数学教育学会誌 2019/Vol.**/No.*・*
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数学
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図形
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座標
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視線
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計測
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研究
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**** 概要:本研究では,地図上での方向判断時における視線移動を計測し,その特徴を検討すること を目的とした。実験課題として,経路が示された地図を見ながら,曲がり角で,右・左ど ちらに曲がるかを答えるものを設定した。所要時間の長短をもとに,参加者を2 群に分類 し,群間の比較を行った結果,先読み回数と読み戻り回数に違いが見られた。これらの知 見は,算数・数学における空間認識,絶対座標と相対座標の関係などの教育内容を検討す る上での基礎データとなりうるものである。 検索語:視線移動,地図,方向,絶対座標と相対座標Abstract : This study aimed to examine the characteristics of eye movement during a map-reading task. Participants were asked to indicate whether they should turn left or right along a route at each intersection while reading a map. From the results of the experiment, participants were classified into two groups according to their reaction time: slow or fast. Differences were found between the two groups in the number of times the participants looked ahead and back. These findings could be used as basic data to discuss the learning contents of spatial perception and the relationship between absolute and relative coordinates for mathematics education.
Keywords : Eye movement, Map, Direction, Absolute and relative coordinates 1 1.. ははじじめめにに 11.. 11 地地図図読読みみにに求求めめらられれるる能能力力 地図を読む行為(以下,地図読み)は,「位置 や方向などの空間的関係に基づいて,行動・判 断する能力」と定義づけられる空間認知能力に 関わる一行為といえ,日常生活においても必要 とされるものである(松井 2013)。地図読みに は,複数の活動が含まれるが,中でもナビゲー ションに関わる方向判断,進路選択,経路設計 などは,特に必要となる場面が多い活動といえ る(天ヶ瀬 2000,村越 2010)。たとえば,イ ンターネットの地図サービスやスマートフォン の地図機能の利用,商業施設や病院などの初め て訪れた場所での案内図の利用は日常的な活動 である。また,ホテルや旅館の宿泊施設におい て,各部屋のドア裏などに示された避難経路図 を適切に読み取り,避難方向や進路を判断する ことは,緊急時に重要となる。防災のためのハ ザードマップの正確な読み取りも,災害時の安 全な避難には重要な活動である(竹内 2010)。 このような地図読みに必要となる能力の育成 は,小学校での学習から始まっており,たとえ ば,小学校第1 学年・第 2 学年の生活科では「町 たんけん」といった単元で地図を扱い始める(片 山・山口 2015)。その後,小学校第 3 学年・第 4 学年の社会科で,地図の基本的知識である地 図記号を含めた地図の見方や表し方の学習とと もに,方位磁針と四方位や八方位に関する学習 などが行われる(文部科学省 2008a)。 また,同時に,地図の方向判断などの素地を 養うのが,算数科の図形領域における,平面や 空間の学習である。平面や空間に座標軸を設定 し,座標上での図形の位置や,その移動などを 考える能力の育成がなされる。たとえば,小学 校第1 学年における「前後,左右,上下など方 向や位置に関する言葉を正しく用いて,ものの 位置を言い表す」学習は,空間や位置に関する * * Naoko OKAMOTO 立命館大学 * *** Yasufumi KURODA 京都教育大学 数学教育学会誌 2019/Vol.60/No.3・4 Regular Paper
算数・数学科の図形や座標学習に関わる地図認識の特性
-視線計測研究による分析を通して-
岡本 尚子
*黒田 恭史
