特発性血気胸に対する胸腔ドレナージと
出血性ショックの関連性についての検討
背 景
特発性血気胸は自然気胸の 2 〜 5%に発生するまれな疾 患であるが,大量出血でショックをきたすことがある緊急 性の高い病態である1)2)。なかには胸腔ドレナージ後出血 が増す症例があるが報告は少ない。特発性血気胸に対する 胸腔ドレナージ後の出血性ショックについて調査した。方 法
2014 年 1 月〜 2018 年 12 月の間に経験した特発性血気 胸の全 9 例を対象とし,年齢,性別,気胸の既往歴,症状, ショックの有無,ドレーン挿入の有無,手術の有無,入院 期間,ドレーン挿入期間をカルテより後方視的に検討した。 ドレーン挿入,手術基準は診察医と術者判断であり,手術 例は全例で全身麻酔下に片肺換気とし,胸腔鏡下止血術を 行った。結 果
臨床的特徴を Table 1 に示す。平均年齢 38 歳,男性 7 例,寺住 恵子
1),森 毅
2),佐々木妙子
1),堀 耕太
1),
山永 成美
3),林田 和之
1),横溝 博
3) 〔要旨〕【目的】特発性血気胸に対するドレナージ挿入後の出血性ショックについて調査する。【方法】2014 〜 2018 年に来 院した 9 例の特発性血気胸について,輸血要否,治療選択,ドレナージ後の出血性ショックをカルテより後方視的に調査し た。【結果】8 例に胸腔ドレナージを施行し,挿入後 3 例が出血性ショックとなった。2 例に緊急手術,1 例に輸血を継続した。 エアリーク持続や出血増加で他 3 例が後日手術を要した。手術時間は平均 83 分で,入院期間中央値は手術例 7 日(4 〜 11 日), 非手術例 9.5 日(6 〜 11 日),ドレナージ期間中央値は手術例 4 日(2 〜 8 日),非手術例 9 日(5 〜 9 日)であった。【考察】 胸腔鏡下手術による止血は比較的容易で,早期手術を検討すべきである。胸腔ドレーン留置後に出血が助長される症例があ り,注意深い経過観察が必要である。【結論】特発性血気胸に対し胸腔ドレーンを挿入する際は循環動態の注意深いモニター を要す。 〔キーワード〕特発性血気胸,ドレナージ,ショック,手術 女性 2 例であった。来院時症状として胸痛がもっとも多く 8 例,呼吸苦は 3 例にみられた。気胸歴がある患者は 1 例 のみで,残り 8 例は初発患者であった。9 例中 1 例は当初 X 線検査でニボー形成がみられず自然気胸の診断で入院し たが,そのほかは初回の X 線検査でニボーを指摘できた。 来院時全症例で循環動態は安定していた。症例 9 の 20 歳, 男性が X 線撮影中に閉塞性ショックとなり緊急脱気を受 けた。症例 4 の高齢患者を除いた残りの 8 例に胸腔ドレー ンを留置した。症例 4 は高齢者でありバイアスピリン服用 の背景があった。また,胸痛の発症が数日前であり CT 検 査では血腫が被包化されていたことから,ドレーン挿入に よりむしろ出血を助長するリスクがあると診察医に判断さ れたためドレナージを施行されなかった。 症例 2,6,9 の 3 例は胸腔ドレーン挿入直後に血圧低下 を認め,循環不安定となった。以下にこの 3 例の経過を示 す。 1.症例 2 19 歳,男性。他院で右肺の完全虚脱を指摘されたが対 応困難で熊本赤十字病院(以下,当院)へ転院搬送となっ た。来院時呼吸数 17 回 / 分,脈拍数 107 回 / 分,血圧 107/65mmHg,SpO2 100%(10L 酸素投与)であった。前 医の X 線検査でⅢ度気胸が確認されており,緊張性気胸 を懸念し胸腔ドレナージを施行した直後に 400mL の血性 所属:熊本赤十字病院 重症外傷センター 外傷外科1), 熊本赤十字病院 呼吸器外科2),熊本赤十字病院 外科3) 著者連絡先:〒 861-8520 熊本県熊本市東区長嶺南 2-1-1 熊本赤十字病院 重症外傷センター 外傷外科 受付日:2020 年 5 月 14 日/採用日:2020 年 8 月 20 日原 著
排液があった。その後呼吸苦が出現しバイタルサインを 再検した際,脈拍数 103 回 / 分,収縮期血圧 60mmHg ま で低下していた。X 線検査では液面の上昇を認めた。ド レーンからの出血が持続し出血性ショックと判断し,ア ルブミン製剤と輸血を開始するとともにドレーンの吸引 圧を-5cmH2O から-3cmH2O へ変更した。フィブリノゲ ン 151mg/dL と低下しており,新鮮凍結血漿を開始した。 CT 検査では肋間動脈の損傷所見は認めなかった。来院当 日は最終的に 850mL/3h の出血があり,外科へ手術適応 につきコンサルトしたが,外科診察時はショックを離脱し ており排液も減少傾向にあったため保存的加療可能と判断 された。輸血は赤血球 280mL,新鮮凍結血漿 480mL を要 した。ドレナージ期間は 9 日で,入院 11 日目に自宅退院 となった。 