐植複合体がアルミニウム溶解性を制御し、 KCl 抽出アルミニウムの起源となる可能性が高い。本章第２節では非アロフェン質黒ボク土の未耕地土壌と耕地土壌について、第 3 節ではアロフェン質黒ボク土の未耕地土壌と耕地土壌について、それぞれの基本的な理化学性とアルミニウム溶解性を調べ、耕地化によるそれらの変化を調べた。

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- 10 - 第２節耕地化が非アロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解特性に与える影響第 1 項供試土壌本研究で供試した非アロフェン質黒ボク土は以下の土壌試料である。・川渡未耕地：2006 年 4 月に東北大学複合生態フィールド教育研究センター（宮城県大崎氏鳴子温泉）内の未耕地から採取

した（Ito and Saigusa, 1996）。採取した層位は A1−

A2− 2A3− 3A4− 4ABb− 4Bwb1（図 2-2-1）。厚い黒色

の A 層を持つ。・川渡耕地 1： 2006 年 4 月に川渡未耕地に隣接している耕地から採取した。採取した層位は Ap− A− Bw（図 2-2-2）。 20 cm までは Ap 層があり、その下には黒色の A 層があった。・川渡耕地 2： 2006 年 4 月に川渡未耕地に隣接している耕地から採取した。採取した層位は Ap1 − Ap2 − A − AB − Bw （図 2-2-3）。川渡耕地 1 よりも黒色の層が深い。川渡耕地の周辺の様子を図 2-2-4 に示した。・三重未耕地 1： 20 06 年 3 月に野菜茶業研究所（三重県津市安濃）内の未耕地林地土壌から採取した。採取した層位は A1−

A2− A3− 2A4（図 2-2-5）。 A1∼ A3 層は褐色がかって

おり、2A4 層は黒色だった。

・三重未耕地 2： 2006 年 3 月に三重未耕地 1 付近の未耕地隣地土壌か

ら採取した。採取した層位は A1− A2− A3（図 2-2-6）。

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った。

・三重耕地 1： 2006 年 3 月に三重未耕地に隣接する耕地土壌（オオム

ギ畑）から採取した。採取した層位は Ap1− Ap2− A（図

2-2-7）。 Ap 層は黒褐色、 A 層は黒色だった。

・三重耕地 2： 2006 年 3 月に三重耕地 1 付近の耕地土壌（オオムギ畑）

から採取した。採取した層位は Ap1− Ap2− Ap3− A− AB

（図 2-2-8）。Ap 層と AB 層で黒褐色、A 層は黒色だった。第 2 項分析項目土壌試料は採取後風乾し、2 mm のふるいに通し（風乾細土）以下の分析を行った。 ○ 一般的な化学性の分析供試土壌の一般的な化学性を分析し、耕地化が土壌の化学性に与える影響を調べた。・土壌 pH(H2O)、 pH(KCl) 土壌標準分析・測定法（1986 ）に従い、ガラス電極法で測定した（HORIBA F-11 堀場製作所 (株 )）。風乾土 5 g を蓋付き遠沈管に入れ、水あるいは 1 M KCl 溶液を 12.5 mL 加えてよく振とうしてから 1 時間以上放置した。測定前に軽くかき混ぜて懸濁状態にしてからガラス電極を静かに液中に浸し、30 秒以上経過して pH 計の値が安定するのを待って pH を読み取った。・交換性アルミニウム（AlK C l）

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- 12 -

Bla kemore ら（ 1981）の方法に従った。交換性アルミニウムはアル

ミニウム毒性の指標であるとされている（Saigusa et al. 1980）。風乾

細土 2.5 g を 100 mL 容三角フラスコにとり、1 M KCl 溶液を 12.5 mL

を加えて振とう後、 16 時間放置した。放置後、試料液をろ紙

（ADVAN TEC No. 5C）でろ過し、ろ液を得た。 1 M KCl 溶液 12.5 mL

で三角フラスコ内の土壌試料をろうとに流し込み、土壌試料とろ紙を洗いながらろ液中に回収した。ろうと上の土壌試料とろ紙を蒸留水で２回洗浄してろ液中に回収した後、アルミニウムの重合と微生物活動を抑えるために濃硫酸 0.5 mL を加え、ろ液を 100 mL に定容して原子吸光法で測定した（A-2000 形原子吸光光度計日立ハイテクノロジー (株 )）。・全炭素（TC）、全窒素（ TN）含量（乾式燃焼法）メノウ乳鉢に風乾土を適量とり、試料をメノウ製の乳棒・乳鉢で微粉砕した後 NC アナライザーで（ Sumigraph model NC-80）測定した。 ○ 一般的な化学性（最表層のみの分析）耕地化の影響は作土がある最表層で大きいと考え、以下の分析は最表層のみ分析した。・P-retention Bla kemore ら（ 19 81）の方法に従った。リン酸一カリウム 8.80 g と無水酢酸ナトリウム 32.8 g を蒸留水に溶解し、氷酢酸 23 mL を加えて 2 L に定容したものを P-retention 溶液とした（この溶液の pH は 4.6 ±0.05 となる）。風乾土 3.00 g を蓋付きプラスチック塩沈管に入れ、 P-retention 溶液 15 mL を加え、室温で 24 時間振とうした。振とう後