**小学校で最初に学ぶ内容である(文部科学省 2008b)。また,現在は,前後,左右,上下など の相対座標の扱いが中心となっているが,東西 南北などの絶対座標との対応関係を考えること も重要な学習内容となる。 さらに,中学校の数学科第1 学年の図形領域 における「空間における直線や平面の位置関係 を知る」学習,関数領域における「座標の意味 を理解する」学習も地図読みに必要な能力に大 きく関わる内容となる(文部科学省 2008c)。 たとえば,中学校第1 学年の教科書では,平面 図形の単元において,「けやきの木から記念碑に まっすぐ歩いて(中略)左に直角に曲がり,さ らに進むと2 本のポールが1 本に見える所があ ります。ここにタイムカプセルをうめました。」 という説明が地図とともに示され,タイムカプ セルの見つけ方の説明を求める問題が扱われて いる(岡本他 2015)。比例と反比例の単元にお いては,座標の学習にあたって,「地球上の位置 は,経度と緯度によって決まります。右の地図 に,東経5 度,北緯 45 度にある地点をかきい れてみましょう。」という問題が地図とともに示 されている(岡部他 2015)。数学科において, 地図は一つの有用な教材であり,実際に,学校 では,地図と座標のつながりを重視した実践や, 地図と図形の性質に着目した実践などが行われ ている(両角 2005,宮部 2012)。 このように地図に関わる能力の育成は,複数 の教科にまたがって行われ,学年が上がるに従 って,その能力の向上が期待されるといえる。 ただし,地図の学習は,系統性が十分でないこ とが指摘されており,学年間や教科間のさらな るつながりや,地図の活用機会の確保などが求 められている(寺本 2002,小林 2010)。 11.. 22 地地図図読読みみのの困困難難性性 地図読みは,こうした教育の不十分さと併せ て,経験の個人差の大きさから,成人において も不得手に感じている人も少なくない。とりわ け,多くの人が困難性を感じやすく,得手・不 得手の差が生じやすいのが,自身の向きと地図 内での進行方向が一致していない場合における 方向判断である。地図を読む場合に,読み手の 向いている方向が地図の上側になるようにする ことは整列や整置といわれ,地図利用の原則の 一つとされている(天ヶ瀬 2000)。この原則に 反し,読み手の向きと地図の方向が不一致にな る条件下では,方向判断に時間を要したり,誤 りを起こしたりすることが知られており,この 現象は整列効果,または整列性効果(alignment effect)と呼ばれる(Levine 1982, 松井 2013)。 整列効果に関する実証的な研究は,Levine et al.(1982)に始まった。実験参加者にコの字型 の経路図を記憶させた後に目隠しをし,経路図 上の現在地(コの字型の先端・角の4 箇所のう ちいずれか)と向いている方向を教示した上で, 指定の地点がどの方向にあるのかを回答させた。 参加者の実際の向きと教示した現在地での向き の二つが一致した条件よりも,二つが正反対と なる条件の方が誤答が多く認められた。その後 も,より現実的な場面を想定した研究が行われ, Levine et al.(1984)は,建物内で壁に貼られ た地図(フロアマップ)を見て,目的地まで移 動する実験を実施した。地図の向きが読み手と 一致する条件と,地図の上下が逆転して読み手 の向きと不一致となる条件を設定した結果,後 者の方が所要時間が長く,目的地に正確に到着 できる参加者も少なかった。また,天ヶ瀬 (1999a)は,宿泊施設における避難を想定し, 部屋のドアに貼られた避難経路図を見て,実際 に避難する実験を実施した。提示する経路図の 角度を45 度間隔で回転させる条件を設定し, その影響を調べた結果,回転角度が正反対(180 度回転)に近づくにつれて判断時間が長くなっ た。さらに,地図を記憶させずに,地図を見な がら大学キャンパスを目的地まで移動させる Warren et al.(1992)の実験では,地図を回転 させながら整列させて読むことが好まれ,整列 が行われない場合には誤反応が多くなったこと が報告されている。整列効果は,心的回転の観 点や参照枠(地図と読み手の二つの基準)の干 渉の観点などから,そのメカニズムについて検 討が行われている(天ヶ瀬 1991,松井 1992)。 とりわけ,心的回転については,単なる図形の 回転の場合と比較して,地図の場合は各地点と その他の地点間の位置関係が維持されなければ
ならない点において,認知的負荷がかかること が指摘されている。また,その認知的負荷は回 転角度に従って増大し,上下が逆転する正反対 において最大になると考えられている(天ヶ瀬 1999b)。 11.. 33 先先読読みみとと読読みみ戻戻りり 人間が地図内の情報を認識する際,五感の内, 視覚の占める割合が極めて大きいことから,地 図読み時の特徴が視線に顕著に表れることが予 想される。実際,地図を見ながらのナビゲーシ ョン(方向判断)のように,文字や記号を読み とって行動に表出する活動としては,音読や読 譜(楽譜を読む)を伴う楽器演奏などがあり, 視線に着目した研究が行われている。 たとえば,文字を目で追いながら発声する音 読は,発声している箇所よりも視線の方が先行 する「先読み」が行われ,視線の方が平均2.5 文 字 先行 し てい るこ とが 報 告さ れ てい る (Kondo・Mazuka 1996)。また,単純な文章 と複雑な文章では,複雑な文章の方が,元に戻 って読み直す「読み戻り」の回数が多いことが 明らかとなっている(髙橋・清河 2013)。 楽譜を目で追いながら楽器を奏でる楽器演奏 においては,演奏レベルによる比較研究が行わ れている。