2.症例 6 48 歳,女性。当院来院 10 日前より咳嗽が出現し前医 で軽微な気胸と診断されていたが,胸背部痛を生じて 前医を再診した際に気胸増悪を認め,当院へ転院となっ た。 来 院 時 呼 吸 数 19 回 / 分, 脈 拍 数 84 回 / 分, 血 圧 152/79mmHg,SpO2 96%(3L 酸素投与)であった。X 線 検査ではⅢ度気胸を認め,CP-angle は鈍だが明らかな液 面形成は認めなかった。胸腔ドレナージ施行後 50mL の血 性排液があり,末梢冷感・湿潤,気分不良が出現した。血 圧は 83/43mmHg まで低下し急速輸液が行われた。X 線を 再検したところ右肺野全体の透過性低下が出現しており, 出血を疑い背側にドレーンを追加した。一気に 500mL の 血性排液を認め,出血性ショックとして緊急手術の方針と した。胸視下に観察すると,肺尖部にはブラを認め,対側 の壁側胸膜の策状物から出血していたためエネルギーデバ イスで止血を行った。肋間動脈損傷は認めなかった。手術 時間は 107 分で,術後出血は認めないものの皮下気腫の増 悪があり,ドレナージ期間は 8 日を要し,入院 11 日目に 自宅退院となった。 3.症例 9 20 歳,男性。前医受診の 3 日前より左胸に違和感と弱 い胸痛が持続した。胸痛が増悪して前医を受診し左血気胸 と診断され,当院へ転院となった。来院時呼吸数 12 回 / 分。 脈拍数 86 回 / 分,血圧 122/79mmHg,SpO2 95%(room air)であった。胸部 X 線検査では左のⅢ度気胸と胸腔内 のニボー形成を認めた(Figure 1)。X 線撮影直後に収縮 期血圧が 80 mmHg 台に低下したため緊張性気胸への進展 疑いで胸腔ドレーンによる脱気を施行した。直後の血圧 104/65 mmHg,脈拍数 72 回 / 分,SpO2 96%(2L 酸素投 与)であった。再検された胸部 X 線検査では液体貯留が 増加していた(Figure 2)。胸腔ドレーンから持続性の出 血を認め,徐々に血圧が低下し気分不良を訴えた。もっと も悪化時は血圧 89/56mmHg,脈拍数 91 回 / 分となった。 コンサルトを受けた外科医がドレーンを追加したところ, 一気に 1,200mL の出血があったため出血性ショックと診 断した。出血が持続するためドレーンはクランプされ,緊 Figure 1 Chest X-ray on admission
Tension pneumothorax and a niveau were observed in the left thoracic cavity.
急輸血が開始されて緊急手術の方針となった。全身麻酔下 にドレーン留置部を利用し,3 ポートで胸腔鏡下手術を施 行した。術中左肺尖部にブラを認め,ブラと対側の壁側胸 膜に異常血管を認めたためエネルギーデバイスを用いて止 血した(Figure 3)。手術時間は 88 分で,術後 2 日目にド レーンを抜去し,4 日目に自宅退院した。 そのほか手術となった症例の内訳は,呼吸器内科入院中 の症例 5,症例 7 の 2 例がドレナージ 2 日目に出血の増加 があったため緊急手術となり,症例 8 の 1 例はエアリーク 持続のために 5 日後に手術となった(Table 2)。 非手術症例の 4 例中 3 例と,手術症例の 5 例中 3 例に輸 血を要した。 手術例のドレナージ期間中央値は 4 日(2 〜 8 日),入 院期間中央値は 7 日(4 〜 11 日),非手術例はそれぞれ 9 日(5 〜 9 日),9.5 日(6 〜 11 日)であった。術後ドレナー ジ期間は,症例 6 が皮下気腫の増悪で 8 日となった以外, 残りは術後 1 〜 2 日であり,術後に輸血を要する患者はい なかった。 手術例は全例で事前に胸腔ドレナージが行われた。術中 確認された出血部は肺尖部壁側胸膜と上葉間の血管を含む 策状物で,エネルギーデバイスで止血し全例胸腔鏡下に合 併症なく完了できた。3 例で肺尖部にブラを認め切除した が,残り 2 例では認めなかった。平均手術時間は 83 分(56 〜 107 分)であった。
考 察
特発性血気胸は外傷や肺疾患の既往がないにもかかわら ず,一般的には気胸に 400mL 以上の胸腔内出血を伴う病 態とされ3)4),22 〜 35 歳の若年男性に好発するとされる1)。 出血の原因として壁側胸膜からブラに迷入した異常血管の 破綻がもっとも多いとされ3)5),当院の手術症例も全例,肺 尖部対側の壁側胸膜より出血していた。なかにはブラが はっきりしない症例もあった。Figure 2 Chest X-ray after chest drainage
Fluid collection of the thoracic cavity increased after chest drainage.