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5000 rpm で 10 分間遠心分離して上澄み液 1 mL を 50 mL のメスフラスコに正確に取り、リン酸濃度を比色法（バナドモリブデン酸法）で測定した。加えたリン酸量に対する土壌に吸着されたリン酸の割合を% で表示した。・陽イオン交換容量（CEC）ショーレンベルガー法に基づく自動抽出装置 (CENTURION

Mechanical Vacuum Ex tracto r Model 24 )を用いて抽出を行った。土壌

試料 2.5 g をカラムに充填し、pH 7 の 1 M 酢酸アンモニウム水溶液を 12 時間浸透させ、交換性塩基の抽出とアンモニウムイオンの吸着を行った。次いで pH 7 の 80%エタノールで土壌粒子間の余分な酢酸アンモニウム水溶液を洗浄除去し（45 分を 2 回）、陽イオン交換機が保持しているアンモニウムイオンを 10%塩化カリウム水溶液で交換抽出（ 45 分）した。アンモニウムイオンの定量にはホルムアルデヒド法（越野 1988）を用いた。・交換性塩基（Ca2+_、_Mg2 +_、_K+_、_Na+_{）、有効陽イオン交換容量（}_ECEC）、アルミニウム飽和度ショーレンベルガー法による CEC 測定時に得られた酢酸アンモニウム浸出液を希釈して分析に用いた。測定はすべて原子吸光法で行い、その際に干渉抑制剤として塩化ストロンチウムを加えた。交換性塩基と交換性アルミニウムの荷電合計量から ECEC を求め、さらに ECEC に占める交換性アルミニウム荷電量をアルミニウム飽和度とし、百分率で示した。・可給態リン酸含量（ブレイ第 Ⅱ 法準法）

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- 14 - 1 M フッ化アンモニウム溶液 30 mL と 0.5M 塩酸 200 mL を混合し、蒸留水で 1 L に定容したものを抽出液とした。土壌試料 1 g に抽出液 20 mL を加えて 1 分間激しく振とうし、直ちにろ過して比色法（アスコルビン酸還元モリブデンブルー法）でろ液のリン酸含量を測定した。 ○ 選択溶解法によるアルミニウム・鉄・ケイ素選択溶解法による分析はすべての試料について行った。・酸性シュウ酸塩可溶アルミニウム、鉄、ケイ素（Alo、Feo、Sio） McKeague （ 1976）の方法に従って酸性シュウ酸塩可溶アルミニウム、鉄、ケイ素を測定した。酸性シュウ酸塩溶液はアロフェン・イモゴライト、フェリハイドライトといった非晶質コロイドや Al/Fe-腐植複合体を溶解して抽出する。風乾細土 0.80g を 100 mL 容プラスチック容器にとり、0.2 M 酸性シュウ酸アンモニウム塩溶液（pH 3.0）を 80 mL 加え、室温（約 2 0℃ ）・暗条件で 4 時間振とうした。振とう後、試料液にアコフロック（凝集剤）を数滴加えてよく振り混ぜた後にプラスチック遠心管に適量とり、遠心分離（5000 rpm、 10 分間）した。上澄み液を希釈溶液（塩化セシウムと塩酸を含む）で 5 倍あるいは 20 倍に希釈し、希釈試料液とした。アルミニウム、鉄は原子吸光法で測定した。ケイ素はモリブデンブルー法で測定した（We aver et al. 1968）。 50 mL 容メスフラスコに 0.5 M 硫酸 10 mL を加えた後、希釈試料液を適量（ケイ素として 25∼ 250μ g 含む）とり、モリブデン酸アンモニウム溶液を 10 mL 加え、即座によく振り混ぜた。正確に 2 分後に酒石酸溶液 5 mL を加え、即座に振り混ぜた。数分後に還元剤 1 mL を加え、 50

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mL に定容した。反応時間を厳守するために試薬溶液は駒込ピペットで加えた。30 分後以降に分光光度計（ U-1800 形レシオビーム分光光度計日立ハイテクノロジーズ(株 )）で 650 nm の波長の吸光度を測定した。・ピロリン酸ナトリウム可溶アルミニウム（Alp） McKeague （ 1967）の方法に従ってピロリン酸ナトリウム可溶アルミニウムを測定した。ピロリン酸ナトリウム溶液は Al-腐植複合体を溶解して抽出する。風乾細土 0.80 g を 100 mL 容プラスチック容器にとり、0.1 M ピロリン酸ナトリウム溶液（ pH 10.0）を 80 mL 加え、室温（約 20℃ ）で 16 時間振とうした。振とう後、試料液に 0.1%アコフロック（凝集剤）を数滴加えてよく振り混ぜた後に上澄みを適量とってプラスチック遠心管にいれて遠心分離（18000 rpm、 30 分間）した。アルミニウムは原子吸光法で測定した。 ○ アルミニウム溶解特性に関わる分析・塩化銅可溶アルミニウム（AlCu）

