ベテラン教師の単元開発において活用される指導方略と
単元開発過程の解明
― 小学校国語科文学教材の授業実践を対象に ― 静岡大学 石 上 靖 芳 本研究の目的は,国語科の単元開発において活用される教師の実践的知識である具体的な指 導方略とその開発過程を具体的に明らかにすることであった。この目的を達成するために,小 学校ベテラン教師の国語科文学教材の単元開発を対象に,3回にわたって実施された事前検討 会での協議内容を文字化し,定性的コーディングにより,指導方略を抽出するとともに開発過 程を検討した。その結果,指導方略に関する29の概念が抽出され,≪実践経験に基づく教材化 方略≫,≪単元開発の具体化方略≫,≪授業展開場面における具体化方略≫の3つのカテゴリー に整理されるとともに,単元開発過程が具体的に明らかになった。 キーワード:国語科単元開発,実践的知識,指導方略,小学校ベテラン教師 1.はじめに 1-1.研究目的と問題の所在 本研究の目的は,小学校ベテラン教師を対象に, 国語科の単元開発過程において活用される教師の 実践的知識である具体的な指導方略とその開発過 程を具体的に明らかにすることである。 教師はどのようにして授業を構想し実践を行っ ているのだろうか。これまでにも授業構想の重要 性が指摘されてきており,研究が盛んに進められ てきている(藤岡,1998;吉崎,2008 など)。 藤岡(1998)は,教師が事前に授業を構想するこ とを授業デザインと呼び,ねがい,目標の明確化, 学習者の実態,教材の研究,授業方針,学習環境・ 条件の6つの構成要素をあげ,ねがいを中心とし てそれぞれの相互連関を図りながら授業の全体を 構想する重要性を主張している。また,吉崎(2008) は,授業デザインの構成要素として,授業に対す る思い,授業の発想(発想力),授業の構成(構 成力),教材力,問題意識の5つの構成要素をあ げて,創造的で魅力ある授業デザインの重要性を 主張している。以上から専門職として教師を捉え るならば,創造性豊かに授業を構想し,実践,評 価という過程を繰り返して授業実践に取り組んで いく上で,授業を構想していく力量は極めて重要 である。 また,生涯にわたって学び続ける教師像が叫ば れる中,授業力量の重要な役割を担っている授業 構想の手続きや方法に関する内実について理論的 枠組みに留まることなく,さらに実践の文脈で捉 え具体的に明らかにしていく必要がある。 教師の授業構想に関する実践的知識の重要性を 最初に指摘したのは,ショーマン(L. Shuman, 1987)である。とくに,ショーマンは教師が授業 の計画・実施・評価の各段階で使用する知識の総 体を 「知識基礎」 (knowledge base) と呼び, 教師 が保有する知識を教師知識とし整理している。そ の1つに授業を実施するために,教科内容の知識 を児童・生徒が理解しやすいように翻案して提示 する知識をPCK (pedagogical content knowledge) として位置付けた。また, ショーマン (1987) は, 授業の計画・実施・ 評価の過程を「教育学的推論と活動」(pedagogical reasoning and action) と呼び, 教師知識はこの思 考過程で機能するとしている。教育学的推論と活 動とは,①包括的理解(comprehension),②翻案 (transformation), ③ 指 導(instruction), ④ 評 価 (evaluation),⑤省察(reflection),⑥新しい包括 的理解(new comprehension)の①~⑥の循環的 な過程をさし,教師の実践的思考や認知過程に焦 点を当てた教師の学習過程を示している。「包括 〈原著論文〉 日本教科教育学会誌 2019.12 第42巻 第 3 号 pp.1-13 DOI: 10.18993/jcrdajp.42.3_1 3
的理解」では,教師は取り扱う単元の目標や教え る内容についての概念的理解を図る。次に「翻案」 では,児童・生徒の実態に合わせて教育内容を構 造化し,単元展開や授業展開,最適な教授法を取 り入れるなど教材化を行う。そして「指導」では 実践を行い,その学習者の到達度の「評価」から 「省察」を行い,「新しい包括的理解」を得て新た な授業実践に関する認識を形成する。 さらに教材化の過程である「翻案」では,①準 備過程,②表象過程,③選択過程,④適合,⑤仕 立ての5つの過程を示している。「準備過程」では, 授業で取り扱う教材や素材を批判的に検討し,単 元の目標に照らし合わせてそれぞれの授業やまと まりに分節化,構造化を図っていく。「表象過程」 では,取り扱う教材に関して,学習者が理解しや すいようにモデルや例示に置き換えることができ るかを検討する。「選択過程」では,具体的に導入, 展開,終末などの授業展開やどの場面でグループ 活動を取り入れるかなどの教授方法等を位置付け る。「適合・仕立ての過程」では,実際に児童・ 生徒の状況に応じて,計画された授業展開等の調 整を図ることで実践される授業が構成されるとし ている。そしてこの翻案の過程にPCK が強く働 くとしている。 1-2.教師の PCK に関する先行研究の検討 日本におけるPCK の研究に関しては,磯崎他 (2007),中田他(2012),磯崎(2016)などの研 究がある。磯崎他(2007)は,中学校理科教師を 対象に質問紙調査を実施し,数量的解析から,翻 案の教材化過程である,①準備過程,②表象過程, ③選択過程,④適合・仕立てに関する具体的内容 を明らかにするとともに,初任教師は中堅,熟練 教師と比べて教授学習内容についての知識,一般 的な教育学的知識,学習者に関する知識が発達し ていないことを明らかにした。 中田他(2012)は,小学校の理科を対象に,あ る理科の授業実践ビデオを初任教師,熟練教師に 視聴させ,オンラインモニタリング法を用いて視 聴最中に述べられる発話をカテゴリー分析するこ とで,初任教師,熟練教師のPCK の特徴を明ら かにした。その結果,熟練教師は,初任教師に比 べて,指導方略についての知識,科学的リテラシー の評価についての知識が多く,質的にも豊かで能 動的に既有知識に新たな知識を構築しようとして 言語化が行われていることを示した。 磯崎(2016)は,小学校の家庭科を対象に,若 手教師と熟練教師へのインタビュー調査を行い, 翻案の具体的過程である,①準備過程,②表象過 程,③選択過程,④適合・仕立てに関する具体的 内容を明らかにした。さらに,熟練教師は,複合 的で構造化された知識を幅広い文脈や状況におい て活用していること,家庭科の内容を教えること 以上に子供の学びを重視して教材化を行っている こと,学習指導要領の目標を子供の家庭生活の文 脈で読解し,家族の一員として子供が「生活をよ りよくしようとする実践的な態度」を育成できる ような視点で,授業を実践していることを明らか にした。 一方,本研究が対照とする国語科を対象にした 研究には,藤原・遠藤・松崎(2006),坂本(2012), 丸山(2014)がある。