こんにちは。滋賀大学保健管理センター(彦根キャンパ ス)の非常勤カウンセラーの永山智之と言います。昨年度よ り、学生の皆さんへのカウンセリングやワークショップに携 わっています。学生生活や将来のこと、人間関係のことなど、 学生時代には悩むことが色々あるかと思います。誰かに話 すと少し気持ちが楽になることもあるかと思いますし、一人 で悩まずに、まずは相談しに来てください。時には、知ってい る人には話しにくいこともあるかもしれません。秘密は固く 守りますので、安心して話してください。自己理解や自己表 現、仲間との出会いの場としても活用してもらえたらと思い ます。少しでも皆さんのお役に立てたらと思っています。よろ しくお願いします。 さて、今回は青年の友人関係、特にその現代的なあり方に ついて取り上げたいと思います。 青年期の友人関係は、年齢とともに、浅く広い付き合い方 から深く親密な付き合い方に発展していくとされています が(1)、近年、青年の友人関係のあり方が変化してきたと言わ れています。 従来の青年期の友人関係は、親密で内面を開示し合い、 人格的共鳴や同一視をもたらすような友人関係です(2)。一 方で近年、内面を開示するような深く親密な友人関係を避 け、友人から低い評価を受けないように警戒したり、互いに 傷つけあわないように表面的に円滑な関係を志向したりす る傾向が見られるようになりました(3)。現代青年の友人関係 には、①互いに傷つけあわないように気を遣う傾向②互い の領域に踏み込まないように、関係の深まりを回避する傾 向③楽しさを追求し群れる傾向があることが指摘されてい ます(4)。 ①がっかりした顔ができない これは、相手によって引き起こされた事態に落胆しても、 すばやく取り繕ってしまい、素直な表情になれないというも のです。例えば、映画に行く約束をドタキャンされてがっかり したが、「それならいいよ」と言ってしまい、後で後悔したりし ます。「本当は残念だという気持ちがきちんと相手に伝わっ ていない感じがする。それどころか、そんなつもりはなくて も、映画も相手も軽く思っているみたいに思われているので はないかと気になってしまう」「『行きたかったのに』という と、相手に余分なプレッシャーを与えるのではと思い、プ レッシャーを与えないようにあっさり引き下がる」といった感 じです。相手が残念な気持ちを起こした責任感を負担に感 じてしまうことを避けるため、先回りして大したことではない と言ってしまい、その結果、相手を軽視したような気がして いるのです。ここでは、自分の本音を吐露することによって相 手に気を遣われる恐れとともに、自分の 藤を回避すること によって相手との関わりそのものを軽視(回避)してしまった
現代青年の友人関係と心理的特徴について
自己紹介
現代青年の友人関係
青年期女性のコミュニケーションの特徴の例
(5) ことになるのではないかという恐れがうかがえます。打開策 として、「今度いつ行こうかと次の予定を一緒に立ててはどう か」と次の行動を提案することで二人の関係は前進し、相手 の気持ちを楽にすることもできるかもしれません。 ②相手が相談を持ちかけようとするとき、先手を取って距離化 する これは、相談をもちかけられると、あらかじめ「私には意見 は言えないから」と言っておくというものです。「友人が相談 を持ちかけそうな雰囲気はなんとなくわかるけど、自分が 言った意見で相手の問題が解決するとは思えないので本当 は聞きたくない」と感じるからです。しかし、その一方で、「そ うすると気が楽だけど、逆に、相手に対して冷たすぎるので はと思ってしまう」「相談されたらやっぱり意見を言わなくて はならなくなるけど、自分の意見で相手の気持ちが変わる のはやっぱり怖い」「愚痴や不満を聞くと、それが自分のこと でなくても、聴くだけで解決できないのは相手に対して申し 訳ないような気がしてしまった」とも感じます。ここでは、先手 をとって相手との関係を距離化しておくことによって責任を 回避するとともに、話を聞いてしまうことによって生じる自分 の中の感情(例えば「聞いてもどうしてあげることもできな い」という無力感や苛立ちなど他人の話を共感的に聞くとき に湧き起こる様々な気持ち)を回避していると考えられま す。 このことと関連して、近年、「やさしさ」のあり方が変わって きたとも言われています(6)。すなわち、旧来のやさしさが「相 手の気持ちに配慮し、相手の気持ちを我がことのように考え る一体感」であったのに対して、「相手の心に立ち入らず、そ うすることで相手と滑らかな関係を保つ」という新しいやさ しさのあり方が出てきたのです。先の 2 つの例(①・②)も、 深くかかわることによって起こる対人関係の葛藤を回避して 滑らかな関係を維持しようとすることに伴う問題といえま す。対立の回避を最優先にし、他人と積極的に関わることに よって、相手を傷つけてしまうかもしれないことを危惧する が故の対人距離化なのです。しかしその一方で、相手との関 係を表面的に保つことによって自分自身が傷つけられるこ とも避けている。【自分に対するやさしさ】でもあります。 