Hargrov e and Thomas (1981b)の方法に従った。 0.5 M CuCl2溶液

（pH 3）は、溶存態アルミニウムの活動度の制御に関係している可能

性がある腐植と弱く結合したアルミニウムを抽出する (Juo a nd

Kamprath, 19 79; Cronan et al. 1986) 。分析は耕地化の影響が強いと

みられる最表層のみ行った。風乾土 0.5 g を 50 mL 容のプラスチック

蓋付き遠沈管に入れ、0.5 M CuCl2溶液を 25 mL 加えて 24 時間振とう

した。振とう後、No.6 のろ紙でろ過し、ろ液を蒸留水で 5 倍に希釈し

(22)

- 16 -

・交換酸度（BaCl2− トリエタノールアミン法 pH 8.2）

Bla kemore ら (1981)の方法に従った。 BaCl2− トリエタノールアミ

ン法 (pH 8.2) は腐植の荷電も含めた土壌の荷電を測定する。分析は耕地化の影響が強いとみられる最表層のみ行った。風乾土 2.5 g をプラスチック蓋付き遠沈管に入れ、緩衝液（トリエタノールアミンを含む pH 8.2 の 0.25 M BaCl2 溶液）を 25 mL 加えて 16 時間振とうした。振とう後、5000 rpm で 10 分遠心分離し、上澄みを得た。上澄み 10 mL を三角フラスコに入れて蒸留水を約 20 mL 加え、 0.1 %ブロモクレゾールグリーン水溶液を 1 滴、メチルレッド − メチレンブルーの混合指示薬（メチルレッド 1.250 g とメチレンブルー 0.825 g を 90%エタノール 1 L に溶解）を 5 滴加えた。溶液が終点である紫色（ pH 5.4）になるまで 0.1 M HCl で滴定した。ブランクについても同様に操作し、ブランクとの滴定値の差で交換酸度を求めた。・pH 無調整平衡実験平衡溶液のアルミニウムの溶解性を調べ、文献による鉱物の溶解度と比較した。Al-腐植複合体や有機物に富む A 層と Ap 層について行った。蓋付き遠沈管に風乾土 2 g を入れ、 0.01 M CaCl2 溶液 30 mL を加えた。室温で振とうしながら 2 週間インキュベートし、正確に溶液の pH を測定後 12000 rpm で 10 分間遠心分離して上澄みを得た。この上澄みを 0.45μ m のメンブレンフィルター（ ADVANTEC DISMIC-25A S）

に通し、単量体アルミニウム（ferron- o-phenanthro line 法 (American Society of Agronomy and Soil Science Society of America (1982)) （フェロン法））、ケイ酸（モリブデンブルー法）濃度を測定した。フェロ

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体を形成し、この反応による吸光度の変化でアルミニウム濃度を測定する。比色法によってアルミニウムを測定する場合、吸光度は pH の変化に敏感であるため、最も吸光度が高い pH に緩衝する必要がある。また、フェロンはアルミニウムと特異的に反応するわけではなく、鉄、 F-_、_PO_{4 3 -}_{、有機アニオンなどによる干渉を受けるため、干渉抑制剤や} pH を調整してその干渉を抑制する必要がある。 pH 緩衝液には 35%無水酢酸ナトリウム溶液、干渉抑制剤には o-フェナンスロリンとヒドロキシルアミンを用いた。フェロン法の検出限界は 0.05 mg L- 1_{であり、} 1.5 mg L- 1 _{までは直線性がある。}_{Bersillon et al. (1980) や Smith} (19 71) によると、フェロンはヒドロキシアルミニウムポリマーとはゆっくりと複合体を形成するが、単量体とはすぐに複合体を形成する。さらにフェロンと単量体アルミニウムおよび多量体アルミニウムの反応速度定数が Bersillon et al. (1980) や Smith (1971) によって決定されたことにより、多量体と単量体を区別することが可能となった。しかし近年フェロン法はアルミニウムと複合体を形成したフルボ酸と反応することも報告されている(Kerven et al. 1989)。平衡溶液の pH、単量体 Al、ケイ酸濃度を用い、 Ca2+_{10 mM、 Cl}-_{20 mM として Visual} MINTEQ（ http://www.lw r.kth/se/English/OurSoftware/vminteq からダウンロード）で Al3 +_{の活量計算を行った。イモゴライトとギブサイ} トのイオン活量積を計算し、これらの鉱物の溶解度定数（KS O 0）の文献値と比較した。各鉱物の溶解度定数は表 2-2-1 に示した。イモゴライトおよびギブサイトの溶解反応式と溶解度定数は以下のように示される；