藤原他(2006)は,ある中 学校国語科熟練教師を対象として,ライフヒスト リー・アプローチの研究方法により,生涯にわたっ ての国語科総合単元学習の単元レベルでの授業実 践をインタビュー,授業実践に関する資料等をも とに実践的知識の形成過程及び変容過程を巨視 的・微視的に捉え明らかにした。具体的には,実 践的知識全般を特徴づける基底的カテゴリー,国 語科総合単元学習の授業における実践テーマ的カ テゴリー,実践テーマを実現するための実践モ チーフ的カテゴリー等に整理した。 坂本(2012)は,ある小学校熟練教師を対象に, ナラティブアプローチ(インタビュー)により, 同一教師の国語科における説明文読解と物語文読 解の授業実践に関する実践的知識を,「授業観」, 「教材研究」,「授業過程」の3層構造に整理した。 加えて,物語文読解の授業実践と省察から形成し た授業過程に関する知識を説明文読解の実践的知 識に適応していること。物語文読解では,本文が 重視され,本文の言葉や表現からイメージを膨ら ませ,相互に聴き会うことでイメージを重層化す るのに対し,説明文読解では,本文の内容読解を 通して,子供たちが新たな知識や視点を形成する ことが学習過程であり,そのために必要に応じて 他の資料の内容もテキストとして用いることがあ ることなど分野間の共通性や相違性について明ら
かにした。 丸山(2014)においては,授業実践知を明らか にしようとした一連の研究がある。例えば,国語 科高校教師を対象にナラティブアプローチの研究 方法を用いて,熟練教師と初任教師の授業展開を 支える「目指す読み」,「目指す学習者」,「発問生 成の過程」の概念を抽出している。熟練教師の授 業では,これら3要素が相互に連係しサイクルを なして機能することで学習者の読む学びの成立・ 向上に結実するが,初任教師は,これら授業実践 知の構成3要素が、互いに連携せず断片的な状態 にとどまっているため,学習者の読む学びが不十 分な授業展開になっていることを明らかにしてい る。 これまでの理科,家庭科及び国語科に関する先 行研究は,PCK 解明に関して重要な知見を提示 してきているが,質問紙調査,ビデオ視聴,イン タビュー,参与観察などから教師のPCK を解明 しようとしたものであり,実際の授業実践を前提 とした単元構想や単元開発を対象としてこなかっ たという課題を指摘できる。さらに,国語科にお いては,単元や授業の実践を特徴づける実践的知 識については示されてきているが,単元を開発し ていく具体的指導方略や手続きに関しては明らか にされてこなかった。以上の先行研究の課題を踏 まえれば,実際の授業実践を対象に,単元開発過 程において,どのような教師の指導方略が活用さ れているかを実践上の文脈で捉え,具体的に明ら かにし,その知見を事例として蓄積していく必要 がある。そこで本研究では,ベテラン小学校教師 の実際の授業実践を対象に,単元構想段階で活用 される指導方略及び単元開発過程を事例を通して 明らかにすることを目的とする。 2.研究方法 2-1.分析対象者及び単元開発について 本研究では,S 県教育委員会から S 大学教職大 学院に派遣されている小学校籍のK 教諭の授業 実践を対象とする事例研究である。K 教諭は,教 職歴23年のベテラン教諭であり,これまでに研修 主任7年,国語科主任5年,S 市内小学校国語部 部長2年,S 市内の小学校を4校経験している。 これまでに国語科を研修の基軸として教師生活を 歩んできており,地域でも国語科教育の実践家と して高い指導力をもっていると評価が高い。K 教 諭はこれまでの実践の理論的裏付けや,さらに自 身の実践を充実させたいという強い動機をもって 教職大学院へ進学をしている。K 教諭は教職大学 院の学校実習の一環として取り組まれているアク ション・リサーチ(以後「AR」と表記)及び課 題研究として,「協働省察・自己省察と授業実践 との繰り返しが授業力量形成に果たす効果」と題 して,平成26年2月~11月の約10ヶ月にわたり, S 市内の I 小学校の五年生の学級に所属し,学年 で取り組む授業研究の効果と省察との関係を明ら かにするために長期間のAR に取り組んだ。その 年の9月に自らが,協働省察・自己省察の意義を 明らかにするために国語科の単元開発に取組み, 派遣されている現職大学院生らと事前検討会を通 して単元を開発し,所属する5年部の学級におい て授業実践を行った。単元開発の過程及び授業実 践を通してどのような省察をし,自身の授業改善 を図っていったのかを整理し,実践研究成果報告 書としてまとめた。 本研究では,この単元開発の3回にわたって実 施された事前検討会,K 教諭が執筆した実践研究 成果報告書等を分析対象とする。平成26年9月に 取り組んだ授業実践は,5年国語科教材「大造じ いさんとがん」(光村図書)であり,9時間の単 元が構想され,5時間目が公開研究授業として公 開された。この時の単元開発のテーマは,単元を 貫く言語活動を位置づけること,これまでの取組 の半分程度に時間を短縮して単元を開発すること などがK 教諭の目標となった。この単元開発に 関して,大学において合計3回の事前検討会がも たれ,5人の教員がこの事前検討会に参加し,単 元構想と5時間目の公開授業が検討された。5人 は現職派遣教員の小学校教員3人,中学校国語科 教員1人,筆者である教育方法学を専門とする大 学教員1人である。5人とも教職経験が17年以上 (平均21年)あり,筆者を除いた全員が国語科に 関する授業の実践経験者であった。筆者は,立場 上K 教諭の指導教官であり,事前検討会,全て の授業実践の観察及び毎時間の事後検討会に立ち 合い,K 教諭の自己省察の推進者としての役割を 果たした。
2-2.データと分析方法 本研究で分析するデータは,以下のとおりであ る。 (1)第1回事前検討会(平成26年8月13日実施 約120分),(2)第2回事前検討会(平成26年8月 27日実施 約120分),(3)第3回事前検討会(平 成26年9月3日実施 約100分),(4)第1回~3 回の事前検討会で提示されたK 教諭の単元構想 案及び授業案,(5)開発した国語科単元の授業ビ デオ 約10時間分,(6)K 教諭が教職大学院で執 筆した実践研究成果報告書:「協働省察,自己省 察と授業実践との繰り返しが授業力量形成に果た す効果-小学校学年研修における単元開発の取り 組みを通して-」(全161頁:開発した単元,実践 の記録) (1)~(3)の発話データに関しては,IC レコー ダーで記録し,すべてを文字に起こしトランスク リプトを作成した。(4)~(6)に関しては補助的 に抽出された指導方略の確認のために用いた。 分析に関しては,佐藤(2008)の定性的コーディ ングの方法を参考に,K 教諭の単元開発の説明及 び協議による応答説明に関する発話を対象に指導 方略の抽出を行った。定性的コーディングに関し ては,まずオープンコーディングとして,発話デー タの解釈を繰り返し行い,あるまとまりのデータ 毎に小見出しを付けて構造化を図った。さらに焦 点的コーディングとして,データのもっている意 味を洞察し解釈を行い,単元開発に関する指導方 略を概念として確定し抽出を行った。