ピアノ演奏時,初心者は一つ一つの 音符を注視したり,読み戻りが生じたりする一 方で,熟達者は先読みを行っていることや,初 心者であっても練習を重ねることで,先読みが 生じるようになることが報告されている(川﨑 1982,長井・野中 2015)。また,先読みについ ては,ギターの上級者と中級者を比較し,上級 者は,難易度の高い曲においても先読み時間を より長く保ち,およそ2 個から 6 個程度の音符 の先読みをしていることが明らかとなっている (小堀・高橋 2006,Kobori・Takahashi 2008)。 これらのことから,視線計測によって得られ る先読みや読み戻りは,外的な観察からでは得 られない,行動の熟達度や流暢性を示す指標と なっていると考えられる。地図を見ながらナビ ゲーションを行う場合においても,先読みや読 み戻りが生じていることが予想され,それらが 地図上での方向判断の熟達度や流暢性と関連す る可能性が推察できる。 11.. 44 研研究究目目的的 本研究では,地図を見ながら進行方向を伝え るナビゲーションを想定した地図上での方向判 断を行う実験課題を設定し,実験遂行過程の視 線移動計測を実施する。これにより,所要時間 に加え,先読みや読み戻りの分析を行うことで, 方向判断過程の特性を明らかにすることを目的 とする。具体的には,所要時間の長さを基準に 参加者を2 群に分類し,方向判断の遅速による 先読みと読み戻り回数の特徴を比較する。また 実験課題に,地図の向きが読み手と一致する条 件と,地図の上下が逆転して読み手の向きと不 一致となる条件を設定し,整列効果の特徴につ いて明らかにする。 2 2.. 方方法法 22.. 11 実実験験参参加加者者 右利き健常大学生20 名(男性 13 名,女性 7 名,平均年齢21.1 歳 ±1.4 歳)が実験に参加 した。実験実施大学の研究倫理審査委員会にお いて承認を受けた実験データ取得方法,実験デ ータの活用などについて説明を行い,文書にて 同意を得た。 22.. 22 実実験験課課題題 赤色で経路が示された地図(A3 サイズ)を 見て,アルファベットが付されたA 地点から Z 地点までの26 地点の各曲がり角で,右・左ど ちらに曲がるかを答えるものである。アルファ ベット(経路)順に「A 左,B 右,C 左…」と 口答することとした。 問題数としては,1 試行を 2 問として,3 試 行6 問を実施した(図 1)。各試行の 2 問は同じ 地図を用い,180 度回転させることで,下から 上に向かう「上向き問題」(以下,上向き),上 から下に向かう「下向き問題」(以下,下向き) を設定した。各試行の2 問は,向きが異なるも のの,同一の地図であるため,解答は同じであ る。試行間で難易差が生じないよう,3 試行間 で,上・下・左右の矢印の数,右折・左折の数, 矢印の合計距離の統一を図った。 課題の地図に,上向きと下向きの2 種類を設 定したのは,整列効果を検討するためである。 本課題の場合,上向きは,上を向いた矢印(↑) 小学校で最初に学ぶ内容である(文部科学省 2008b)。また,現在は,前後,左右,上下など の相対座標の扱いが中心となっているが,東西 南北などの絶対座標との対応関係を考えること も重要な学習内容となる。 さらに,中学校の数学科第1 学年の図形領域 における「空間における直線や平面の位置関係 を知る」学習,関数領域における「座標の意味 を理解する」学習も地図読みに必要な能力に大 きく関わる内容となる(文部科学省 2008c)。 たとえば,中学校第1 学年の教科書では,平面 図形の単元において,「けやきの木から記念碑に まっすぐ歩いて(中略)左に直角に曲がり,さ らに進むと2 本のポールが1 本に見える所があ ります。ここにタイムカプセルをうめました。」 という説明が地図とともに示され,タイムカプ セルの見つけ方の説明を求める問題が扱われて いる(岡本他 2015)。比例と反比例の単元にお いては,座標の学習にあたって,「地球上の位置 は,経度と緯度によって決まります。右の地図 に,東経5 度,北緯 45 度にある地点をかきい れてみましょう。」という問題が地図とともに示 されている(岡部他 2015)。数学科において, 地図は一つの有用な教材であり,実際に,学校 では,地図と座標のつながりを重視した実践や, 地図と図形の性質に着目した実践などが行われ ている(両角 2005,宮部 2012)。 このように地図に関わる能力の育成は,複数 の教科にまたがって行われ,学年が上がるに従 って,その能力の向上が期待されるといえる。 ただし,地図の学習は,系統性が十分でないこ とが指摘されており,学年間や教科間のさらな るつながりや,地図の活用機会の確保などが求 められている(寺本 2002,小林 2010)。 11.. 22 地地図図読読みみのの困困難難性性 地図読みは,こうした教育の不十分さと併せ て,経験の個人差の大きさから,成人において も不得手に感じている人も少なくない。とりわ け,多くの人が困難性を感じやすく,得手・不 得手の差が生じやすいのが,自身の向きと地図 内での進行方向が一致していない場合における 方向判断である。地図を読む場合に,読み手の 向いている方向が地図の上側になるようにする ことは整列や整置といわれ,地図利用の原則の 一つとされている(天ヶ瀬 2000)。この原則に 反し,読み手の向きと地図の方向が不一致にな る条件下では,方向判断に時間を要したり,誤 りを起こしたりすることが知られており,この 現象は整列効果,または整列性効果(alignment effect)と呼ばれる(Levine 1982, 松井 2013)。 