(24)

- 18 -

0.5(HO)3Al2O3SiOH(i mogo li te) + 3H+ ⇔ Al3 + + 0.5 H4SiO4 + 1.5 H2O

KS O 0(imo golite) = (Al3 +)(H4SiO4)0. 5( H+)- 3

Al(OH)3(gibbsite) + 3H+ ⇔ Al3 + +3 H2O KS O 0(gibbsite) = (Al3 +)(H+)- 3 ・pH 調整平衡実験溶液の平衡 pH を変化させてアルミニウム溶解性（ pH と Al3 +_{活量の} 関係）を調べ、鉱物の溶解度と比較した。蓋付き遠沈管に風乾土 2 g を入れ、0.01 M CaCl2 溶液 30 mL を加えた。そこへ 0.01 M CaCl2 をバックグラウンド溶液とした HCl（ 0.1 または 0.2 M）、あるいは NaOH （0.05 あるいは 0.1 M）を徐々に加えて pH を 3.5− 5 に調整した。その後室温で振とうしながら 2 週間インキュベートし、正確に溶液の pH を測定後 12000 rpm で 10 分間遠心分離して上澄みを得た。この上澄みを 0.45μ m のメンブレンフィルターに通し、単量体アルミニウム、ケイ酸濃度（三重土壌のみ）を測定した。測定した pH、単量体アルミニウム、ケイ酸濃度を用い、Ca2 +_{10 mM、 Cl}-_{20 mM として Visual} MINTEQ で Al3 +_{の活量計算を行った。算出した} _Al3 +_{の活量から} _pH− pAl3 +_（_-log(Al3 +_{)）の関係を調べた。また、三重土壌についてはイモゴ} ライトのイオン活量積を計算し、これらの鉱物の溶解度定数の文献値と比較した。平衡実験において溶解平衡に要する時間は重要であるため、三重未耕地 1 A、三重耕地 1 Ap 層の試料について 1 ヶ月インキュベートし、pH− pAl3+_{の関係とイモゴライトに対するイオン活量積を計} 算した。

(25)

・アルミニウム放出速度

三重の未耕地および耕地土壌について測定した。アルミニウム放出

速度は Takahashi et al.(1995)の方法に従い、 stirred-flow 法で測定し

た（図 2-2-9）。攪拌セルに 10- 3_{M の酢酸緩衝液 (pH 3.5)を 25 mL をあ} らかじめ入れておき、< 0.5 mm の風乾試料をセル側面に付着しないように入れた。マグネチックスタラーで勢いよく攪拌し、0.2μ m のメンブレンフィルターを通し、ぺリスターポンプを用いて 5 mL min- 1_{の流} 速でセル内の溶液を吸い出し、10- 3_{M の酢酸緩衝液がセル内に常に 25} mL となるようにした。吸い出した溶液の一部を継続的にオートアナライザーに注入し、ピロカテコールバイオレット(PCV)法 (McAvoy et al. 1992)を用いて連続的にアルミニウム濃度を測定した。アルミニウム放出速度の測定時間は 20 分間とした。アルミニウム測定に用いた検量線はアルミニウム標準液を 0.1、 0.2、 0.3、 0.4、 0.5、 0.7 mg L- 1_{に蒸留} 水で希釈した溶液で作成した。アルミニウム濃度の測定終了後、グラフを 1 分間ごとに値を読み取り、攪拌セル内のアルミニウム濃度の変化からアルミニウム放出速度を算出した。 PCV 法に用いる試薬は PCV 溶液、ヘキサメチレンテトラミン緩衝液、ヒドロキシルアミン − フェナンスロリン溶液の 3 種類である。 PCV はフェロンと同様にアルミニウムと錯体を形成し、この反応による吸光度の変化でアルミニウム濃度を測定する。フェロン法と同様に、pH の緩衝と他の成分による干渉の抑制が必要であり、pH 緩衝液は pH 6 .2 のヘキサメチレンテトラミン溶液、干渉抑制剤はヒドロキシルアミンとフェナンスロリンの混液である。PCV 溶液は 1.875 mg L- 1_の _PCV 溶液を保存溶液として冷蔵保存しておいたものを使用前に 10 倍希釈して作製した。ヘキサメチレンテトラミン緩衝液は使用前に 200 g L- 1_の

(26)