抽出された 指導方略に関する概念は,関連性,内容のまとま りごとにサブカテゴリーとして整理し,さらに開 発手続きやサブカテゴリー間の関連性を検討しカ テゴリーとして整理した。単元開発の中心となっ ているカテゴリーをコアカテゴリーに位置付ける とともに,単元開発過程を関連図として作成した。 3.結果と考察 3-1.単元開発の概要 分析の結果,表1に示したように,文学教材の 単元開発過程においては,単元開発していく上で の指導方略に関する29の概念が抽出され,<作品 読み取りの視点>,<教材に内在する価値>, <授業改善へ向けての挑戦課題>,<単元目標の 設定>,<朗読への対応方略>,<開発の具体的 方略>,<授業の質を深める具体的方略>,<授 業構成と展開の方略>,<子どもの学習状況の想 定>の9つのサブカテゴリーと,さらに≪実践経 験に基づく教材化方略≫,≪単元開発の具体化方 略≫,≪授業展開場場面における具体化方略≫の 3つの指導方略に関するカテゴリーに整理され た。さらにこれらのカテゴリー,サブカテゴリー 間の関連を検討し開発過程を関連図として示した のが図1である。 単元開発過程の概要は以下の通りである。≪実 践経験に基づく教材化方略≫においては,これま での実践を通して獲得された文学教材単元開発に おける<作品読み取りの視点>,椋鳩十作品であ る「大造じいさんとがん」の<教材に内在する価 値>を基盤に,さらに授業改善を推進させていく ための強い動機として<授業改善へ向けての挑戦 課題>を具体的に明示化する。 こうしたこれまでの23年間の授業実践から培わ れた≪実践経験に基づく教材化の視点≫を踏ま え,コアカテゴリーである≪単元開発の具体化方 略≫に入っていく。ここのカテゴリーにおいては, <授業改善へ向けての挑戦課題>を踏まえ,具体 的に単元展開と構成が検討される。まず,<単元 目標の設定>が行われ,今回の単元開発の挑戦課 題の1つであった<朗読への対応方略>が検討さ れる。そして,単元展開と構成の<開発の具体的 方略>が平行して検討される。このとき,常に3 つのサブカテゴリーであるそれぞれの<単元目標 の設定>,<朗読への対応方略>,<開発の具体 的方略>を往還しつつ調整を図りながら単元構想 が検討される。 ≪単元開発の具体化方略≫の枠組みが具体化し てくると,次に公開授業研究会で公開される当日 の授業である≪授業展開場面における具体化方 略≫が検討される。ここのカテゴリーにおいては, 具体的な実践場面において,<授業の質を深める 具体的方略>,<授業構成と展開の方略>が検討 され,実現可能かどうか調整が図られ具体化され る。その際には,それらの具体化された授業構想 の妥当性や効果について,<子どもの学習状況の 想定>が常に往還的にシミュレーションされ,授 業構想の精緻化が図られる。
表1 Kベテラン教師の指導方略に関するカテゴリー・サブカテゴリー・概念リスト カテゴリー サブカテゴリー No. 概念名 定 義 具 体 例 実践経験に 基づく教材 化方略 作品読み取 りの視点 1 叙述に即し ての読み取 り 文学作品に書かれてい る文章に即して解釈を 行い,読み取りを深め ていくこと 書いていないことで話し合っても,それは深まらない。ただの拡散になる。文章にか いてあることをもとにして何かを明らかにしていくということが大事だと思う。確か に存在するものを根拠として解釈をもってこないと,子どもたちの話し合いって本当 にふわふわしてしまう。だから,叙述に即して読むということが大事にされているの だと思う。 2 読み取りの 多様性の保 証 ある叙述を読み取るに あたり,違う解釈が生 まれることを大切にし 認めること 例えば同じ文章,1つの文章を手掛かりとした子が二人いて,でもA くんのそこから 読み取ったことと,とB くんのとは違うっていうときにどちらかに収束する必要はな いんだよね。わりと長い場面だから,最後の戦いの場面は,読みが1つの読みに,み んな同じ読みになってしまうとか,みんな同じ解釈になってしまうっていうことはな いと思う。 3 主人公の読 み取りに焦 点化 主人公の叙述等に焦点 をあてて読み取り,解 釈をより深めていくこ と ・ 誰が主人公かっていうのを明らかにしておくことが必要,これをもとに読み進めて いく。 ・ じいさんがどうなんだというところが(この物語では)一番だいじなところ。それ が,なんだか,大造じいさんと残雪の戦いみたいな,大造対残雪とかになっちゃう と物語の読み取りが(本文から離れて)変になっていく。若いときには何で変な話 し合いに(空想で展開される)なってしまうのかがわからなかった。 4 発達段階に 応じた読み 取りの方法 各学年においてどのよ うな内容や方法で読み 取りを行うのかをその 系統性を踏まえて設定 すること 3,4年生になってくると,読むことは,目的に応じ,内容の中心をとらえたり,段 落相互の関係をとらえたりして読む能力を身につける。文学的なのは,登場人物の性 格や気持ちの変化情景などについて想像して読む。(学習指導要領の)指導事項の内 容の中に,叙述をもとに想像して読むって書いてある。それの上に5,6年生があって, 叙述をもとにするのは大前提だということ。 教材に内在 する価値 5 生き物への 畏敬の念 大造じいさんが,生き 物であるガンの残雪に 人間と同じように尊敬 の念を抱くとの解釈 ・・・どういう人柄かっていうと,動物に対しても非常に畏敬の念を抱いて,なんて すごいやつだって。人間に対して思うのと同じように動物に対しても狩人である大造 じいさんだからこそそういうふうに動物に対しても同じ,生きるっていう生き物とし て畏敬の念を抱くことができるそういう大造じいさんを描いた。 6 主人公の劇 的な心情の 変化 ガンの頭領である残雪 といざ対峙する場面が 訪れたとき,事件が起 き心情が劇的に変化す る物語であるとの解釈 残雪という1羽のガン。いまいましいそういう相手。残雪という群れの頭領を追い続 ける姿。その残雪といよいよ戦いの場面になった時に事件が起きて対峙する場面が来 る。そこで大造じいさんは心に劇的な変化が起きている。劇的な変化という場面を椋 鳩十さんはここで設定することによって,この大造じいさんの人柄をすごく表してい る。 7 行動描写中 心の鋭い文 章構成と展 開 大造じいさんの行動描 写を中心に記述された 文章で構成され展開さ れているとの解釈 今回の「大造じいさんとガン」は60年以上前に書かれているけれど,すごくするどい 文章。心情の描写は少なくて,行動の描写が多い。行動から何を感じるか,読み取り を求められている。今までの4年生までの物語の文体とはちょっと違う感じ。すごく キリッとした文章で,惹きつけられて,どんどん読みたくなるような文章と場面展開 になっている。 授業改善へ 向けての挑 戦課題 8 配当時数の短縮化 これまで十分な授業時 数を配当し取り組んで きた実践を見直し,授 業時数の短縮化を図る こと 今までの大造じいさんとガンでは,割と時間をかけて16時間とかかけながら,場面ご と大造じいさんの気持ちの変化を追っていくというのをわたしも,若い頃にやらせて もらったのですが,今はその半分の時間数でやっていくと設定されていることを考え ると,全部の場面を場面ごと追って大造じいさんの気持ちを考えていくというのは時 間的にはやりきれないと思っています。