Figure 3 An abnormal vessel of the chest wall was found during operation (arrow)
特発性血気胸で問題となる異常血管は周囲の包み込む組 織が乏しいため,破綻した後も血管収縮が得られず出血が 持続し出血性ショックに至る5)。一方で Kakaris らによる と来院時にショックを呈する患者は 29.5%にも及ぶとの報 告がある2)。33 〜 50%の症例で循環動態の不安定を回避 するために輸血が必要であるとの報告もある1)。当院の症 例では来院時ショック状態の患者はみられなかったが,胸 腔ドレナージ直後に出血が増加しショックバイタルとなっ た症例が 3 例あり,特筆すべき注意点である。いずれの症 例も当初肺の虚脱が強く,胸腔ドレナージ後の X 線検査 で新規に液体貯留が出現するか,既存するニボー像の液面 が上昇している所見が得られた。ドレーンからのエアリー クや出血が確認されており,閉塞は解除された状況であっ たため出血性ショックを呈したと判断される。一方でド レーン挿入 2 日目の出血が多い症例がありショックとなり 得る可能性を秘めているが,時間当たりの出血量が少ない, 適宜輸血が行われているなどの理由からショックには至っ ていない。 出血部位の検討として,当日緊急手術となった 2 例では, 術中所見でドレーン挿入による内胸動脈や肋間動脈の損傷 は認めず肺尖部の壁側胸膜側の索状物から出血を認めるの みであった。気胸による胸腔内圧上昇から一時的に出血点 の止血を得ていたが,ドレーン挿入により再出血が助長さ れたと考えられる。そのほか後日手術になった症例すべて が,肺尖部対側の壁側胸膜の異常策状物を確認されており, ほかに明らかな出血点を認めなかった。 症例 2 はドレーン挿入後に X 線検査で液面の上昇を認 め,かつドレーンから持続出血し血圧低下しており,出血 性ショックの診断となったものの,外科診察時は輸血蘇生 によりバイタルサインが安定し排液が漸減したため手術が 行われなかった。当症例における出血点は手術を行ってい ないため明確ではないが,少なくとも出血増加後の造影 CT 検査においてドレーン挿入に伴う肋間動脈等の損傷を 疑う所見はなかった。そのほか症例 1 でも持続出血のため 出血点の検索目的に造影 CT 検査を施行されたが,ドレー ン刺入部とは異なる場所で肺尖部周囲に血腫を形成してお りドレーン挿入に伴う副損傷は否定的と考えられた。 日本においては,過去少なくとも 16 例が胸腔ドレーン 挿入後に出血性ショックの増悪を認めたと報告されてい る1)6)。再出血の原因として,①前述したドレーン陰圧に よる陰圧解除,②ドレナージストレスによる過剰な呼吸運 動や心拍動,③ブラの存在やドレナージ位置不良で肺の再 膨張が不十分でタンポナーデ効果が得られなかった,④ブ ラ内の異常血管の血栓が外れて再出血する,等諸説述べら れる6)。そのためドレーン留置時にはのちの出血量増加と ショックバイタルへの進行に注意を払い,緊急手術となる 可能性を念頭に処置を行うべきである。 手術適応は従来,金山らの報告にある持続的な出血が 100 〜 150mL/h 以上持続する場合,胸腔内に大量の凝血 塊が存在する場合,ショック状態にある場合とされる3)。 一方 Hsu らの報告によると 201 例の胸腔ドレナージを受 けた患者の 87.6%が最終的には手術を要し7),そのほかの 報告でも保存的治療を選択した多くの症例で輸血を要した 3)。治療法には保存的治療,開胸手術,胸腔鏡下手術があ るが,近年では胸腔鏡下手術が安全であり,術後の創部痛 が軽度,入院期間の短縮,鎮痛薬の減量などメリットが多 くあげられている1)3)7)8)。そのため今は診断がつき次第胸 腔鏡下の止血術を早期に検討する施設報告が多い。近年で は Aljehani らが胸腔ドレーン留置部の切開創を用いたシ ングルポートでの治療を紹介しており,最小限の治療侵襲 で,術後早期の回復が期待されている9)。 今回の検討において判明したことは,当院においては明 らかなショック症例を除けば手術適応が個々の診察医の判 断に委ねられており,後方視的にみて早期手術を行うこと で確実な止血と輸血の回避ができ得た症例があることであ る。当初呼吸器内科に入院する症例も多く,手術が行われ るにしてもドレーン留置後平均して 1.5 日経過後に行われ ていた。経過観察の間に出血量増加や輸血の必要性が生じ ている症例もあったことから,救急科や呼吸器内科とも密 接なコミュニケーションを取りながら手術時期を細やかに 検討する必要がある。また,ドレーン留置後にショックに なる症例があることを考慮し,ドレーン留置に際しては適 切に時間当たりの出血量を測定するとともに,循環動態を モニターし緊急輸血と手術に備えることが望ましい。 さらに言うと早期手術を前提とすれば,来院時の X 線検 査でニボー形成が明らかな症例では,閉塞性ショックを伴 わないかぎりドレーン留置を行わず当日手術を行うことで, 出血増加や不要な輸血を回避できる可能性がある。今後の 症例の積み重ねによりその有用性を検討する必要がある。
結 論
特発性血気胸はまれであるが,出血性ショックを呈する こともある緊急疾患である。とくに胸腔ドレーン留置後の 出血助長に注意し,ドレーンの挿入の検討と同時に早期手 術を念頭に置くことが肝要である。 利益相反:本論文における利益相反はない。 文献1)Nose N, Mori H, Yonei A, et al: A case of spontaneous hemopneumothorax in which the condition worsened after chest drainage. J Surg Case Rep 2018; 2018(8): 1-4.
