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<紀行>大正ロマンの温泉宿--五足の靴と垂玉温泉

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Academic year: 2021

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(1)「紀 行 」. 二丑. 妙な 馬車 に乗 る。 一寸 見 る と並 通 の乗 合 馬車 だ が 、 中 に 畳が 敷 き つめ て. み. 九 州 道 の熊本 イ ンタ ー を降 り て、 国 道 五. あ る。 床 の下 に 下駄 を 入れ る 所 があ る。 畳 の上 に 四人 座 る、 小 さ い座敷. な. 七 号 線 を 阿蘇 方 面 に向 か う こと 四〇 分 、 前. く し 、黒 い 洋 服 を 白 く し 、白 い シ ャ ツ を 灰 色 に し 、畳 を ざ ら に す る 、堪 っ. すな けむ り. 方 左 に 阿蘇 大 橋 が 視 界 に 入 ってく る。 阿 蘇. と 立 っ て 断 り も な く 窓 か ら 入 っ て来 る 、 夫 が 積 も っ て 、 汗 ば ん だ 手 を 黒. が 動 きだ す 様 で乗 心 地が 妙 だ 、初 め の内 は 我 儘 も出 来 た が、 砂 姻 が ぽ つ. う こと 二〇 分。 山間 の懐 深 く、 近 く に は硫. た も の で は無 い。 お まけ に道 に 敷 か れた 割 栗 が 半 埋 れ て、 車 を虐 待 す る 。. それ. 大 橋 を 渡 り南 郷 谷、 今 の南 阿蘇 方 面 に向 か. 黄 の噴 煙 が 湧 きあ が る垂 玉 温泉 に着 く 。 山. が た、 ぴ しや 、 ど し ん、 が ら 、 す と んと 複 雑 な 九 州 託 の蛮 音 を 出さ せ る。. な かば. 口旅 館 (写真 1)は創 業 が 江 戸時 代 末 期 。 湯. 耳 は 聞 こえ な く な る、 頭 はず ん ∼ と痛 む、 之 で八 里 も行 かな け れば な ら. か しら. 治 場 と し て多 く の文 人 た ち が こ こを 訪 れ た。. ぬ と 思う と 悲 し く な る。 それ も 爪先 登 り のだ ら ∼道 だ から 遅 い、遅 い。. る 程 聞 いた 通 り 菜 は 馬肉 だ と いふ、 汚 な そう だ か ら よ し に した。 彼此 一. さい. 一里 行 っ て 休 む 、 休 む 毎 に 茶 を 飲 む 。 大 津 と い う 所 で 正 午 に な った 。 成 .. 縣 鱒 鍵蟄 三 日、 与 謝 野. 時 間 も休 んだ 、 田舎 は暢 気 だ 。 此時 濠 々な る阿 蘇 の燗 は風 強 け れば 空 の. そら. 璽. で の 一カ 月を 平 戸、 長 崎 、島 原、 天草 あ た り のキ リ. た。 五名 は明 治 四 〇 年 七 月 二八 日 から 八月 二八 日 ま. 価 を得 て いた が 、 他 の四 名 は まだ 無 名 の学 生 であ つ. 五歳 で、 雑 誌 ﹃明 星﹄ を主 宰 し て おり 詩 人 と し て評. 平 野 万 里 の 五名 が 湯 治 に 来 て いる。 与 謝 野 鉄 幹 は 三 .. し て山塞 顕 れ た 、 あ れ は何 だ 、 あ れ が湯 です と 小 い女 がぶ つき らぼ う に. か ら ∼ と崩 れ て谷 を 埋 め る て居 る。 ( 中 略 )く るり と 道 が 廻 ると 、忽 然 と. 見 よ い滝 が 三 つ四 つ落ち て谷 を 流 れ る。 如 何 し た 事 か大 な る山 の 一角 が. す か。 近 かご ざ いま す。 あ の山 は 近 く し て遠 い。遠 い路 を 登 り 尽 くす と. 仰 いで は群 が る山 の後 ろ から 天 へ登 る 灰色 の姻 を 眺 め る。 垂 玉 は 未だ で. し よ う と嫌 ふ べき 馬車 を降 り た 。 灰降 る高 原 を 五 生 は 登 って行 く、 時 々. 士 、井. シ タ ンの遺 跡 を 巡 る九 州 の旅 に 出 た。 そ の帰 路 、 熊. いふ。 後 の滝 の音 面 白 き 山を 負 ひ、右 に切 つ立 て の岡 を控 え 左 の谷 川を. 鉄幹. た るたま. 一半 を掩 ふた 、 日 の光 り為 に暗 く、 眼を 放 てば 遥 に 熊本 の 天に 及 ん で居. 本 か ら 阿蘇 に 入 って い る。 