・・・今回は8時間または9時間での単元構 想を組みたい。 9 単元を貫く 課題として の朗読の設 定 解釈を中心としたこれ までの実践を見直し, 単元の中心課題として 朗読を位置づけ単元開 発を行うこと もう一つ挑戦したいことは,朗読をやりたいということ。これは,自分がすごく苦手 で,読みってなかなか評価できないっていうか,読み取っていることを,読解で読み 取れたことを表現で評価するって,ちょっと違うのかなって思っている。・・・読め ているのだけれど,じゃあ,朗読としてのうまい,下手に関係しているかといったら, 必ずしも関係しているわけではない。朗読するということで取り組むって,ちょっと 自分に自信がないというか,違和感があったりして,これまでにやってこなかった。 10 学んだこと で子ども自 身に成長を 実感させる 単元を通して学んだこ とで子ども自身が自身 の成長を実感できる単 元展開を考案すること 算数とか理科みたいに,答えが一つで,こうだからできたとか,解けたとか,そうい うのがない教科。勉強してだんだん自分が高まっているんだという実感が国語にはな い。だから,今回は自分の朗読を,勉強する前と後で聞いて,自分で評価するってい うのをやりたい。それ(読み取り)とは別の,国語の勉強をすると,自分自信が変わっ ていけるっていう,そういう教科なんだということを子どもたちに知ってもらいたい なと考えている。 11 学んだこと が生かせる 活用場面の 設定 文学作品の読み取る方 法を習得させ,他の作 品でも転用して活用で きる場面を設定するこ と 「大造じいさんとガン」が読み取れればいいのではなくて,「大造じいさんとガン」を 学習したことで,他の物語も今までより読めるようになる,とか,読んでみたいと思 うとか,そういうところをねらいたい。 単元開発の 具体化方略 単元目標の 設定 12 学習指導要 領で示され た内容との 整合性の確 認 単元の目標を設定する にあたり,学習指導要 領で記述された内容と の整合性や妥当性を確 認すること 学習指導要領にはこんなふうにかいてある。・・・内容が,アかカまであるが,この 単元ではアとエのところだと考えたアは,自分の思いや考えが伝わるように音読や朗 読をすること。エが,登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優 れた叙述について自分の考えをまとめること。この2つをやっていくことになると思 う。 13 単元におけ る達成目標 の設定 開発する単元において 子どもの達成目標を具 体的に設定すること 単元の目標は自分の思いや考えが伝わるように朗読をすることができる。それから, 優れた叙述に気づき自分の考えをまとめることができる,この2つです。 朗読への対 応方略 14 音読と朗読の相違の明 確化 中学年で取り扱う音読 と高学年で取り扱う朗 読の差異を明確にし単 元に位置づけること 音読が文章の内容や表現をよく理解し伝えることに重点があるのに対して朗読は,ひ とりひとりが自分なりに解釈したことや関心や感動したことを文章全体に対する思い や考えとしてまとめ,表現性を高めて伝えることに重点があるということ。 15 単元への朗 読の位置づ け方 主人公の読み取りを深 めることが朗読の向上 につながると考え,朗 読を単元に位置づける こと 朗読に挑戦するってなった時に,何をしていくことが自分の読みが朗読になっていく のかな,ってことを考えた時にみんなだいたい大造じいさんのことがわかればいいん だよ。もっとよく読めると思う,となっていくと思うから。大造じいさんのことがわ かるようにもう少し大造じいさんのことについてやっていこうね。
カテゴリー サブカテゴリー No. 概念名 定 義 具 体 例 16 朗読の評価方法 主人公の解釈を深めて いけば,それが朗読に も反映されて質の高ま りが期待できると評価 方法を考えること きっと,ひとりひとりは最初の読みとあとの読みでは上手になると思うんですよ。学 習してみて,大造じいさんがこんな感じで,この時は考えていた。次の時はこう考え ていて,絶対に取れると思っていたのでけれども,でも,こんな事件が起きちゃった,っ ていう,ちゃんと大造じいさんのことがわかっていくというそういう学習をすれば, すらすら読む,文字をすらすら読むというところだけではない変化がきっとその子な りにはあると思う。 開発の具体 的方略 17 単元におけ る課題設定 目標を達成するための 課題を単元の中に位置 付けること 朗読をするために朗読台本を作る。今までは,書き込みで線を引いて,そこからわかっ たことを書いてきたけど,そういうものを作って,そこで読み取りの評価にしていこ うと考えている。例えば,本文が上,下に自分の解釈を書けるようにする。大事な文 や言葉にラインを引いて下に自分の解釈。おじいさんはこういうふうに考えているか らっていうのを下に書く。 18 単元構成と 具体的展開 学習効果を高めるため に学習活動をどのよう に単元に位置づけ展開 するかを考えること 第1次は2時間とって,音読と朗読の違いを考えたりとか,学習の見通しを持ったり とか,学習前の読みを撮る。というので2時間を考えている。真ん中の第2次が4時 間とってあって,ここで本文を解釈するということを4時間でやろうかなと思ってい る。第3次で朗読する。学習した後の朗読を撮ったりとか,見せ合ったりとか,いい ものを紹介したりとかそういう時間にしていきたい。 19 単元での学 習の見通し 単元の初期段階におい て,達成目標を具体的 に示し見通しを持たせ ること じゃあ,大造じいさんの何がわかればいいわけ?みたいなことをやっていくと,学習 の計画が少し立っていくかな,と。何をすることで朗読が上手くなっていくのかって いう見通しを立てるのが2時間目に行うこと。 20 読み取り方 の習得の方 法 読み取りを深まるため の手立てを単元に位置 付けること 今まではほら,そこの気持ちについてとか,すごく角度をつけてそこだけをバーっと やってきたけれども,読み取り方を学ぶみたいなそういう時間にしたいかな。 授業展開場 面における 具体化方略 授業の質を 深める具体 的方略 21 読み取りを 深めるため の工夫 読み取りを深めるため に具体的な手立てや工 夫を設定すること ・・・だって残雪の呼び方が全然変わってるじゃんっていうのが絶対出てくるので, その呼び方をちょっとチョイスして,あらすじの中にも入れていくと,「たかが鳥」っ ていったいたのが,ここの場面では「ただの鳥に対していうようには思えない」とか, 最後は「えらぶつを」という表現に変わっているっていうことは確かに変わってるん だねってというように大造じいさんの変化を言葉で追っていける・・・ 22 主人公に関 する叙述の 解釈 主人公に関する行動描 写を基にその叙述が主 人公のどのような状態 を表しているのかを解 釈すること なんとなくその場面が悲しそうだからじゃなくて。