- 20 - 濃度のものを作製した。ヒドロキシルアミン − フェナンスロリン溶液は、塩酸ヒドロキシルアミン 150 g と 1,10-フェナンスロリン 1.5 g を蒸留水に溶解して 500 mL に定容したものを保存溶液として冷蔵保存し、使用前に 10 倍に希釈して作製した。第 3 項結果川渡土壌および三重土壌の層位ごとの一般的な化学性をそれぞれ表 2-2 -2、表 2-2-3 に、最表層の化学性を表 2-2-4 に示した。・pH(H2O)、 pH(KCl) 川渡土壌および三重土壌の pH(H2O)、 pH(KCl)をそれぞれ表 2-2-2、表 2-2-3 に示した。川渡未耕地土壌 A 層の pH(H2O)は 4.71∼ 5.03 であり、強酸性 ∼ 酸性を示した。表層ほど pH(H2O)、 pH(KCl)ともに低い傾向が見られた。川渡耕地土壌 Ap、 A 層の pH(H2O)は 5.16∼ 5.54 と未耕地土壌 A 層よりも高く、酸性を示した。 pH(KCl)は全体として未耕地土壌よりも高かった。三重未耕地土壌 A 層の pH(H2O)は 4.32∼ 4.63 と川渡未耕地土壌 A 層よりも低く、極強酸性 ∼ 強酸性であったが、 pH(KCl)は川渡未耕地 A 層とほぼ同じであった。三重耕地土壌 Ap、 A 層の pH(H2O)は 5.22∼ 6.18、pH(KCl)は 4.33∼ 4.86 といずれも川渡耕地土壌 Ap、 A 層の値よりも高く、石灰中和が行われていると考えられる表層ほど高かった。・交換性アルミニウム川渡土壌および三重土壌の交換性アルミニウムをそれぞれ表 2-2-2、

(27)

表 2-2-3 に示した。交換性アルミニウムが 2 cmolc kg- 1を超えるとアルミニウム感受性の植物の根に対してアルミニウム毒性を示すとされる (Saigusa et al. 1980)。川渡未耕地土壌 A 層の交換性アルミニウムは 2.9∼ 5.2 cmo lc kg- 1と高かった。川渡耕地土壌 Ap 層では 1.1∼ 1.9 cmolc kg- 1_{と未耕地土壌と比べると減少しているが、}_{2 cmol}_c_kg- 1_{に近い層が} あった。三重未耕地土壌 A 層では、 4.9∼ 6.8 cmolc kg- 1と高い値を示し、川渡未耕地土壌よりも高い値であった。三重耕地土壌 Ap 層の交換性アルミニウムは 0.2∼ 0.3 cmolc kg- 1と低く、川渡耕地土壌よりも低い値を示した。高い pH を示した耕地土壌で交換性アルミニウムが少なかった。

・選択溶解アルミニウム・ケイ素（Alo、 Sio、 Alp）

川渡土壌および三重土壌の選択溶解法による Alo、Sio、Alp、Alp/Alo

をそれぞれ表 2-2-2、表 2-2-3 に示した。 Alp/Alo は活性アルミニウム

に占める Al-腐植複合体の割合を示している。石灰中和により一部の有

機複合体アルミニウムが減少することが報告されている（Takahashi

et al. 2006）。したがって、耕地土壌では Al-腐植複合体（ Alp）、また

は Alp/Alo が減少している可能性がある。川渡未耕地 A 層の Alo は平均 16 .9 g kg- 1_{であり、川渡耕地} _{Ap 層の} Alo は平均 17.5 g kg- 1_{と大きな違いは見られなかった。}_{Alp は川渡未} 耕地 A 層で平均 15.8 g kg- 1_{、川渡耕地} _{Ap 層で平均 15.4 g kg}- 1_{と高く、} ほぼ同じ値を示した。Alp/Alo は、川渡未耕地 A 層で平均 0.93、川渡耕地 Ap 層で平均 0.88 だった。耕地土壌で Alp/Alo の値がわずかに減少していたが有意差は見られず（t-検定、 5%水準）、未耕地・耕地土壌ともに主な活性アルミニウムは Al-腐植複合体だった。 Sio 含量は未耕地・耕地ともに低かった。

(28)

- 22 - 三重土壌の Alo は、未耕地 A 層で平均 24.6 g kg- 1_{、耕地} _{Ap 層で平} 均 20.0 g kg- 1_{とやや耕地で低かったが有意差はなかった（}_{t-検定、 5%} 水準）。未耕地 A 層の Alp は平均 19.9 g kg- 1_{、耕地} _{Ap 層の Alp は平均} 13.8 g kg- 1_{と耕地で有意に低かった（}_{t-検定、 5%水準）。 Alp/Alo は未} 耕地 A 層で平均 0.80 であったのに対し、耕地 Ap 層では 0.69 と有意に低かった（t-検定、 5%水準）。しかし、依然として未耕地・耕地土壌ともに Alp/Alo が 0.5 以上であり、主な活性アルミニウムは Al-腐植複合体だった。Sio 含量は未耕地・耕地ともに低かった。・全炭素・全窒素含量（TC、 TN）川渡土壌および三重土壌の全炭素含量と全窒素含量をそれぞれ表 2-2 -2、表 2-2-3 に示した。耕地化により有機炭素含量が減少すると報告されているので（Ve rde 2005）、耕地土壌で低下している可能性がある。川渡未耕地土壌 A 層の全炭素含量は 95∼ 142 g kg- 1_{（平均} _{111 g kg}- 1_）、全窒素含量は 14.4∼ 17 .9 g kg- 1_{（平均} _{15.8 g kg}- 1_{）で、高い値を示し} た。川渡耕地 Ap 層の全炭素含量は 101∼ 109 g kg- 1_{（平均} _{105 g kg}- 1_）、全窒素含量は 15.2∼ 15 .7 g kg- 1_{（平均} _{15.4 g kg}- 1_{）であり、未耕地} _A 層とほぼ同じ値を示した。しかし、最表層だけでみると未耕地土壌の全炭素含量が高かった。三重未耕地土壌 A 層の全炭素・全窒素含量はそれぞれ 57∼ 128 g kg- 1 （平均 98.3 g kg- 1_）、_{2.4∼ 6.6 g kg}- 1_{（平均} _{3.8 g kg}- 1_{）であり、耕地} 土壌 Ap 層の全炭素・全窒素含量はそれぞれ 66∼ 109 g kg- 1_{（平均} _89.4 g kg- 1_）、_{2.7∼ 4.3 g kg}- 1_{（平均} _{4.2 g kg}- 1_{）と未耕地} _{A 層よりも全炭素} 含量が減少する傾向は見られたが有意差はなかった。