従来言われていた「ヤマアラシ・ジレンマ」は「居心地のよ い親密な関係を求めている二人が「近づきたいが、近づき すぎると傷つくことになるため、離れたいという欲求が生じ る」という葛藤を繰り返すというものでした(7)。しかし、現代 のヤマアラシ・ジレンマは、【近づきたい‐近づきすぎたくな い】【離れたい‐離れすぎたくない】という微妙な葛藤であ り、意図せぬ形で互いを傷つけあうことを恐れながら、「個」 としてのあり方が確立できずに相手と離れられないという複 雑な心性だと考えられます。相手を傷つけることを恐れ、か つ自分の本音や感情に触れることも恐れており、相手を傷 つけそうになると、自分の本音を直ちに引っ込めているので す。 みなさんや周りの人たちの友人関係はどうでしょうか。ま た、お互いにどのような工夫ができるでしょうか。 彦根キャンパスの保健管理センターは12/3より元の保 健管理棟に戻ります。新しいやさしさと旧来のやさしさ
(5)お知らせ
SHR No.75 SHR No.75 滋賀大学保健管理センター 非常勤カウンセラー永山 智之
( 2 ) ( 1 )こんにちは。滋賀大学保健管理センター(彦根キャンパ ス)の非常勤カウンセラーの永山智之と言います。昨年度よ り、学生の皆さんへのカウンセリングやワークショップに携 わっています。学生生活や将来のこと、人間関係のことなど、 学生時代には悩むことが色々あるかと思います。誰かに話 すと少し気持ちが楽になることもあるかと思いますし、一人 で悩まずに、まずは相談しに来てください。時には、知ってい る人には話しにくいこともあるかもしれません。秘密は固く 守りますので、安心して話してください。自己理解や自己表 現、仲間との出会いの場としても活用してもらえたらと思い ます。少しでも皆さんのお役に立てたらと思っています。よろ しくお願いします。 さて、今回は青年の友人関係、特にその現代的なあり方に ついて取り上げたいと思います。 青年期の友人関係は、年齢とともに、浅く広い付き合い方 から深く親密な付き合い方に発展していくとされています が(1)、近年、青年の友人関係のあり方が変化してきたと言わ れています。 従来の青年期の友人関係は、親密で内面を開示し合い、 人格的共鳴や同一視をもたらすような友人関係です(2)。一 方で近年、内面を開示するような深く親密な友人関係を避 け、友人から低い評価を受けないように警戒したり、互いに 傷つけあわないように表面的に円滑な関係を志向したりす る傾向が見られるようになりました(3)。現代青年の友人関係 には、①互いに傷つけあわないように気を遣う傾向②互い の領域に踏み込まないように、関係の深まりを回避する傾 向③楽しさを追求し群れる傾向があることが指摘されてい ます(4)。 ①がっかりした顔ができない これは、相手によって引き起こされた事態に落胆しても、 すばやく取り繕ってしまい、素直な表情になれないというも のです。例えば、映画に行く約束をドタキャンされてがっかり したが、「それならいいよ」と言ってしまい、後で後悔したりし ます。「本当は残念だという気持ちがきちんと相手に伝わっ ていない感じがする。それどころか、そんなつもりはなくて も、映画も相手も軽く思っているみたいに思われているので はないかと気になってしまう」「『行きたかったのに』という と、相手に余分なプレッシャーを与えるのではと思い、プ レッシャーを与えないようにあっさり引き下がる」といった感 じです。相手が残念な気持ちを起こした責任感を負担に感 じてしまうことを避けるため、先回りして大したことではない と言ってしまい、その結果、相手を軽視したような気がして いるのです。ここでは、自分の本音を吐露することによって相 手に気を遣われる恐れとともに、自分の 藤を回避すること によって相手との関わりそのものを軽視(回避)してしまった
現代青年の友人関係と心理的特徴について
自己紹介
現代青年の友人関係
青年期女性のコミュニケーションの特徴の例
(5) ことになるのではないかという恐れがうかがえます。打開策 として、「今度いつ行こうかと次の予定を一緒に立ててはどう か」と次の行動を提案することで二人の関係は前進し、相手 の気持ちを楽にすることもできるかもしれません。 ②相手が相談を持ちかけようとするとき、先手を取って距離化 する これは、相談をもちかけられると、あらかじめ「私には意見 は言えないから」と言っておくというものです。「友人が相談 を持ちかけそうな雰囲気はなんとなくわかるけど、自分が 言った意見で相手の問題が解決するとは思えないので本当 は聞きたくない」と感じるからです。しかし、その一方で、「そ うすると気が楽だけど、逆に、相手に対して冷たすぎるので はと思ってしまう」「相談されたらやっぱり意見を言わなくて はならなくなるけど、自分の意見で相手の気持ちが変わる のはやっぱり怖い」「愚痴や不満を聞くと、それが自分のこと でなくても、聴くだけで解決できないのは相手に対して申し 訳ないような気がしてしまった」とも感じます。ここでは、先手 をとって相手との関係を距離化しておくことによって責任を 回避するとともに、話を聞いてしまうことによって生じる自分 の中の感情(例えば「聞いてもどうしてあげることもできな い」という無力感や苛立ちなど他人の話を共感的に聞くとき に湧き起こる様々な気持ち)を回避していると考えられま す。 