ちゃんとここにこの時大造じいさ んがこうだったから,こんな風に考えているんじゃないか,って書くことが大事。 23 文章表現の 機能的分類 の方法 会話文,心情描写,行 動描写,情景描写など の文章表現に分類し, 叙述を解釈して深く理 解していくこと 大造じいさんとガンはテキストなんで,これを使って,会話文,心情描写,行動描写, 情景描写,そういうものから気持ちが読み取れる。今までの4年生の物語にはそうい う表現はなかったけれども,5年生になったら改めてこういうことからも登場人物の 気持ちって追うことができるんだっていうことが理解できる。 24 解釈の多様 性を引き出 す課題の設 定 子どもたちが思考を通 して,多面的・多層的 な解釈を生み出すよう な課題の設定を考案す ること なぜとか,どういう気持ちだったかとかは聞かないで,どこかっていう質問の仕方を するつもりなんです。そうすると,言葉とか,文書とか,ここからだと思うっていう ふうに,それをねたに,それは何を表しているとか,それはもっと違うことを表して いるとか,そういう綺麗な言い方はしないと思うけど,その言葉や文章が,一番話題 の中心になってくると思う。だからそこの解釈の仕方の,バリエーションが出てくる ような話し合いにしたいので,どこかっていうふうな聞き方をしているつもりなんだ けど。 授業構成と 展開の方略 25 学習効果を 促進させる 授業展開 学習効果を高めるため に学習活動をどのよう に授業場面に位置づけ 展開するかを考えるこ と 最初,大造じいさんの見方が大きく変わったっていうところはどこからどこって聞く じゃんね,でそれの活動がずっとあって,でじゃあ,その子供達がわりとどっかピン ポイントにはならないけど,だいたいここらとここら辺りの間で変わってるんだよ ねってなったとき,で,じゃあ次の学習活動に移るじゃんね。・・・今回一番考えた いこと,大造じいさんとがんの文章って1つ1つがどういう役割をもっているのだろ うっていうことを考えたいのが一番のメインだから,・・・ 26 話し合いの場の設定 与えられた課題に対し て,それぞれの子ども の解釈の相違を確認す るために全体の場で話 し合いを設定すること 自分は気がつかなかったけれども,ああそこからもわかるんだ,っていう気づき。同 じその言葉なんだけれども解釈が前後をどう読み取っているかによってここの解釈が 違ってきてるっていうところで気づく。そういうところで話し合いの時間を1回もち たい。そこで,ああ,大造じいさんとガンてそういうところからもいろんな読み取りっ てできるんだ。自分はそこまで読めてなかったな。というふうになってくれると話し 合いの価値があると思う。 27 読み取り方 を理解する ための板書 の工夫 読み取りを深めるため に,課題に対して子ど もが選んだ文章を教師 が機能的な視点での分 類方法を視覚的に示し 授業を展開すること (子どもが選んだ文章を)それ板書に示していくつもりでいるんですけど,で貼って いきながらそこから何がわかるかって書いていくんだけれども,で出してくれたその 文章,根拠となる言葉とか文って,それぞれに違いがあって,会話文だったりとか, 行動の描写だったりとか,直接的な心情が描かれていたりとか,それめくると色が付 いているようにするんですが,会話は会話で同じ色になっている。残雪の行動は行動 で緑がついている。おじいさんの行動はおじいさんでピンク色になっている。 子どもの学 習状況の想 定 28 課題に対し て想定され る子どもの 学習状況 設定した課題や構想し ている授業展開に対し て想定される子どもの 言動や活動の表れ等に ついて想定すること 本時の展開になっていないんですけれども,子どもたちが一番最初に言ってくるのは, 「僕は,ここでこの言葉っていうか,ここのところで,おじいさんはすごく気持ちが 変わっていると思います。なぜなら,ここの言葉がこういうことを表しているとか, ここでおじいさんは残雪を見て感じていると思ったからです」っていう言い方で。こ このところです。それはどういう理由ですっていう言い方でちらばっていろいろ出て くるんだと思う。 29 学習の高ま りへの期待 子どもたちに構想した 授業展開や採用した方 略等がより深い学習を 導くことを期待するこ と ・ なんかね,みんなで話し合ったほうが意見がいろいろ出そうな感じがする。なんか 4人ぐらいのグループでここを議論するよりも,大人数でやったほうがここがもう ちょっといろんな読み取り方が出てくるのではないかな,と思う。 ・ ちゃんと大造じいさんのことがわかっていくというそういう学習をすれば,すらす ら読む,文字をすらすら読むというところだけではない変化がきっとその子なりに はあると思う。
図1
K
3-2.各カテゴリーにおける単元開発のプロセス (1) ≪実践経験に基づく教材化方略≫カテゴリー について 次に各カテゴリーにおける抽出された単元開発 における指導方略の概念について説明を行う。 ≪実践経験に基づく教材化方略≫においては,こ れまでの授業実践により培われた<作品読み取り の視点>として,作品に書かれている文章に即し て解釈を行い,読み取りを深めていく【1. 叙述に 即しての読み取り】や,その叙述を読み取るにあ たり,違う解釈が生まれることを大切に認める 【2. 読み取りの多様性の保証】を担保することが 重要な視点となる。さらに今回の「大造じいさん とがん」では,残雪に焦点を当てるのではなく, 主人公の大造じいさんの叙述に焦点をあてて読み 取り,解釈を深めていく【3. 主人公の読み取りに 焦点化】を図っていく。また,学習指導要領に示 された指導事項の意図を確認し,中学年,高学年 の読み取りの系統性を考慮し【4. 発達段階に応じ た読み取りの方法】を明確化して位置付ける。文 学教材単元開発においては,こうしたこれまでに 獲得された指導方略を有している。その一方で, 「大造じいさんとがん」の<教材に内在する価 値>として残雪を人間として同じように取り扱う 【5. 生き物への畏敬の念】を抱いていること,い ざ残雪と対峙するときがきたとき事件が起き, 【6. 主人公の劇的な心情の変化】が起きているこ と,文章の特徴や構成方法として,【7. 行動描写 中心の鋭い文章構成と展開】によって成り立って いると教材を解釈している。 これらのこれまでの過去6回にわたる授業実践 を 通 し て 獲 得 さ れ て い る < 作 品 読 み 取 り の 視 点>,<教材に内在する価値>を踏まえ,ベテラ ン教師としてさらに自身が成長していくための <授業改善へ向けての挑戦課題>を有している。 一つには,これまでの読み取りの方法を改め,効 率よく読み取りを進めるためにこれまでの実践の 半分程度の8・9時間に【8. 配当時間の短縮化】 を行うこと,二つには,解釈を中心としたこれま での実践を見直し,苦手意識からこれまでに取り 組んでこなかった【9. 単元を貫く課題としての朗 読の設定】を行うこと,三つには,学んだことの 実感が持ちにくい国語科の実践において単元の最 初と終わりに朗読をタブレットPC で録音し,そ の比較から【10. 