(29)

・P-retention P-retention を表 2-2-4 に示した。川渡土壌では未耕地・耕地ともにおよそ 95 %でほぼ同じだったが、三重未耕地土壌では平均 96 .6%だったのに対し耕地土壌では平均 88.2%と低い値となった。・陽イオン交換容量(CEC) CEC を表 2 -2-4 に示した。川渡と三重の両土壌において未耕地土壌のほうが耕地土壌よりも CEC が高い傾向が見られた。・交換性塩基(Ca、 Mg、 K、 Na) 交換性塩基を表 2-2-4 に示した。川渡土壌では、交換性 Ca、 Mg 、 K は耕地土壌のほうがわずかに高かった。一方、三重土壌の交換性 Ca、 Mg、 K は耕地土壌のほうが明らかに高かった。交換性 Na はすべての土壌で低かった。・可給態リン酸（ブレイ Ⅱ 法準法）可給態リン酸を表 2-2-4 に示した。川渡土壌の可給態リン酸は、未耕地では 204 mg P2O5 kg- 1、耕地では平均 750 mg P2O5 kg- 1と耕地土壌で高かった。三重土壌の可給態リン酸は、未耕地で平均 50 mg P2O5 kg- 1 と低く、耕地では平均 2038 mg P2O5 kg- 1と未耕地よりも高い値を示した。・ECEC、アルミニウム飽和度 ECEC、アルミニウム飽和度を表 2-2-4 に示した。川渡土壌の ECEC は未耕地・耕地で大きな差が見られなかった。アルミニウム飽和度は耕地土壌でやや低かった。三重土壌の ECEC は未耕地でかなり低く、

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- 24 - 耕地で高い値となった。アルミニウム飽和度は未耕地で 90%を超えていたが、耕地ではかなり低かった。・塩化銅可溶アルミニウム（AlCu）、交換酸度（pH 8.2 、 BaCl2− トリエタノールアミン法）塩化銅可溶アルミニウム、交換酸度（pH 8.2）、AlCu/交換酸度 (pH 8.2) を表 2-2-4 に示した。 0.5 M CuCl2 溶液（pH 3）は、溶存態アルミニウムの活動度の制御に関係している可能性がある腐植と弱く結合したア

ルミニウムを抽出する(Juo and Kamprath, 1979; Cronan e t al. 1986)。

川渡土壌および三重土壌最表層の AlCu 含量は、未耕地土壌で高く、耕地土壌で低かった。AlCu含量は Alp の 40− 60%に相当するといわれているが、三重耕地土壌表層ではそれよりも低く、Alp の 29%だった。川渡および三重土壌表層の交換酸度(pH 8.2)は、未耕地土壌で高く耕地土壌で低かった。最も高かったのは川渡未耕地表層の 89.2 cmolc kg- 1、最も低かったのは三重耕地土壌の 57.8 cmolc kg- 1だった。 AlC u/ 交換酸度 (pH8.2)は腐植の荷電も含めた土壌の負荷電のアルミニウム飽和度を評価している。川渡未耕地や三重耕地でやや低く、川渡耕地や三重未耕地でやや高かった。・pH 無調整平衡実験でのアルミニウムの溶解性川渡土壌の pH 無調整平衡溶液のギブサイトおよびイモゴライトに対するイオン活量積をそれぞれ図 2-2-10、図 2-2-11 に示し、三重土壌の pH 無調整平衡溶液のギブサイトおよびイモゴライトに対するイオン活量積をそれぞれ図 2-2-12、図 2-2-13 に示した。これは実際の土壌 pH 付近でのアルミニウム溶解性を示している。グラフ上に示した破線や実線はギブサイトおよびイモゴライトの溶解度の文献値であり、線

(31)

