第 655 回健康教育講座
「脳卒中の予防と治療の最新情報」
開催日 平成18年11月14日(火) 講 師 JA愛知厚生連加茂病院 脳神経外科部長 小 倉 浩一郎 日本もいよいよ高齢化社会になり、生命にかかわる、また助かっても不自由な後遺症や寝たき りの原因になりうる脳卒中という病気への関心が高まっています。脳卒中は長嶋監督のようなそ れまで健康であった人や、また比較的若い人にでも、誰にでも起こりうる病気で、予防も治療も 一筋縄ではいきませんが、最近の脳卒中医学は確実に進歩しつつあります。今回のお話しはその 脳卒中の予防や治療を中心に、加えてアメリカで実現しつつある最新治療:後遺症を改善させる 治療法についてもご紹介します。 約 30 年前頃は、脳卒中になったら「何もせずに、寝かせておけ!」という時代でしたが、最近 ではその脳卒中予防を科学的に解明してきている事と、寝かせておかず、病院に搬送し、超早期 に治療すれば後遺症が出ないようにする治療まで実現しています。 【まず、脳卒中の予防について】 医学では、脳卒中の患者さんの色々なデータを分析する事により、脳卒中になる危険因子を 日に日に解明しつつあります。ただ一方では、テレビや雑誌などでこの食べ物が効くとか、こ の治療が効くなどといった商売がらみの情報も氾濫しているためどれを信頼して良いのか混乱 させるので、困ります。ここで明言しておきたいのは医学の教えてくれているデータは何かを 売るためのものではなく科学的な分析結果で、予防や治療の確率は間違いなく民間療法より信 頼性が高いという事です。やはり確率として医学データを信じる方が正しいと思います。第一 には、生活習慣病として高血圧、糖尿病、高脂血症(高コレステロール血症)、不整脈など、そ して喫煙習慣、過度の飲酒、肥満などがあると脳卒中の発症率は数倍から十倍以上も高いとい うことが証明されていますから、これらを無視して生活する事は脳卒中になるのを待っている ようなものです。まずこれを健診か、かかりつけ医の先生に診断してもらうことが予防に最も 重要です。とくに軽んじられている高血圧への認識を高める事を強調します。少し前までは医 者すらも少しくらい高くてもいいなどと言っていましたが、最近では血圧が高い事が脳卒中の 最大の原因でこの治療により脳卒中の発生率が確実に低下する事が分かり、医者も認識を変え ています。血圧の正常値は 120/80 で、血圧を正常に保つ事が非常に重要ですから、ぜひとき どき測る習慣をつけて注意して高ければ治療して下さい。第二には無症状の健常者の中にも「か くれ脳梗塞」「血管の狭窄」「動脈瘤」などがある人も少なくありません。とくに身内で脳卒中 の多い方や心配な方は、一度頭部の MRI 検査なども調べられると良いでしょう。結局、脳卒中 の予防としては上に述べた事柄を是正していく事が現在最も信頼できる予防法です。 また有効な脳卒中の予防には必要な薬剤を確実に内服する事が大切で、あまり余分な薬剤を 内服する事は大切な薬剤の弊害になったり、薬を軽んじることになり好ましくないと思います。必要最小限の薬を正確、確実に内服しましょう。中には逆に脳卒中に好ましくない薬剤も存在 しますので注意が必要で、お薬の優先順位も考えないといけません。最近 2006 年のアメリカの 脳卒中ガイドラインでは更年期などのホルモン補充療法は脳卒中には使用しないことを強く推 奨しています。 【次に脳卒中の治療について】 脳卒中は予防に心がけていたとしても誰にでも起こり得る病気です。最初に述べましたよう に、一昔前までは脳卒中と聞くと、「動かしちゃだめだ、寝かせておけ」というシキタリ?があ り、しばらくしてから病院へ搬送したりされていましたが、現在はこの遅れが治る可能性を消 してしまう、誤った事と認識されています。意識障害は勿論、『半身がしびれる』『動きにくい』 『喋りにくい』『めまいがひどい』『急に目が見にくい』など脳卒中を疑わせるような症状が見 られた場合には、自分でも、家族でも友人でもすぐに病院を受診して頭部の検査をするように してください。脳出血や脳梗塞の可能性があるからです。脳出血でも早く治療すれば進行を食 い止められますし、脳梗塞の中にはマヒなどの症状が完全に消えて無くなるような劇的な効果 が得られる治療も開発されてきました。脳梗塞でつまった血栓、血の塊を溶かす治療です。し かしながらこれは病院に到着するまでに 2 時間以内くらいでないとできず、それを過ぎると治 療は逆に危険になってしまいます。 一刻も早く、「時は金なり」というより、『時は脳なり』という時代です。 【最後に、近未来の脳梗塞後遺症への治療について】 脳梗塞で半身マヒになり、後遺症に悩まれている方に光明を与える可能性のある最新治療が アメリカを中心に始まりつつあります。脳梗塞後、半身マヒなどが残った人の多くはリハビリ テーションを行い、回復を期待しますが、ほとんどの人はその回復は約 6 ヶ月で頭打ちのこと が多いと考えられ、残念ながらその後の半生を後遺症で悩まされて生活する方が多いのが現実 です。これまで脳神経細胞は再生しないとして、後遺症は半ば諦められていましたが、ある程 度の回復性があり、それを促す脳外科治療として注目しています。 その最新治療もすべての人の後遺症を改善させる訳ではありませんが、片麻痺(半身マヒ) のとくに上肢・手の完全なマヒでない少し動かせるくらいのマヒの方に大脳皮質を電気刺激し ながらリハビリテーションを行うという方法で、アメリカで現在試験的治療が繰り返されてい る段階ですが、使えなかった手で物が握れるようになったなど良好な治療結果が発表されてい ます。この方法自体は以前から別の症状に対して日本でも行われてきた方法ですので私は日本 でも同じ治療が行えるように整備しているところです。ただし、100%良くなると言う保証はあ りませんのでよく検査などをしてから適応を考えなければなりません。その要点についてお話 しします。 愛知県医師会 〒460-0008 名古屋市中区栄 4-14-28 TEL 052-241-4143