学んだことで子ども自身に成長 を実感させる】単元を開発すること,四つには, 作品を深く読み取る方法を習得させ,【11. 学んだ ことが生かせる活用場面の設定】として「並行読 書」を単元に位置づけること,以上の4つの挑戦 課題を核にして単元開発を行うという強い動機を 有している。 また,これまで以上に学習指導要領の趣旨に則 ること,国語科における国の動向を踏まえた単元 を貫く言語活動やクライマックスを中心に読解を 行うという授業に関する新しい方法論を取り入れ ることで,自身の授業を改善して再構築したいと いう強い動機が単元開発の原動力の基盤となって いるのである。 (2) ≪単元開発の具体化方略≫カテゴリーについ て これまでの実践経験で獲得された単元開発に関 する指導方略や授業改善をして成長したいという 強い動機を基盤に,コアカテゴリーである≪単元 開発の具体化方略≫に進み,今回の朗読を位置づ けた単元開発を行う上での<単元目標の設定>が 行われる。目標を決定する際には,【12. 学習指導 要領で示された内容との整合性の確認】を行った 上で,具体的に「自分の思いや考えが伝わるよう に朗読をすることができる」「優れた叙述に気づ き自分の考えをまとめることができる」と【13. 単元における達成目標の設定】が決定される。次 に今回の単元開発の挑戦課題の1つである【9. 単 元を貫く課題としての朗読の設定】を具体化する ために,<朗読への対応方略>が検討される。学 習指導要領の記述に基づき,音読は中学年におい て,文章の内容や表現をよく理解して伝えること に重点があるのに対し,高学年で取り扱う朗読は, 児童が解釈したことの表現性を高めて伝えること に重点があるという認識のもと【14. 音読と朗読 の相違の明確化】を図る。また,主人公である大 造じいさんの読み取りを深めることが朗読の向上 につながると考え,【15. 単元への朗読の位置付け 方】に関する単元を展開する上で基軸となる指導 方略を位置付ける。さらに評価しにくい個々の児 童の【16. 朗読の評価方法】に関しては,主人公 の解釈が深まっていけば,朗読においても質的な
高まりが反映されるというこれまでの経験に基づ いて獲得された実践の原理・原則に基づき評価の 指導方略を位置付ける。このように朗読の単元開 発を核として<朗読への対応方略>が位置付けら れている。 <朗読への対応方略>が具体化・明確化しはじ めると同時に往還しつつ,単元の<開発の具体的 方略>の検討が平行して行われる。単元の目標の 一つである「自分の思いや考えが伝わるように朗 読をすることができる」の実現を目指し,【17. 単 元における課題設定】として,上には本文,下に は各々の解釈を記述する朗読台本を作成して単元 を展開することを位置づける。続いて,単元開発 の第1次では,朗読を高めるための学習活動の見 通しをもたせる,第2次では,朗読を高めるため に本文の解釈を深める,第3次では,各自が朗読 をタブレットPC で録音したものを紹介し合う時 間を設定するというように,【18. 単元構成と具体 的展開】を機能的・効果的に展開できるよう構想 し,単元の枠組みを決定し具体化を図る。特に何 をすることが朗読の向上につながるかを単元の初 期段階において,【19. 単元での学習の見通し】を 持たせることと,読み取りを質的に深めるための 方法論としての【20. 読み取り方の習得の方法】 を単元に位置づけることが意識される。 (3) ≪授業展開場面における具体化方略≫カテゴ リーについて ≪授業展開場面における具体化方略≫において は,<授業の質を深める具体的方略>,<授業構 成と展開の方略>が存在し,それぞれが<子ども の学習状況の想定>を往還しながら,公開研究授 業の授業構想の具体化・精緻化が進む。<授業の 質を深める具体的方略>として,例えば,物語が 進展するに従い,「たかが鳥」だったのが最後は「え らぶつ」という表現に変わっているとう表現の変 化に気づき,大造じいさんの心情の変化について 考えさせるなどの具体的な【21. 読み取りを深め るための工夫】を設定することや,大造じいさん の行動描写に関する記述からそれがどのような状 態を表しているのか【22. 主人公に関する叙述の 解釈】を位置づけることで授業の構成を具体化す る。さらに叙述に関して,「会話文」「心情描写」, 「行動描写」,「情景描写」の【23. 文章表現の機能 的分類の方法】を設定することで,これまでに学 んだことのない読み取りの方法によって深く再解 釈を行う方法論を位置づける。また公開研究授業 の主課題の設定の発問に関しては,大造じいさん が残雪に対して大きく見方が変わったところを 「どういう気持ちだったのか」というように直接 気持ちを聞くのではなく,「どこの文章からそれ がわかるのか」かというように間接的に質問をす ることで,それと思われる文章を子供から複数抽 出させることを狙って,【24. 解釈の多様性を引き 出す課題の設定】を行い,多面的・多層的な思考 を生み出すような課題の設定を位置付ける。 <授業構成と展開の方略>においては,<授業 の質を深める具体的方略>を踏まえ,効果的な授 業構成と展開が設定される。例えば,「最初,大 造じいさんの見方が大きく変わったって聞くじゃ んね,それでその活動がずっとあって,(略)こ こら辺りの間で変わってるんだよねってなったと き,で,じゃあ次の学習活動に移るじゃんね。」 に示されているように,子供の学習状況を想定し て【25. 学習効果を促進させる授業展開】が構想 される。さらに,大造じいさんが残雪の見方を大 きく変えたところはどこかについての個々の解釈 の相違の表出を狙い,多重的・多層的に深めてい くために全体の場での【26. 話し合いの場の設定】 が位置付けられる。また,子どもたちの発言から, 大造じいさんの見方が大きく変わった文章を短冊 に転写したものを貼り付けていき,色で分けられ た会話文,心情描写,行動描写,情景描写の機能 的な視点で分類整理することで,視覚的に【27. 読み取り方を理解するための板書の工夫】が具体 的に構想される。 <授業の質を深める具体的方略>及び<授業構 成と展開の方略>においては,常にその方略の妥 当性や効果について,<子どもの学習状況の想 定>が併せて往還しつつ検討される。例えば,見 方が大きく変わった文章を挙げる課題に対して, 「子供たちが一番初めに言ってくるのは,『僕は, ここでこの言葉っていうか,ここのところでおじ いさんはすごく気持ちが変わっていると思いま す。』って言い方で。ここのところです。」という ように【28. 課題に対して想定される子どもの学 習状況】がシミュレーションされる。また,「な
