- 109 - 臨床心理士有資格者のストレス反応に関する研究 人間教育専攻 臨床心理士養成コース 田 中 梓 1 .問題と目的 わが国における労働者の中で,対人援助職に従 事する労働者は強いストレス反応を抱えやすい ことが指摘されている(竹田, 2010)。実際に, 対人援助職の一つである相談業務従事者は非常 に強いストレス反応を抱えており,職務全般に おいて何らかのストレス反応を多い顔度で感じ ている相談業務従事者の比率は 57.1%に達し ていたことが報告されている(川田・田中・菊 地・水野, 2006)。従来の研究では,相談業務 従事者を含めた労働者のストレス反応は,労働 上のパフォーマンスと負の相関関係にあること が明らかにされていることから (Jame 2011) ,l , 相談業務従事者が抱えるストレス反応が強けれ ば強いほど,相談業務に支障が生じることが考 えられ,相談業務従事者のストレス反応を規定 する要因を明らかにし,ストレス反応を強めて いる要因を変容するための研究を行うことは, リスクマネジメントの観点から重要であると考 えられる。また,最近では,ストレス反応の強 さに影響を及ぼす個人内要因として,認知・行 動的要因の重要性が指摘されており,認知行動 的ストレス対処方略の獲得をターゲットとした ストレスマネジメントはストレス反応の低減に 有効であることが確認されているものの(高橋 ら, 2009;中尾ら, 2014など),臨床心理士有 資格者のストレス反応を強める認知・行動的要 因は明らかにされていないため,認知・行動的 対処方略を加味したうえで,ストレス反応を規 指 導 教 員 古 川 洋 和 定する要因に関する実証的研究を行うことには 意義があるといえる。 そこで本研究では,わが国における臨床心理 士有資格者を対象として 認知・行動的対処方 略の変数を含め,臨床心理士有資格者が抱える ストレス反応に関連する要因を明らかにするこ とを目的とした。 2.方 法 対象者:四園地区の臨床心理士会に在籍する臨 床心理士有資格者を対象とした。 調査材料:①フェイスシート(年齢・性別・臨 床心理土としての職務年数・現在の職場での勤 務年数・活動する主な領域),②Stress Response Scale-18(以下, SRS・18:鈴木・嶋田・三浦・ 片柳・右馬埜・坂野, 1997),③職業性ストレ ス簡易調査票(下光・横山・大野・丸太・谷川・ 原谷・岩田・大谷・小田切, 1998),④3次元 モ デ ル に も と づ く 対 処 方 略 尺 度 ( 以 下 , TAC-24 :神村・海老原・佐藤・戸ヶ崎・坂野, 1995) ,⑤認知的評価測定尺度(以下, CARS: 鈴木・坂野, 1998),が用いられた。 分析方法:嶋田(1998)によるストレス反応が 惹起されるプロセスモデルを参考として
r
フェ イスシート J,r
職業性ストレス簡易調査票(下 光ら, 1998) J, r 3次元モデルにもとづく対処 方略尺度(神村ら, 1998)J,および rCARS(鈴 木・坂野, 1998) Jへの回答ならびに評定値を 独立変数, rSRS・18(鈴木ら, 1997) Jへの評- 110 - 定値を従属変数としたロジスティック回帰分析 によって,臨床心理士有資格者のストレス反応 に関連する要因を検討した。 3.結 果 各測定指標の評定値:本研究と先行研究の評定 値を比較するために 本研究における対象者の 評定値から算出した 95%信頼区間と先行研究 の平均値を比較した。具体的には,先行研究の 平均値が本研究における対象者の評定値から算 出した 95%信頼区間の中に収まる場合,統計学 的有意差は検出されないと判断した。その結果, 職業性ストレス簡易調査票(下光ら, 1998) の 下位尺度である「仕事の量的負担」・「仕事のコ ントロール」・「上司の支援」については,本研 究における対象者の評定値が先行研究の評定値 より高いことが示された。 臨床心理士有資格者のストレス反応に関連す る要因の検討:臨床心理士有資格者のストレス 反応を強める要因を検討するために, SRS・18 (鈴木ら, 1997) の評定値を従属変数,フェイ スシートへの回答から得られた基本属性(性 別・年齢・職務年数・現在の職場の職務年数・ 主な活動領域),職業性ストレス簡易調査票(下 光ら, 1998) の評定値, CARS (鈴木・坂野, 1998)の評定値,および TAC・24(神村ら, 1995) の評定値を独立変数としたロジスティック回帰 分析を行った。その結果,算出されたオッズ比 の 95%信頼区間の下限と上限はすべてゼ口を 跨いでいたため,本研究において設定したすべ ての独立変数のオッズ比の有意性が示されなか った。つまり,本研究において設定した独立変 数と臨床心理士のストレス反応とは関連しない 可能性が示唆された。
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考 察 本研究の目的は,わが国における臨床心理士 有資格者を対象として,認知・行動的対処方略 の変数を含め,臨床心理士有資格者が抱えるス トレス反応に関連する要因を明らかにすること であった。 臨床心理士有資格者のストレス反応の強さに ついては, Puig, Yoon, Callueng, An,&
Lee(2014)による 5か国を対象とした臨床心理士 のストレス反応に関する調査知見と一致し,わ が国の臨床心理士有資格者においても一般労働 者と比較して高い値を示していた。また,前述 のとおり,相談業務従事者を含めた労働者のス トレス反応は,労働上のパフォーマンスと負の 相関関係にあることが明らかにされていること から (Jamel,2011),臨床心理士有資格者が抱 えるストレス反応が強ければ強いほど業務に支 障が生じる可能性が高いと考えられる。したが って,リスクマジメントの観点からも臨床心理 士有資格者のストレス反応については介入すべ き問題であるといえる。 臨床心理士有資格者のストレス反応に関連す る要因を明らかにするためにロジスティック回 帰分析を行った結果,本研究において設定した 変数は臨床心理士有資格者のストレス反応と関 連が認められなかった。 本研究の結果,臨床心理士有資格者のストレ ス反応を強める認知・行動的要因を明らかにす ることはできなかった。臨床心理士有資格者の ストレス反応に関する研究は数少ないのが現状 であるため,臨床心理士有資格者の効果的なス トレスマネジメント策を立案するために,今後 は,本研究において測定された以外の指標を用 いてストレス反応を強める要因を検討する必要 があるといえる。