2)Kakaris S, Athanassiadi K, Vassilikos K, et al: Spontaneous hemopneumothorax: a rare but life-threatening entity. Eur J Cardiothorac Surg 2004; 25: 856-858.
3)金山雅俊,大﨑敏弘,西澤夏將,他:特発性血気胸に対す る胸腔鏡下手術 14
例の検討.日呼外会誌 2016;30:806-An examination about the relationship between thoracic
drainage for spontaneous hemopneumothorax and
hemorrhagic shock
Keiko Terazumi
1), Takeshi Mori
2), Taeko Sasaki
1), Kota Hori
1),
Shigeyoshi Yamanaga
3), Kazuyuki Hayashida
1), Hiroshi Yokomizo
3)Japanese Red Cross Kumamoto Hospital, Trauma and Critical Care Center1),
Japanese Red Cross Kumamoto Hospital, Thoracic Surgery Department2),
Japanese Red Cross Kumamoto Hospital, Surgery Department3)
Purpose:Spontaneous hemopneumothorax (SHP) is a rare, but troublesome condition as it may cause an abrupt
hemorrhagic shock. We clarify the clinical feathers of SHP.
Methods:Here we report 9 cases of SHP from 2014 to 2018.
Results:8 cases underwent chest tube drainage. Of these, 3 cases experienced hemorrhagic shock. Two of these 3
cases required urgent surgery. Of 6 cases without shock, 3 cases subsequently required surgery due to air leakage or increased blood loss. Eventually, 5 cases required surgery and 6 cases required blood transfusion. Video-assisted thoracoscopic surgery (VATS) was performed in all cases and hemostasis was successfully achieved without any complications by cauterizing the abnormal vessels arose from the chest wall. Mean operative time was 83 minutes. The median hospitalization in surgery group was 7 days (4-11) compared to 9.5 days (6-11) in conservative therapy group.
Discussion:VATS should be considered when the patient is diagnosed as SHP in order to prevent hemorrhagic shock
requiring blood transfusion.
Conclusion:Caution should be exercised even in patients with conservative therapy regardless of whether the chest
tube was inserted or not.
KeyWords:spontaneous hemopneumothorax, drainage, shock, operation
810. 4)桐山亮太,新美誠次郎,親松裕典,他:特発性血気胸の診 断に対する検討.胸部外科 2018;71:995-997. 5)橘高弘忠,亥野春香,秋元寛:緊張性血気胸と出血性ショッ クを合併した特発性血気胸の 1 例.日臨外会誌 2019;80: 37-41. 6)篠原寿彦,三森教雄,野尻卓也,他:胸腔ドレナージに より shock 状態を呈した自然血気胸の 2 例.日臨外会誌 1999;60:2086-2090.
7)Hsu NY, Shih CS, Hsu CP, et al: Spontaneous
hemopneumothorax revisited: clinical approach and systemic review of the literature. Ann Thorac Surg 2005; 80: 1859-1863.
8)Patrini D, Panagiotopoulos N, Pararajasingham J, et al: Etiology and management of spontaneous haemothorax. J Thorac Dis 2015; 7: 520-526.
9)Aljehani YM, Almusairii JA: Efficacy of uniportal video assisted thoracoscopic surgery in management of primary spontaneous hemopneumothorax. Int J Surg Case Rep 2019; 55: 47-49.