んか4人ぐらいのグループでここを議論するより も,大人数でやったほうがもうちょっといろんな 読み取り方が出てくるのではないかな,と思う」 というように話し合いの場の設定に関する指導方 略を設定する状況において,より効果的で深い 【29. 学習の高まりへの期待】が授業構成や展開の 文脈上においてシミュレーションされる。 以上の過程を経てK ベテラン教師は,さらに 自身の授業を改善し高めていこうとする強い動機 を基盤として,単元・授業づくりに関する指導方 略を駆使して国語科文学教材の単元開発を行って いるのである。 4.総合考察 ショーマン(1987)は,授業構想過程を,①準 備過程,②表象過程,③選択過程,④適合,⑤仕 立て過程の5つの過程を理論的に示している。本 研究では,≪実践経験に基づく教材化方略≫, ≪単元開発の具体化方略≫,≪授業展開場面にお ける具体化方略≫の3つの構造的な過程として整 理された。≪単元開発の具体化方略≫は①準備過 程,②表象過程に,≪授業展開場面における具体 化方略≫は,③選択過程,④適合,⑤仕立て過程 のそれぞれの区分に対応しているものと考えられ る。単元全体の構想から実際に実施する授業を想 定して具体化・精緻化されていった一連の過程は 原則一致していた。本研究では,新たに,これま でに形成されてきた単元開発に必要な教材化の視 点や開発動機等から構成されている≪実践経験に 基づく教材化方略≫を単元開発過程の根幹に位置 付け示している。そのため,K ベテラン教師の国 語科文学教材の単元開発過程の一連の指導方略を 中心とするPCK の特徴に関して,内面にまで踏 み込んで構造的かつ詳細に示すことが可能となっ た。 ≪実践経験に基づく教材化方略≫カテゴリーは K ベテラン教師がこれまでの過去6回にわたる実 践経験から獲得された指導方略である。<作品読 み取りの視点>のサブカテゴリーにおいては,叙 述として書いていないことを話し合っても深まら ないという経験から得た叙述に即しての読み取 り,行動描写の叙述を追える大造じいさんを主人 公に設定して焦点化を図ることで読みを深めてい くこと,鍵となる主要な文章の子どもたちの読み の解釈を幅をもって認めていく読み取りの多様性 を保証すること等の指導方略は,これまでの同僚 との授業研究や授業実践を試行錯誤する経験を通 して獲得されてきた指導方略である。また,<教 材に内在する価値>のサブカテゴリーにおいて は,動物に対しても人間に対して思うのと同じよ うに生き物への畏敬の念を抱くこと,狩人として 残雪という群れの頭領を追い続ける姿,その残雪 といよいよ戦いの場面になった時に事件が起き, 大造じいさんの心に劇的な変化が起きるという主 人公の劇的な心情の変化を押さえること,これら の教材に内在する価値への解釈は,これまでの教 材研究や授業実践の経験を経て獲得された指導方 略である。これらの両サブカテゴリーの指導方略 は,国語科文学教材の単元開発を行う上で確固た る指導観,教材観の基盤の上に構成されていた。 また,藤岡(1998)や吉崎(2008)は授業デザ インにとって実現したい授業へ向けて授業への願 いの重要性を指摘している。本研究における<授 業改善へ向けての挑戦課題>は実現させたい授業 への強い願いでもあり,時間の短縮,新たな朗読 の設定,自身の成長を実感させる,活用場面の設 定は,K ベテラン教師ならでの複合的で高度な内 容の挑戦課題であり,単元開発を推進していく上 で強い原動力になっていた。 ≪単元開発の具体化方略≫のカテゴリーは, <単元目標の設定>, <朗読への対応方略>, <開 発の具体的方略>のサブカテゴリーからなり,単 元開発のコアカテゴリーとして中核に位置づいて いた。つまり,4つの挑戦課題の解決へ向け,こ の3つのサブカテゴリーに属する指導方略を駆使 することで,単元の目標の設定,新たな開発の視 点である朗読の導入,具体的な単元構成・展開を 往還的なやりとりの中で単元の大枠を具体化して いった。中でも,<朗読への対応方略>である音 読と朗読の相違の明確化,単元への朗読の位置付 け方,朗読の評価方法の各指導方略は,挑戦課題 である朗読を位置付けた単元開発を具体化してい く上で,常に意識され重要な指導方略として位置 づいていた。今回新たに単元開発で活用された指 導方略として考えられ,この後,授業実践の経験 を経て文学教材等を開発していく指導方略のレ
パートリーとして定着していくものと考えられる。 ≪授業展開場面における具体化方略≫のカテゴ リーにおいては,<授業の質を深める具体的方略 >,<授業構成と展開の方略>,<子どもの学習 状況の想定>の3つのサブカテゴリーで構成さ れ,実際に実施される授業を想定して,その質を 高めるために3つのカテゴリーに属する指導方略 が往還的なやりとりを通して,相互に依存的な関 係を保ちながら授業構想が具体化・精緻化されて いった。特に<授業の質を深める具体的方略>に おける,読み取りを深めるための工夫や文章表現 の機能的分類,解釈の多様性を引き出す課題の設 定は,ベテランならではの創造性と実効性に富ん だ指導方略であり,質や効果を高めるために有効 に機能していた。木原(2008)は,ベテラン教師 の授業実践に関して,安定性,実効性,柔軟性, 整合性に富んでいることを指摘しているが,本研 究対象のK ベテラン教師においても,目標の設定, 単元・授業の構成・展開,評価と首尾一貫して関 連が図られ,実効性,柔軟性,整合性に富んだ単 元開発が行われていた。 本研究の単元開発過程を要約するならば,まず, これまでの実践経験に基づく教材化の方略や強い 授業改善への動機を有すること,次に改善課題を 明確化し,その課題を解決することを軸に単元の 大枠や内容が指導方略をもとに構想されること, そして実際の授業実践を前提に質や効果を高める ために授業の展開や内容が指導方略をもとに構想 されていたことである。また,磯崎(2016)は, ベテラン教師は,複合的で構造化された実践的知 識を幅広い文脈や状況において活用していると指 摘しているが,これまでに示してきたようにK ベテラン教師も実践の文脈や状況に応じて創造的 で実効性のある単元を開発するために構造化され た指導方略が効果的・機能的に駆使されていたと いえよう。 以上のようにこれまでに藤原他(2006),坂本 (2012),丸山(2014)で示されてこなかった国語 科文学教材の単元作成に活用される指導方略とそ の開発過程の実際について具体的に示すことがで きた。 5.おわりに これまでに,ベテラン教師の実践的知識は,若 手教師との比較対象で扱われ,実践的知識の到達 点として扱われることが多かった。今回示したK 教諭のように強い動機を持ち,授業改善が志向さ れ単元開発が行われていたことは,K 教諭自身の 授業スタイルの変容はもちろんのこと,教師の実 践的知識である指導方略が新たに獲得されたこと を示唆している。これは,ベテラン教師であるK 教諭の力量形成として捉えることができ,その指 導方略の獲得過程を具体的な事例として構造的に 示せたことは,本研究の成果である。 最後に本研究の課題について述べておきたい。 第一に本研究は,事例研究としてベテラン教師 の単元開発過程で活用される教師の実践的知識で ある指導方略とその過程を具体的に明らかにした が,これでベテラン教師の実践的知識である指導 方略と開発過程が一般化できるわけではない。別 のベテラン教師は,違う指導方略を活用し,K 教 諭とは異なる開発過程をたどることも考えられ る。今後,複数の事例を扱うことにより,一般化 の可能性を追求していく必要がある。 