整列効果に関する実証的な研究は,Levine et al.(1982)に始まった。実験参加者にコの字型 の経路図を記憶させた後に目隠しをし,経路図 上の現在地(コの字型の先端・角の4 箇所のう ちいずれか)と向いている方向を教示した上で, 指定の地点がどの方向にあるのかを回答させた。 参加者の実際の向きと教示した現在地での向き の二つが一致した条件よりも,二つが正反対と なる条件の方が誤答が多く認められた。その後 も,より現実的な場面を想定した研究が行われ, Levine et al.(1984)は,建物内で壁に貼られ た地図(フロアマップ)を見て,目的地まで移 動する実験を実施した。地図の向きが読み手と 一致する条件と,地図の上下が逆転して読み手 の向きと不一致となる条件を設定した結果,後 者の方が所要時間が長く,目的地に正確に到着 できる参加者も少なかった。また,天ヶ瀬 (1999a)は,宿泊施設における避難を想定し, 部屋のドアに貼られた避難経路図を見て,実際 に避難する実験を実施した。提示する経路図の 角度を45 度間隔で回転させる条件を設定し, その影響を調べた結果,回転角度が正反対(180 度回転)に近づくにつれて判断時間が長くなっ た。さらに,地図を記憶させずに,地図を見な がら大学キャンパスを目的地まで移動させる Warren et al.(1992)の実験では,地図を回転 させながら整列させて読むことが好まれ,整列 が行われない場合には誤反応が多くなったこと が報告されている。整列効果は,心的回転の観 点や参照枠(地図と読み手の二つの基準)の干 渉の観点などから,そのメカニズムについて検 討が行われている(天ヶ瀬 1991,松井 1992)。 とりわけ,心的回転については,単なる図形の 回転の場合と比較して,地図の場合は各地点と その他の地点間の位置関係が維持されなければ
が最も多く,参加者の向きと進行方向が総じて 一致しているため,整列効果が生じにくい。一 方,下向きはその逆となるため,整列効果が生 じやすくなる。天ヶ瀬(2000)が,自身の向き と地図内での進行の向きを一致させる整列は, 局所局所での方向判断のような課題で有効にな ると指摘していることを踏まえると,本課題は 局所での方向判断を求め,地図を動かすことの できないものであることから,整列効果が起こ りやすく,上向きと下向きの違いが生じやすい 課題であるといえる。実際,同様の課題を用い て実施した行動観察のみによる実験において, 上向きよりも下向きの方が時間を要する結果と なっている(岡本・黒田 2003,黒田 2004)。 22.. 33 手手続続きき 実験課題は,着席した参加者前の机上に提示 した。課題の地図は,それぞれA3 白色用紙に 印刷し,曲がり角に付したアルファベットは67 ポイントのMS P ゴシック体を用いた。 課題に取り組む前の参加者への説明において, まず,実際の課題よりも回答地点の少ない説明 用地図を提示し,実験の課題が地図であること を伝えた。また,その地図を見せながら,「現在 地と書かれた場所が今いる場所であること」, 「目的地までの道順が赤線で示されており,目 的地まで到達するには各曲がり角でどちらに曲 がればよいかを答えてもらう(A 左,B 右…) こと」を教示した。その後,説明用地図と同種 の練習用地図を用いて回答方法の練習を行い, 参加者が課題を地図と認識して正しく回答がで きていることを確認した。 参加者には,事前に問題数が6 問であること は伝えたが,上向きと下向きの問題があること や,2 問ずつが同じ地図であることは伝えなか った。また,事後には,実験遂行に関する筆記 によるアンケートを実施した。 22.. 44 視視線線計計測測 課題遂行時の視線計測には,アイマークレコ ーダEMR-9(ナックイメージテクノロジー製) を用いた。本装置は,視野映像カメラ(記録角 度:横62°)と,瞳孔検出・計測センサが搭載 されたサングラスをかけて計測を行うものであ る。検出レートは60Hz である。計測データと して,参加者の視野映像上に視線が表示された 動画と音声が取得できる。 22.. 55 分分析析方方法法 行動データとして,「正答率」「所要時間」「事 後のアンケート」の3 種類を分析対象とした。 正答率は,全回答地点における正答割合を算出 した。所要時間は,各問題について,A 地点か らZ 地点の回答までの時間を計測することとし た。事後のアンケートは,実験遂行に関する選 択式の質問結果を分析対象とした。 視線計測のデータからは,「先読み回数」「読 図1 実験課題順序
み戻り回数」の2 種類を分析することとした。 先読み回数は,各地点での回答開始時に1 地点 以上先の地点に視線を移動させている回数とし た。たとえば,「B 右」と言い始めた時に,C 地 点を見ていた場合を,先読み1 回と数えた。各 問題について,最終地点のZ 地点を除いた,A 地点からY 地点までの先読み回数を算出した。 読み戻り回数は,進んでいる地点よりも1 地点 以上前の地点に視線が戻った回数とした。たと えば, C 地点まで視線が進んでいるにもかかわ らず,戻ってB 地点を見た場合を,読み戻り 1 回と数えた。出発地点のA 地点を除いた,B 地 点からZ 地点までの読み戻り回数を算出した。 先読み,読み戻り,いずれについても,取得し た視線計測データ(音声を含む動画)を,0.25 倍速で再生し,その回数を数えた。 本稿では,所要時間の長短を基準にその特性 を検討するため,参加者20 名を所要時間に有 意差が認められる2 群に分類し,群の比較を行 うこととした。