プロセス強化のための化学工学の新たな枠組み構築をめざして
(神戸大院工)○(正) 大村直人* 【緒言】 近年、地球温暖化や石油価格の高騰など環境・エネ ルギー問題は深刻さを増し、今や人類が早急に取り組 まなければならない最重要課題となっている。現代社 会は、持続的に経済発展しながら、エネルギー消費と 廃棄物や温室効果ガスの排出を極限にまで低下させる という極めて難しい問題に直面している。したがって、 産業界においてこの問題を解決するためには、現状の 生産技術の枠組みを超えた新たなパラダイムシフトが 必要であろう。 現在、欧米を中心にProcess Intensification(プロ セス強化)という言葉が注目を集めるようになった。 プロセス強化は、当初の単にプラントの小型化という とらえ方から、持続可能な社会の実現のために、コス ト低減、省エネルギー、省資源、市場投入時間の短縮 化、安全性の向上を飛躍的に高める技術戦略として考 えられるようになってきた。本講演では、プロセス強 化の動向を踏まえたうえで、プロセス強化のための化 学工学の新たな枠組みの構築について議論したい。 【プロセス強化の定義】 現在に至ってもプロセス強化とは何かという明確な 定義はないと言ってよい。しかしここでは、「持続的社 会を確立するため、プロセスの性能を飛躍的に向上 (quantum leap という)させる技術革新を伴うプロセ ス進化」と定義する。ここでの持続的社会とは、単に 地球環境保全に視点を置いた、いわゆる Green Sustainability だけをさすのではなく、持続的な経済発 展、安全・安心・快適な市民生活をも含んだものであ る。したがって、ここで取り上げるプロセス強化技術 では、地球環境、産業、市民生活が調和のとれたもの となるような技術革新でなくてはならない。プロセス の性能を飛躍的に向上させる技術革新では、プロセス の機能構造を明らかにし、そのネットワーク性に着目 する必要があると考える。また、プロセスの内と外の 関係、つまりプロセスを取り巻く外部環境との相互作 用を考慮に入れる必要もある。 【プロセスの機能構造とネットワーク性】 先の定義でも述べたが、プロセス強化の一つのポイ ントは性能の量的飛躍である。プロセスを従来の装置 をベースとした単位操作で考えると、想定した装置の もつ最大性能以上の向上は望めない。これに代わって、 プロセスの持つ機能構造に着目し、この機能の組み合 わせとして考える必要がある。この考え方に基づくと、 例えば反応プロセスについて考えると、反応器の持つ 図 1 機能の組み合わせによる反応プロセスの構築図 2 Freund and Sundmacher1)
による機能モジュールに よる化学反応プロセスの表現
機能は、分散、接触、反応熱除去、物質移動促進、生 成物分離などであり、これら機能を組み合わせること で膜型反応器のような、統合型反応プロセスへの発想 が生まれてくる(図 1)。Freund and Sundmacher1)は、こ のような考えに基づき、化学プロセスを機能モジュー ルにより記述する手法を提案している(図 2)。 プロセスを機能に分解し、これを組み合わせるとい うことは、言い換えればプロセスの機能ネットワーク を構築することである。筆者は、この機能ネットワー クの構造と構成要素のハブおよび、構成要素間の相互 作用つまり、協調性、競争性に着目して、プロセスを 捉え直し、構成要素の置き換え、要素間の接続関係の 変更を行うことで、既存のプロセスの障壁(例えば、平 衡の制約など)を取り除き、性能の量的飛躍を達成する ことが可能ではないかと考えている。 【ダイナミカルネットワーク方法論】 この考えをもとに、SIS 部会ダイナミックプロセス 応用分科会のメンバーを中心に、日本学術振興会科学 研究費補助金基盤研究(A)(No. 20246115)の支援を 得て、平成 20 年度から「プロセス強化技術のための
A113
SCEJ 42nd Autumn Meeting (Kyoto, 2010)
-図 3 研究プロジェクトのイメージ ダイナミカルネットワーク方法論の構築」というテー マ名で、6 大学、1 研究機関参加により研究プロジェク トを行っている。図 3 に研究プロジェクトのイメージ を示す。この研究プロジェクトでは、プロセスの機能 要素とその接続関係が動的に変化し、プロセスと外部 環境が動的な相互作用をするダイナミカルなネットワ ーク方法論の構築を目的とし、個々の精密場活用プロ セスのダイナミカルなネットワーク構造を解明し、こ れを設計論やシステム論などのシンセシスの観点から 検証を試みている。研究プロジェクト内は、「ダイナミ カルネットワークによる設計論とモデリング」と「個 別プロセスのダイナミカルネットワークの解明とプロ セス強化手法の開発」の二つの部門に分け、これら二 つの研究部門が相互に情報を交換しながら、インタラ クティブに研究を遂行している。なお、このプロジェ クトの具体的研究例は、講演時に紹介する。 【化学工学におけるパラダイムシフト】
Freund and Sundmacher1)が指摘するように、プロセス 強化のための化学工学のパラダイムシフトは、化学プ ロセスを単位操作の組み合わせとする従来の考えから 機能要素の組み合わせ(ネットワーク)として捉え直 すところからもたらされるかもしれない。この機能要 素のネットワークという捉え方は、単に一つの化学プ ロセス強化だけでなく、社会システムや生物システム などの複雑なネットワーク型システムにも提供が可能 であり、化学工学のすそ野を大きく広げる可能性を秘 めている。また、先に述べたプロセス強化の定義から 考えれば、図 4 に示すように対象となるシステムを、 システムを取り巻く地球、市民、経済との相互作用を 考えた上で、エネルギー、物質、情報、金融など各層 のネットワーク構造が相互に作用する多層型ネットワ ークとして考える必要があるであろう。一方で、この ような複雑なネットワーク型のシステムを取り扱う場 合には、単純なシステムに比べて、対象となる時空間 領域は長期かつ広域であること、原因も多様であるた 図 4 各層が相互作用する多層型ネットワーク 図 5 要素間の関係と共進化 め因果関係の解明が格段に困難であること、さらに図 5 に示すように、要素間の利害関係が複雑で不明確で あるなどの問題点がある。これらの諸問題を解決法の ひとつとして、黒田と松本 2)が指摘する様々なタイプ の情報をネットワークコンピューティング環境上で相 互につなげて解析することができるネットワーク型モ デリング・シミュレーション技術があげられるであろ う。また、要素間の関係に着目した共進化的なアプロ ーチも重要となるであろう。 【結言】 プロセス強化は持続可能な社会の構築に向けた取り 組みであり、社会科学を含めた学際的連携、国際的連 携、産官学連携が必要な格好の技術課題であるといえ るとともに、プロセス強化のための化学工学の新たな 枠組み構築には、プロセスシステム工学の役割が極め て大きいといえる。 【参考文献】
1) Freund, H. and K. Sundmacher, Chemical Engineering
and Processing, 47, 2051 (2008)
2) 黒田千秋, 松本秀行, 化学工学, 72, 180 (2008) *TEL : 078‐803‐6199 FAX : 078‐803‐6199
E-mail : ohmura@ kobe-u.ac.jp Intensified Processes ・機能要素の動的 相互作用 ・マルチスケール性 人間環境 経済環境 地球環境 安全・安心 健康 etc. 温暖化防止 環境汚染防止 省資源 etc. コスト 資源価格 税制etc. 相互作用 相互作用 相互作用 相互 作用 相 互 作 用 相互作用 プロセス強化技術のためのダイナミカルネットワーク 方法論の構築