そ の時 の紀 行 を ま と め た. 流 し 、前 は から り と 明 る く群 山 を 見 下 し、 遥 に有 明 の海 が 水 平線 に 光 る。. る。 ( 中 略 )未 だ 日が 高 い。 も う 一里 行 く と垂 玉 の湯 が あ る、其 処 迄努 力. も のが ﹃東 京 日 日新 聞 ﹄ に連 載 さ れ た ﹃五足 の靴 ﹄. 高 く 堅 固な 石垣 の具 合、 黒く 厳 し い山 門 の様 子、 古 め いた家 の作 り、 辺 う. (写真 2) であ る。 五 名 のな か で K と いう イ ニシ ャ. り の要害 と い如 何 見 ても城 郭 であ る、 天が 下を 震 は せ た昔 の豪 族 の本 陣. ど. ルで 出 て く る のが 北 原 白 秋 であ ろ う。 白 秋 は福 岡 、. ら し い所 に、 一味 の優 しさ を 加 へた 趣 があ る。 これ が 垂 玉 の湯 であ る、. 正面 に 二階 建 て の長 い御 長 屋が あ る。 絵 に 見 る遊 郭 の様 で、 唯 古 色蒼 然. た るを 異 に し て ゐ る。 左右 に鶴 翼 を 張 って、 同 じ く 二階 建 て の楼 閣 が あ. 勇 も 早稲 田大 学 文 科 一年。 歳 は 二 二歳 。. 木 下 杢 太郎 は東 大 医科 一年 生 で、 二三歳 。 平 野 万里. も て畳 め る 湯漕 に落 ち る 、色 は無 いが、 細 く 白 い澱 が魚 の子 の様 に 全体. おり. 模 の大 き いのが 気 持 が い い。 湯 も 亦 極 め て大 き い、 三条 の滝 と な って石. すじ. る。 山 を 切 って広 く 平 ら にな ら した 運 動 場 の様 な 庭 も 面白 い。 一体 に規 阿蘇 登山 :八 月 二 七 日 付 け ) で は 次 の よ う に. 書 か れ て い る。 当時 を知 る上 で貴 重 な資 料 な の で、 少 し 長 い が 引 用 し て お く 。. 垂 玉 温泉 に つい て、 連 載 ( 十八. が 東 大 工科 一年 、 二 三 歳 と い う 若 き 文 学 青 年 た ち で あ った 。. み に、 吉 井. 柳 川 の出身 であ り こ の旅 行 の立案 者 とさ れ て い る。. 経営 ビジネス学科 森川 展 男. 白 秋 は 当時 早稲 田大 学 文 科 一年 。歳 は 二 三歳 。 ち な. 大正ロマ ンの温泉宿 ∼五足の靴 と垂玉温泉∼. 名 も い いが、 実 に大 に 気 に 入 った 。 石 の階 段 を 登 り 、大 手 の門 を 潜 る と、. [紀 行].

(2) 近 畿 大 学 産業 理 工 学 部 かや の も り11(2009). ず れば 大 空 を 筋違 い に 灰色 の姻 が 通 る、 新 月 が出 て居 る 、 山 で 見 る星 の. 埃 と違 つて面 白 い処が あ る。遠 く海 に沈 む ゆ く夕 日を 眺 め 、 更 に眼 を 転. を 渡 って落 ち て来 た 地心 の砕 け であ ると 思 ふ と、 気 持 の悪 い中 にも 唯 の. そ こら 灰だ ら け であ る、 踏 む とざ ら ∼ す る。 むく ∼ と 火 口を 出 て 一度 空. に浮 遊 し て居 る。 硫 化 水素 の臭 ひが鼻 を 刺 す。 一浴 し て廊 に 出つ れ ば 、. 意 味 か ら す れ ば や は り 自 然 と か 文 化 、 住 ん で い る 人 た ち の 心 が 俗 化 さ れ て い な い。. た故 に大 きな 観 光 施 設 等 がな く 、 旅 館 も 小さ な も のが 点在 し て いま す。 そう いう. と こ こ が 表 だ と 思 っ て い ま す が 。 南 郷 谷 は 俗 化 し て い な い 、 発 展 の速 度 が 遅 か っ. れ て いま す が、 昔 か ら南 郷 谷 は、 裏 阿蘇 と いわ れ て いま した 。 わ れ わ れ から す る. で 書 い て いま す 。 ち な み に 、 元 々南 郷 谷 と い う の は 、 近 年 の 発 展 の ル ー ト か ら 外. 法 が あ りま せん でし た。 漱 石は. 町 こ の 町 ﹄ ﹃雨 降 り お 月 さ ん ﹄ な ど 。. 月 さ ん ﹄ ﹃七 つ の 子 ﹄ ﹃赤 い 靴 ﹄ ﹃青 い 眼 の 人 形 ﹄ ﹃シ ャ ボ ン 玉 ﹄ ﹃こ が ね 虫 ﹄ ﹃あ の. 人 と し て す ば ら し い 童 謡 や 民 謡 を 残 し て い る 。 思 い 浮 か べ る だ け で も ﹃十 五 夜 お. 