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自著紹介『静かなる大恐慌』

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Academic year: 2021

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自著紹介

『静かなる大恐慌』

 タイトルだけを見れば、よくある恐慌本(「大恐慌がや ってくる!」)の一種と受け取られるかもしれない。だが、 本書のメッセージはそれほど単純ではない。確かに今の 世界的な経済危機は深刻だ。リーマンショックに始まり、 欧州債務危機、そして新興国の成長鈍化と、世界経済は まだしばらく不安定な状況が続くだろう。  私が考えたかったのは、その先である。この経済危機 のあとで、世界で何が起きるのか。経済と政治、そして国 際関係の話題を絡めつつ本書で取り組んだのは、そうし た歴史の予測である。  本書ではそれを、いくつかの側面に分けて考察した。 通貨戦争、国内政治の混乱(先進国における民主主義の 危機や、新興国における政情不安)、また地政学的対立 (とりわけ中東と東アジアで起きる対立)など、さまざま だ。その内容は、経済学部で行っている「経済社会学」の 講義で、この数年、話していることと重なっている。  一つだけ確認しておくとすれば、世界がリーマンショッ ク以前の世界に戻ることは、もうありそうにない、という ことである。過去のグローバル化がそうであったように、 現在の巨大な経済危機は、歴史のモードを変えてしま う。グローバル化が進み世界経済が統合されていくとい う時代から、各国の経済主権が強化される時代———— 「脱グローバル化」の時代へと、歴史の潮目が変わりつ つあるのだ。  そういうと、何か悲観的な未来を描いているように思 われるかもしれない。それは半分正しく、半分間違ってい る。  グローバル化から脱グローバル化への転換は、確かに 過去においては悲劇をもたらした。本書ではそれを、戦前 の「第一次グローバル化」の失敗として紹介している。こ れは最近の経済史研究で盛んに研究されているテーマ だ。グローバル化は、最近になって始まったものではな く、歴史上、何度も現れては崩壊している。一九世紀末か ら二〇世紀前半にかけての世界は、現在と同様、貿易や 投資によって各国が経済的な結びつきを強めた時代であ った。だが戦前のグローバル化は決して長続きしなかっ た。恐慌と二度の戦争によって、世界は分裂の方向に向 かったからである。世界史の教科書で習うように、この時 の分裂は第二次大戦から米ソの冷戦と、五〇年以上も続 いたのだった。  本書で強調したかったのは、今後、世界は新たな脱グ ローバル化の時代を迎えるだろう、ということだ。そして、 それ以上に強調したかったのは、脱グローバル化はけっ して暗い世界に行き着くとは限らない—————少なく とも、恐慌から戦争へという戦前の道を再び歩むと決ま っているわけではない、ということだ。ではどんな道があ るのか。詳しくは本書の後半をお読み頂きたい。  もちろん、未来は誰も分からない。だから本書で描い た未来予想も、蓋を開ければ大きく間違っていたという 可能性もある。しかし、それでいいのだと思う。社会科学 は、それが「科学」である以上、仮説によって現実を説明 するだけでなく、その仮説に基づいて未来を予測する責 務がある。予測が外れたなら、もとになった仮説が間違っ ていたわけだから、廃棄するなり修正するなり、あるいは まったく別の仮説に置きかえればよい。社会科学とは、 そうした地味な試行錯誤によって正しい仮説へと近づこ うとする試みである。  では、二度目のグローバル化はどんな結末を迎えるの だろうか。本書の仮説が正しいものであるかは、今後の 歴史が教えてくれるだろう。 経済学部准教授

 柴 山 桂 太

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