の上側がそれらの鉱物の溶解度に対して過飽和、下側が不飽和であることを示す。川渡未耕地は表層から下層までほぼギブサイトおよびイモゴライトに近い溶解度を示した。川渡耕地は Ap 層でややギブサイトに対して過飽和であったが、未耕地と同様ギブサイトやイモゴライトの溶解性を示した。三重未耕地土壌は、ほぼギブサイトおよびイモゴライトの溶解性を示したが、耕地土壌は Ap 層でギブサイトに対して過飽和であり、イモゴライトに対してもやや過飽和だった。・pH 調整平衡実験でのアルミニウム溶解性川渡未耕地および耕地土壌の pH 調整平衡溶液の pH と pAl3 + (-logAl3 +_{) の関係をそれぞれ図 2-2-14、図 2-2-15 に示し、三重未耕地} および耕地土壌の pH 調整平衡溶液の pH と pAl3 + _{(-log Al}3+_{) の関係を} それぞれ図 2-2-16、図 2-2-17 に示した。非アロフェン質黒ボク土のアルミニウム溶解性は Al-腐植複合体によって制御されている可能性が高いので（Takahashi e t al. 1995）、ギブサイトの溶解度と異なるアルミニウム溶解性を示す可能性がある。ギブサイトの溶解平衡における pH と pAl3+_{の関係は、} pAl3 +_{= 3p H− logK}_{s o 0} で示される。川渡未耕地の溶解度を表す直線の傾きは 1.6∼ 2.1、切片は 2.2∼ 4.4 であり、特に A1 層でギブサイトの溶解度直線の傾き (3.0) や切片(-8.11：合成ギブサイト、-8.3：土壌中のギブサイト )よりも大きく低くなっていた。また、低 pH 領域でギブサイトに対して不飽和、高 pH 領域で過飽和となる傾向がみられた。川渡耕地の溶解度直線の傾きは 1.8∼ 2.3、切片は 2.9∼ 5.1 であり、未耕地と同様にギブサイトの溶

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- 26 - 解性とは異なっていた。未耕地 A1 層と耕地 Ap 層を比較すると、 Ap 層でややギブサイトの溶解度に近づく傾向はみられたが、それほど大きく変化していなかった。三重未耕地 A 層の pH と pAl3 +_{の関係をみる} と、傾きが 1.7∼ 2.1、切片が 3.0∼ 4.7 であり、低 pH でギブサイトに対して不飽和、高 pH で過飽和であり、ギブサイトの溶解度とは異なっていた。三重耕地 Ap 層では、傾きが 1.8∼ 1.9、切片が 2.9∼ 3.4 であり、未耕地と比較すると、わずかにギブサイトの溶解度から遠ざかっているが、大きな変化は見られなかった。三重未耕地および耕地土壌の pH と log IAP(imogolite)の関係をそれぞれ図 2-2-18、図 2-2-19 に示した。未耕地では、およそ pH が 4.0 よりも低いとイモゴライトの溶解度に対して未飽和、それよりも高いとおよそイモゴライトの溶解度かわずかに過飽和となっていた。耕地の Ap 層では未耕地と比較すると低 pH でイモゴライトに対して未飽和となる度合いが大きくなっていた。平衡実験において溶解平衡に要する時間は重要であるため、三重未耕地 1 A1 層と三重耕地 1 Ap1 層について、平衡期間 2 週間、あるいは 1 ヶ月の平衡実験を行った。その平衡溶液の pH − pAl3 +_{の関係を図} 2-2 -20、pH と lo g IAP(imogolite )の関係を図 2-2-21 に示した。両土壌において、平衡期間が異なっても pH と pAl3 +_{の関係を示す直線の傾き} や切片には違いは見られなかった。また、pH と logIAP(imogolite)の関係においても大きな違いが見られなかった。・アルミニウム放出速度、積算アルミニウム放出量三重未耕地 1 A1 および三重耕地 1 Ap 土壌のアルミニウム放出速度と積算アルミニウム放出量をそれぞれ図 2-2-22、図 2-2-23 に示した。未耕地の非アロフェン質黒ボク土は容易に放出されるアルミニウムを

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持つが、耕地化によりその放出特性が変化している可能性がある。非

アロフェン質黒ボク土の開始 1 分間のアルミニウム放出速度は 15∼ 44

nmol g- 1_s- 1_{と速いことが示されている（}_{Takahashi et al. 1995）。三} 重未耕地の開始 1 分間のアルミニウム放出速度は 93.4 nmol g- 1_s- 1_とかなり高い値を示した。その後は徐々に放出速度が減少していった。 20 分間の積算放出量は 36 .7 μ mol g- 1_{だった。単純な比較は出来ない} が、積算放出量は交換性アルミニウム（22.0μ mol g- 1_{）よりも多かっ} た。一方耕地土壌では、開始 1 分間のアルミニウム放出速度は 5.1 nmo l g- 1_s- 1_{と非常に低い値だった。その後もかなり低い放出速度で移行し、} 20 分間の総放出量は 1.9μ mol g- 1_{だった。} 第 4 項考察１）供試土壌の化学的・鉱物学的特性 ○ 川渡土壌川渡土壌の粘土鉱物はアロフェン・イモゴライトをほとんど含まず、