旅 館 ) 宿 を と っ て い ま す 。﹂ 雨 情 は 明 治 ・大 正 ・昭 和 を 生 き 、 特 に 大 正 ロ マ ン の 詩. ( 山 口. ﹁二 百 十 日 ﹂ を 同 じ 阿 蘇 の 内 牧 温 泉 の ﹁山 王 閣 ﹂. 光 は極 め て爽 や か で美 し い、 水 の音 が 聞 こえ る。 今 は浴 客 が 満 ち て居 る. 今 も そ う い う 傾 向 は 、 変 わ って い な い と 思 いま す ね 。﹂ ﹁野 口 雨 情 も う ち で. とま. 一九 八 三 年. が 、 秋 な ど 唯 一人 こ ん な 所 へぶ ら り と 宿 った ら 如 何 だ ら う と 思 つた 。 明 日は 天気 が よ さ そ う だ。 国 書 刊 行会. (写 真 3 ) は 先 代 か ら そ の当 時 の こ と を 聞 い て. ( ﹃五 足 の 靴 と 熊 本 ・天 草 ﹄ 濱 名 志 松 編 著 二 二三 頁 ∼ 二 二六 頁 ) 山 口旅 館 七 代 目 当 主 山 口 一尚 氏. ﹁五 人 の う ち 、 四 人 が ま だ 学 生 で 、 も と も と 、 彼 ら. に ﹁ 滝﹂( 写 真 5 ) を 伝 う 水 音 が 耳 に 入 っ て く る 。 か ら だ を 湯 い っぱ い 浸 し て 目 を. 天風呂 ﹁ 滝 の湯 ﹂ ( 写真 5、 6)に つか る。 名前 の通り 静 ま り 返 った午 後 の終 わ り. な ぜ 、 阿 蘇 に 憧 れ る の で ろ う か と 思 い つ つ、 彼 ら の 入 った 温 泉 に 浸 っ て み た 。 露. 五 足 の 靴 の 文 人 た ち も そ の 後 の 大 正 ロ マ ン の中 心 を な し て い く 人 た ち で あ る 。. の九 州 の旅 は キリ シタ ン探 訪 が 目的 であ り 、 柳 川 を. 閉 じ る。. ら れ る の で お 話 を 伺 いま し た 。. 出 て 平 戸 を 回 っ て 熊 本 ま で 戻 って く る の で す け れ ど. 往 時 、 文 人 た ち が 湯 の中 で 何 を 想 っ た か に 思 い を 馳 せ る 。 静 か だ 。 阿 蘇 の噴 煙. ∋艶 ヨ8◎ 辞 ゜ ・ 霊 富∋①な ). 河 陽 Nωω目. が 放 つ硫 黄 の 臭 気 が む し ろ 、 心 地 よ い香 り に な る 。 山 間 か ら 鶯 の鳴 き 声 が 聞 こ え. 8 ①刈6 刈6 08. 南 阿蘇 村. 本 来 の 趣 旨 で は な か った よ う で す 。﹂ そ こ で 、山 口 旅. 血. 一 T°。$ 山 心Oら 熊 本 県. て く る 。 か れ こ れ 小 一時 間 た った 。 そ ろ そ ろ 福 岡 に 戻 る 時 間 だ 。 現 実 の 中 に 戻 る 、. 山 口旅 館. 館 滞 在 中 の 彼 ら に つ い て は 、 ﹁( 旅館 ホ ー ル奥 の壁 の. ﹁七 曲 り ﹂ と い う 急 な 道 を 抜 け て く る し か 方. ( 垂 玉 温泉. 束 の 間 の タ イ ム ト リ ップ で あ った 。. るに は. 阿 蘇 、 当時 は南 郷 谷 と 呼 ん で いま し た が、 こ こ に来. り ま せ ん。 昭 和 四 五 年 に 阿蘇 大 橋 が 出 来 るま では南. も投 宿 し て いた よ う です 。 ダ ム の関 係 で今 はも う あ. う 旅館 が あ り ま し てね。 そ こ に夏 目漱 石や 徳 富 兄 弟. ﹁そ う で す ね 。 立 野 に 戸 下 温 泉 が あ り 、 碧 翠 楼 と い. この南 阿 蘇 に は多 く の文 人 が 投宿 し て いま す が 、. 書 い て い た よ う で す 。﹂. ビ ー ル か な に か あ り ま す ね 。 こ う いう 座 敷 で 原 稿 を. ( 写 真 4) お そ らく 火 鉢 が あ って、 ラ ンプ があ って、. スケ ッチ で す 。 木 下 杢 太 郎 が スケ ッチ を し て い ま す 。. 資 料 の前 で) これ は、 部 屋 で原 稿 を書 いて い る時 の. ま で 来 た か ら 阿 蘇 ま で 行 こう と い う こ と で 、 阿 蘇 は 、. も 。 阿 蘇 は 、 付 け 足 し と い い ま す か 、 せ っか く こ こ. 二五.

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