なお,本研究の比較分析にあた っては,t検定を用いた。 3 3.. 結結果果 33.. 11 群群分分類類 参加者20 名を 1 問あたりの平均所要時間順 に並べ,半数の10 名ずつの 2 群に分類した。 所要時間の長い方10 名を「低速群」,短い方 10 名を「高速群」と設定した。2 群間の所要時間 のt検定を実施し,低速群の方が有意に所要時 間が長い結果であることを確認した(t (18) = 4.64, p < .001)。 33.. 22 行行動動デデーータタ 正答率は,両群とも98%を超えており,2 群 間に有意差は認められなかった(t (18) = 0.88, n.s.)。 図2 は,上向きと下向き別に 1 問あたりの平 均所要時間を,群ごとに算出したものである。 黒色が低速群,灰色が高速群の結果を表す。 上向き,下向きそれぞれで2 群の比較を行う と,いずれにおいても低速群の方が所要時間が 長く,各向きで2 群間に有意差が認められた(上 向き:t (18) = 5.21, p < .001,下向き:t (18) = 4.13, p < .001)。具体的な所要時間は,上向き では低速群が50.7 秒,高速群が 28.8 秒,下向 きでは低速群が54.0 秒,高速群が 31.6 秒であ り,低速群の方が約1.7 倍から 1.8 倍の時間を 要した。 各群について,上向きと下向きの比較を行う と,低速群は下向きの方が時間を要する傾向に はあったが(t (9) = 2.08, p = .067),有意差は 認められなかった。高速群は下向きの方が有意 に所要時間が長い結果となった(t (9) = 4.84, p < .001)。 図2 1 問あたりの平均所要時間(秒) 視線計測終了後,実験課題には上向きと下向 きの問題があったことや,2 問ずつが同じ地図 であったことを伝えたうえで,アンケートを実 施した。表1は,「上向き・下向きのどちらの問 題の方が判断が難しいと感じましたか」の質問 に対して,「①上向き」「②下向き」「③どちらも 変わらない」の3 択で回答を得た結果(人数) を,群別に示したものである。いずれの群も, 「②下向き」と回答した人数が最も多く,低速 群が9 名,高速群が 10 名全員であった。 表1 判断の難しさ(人) ①上向き ②下向き ③変わらない 低速群(n=10) 0 9 1 高速群(n=10) 0 10 0 表2 は,「どのように考えて回答をしました か」の質問に対して,「①地図の上にいる(歩い ている,車で移動している)と考えて回答した」 「②上(空)から見ていると考えて回答した」 「③その他」の3 択で回答を得た結果(人数) が最も多く,参加者の向きと進行方向が総じて 一致しているため,整列効果が生じにくい。一 方,下向きはその逆となるため,整列効果が生 じやすくなる。天ヶ瀬(2000)が,自身の向き と地図内での進行の向きを一致させる整列は, 局所局所での方向判断のような課題で有効にな ると指摘していることを踏まえると,本課題は 局所での方向判断を求め,地図を動かすことの できないものであることから,整列効果が起こ りやすく,上向きと下向きの違いが生じやすい 課題であるといえる。実際,同様の課題を用い て実施した行動観察のみによる実験において, 上向きよりも下向きの方が時間を要する結果と なっている(岡本・黒田 2003,黒田 2004)。 22.. 33 手手続続きき 実験課題は,着席した参加者前の机上に提示 した。課題の地図は,それぞれA3 白色用紙に 印刷し,曲がり角に付したアルファベットは67 ポイントのMS P ゴシック体を用いた。 課題に取り組む前の参加者への説明において, まず,実際の課題よりも回答地点の少ない説明 用地図を提示し,実験の課題が地図であること を伝えた。また,その地図を見せながら,「現在 地と書かれた場所が今いる場所であること」, 「目的地までの道順が赤線で示されており,目 的地まで到達するには各曲がり角でどちらに曲 がればよいかを答えてもらう(A 左,B 右…) こと」を教示した。その後,説明用地図と同種 の練習用地図を用いて回答方法の練習を行い, 参加者が課題を地図と認識して正しく回答がで きていることを確認した。 参加者には,事前に問題数が6 問であること は伝えたが,上向きと下向きの問題があること や,2 問ずつが同じ地図であることは伝えなか った。また,事後には,実験遂行に関する筆記 によるアンケートを実施した。 22.. 44 視視線線計計測測 課題遂行時の視線計測には,アイマークレコ ーダEMR-9(ナックイメージテクノロジー製) を用いた。本装置は,視野映像カメラ(記録角 度:横62°)と,瞳孔検出・計測センサが搭載 されたサングラスをかけて計測を行うものであ る。検出レートは60Hz である。計測データと して,参加者の視野映像上に視線が表示された 動画と音声が取得できる。 22.. 55 分分析析方方法法 行動データとして,「正答率」「所要時間」「事 後のアンケート」の3 種類を分析対象とした。 正答率は,全回答地点における正答割合を算出 した。所要時間は,各問題について,A 地点か らZ 地点の回答までの時間を計測することとし た。事後のアンケートは,実験遂行に関する選 択式の質問結果を分析対象とした。 視線計測のデータからは,「先読み回数」「読 図1 実験課題順序
