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井原今朝男先生を送る

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Academic year: 2021

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井 原 今 朝 男 先 生 を 送 る

小 島 道 裕 

337  1998 年に歴史研究部中世研究部門の教授として歴博に着任されて以来,16 年間お務めいただい た井原今朝先生を御定年でお送りすることとなった。同じ部門でご一緒させていただいた者として, そのお仕事について紹介させていただきたい。 井原先生は 1949 年長野市のお生まれ。静岡大学ご卒業後は,長野県で高校教諭として勤務され た後,1994 年からは新設の長野県立歴史館に移られた。この間,長野県史編纂委員などとして長 野県の地域史を担われる一方,荘園所課や諸国所課などの,中央と地方の関係を手がかりに,学位 論文『日本中世の国政と家政』(1995 年)に代表される,独自の中世国家論をまとめられていた。 歴博に着任されてからは,その上に社会経済史や宗教史,公家関係の史料などについて,多岐に わたる分野で研究に邁進され,成果を挙げられた。  社会経済史の分野では,歴博所蔵の売券・借用状も用いられて,中世独自の貸借慣習法の存在を 明らかにし,債務史という研究分野を開拓された。『日本中世債務史の研究』(2011 年)にまとめ られた他,NHK 教育テレビ『歴史は眠らない ニッポン借金事情』(2009 年)が放映・出版される など,社会的にも影響のあるお仕事となった。  宗教史の分野では,旧来の仏教思想や宗祖・宗派史の仏教史の枠組みを打破して,地域社会での 中世寺院の役割や年中行事と生活史とのかかわりを解明する「仏教社会史」を主張され,『中世寺 院と民衆』(2004 年)などの著書を刊行されると共に,歴博所蔵の寺院史料を学界共有のものとし て活用するために,企画展示「中世寺院の姿とくらし」(2002 年)を展示代表として企画・開催さ れた。歴博の中世文書を扱った展示としては「中世の武家文書」(1989 年)に続くもので,特定の 寺院を対象とするのではない総合的な寺院文書展として,また社会的な背景を重視した中世寺院の 展示として注目された。 研究代表を務められた,基幹共同研究「中・近世における生業と技術・呪術信仰」(2005~7 年)でも, 民俗学・考古学・歴史学での生業概念のズレと共同化の問題提起が学界の関心を呼び,『生業から 見る日本史』(2008 年),『環境の日本史 3 中世の環境・開発・生業』(2012 年),『富裕と貧困』(2013 年)を編集代表として刊行されている。  また,当初研究課題とされた「国政と家政」の問題以来,近衛家や九条家などの公家文書にも御 造詣が深く,歴博が所蔵する広橋家文書などの研究を進められる一方,船橋清原家旧蔵史料,中原 師胤記などの新出史料の収集も進められ,室町戦国期の禁裏と室町殿の統合システムの解明を進め られて,『室町廷臣社会論』(2014 年)をすでにまとめられている。公家関係の史料については,「高 松宮家旧蔵禁裏本」の共同研究や科研費による研究を主催され,また副代表を務められた企画展示 「中世の古文書―機能と形―」(2013 年)においても,写しや控えなども含めた公家関係の文書を

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338 国立歴史民俗博物館研究報告 第186集 2014年3月 展示することによって,家職としての文書作成の問題を示されるなど,実物史料によって公家社会 を考察する新鮮な視角を提示された。 この他,国際的な資料研究として,2011~13 年の公募型共同研究「高松宮家伝来禁裏本等を中心 とする漢籍読書の歴史とその本文に関する研究」では,館内担当を務められて,中国では消滅した が日本に伝世している漢籍古写本の問題について,国際シンポ「創設期の金沢文庫と南宋版漢籍」 (2011 年),「東アジアをむすぶ漢籍文化」(2012 年)を開催して,日中の共同研究を進められた。  資料に関しては,この他にも館蔵の絵巻として重要なものとなった「結城合戦絵詞」などの収集 を担当され,また「田中本」「高松宮家本」の目録刊行など,資料調査に関する多くの仕事に参加 されたが,中世史のあらゆる方面に通暁したその博識ぶりにはいつも助けられ,多くのことを学ば せていただいた。  以上の学術的なお仕事以外でも,歴博の運営について,研究委員長,歴史資料センター長,研究 総主幹などを歴任し,ご尽力されている。  歴博 30 年の中で中世史部門を考えると,井原先生がいらした 16 年間は,開館当初の歴博を担っ た第一世代に続く,言わば第二世代であり,落ち着いて研究や資料調査に取り組むことができた時 期と言えよう。それにふさわしい御業績を,井原先生は存分に挙げられた。次の第三世代には,総 合展示の全面リニューアルをはじめとする,また新たな課題が待っているが,井原先生の手がけら れた多くの御業績を継承すると共に,今後のご支援もお願いすることとしたい。

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