第二に,この後,授業実践段階と単元実施後の 単元を再構成する各段階において,どのような指 導方略が活用されているのかを一連の授業実践過 程として捉え,授業力量形成の視点から検討して いく必要がある。併せて今回文学教材の開発過程 を対象としたが,説明文読解など他分野で活用さ れる指導方略についても検討していかなければな らない。第三に,K 教諭の国語科の単元を開発し ていく指導方略は,23年間の教職経験を踏まえ, 6回にわたる教材研究・授業研究,授業実践を通 して培われたものであり,一朝一夕に身についた ものではない。確固たる教材観,指導観を持つに 至ったその試行錯誤し獲得されていった過程を具 体的に明らかにしていく必要がある。 第四に,教員研修における本研究の知見の提供 である。藤原他(2006)は,事例研究の意義に関 して,教師にその事例と自らの実践経験を対照さ せて,経験を振り返る契機を提供できる典型性を 持ち得ることを指摘している。このことを鑑みれ ば,本研究の事例分析による知見は,授業研究会 の事前検討会や地域での国語科の授業研究会等で
の活用により,若手からベテラン教師までを対象 に,単元開発の具体的視点や要諦を示すことで, 自身の実践を振り返る契機を提供できるものと考 える。以上のことを踏まえ,教員研修で本研究の 知見を提供できるような具体的研修の方法を開発 していかなければならない。 引用・参考文献 八田幸恵(2008)「リー・ショーマンのPCK 概念 に関する一考察 -「教育学的推論と活動モデ ル」に依拠した改革プロジェクトの展開を通し て-」,京都大学大学院教育学研究科紀要,第 54号 藤岡完治(1998)「授業をデザインする」浅田匡・ 生田孝至・藤岡完治『成長する教師-教師学へ の誘い-』,金子書房 藤原顕・遠藤瑛子・松崎正治(2006)『国語科教 師の実践的知識へのライフヒストリー・アプ ローチ -遠藤瑛子実践の事例研究-』,渓水 社 石上靖芳・平松佑(2010)「同僚との対話から表 出される教師の実践的知識解明に関する事例研 究:小学校社会科における単元デザイン作成過 程に焦点を当てて」,静岡大学教育学部研究報 告.人文・社会・自然科学篇 61,pp.249-268 磯崎哲夫・米田典生・中條和光・磯崎尚子・平野 俊英・丹沢哲郎(2007)「教師の持つ教材化の 知識に関する理論的・実証的研究 -中学校理 科 教 師 の 場 合 - 」, 科 学 教 育 研 究,Vol.31. No.4,pp.195-209 磯崎尚子(2016)「家庭科の授業を行う小学校教 師のPCK に関する研究 -若手教師と熟練教 師に関する比較研究-」,pp.125-133 木原俊行(2008)『授業研究と教師の成長』,日本 文教出版,pp.249-259 丸山範高(2014)『教師の学習を見据えた国語科 授業実践知研究 -経験に学ぶ国語科教師たち の実践事例からのアプローチ-』,渓水社 中田伸介・磯崎哲夫・中條和光(2012)「小学校 教師の理科授業で使用する知識に関する研究」, 科学教育研究,Vol.36.No.1,pp.27-37 坂本篤史(2012)「小学校教師の国語科授業にお ける実践的知識の分野間相違 -ある熟練教師 による説明文授業と物語文授業の語りの比較か ら-」,教師学研究,Vol.11,pp.35-46 坂本篤史・秋田喜代美(2012)「教師」,金井壽宏・ 楠見孝編『実践知 エキスパートの知性』,有 斐閣,pp.174-193 佐藤郁哉(2008),『質的データ分析法』,新躍社 Shulman, L. S. (1987), Knowledge and teaching:
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吉崎静夫(2008)『事例から学ぶ 活用型学力が 育つ授業デザイン』,ぎょうせい
Investigation into the Instructional Strategies and Development Processes Utilized in the Creation of Japanese Language Unit by Elementary School Veteran Teacher:
With a Focus on Learning Material Used in Literature Classes by
Yasuyoshi ISHIGAMI Shizuoka University
The goal of this research is to concretely clarify practical knowledge, such as developmental processes and instructional strategies, utilized by teachers in the creation of Japanese language units. In order to achieve this goal, I transcribed the discussion details of three separate investigative meetings, which were run to inquire how elementary school veteran teachers developed their learning material for Japanese language literature units. This transcribed data was analyzed using a qualitative coding method, in order to extract the instructional strategies and investigate the developmental process. As a result of this analysis, 29 concepts relating to instructional strategies were extracted, which were placed into three categories: “strategies for creating material based on practical experience,” “realized strategies for unit development,” and “realized strategies used at the place lessons were developed.” Through this analysis, it was possible to thereby concretely clarify the unit development process.
Key words: creation of Japanese language unit,practical knowledge, instructional strategies, elementary school veteran teacher