を,群別に示したものである。いずれの群も, 「①地図上」と回答した人数が最も多く,低速 群,高速群ともに9 名であった。 表2 判断時の考え方(人) ①地図上 ②上から ③その他 低速群(n=10) 9 1 0 高速群(n=10) 9 0 1 33.. 33 視視線線計計測測デデーータタ 図3 は,上向きと下向き別に 1 問あたりの平 均先読み回数を,群ごとに算出したものである。 上向き,下向きそれぞれで2 群の比較を行うと, いずれにおいても低速群の方が先読み回数が少 なく,各向きで2 群間に有意差が認められた(上 向き:t (9) = 3.96, p < .01,下向き:t (9) = 3.09, p < .05)。具体的な平均先読み回数は,上向き では低速群が1.0 回,高速群が 9.9 回,下向き では低速群が0.4回,高速群が6.1 回であった。 各群について,上向きと下向きの比較を行うと, 低速群はいずれの向きも1 問あたりの平均先読 み回数は1 回以下であり,向きによる違いは認 められなかった(t (9) = 1.88, n.s.)。高速群は 下向きの方が有意に先読み回数が少ない結果と なった(t (9) = 4.89, p < .001)。 図3 1 問あたりの平均先読み回数(回) 図4 は,上向きと下向き別に 1 問あたりの平 均読み戻り回数を,群ごとに算出したものであ る。上向き,下向きそれぞれで2 群の比較を行 うと,いずれにおいても低速群の方が読み戻り 回数が多く,各向きで2 群間に有意差が認めら れた(上向き:t (18) = 3.10, p < .01,下向き: t (18) = 2.79, p < .05)。具体的な平均読み戻り 回数は,上向きでは低速群が6.3 回,高速群が 3.0 回,下向きでは低速群が 7.3 回,高速群が 4.1 回であった。各群について,上向きと下向 きの比較を行うと,両群とも下向きの方が有意 に読み戻り回数が多い結果となった(低速群:t (9) = 2.53, p < .05,高速群:t (9) = 3.25, p < .05)。 図4 1 問あたりの平均読み戻り回数(回) 4 4.. 考考察察 44.. 11 行行動動デデーータタよよりり 正答率は,いずれの群も平均が98%を超える 結果となったことから,参加者は回答方法を正 しく理解して課題を遂行したと判断した。また, 2 群間で有意差が認められなかったことから, 本課題においては,困難度の特徴が正答率には 表れなかったといえる。 平均所要時間は,上向き,下向きにかかわら ず,低速群の方が高速群よりも約1.7 倍から 1.8 倍長く,有意差が認められた。具体的な所要時 間を見ると,上向きの場合,低速群は1 箇所の 回答に平均約2 秒を要した一方,高速群は平均 1.1 秒の速さで回答を行っていたことになる。 高速群よりも,低速群の方が方向判断に困難性 を感じていたと推測できる。また,各群の所要 時間について,上向きと下向きの比較を行うと, 低速群は下向きの方が長い傾向にあったが有意 差は認められなかった。一方,高速群は下向き の方が有意に長い結果となった。高速群が下向 きに時間を要したのは,参加者の向きと進行方
向が一致していないときに生じる整列効果の表 れと考えられる。アンケートにおいては,10 名 全員が「下向き」の方が判断が難しいと感じた と回答したことを反映したといえる。なお,低 速群も,アンケートでは,10 名中 9 名が「下向 き」の方が判断が難しいと答えたものの,所要 時間に有意差が認められなかったのは,方向判 断自体に困難性を感じていたため,上向き・下 向きは関係なく時間がかかり,所要時間の差が 顕在化しなかったと考えられる。アンケートで 低速群の参加者10 名中 1 名が難しさについて 「どちらも変わらない」と答えたのは,方向判 断自体が困難でいずれも難しかったことを意図 していたと推察される。 方向判断時の考え方については,アンケート 結果から,各群とも10 名中 9 名が「地図の上 にいる(歩いている,車で移動している)と考 えて回答した」と答え,群間に大きな違いは認 められなかった。天ヶ瀬(1989)は,経路を建 物の屋上から見下ろす条件よりも,地上に立っ て見る条件の方が整列効果の影響が小さいこと を指摘している。また,安西・的場(1985)は, 地図を見る際に自分の置かれている現在の状態 を意識せず,地図上だけで方向を考えるように 教示すると整列効果の影響が小さくなることを 報告している。すなわち,「上(空)から見てい ると考えて回答」するよりも,「地図の上にいる (歩いている,車で移動している)と考えて回 答」する方が整列効果の影響は小さいといえ, 両群とも考え方としては,整列効果の生じにく い方法を用いていたといえる。 整列効果の特徴は,その場所にいるつもりに なれたと判断するまでの時間が反応時間に反映 され,方向判断処理に関する特徴が誤答に反映 されることが報告されている(松井 1992)。10 名中9 名が「地図の上にいると考えて回答した」 ことからも,上向きと下向きに,所要時間の差 が生じたのは,その場にいるつもりになること に要した時間の違いによるものと考えられる。 44.. 22 視視線線計計測測デデーータタよよりり 平均先読み回数は,上向きと下向きの双方に おいて,低速群よりも高速群の方が多く,2 群 間に有意差が認められた。具体的な回数を見る と,低速群は1 問(A 地点を除く 25 地点)あ たり上向きで1 回,下向きでは 0.4 回であるこ とから,1 問中で 1 回も先読みが生じない場合 もあったといえる。一方,高速群は上向きでは 9.9 回,下向きでは 6.1 回の先読みが生じてお り,1 問あたり約 2 割から 4 割の回答箇所で先 読みが生じたことになる。