その主体を 2：1 型 − 2：2：1 型中間種鉱物である（ Ito and Saigusa 1996）。

本研究で供試した未耕地土壌の特性としては、強酸性 ∼ 酸性、多量の交換性アルミニウムを保持している、活性アルミニウムの主体は Al-腐植複合体である、有機炭素含量が多い、P-retentio n が高い、といった非アロフェン質黒ボク土に特有の性質を示した。しかしながら、Ito and Saiusa (1996)が報告しているような極強酸性ではなく、耕地と比較すると交換性塩基含量がほぼ同じで（わずかに低い程度）、三重の未耕地土壌と比較すると可給態リン酸含量が高く、アルミニウム飽和度が低いといった特性を示した。このことから、未耕地土壌に付近の耕

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- 28 - 地土壌が混入している可能性がある。耕地土壌では、土壌 pH が酸性で、未耕地よりは少ないが交換性アルミニウムを持ち、未耕地とほぼ同じ P-retention、交換性塩基含量をもつ、といった性質がみられた。耕地化により Al-腐植複合体や有機炭素含量が低下したという報告がある（Verde e t al. 200 5）。しかし、耕地 Ap 層の全炭素含量の平均値（ 105 g kg- 1_{）と未耕地} _{A 層の全炭素含量} の平均値（111 g kg- 1_{）の間には有意差がなかった（}_{t− 検定、5%水準）。} また、腐植複合体アルミニウムを評価している Alp は未耕地 A 層で平均 15.8 g kg- 1_{、耕地} _{Ap 層で平均 15.4 g kg}- 1_{と差がみられなかった。} 単純に Alp 含量を比較するだけでは耕地化によって Al-腐植複合体が減少しているかどうかの判断が困難であるため、活性アルミニウムに占める Al-腐植複合体の割合を示す、 Alp/Alo の比較を行った。耕地化により Alp/Alo が減少する傾向は見られたが、統計的な有意差はなかった（t− 検定、 5%水準）。このことから、川渡耕地土壌は耕地化（主に石灰中和）の影響があまり大きくないと考えられる。しかしながら、最表層（作土）だけを見ると、全炭素含量は耕地土壌で少なく、CEC や交換酸度(pH 8.2)も減少した。実験室では石灰中和により腐植複合体アルミニウムが一部沈殿し、フリーになった腐植のカルボキシル基の

負荷電により CEC が増加すると考えられる（ Takahashi et al. 2006）。

しかし、実際の圃場では作物栽培によって有機物が系外に持ち出されてその蓄積がないため、耕地土壌では有機物による CEC の発現が低下したと考えられる。 ○ 三重土壌三重土壌に近い東海地方西部（高野尾、久居）の黒ボクの粘土鉱物組成は結晶性粘土を主体とし、層間をアルミニウム複合体で固定され

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たバーミキュライト、カオリナイト鉱物、ギブサイトを主成分とし、クロライト、バーミキュライト、イライトを副成分としている（加藤 1970）。このことから、三重土壌は結晶性粘土鉱物を主体とする非アロフェン質黒ボク土であると考えられた。未耕地土壌は、極強酸性 ∼ 強酸性を示し、交換性アルミニウムが多く、活性アルミニウムの主体は Al-腐植複合体であり、有機炭素含量が多く、 P-retention が高い、といった非アロフェン質黒ボク土に特有の性質を示した。また、交換性塩基含量や可給態リン酸含量が低く、アルミニウム飽和度が高いことから、人為の影響がほとんどない土壌であると考えられる。耕地土壌 Ap 層は、土壌 pH が微酸性、交換性アルミニウムが極わずかしか存在せず、P-retention が未耕地よりも低く、交換性塩基や可給態リン酸含量が高く、アルミニウム飽和度が低い、といった化学性がみられた。また、耕地土壌 Ap 層の Alp/Alo の値は未耕地土壌 A 層の値よりも有意に低下していたことから、Al-腐植複合体が減少したと考えられる（t− 検定、 5%水準）。このことから、川渡耕地土壌と比較して、三重耕地土壌は石灰中和や施肥が十分行われており、耕地化の影響が大きいと考えられる。しかし、未耕地 A 層と比較して耕地 Ap 層の全炭素含量が減少している傾向は見られたが、有意差はなかった（t − 検定、5%水準）。川渡土壌と同様に最表層（作土）の全炭素含量が増加すると CEC や交換酸度 (pH 8.2)も増加していることから、有機物による変異荷電が CEC のかなりの割合を占めていると考えられる。２）アルミニウム溶解特性これまでの多くの平衡実験の報告から、ギブサイトやアロフェン質鉱物は比較的速く溶解平衡に達し、有機物によってアルミニウム溶解