このことと関連して、近年、「やさしさ」のあり方が変わって きたとも言われています(6)。すなわち、旧来のやさしさが「相 手の気持ちに配慮し、相手の気持ちを我がことのように考え る一体感」であったのに対して、「相手の心に立ち入らず、そ うすることで相手と滑らかな関係を保つ」という新しいやさ しさのあり方が出てきたのです。先の 2 つの例(①・②)も、 深くかかわることによって起こる対人関係の葛藤を回避して 滑らかな関係を維持しようとすることに伴う問題といえま す。対立の回避を最優先にし、他人と積極的に関わることに よって、相手を傷つけてしまうかもしれないことを危惧する が故の対人距離化なのです。しかしその一方で、相手との関 係を表面的に保つことによって自分自身が傷つけられるこ とも避けている。【自分に対するやさしさ】でもあります。 従来言われていた「ヤマアラシ・ジレンマ」は「居心地のよ い親密な関係を求めている二人が「近づきたいが、近づき すぎると傷つくことになるため、離れたいという欲求が生じ る」という葛藤を繰り返すというものでした(7)。しかし、現代 のヤマアラシ・ジレンマは、【近づきたい‐近づきすぎたくな い】【離れたい‐離れすぎたくない】という微妙な葛藤であ り、意図せぬ形で互いを傷つけあうことを恐れながら、「個」 としてのあり方が確立できずに相手と離れられないという複 雑な心性だと考えられます。相手を傷つけることを恐れ、か つ自分の本音や感情に触れることも恐れており、相手を傷 つけそうになると、自分の本音を直ちに引っ込めているので す。 みなさんや周りの人たちの友人関係はどうでしょうか。ま た、お互いにどのような工夫ができるでしょうか。 彦根キャンパスの保健管理センターは12/3より元の保 健管理棟に戻ります。新しいやさしさと旧来のやさしさ
(5)お知らせ
SHR No.75 SHR No.75 滋賀大学保健管理センター 非常勤カウンセラー永山 智之
( 2 ) ( 1 )SHR No.75 SHR No.75 友人関係は、個人特性との関連も示唆されています。現代 青年の友人関係に対する調査研究(8)では、①情緒的に近い 関係を回避する青年、②情緒的に近い関係を持つ青年、③ 友人から傷つけられたり、友人を傷つけることを避け、また 友人と群れていようとする傾向が高い青年という 3 群が見 出されています。さらに、「友人から傷つけられることを回避 する」ことが、「友人から傷つけることを回避する心性」を経 て、「被拒絶感」を低減し、結果的に自尊感情を維持させる構 造が示されました。つまり、現代青年の友人関係において、 自他共に傷つくことがないよう配慮することによって、相手 から拒絶されず受容されることを通して、自尊感情の水準を 高揚・維持しようとする過程が見出されたのです。これは、特 に気遣い・群れ関係群において顕著に見られました。このこ とから、友人関係の中で気を遣うことは、必ずしも否定的な 意味合いだけではなく、青年の自尊感情維持という肯定的 な機能を持つとも言えます。しかし、その自尊感情が、常に 他者の承認を得られないと傷ついてしまう懸念に基づいた 不安定な自尊感情なのか、自分が他者の意図や状況に適切 に合わせられる高い対人スキルを持っているという自信に つながるものかという、自尊感情の質に関する検討は今後 の課題となっています。 また、青年期は「自分は何か」「自分はこれからどうなって いくか」という問いへの答えを模索し、自我同一性(アイデン ティティ)を確立していく時期です。友人に気を遣う人や深い かかわりを回避する人は、自我同一性(アイデンティティ)の 確立感が低く、積極的に友人との快活な関係を求め、自己を 開示する関わり方をする人は、自我同一性の確立感が高い とも言われています(9)。 友人関係は、自尊感情やアイデンティティなど、自分自身 のことにも関わってくるものだと言えます。みなさんも自分の 友人関係を振り返って、自分自身について考えてみてはどう でしょうか。 【文献】 1 落合良行・佐藤有耕.青年期における友達とのつきあい 方の発達的変化.教育心理学研究.1996, 44(1), p55-65. 2 西平直喜.成人になること−生育史心理学から.東京大 学出版会.1990. 3 千石保.まじめ の崩壊−平成日本の若者たち.サイマ ル出版会.1991. 4 岡田努.現代大学生の友人関係と自己像・友人像に関 する考察.教育心理学研究.1995, 43(4), p354-363. 5 徳田仁子.思春期・青年期のコミュニケーション―<関 係>から<共有>へ.ひと・文化・発達.京都光華女子 大学人間科学部人間科学科(編).ナカニシヤ出版. 2010, p129-147. 6 大平健.やさしさの精神病理.岩波書店.1995. 7 藤井恭子.青年期の友人関係における山アラシ・ジレン マの分析.教育心理学研究,49(2), p146-155. 8 岡田努.現代青年の友人関係と自尊感情の関連につい て.パーソナリティ研究.2011, 20(1), p11-20. 9 松下姫歌・吉田愛.大学生における友人関係と自我同一 性との関連 広島大学心理学研究.2009, (9), p207-216.