このことから,低速 群のような所要時間の長さでは先読みが生じに くく,高速群のような一定の所要時間の短さに おいて,先読みがなされていることが考えられ る。 群ごとに,先読み回数の上向きと下向きの比 較を行うと,低速群の場合,1 問あたり平均 1 回以下となり,上向きと下向きに有意な差が見 られなかった。一方,高速群の場合,上向きよ り下向きの方が有意に少ない結果となった。こ のことから,高速群のように一定回数以上の先 読みが生じている場合においては,整列効果が 先読み回数の少なさに表れることが考えられる。 次に,平均読み戻り回数については,先読み 回数とは逆に,全問題において,高速群よりも 低速群の方が多い結果となり,2 群間に有意差 が認められた。このことから,所要時間の短さ と読み戻り回数の少なさには関連があると考え られる。なお,具体的な回数を見ると,上向き では低速群が6.3 回,高速群が 3.0 回,下向き では低速群が7.3 回,高速群が 4.1 回であり, いずれの群においても読み戻りが生じていた。 高速群のように所要時間が短い場合においても, 読み戻りは起こりうるものと推測される。 群ごとに,読み戻り回数の上向きと下向きの 比較を行うと,両群とも上向きよりも下向きの 方が読み戻り回数が多く,有意な差が認められ た。低速群においても,高速群においても,整 列効果が読み戻り回数の多さに反映されたこと が考えられる。 44.. 33 行行動動観観察察・・視視線線計計測測デデーータタよよりり 2 群を比較して特徴を見ると,低速群は,先 読みはほとんどなく,読み戻りが多い。各地点 での方向判断と口答を行って,次に視線を移す 逐次的な見方をしながら,判断が難しい部分で は戻って考えていたことが推測できる。一方, 高速群は,先読みが多く,読み戻りは少ない。 を,群別に示したものである。いずれの群も, 「①地図上」と回答した人数が最も多く,低速 群,高速群ともに9 名であった。 表2 判断時の考え方(人) ①地図上 ②上から ③その他 低速群(n=10) 9 1 0 高速群(n=10) 9 0 1 33.. 33 視視線線計計測測デデーータタ 図3 は,上向きと下向き別に 1 問あたりの平 均先読み回数を,群ごとに算出したものである。 上向き,下向きそれぞれで2 群の比較を行うと, いずれにおいても低速群の方が先読み回数が少 なく,各向きで2 群間に有意差が認められた(上 向き:t (9) = 3.96, p < .01,下向き:t (9) = 3.09, p < .05)。具体的な平均先読み回数は,上向き では低速群が1.0 回,高速群が 9.9 回,下向き では低速群が0.4回,高速群が6.1 回であった。 各群について,上向きと下向きの比較を行うと, 低速群はいずれの向きも1 問あたりの平均先読 み回数は1 回以下であり,向きによる違いは認 められなかった(t (9) = 1.88, n.s.)。高速群は 下向きの方が有意に先読み回数が少ない結果と なった(t (9) = 4.89, p < .001)。 図3 1 問あたりの平均先読み回数(回) 図4 は,上向きと下向き別に 1 問あたりの平 均読み戻り回数を,群ごとに算出したものであ る。上向き,下向きそれぞれで2 群の比較を行 うと,いずれにおいても低速群の方が読み戻り 回数が多く,各向きで2 群間に有意差が認めら れた(上向き:t (18) = 3.10, p < .01,下向き: t (18) = 2.79, p < .05)。具体的な平均読み戻り 回数は,上向きでは低速群が6.3 回,高速群が 3.0 回,下向きでは低速群が 7.3 回,高速群が 4.1 回であった。各群について,上向きと下向 きの比較を行うと,両群とも下向きの方が有意 に読み戻り回数が多い結果となった(低速群:t (9) = 2.53, p < .05,高速群:t (9) = 3.25, p < .05)。 図4 1 問あたりの平均読み戻り回数(回) 4 4.. 考考察察 44.. 11 行行動動デデーータタよよりり 正答率は,いずれの群も平均が98%を超える 結果となったことから,参加者は回答方法を正 しく理解して課題を遂行したと判断した。また, 2 群間で有意差が認められなかったことから, 本課題においては,困難度の特徴が正答率には 表れなかったといえる。 平均所要時間は,上向き,下向きにかかわら ず,低速群の方が高速群よりも約1.7 倍から 1.8 倍長く,有意差が認められた。具体的な所要時 間を見ると,上向きの場合,低速群は1 箇所の 回答に平均約2 秒を要した一方,高速群は平均 1.1 秒の速さで回答を行っていたことになる。 高速群よりも,低速群の方が方向判断に困難性 を感じていたと推測できる。また,各群の所要 時間について,上向きと下向きの比較を行うと, 低速群は下向きの方が長い傾向にあったが有意 差は認められなかった。一方,高速群は下向き の方が有意に長い結果となった。高速群が下向 きに時間を要したのは,参加者の向きと進行方
判断が行いやすい部分では,口答しながら視線 を次に移す先行的な見方を行い,所々の判断が 難しい部分では戻って考えていたことが予想で きる。これらのことから,速い方向判断を行う ためには,先読みが重要な要素となることが考 えられる。低速群のような学習者の場合,練習 を重ねることで,所要時間の短縮は見込まれる ものの,それだけで高速群のような時間にまで 短縮されるかは明らかではない。先読みを行う ような助言をすることが,具体的な助言の一つ として有用となる可能性があると考えられる。 表3 は,群別の所要時間,先読み回数,読み 戻り回数について,上向きと下向きの違い(整 列効果)が見られたかどうかをまとめたもので ある。有意差が認められた場合(p < .05)を「○」, 有意傾向にあった場合(.05 ≦ p < .1)を「△」, 有意差が認められなかった場合(p ≧ .1)を 「×」,の3 段階で示している。低速群では読 み戻り回数にのみ「○」が見られた。これまで, 整列効果は,方向判断に誤りが起こることや時 間がかかることが主要な指標とされてきたが, 方向判断自体に高い困難性を感じている場合に は,所要時間に顕著な差が表れない可能性があ り,そうした場合においても,読み戻り回数で その困難性を判断できる可能性がある(松井 2013)。一方,高速群においては,所要時間の みならず,先読み回数と読み戻り回数に向きの 違いが表れやすいことが分かる。正答率や所要 時間のみならず,先読みや読み戻りも整列効果 を反映する指標となる可能性がある。 表3 整列効果(上向き・下向きの違い) の表れ 所要時間 先読み 読み戻り 低速群 △ × ○ 高速群 ○ ○ ○ 視線計測を用いた本研究から,特に,速い方 向判断には,先読みが一つの特徴となることが 推察された。すなわち,方向判断において,一 定以上の速さになると先読みが生じるようにな るのか,先読みができるようになると一定以上 の速さになるかの特定は困難であるものの,一 定以上の速さでの方向判断時には先読みが生じ やすいことが確認された。また,先読み回数が 整列効果の影響を受ける可能性を考察できたこ とから,方向判断の速さには,先読みの有無を 含めた回数の違いが特徴的な関わりを持つこと が考えられた。先読みは余裕をもった円滑な方 向判断を行えることにとどまらず,前後のつな がりを考えながら,地図全体の中でどのような 経路をたどってきたのか,地図全体がどのよう な構造になっているのかを捉えることにつなが る点でも重要であると考えられる。 これらは,算数・数学科での空間の学習にお いて,物と物との位置関係を把握する際,ある いは,座標の学習において,座標移動を考えた り座標と座標の関係を捉えたりする際の視線移 動分析の有用性を示唆するものである。たとえ ば,得意な学習者と不得意な学習者の視線移動 を比較することにより,得意な学習者に共通す る方略や,不得意な学習者がつまずく要因など を分析し,理解の特徴を考察できうる。本研究 における先読みは,ある場所への注意を保持し ながら,異なる場所へ視線を動かせることと考 えることもでき,得意な学習者に見られる一つ の特徴ともいえる。他の空間や座標の学習でも, 類似した特徴を見出せる可能性があり,さらに, こうした特徴が,空間や座標全体の中での位置 を捉え,理解を促すことに寄与する可能性もあ る。 5 5.. ままととめめ 本研究では,地図上での方向判断過程におけ る特徴を明らかにすべく,視線移動を計測した。 参加者を,所要時間の長い低速群,短い高速群 の2 群に分けて特徴の比較を行った結果をまと めると次のようになる。 (1) 低速群では先読みがほとんど見られず,高 速群の方が先読み回数が多い結果となった。ま た,高速群では,整列効果が先読み回数の少な さに表れることが考えられた。 (2) 低速群,高速群ともに,読み戻りが見られ たが,低速群の方が読み戻り回数が多い結果と なった。また,両群とも,整列効果が読み戻り 回数の多さに表れることが考えられた。 今後の課題は,より実際的な地図の要素を実
験課題に設定しながら,算数・数学科における 図形や座標の学習と関連させた分析を行うこと である。地図読みと図形学習,座標学習でのつ まずきの共通点とその要因や,それらを解決す るための方略などについて検討を行っていきた い。 引 引用用・・参参考考文文献献 安西祐一郎・的場暢,空間記憶の方向性につい て, 日本認知科学会第2 回大会発表論文 集,pp. 69-70,1985. 天ヶ瀬正博,認知地図の形成要因:直接学習か 学習時の視線の水平性か?,関西心理学会 第101 回大会発表論文集,p. 64,1989. 天ヶ瀬正博,認知地図の方向性-認知地図の整 列性効果に関する考察-,人文論叢,Vol. 20,pp. 95-115,1991. 天ヶ瀬正博,非難経路図の表記法と設置法が避 難経路判断に及ぼす効果;上野雄宏(研究 代表),平成8・9・10 年度文部科学省科学 研究費補助金(基盤研究(A)(2))研究成果 報告書「防災意識と認知的行動」,pp. 159-181,1999a. 天ヶ瀬正博,地図読みにおける整列性効果に関 する諸問題,人文研究 大阪市立大学文学 部紀要,Vol. 51,pp. 91-102,1999b. 天ヶ瀬正博,地図の向きに関する諸問題,国際 交通安全学会誌,Vol. 25,pp. 6-14,2000. 片山宗二・山口令司(監),みんなとまなぶ し ょうがっこうせいかつ下,学校図書,2015. 川﨑智子,ピアノ演奏時における読譜の為の眼 球運動-注視点の滞留-,三重大学教育学 部研究紀要,Vol. 33, pp. 49-66,1982. 小林岳人,地図に慣れていく子どもたち-子ど もを対象としたオリエンテーリング,地理, Vol. 55,pp. 39-53,2010. 小堀聡・高橋勝則,ギター視奏での先読み時間 に影響を及ぼす要因,第5 回情報科学技術 フォーラム講演論文集,pp. 357-360,2006. Kobori, S. and Takahashi, K., Cognitive
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